訳あり一般人が幻想入り 第23話
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 あんなにも生き生きしたお嬢様を見たのは、確か異変を起こした時か月へ赴く前だったかしら。

 咲夜は無邪気に暴れまわるレミリアを見てそう思った。あの時のように自分の思い描く未来図を思いふけり、行動を移せば他人を顧みないほどに嬉しく舞い上がるその姿は、人間の平均寿命を数倍も超えていても子供臭さが抜けない事を証明していた。

 赤い霧異変の時も月異変の時も、他人を巻き込んで自分の赴くままに動き、己の理想と欲望を満たすために自由気ままに行動する。今回もまさにそれと同じだ。

 今までと違うのは、我が恐ろしさを知らしめるためでも未知なる他国から脅かす存在となるためでもなく、ただの退屈しのぎと一縷の見果てぬ可能性を見たいため。

 その相手も妖怪退治を生業とする巫女や魔女でも神を自身の体に降ろせる宇宙人でもなく、この土地を全く見知らぬ何の力を持たぬ人間。その人間相手にこんなにも無邪気になれるのが、咲夜は今でも理解出来ていない。

 あの男が、もしかしたら主人の運命にたぐり寄せられて現れたのなら。あの男が、主人のお陰でもしその運命に引き寄せられたのなら。

 そんな根も葉もない可能性も、もしかしたら存在しているかもしれない。

 咲夜は男がレミリアから逃げようと玄関に走る姿を見て、その考えを否定して男の目の前に立ちはだかる。

 

 

 

 

 

 

 

 

第23話 絶望の果ての「牙」

 

 

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 レミリアが上空に飛び、周囲に赤いオーラが広がりそのオーラが玉状となり、それらが一斉となって横谷に襲いかかってくる。

 

「!」

 

 弾幕がこちらに降り注ぐのを見て、横谷はとっさにドアの方に向かって走る。相手は能力を使え、空も飛べる吸血鬼。片やなにか『力』を持っているとされているが、その力が何かを知らない只の外来人。

 分は明らかに相手のほうがある。だが強制的に参加させられるのなら、今いる隠れる場所のないフィールドだけでも変えて、隠れる場所を探すついでに弾幕の絶対量と威力を落とさせ、分をこちらに少しづつたぐり寄せよう。横谷はそう画策し、扉に向かってまっしぐらに走り続ける。

扉の取っ手まであと少しというところに差し掛かってきた時、咲夜が突然目の前に現れ、顔にナイフを突きつける。

 

「!?」

「悪いけど中に入るのは駄目よ。お嬢様が伸び伸びと出来るように、外でやることをお望みなの。私はあなたが中に入ることを阻止するためにいるのよ」

「クソがっ、ちぃ!」 

 

 中に入る事を阻まれ、その間に迫り来る弾幕を避けるために、直ぐ様諦めてドアから離れる。咲夜は迫り来る弾幕を、体に触れるか触れないかくらいに弾幕の中を潜り避けてドアから離れないようにしている。

 

「くそぉ、どうすりゃあいい! つーか『力』をどうやったら出せるんだよ!」

「さぁさぁ! 早く出さないと死んじゃうわよ! 必殺『ハートブレイク』!」 

 

 手に赤々と光り輝く槍状のオーラが現れ、それを横谷に目掛けて勢い良く投げる。

 

「ぬぅおっ!?」 

 

 横谷は前転して回避する。放たれた槍は地面を激しく穿つ。

 

「くそっ、こっちも何か武器になるものをっ!」

 

 横谷は周囲を見渡しレミリアに一矢を報いるための武器になるものを探す。そしてレミリアが吹き飛ばした椅子やテーブルが目に留まる。

 

(どうにかなるとは思えねぇが、やらねぇよりはマシだ!)

 

 容赦なく降り注ぐ弾幕を避けながら椅子がある所へたどり着き、その椅子を手に掛ける。その椅子は美術館にでも置いてありそうな鉄椅子で、持ちあげるのにも苦労するほど重かった。横谷は椅子を勢い良く振り回す。遠心力を使って上空にいるレミリアに向かって投げつけようとした。

 

「うおおおおおおおおおっっっっらぁあ!」  

 

 投げた椅子はちょうどレミリアに向かって軌道が伸びた。

 

「……ふぅん」 

 

 レミリアは逃げる素振りも見せず、余裕の表情で羽を使って椅子を払い落とす。

 

「ちっ……ならこれでっ」

 

 舌打ちしたあと、横谷はテーブルに手を伸ばす。このテーブルも鉄で出来ており、椅子よりも重みがあった。

 

「そこをどきやがれぇぇ! 咲夜ァァァァ!」

 

 気合でテーブルを持ち、そのテーブルを扉の前で佇む咲夜に向かって投げつけようとする。もしあの事がなければ、人間の女性に手を挙げるなんて無理だ、とためらって出来なかっただろう。今の横谷には咲夜に対してそういう感情は抱かなかった。

 

「やはりそうくるわね」  

「ッ!? ぐあぁぁぁ……!」 

 

