The Duelist Force of Fate 16
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第十六話「再演者の復活」

 

【粉砕ッ! 玉砕ッッ!! 大喝采ッッッ!!!】

 

(ふむ?)

 

どうやら再び演目が回ってきたらしい。

しかし、どういう事か。

あの夏に全ては終結したのではなかったのかね?

いやいや、それどころか私は【どの演目】においても死んでいるはずだ。

もはやタタリの座は奪われ、あの可愛らしいお嬢さんと眼鏡の彼に倒されたはずだ。

ならば、此処に志向する私とは何者なのか。

生前の私を模るのが私(コレ)だとすれば、それはタタリなのか?

霊魂すら消滅したはずの私が在る理由。

深遠過ぎる問いに答えなど無いのか?

ははは、まったくコレが生前の私を模っているならば、もはや抜け殻に違いない。

第六法に負けた記憶は今も新しい。

私を土地から再現した【彼女(Dust of Osiris)】も消えた。

アトラスの末としての完成形である彼女が破れた以上、私はその後を【知らない】はずだ。

しかし、私は此処にいる。

再び舞台に立っている。

もしも、コレが【再演】ならば、私は四度目の末期を演じる事になるのだろうか?

 

(それもいい)

 

だが、それまではやがて来る破滅を、人々に遍く語ってみるのもいいかもしれない。

今までの私が敗れ去ってきた原因が私そのものにあったとすれば、四度目の可能性として選ぶのが原点というのも乙だろう。

今更【人間】を演じるなど二番煎じの謗りは免れないが、そもそもそ【人間】に敗れてしまう程度の力では再び第六法に到ったところで結果は知れている。

 

(それにしてもカードか・・・あぁ、【知っているぞ】・・・破滅の先にいた君を・・・計算上にいた君を・・・そうか・・・そういう事か・・・それが君の選択か・・・)

 

新たな演目を拝見させてもらおう。

破滅と救世の決闘者。

その新たなる物語を。

 

彼と彼女の戦いは初めから波乱に満ちていた。

「な!? 体が動かないッッ!?」

彼女は驚愕していた。

己が何をされたのか分からないという時点で目の前の英霊が異質なのは理解できた。

魔術ではない。

空想具現化のような気配もない。

概念魔術か。

それとも固有結界の如き禁呪でも使っているのか。

まったく見当が付かないのでは話にもならない。

防御姿勢を取ろうにも彼女の体はピクリとも動かなかった。

「くッッッ!?」

【ドロー】

彼の声に彼女シエルは唇を噛む。

名も知らぬ英霊の男。

その力は明らかにカード。

発動を許せば、今現在死ぬ体である自分がどうなるか想像が出来た。

(どうにかして動きをッッ!?)

一息に魔術が紡がれた。

雷撃。

もう使う事も無いと思っていた数秘紋の雷をシエルが放つ。

彼は避けなかった。

まるで最初から覚悟していたかのようにカードを持ったまま。

【―――ッッッ、カードを三枚セット。モンスターを一枚セット】

(避けないッッ!? それに中位の魔術師クラスなら一撃で撃破する雷を受けて平気なんて!? これが英霊ッッ)

シエルが歯噛みした。

【手札から『暗黒界の取引』を発動。互いに手札を一枚ドローして一枚捨てる】

禍々しい輝きを帯びたカードが虚空へと投げられる。

「――――ッッ?!!」

シエルが鳥肌を立てた。

銀色の悪魔の顔が虚空に浮かび、まるで甘い果実のような魔力が己の中に湧いて、己の魔力が同じだけゴッソリと消え失せる。

【捨てられたモンスターの効果発動『暗黒界の導師 セルリ』は暗黒界と名の付いたカードの効果により捨てられた時、相手フィールド上に特殊召喚される】

「ッッ、これは!?」

シエルが目を見張る。

真横に気持ち悪い小さな悪魔が佇んで・・・ニヤリと笑みを浮かべていた。

【セルリの効果発動。このカードが特殊召喚に成功した時、相手は手札を一枚選択して捨てる】

セルリと呼ばれた悪魔が杖を掲げる。

杖から迸った光が彼のカードを直撃した。

【手札からカードを一枚選択して捨てる】

彼が最後の一枚をデュエルディスクに捨てる。

しかし、その直後だった。

【捨てられたモンスターの効果発動『暗黒界の軍師 シルバ』】

捨てられたカードが再び彼の手に舞い戻る。

そして、地面にポッカリと黒い大穴が開いて虚空に一瞬見えた銀色の悪魔がフィールド上へと浮上した。

悪魔が腕を広げる。

【このカードが効果によって捨てられた時、このカードを特殊召喚する。更に相手によって捨てられた時、相手の手札二枚をデッキの一番下に好きな順で戻す】

銀色の悪魔から迸った力がシエルに降り注いだ。

「!?」

シエルは己の中にある魔力が二割以上消え去るを感じて愕然とする。

「こんなッッ!? デタラメな!!!!」

【ターンエンド】

その宣言と同時にシエルの体に動きが戻った。

(くッ!? 魔術の正体が分からない?! いえ、そもそもあれだけの悪魔を何の儀式も無しに呼び出すなんて?! あれが宝具の力? ならば!!!)

