決戦当日 テキーラVSピエロ 【よその子交流】
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経緯:戦闘大好きなテキーラが「戦いの為なら性交渉も厭わない」と聞いたピエロが、性交渉はいらない、僕のモノになってくれるなら本気で戦ってあげるのにと零す。

→本気で戦うというピエロに大喜びするテキーラ。

→決戦の約束。

→めいめい準備 …ここまで

 

 

決戦当日。

 

 この日の為によく研いだ自慢の愛刃(鋏)を手に、俺は血戦の舞台にやってきた。

 ―――満月の夜だった。

 場所の決定権を譲る代わりに時刻だけは俺の条件を出した。陽の光は苦手だ。昼間程ではないにしろ、影がハッキリと出るくらいには明るい。これなら夜目の利かない奴でも、十分戦えるだろう。ぐるりと舞台に目を走らせる。四辺には石柱と、それを繋ぐ梁。廃墟を利用した割合シンプルな造りの闘技場だった。当然奴に有利な環境を用意したのだろうが、立体的構造で「使いやすそう」な影が多くある。俺にとっても好条件だ。

 …正直、ワクワクしていた。ピエロが戦いに興味がないのは知っていた。だが、以前奴から感じた異様な圧力。…俺が強者や同類からしか感じなかったナニカを奴は持っている。今回に限っては、くだらねー罠や最初から逃げをうつような真似はしないハズだ。

 俺がピエロのモノになる、とかいう条件と引き換えで得た、「本気で」戦う約束。モノになるっつーのは、こいつの場合、言葉そのものの意味だ。まぁ、別に構いやしねえ。殺っちまえばそんな約束はチャラだ。卑怯者と呼ばれても、俺にとっちゃ戦えれば何でも良い。ンな事はピエロにゃ言ってねーけど。

 

 ピエロは石柱にもたれ掛かり、月を見上げていた。今日はあのちみっこい女のガキは連れてきていないようだ。血生臭い戦いは見せたくないのか、あるいは人死にを見せたくないのか。意外とその辺の分別はあるようだ。

 

「よぉ、よく逃げ出さなかったな」

 

 声をかける。聞こえているのかいないのか、微動だにしない。仮面も、服装もいつも通り。だが、様子がおかしい。いつものベタベタしたフレンドリーさがない。ややあってから、思い出したように、平坦な声で喋り出す。

 

「……君の望みは」「殺し合い」「だったよね」

 

ぶつ切れの喋り方。それはいつも通りか?…単純に緊張しているのか。

 

「おう。確か、勝敗が決まったらぶっ殺さないって約束だったな。先に言っておくが、守れるかは保障しねーぞ」

 

 勢い余って殺しちまったら、そん時ぁ諦めな。言いつつ、自分で笑ってしまう。我ながら非道な事を言っている。ピエロは淡々としたもので、

 

「僕は」「君の意志を尊重して」「全力で戦うよ」「殺してしまうつもりで」

「へっ、そうこなくっちゃな!」

 

 血が沸き立つ。何だ、そっちがそのつもりなら話は早い。逃げてばかりいたこいつの本気はどんなモノか、考えるだけで自然、笑みが溢れる。

 

「時間だ。始めるぜ」

 

 雲一つない、夜空。吹き抜けの天井には満月がぽっかりと浮いていた。風の音もなく、生物の気配も、ない。どちらかが死ぬかもしれない状況にも関わらず、ともすれば現実であることを忘れてしまいそうな、夢幻の空間。相手のピエロという格好も相まって、これは夢ではないかと錯覚しそうになる。だが、これから始まるのは夢でも幻でもない、ただの血生臭い殺し合いだ。俺はピエロを、ピエロは俺を、殺そうとしている。

 …こいつが死んだら、エヴィルは何か言うだろうか?確か友達とか言っていたような。

 雑念を払う。今はこの殺し合いを楽しもう。グッと腰を落とし、いつでも飛びかかれるように構える。鋏の両刃を大きく開き、相手の心臓に狙いをつける。

 ピエロはおもむろに舞台の中央へと歩を進め、立ち止まる。そして背中から、ぬらり、と黒い大鎌を引き出した。遠心力で重みをつけるって訳か。見た目の禍々しさに反して、腕力の無い奴にはうってつけの武器だ。

 審判はいない。空気の重圧だけが増していく。……パキリ。どちらが鳴らしたものか、石畳が小さく軋む。それを合図に、互いに踏み込む。

 

 意外にも、ピエロは最初から逃げずに飛びかかってきた。下段から振り上げた鋏の片刃が鎌と食い合う。だがパワーはこちらが上だ。鎌を跳ね上げられた奴の胴に、刃をねじ込もうと手を翻す。

 

ギャド!