 咲夜が放たれた2つのナイフが右の腕や脚に刺さり、その痛みが横谷を持っていたテーブルを離すことを余儀なくされる。

 

「こんの女ァ……!」

「悪いわね、自分に被害が及びそうになったら最低限の攻撃は許されているの」

「余所見している暇はないわよっ!」 

「ぐぉっ!」

 

 痛みを堪えてナイフを抜いている間に、レミリアが横谷の後ろを高速飛行で近づき、その速さの勢いのまま背中にドロップキックを入れる。横谷は前に吹っ飛ばされ、転がるように倒れる。

 

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「ぐぐぐ……」

 

「ほら、早く出しなさい。焦らすのも悪くはないけど、あんまり長すぎると女性に嫌われるわよ?」

 

 倒れている横谷に近づき、レミリアは微笑みながら見下すように眺めている。

 

「るせぇっ!」 

「!?」

 

 悪態をつきながら突然横谷が起き上がり、レミリアは少し度肝を抜く。横谷は刺された痛みを忘れて近接攻撃を仕掛ける。

 ストレート、アッパー、二連蹴り、回し蹴り……思い思いの攻撃を繰り出していくが、レミリアは最小限の動きでギリギリのところで避けていく。横谷の攻撃はかすりもしない。

 

「くそっ、おらっ、はあぁっ!」

「……はぁ」

 

 レミリアが不意に溜息をつき、動きを止めた。横谷はこの機を逃すまいと渾身の右ストレートを顔面に目掛けて放つ。

 

「!?」

「人間の力なんて、所詮こんなものよね。早くあなたの中の『力』を出して欲しいものね」

 

 横谷の拳はレミリアの左手に容易く受け止められた。態勢を整えようと拳を引くが、拳もレミリアもびくともしない。見た目は幼い女の子ではあるが立派な吸血鬼であるレミリアにとって、一般成人男性を抑えるぐらい容易いことだ。

 

「うおぁっ!?」

 

 レミリアは横谷を後ろに軽々とぶん投げる。突然放り投げられた横谷は受け身を取る態勢が取れず、もろに背中と頭を地面に強打した。

 

「ん〜、やっぱり近接じゃ加減できないわね。かといって、弾幕じゃあっちはまともに攻撃出来るわけ無いし……」

「ぐあぁ……ぐぅ……」

 

 痛みで悶絶している横谷を余所に、まるで相手にならない事に嘆くレミリア。しかし相手は得体の知れない『力』を持っているが只の人間である、と心の中ですぐに訂正する。

 

「まぁ、ここで何も起こらずに死んでもここの食料になるだけだし。それに、追い込んだほうが潜在的なものが現れてくる、なんてよくあるしね」

「ハァ、ハァ……誰がっ、てめぇらの食料なんかにっ、ぐうぅ……」

 

 歯向かう言葉を言いながら横谷は立ち上がるが、先の背中への衝撃が思ったより内蔵に響き、その後の言葉を出せなかった。

 

「ふふふ、その意気よ。もう一度言うわ、私を幻滅させないで頂戴ね。紅符『スカーレットシュート』」 

「ぐっ!」

 

 今度は中心が黒い数個の巨大な紅玉を先頭に、散りばめられた赤い弾幕とともに広角に放つ。それを横谷は何度か避けることに成功したが、レミリアは同じスペルカードを何度も宣言する。

 その都度、大小違う弾幕を避けることは並の人間では至難の業。その上、横谷は背中のダメージで動くたびに全身に痛みが走って動きが鈍ってしまう。

 

「ちくしょお……こんな量、避けきれなっ、ぐっ! クソォ!」

 

 必死に避け続けていたが、運悪く避けた位置が弾幕の袋小路となっていて、遂に横谷は身体に弾幕を食らってしまう。

 

「ごああぁぁぁ!!」

 

 弾幕を食らってしまった横谷は死ぬことはなかったが、速く、熱く、重い弾幕を食らって無事というわけにはいかなかった。両手足と肋骨が折れて体全身もアザだらけになり、立つことも息することも難しくなった。口からもポタリと血を垂らしていた。

 

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「ぐっ……ううぅ。がはっ!」

 

 動け、引け、こんな所でぶっ倒れては駄目だ、殺させるぞ、ここに味方はいない、止める奴もいない、今俺を救えるのは俺しかいないんだ!