シエルが即座に動く。

圧縮して常に持ち歩いている黒鍵を即座に彼に放つ。

狙いは彼のデュエルディスク。

放った黒鍵には魔術で既に効果が付与されている。

並の魔術具ならば完全に破壊できるだけの威力が与えられている以上、その宝具の未来は破壊しかない。

しかし、そのシエルの期待は裏切られた。

【罠(トラップカード)カード発動(オープン)『砂漠の光』】

剣が届くよりも先に彼の罠が発動した。

「黒鍵が!?」

【フィールド上のモンスターを全て表側守備表示に変更する】

シエルが強制的に己の体が防御体制を取らされた事に驚いている間にも投げ放った剣が急激に失速して地面へと突き刺さる。

【リバース『幻想召喚師』自分フィールド上のこのカード以外のモンスターを一体リリースしてエクストラデッキから融合モンスター一体を特殊召喚する。リリース対象は『暗黒界の軍師 シルバ』】

「!?」

フィールド上に小さな魔物を連れた男が現れていた。

その男の前にいた悪魔(シルバ)が力の渦に巻き込まれ消滅する。

そして、渦の中に見える巨大な何かを感じたシエルは新たなモンスターの召喚を許さなかった。

「させません!!」

言う事を聞かない体を無理やりに動かして、腰の後ろに備え付けてあったミサイルランチャーの弾体を掴み、第七聖典の先に括り付けて放つ。

弾体は狙い違わず渦の中心へと直撃した。

爆発。

周辺数メートルを巻き込む業火が吹き上がり、渦の中身ごと全てを飲み込んだ。

【罠(トラップ)カード発動(オープン)『亜空間物質転送装置』 フィールド上のモンスター一体をエンドフェイズまで除外する】

爆風の中から聞こえてくる声にシエルが渦の中にいる存在を仕留め損なった事に気付いた。

爆風が過ぎ去った後、彼と魔物を連れた男しかいなくなった場(フィールド)を油断無く見据える。

「・・・・・・」

「そこまでして真祖は守るべきものなのか、ですか?」

彼の問いにシエルが今までの厳しい表情を崩して苦笑した。

「確かに吸血鬼の真祖と言えば、人類の敵以外の何でもない。それは未来でいつか人類が破滅するという事実からも明白でしょう」

「・・・・・・」

「なら、どうして庇うのか? そうですね。確かに自分でも疑問に思います。あのアーパー吸血鬼をどうして此処まで庇うのか。今こそ彼女は大人しくしていますが、想い人がやがて人として死(サダメ)を受け入れれば、いつか枷も外れる」

第七聖典が彼に向けられる。

「そうなれば、この世界には破滅しか用意されていない」

目が細められる。

「でも、あの吸血鬼が自ら選んだ猶予期間(バカンス)を終えるまで、まだ時間は残されているんです」

今まで相手の出方を伺いセーブしていた魔力をシエルが第七聖典へと爆発的に流し込む。

「やがて、この町で・・・あの真祖の執行者は人間を知るはずです。人間の愚かさ、醜さ、絶望、諦観、苦悩・・・そんな、人間のどうしようもなさを」

その顔に笑みが浮かぶ。

「そして、きっと、だからこそ気付く」

魔力の輝きが体を包み込み、風を生む。

「それが人(アイ)なのだと」

流麗なる蒼い風。

「それが愛(ヒト)なのだと」

その感じる者に命の激しさを語る風が彼の横を吹き抜けていく。

「あの人と共にいた己すら、実はどうしようもない馬鹿(ニンゲン)だったのだと」

眼鏡が魔力の圧力に弾けた。

【エンドフェイズ。除外されていたモンスターをフィールド上に戻す。帰還『ナチュル・エクストリオ』】

虚空に滲んだ暗黒から外灯を遥かに上回る巨躯が再臨する。

それは獣。

あらゆる魔法と罠を無効にする666(カオス)より尚最悪の猛獣。

「ふ・・・幻想種ですか。生憎と獣(そういうの)なら慣れてます」

【ドロー】

「此処に暮らす全ての命の為にも。あの親友(バカ)を安々くれてやるわけにはいきません!!!」

背筋を滝のような汗が流れていた。

それでも彼女は決して逃げようとは思わなかった。

(遠野君・・・)

