ランドシン伝記 第6話 (アーカーシャ・ミソロジー) |
第6話 休息
剣聖シオンは旅支度(たびじたく)をしていた。
すると、エレナが部屋に入ってきた。
エレナ「シオン、さっき、落石があったみたいで、街道が
通れなくなってしまったみたいなの。それで、
聖騎士の方から連絡で、街道が復旧するまで
出発を待って欲しいって」
シオン「了解。なら、しばらく-のんびりしよう」
と、シオンは答えるのだった。
・・・・・・・・・・
その晩、シオンとエレナは-いつものように同じ部屋で
ベッドに横たわっていた。
エレナ「ねぇ、シオン・・・・・・。多分、この街を出たら、
二人で-ゆっくり出来る時間は無いと思うの」
シオン「ああ・・・・・・。そう、だな。今だけだろうな」
エレナ「うん、だから・・・・・・今の内に・・・・・・」
そして、二人は体を近づけ、口づけをかわすのだった。
糸を引くようなキスの後、二人は甘く体を重ねるのだった。
・・・・・・・・・・
一方、ヴィル達は野宿をしていた。
トゥセ「あぁ、寒い・・・・・・」
アーゼ「テントとか大荷物はクエスト屋に置いて来ちゃった
からな」
トゥセ「それだけじゃないぜ、俺の寒さは」
アーゼ「何だよ?」
トゥセ「男しか居ないってのが、俺の心を寒くしているのさ」
すると、黒猫が近づいて来た。
黒猫「その発言には異(い)をとなえさせて-もらうのじゃ」
トゥセ「何だよ、じいさん。じゃあ、どこに女の子が居るんだよ。どこに?」
黒猫「フッフッフ、そこじゃよ、そこ」
と、黒猫は-うつらうつらするゴブリンの少女の方を向いた。
アーゼ「え?その子、女の子だったんですか?」
黒猫「馬鹿モンッ!これ程までに可愛(かわい)らしい子は-おらんじゃろ」
ヴィル「確かに、ゴブリンの中では相当に可愛(かわい)いかもしれない」
カシム「かもしれませんね」
トゥセ「って、俺が求めているのは-そうじゃないんだって、
分かるか?なぁ、誰か分かってくれよ」
ヴィル「まぁ、トゥセ。言いたい事は分かるが、まぁ、我慢だ」
トゥセ「団長―、そりゃないっすよ」
アーゼ「ところで、そのゴブリンの子、名前、何て言うんですか?」
黒猫「フム・・・・・・特別に教えてやろう。
この子は・・・・・・レククと言うんじゃ」
ヴィル「レククちゃん、ですか」
黒猫「ちなみに、ワシはトフクじゃよ」
トゥセ「まぁ、レククが女の子だとしてだ。それでも、
このパーティはムサ過ぎますって。あと、数名
女の子を追加しないと、このムサさは、解消され
ないと思うんですけど、団長」
ヴィル「ん?ああ、そうかもな」
トゥセ「・・・・・・団長、俺の話、聞いてないでしょ?」
ヴィル「あ、いや、聞いてるけど、まぁ、確かに半分、
聞き流してたな。すまん、すまん」
トゥセ「もう良いっすよ・・・・・・」
黒猫「まぁまぁ、トゥセ君、そうしょげなさるな。実は、
女の子は他にもおるぞい」
トゥセ「・・・・・・ジイさん。あんたが実は女とか言ったら、
怒るからな」
黒猫「む。いい線、つくのう。ワシが憑依(ひょうい)させてもらってる
この黒猫ちゃん、この子が女の子じゃ」
トゥセ「どうでもいい情報、来たー。ヒドい、ヒドすぎる。
もう駄目だ。寝よう・・・・・・」
モロン「うん。僕も眠いよ・・・・・・」
ヴィル「そうだな。さ、みんな寝よう。明日も早いしな」
そして、ヴィル達は落ち葉を互いに-かけあって、ミノ虫の
ように-なりながら眠るのだった。
・・・・・・・・・・
早朝、シオンは目が覚めてしまい、外に出ていた。
シオン(この時間は、稽古(けいこ)をしないと調子が出ないよな)
そして、シオンは一人、素振りをしていた。
