青いチビの使い魔 35話 |
リオンSide
早朝、僕は軽く身体を動かす為に宿の中庭にある練兵所で剣を振るっていた。常ならばキキと剣を交えての模擬戦をするのだが、今はあくまでも任務中。いつトラブルが起ってもいいように疲れは極力残さないようにしなければならない。
「はっ、ほっ、せいっと」
キキも同じ考えなのか中庭に現れたとき、僕に軽く声をかけた後は自分と同じように一人で身体を動かしている。その後、一通り軽めの鍛錬をし終えた僕は用意していたタオルで汗を拭いていると
「やあ、探したよ。ここに居たのか」
宿の扉が開き、そこからワルドが現れ声を掛けてきた。 どうやら僕を探していたようだが、何の用だろうか?
「何か僕に用か?」
「ああ、少し話がしたくてね。伝説の使い魔『ガンダールヴ』の君とね」
ワルドはニッコリと笑いながら言い返してくる。ガンダールヴ。確かのこルーンの事だったな。あのギーシュとのくだらない決闘後に、ルーンの事を調べていたらコルベールが嬉々として教えてくれた。
ありとあらゆる武器を使いこなすことが出来るというらしい。コルベール曰く、身体強化もガンダールヴの効果の一環ではないか、との事だ。しかし、このルーンの事は秘密であったはずなのだが……。
「ほう、一介の使い魔風情のことを良く調べているみたいだな」
「…あ、いや……、そう、フーケの一件で君に興味を持ったんだ。昨日、グリフォンの上でルイズから聞いてね。君は異世界からやってきたメイジらしいじゃないか」
僕が険の含んだ口調で返答すると、ワルドは慌てた様子で言葉を紡いでいく。はっきり言って怪しすぎる。あのバカが浮かれて僕の事を話したとしても不思議ではないが、ガンダールヴの事はルイズには教えてはい無いので知りようが無いはずなのだが。
僕が((訝|いぶか))しんでいる間にもワルドは自分は歴史や((兵|つわもの))に興味が在る、フーケを尋問した際に聞きだした等々、一方的に喋り続けていき、
「つまり、何が言いたいかというとだな。あの『土くれ』を捕まえた腕を知りたいんだ。ちょっと手合わせを願いたい」
と、言い出してきた。こいつもか。と、僕は小さくタメ息をついた。この世界の貴族とやらはどうして自分の力を誇示したがるのだろうか。もちろんそんなの僕は受ける気はない。僕は断ろうと言葉を発しようとした時、
「いいんじゃないか? どうせ今日、1日暇なんだし相手してやれば」
と、キキが口を挟んできた。僕はキキのその言葉に少々驚きを感じた。基本キキはこういう事に関しては必要以上の事はしない性格であり、こういう無駄な事は積極的に避ける奴である。どう言う事だ? 僕がその意図を考えている間も、
「うむ。日がな一日無為に過ごすよりはマシだろ? それに互いの腕を知っておけばアルビオンに渡った後での行動を考え易いだろ?」
ワルドは僕と戦う口実をペラペラと喋りだす。さて、どうしたものか。はっきり言ってコイツとの手合わせなどする必要など全く無い。が、キキがワルドとの手合わせを勧めてくると言うのが気になるのも事実。
僕は改めてワルドを見た。ニコニコと人の良さそうな笑みをたたえている……が、昨日キュルケが言っていたようにワルドの眼を見ると、その表情とは裏腹にまるで別の感情を((湛|たた))えていた。それは何処かで見た様な眼をしており、僕は僅かに眉をひそめた。
「なるほど。そういうことか」
「……? どうかしたのかい?」
「いや、なんでもない。いいだろう、相手になってやる」
「おお、そうか! ありがとう」
僕が手合わせを許諾するとワルドは声を弾ませて、礼を言い返してきた。そして、僕とワルドは庭の中心へと移動をする。その際ワルドは、この練兵所は歴史ある場所で貴族が誇りをかけて等々と、聞いてもい無いことを語り聞かせてきた。まったくもって煩わしい。
お互いある程度の距離をあけた立ち位置に移動した後、僕が得物を構える。と、
「ああ、少し待ってくれ」
「なんだ?」
ワルドが左手を出して制してきた。
「いやなに。立ち会いには、それなりの作法というものがある。介添え人がいなくてはね。君にも分かるだろ?」
「別にそんなのは必要ないだろ。それに必要だとしてもキキが居る」
ワルドの話を僕はそう言い返すも、ワルドはまるで出来の悪い生徒を諭すような声音で
「そうではないよ。先も言っただろ? ここは貴族達が様々なものを賭けて決闘をしていたと。そう、例えば愛しの女性とかね。先ほど此処に来る前に声を掛けておいたから、そろそろ来るはずさ」
