インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#112 |
[side:鈴]
唐突に山田先生に呼び集められたあたしらだったけど、結局自室待機になった。
というか、旅館に着いた途端に山田先生は呼ばれてどっか行っちゃってその後は指示なしだから仕方なく部屋で待ってるって感じ?
「ま、おおかた面倒ごとが起こったから召集がかかったんでしょうけど。」
「大当たりだ、鈴。」
あたしのこぼしたため息交じりのつぶやきにラウラが答えた。
「なになに?何があったの?」
端末を弄っていたラウラにシャルロットが覆いかぶさる。
画面を覗き込みたいなら横からすれば良いのに。
「どうやら、国際IS委員会が世界に対して叛旗を翻したらしい。今は『((亡国機業|ファントムタスク))』と名乗って世界に恭順を求めているようだな。」
「はぁ!?」
「なんですの、それは!」
『世界に恭順』って、どこの世界の秘密結社よ。
「それにしても、秘密結社という割りにはツメが甘いよね。」
「そうだな。秘密結社として今の今まで尻尾をつかませずに活動してきたのならば、そのまま世界を征服しておけばいいのだからな。ちなみに学園も占拠されてそこにあったISコアはすべてヤツらの手にあるようだ。」
って、それは―
「ISを全部押さえてるってこと!?」
絶対に、『ちなみに』で済ませていいレベルの話じゃない。
「そう言うことになるな。私のレーゲンやお前の甲龍も含めて…む!?」
「どうしたのよ、ラウラ。」
唐突に黙り、表情が消えかけたラウラに視線が集まる。
「連中、面白いことを言っているぞ。」
「何よ、『面白いこと』って。」
「それは―――」
「みなさん、ごめんなさい!」
ラウラが言おうとするとほぼ同時、部屋に山田先生が入ってくる。
「大変お待たせしました。それではこちらに来てください。…なるべく静かにお願いしますね。」
そういわれたあたしたちは黙って山田先生の後をついてゆく。
喋らないのは当然。
一夏や箒、あとラウラなんかは足音すら聞こえてこない。
たぶん、この時間になったのも人目につかないようにするためなんだろう。
…今の時間、ほかの生徒たちは夕食のために食堂へ行っているはずだから。
案内された先は『職員室』と張り紙された会議室の一つだった。
「どうぞ。」
敷居をくぐればそこはまるで別世界。
薄暗い部屋の中には学園で見慣れた空間投影型のディスプレイが所狭しと林立し、部屋の壁際にはまるでアリーナのピットのような機材が並んでいた。
そう、まるで学園の管制室のように。
扉が閉じられる。
それだけで遠くに聞こえていた食堂の姦しい声が完全に聞こえなくなる。
「突然呼び出したりしてすいませんでしたね。」
いつもどおりの山田先生の声。
けれども、その雰囲気は何処か違う。
「もう、ニュースで見ているかもしれませんが、((亡国機業|ファントムタスク))と名乗る武装組織がIS学園を占拠。繋留索を切断して外洋へと移動させ始めました。」
やっぱり、その話か。
「彼らは学園施設で調査中だったISコアを接収し、全世界に対して恭順を求めたそうです。」
「ISを戦略兵器として使った、というわけですわね。」
「そのとおりです。…これに対して国連安保理は国連軍の結成して武力制圧すること決定。」
「…通常兵器で450機以上のISが居るところに攻め込もうというのか?」
「どうやら、占拠間もないなら用意できる数も少ないだろうから今のうちに…ということみたいですね。国連軍といっても、実質米軍太平洋艦隊そのものですし。ただ…」
「ただ?」
「真珠湾を出港した太平洋艦隊が到着するよりも先に、痺れを切らしたあちらさんが見せしめのための武力行使をして来そうそうなんですよ。((最寄の国|ここ))に。」
にこやかな顔してなんつー、『トンデモナイコト』を言うんだろうか、この人は。
「証拠がないわけじゃないですからね?織斑先生とか、空さんとかを事故に見せかけて葬ろうとしてましたし。」
途端、その場の空気が凍りついた。
主に、ラウラと一夏、あと箒なんかが。
「こほん、日本政府は既に非常事態として各地の自衛隊基地に((最高度防衛準備指示|デフコン2))を発令しています。」
何事もなかったかのように話し出す山田先生。
一夏たちはとりあえず『聞かなかったこと』にしておくようだ。
「では、政府からの要請があって我々もそれに参加をするのですか?」
「いえ。いざというときの自衛の準備です。まあ、殴られっぱなしなのは癪なので思いっきり殴り返すつもりですが。」