すると、後ろからニアがやって来た。
ニア「やぁやぁ、お早い事で。エレナは置いてきて良かった
のかな?」
シオン「エレナは-ぐっすり眠ってるよ」
そう言って、シオンは後ろを振り返った。
そこには眼帯をしたニアがレイピアを手にしていた。
シオン「眼帯、付けたんだ」
ニア「フフ、まぁ一応ね。どう思う」
シオン「まぁ、似合ってるんじゃ無いか?もっとも、服装の
センスに関しては、俺は自信、無いけど」
ニア「フフ、まぁ、君は剣バカだからね」
シオン「それは-お互い様だろ?」
ニア「なら、語るも野暮(やぼ)かな?」
そう言って、ニアはレイピアを抜いた。
シオン「ああ・・・・・・」
そして、二人は剣を打ち合わせるのだった。
・・・・・・・・・・
トゥセ「寒い・・・・・・マジ、寒いわー・・・・・・」
アーゼ「黙って寝てろよ・・・・・・こっちまで寒くなる」
トゥセ「早朝の冷(ひ)え込(こ)みとか最悪だわー。あぁ、こんな時に
俺を暖めてくれる女性が居れば。特に巨乳の」
アーゼ「マジで黙って寝ててくれ・・・・・・」
トゥセ「チクショウ・・・・・・」
と言って、トゥセは落ち葉の中に潜るのだった。
・・・・・・・・・・
シオンとニアは稽古(けいこ)を終え、背を向けて座り込(こ)んでいた。
ニア「いやぁ、強くなったモノだねぇ」
シオン「ハハ、かもね。でも、本当の剣聖には-ほど遠いよ」
ニア「そうかな?あと、五年も鍛錬を積めば、過去の剣聖にも
並ぶ程の技量を手にするとは思うけどね」
シオン「そんなモノかな?」
ニア「そんなモノさ。ただね、シオン。君には過去の剣聖達
と比べて、絶対的に足りないモノが有る」
シオン「なんだい?それは」
ニア「それは実戦経験さ。君は十代の頃は大戦で実戦を積んだが、
それ以降は、ロクに命のやり取りをしていない。
それが君の剣を鈍(にぶ)らせている」
シオン「・・・・・・あまり、命のやり取りは-したくなかった」
ニア「でも、戦(いくさ)が君を呼ぶ」
シオン「そうだろうな。それが力を持った者の義務だ」
ニア「しかし、だね。他にも道は-あると思うよ」
シオン「他の道?」
ニア「あのヴィル先輩の所へ行けば良い。そうすれば、今度の
戦争なんかと比べモノにならない程の経験を君は積む事
だろう」
シオン「・・・・・・それは出来ないよ。皆を危険に巻きこめない」
ニア「でも、君は一人で、ヴィル先輩のもとへ行こうと思ったりしてるんだろう?」
シオン「お見通しか・・・・・・。確かに、そう悩んだりは-した。
でも、俺は先輩のようには-なれないよ。
ああいう強さは俺には無いんだ」
ニア「そう。ただ、シオン。もし・・・・・・もし、君がヴィル先輩を
追うのなら、私も-それに付いていくよ。フフ、それも
楽しいかもね。二人で、彼らを追いかけると言うのも」
シオン「・・・・・・かもな」
そう言って、シオンは笑い、天を仰(あお)いだ。
シオン「でも・・・・・・俺は今の自分を捨てられないんだ。
ヴィル先輩に協力したい気持ちは-ある。
昔みたいに先輩と一緒に戦えたら、どれ程、
楽しいだろうか。
でも、出来ないよ。出来ないさ。
それに、エレナに怒られるしな」
ニア「確かに、その通りだ」
そう言って、二人は笑い合った。
ニア「さて、と。私は、少し、行きたい所があるから失礼
するよ。夜には戻るから」
と言って、ニアは立ち上がった。
シオン「了解。あんまし、遅くなるなよ」
ニア「分かっているさ」
そう言って、ニアは去って行った。
・・・・・・・・・・
ヴィル達は無言で森を歩いていた。
アーゼ「ところで、レククちゃん-は人間の言葉を話せない