と、ワルドが宿の扉へと視線を向けるとほぼ同時に
「ちょっとッ! 二人とも何してるのよ! ワルドが来いって言ったから来たけど、どう言う事なの?」
ルイズが宿から慌てて飛び出してきた。さらにその後をついて来たのかキュルケ、タバサ、ジンにギーシュとぞろぞろと中庭へと現れた。
「何、彼の実力をきちんと確かめたくてね」
「もう、そんなバカなことはやめて。今は、そんなことしてる時じゃないでしょ?」
「そうだね。でも、貴族というヤツはやっかいでね。強いか弱いか、それが気になるともう、どうにもならなくなるのさ」
ワルドはルイズの言うことに腰の杖を引き抜き構えながら答え返した。僕はそんな二人のやり取りを見て嘆息する。まるで三文芝居を見ているようだ。ワルドの真意は解らないが、この決闘ごっこ自体ははルイズの気を引く為に行なうというのは、なんとなくだが理解した。
「リオン! こんなことやめなさい。これは命令よ」
ルイズはワルドに言っても聞き入れてもらえないと解ると、僕に対して止めろと怒鳴ってきた。が、僕はそれに肩をすくめる。どうせ、断ろうにもワルドはもう杖を構えているし、それを収める気も無いだろう。
「なんなのよ! もう!」
ルイズはそう叫ぶと、諦めたのか不貞腐れた表情をして庭の端へと移動した。さて、と僕は下ろしていた腕を上げて再び剣を構える。
「では、始めようか」
ワルドが薄く笑いながら一言発する。それを合図に互いに一瞬の睨みの後、同時に相手へと駆け出す。
相手の間合いへと踏み込むと僕は剣を振り上げ、ワルドは杖を振り下げて互いの初撃を打消し合うようにはじき返す。そこから何合と攻撃をいなし、防ぎ、鍔迫り合う。
「ほう! 中々の腕だ!」
ワルドはそう言いながら素早い突きを二、三繰り出して僕の攻撃を牽制して、マントを((翻|ひるがえ))し後退する。僕は追撃を敢てせずに一旦その場で一呼吸入れて、構えを整える。ふむ、さすが衛士隊隊長と言う事はある。この世界の貴族とやらは魔法ばかり頼っていると思ったが、考えを改めたほうがいいようだな。
僕はそう思いなおして、ワルドを見直す。多少息が上がっているように見えるが、構えはブレておらず、こちらを冷静に観察している。
「いやはや、まさかこの僕がここまで攻めあぐねる事になるとは。これは少々本気になる必要があるようだ」
ワルドがそう言うと、構えを今までの剣を振るうようなものからレイピアを使うような突きを主軸に置いた構えに変えてきた。
「さて、君も異世界の者といえど、メイジなら分かると思うが衛士隊はただ魔法を唱えるだけじゃない。詠唱さえ戦闘に特化させ、杖を構える仕草に突き出す動作など……杖を剣のように扱いつつ詠唱を完成させる。君に僕の本気の剣と魔法を見せてあげよう!」
「口上はそれで終わりか? ならば行かせてもらうぞ」
ワルドの口上に僕はそう言い返して、剣を片手に一気に接近する。ワルドもそれに合わせて先ほどよりも速い突きを繰り出してくる。僕はそれを剣で受け流した後、勢いをそのままに追撃の動作へと変えてワルドへと繰り出す。
対してワルドは僕の2撃目をバックスッテップで避ける。と、同時にワルドの口から小さく詠唱を呟くのが聞こえてきた。来るか……。僕はすぐさま体勢を整え、ワルドの魔法に備える。
瞬間、横合いから強い圧迫感を感じた。回避は間に合わない。迎撃……範囲と威力が判りかねる。と、刹那に判断した僕は剣を盾にし、当たるだろう瞬間に攻撃が来た方とは逆の方向へと飛ぶ。
ボンッと巨大なハンマーで押されるように透明な何かに僕は数メートル弾き飛ばされるが、防御を崩されることも無く、難無く姿勢を整えて着地をする。
「……ッ!? なんのっ!」
ワルドは自分の魔法を受けて大したダメージを負っていない僕に驚いたように目を開くが、すぐさま追撃をする為に素早く僕へと接近し、幾撃もの突きを放ってきた。
僕はそれを剣を使い全てを防ぎ、そして再度ワルドが魔法を放とうと詠唱を唱え始めた瞬間、僕は一気にワルドの懐へと潜り込み、剣の柄でワルドの鳩尾を痛打する。
「ガァッ! ぐっ……!?」
痛みと衝撃に詠唱をキャンセルさせ、後退させたワルドに僕は更に追い撃ちをかける。
「…っ!、はぁっ! せっ! ((月閃光|げっせんこう))! はぁ! はっ! ふっ! ((空襲剣|くうしゅうけん))! ((虎牙破斬|こがはざん))! ((爪竜連牙斬|そうりゅうれんがざん))! ((魔神剣|まじんけん))!」
