ランドシン伝記 第7話 (アーカーシャ・ミソロジー)
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 第7話  安らぎ-の終わり

 

 剣聖シオンは森の中を散歩していた。

 そして、泉に出ると、そこには裸のニアが-まさに泉に入ろうと立ち尽くしていた。

 その横顔は美しく、神秘的であり、さながら泉の女神のよう

であった。

シオン「ニ、ニアッ?」

 シオンは急いで後ろを向くも、胸の動悸(どうき)を抑えられなかった。

ニア「やぁ、シオン。こんな所で-どうしたのかな?」

シオン「い、いや・・・・・・。ちょっと散歩を、と思って・・・・・・」

ニア「ふぅん。まぁ、いいや。入っちゃうよ」

 すると、チャポンと音がして、ニアは平然と冷たい泉の中に

入っていた。

シオン「寒く無いのか?」

ニア「別に。この程度なら問題ないよ」

シオン「そうか・・・・・・」

ニア「シオンも入る?」

シオン「い、いや・・・・・・流石(さすが)に、寒いからな」

ニア「そう。かつての剣聖達は、この程度の冷水、何も感じなかったけどね」

シオン「・・・・・・はぁ、入れば-いいんだろ。入れば」

 そう言って、シオンは服を脱ぎ、泉に入った。

 そして、体を一瞬、震わせるも、すぐに冷たさに慣れた。

ニア「結構、気持ち良いよね」

シオン「ま、まぁね・・・・・・」

ニア「やれやれ、修行が足りないね」

シオン「耳が痛いよ・・・・・・」

ニア「フフ、でも、才能は誰よりもある」

シオン「ニア?」

ニア「そして、誰よりも真っ直ぐだ。かつての剣聖の誰よりも。

   だからこそ、君は選ばれたんだろうね」

シオン「選ばれた?」

ニア「こっちの話。しかし、その意味では、あのヴィル先輩も

   剣聖になっても-おかしくは無い程の腕では-あった」

シオン「・・・・・・ニア。先輩はニアを本当に攻撃したのか?

    あの人は女性には手を出さない人かと思ってた」

ニア「女性・・・・・・なら、そうだったかもね。でも、彼には

   少し、正体が-ばれていたのかもね。そう、私がヒト

   では無い事が」

シオン「・・・・・・ヒトでは無い」

ニア「あまり、詳しくは言えないけどね」

シオン「だとしても、ニアは俺達の仲間だよ」

ニア「フフ、照れるね」

 そう言うと、ニアは泉から出た。

 そして、ニアは首だけ後ろを向き、口を開いた。

ニア「でもね、シオン。剣聖は君なんだよ。

   彼は、ヴィルは絶対に剣聖には-なれない。

   何故なら、彼は-あまりに世俗的(せぞくてき)すぎるから。

   剣を極める意思が無いから。

   でもね、シオン。注意すると良い。

   そういう手合(てあ)いのヒトの子は、時として、

   選ばれしモノを越える力を発揮する事が

   あるんだよ。

   シオン。彼は君にとり天敵となる可能性が

   あるんだよ」

シオン「天敵・・・・・・」

ニア「いつか、君と彼は戦うのかもしれない。

   それぞれ、己の全霊を懸けて。

   願わくば・・・・・・もし-それが起きたのなら、

   私は-その戦いを見守りたいモノだよ。

   でも、その時、きっと私は・・・・・・」

 そう言い残し、ニアは服をつかみ去って行くのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 ヴィルは剣の手入れをしていた。

