OTAKU旅団のムードメーカーとして、メンバー達と共に活動しているロキ。

しかしそんなロキでも、怒りが爆発する事はあるのである…

−ガシャァァァァァァァァァァァンッ！！−

OTAKU旅団アジト、((楽園|エデン))。その食堂にて、今回の騒動は起こった。

「はぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！！」

「でりゃぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！！」

旅団初期メンバーNo.3、デルタ。

旅団初期メンバーNo.5、二百式。

現在この二名は、食堂にて激しい戦闘を繰り広げていた。場所が食堂であるにも関わらず、周囲の被害も考えず相手を打ち倒そうと暴れているのだ。

「おい二人共、いい加減やめろって…のがぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！？」

「miri！？　くそ、また一人やられちま…ごぶふぁっ！？」

「ギャァァァァァァァッ！？　ベジタブルスカイで手に入れたばっかのオゾン草がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！？」

「ちょ、俺まで巻き添えにしないでく…ごばぁぁぁぁぁぁぁぁっ！？」

miriやokakaも巻き添えを喰らい、支配人は入手したばかりの新鮮な食材を台無しにされ、たまたま通りかかっただけである筈のkaitoすらも流れ弾を喰らってKOされてしまった。デルタと二百式の戦闘は今まで以上に激しいものと化していた。

「またいつもの喧嘩か？　あの二人は」

「らしいですよ。いつもと同じ、口喧嘩から殴り合いへの発展です」

「懲りないよなぁ、本当に…」

ガルムはホットドッグを食べながら、竜神丸はコーヒーを飲みながら、巻き込まれないよう厨房に隠れてデルタと二百式ののんびりと観戦していた。呑気にやってる場合かと周囲から突っ込みが入りそうではあるのだが、((楽園|エデン))ではこういった騒ぎはいつもの事。その為、一部の旅団メンバーは「我関せず」を最後まで貫く事が多いのだ。

「あ〜あ、あんなに壊しちゃってさ。これだと修理スタッフの皆が涙目になりそうだよなぁ……すまん竜神丸、そこのケチャップ取ってくれ」

「と言っても私達の場合は、巻き添えさえ喰らわなければ別にどうだって良いですけどねぇ……あ、これですね。どうぞ」

「まぁそれは確かになぁ……おう、サンキュー竜神丸」

ガルムはホットドッグにケチャップをかけ、竜神丸はコーヒーをまた一口飲む。どうやらこの二人、騒ぎを止める気は微塵も無いようだ。

「せやぁぁぁぁぁっ！！」

「チィ…！！」

二百式がテーブルを蹴り飛ばし、デルタはそれを別方向に弾き飛ばす。その弾き飛ばされたテーブルで今度はawsが被害を受けてしまったが、二人はそんな事など知った事ではない。二百式が太刀を振り下ろし、デルタが軍刀で受け止め鍔迫り合いになる。

「貴様ぁ……はやてを侮辱した事、後悔して死ね…！！！」

「何処までも八神はやてに一途ですか……自分という芯を持たない、哀れな人形ですねぇ？」

「黙れ、この死に損ないがぁっ！！！」

「潰せるものなら潰してみなさい、小童が…！！！」

積んであった荷物や食材をも散らかし、テーブルや壁は壊され、シャンデリアも床に落とされ、二人の所為で食堂の被害はどんどん酷くなっていく。二人の喧嘩を止めようとしたメンバーは逆に返り討ちにされてしまい、もはや手がつけられない状況である。