 

「!!?」

 

 右蟀谷(こめかみ)に強烈な衝撃。鎌の柄か。視界がブレる。刃は狙いを逸れ、浅く奴の脇腹を擦っただけ。鋏を十分に構え直さない内、上段から重い一撃。二撃、三撃。さながら慈悲のカケラも無い死神か。霞む視界の中、感覚で防ぐ。何だ、コイツ、速い!

 …面白い!堪えきれずに俺は笑い出す。

 

「やるじゃねぇか!」

 

ギャリィッ!

 

 鎌を力任せに吹き飛ばしながら、鋏のツガイを素早く外す。ピエロは力の流れに逆らわず、そのまま踊るように後退した。血飛沫が舞う。僅かの隙に分かれた二刀をグルリと回転させて逆刃に持ち替える。やっぱりだ。こいつは戦うに値する!

 

「ウラァアアア!!」

 

 気合と共に飛びかかる。ピエロは、…動かない。

 ぐにゃり、と軟体動物のような動きで剣戟を避ける。だが、俺は避けた後も想定している。ナックル状の鋏の持ち手で思い切り殴りつける。

 

バキンッ!

 

 仮面が割れながら吹き飛ぶ。

 

「顔くらい見せやがれッ!」

 

 ピエロは返事をせず、崩れた姿勢のまま黒い鎌を振り抜く。今度は見える。難なく飛び上がって避け、側転。勢いを殺さずに斜め上段から二刃同時に斬りつけようとした時、奴と目が合った。

 ―――なんだ、この眼は?…闇を煮溶かしたような。虫けらを見るような眼。

 不覚にも威圧された。

 違和感の正体はこれだったか。こんな目をする奴を俺は知ってる。…俺だ。つまらねぇ相手にトドメを刺す時の。「終わった奴」を見下している時の、俺がそこにいた。

鎌を残し俺の攻撃を下方へ受け流しながら、ピエロは上空へ跳ね上がる。

 

「チッ!」

 

 空中にも影は出来る。梁の影とピエロ自身の影。だが、両手も鋏も鎌に阻まれ地面の影に届かない。攻撃には間に合わない。自分の影を使って回避する手もあるにはあったが、それはしたくなかった。数秒を耐えれば反撃できる。ピンチであると共にこれはチャンスだ。

 鋏を放り投げ、両腕をクロスさせ防御に回る。が。

 

 衝撃は下から来た。

 

 ぶちん、とゴムの音。

 

 アキレス腱を切られた。狙いはこっちだったか。やられた。脆い人間だったら腱どころか、あっさり足首を輪切りにされていただろう。バランスを崩し、解けた両手から、奴の姿が垣間見えた。回りながら落下してくる。その体の周辺には月光を弾き、放射線状に細い線が走っていた。そうか、こいつはワイヤーを使うんだったな。上に跳んだのは囮か。大胆な野郎だ。また、目が合った。

 

「ヒヒッ!」

 

 体重を乗せた肘鉄が鼻っ柱に直撃。甘んじて受ける。面白い、面白くて堪らない。

 そのまま石畳に叩きつけられる。痛みは無い。嬉しさで爆発しそうだった。

 エヴィルとそう変わらない細身の体を羽交い締めにし、もみ合うように身を反転させて影に押し付ける。

 

「上出来。だが、ここまでだ」

 

 俺のフィールドは、影。影にどっぷりと浸かったこいつにもう逃げ場は無い。つまり…、「詰み」だ。降参を口にするのかと思ったら、ピエロは堰を切ったように笑い出した。爆笑だった。

 

「なんだ?何がおかしい」

「君って、本当に戦いが好きなんだね」

「は?」

 

 切り刻んでやろうと、影から抜き出しかけた鋏を取り落とす。組み敷いたピエロはゲラゲラと場違いに笑い転げる。月光を反射し、爛々と輝く瞳からは狂気じみた愉悦しか読み取れない。そう、いつも通りの。

 

「困った事だ」「もう戦えないよ」「君を殺すには、少なくとも君が嫌いでないといけない」「僕はやっぱり君の歪みが欲しい。だから君を手に入れるまで、死にたくない」

「…は?」

「つまり」「この勝負、僕の途中棄権による不戦敗」「ということさ」「アンダースタン?」

「ふ、…っざけんな!!!!!!」

 

 怒鳴ってもピエロの意思決定は変わらないようだった。顔面を鷲掴みにするが、不真面目にブーと鳴く(鳴る?)だけ。びろーん、と水揚げされたタコのように覇気のない全身には、戦意どころか繊維すらなさそうで。気が抜けたのと怒りとで急速に痛みが戻ってきた。ゼロの奴よりムカつく。何なんだこいつは。

 

「戦え!!」

「ノォー」

「頑張れ!!」

「ノーサンキュー。でも君はちょうだい」

「ふざけんな!!」

 

