血の繋がりなんてない
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バレンタイン当日…

一人の男はひどく悩んでいた。

 

「どうしよう…」

その声の主は鶯花だった。手には箱を持っており、

おそらくバレンタインのイベントに便乗し、誰かに渡すつもりなのだろう…

だが、恋愛感情に疎い彼にとって渡すのに悩むような人がいるとは到底思えない。

ならばなぜ、困っているか…それは手に持っているチョコが全てを語っているだろう。

 

「ユウくんに家族チョコ…作ったけど…はぁぁあ…」

大きなため息を漏らしながら壁に頭をぶつける。

鶯花の目に宿るものは不安だった。

ただ、この不安は本命チョコをあげる女性や男性の気持ちとは別物だ。

 

黄詠鶯花が白鷺ユウにあげようとしてるチョコは家族チョコ。

本命とは全く違うものである。

ユウが鶯花を「鶯花兄さん」慕うように鶯花自身もユウのことを弟のように可愛がっている。兄弟もいない一人っ子の鶯花にはとても嬉しかった。昔いた自分がいた里の子供達も家族同然に可愛がっていたことから、自分は弟や妹を欲しがっていたのかもしれない…まぁ行方知らずの親のことを考えると叶わない夢なのかもしれない。

 

そんな所に同じ遠距離系で自分を兄と慕ってくれる子がいるのは嬉しいことだった。

滅茶苦茶嬉しいのだ!

初めて呼んで貰った日には、自分の部屋で一人でゴロゴロして地に足がつかないほど喜んだものだ。

 

「ですがぁぁぁああああ!うがあああああああああ!!」

鶯花は発狂するほど悩んでいる問題とは…

「血のつながり赤の他人から貰うには…このチョコは重いよな…」

そう、友チョコなら渡すのにここまで悩まなかっただろう…

知り合って数か月程度の人間が渡すには家族チョコは重いはずだ。

鶯花がそこまでユウのことを慕っているなんてユウ自身も思っているか不明だ。

 

「ユウくんの性格で受け取って貰えないことはないと思うけど…」

もしも…を考えてしまうのが人間だ

脳内で再生される惨劇が現実に起こったら…鶯花はゾッ!とした。

 

「これは…鬼月さんの気持ちが分かる気がします…」

蒼海鬼月は雀崎朔夜に告白するために専門の部屋を用意した。

鬼月の勇気の方が大きいが、今の鶯花にはそれと同等なものがあるのだ。

「ま…まぁ〜鬼月さんより不憫じゃないし!大丈夫!成功すると思う!…たぶん…」

鬼月がいないことをいいことにかなり好き勝手言っている鶯花だが、そうでもしないと自分でも手一杯なのだ。どうやら、自分で思ってる以上に焦っているみたいだ。鬼月さんの成功は願っているし、成功すると思っている。次に会った時謝ろうと思ったその時だった。

 

「あれ?鶯花兄さん。何してるんですか?」

噂をすれば何とやら。鶯花がチョコを渡す相手白鷺ユウがやってきた。

「え!何でもないですよ!」

咄嗟にチョコを後ろに隠して話を繋げる鶯花

「ユウくんはどうしたんですか?」

「僕ですか?黒犬さんと涼さんを探しているんですが…」

ユウの手元には小さな袋があった。黒犬さんと涼さんに渡すチョコレートと見れば分かる。

鶯花はその光景を見て、買ったにしろ。手作りにしろ。一生懸命考えたのだろうと一目みただけで分かるユウの姿を微笑ましく感じて、少し笑ってしまった。

「な…何ですか!笑わないで下さい!!」

察したユウが鶯花に注意し、

「す…すいません。微笑ましくって…」

鶯花は口元に手をあてて、謝罪をしたがユウは無言でそっぽを向いた。

「ユウくんすいません。黒犬さんなら訓練してると思いますよ?涼さんは厨房か居間にいるんじゃないんですか?」

鶯花の台詞にはっ!と思い出したようにユウは

「そ…そうでした。鶯花兄さんありがとうございます…?鶯花兄さんその箱何ですか?」

ユウの質問に「?」を出した鶯花だったが、すぐに下を向き自分の手元見る。

さっき隠した家族チョコだった。ユウくんとのやり合いで頭の中から消えてた。

丁度いいだろ。このタイミングで渡そう…どう思われても気持ちを伝えることが重要なイベントだった。

危うく本題を見失う所だった。

鶯花はちょっとだか気が楽になりユウに

「ユウくん。これ家族チョコなんですが貰ってくれませんか?」

「え?」

困惑しているユウに鶯花は

「日頃感謝と思ってくれて構いません。ユウくん俺を兄さんと慕ってくれてるし、同じ遠距離の武器を持つ者としてこれからも仲良くしていきたいなぁと思って…実は俺、ユウくんのこと弟として見てる所がありまして…もしも兄弟がいたらこんな感じなのかなって…」

照れくさそうにいう鶯花にユウが慌てて

「あ…ありがとうございます!!嬉しいです!!」

鶯花が差し出した箱を大事そうに持つ。感情の起伏が顔にあまり出てこないユウだが心なしか喜んで見える。

「不味かったら食べなくても…」

「食べるし捨てません!鶯花兄さんから頂いた物ですよ!!」

それに鶯花兄さんの作った食べ物が不味い訳ありません!とユウに言われ、鶯花は勢いに負けたのか。驚いたのか。「ご…ごめん…ありがとう」と言った。

 

ごほん。とせき込み

「では改めまして…ユウくん俺の弟になってくれませんか?」

鶯花は笑顔でそういった。ユウの返答はもちろん

「喜んで。鶯花兄さん」

ユウは微笑みながらそういった。

 

その後、鶯花は渡せたこともそうだがユウが喜んでくれたことが何より嬉しく有頂天状態で、廊下を歩く姿も軽やかだ。「あとで、鶸さんと鬼月さんに報告しなきゃ♪」と声も楽しそうだ。

 

今頃、鶸と鬼月はくしゃみをしているか。悪寒がしているだろう。

なんせこういう感じ話は鶯花の場合…異常な長い。

鶯花の子供話が逃げるためにあの心の広い二人はいつも知恵を絞っているほどだ。

ユウに喜んで貰った。という話題なだけで鶯花は確実に朝まで語れる。

 

そんなある意味可哀想な運命が待っている二人にさらなる試練が訪れようとする。

 

「鶯花兄さん。ちょっとまってください」

ルンルン気分の鶯花にユウが呼び止める。

 

鶯花がふりかえり、ユウが家族チョコを渡すのは昼のこと。

 

鶯花が部屋を花畑にする勢いで喜ぶのは昼過ぎのこと。

 

鶯花が弟自慢をするのは夕方のこと。

 

鶸と鬼月が知恵を絞るのは…?

説明
それでも兄弟だ

鶯花→ユウくんの家族チョコ小説です
鬼月さんごめんなさい!
ここのつ者 白鷺 ユウ/黄詠 鶯花
ちょっとだけ出したここのつ者 砥草 鶸/遠山 黒犬/魚住 涼/雀崎 朔夜/蒼海 鬼月
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