恋姫無双 武道伝 5話
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「む・・・」

 

ふと目を覚ますと、木でできた天井が目に入る。ああ、そういえば久しぶりに宿に泊まったのだったな。やはり建物の中で、それも寝台で眠れると疲れが取れる。寝ぼけた頭でそんなことを考えていた時、ふと昨晩のことを思い出してしまい、顔を染めてしまう。

 

「うう・・・、身を固める前に男に触れられあんな声を上げてしまうなど・・・」

 

昨晩は子文が体を解してくれたのだが、あまりの心地よさに甘い声を上げてしまった。しかしそれは前半だけ。後半からは『体が硬いようではいかん』の一言から始まる拷問のような柔軟で、カエルのひしゃげるような声を上げてしまった。だがそのおかげか体はすこぶる調子がいい。どれほど眠ったのかと外を見ると、まだ空が白み始めたばかりであった。十分に体を解して寝たため、普段より短い睡眠で疲れがさっぱり落ちたのだろう。礼を言おうと部屋を見渡すが、本人は見当たらない。見れば子文が床に敷いていた布が綺麗に畳まれていた。どうやらもう起きているようだ。ならば手合せでもしてもらうか。そう考え、服装を整えて愛槍を握り部屋の扉に向かう。

 

「星殿、少しよろしいですか?」

 

あともう一歩で扉というところで扉の向こうから戯士才・・・もとい郭嘉の声がした。

 

「おお、凛か。ずいぶん早いのだな。こんな朝っぱらからどうしたのだ?」

 

「これからのことを話そうかと思いまして。李文殿なら風が捕まえてますよ。

 

扉を開け、客人を部屋に向かいいれる。部屋に入るなり、私が手にした愛槍から私の考えを読んだのか、目的の人物が今何をしているのか伝えてくる。

 

「その言い方からして、子文抜きで話したいことなのだな?」

 

わざわざ風に相手をさせているということは、あまり聞かれたくない話でもあるのだろう。

 

「ええ。単刀直入に言えば私は彼が恐ろしい。」

 

「ほう、お主がそのような言葉を口にするとはな。理由を聞かせてもらえるか?」

 

「はい。まず彼の武、あれは我々が知っているものとは全く違う。一目でわかります。あれは練磨に練磨を重ね、研究されてきたもの。一代やそこらで築き上げられるものではない。星殿も直接手合せをしたのですからわかるはずです。」

 

たしかにあやつの技は洗練されたものだった。だがそれほど警戒する必要があるのだろうか?私より強いものなど世にはいくらでもいるだろう。そう首をかしげていると、凛が首を振る。

 

「武そのものが恐ろしいのではありません。問題は彼がどこで学んだのかです。それもあれほど練磨された技を。」

 

「・・・ふむ、確かにあやつの使う武は今までに見たことがないものだな。それに私は今まで歩法など気にしたこともなかった。ただひたすら目の前の相手を打ち倒すことに気をとられていたからな。そう考えるとあやつの武は我等の知るものよりずっと先を見ているように感じる。いや、違うな。凛の言うように、積み重ねられた経験から導き出されたものなのだろう」

 

「それだけではありません。彼は漢王朝の終わりを予測しました。それにまだ一太守でしかない曹操殿の躍進も。そして風によると彼は大地から草木が芽生えるように現れたと。」

 

「それは管路の予言にあった二人の御使いの・・・」

 

「ええ。天と地の御使い。蒼天に降り注ぐ白き流星と共に現舞い降りるは天の御遣いなり。かの者、乱れし世を照らす一筋の光なり。大地に茂る草木と共にねまるは地の御遣いなり。かの者、乱れた世を砕く一振りの鎚なり。風の話が本当ならば彼はこの乱世を終わらせる一人になります」

 

管路の占い、それは乱れた世を正す二人の御遣いが現れるというもの。ほとんどのものは世迷いごとをと相手にしなかった予言である。

 

「なればこそ、世を正すために協力すべきではないか。なぜそれほど警戒する?」

 

「なればこそですよ。彼が予言通り地の御遣いだとすれば、その力はこの国を滅ぼすもの。そしてそれは漢王朝だけの話ではありません。」

 

今は味方であったとしても、と付け加える。

 

「なんだ、つまり凛は子文がよくわからないから怖いだけではないか」

 

「なっ・・・、話を聞いていなかったのですか?彼の力は国を滅ぼす可能性があると」

 

ぺちん

 

凛の言葉は星の額への一撃で止められる。何をするのかと睨み付ければ、星は心底あきれた表情で視線を返してきた。

 

「全く、凛は物事を理屈で考えすぎる。管路の予言自体眉唾ものだというのに、そんなものに踊らされて礼を失しては味方も敵になってしまうぞ。そもそも、だ」

 

窓から顔を出し、そこから見える光景に笑みを漏らす。

 

「あの男はそんな小さなことに囚われるものではないさ。接してみればわかる。あれは求道者だ。武を極め、その先を求めるもの。あいつにとってそれ以外は総じて無価値なのさ」

 

凛も窓から顔を出してみれば、李文を引き留めるよう頼んだ風が、当の李文と何かの演舞を待っていた。それはまるで兄弟のようで。先ほどまで考えていた国が亡ぶなどいう話は縁がない光景に思えた。

 

「出会って二日で信用するのは難しいだろう。だが疑ってかかっても信用は得られん。ましてやあ奴が予言の御遣いだとすれば、あ奴はここに信のおける人間はいないのではないかな?」

 

そこまで言うと星は窓からひらりと飛び降りて、演舞を舞う二人の元へ行ってしまった。

 

「・・・時々あなたは仙人じゃないのかと思う時がありますよ。」

 

そう呟いて凛は扉に向かう。李文達とこれからのことを相談するために。

 

説明
お待たせしました、武道伝5話です。
今回は凛と星のお話です。むう、キャラの対話って難しい。自分的には李文くんにはボコスカなぐり合ってほしいです。
仕事が人手不足でやばいです・・・
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