トゥセ「・・・・・・団長」

ヴィル「ん?どした?」

トゥセ「すいません・・・・・・。多分、あのレイピア女との戦いも

    団長の本当の剣があれば、もっと楽に-すんだかもしれないワケでして」

ヴィル「なんだ、いきなり?やけに、殊勝(しゅしょう)だな」

トゥセ「そりゃ、殊勝(しゅしょう)にもなりますって、何せ、これから、

    苦難の連続でしょうし」

ヴィル「まぁ、気にするな。この剣も安物だけど、悪くない。

    変に装飾品も付いてないし、重いけど、その分(ぶん)、

    当たれば強いし、問題ないさ」

 と言って、ヴィルは剣を何度か振って見せた。

トゥセ「俺、メッチャ、頑張って、戦いますから」

ヴィル「ああ。頼りにしてるよ」

トゥセ「はい。ただ・・・・・・」

ヴィル「ただ?」

トゥセ「ゴブリン語は頑張れません」

ヴィル「なんかさ、急に-いつものトゥセに戻ったな」

トゥセ「あ、そうですか?いやぁ、照れますねぇ」

アーゼ「馬鹿トゥセ、褒(ほ)められてないからな」

トゥセ「はぁ?誰が馬鹿だ、誰が!」

アーゼ「お前だ、お前。お前以外-誰が居る」

トゥセ「お、お前、兄弟同然に育ってきたっちゅうのに、

    なんちゅう事、言いやがる。この馬鹿アーゼ」

アーゼ「な、なにぃ」

 そして、二人は口ゲンカを始めた。

カシム「やれやれ・・・・・・」

ヴィル「あいつら、腹が減ると良くケンカするんだよ」

 すると、モロンが駆けてきた。

モロン「ご飯できたよー」

 それに対し、トゥセとアーゼは-ケンカの事など忘れて、

一目散に食事に向かうのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 シオンはギルド・メンバーの細身の男と食事をしていた。