しかし、そんな状況でも頑張るメンバーはいた。

「いい加減にしろやコラァァァァァァァァァァァァァァァァァッ！！！」

「「ッ！？」」

そう、ロキである。

彼の振るったユーズがデルタと二百式の武器を強引に弾き飛ばし、飛ばされた武器はどちらも天井に突き刺さる。

「ロキィ……俺の邪魔をするな！！」

「今回ばかりは、私も少々機嫌が悪いんですよ…！！」

「だぁもう、いつまでも喧嘩してんじゃねぇよ！！　アンタ等の所為で、周りにどんだけ被害が生じてんのか分かってんのかぁっ！！！　あぁっ！！？」

今までも、デルタと二百式の喧嘩を止め続けてきたロキ。今回もこれで止まるかと思われたが…

「申し訳ありません……ですが、私も普段の仕事の所為でストレスが溜まってましてねぇ。彼を心身共に圧し折ってやらなきゃ気が済まないんですよ…！！」

「それはこっちの台詞だ……今日こそそのベラベラと喧しい口を黙らせて、二度と何も喋れないようにしてやる…！！」

「あ、ちょ、おいっ！？」

ロキによる仲裁の言葉も届かず、また戦闘を開始してしまった二人。天井に突き刺さっていた武器を同時に抜き取り、再び刃と刃のぶつかり合いが発生する。

「うぉぉぉぉぉぉぉぉぉぉい！？　だから何でここで暴れるんだよテメェ等はよぉっ！！！」

「とにかく、今は邪魔をしてくれるな…！！」

「修理費なら後で私が出しますので、ご安心を…！！」

「だからそうじゃなくってなぁっ！？」

遂には拳銃まで使い始めた二人。食堂中のあちこちに弾丸が飛び交い、もっと危なっかしくなる。

「あのなぁ！！　お願いだからもうやめ―――」

「「邪魔だっ！！！」」

「ぐはぁっ！！？」

止めようとしたロキの顔面にデルタと二百式の裏拳が炸裂。ロキは壁まで吹っ飛ばされ、顔面から壁にめり込んでしまった。

「はん、とうとう敬語すらなくなったかよ死にかけ野郎が…！！」

「あん？　テメェ如きにゃ敬語使うのも勿体ねぇだろうがよ、ヤンデレさんよぉ？」

「ッ…言わせておけば！！！」

「ハッハァッ！！！」

デルタと二百式の戦闘が激しくなる中…

“白黒の傭兵”は、遂にキレた。

−ブゥゥゥゥゥゥゥン…−

「「！？」」

食堂内に、サークルらしき結界が出現。突然の事態に、デルタと二百式はその場に立ち止まる。

「なっ！？」

「これは、結界…？」

「…おうおうテメェ等」

「「！」」

デルタと二百式の前に、壁にめり込んでいた筈のロキが立ち塞がった。しかし、いつもとは何やら雰囲気が違っていた。

「人がやめろと言ってんのにやめず、挙句こんなメチャクチャに食堂を壊しやがって……ちったぁ覚悟を決めて貰おうかぁ、あぁんっ！！！」

「「ッ…！？」」

ロキから放たれている闘気は、今までに無い凄まじいものだった。彼と同じ初期メンバーであるデルタや二百式ですらも、彼のそんな状態は今までに見た事が無い。

そんな中、ロキの姿がフッと消える。

「！？　消え…ごはぁっ！？」

「ッ！？」

一瞬の内に、二百式は壁まで吹っ飛ばされた。デルタの目でもすぐに追いつけなかった程のスピードでロキは二百式の下まで接近し、また更に追い討ちをかける。

「オラオラオラオラオラオラオラオラッ！！！」

「が、ごふ、ぐは、がぁっ！？」

二百式の顔面や腹部に、ロキのパンチが連続で命中。反撃すら許さないまま、二百式は地面に叩きつけられる。

「ッ……ここまでとは…！！」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ……でりゃあっ！！！」

「な、ぐはっ！？」

二百式の背中を踏み付けたロキは、そのままデルタの下まで一瞬で移動。防御しようとしたデルタの両腕を弾き、彼の腹部にも強力な一撃を加える。

（速過ぎる！？　“蟲”の力を持ってしても、身体が追いつかない…！？）

「あぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！！」

「チィィ…！？」

ユーズによって出現したデュランダルで、ロキはデルタに向かって氷の刃を飛ばす。デルタは素早く身を屈めて回避しようとしたがほんの少しだけ左肩に掠り、そこから一瞬でデルタの身体を氷付けにしてしまった。

「凍るのも速いか…ッ！？」

「だりゃあっ！！！」

「ぬぐ…！？」

瞳が白くなったロキは左手に雷の槍を出現させ、ビリヤードのような構えでデルタに向けて突き立てる。デルタを拘束していた氷が砕け、デルタは後方に下がる。

「く、これがロキさんの力か…！！」

「がぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！！」

デュランダルと雷の槍を同時に構え、ロキは野獣のように咆哮を上げながらデルタに襲い掛かった。

「二百式を倒しただけでなく、あのデルタさんと互角に戦り合うとか……凄ぇなロキの奴」

「ふむ。肉体のリミッターを解除して、あそこまで力を引き出しましたか…」

厨房に隠れながら観戦していたガルムと竜神丸も、ロキがここまでの力を有している事は想定外だったようだ。ガルムは関心しながらマグカップに入れた牛乳を一気に飲み干し、竜神丸は興味深そうにしながらタブレットに戦闘データを纏めている。

「あれ？　でもこれ、余計に被害がでかくなってるだけの気が…」

「その事実に、ロキさんが気付いているかどうかは疑問ですね。見た感じ、ロキさんもストレスが爆発して暴れてるだけのようですし…！」

ここで、竜神丸は食堂にやって来た一人の人物に気付く。

「…どうやら、すぐに解決しそうですね」

「へ？」

「ふぅぅぅぅぅぅぅぅぅぅ…！！」

「ッ…なるほど、道理でクライシスが仲間に勧誘する訳だ…！！」

獲物を見つけたような目をしているロキと、左肩を押さえながらも左手で軍刀を構えるデルタ。もはや食堂はあられもない状況になってしまっているが、今はそれどころではない。

