獣使い 7章 目覚め(まとめ |
気がつけば見慣れた草原の見慣れた歪なオブジェの前に寝ていた。
「予想以上に早かったじゃないか、ボウヤ」
当然のように目の前にいるイデス。
服装がこの前とだいぶ違う。
黒いマントで体全体を覆っている。
「お前は一体誰なんだ、イデス!?
お前は、なぜ俺の中に封印されている!?」
ふっとイデスは軽く笑う。
次の瞬間、イデスは僕の懐にいた。
僕の首根っこをわしづかみにし片手で持ち上げる。
そして、思いっきり横に投げ飛ばした。
僕は、オブジェに叩きつけられると同時に、咳き込んだ。
無意識に握られた場所に指を当てる。
指を見ると出血していた。
「そうだな・・・。私が何者なのか知りたければ私と今ここで戦え、京。
勝てたら教えてやる。だが負けたらお前にはここで死んでもらうぞ。
ちなみに今ここで戦わなければ今後一切このことについては教えることはないからな。」
イデスは本気のようだ。
マントから少しだけ出た手から魔力を放出する。
その魔力は黒い剣のように形づくる。
・・・・僕はあれを知ってる。
触れたものを切り裂く魔力の剣・・・。
僕が、最も好んで使ったものだ。
獣の武器化が困難もしくはするべきではない場合使うスキル
魔力であるがゆえに実体が存在せずいかなる場所でもつかえるというもの。
ただし、ほとんど魔力をただ流しにするためあんなふうに大きく相手に見せるものではない。
まるで、僕に思い出させるために見せているようにしか思えない。
手に魔力をこめる。
魔力が手から激しく放出される。
あれの原理はウォーターカッターと似ている。
水を高圧力で放出することで切断を可能とするように
あれは魔力を放出している。
それを確認するとイデスは
「ふ・・・いいだろう・・・・・・・いくぞ!」
イデスの眼が真っ黒になる。
ありえないほどの魔力が体から放出しながら
イデスは何の迷いもなく切りかかってきた。
僕は、さっきのように集中力を上げる。
イデスの動きだけを捕らえる。
こちらに飛びながら向かってくるイデス。
ジジジと言う音を立てながら、お互いの魔力がぶつかり合う。
それをはじくとくるくると回りながらイデスは距離をとる。
瞬間、イデスのマントの先が刃となり
生き物のように襲い掛かってくる。
それを横にとび、僕はかわす。
・・・・が完全にはよけ切れていない。頬や肩を少し切られた。
「ほう、その程度で済んだか。」
クスクスと笑っている。
トンッと上に跳ぶ。
「ならこれでどうだ?えぇ?ボウヤ!!!!!!!」
先ほどのマントが何匹もの蝙蝠となる。
そのすべてがいくつもの黒い尖った物体へと変化する。
まずい・・・・あれは・・・・・
「いくぞ!!京!!!!」
全方位を囲んだそれが
雨のようにいっせいに降りだす。
これをよけるのは無理だ・・・・。
やばい・・・・・やばいやばいやばいやばい
「・・・・・おなかすいた。」
横から少女の声がする。
「んな!?」
イデスが驚いたように声を上げる。
だがすでに黒いものは目の前まで来ている。
「いただきます。」
一瞬の・・・・・・ことだった。
ほぼ全方位をかこんでいたそれがすべて消え去った。
「なぜ・・・なぜだ!!なぜ今目覚めた!?ケレア!?」
「なんでっておなかすいたからに決まってるじゃない。そんなくだらないこと聞かないでよ。」
そこには、いかにも眠そうなおかっぱ頭の子供がいた。
寝起きなのかパジャマを着ていた。
「っち・・・・仕方ない今の状態では分が悪い。また今度だ。そん時は容赦はせんからな。」
そういうとイデスは消えていった。
するとその子供はこちらを向いて
「ほぇ?なんだ京じゃない。」
寝ボケ眼をこすりながらこちらを見ている。
なぜあの物体が消えたのか。そしてなぜこのこが出てきてイデスがあんなに驚いたのか・・・。
結局、すべてが謎ままになった。
「京?」
意識が現実に戻る。
目の前には、雛のねぇさんと汀がいた。
「どうしたのだ京?突然倒れたりして。どこか打ったのか?」
ねぇさんが心配そうに言う。
「いや大丈夫。ちょっと疲れただけだから。」
とりあえず問題ないことを伝えてみた。
・・・・ねぇさんならイデスのことを知ってるんじゃないだろうか・・・・・。
「ねぇ、ねぇさん。イデスって子しってる?」
「イデス?誰じゃ?それは」
・・・・・嘘を言ってるわけではないようだ。
ねぇさんは癖で、嘘をつくときは必ず左頬に手を当てる