んですか?」
と、ゴブリンの少女レククを見て、言った。
黒猫「む、まぁのぅ・・・・・・」
トゥセ「教えてやれば-いいじゃんか」
黒猫「まぁ、そうなんじゃがのう。人間の言葉を教えてしまうと、
ゴブリンの言葉に変な癖が付いてしまう事があるからのう」
ヴィル「つまり、発音が変になると?」
黒猫「そうなんじゃ。ワシも、正直、ゴブリンの言葉を正確に
発音できているか怪しいモノじゃしのぅ」
カシム「まぁ、確かに、変な発音をしていると、いじめられる
かも知れませんしね」
黒猫「いや、それは無いんじゃが。まぁ、色々と-あるんじゃよ
ゴブリンの世界にも」
トゥセ「大変だなぁ。ゴブリンも」
黒猫「レククと話したければ、お主(ぬし)がゴブリンの言葉を覚える
んじゃな」
トゥセ「なんじゃそりゃ・・・・・・」
ヴィル「フム・・・・・・でも、これからゴブリンの島、ククリ島へ
向かうワケだからな。向こうの言語を覚えておくのは
良い事かも知れないな」
黒猫「ム。なら、ワシが教えてしんぜよう」
トゥセ「マジかよ・・・・・・。ただでさえ、語学は苦手なのに、
ゴブリン語とか勘弁(かんべん)してくれよ」
黒猫「我慢じゃな、我慢」
と言って、黒猫は笑うのだった。
・・・・・・・・・・
夕方、シオンは丘の上で街を眺(なが)めていた。
すると、「シオンさん」、と声が-かけられた。
振り返り見れば、そこには治癒術士のローブを着たエルフの
女性が立っていた。
シオン「リーシャ、どうした?」
と、シオンは-その女性の名を言った。
リーシャ「いえ。そろそろ夕食の時間ですよ」
シオン「ああ・・・・・・もう-そんな時間か。そろそろ戻らないとな」
リーシャ「あ、でも、まだ少し、時間、ありますよ」
シオン「そうか。なら、もう少し、こうして眺(なが)めてようかな」
そう言って、シオンは丘に座りこんだ。
すると、リーシャはシオンの隣に-ちょこんと座った。
リーシャ「何を見ているんですか?」
シオン「街を・・・・・・。復興したなと思ってさ」
リーシャ「獣魔-大戦・・・・・・ですか」
シオン「ああ・・・・・・」
そして、シオンは重苦しく沈黙した。
リーシャ「でも、こうして-この街が栄えていられるのも、
シオンさん、あなたが守ったおかげなんですよ」
シオン「守る・・・・・・か。でも、多くの戦友は散っていった。
俺は、本当に守りたかったモノを守れなかった」
リーシャ「・・・・・・シオンさん」
シオン「正直に言うと、怖いんだ。今度の戦いで、パーティの
みんなの誰かを失ってしまうんじゃ無いかって。
俺は-それが怖くてたまらない」
リーシャ「・・・・・・シオンさん、大丈夫ですよ。私達は絶対に死にません。
無事に帰って、また今みたいに旅を続けましょう?」
とのリーシャの言葉にシオンは微笑(ほほえ)んだ。
シオン「ああ。そうだな」
そう言って、シオンは立ち上がるのだった。
・・・・・・・・・・
黒猫「じゃから、そうじゃ無いわい。トゥ・ヴィウェ・ホ、
じゃよ」
トゥセ「あぁ、めんどっちぃ。何で、ゴブリンのあいさつを
覚えなきゃいけねぇんだッ!」
ヴィル「トゥセ、あいさつは大事だぞ」
トゥセ「うぅ、団長・・・・・・俺、本当に語学は苦手で・・・・・・」
一方、アーゼは紙に黒猫の話をメモしていた。
アーゼ「フムフム、結構、面白いな」
トゥセ「マジかよ・・・・・・後で、それ見せてくれよ」
アーゼ「ああ」
一方で、カシムは目を瞑(つむ)りながら、何度も例文を暗唱していた。
トゥセ「・・・・・・何が悲しくて、こんな事、やってるんだろう、
俺達は・・・・・・。もっと、違うイベントは無いのかよ?