 横谷は身体に訴えかけるが、体全体に駆け巡る痛みがその命令を自動的に排除する。

 

「やっぱり駄目ね、少し本気を出すとこれだもの。所詮は人間ね」

 

 落胆の色を隠さずレミリアは吐露する。少しずつ本気を出して横谷を追い込み、それをきっかけに中に潜んでいる『力』を無理やり覚醒させようとしたが、今の横谷の身体には避け切るほどの身体に追い付いてなかった。むしろこの男の限界値だったのかも知れない。

 この男の持っている『力』を見たいと気持ちが急いたあまり、覚醒させる前に身体を壊してしまった。その事に少し後悔したと同時に、レミリアの横谷に対する興味が徐々に薄れてきていた。

 

「せっかくこの時のためだけに、あなたの持っている『力』を見たいがために、あなたを生かしてここに働かせたのに。これじゃ呆気なさすぎるわね。ねぇ、なにか言いなさいよ。ここでやられて私たちの食い物になりたくないんでしょう?」

 

 横谷のもとに近づき、レミリアは怒りを煽らせるような言葉を投げかけ続ける。

 

「理不尽にこんな事されて、咲夜に人肉を食わされて、小悪魔に勝手に人事異動を出されて、唯一の味方だと勝手に思い込んでいる美鈴が助けに来ずに、腸が煮えくり返る気分なんでしょう? この私をぶっ殺したいんでしょう? 立ち上がってみなさいよ、足掻いてみなさいよ、その憎しみ、怒り、反抗心を使って私を殺してみなさいよ」

 

 止めは、まだ刺さない。レミリアは今、待っている。待ち望んでいる。

 確かに幻滅している。興味も最高値から減少している。しかしまだ終わらすには試した数が少ない。まだ終わらすには相手の戦意を失わせていない。

 主導権は終始レミリアにある。終わらせるのは簡単。今この男に弾幕を食らわせればそれで済む。でもそれでは勿体無い。生死を決めるのは主導権握っているこちらにあり、「今ここにいるこの男」がまともに反撃ができるわけがない。それ以前に、興味を持っているのは「この男」にではないのだ。

 

「力の出したこの男」に興味、関心があるのだ。

 

 まだ一度も『力』を出してもいないのに殺すのは軽率だ。この男に機会を与えるために、神経を逆撫でさせるような言葉を言い放ち、戦意を奮い立たせてもう一度戦ってもらう。そして眠っている力を今度こそ目覚めさせてもらう。

 あの紫がわざわざ紅魔館に出向いて斡旋したボロ雑巾が、退屈しのぎとはいえ遊び道具になるとは思えなかったが、遊び相手に値する片鱗はあった。

 フランと一緒に遊んだ時のあの証言。その人間離れの動きを実際に見たわけではないが、わざわざ嘘ついて話す内容でもない。一辺の望みだけに待った甲斐があった。

 早く見たい、その姿を。早くやりたい、その男と。

 フランに見せたのに、それを私に見せないなんて許されないよ。

 ワガママで自分勝手なお嬢様を出向かせて、見せずに終わらすのは絶対許されないことよ。それがわかっているなら、この私に歯向かい、あなたの隠している牙を見せなさい。

 

 そしてその牙を、私の身体を貫いてみなさい。

 

「っざっけんな……」

 

 横谷が口から血を垂らしながらようやく口を開く。

 

「こんなわけわからん『お遊び』に付き合わされて、まだ意識がはっきりとある状態で苦痛味わうし、おまけにこんなガキ見てーな身なりのやつに罵倒されるし……なんだ? 昨日フランが俺と遊んだことがそんなに羨ましいのか?」

 

 口元を緩ませて出てきたのは、鋭い牙ではなく汚い罵倒だった。

 

「第一よ、幻滅しているのはこっちのほうだ。ここの城主がどんなものかと思えばこんなガキだし、城主言ってる割にはそれらしい働きしてるわけじゃなしに、実質取り仕切ってんのは咲夜じゃねーかよ」

 

 次々と横谷の思っていたことを、ここぞとばかりに出してくる。横谷の口はまだ止まらない。

 

「しかもこうやって強がってるが、吸血鬼だからどうせ陽の下には出れねェんだろうが。内弁慶ならぬ夜弁慶ってか、はっ」

 

 嘲笑が含んだ笑いが出てしまう。言われるがままのレミリアは終始冷たい目で優を見下ろしていた。

 立ち上がることのできないのに、逆に挑発されていることに癪が触るのだろう。しかし、横谷も今いる立場は重々理解しているし、あのような言葉を並べ立てられて、心中穏やかでいられるわけがないのも分かっている。

 それでも口が動いてしまう。止めるという考えもつかなかったほど、言いたい衝動に駆られ遂に声に出してしまう。

 心の中に思っていたのだろう。「生にすがっても、もう無駄なんだ」と。それが発言を抑えるたがが外れて、横谷の口撃によるささやかな抵抗を生んだのだろう。

 

「何が反抗心だ、むしろ哀れさが込み上がってきたぜ」

「あなた、立場わかってるの?」 

 

 レミリアが襟を掴み、顔を近づかせる。その時の横谷の目は、覚悟に満ちていたが同時に怒気に燃えている目をしていた。

 

「ああ、わかってるさ」 

「!?」

「あの男っ、なんてことを!」

 

 口に含んだ血を唾と一緒に吐き出す。レミリアの頬に付着する。その様子に咲夜が目を見開いて激怒する。

 

「いつまでも自分通りに動くと思うなよクソガキ。咲夜に子守唄歌ってもらって寝てろや」

 

 次の瞬間、横谷の身体が壁に叩きつけられ、レミリアの牙に貫かれた。

説明
◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。してください
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東方 幻想入り オリキャラ 紅魔館 

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