「“蟲”の力で見切れても、身体が追いつきませんか……全く、昔に戻りたいくらいです…！！」

「…ぐるぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁぁっ！！！」

「ッ…！！」

デュランダルに雷を纏わせたロキが飛び掛かり、デルタが身構える。

騒動がより激化しそうになったその時…

「暴れるなら、他所でしてくれないものかね？」

意外な人物が、あっさりと終止符を打つ事になった。

「ッ！？」

−パキィィィィィィィン…−

ロキの胸元に、一本の杖が突き立てられる。それと同時に食堂内の結界が砕け散り、ロキの身体から放たれていた闘気も一瞬で消え失せた。

「暴れ過ぎはよくないぞ？　ロキよ」

「あ、ぅ…」

「！？　クライシス…！！」

現れたのはクライシスだった。気絶して倒れかけたロキの身体をクライシスが支え、壊れずに無事だった椅子に座らせる。

「！？　団長、何故ここに…」

何とか立ち上がっていた二百式も、クライシスの姿を見て顔を青ざめた。クライシスは杖をクルクル回しつつ、小さく溜め息をつく。

「全く……久しぶりに食堂を覗きに来て見れば、この騒ぎは一体何なのかね？　デルタ、それに二百式よ」

「「ッ…」」

「つまらん喧嘩でここまで被害を出されたのでは、こちらも溜まったものではない。お前達とて、それは充分に分かっている筈だが？」

「…すみません、団長」

「君もだよ、デルタ。いくらストレスで頭に血が昇っていたとはいっても、今回ばかりはあまり見過ごす訳にはいかんぞ。たとえ私の親友であってもな」

「ッ…申し訳ありません」

「…とはいえ、ここまで被害が出たのはまだ一回目だ。今回だけは特別に、少しだけ罪を軽くしてやっても良い」

クライシスは杖を無事だった椅子に引っ掛けてから、両腕の袖を捲り上げる。

「尻叩きを一発ずつだ。何、軽めにしておいてやるさ」

数秒後、普通の尻叩きでは到底あり得ないような轟音が響き渡り、更に((楽園|エデン))中が強力な大地震に襲われた。

これについて…

「「…尻叩きって、大地震を起こせるような体罰だったっけ？」」

目撃者であるガルムと竜神丸は、後にそう語っている。

それから数時間後…

「んで、こうなったって事かしら？」

「「まぁ、そういう事で」」

医務室にて、朱音はガルムと竜神丸から今回の騒動について事情を聞いていた。ちなみに医務室のベッドには、今回の騒動で被害を受けたメンバーと…

「うぅ……はや、て…はやてぇ…！！」

「ぐふぅ……やはり、クライシスは容赦がない……げほ…！！」

クライシスの“尻叩き”を受けたデルタと二百式、そして能力の使い過ぎで気絶したロキが寝かされているところだった。

「あらあら、団長さんのお仕置きを受けて、よく無事だったわね。普通なら死を覚悟してもおかしくないくらいよ」

「まぁ団長さんも、今回はあんまり本気は出さなかったそうですよ。本人曰く、いつもの何万倍も手加減をしたとか」

「…じゃあ、団長が本気を出したらどうなるんだ？」

「少なくとも、((楽園|エデン))が間違いなく消し飛ぶのは確かでしょう」

「…末恐ろしいわね」

もしクライシスが本気を出していたらどうなっていたか。その時の光景が容易に想像出来てしまう事が逆に恐ろしくもあり、三人は身震いする。

「…それにしても、ロキさんは凄いわね。二百式さんやデルタさんを同時に相手取っても互角に戦えるなんて」

「あいつがあんなド派手に暴れるところなんて、俺達も見た事ありませんでしたよ。一体何をやらかしてそうなったんだか…」

朱音とガルムが話している中で、竜神丸はタブレットを操作しながら考えていた。

（リミッター解除であの強さ……やはりあの人にでも教わったんですかね？　ロキさん…）

竜神丸が視線を向けた先で、ロキは未だ眠りから覚めないでいるのだった。

((楽園|エデン))最上階、バルコニー…

「あそこまで無限の可能性を秘めているとは、なかなかに素晴らしい。流石は君の弟だ」

クライシスは席に座って紅茶を飲みながら、向かいに座っている一人の男に語りかける。

「…当然だ。あいつを誰だと思っている」

「あんな馬鹿でも俺の家族だ。あれくらいはやって貰わなきゃ、こっちが殴ってるところだ」

青色の髪を靡かせ、男はその場から姿を消すのだった。