プロポーズ大作戦
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「…やっぱダメだろ…これ…」

 

 

 今持っている茶色い物体を眺めながら、鬼月は本日何回目かのため息を吐いた。

 

 

プロポーズ大作戦

 

 

 

 いつも鬼月たちここのつ者たちや偽り人たちが通う茶店の主人がまた異国の祭りに便乗して、今度はちょこれーとという茶色く甘いお菓子を好きな相手、世話になっている相手に渡す祭りを開催した。そこまではまだ良いのだが今回はちょこれーとの贈り物に制限があるらしく、送りたい相手全員に送れるわけでは無いのが問題なのであった。

 鬼月は再び先ほど買ったものを見た。彼が持っているちょこれーとは4つ、制限がある中で悩みすぎて頭痛を起こしながらも選んだ4つなのだがこれが未だ彼を悩ませている元凶なのだ。なんとも罪深きお菓子である。

 

 

「おや、鬼月さんどうしたんですか?」

 

「何か悩み事ですか?」

 

 

 声をかけてきたのは鬼月の親友の鶸と鶯花だ。二人とも手の中には四角い箱やら紙袋やらを持っているので、数は違えどもおそらく鬼月と同じものを持っているのであろう。

 ニコニコと笑っている二人に自分が同じものを持って悩んでいるなど言いたくない。鬼月はサッと持っていたちょこれーとを隠すがもう遅い。

 

 

「鬼月さんそれはチョコレートですか?」

 

「……なんで見つけんだ…悪いかよ」

 

「悪くないですよ、むしろ朔夜さんにちょこれーとをあげる勇気があって喜ばしい限りです!」

 

「鶸…テメェ俺の事なんだと思ってんだよ…」

 

「あ、もしかしてその中に俺たちにくれる分も入ってたりするんですか?!ねぇねぇ!!」

 

「うるせぇよ鶯花!落ち着け!あるよ!言わせんな恥ずかしい!」

 

 

 鬼月からちょこれーとを貰えると知り目を輝かす鶯花と、ちょこれーとを手に顔を真っ赤に染める鬼月、おやおやとにこやかに見守る鶸……傍から見れば少し怪しく見えてしまう人かもしれないが、そんなことは無い。断じてない。

 

 

「…ん?鬼月さんちょっと待ってください、俺たちが貰う分があるという事は本命買っていないんですか?」

 

 

 鶸の疑問に鬼月はうんざりした顔をしてしまう。まさにそれが先ほどまで鬼月を悩ませていた問題なのだ。好意を持っている相手に気持ちを伝えるためのちょこれーとの贈り物なので常日頃より恋愛感情を抱いている雀崎朔夜に本命用のものを送るつもりだったのだ。だがここで先ほどの贈り物の制限が問題となってしまった。朔夜に本命のちょこれーとを渡すためには朔夜以外の誰にもチョコを渡せなくなってしまうがそれでは困る、普段よりこんな自分でも親友と呼んでくれる鶸と鶯花には絶対に渡したいし、猪狩十助には哀れみちょこれーとを投げつけると宣言された以上はどんな理由でどんな方法で渡されたとはいえ哀れみちょこれーとを渡し返すのが筋だろう。そういうわけで鬼月が朔夜に用意できたのは家族用のものだけであった。

 

 

「全く…本命ではなく家族用のちょこれーとで朔夜さんに告白ですか…」

 

「家族用ですかぁ…ちょっと厳しいですねぇ…」

 

「うるせぇよっ!だから悩んでんだよ!!」

 

 

 やっぱり難しいあああああああああああああああっ!!!とキャラ崩壊寸前の叫び声をあげながら頭を抱える鬼月の手からちょこれーとが零れ落ちそうになった瞬間に掬い上げた鶯花だが、彼もそのちょこれーとを見て思い出したように頭を抱えてしまった。

 

 

「鶯花くんどうしたんですか?」

 

「鶸さん…ちょっとこれ見てください…」

 

「これは…友達チョコ…ですね…」

 

「鬼月さん、俺たちに渡すチョコって…」

 

「友達のに決まってんだろうが!これ以上恥ずかしい思いさせんな!」

 

 

 顔を真っ赤にしながら叫ぶ鬼月に、鶸は驚きの声を上げる。

 

 

「友達?!何故です?!」

 

「んな!俺から友達ちょこはいらねぇってのか!」

 

「そうじゃありませんけどどうして…!!」

 

 

 

「鶸さん鶸さん!ちょっとこっちに」

 

 

 

