英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク |
(レナ、エステル……二人とも無事でいてくれ!)
”百日戦役”終結の調印式が終わった直後、圧倒的な戦力差で攻めてきたエレボニア帝国軍を自らが考えた作戦で撃退したリベール王国の勇将カシウス・ブライトは、上官や部下達の制止の声を振り切って愛妻と娘の無事を祈りながら王都から休む事なく走り続け、夕焼けに染まった森の中にある実家の扉を荒々しく開けた。
〜ブライト家〜
「レナ、エステル、無事か!?」
「あら、あなた。お帰りなさい。」
「あ、お父さん、お帰り〜。」
ドアを蹴破るようにして帰ったカシウスが見たのは、いつもと変わらず食事の用意をしている愛妻と椅子に座ってストレガ―社の新作モデルの雑誌を見ている愛娘であり、二人の無事にカシウスは安堵の溜息を吐いた。
「二人とも無事でよかった………ロレントが襲撃された事を聞いて正直生きた心地がしなかったぞ……」
「フフ、親切な方が危ない所を私達を助けてくれたの。」
「あのね、あのね!ルーク兄がお母さんを助けてくれたんだ!」
「”ルーク兄”?レナを助けた?一体どういう事なんだ?」
そしてカシウスは二人からレナが死にかけていた所をたまたま通りがかった見知らぬ青年が助けてくれ、更に瀕死のレナに薬を飲ませてレナの傷を瞬時に回復させ、娘と共にレナを実家に運び、二人はそのお礼としてルークにブライト家に滞在してもらっている事を説明した。
「そうか………………………………」
二人から説明を聞き、いくつか気になる事ができたカシウスは真剣な表情で考え始め
「どうしたの、お父さん〜?」
「何か気になる事があるのですか?」
カシウスの様子に首を傾げた二人は不思議そうな表情で尋ねた。
「いや、今の話を聞いていくつか気になる事ができてな。――――エステル、そのルーク君とやらはレナを助ける為に本当に瓦礫を砂にしたのか?」
「うん。こう、両手からパ〜っと光を出したら瓦礫が全部砂になってお母さんを助けてくれたんだ!」
「…………………(少なくてもアーツの類いではないし、”星杯騎士”の”法術”とも異なる。となると何か特殊な能力なのか?)後エステル、もう一つだけ聞きたいんだが――――レナに飲ませたという薬で本当にレナの傷が完全に治ったのか?」
「うん!ルーク兄がお母さんにお薬を呑ませてくれたお蔭で一瞬でお母さんの傷がなくなって、顔色もよくなったんだよ!」
「……………(話を聞く限り、レナは頭に重傷を負った上相当の血を流し、瀕死の状態になっていた。そんな死の淵より呼び戻すようなまるで”魔法”のような秘薬は本当にこの世に存在するのか?)………………」
二つの自分の知る常識には決して当てはまらない”ありえない出来事”にカシウスはまだ見ぬ青年の正体が何者であるかを考え込んでいた。
「―――あなた。まさか私達の命を救ってくれた方を不審者と疑っているのですか?」
「おっと、スマンスマン。それよりそのルーク君とはどこにいるんだ?俺も家族を救ってもらったお礼を言いたいのだが。」
愛妻の攻められるような目で見られたカシウスは苦笑いをしながら思考を切り替えてまだ見ぬ居候の青年の居場所を尋ねたその時、開けっ放しの玄関からルークが入って来た。
「何で玄関が開けっ放しになってんだ?――――あ。」
首を傾げながら扉を閉めたルークは見たこともない男性に気付いて目を丸くした。
「あ、おかりなさ〜い、ルーク兄!」
「おかえりなさい、ルークさん。ちょうどよかった。今、主人が帰って来てお礼がしたいそうです。」
「君がルーク君か?私の名前はカシウス・ブライト。レナの夫でエステルの父親だ。―――妻と娘が世話になった。本当にありがとう。君がいなければこうしてお互いの無事を確かめる事はできなかったかもしれない。」
「い、いいって!俺が勝手にした事なんだし!しかも家にまで泊めてもらっているんだから助かっているのは俺だって。(マジか!?エステルの親父さん、師匠(せんせい)―――いや、下手すればそれ以上の強さなんじゃねえか!?)あれ?そう言えば軍人なのに戦争中に帰って来て大丈夫なのか?エステルからはこの国を守る為に戦っているって聞いた事があるけど……」
頭を深く下げるカシウスにルークはカシウスから感じる”強者”の気配を感じ取って心の中で驚きつつ、恐縮した様子で答えた後ある事が気になって尋ねた。
「その件ならもう大丈夫だ。本日の正午に戦争終結の調印式が行われた。恐らくだが戦争終結の報も既に全ての都市に伝わっているだろう。」
「まあ……!これでようやくリベールに平和が戻ったのね!?」
「わーい、またみんなと遊べるわ!」
(よかった……)
もう戦火に怯える事がない事を知ったレナとエステルはそれぞれ喜び、ルークはこれ以上罪なき命が戦火によって理不尽に奪われる事がなくなった事に安堵の溜息を吐いた。
「あら?でもあなた、まだ戦後の処理とか残っているのじゃないかしら?確か階級は大佐でしょう?」
「た、大佐!?(ジェイドと同じ階級かよ!?軍でもかなり上の階級じゃねえか!?)」
夫の軍部での階級を思い出したレナは首を傾げて尋ね、目の前の男の階級とかつて共に戦った仲間の階級が同じである事にルークは驚いた。
「だ、大丈夫だ、うん。リシャールや将軍達がいるから、俺一人が抜けても何の問題も無い。」
一方レナに痛い所を突かれたカシウスは突如出てきた大量の冷や汗をかきながらレナから視線を外した。
「あなた。さては許可も取らずに勝手に抜け出してきたのね?」
「きょ、許可なら取ったぞ?実家の様子を見てくるとモルガン将軍に伝えたしな。……………まあ、将軍の返事は聞いていないが。」
呆れた表情で尋ねてきたレナの疑問にカシウスは身体を震わせながら最後の言葉を小さな声でボソッと呟いて答え
(聞いていないのかよ!それってどう考えても勝手に抜け出してきているじゃねえか!?)