細身「しかし、シオンはん-と食事かいな。珍しい事もあるもんや」

シオン「仕方無いさ。他のみんなは忙しくて、こんな遠くまで

    食事には来れないんだから」

細身「まぁなぁ。でも、ここは-この街の名物店なんやで。まっ、

   ベーコンとかソーセージとか-お土産(みやげ)に買って帰ろうや」

シオン「ああ」

 そして、二人は食事を進めた。

細身「しっかし、二人きり-やから言える事やけど、ウチの

女性陣、ものごっつ、巨乳ばかりやと思わへんか?」

シオン「ん?あぁ、そうだな。確かに」

細身「なんや、その無関心-的なリアクションは。ショック

   やわぁ。毎晩、エレナはん-の巨乳に包まれている癖に」

 との言葉にシオンは苦笑した。

シオン「ま、まぁね。正直、大きい胸は好きだよ」

細身「おおッ、剣聖の本音が聞けたわ。いやぁ、嬉しいわぁ。

   たまには、男同士の会話も楽しいわな」

シオン「ハハ、まぁな」

細身「とはいえ、やはり、ニアはん-の胸はピカいち-やわなぁ。

   あれぞ、ロケット-おっぱいって言うんやないか?」

シオン「何だ、そのロケットって?」

細身「いや、ワイも詳しい事は知らんさかい、何かな、

サーゲニアの古代兵器や-そうやで」

シオン「物騒な話だな」

細身「せやなぁ。あの国も軍拡を異様に進めおるし、不安やな。

   獣人相手に軍を使うならええけど、いつか、こっちまで

   攻めてくるんやないかと思うとなぁ」

シオン「実際、サーゲニアと皇国が戦争をしたら、勝つのは

    恐らくサーゲニアだろうしな」

細身「とはいえ、魔族の勢力が強いうちは、ヒト同士で戦って

   いる余裕は無いやろうけどなぁ」

シオン「だろうな・・・・・・」

細身「あぁ、そんな戦争が起きる前に、ロケットおっぱいの

   彼女が欲しいモンや・・・・・・」

シオン「ハハ、ニアに告白してみればどうだ?」

細身「シオンはん、それ本気で言ってるなら、結構、酷やで。

   まぁ、ええわ。でも、ニアはん-のロケットおっぱいを

   見慣れてると、眼福(がんぷく)では-あるんやけど、

   その分、普通の胸が小さく見えて辛いわなぁ」

シオン「そんなモノかな?」

細身「そりゃ、あんたの彼女はん-もニアはんに負けず劣らず

   やからなぁ・・・・・・」

シオン「いやいや、でも、ニアの胸は凄いと思うよ。特に

    あれでも着やせする感じで」

細身「ちょっと待ってやぁッ!シオンはん、あ、あんたという

   ヒトは、エレナはん-という彼女がおりながら」

シオン「ち、違う。誤解だ。俺は、エレナ以外を愛した事は

    無いぞ」

細身「嘘やッ。あぁ、何て事やぁ、見損なったわぁ」

シオン「い、いや。実はな・・・・・・」

 そう言って、シオンは事情を説明し出した。

 それを聞いて、細身の男は少し、落ち着きを取り戻した。

細身「なる程。そういうワケやったんか、って、それでも

   うらやましいわッ!クゥ、ワイには何で-そういう

   イベントが回ってこんのや。やっぱ顔か?顔なんか?」

 と言って、自らの顔をこねくり回し出した。

シオン「お、おい・・・・・・」

細身「すんまへん・・・・・・。少し、取り乱して-しもうたわ。

   まぁ、ええわ。話、変えまひょ」

シオン「あ、ああ」

細身「それでな、ウチの女性陣の胸の話やけど」

シオン「あ、結局、そこに戻るんだ」

細身「だって、今くらいしか出来へんやろ?こんな話」

シオン「ま、まぁな。ど、どうぞ」

細身「まぁ、単純な大きさからしたら、ニアはん-とエレナはん

   がツー・トップなワケや。でもな、個人的には、ユークはん-

   の胸にもビックリなんや」

シオン「でも、彼女の胸、大きさは-そんなに大きくないぞ」

細身「確かに、純粋な大きさでは-そうや。だけどなぁ、体の

   大きさを考えると、あれは凶器のレベルや。小人族の

   ユークはん-の身長は、それこそ少女くらいの大きさしか

   あらへんけど、それに対し、その胸はDは-あると思う

   んや。いや、正確な大きさは良くわからへんのやけど」

シオン「そ、そうか」

細身「そんな感じや。いやぁ、今日は有意義な時間を過ごせたわぁ」

シオン「あ、ああ」

 と、シオンは少し困りながら答えるのだった。

 

 ・・・・・・・・・

ヴィル「そう言えば、お二人は-どうして、あの迷宮に住んで

    居たんですか?」

 と、ヴィルは黒猫に尋ねた。

黒猫「フム、良い質問じゃな。まぁ、あまり詳しくは話せないんじゃが、

   ともかく、十年前の大戦でワシとレククは

   この大陸に取り残されてしまったのじゃ。

   そんな時、たまたま-ここの地方領主さん-と出くわしての。

   それで事情を話したら、迷宮に住む事を許して下(くだ)さった

   のじゃよ」

トゥセ「って、マジかよ。地方領主って、一年前に亡くなられた?」

黒猫「そうみたいじゃのぅ・・・・・・。あの人間さん-は良い人じゃったよ、

   本当に。レククも-なついて居たしのぅ」

アーゼ「しかし、その息子であるアチェスさん-が後を継がれて、

    それで迷宮クエストを依頼して・・・・・・・。これって」

ヴィル「ああ。色々と繋がったな。アチェスさん-は父である

    前-領主がゴブリンをかくまっている事を知っていた。

    しかし、それを皇国に報告するワケには-いかなかった。

    とはいえ、父の死後、何もしないワケにも-いかなかった。

    だから、迷宮クエストという形で、冒険ギルドに

    偶発的に見つけてもらうよう、仕向けた。そんな所

    だろうな」

黒猫「世知辛(せちがら)い話ですじゃ」

アーゼ「まぁ、貴族の後継者に苦しめられる領民は多いですからね」

トゥセ「特に先代が優しい場合は-そうなんだろうなぁ」

ヴィル「何でか、跡継ぎってのは-大抵、劣化するからな」

 そう言って、ヴィルは-ため息を吐(つ)いた。

 

 ・・・・・・・・・・

 シオンは高級バーを訪れていた。

 そこには客は-ほとんどおらず、一人のダーク・エルフの女性が

カウンターに座っていた。

 彼女はシオンのパーティの一人だった。

シオン「やぁ」

 と、シオンはダーク・エルフに声をかけた。

エルフ「あら、シオン。どうしたの?こんな所に。珍しい

    じゃない」

シオン「少し、小腹が空(す)いちゃってさ。近くの店、ほとんど

    閉まっちゃってて」

エルフ「だから、ここに?酒場なら-いくらでも有るでしょうに」

シオン「いや、あまり騒がしいのも苦手でさ」

エルフ「そう。でも、ここの料理は-おいしいわよ。マスター」

 そう言って、ダーク・エルフは-マスターに対し、適当に

料理を注文した。

 さらに、シオンは酒を注文した。

エルフ「珍しいわね。お酒、飲むなんて」

シオン「流石(さすが)に、料理だけ食べるワケには行かないだろ?」

エルフ「あら、ミルクとか可愛(かわい)いんじゃない?」

シオン「ミルクは苦手なんだ」

 とのシオンの答えに、ダーク・エルフはフフッと笑い出した。

 その笑い方一つにしてみても、彼女からは大人な女性の余裕さが

垣間(かいま)見えていた。

シオン「やれやれ、フォウンには敵(かな)わないな」

 と、シオンは-そのダーク・エルフの女性に対し、言うのだった。

フォウン「ふふ、総じて男性は女性に口では敵わないモノよ」

シオン「違いない」

 そして、二人は酒を少しずつ口にするのだった。

 