正体不明の英霊を前にして、結果は絶望的だと告げる勘を内に秘めて、それでも尚シエルは前を向く。

己の守るべき日常が彼女の後ろにはあった。

【バトルフェイズ!!】

第二ターンが、始まる。

 

遠く離れた町で新たな戦いが起こっている頃。

冬木の地でも新たな戦いが巻き起ころうとしていた。

「ようやく見つけた・・・桜・・・」

人気の無いビルとビルの隙間。

無数の赤い瞳が蠢く路地裏。

半ば、その闇に飲み込まれているマスターとサーヴァントが一対。

「・・・ね・・・さ・・・お・・・」

『桜・・・貴女の姉が来ました』

「・・・せ・・・んぱ・・・せ・・・ぱ・・・」

「悪いけど、衛宮君は置いてきたわ」

「せ・・・ぱ・・・・」

「その姿・・・コレを取られたせい?」

ただ一面を黒で塗り潰されたカードが凜の手にあった。

『現在の桜は【この子達】の主としての資格を失っていますから』

「随分と冷静なのね?」

『此処で貴女が来たのは僥倖でした。今の私を相手に一人で勝てると思ったなら驕りもいいところでしょう』

「生憎と負ける気はさらさら無いから」

『実の妹を見殺しにする気ですか?』

「その姿を衛宮君に見られるよりはマシかもしれないわ」

『・・・・・・桜。少し待っていて下さい。必ずアレは取り返します。そうすれば、また貴女はセンパイへ会いに行ける』

「せんぱ・・い・・・ほん・・と・・・らい・・・だー?」

『はい。あの老人がもう貴女の中から出て行った以上、何一つ憂う事はありません』

「うれ・・しい・・・・せんぱいせんぱいせんぱいせんぱいせんぱいせんぱいせんぱいせんぱいせんぱ―――」

『はい。ですから、少し離れていて下さい』

ズルズルと闇の中を這いずる音。

『如何に最大の宝具を失ったとはいえ、未だ私には切り札がある』

「そうね。確かにその魔眼は厄介だわ。でも、それはあくまで普通ならの話でしょう?」

『負け惜しみならば死んだ後で幾らでもして下さって結構です。もう、貴女の魔術は割れている。如何な魔力を込めた宝石も私の魔眼の前では―――』

「誰がそれで戦うなんて言ったのかしら?」

『何?』

雲間から月明かりが路地へと差し込んだ。

逆光。

【騎乗者(ライダー)】が目を見張る。

 

その手にあるモノは彼だけが使える専売特許のはずだった。

 

「まさかッッ!?」

『あいつが残してくれたの。ホントお人好しよね。今まで集めたカード全部置いてくなんて』

「くッッ!!!」

ライダーがいち早く眼帯を取り去り、凜へと殺到する。

その瞬間、周辺にある視線上の全てが石化し、凜も例外なく石となって、ライダーの手で砕け散った。

『桜。コレが欲しいなら自分で私を倒してみなさい!!』

「ねぇさん。かえしてかえしてかえして・・・それかえして・・・せんぱい・・・あいにいけない・・・か、がえ゛せ゛ぇえ゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛え゛ッッッッッッッッッ!!!!!!!!」

『桜!!!』

踵を返したライダーが眼帯をして駆け付けた時にはもう全てが始まっていた。

遠坂凜の腕に付けられていたのは紛れも無くデュエルディスク。

そのディスクにセットされていたのは紛れも無くデッキ。

その手にあるのは二枚のカード。

一枚は【黒の聖杯】。

そして、もう一枚は――――――。

「フィールド魔法【決闘者の作法】(ルール・オブ・デュエル)を発動!! このカードはカードの効果によってはフィールドを離れる事が出来ない。フィールド内の全ての者はDuelによって勝敗を決する!!!」

『馬鹿なッッ!!!?』

驚愕するライダーが凜の前に立ちはだかる。

 

「Duel!!!」

 

体の半分以上を呪泥と化した少女と相棒を失った少女を満月が照らし出す。

 

『う゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛ッッッッ!!!!!』

 

勝敗はただ運命だけが知っていた。

 

To be continued

説明
カレー先輩との決闘が始まる。
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