そして本人はそれに気がついてないのだ。
「イデス・・・・idesという聖純律の言葉があるわね。
確か意味は・・・・過去じゃなかったかしら?」
聖純律というのは、呪文のことで
契約の儀式や呼び出すときに謳った詩で使う言葉で
6つの流派がある。
聖純律、神聖律、古代神聖律、オリジ、新訳エオリカ、クロニカ律。
その中でも共通語といわれてる言葉が聖純律だ。
「過去・・・・・・」
僕が、まだ思い出してない記憶の中にイデスがいるのだろうか・・・。
「ふぁぁぁぁ〜」
ものすごく眠そうな声がした。
その声を聴いた瞬間、汀とねぇさんの顔が青白くなった。
というか血の気がなくなった。
「こ・・・・この声って・・・・」
「うむ・・・・この声は・・・・」
明らかに何かにおびえている。
ふと振り向くとさっきのパジャマ姿の子供がいた。
今にもここで眠ってしまいそうなほどに眼をこすっている。
「ケレアーーーーーーーーーーーーー!!!!!!」
二人が一斉に叫んだ。
いや・・・・叫んだというより絶叫していた。
さっと僕の後ろに隠れると
まるでお化けを見た子供のように今にも泣きそうだった・・・。
「もう京ったら契約するまもなく行っちゃうんだもん。ひどいじゃない。
今回は目覚めたばかりだから許すけど次やったら両腕食べちゃうからね」
冗談で言ってない。というか明らかに脅してるように聞こえる。
さっきのイデス全方位攻撃を消したのはこの子が一瞬で食べたのだろう。
そしてイデスの態度とねぇさんたちのリアクションから見るに
相当やばいようだ。
契約を行い終わるとすぐにケレアは
「それじゃぁおやすみ〜」
煙のように消え、いなくなった。
それを見て二人がやっと安心して僕からはなれた。
「・・・・・まさかケレアがでてくるとは・・・・」
ねぇさんが言うには、
何でもケレアは俺の中で夢を見続けていて
おなかがすくと目覚めてきてその空腹を満たすのだとか。
ひどいときはあたり一体の動植物を食い散らかすほどだそうだ。
一度、ねぇさんたちも食われそうになったらしい。
そのトラウマからケレアは恐れられている。
「さてそろそろ行こうかの。」
ひとしきり休んだあと再び邪を探しに向かった。
それから5〜6匹ほど邪を倒した後、
真っ暗だった空が深い蒼色に染まりだしてきた。
「そろそろ戻ろうか。」
邪は、丑三つ時・・・・大体2時から3時にかけて行動する。
それ以降は、体の崩壊が始まり自然に消え去る。
邪とは、一夜の間に再生と崩壊を繰り返し、
夜を過ぎれば崩壊だけが残り消えてしまう。
そしてまた夜が訪れれば再び再生を繰り返すのだとか。
僕達は、再び集合場所まで向か・・・・・。
「やぁ・・・・京。久々じゃないか」
どこか憎しみを孕んだ、男の声にしてはやや甲高いが響く。
振り向くと誰か知らない墓石の上に人が立っている。
赤黒いロングコートに赤黒いシルクハット
・・・・エセ外国人紳士という言葉がいかにもぴったりな男だ。
手には鎖を巻かれた分厚い本をを持っている。
その鎖は、その本をとられることのないように腕にしっかりとまきつけてある。
見た目は若干歳を食っているようにも見える。
「・・・・あなたまだ生きてたのね・・・・」
猫の姿である汀の全身の毛がいっせいに逆立つ。
ねぇさんの眼光もいつになく鋭くなった。
「当たり前じゃないか。私も君達と同じ不死の存在になったのだから」
エセ紳士は、勝ち誇ったかのように言う。
「悲しいなぁ・・・京・・・・・
君のためにわざわざこんな極東の島国まで来たというのに
僕のことを忘れてあの雌のところに行くとわ・・・・・・」
「レベッカへの侮辱は許さないわよ。デネラ
まぁ、あんたを最初から許すつもりもないけど。」
「そうじゃな。おぬしは京を利用しただけでなく
汀たちに一生消えぬ罪を与えたのだからな。
親友を殺したという罪を」
「ふ・・・・・まぁいい。いずれ私の力(もの)にしてやる。また会おう京」
そういうとデネラは消えていった。
ねぇさんの表情は戻り、こちらを向く。
「京・・・奴がお前とレベッカを引き離した人間じゃ・・・」
ねぇさんはそれだけ言ってそれ以上は話そうとしなかった。
が・・・・その一言だけで状況を把握するのは容易かった。
あいつ・・・デネラがレベッカと汀を苦しめた張本人だと・・・。
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