 …とはいえ。

 全力で来た強者を、全力でねじ伏せる。僅かな時間だったが、俺が求めていた「戦い」を与えてくれたこいつに、少なからず俺は驚嘆し感嘆し、…感謝していた。

 

「えー。なんで、面白かっただろ」

「続きがありゃあな」

 

 雑に引っ張り起こすと、うぐ、と小さく呻く。直撃は避けたものの、ダメージは蓄積され、全身を痛めているらしい。呆れる程に脆い。ひぃひぃと情けない声を出し、また倒れ込む。

 

「戦うの、苦手なんだよ」

「嘘をつけ嘘を。さっきまでの気迫はどこへ行った」

「おや、タネ明かしをご希望かい?」

 

 メソメソと涙を零しながら、ひょうきんに笑う。顔と声の不一致。やめて欲しい。夜目にも不気味だ。仮面は壊さなければ良かった。不快感が蟀谷や切れた腱の痛みと混ざって、吐き気すらしてきた。鼻血を手の甲で拭いながら、問う。

 

「お前、一体何なんだ…」

「当てられたら、教えてあげるよ」

「言う気はねーってか」

 

「…どっちかの死体が転がっていると期待して来たのに」

 

 振り返ると、ゼロの奴が石柱の傍に突っ立っていた。

 

「テキーラ、まさか君にそういう趣味があったとは」

「待て」

 

 言いながら今の姿勢を客観的に考える。人気の無い暗がりで、鼻血を流しながら半泣きの男を押し倒している…ようにも見える。

 

「よりによって、ピエロ?…いやいや、構わないよ、エヴィは僕が貰い受けるから」

「待てよく見ろ!俺は歩けねーしピエロは行動不能で、」

「パードゥン?ゼロ、エヴィルは僕のモノだろ…」

「「テメェ(君)は黙ってろ(なよ)」」

 

 間抜けた問答をしている内に、リンフェイ達が大騒ぎしながらやって来た。何故か俺は一方的に説教を受けた。…殺さなかったのに(殺し損なっただけだが)。心の声が顔に出たか、リンフェイに平手打ちを食らった。この女。

 月明かりが寝ぼけた光を落としていた。回復魔法で傷口は塞がったが、きちんと医者の診療も受ける必要があるとかで、二人とも強引に馬車に引きずり込まれた。俺はンなモンいらねぇと言うのに。馬車の中ではエヴィルがつまらなそうな顔をして座っていた。ピエロの顔を見るなり、ケ、と短く悪態をつく。寝ていたのを起こされでもしたのか。

 面白かっただろ?…か。血とバニラのニオイをさせながら眠りこけているピエロに目を落とす。大嘘つきで自己中心的な野郎だが、俺の願いを最大限の努力で叶えてくれようとしていたのは、本当なのだろう。命を捨ててでも、好きでもない、勝ち目の薄い戦いをしてでも。それ程の代償を払ってまで、こいつが欲しいと思っているものとは、何だ?さすがに俺をまるごとやる訳にはいかねーが…目が覚めたら、話くらいは聞いてやっても良いか。一応、約束だしな。

 悪魔は契約とか、約束事を大事にする。それは簡単に言やぁ、ここに「いる」ということに莫大な助けが必要だからだ。契約が無ければ、…いることを認められなきゃ、魔界に帰るしかねぇ。悪魔ではないピエロが人間界に馴染まない理由は、案外俺達と同じじゃねぇだろうか?だとしたら、契約という程のモノではないが、俺の敵としてなら、俺は既にこいつの存在を認めている。

 

「エヴィル、お前のダチって変な奴だな」

「……勝手に友達呼ばわりされてるだけだっつの。いい迷惑だ」

 

 ガタリ、馬車が大きく揺れる。

 ―――月は何事も無かったかのように、俺たちを照らしていた。

 

 

 ピエロ は 「敵」 を 手に入れた !!

 

 

ピエロ関係者

他人:フレイル

友達(ごっこ):エヴィル

知り合い:ナンガ

恋人(という幻想):ディアナ

 

New! 敵:テキーラ

 

 

To be continued…

 

説明
※ご注意
乱雑花の助さんの創作キャラクター、テキーラさんとうちの子赤髪ピエロのIF交流短編小説です。花の助さんの許可を頂いて執筆しましたが、花の助さんの公式作品・キャラクターさんとは一切関係ありません。楓かえるの作品とも同様に関係ありません。
細かな設定等も解釈の間違い、誤りが含まれる可能性があります。
あくまでもフィクション、別世界での二次創作です。
またIF交流の中での交友関係が反映されておりますので、本編の設定とは多少分岐しています。

流血表現、若干の同性愛表現があります。
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