カシウスの小さな声で呟いた最後の言葉が聞こえたルークは心の中で指摘した。
「全くもう。やっぱり許可も取らずに勝手に抜け出してきたのね?―――いいですか?あなたは多くの軍人の方達にとって見本となるべき立場なのですから……」
そして大きな溜息を吐いたレナは説教を始め、カシウスはレナの説教に頭を項垂れて聞き
(なあ。もしかしてカシウスさんってレナさんに弱いのか?)
その様子を見ていたルークはエステルに小声で尋ねた。
(うん!お父さんはお母さんに逆らえないんだー。)
(ハ、ハハ。そ、そうか……)
その後ルークはブライト家と共に夕食をとり、部屋の中にあるベッドに寝転んで天井を見つめながらこれからの事を考えていると扉がノックされた。
「ルーク君、少しいいかな?」
「はい、どうぞ!」
扉が開かれ、カシウスとレナが部屋に入って来た。
「―――ルーク君、少し聞きたい事があるのだがいいかな?」
「あー………やっぱ俺を怪しんでいるのか?」
カシウスが自分が何者であるかを探っている事に気付いたルークは苦笑いしながら尋ね返し
「ごめんなさいね、ルークさん。私も止めたんだけど……」
「いや、いいって。むしろレナさんが聞いて来ない方が不思議なくらいだって。」
申し訳なさそうな表情をするレナにルークは自分は気にしていない事を伝えた。
「で?何が聞きたいんだ?」
「君に聞きたいのは大きく分けて3つ。一つはレナを助ける為に瓦礫を”砂に変えた”事。2つ目は瀕死のレナを一瞬で治癒した薬の事。」
(超振動とエリクシールの事か………まあ、普通に考えたらそうだよな。)
「―――そして最後の一つは今晩の夕食を君と共に食べた時に君が見せてくれた食事のマナーだ。」
「ハ?食事のマナー??」
「?どういう事かしら、あなた。ルークさんの食べ方は普通の人よりも行儀がいいくらいよ?」
予想外の質問にルークとレナは目を丸くした。
「そう、その”行儀が良すぎる事”だ。まるで貴族や王族――――上流階級が食事をするように。」
「!!!(ジェイドみたいに鋭すぎだろっ!?)」
食事だけで自分の身分を言い当てたカシウスの推測にルークは顔色を変えた。
「あー、カシウスさんだっけ?まずはあんたの言う通り、俺は元公爵家の一員であると同時に王族だよ。一応、これでも3位になるが王位継承権も持っていた身だ。」
「ええっ!?」
「やはりか。しかし”元”とはどういう事だ?少なくてもエレボニア帝国の公爵家に”ファブレ家”という家名はなかったはずだが………」
自分達を助けた恩人が上流階級―――王族である事にレナは驚き、カシウスは納得した様子で頷いた後尋ね
「多分、説明しても信じられないかもしれないんだけどよ……」
尋ねられたルークは自分の事を説明し始めた。
自分がかつて”予言(スコア)”によって日々の生活が支えられていた異世界の住人であったこと。自分が王族であり公爵家の一員であるオリジナルのルーク・フォン・ファブレのレプリカという創りモノの存在であったこと。ローレライという星の神ともいえる存在を開放する為の存在であったこと。自分の力やその力によって多くの人々の命を奪ってしまった自分の罪のこと。その罪を償う為に仲間達と様々な冒険や戦いをした事。また、レナを治した薬は最終決戦の時にもっていた自分が住んでいた世界―――”オールドランド”にある薬のなかでも最高峰であったこと。ルークの語る話は二人を驚かせた。
説明 | ||
第3話 | ||
総閲覧数 | 閲覧ユーザー | 支援 |
2144 | 2015 | 1 |
コメント | ||
感想ありがとうございます M.N.F. 様 不定期連載ですってば!たまたま早く次の話が仕上がっているだけですから。ですから更新スピードは期待しないで下さい(ガクブル)(sorano) 不定期連載という割には早くも3話・・・(M.N.F.) |
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