3撃をあたえ月閃光を繰り出し完全に防御を崩した後、再度の3連撃から空襲剣、虎牙破斬、爪竜連牙斬、最後に魔神剣を放ち、直撃を受けたワルドは吹き飛ばされ、詰みあがった樽へと突っ込んで行き、ぶつかった衝撃で樽山が崩れて下敷きになってしまった。
む、少しやり過ぎたか? 途中からいつもキキと模擬戦をしている感覚で戦ってしまった。
「………え?」
「あら!」
「……ウソだろ!?」
とルイズ、キュルケ、ギーシュがそれぞれ驚愕に表情を変えて僕と樽に埋もれて動かなくなったワルドを交互に視線を向けていた。
「…………あ〜、完全に気失ってるな。最後の打ち所も悪かったっぽいし、しょうがないか。んじゃ勝者はリオンってことで。タバサ、これ運んでやって」
キキが動かなくなったワルドに近づき様子を見て、気を失っていることを確認するとタバサに運ぶようにたのんだ。タバサは一つ頷くとレビテーションの魔法でワルドを浮かせて宿へと入っていった。
僕も剣を納めて一息つく。
「ダーリンすごいわっ! さすがね!!」
「ああ、まったくだよ! あの衛士隊の隊長に勝ってしまうなんて!!」
僕も宿へと戻ろうと歩き出すと、呆然としていたキュルケとギーシュが寄ってきて表情を輝かせながら騒ぎ立てる。鬱陶しい。
「えっと、リオン。その、大丈夫?」
「何がだ?」
宿へと運ばれていくワルドを見てオロオロしていたルイズも近づいてきて声を掛けてくる。
「さっき決闘でワルドのエアハンマーの直撃を受けてたじゃない」
「別にあの程度、何でもない。それよりも奴のことはいいのか? 婚約者なのだろ」
「む、折角人が心配してあげてるのに何よそれ! 大体、何勝手にまた決闘なんてしてるのよ! あなたは私の使い魔なんだからちゃんと言う事聞きなさいっていつも言ってるでしょ! 今は大切な任務中なんだからこんなバカなこと止めなさいって言ったのに無視して! たまたまワルドに勝てたからっていい気になるんじゃないわよ!」
僕が言った言葉の中にルイズの琴線に触れるものがあったのか、一気に不機嫌になり、ぎゃーぎゃーと捲くし立ててくる。まったく、いつも騒がしい奴だ。
「はぁ、わかったわかった。うるさい奴だな。昨日みたいに大人しくしてられないのか? お前は」
「なななな、何よ何よ何よっ! 使い魔のくせに生意気!!」
「もう、リオンが勝ったのがそんなに不満なの? ああ、そりゃそうよね。なんせ婚約者が負けちゃったんだからね。ふふふ」
「うるさいわよキュルケ! 別にそんなんじゃないわ! あんたこそ朝から発情してんじゃないわよ」
と、気づけばルイズの標的は僕からキュルケへと移り、いつもの口喧嘩を始めていた。毎度毎度よくもまあ、言葉が出てくるものだ。
僕はふぅと小さく息を吐き、宿へと戻るために移動する。さすがに時間も時間なので腹が減る。
「お疲れ〜。これ」
宿に入る際にキキが濡れタオルを渡してきた。助かる。僕はそれで汚れや汗を拭う。
「まったく、お前があんなこと言わなければ、こんな面倒な事しなくてよかったものの」
「別にいいじゃん。アレがどんな人物かわかったろ?」
「ふん。奴が何かロクでもないことを隠していることが分かったとして、僕にどうしろと?」
「どうしろとは言わないけど、ルイズを守るのには有用な情報だと思うけどね〜。それに本当に手っ取り早く終わらせるんだったら、何でルーンの力もダガーも使わずに、剣1本で戦ったんだ?」
「必要なかった。ただそれだけだ」
宿の酒場へと食事をする為に移動中にキキに色々と文句を言い募るもキキはヘラヘラと笑いながら言い返してくる。こういうの奴は人の話をマトモに聞かないから質が悪い。
はぁ、と((態|わざ))と大きく嘆息するが、キキは相変わらずの何考えてるか分からない笑顔である。
まったく、やれやれだ。
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アルビオン編6 リオンとワルドの決闘話です。 |
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仕事も大変でしょうが「続きが読みて〜」(天意無法の歌武鬼者 鬼龍院獣侍郎) ワルド子爵、今回は……今回もいいところなしww まぁ、一応悪いヤツですからね。 全然構いはしませんがww(神余 雛) |
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