 鶯花は声を荒げはじめた鶸を同じく声を荒げる鬼月から急いで声が聞こえない距離まで引き離す。

 

 

「鶯花くん、これは一体どういう事ですか…?」

 

「…実は鬼月さんに言い忘れちゃってて…」

 

 

 鶸は思わず深いため息を吐いてしまった。実は鶸と鶯花は今回決めていた事がある、それは「今回贈れるちょこれーとに限りがあるので鬼月を含め自分たち三人は常日頃からお互いの感謝の気持ちは分かっているから自分たち三人はちょこれーと交換をせずに、余分があれば渡す」というお互いの贈れるちょこれーとの数を少しでも増やすための案だった。しかしこの案を決めた時鬼月は時悪く出かけており、帰ってきたら鶯花が話す予定だったのだが鶯花も忙しくすっかり忘れてしまっていたのである。つまり鬼月は鶸と鶯花のための友達ちょこれーとを買うために朔夜への本命ちょこれーとを買えなかったのだ、自分が二人から貰えるちょこれーとは友達用ではなく哀れみのものだと毛ほどにも思っていないだろう…鶯花の心に言いようもない罪悪感が広がり伝染したかのように鶸の心にも罪悪感が広がっていた。今回の催しはいつも朔夜に行為を躱される鬼月にとって最高の告白のタイミングだったのに告白が失敗してしまったら…そして原因が自分たちの、というか鶯花の失敗にあると知ったら……想像するだけで悲惨だ。

 未だに家族用のものでどうやって告白しようと悩む鬼月を見やる。自分の犯した失敗の尻拭いは自分でするものだ、鶯花は意を決して鬼月に話しかけた。

 

 

「鬼月さん、そのちょこれーとを渡して朔夜お母様に告白するんですよね!でしたらお二人専用の部屋を予約したらどうです?」

 

「専用の部屋?」

 

「ええ、くりすます…でしたっけ?その時も熊染さんと秋津さん、海牛さんと海原さんが利用していたらしいですよ。二人専用なので、誰にも邪魔されずに告白できますよ!」

 

「誰にも邪魔されずに二人っきり…?!でも朔夜一緒に来てくれんのか?」

 

「じゃあ朔夜お母様は俺が部屋に連れて行きましょうか?」

 

「そうだな……いや、やっぱいい、さすがに俺がやる」

 

「頑張ってくださいね!専用部屋があればいつもの巻き込まれ不憫なんて発生しません!」

 

「それは余計だ」

 

 

 告白の成功率が上がりやすいように二人専用の部屋の話題を持ち出した鶯花に心の中で鶸は拍手を送るが、いつも不憫な鬼月の事なのでそれだけで告白の成功率が上がるとは思えないし、確かに自分たちの連絡不足が招いた事態への尻拭いなのだが鶸も親友として鬼月の時々子供のような恋心を応援したい。それならば鶸の持ち合わせている知識で鬼月の告白の成功率を上げてやるまでである。

 

 

「そうですね、二人専用の部屋は良いですね。ですがそこでちょこれーとを渡すだけでは物足りませんので、花束を渡してはどうですか?」

 

「花束良いですね!!」

 

「俺の居た国では花に意味があり、色々な花を組み合わせることで自分の意思を伝える文化がありましてね…言ってしまえば花だけの手紙ですね」

 

「意味のある花束なぁ…でも俺は花の意味なんて知らねぇぞ…」

 

「安心してください、そこは俺が花を選びますよ。頑張ってくださいね鬼月さん」

 

「応援してるんですからね!」

 

「鶸…鶯花…ありがとうな」

 

 

 親友二人の優しさに鬼月は思わず目頭が熱くなった、その優しさの半分は贖罪だという事も知らずに…知らぬが仏なのかもしれない。かくして親友二人による鬼月の告白成功作戦が幕を開け、鶯花は窓から海と月が見える4.5畳の茶室を用意し、鶸は赤いチューリップや赤やピンクのバラ、アネモネ、ピンクカーネーション、ナデシコなどをふんだんに使用した花束を用意した。

 

 当日に鬼月は二人からの後押しを受けながら朔夜の手を引き専用の茶室へ入り、用意したちょこれーとと花束を差し出す。

 

 

 

「朔夜、これが俺の気持ちだ、受け取ってほしい」

 

 

 

果たして結果はどうなるだろうか…

 

説明
バレンタインのポイント制限に頭を悩まし鬼朔に頭を爆発させられた結果がこれです。
続きはweb(当日)ですよ…!!オチなんてない…!!

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