なんだろう、この山田先生と話しているのに織斑先生の陰がちらついているような感覚は。
「まもなく、篠ノ之博士が到着する予定です。それまでに身支度を整えて置いてくださいね。((I|・))((S|・))((ス|・))((ー|・))((ツ|・))とか、忘れちゃダメですからね。」
「っ!それは―――」
「質問は受け付けません。一度解散にしますから、一時間後に身支度を整えてここに集合していてくださいね。」
ぴしゃり、と言い放つ山田先生にみんな黙らされる。
そのまま部屋を追い出されてしまったあたしたちは言いようもない高揚感に包まれていた。
「ああ、このことはくれぐれも秘密ですからね?」
はーい。
* * *
[side: ]
『我々は、秘密結社「((亡国機業|ファントム・タスク))」。我々は世界平和の実現・維持のために今日まで水面下の活動を続けてきた。―――』
モニターには高級そうなスーツに身を包んだ女性が国際IS委員会のロゴマークが入った演壇に立ち、熱弁をふるっている様子が映し出されていた。
『――我々『((亡国機業|ファントム・タスク))』は現存するISコア、そのすべてを確保している。我々は我々の理念である『世界恒久平和』実現のためにこの力を独占し、平和を乱す者を排除するために使用する。全世界の諸国諸氏には我々の理念への賛同と、恒久平和世界への参画を求めるものである。』
演説が終わり、割れんばかりの拍手が鳴り響く。
その余韻は唐突に打ち切られ、淡々としたニュースキャスターの声が提示された要求を読み上げてゆく。
が、それもモニターの電源を切られて打ち切られる。
後に残るのは、沈黙だけ―――
「まったく、秘密結社が表に出てきて何をする気なのやら。」
モニターの電源を切った張本人――更識空画はため息とともに愚痴をこぼす。
今日のためにイロイロと動いてきた身であるが故の思うところが山のようにあるのだろう。
「おそらく、力を持って気も大きくなっているのでしょうね。」
それに答える初老の男性の声。
空画同様の、どこか呆れているかのような風の声色だ。
「水面下で淡々と蠢動を続けていたのならばもっとうまく事が運ぶと判っていても…か。」
「ISコアをすべて抑えているのだから、それを兵力化すれば武力制圧も容易でしょうに。それでも態々こうして声明を出すあたり、目立ちたがりというべきか、妙に堂々としているというか…」
「亡国機業の幹部は果たして稀代の詐欺師か大根役者か、答えは明日のみぞ知る…か。――ところで十蔵。体はもう大丈夫なのか?」
「ええ。橋の爆破に巻き込まれるなんて稀有な体験こそしましたが怪我もしませんでしたし…これも彼のおかげですかね。」
空画に問われて十蔵――轡木十蔵は苦笑とともに答える。
「運転手は((更識|ウチ))から出したが、箱のほうはあやつの用意したものだったな。」
「本当に助かりましたよ。おかげで色々なものを失わずに済みました。」
「用意のいいことだ。…今も次の仕込みに行っているのだろう?」
「ええ。百里に横須賀にと大忙しみたいですね。」
「まったく、どちらが黒幕なのか判らなくなってくるな。」
「まあ、相手が手のひらの上で踊ってくれるならばそれに越したことはありませんからね。」
はぁ、と二人はため息をこぼす。
それは呆れか感嘆か。
「まったく、本当に末恐ろしいな。」
「それは同感ですね。――ところで空画さん。お孫さんもなにやら動いているみたいですが?」
「ん?ああ、一体誰に似たのやら。紗代の奴もなにやらやっているようだし…困ったものだ。」
そう言いながらも空画の顔は笑っていた。
「…楽しそうですね。」
「そうか?まあ、時代が変わる大事件になろうしな。次代を担う若者の大舞台、果たしてどう終幕を迎えるのやら…」
「では、出番だと呼ばれるまでは特等席で物見と洒落込むとしましょう。」
「まあ、老人が出しゃばるまでもないだろうがな。」
空画は外を眺めようとして、この部屋に窓が無いことを思い出す。
「どうしました?」
「いや、なんでもない。」
せっかくの満月、惜しいことをしたと空画は悔やむ。
根拠もなにも無いが、きっとそこにある月は煌々とその姿を輝かせていることを確信しているために―――
説明 | ||
#112:そして、ハジマル 卒論を提出した翌日に病院行ったらインフルだったりした高郷です。 これは『インフル出停中に絶海を進められるだけ進めろ』という思し召しなのだろうかと思いつつ、更新します。 |
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