 夜は深くなり、二人の酔いも回ってきた。

フォウン「エレナの所に居てあげなくて平気なの?」

シオン「今日は-お休みだよ」

フォウン「それは-お疲れ様」

シオン「正直、こういう疲れには慣れないな。戦場の疲れの

    方が、しっくり来る」

フォウン「あらあら。エレナも可哀相(かわいそう)に」

シオン「いやいや、エレナと一緒に居ると、どうしても、

    まぁ、やり過ぎてしまう-というかさ。

    だから、こうして、自制してるんだよ」

フォウン「そう。うらやましい話ね。私なんて、相手が居なくて、

     困ってるのよ」

シオン「はは。フォウンなら-すぐ相手が見つかるだろ?

    道を歩いてたって、男達に良く見られてるだろ?」

フォウン「まぁ、高望みし過ぎなのかも-しれないわねぇ。

     それに、恋愛は以前、こりてるから、中々、

     そう簡単に手を出せないのよね」

シオン「あぁ・・・・・・ごめん」

フォウン「いいのよ」

シオン「・・・・・・フォウン、君は本当に、今度の戦いに付いてく

るのかい?」

フォウン「あら?返事は-したつもりだったけど」

シオン「君に万一があれば、フィナちゃん-は、どうなる?」

フォウン「・・・・・・あの子は強いわ。私が居なくても十分、やって

     いけるわ。それに、あの子も、もう16よ。

     成人してるわ」

シオン「俺は、元々、君にはフィナちゃん-の傍に居て欲しかっ

    たんだ。フィナちゃん-は、君のかけがえのない一人娘

    なんだから」

フォウン「ええ。そうよ。かけがえのない・・・・・・私の最愛の娘」

シオン「一緒に居れなくて寂しくないのか?」

フォウン「・・・・・・時々、ね。寂しくなるわ。でも、元々、私の

     部族は、こんなモノよ。女は村の外に出て、外の男の

     子種をもらって、帰って来て、子供を産む。

     そして、また外に出る。その繰り返し」

シオン「フォウンのお母さんが、フィナちゃんを育ててるんだ

    ったよな」

フォウン「ええ。母さんには、頭が上がらないわ・・・・・・」

 そう言って、フォウンは酒を一気に-あおった。

フォウン「ねぇ、シオン。あまり、私を責めないでよ。確かに

     私は母親失格だけどね。それでも、私は・・・・・・」

シオン「ごめん。確かに、フォウンは毎月、かなりの額を

    フィナちゃん-のために送ってるモンな。ぜいたくも

    たまに-こうして飲むくらいにしか使ってないんだ

    もんな」

フォウン「まぁ、そんな所ね。フフ、でも、奇妙なモノよね。

     昔の私が今の私を見たら、驚くでしょうよ」

シオン「どうしてだ?」

フォウン「だって、私はね。昔は、普通の-お嫁さんに、

     なりたかったのよ。それで、人間の男と結婚

     して、村のはずれにフィナと三人で住んで。

     でも、駄目ね。あのヒトは暴力ばかり。

     結婚して変わってしまったわ」

シオン「そうだったのか」

フォウン「まぁ、私が家事とかダメダメだったのも理由なん

     でしょうけどね。まぁ、そのせいかな。私は、

     自分に母親としての自信が持てないのよね。

     どうしても」

シオン「・・・・・・そっか。ごめん、何も知らずに適当な事、

    言っちゃって」

フォウン「いいのよ・・・・・・。でもね、私には夢が-あるの」

シオン「夢?」

フォウン「そう。今度の戦争を無事に切り抜けたら、フィナを

     このギルドに呼ぼうと思って。あの子、もう16で

     しょ。しかも、母さんからの手紙だと、かなりの

     弓の使い手に育ってるみたい」

シオン「そうか。それも-いいかもな。親子で同じギルドなんて、

    なんか、いいな」

フォウン「ええ。でも、あの子、面食(めんく)いだから、きっと

     シオンに惚(ほ)れちゃうわよ」

シオン「冗談だろ?」

フォウン「さぁ、どうかしら?でも、きっと-そうなるわ。

     だって、あの子は私の娘ですもの・・・・・・」

シオン「・・・・・・フォウン、酔ってるだろ」

フォウン「そうね。少し、酔ってるんでしょうね」

 そう言って、フォウンはグラスを置いた。