女の子と一緒に食事をしたり、何か見て回ったり、
そういう心温まるイベントは」
アーゼ「トゥセ、気が散るから、ちょっと黙っててくれ」
トゥセ「クゥ、この薄情者(はくじょうもの)め。モロン、俺を
慰(なぐさ)めてくれ・・・・・・?」
そう言って、トゥセはモロンの方に顔を向けると、そこでは
モロンは-ゴブリンのレククと流暢(りゅうちょう)に会話をしていた。
二人は楽しげに会話をしており、トゥセは口を大きく開きながら、
それを見るのだった。
トゥセ「モ、モロン?クゥ、そうだった。こいつ、語学はマジ
で天才なんだった。おい、モロン。なんかコツとか
無いのか?」
モロン「え?うーん。聞いて-話す事かなぁ?」
トゥセ「・・・・・・もう、駄目だ。俺には付いて行けない」
そう言って、トゥセは地面に転がるのだった。
トゥセ「ところで、団長。ククリ島に行くにせよ、着いたら
どうするんすか?向こうのゴブリン、絶対に襲って
来ますよ?着いたら、レククとジイさんを置いて、
速攻で逃げるんすか?」
ヴィル「まぁ、それも手だな。実は昨日、トフクさんと話した
んだが、ゴブリンも部族ごとに大きく違うらしい。
だから、レククちゃんの部族の下(もと)に、なるべくなら
送り届けてやりたいんだ」
アーゼ「となると、どうするんですか?」
ヴィル「だから、特殊な術を使う」
すると、黒猫が口を開いた。
黒猫「フフ、実は変化(へんげ)の術が-あるのじゃよ。今のワシでは
使えんが、カシムさん-なら教えれば恐らく使える
じゃろう」
カシム「えぇと、変化(へんげ)の術とは?」
黒猫「まぁ、簡単に言えば、姿を変える術じゃよ。
お主らをゴブリンに変装させるんじゃよ」
トゥセ「マジか。それ、出きるんなら、すげーじゃん」
黒猫「じゃろう、じゃろう。まぁ、そんなに難しい術じゃ無い
からのう。見た感じ、カシムさん-なら、数日もあれば、
使えるようになるじゃろう」
カシム「ご教授ねがいます」
黒猫「うむうむ」
ヴィル「まぁ、これで何とか-なりそうだな」
トゥセ「・・・・・・しかし、何か忘れてるような?」
と、トゥセは呟(つぶや)くのだった。
・・・・・・・・・・
その頃、剣聖シオンは夕食を仲間達と共に囲んでいた。
シオン「しかし、今回の戦(いくさ)は殲滅戦(せんめつせん)になるようだな」
大男「皇国も本気なのだな」
すると、ニアが帰って来た。
ニア「ん。おいしそうな匂い」
エレナ「早く食べなさい、ニア」
ニア「はいはい」
そして、ニアは席に着いた。
シオン「でも、先輩達はククリ島へ行くと言っていた。
巻き込(こ)まれないと良いけど」
エレナ「シオン・・・・・・。まだ、あの反逆者の心配をしている
の?」
大男「まぁ、もしも-の話だが、彼らがククリ島に辿(たど)り着けた
なら、彼らは-ハンターに捕まる恐れは無くなるだろう。
ハンターは-あくまで皇国の領土内で狩るワケだからな。
わざわざ、ククリ島まで行くハンターは居まい。
ただし、だとしても、ククリ島が戦場となっている場合、
騎士達が彼らを見つければ、不審者として拘束はする
だろうが、殺しはしないだろう」
すると、細身の男が口を挟んだ。
細身の男「もっとも、あいつらがゴブリンにでも変装して
ない限り-やけどな」
と言って、笑うのだった。
・・・・・・・・・・
説明 | ||
剣聖シオンは束の間の休息を得ていた。 それは彼にとり、最後の安らぎの時間 とも言えたのだった。 |
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