フォウン「ねぇ、シオン。私は強い男が好き。でも、強いだけの男は嫌い。

     だって、力で私を支配して来ようとしてくるから。だから、

     強さと優しさを-かねそなえた、そんな人が好きなの。

     そう、あなたのような」

シオン「・・・・・・俺は-そんなんじゃ無いよ」

フォウン「そうかしら?ねぇ、シオン。私は-あなたの子供なら

     産んでも良いと思っているのよ。本気で言っているの。

     エレナに聞いた事が-あるの。でも、エレナは

     許可してくれたわ」

シオン「嘘だろ?」

フォウン「エレナは-こう言ってたわ。『彼が私の傍(そば)に居てくれる

     のなら、それだけで良い』って」

シオン「そんな・・・・・・」

フォウン「もちろん、正妻はエレナよ。でも、私は側室(そくしつ)で良い。

     体だけの関係でも良い。シオン、私も-それで良いのよ」

シオン「・・・・・・フォウン。君は悪酔いし過ぎだよ。俺も、少し

    酔っちゃったみたいだ。会計、これで済ませておいて

    くれ」

 そう言って、シオンは銀貨の入った袋を置いて、去って行くのだっ

た。

フォウン「・・・・・・やれやれ、逃げられちゃったか」

 と、呟(つぶや)き、酒を口に含むのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 シオンは-モヤモヤとした気持ちの中、ベッドに倒れこんだ。

 そして、そのまま眠りに-ついたのだった。

 

 シオンは夢の中に居た。

 そこでは、裸の女性がベッドでシオンと居た。

 彼女はパーティの一人、治癒(ちゆ)術士のリーシャだった。

『シオンさん、シオンさんッ』

 とのリーシャの叫びが木霊(こだま)した。

 

 情景は変化していた。

 そこには、ダーク・エルフのフォウンが半裸で居た。

 その胸にシオンは甘えており、フォウンは愛おしそうに

シオンを受け入れていた。

 

 さらに夢は変化していった。

 そこにはパーティの一人、魔導士のユークがベットに座っていた。

 彼女は小人族ではあったが、服を脱ぐと、意外に肉付きが

良く、全体の大きさ以外は-人間の大人の女性と大差無かった。

 ユークの透き通るような美声が、徐々に淫らな喘(あえ)ぎに

染まる中、夢は移り変わっていった。

 

 そこには裸のニアが居た。

 しかし、ニアは寂しげにシオンを見つめていた。

ニア『シオン、私は君と体を重ねないよ。少なくとも、今の君

とは・・・・・・』

 そう告げ、ニアは背を向けて去って行った。

 それをシオンは必死に追うも、決して追いつく事は出来なかった。

 

 夢の中、シオンは再び、ベッドの上に戻って居た。

 声が聞こえた。

『シオン・イリヒムよ。お前の運命は完全に閉じられた。

 だが・・・・・・』

 すると、次の瞬間、シオンは背中に熱を感じた。

 そこにはエレナが居た。

 シオンの背には、ナイフが突き刺さっていた、

エレナ『シオン、ごめんなさい。この運命じゃ駄目なの。

    運命を戻すために、一度、あなたを殺すわね』

 との言葉が、暗転する視界の中、シオンには聞こえた。

 シオンの魂にノイズが走り、それは次第に強まっていった。

『これで、この地域に観測者は消え、この領域は波動と化した。

 街道が閉鎖されていたのが、幸い-だったか・・・・・・。

今、アカシック・レコードに接続を開始する』

 との女の声が聞こえた気がした。

 

 そして、シオンは目を覚ました。

 そこはベッドの上だった。

 しかし、部屋にはシオン一人しか居なかった。

シオン「夢・・・・・・か。変な夢だったな。ッ・・・・・・」

 すると、シオンは背中に痛みを感じた。

 シオンは部屋に備え付けられている小さな鏡で、背中を

見ると、刺し傷のようなアザが、そこには有った。

シオン「本当に・・・・・・夢・・・・・・だったのか?」

 と、シオンは呟(つぶや)くのだった。

 

 ・・・・・・・・・・

 

 

説明
剣聖シオンは-ヴィル達とは対照的に、
女性達に囲まれ、充実した時間を
過ごしていた。
しかし、その安らぎも奇妙に歪み
つつあったのだった。
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