真・恋姫†無双〜黒の御使いと鬼子の少女〜 24
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〜夜の庭〜

 

「朱里ちゃぁ〜ん、これはこっちでいいの?」

「うん! あと、そろそろ焼売が出来上がると思うから、愛紗さんに取りに行って貰うように言っておいて」

「うん」

 

 軍師二人が主軸となってテキパキと準備が進められていく。

 

「孔明、俺も何か手伝おうか?」

「あ、それじゃあ、桃香さまと一緒にご主人様の会場設営のお手伝いをお願いします」

「あ、ああ」

「? どうしました?」

「いや、なんでもない。引き受けた」

 

 俺はそれだけ言うと早足で会場予定地へと足を向けた。

 

(う〜む、ちょいと気まずいんだよなぁ)

 

 さっきはああ言ったものの、そのことを本人に言ってはいない。つまり、二人の関係はあの時のままだ。

 

(さて、どう切り出したもんかね)

 

 てか、切り出したところでどういった話をすればいいのか。暗中模索もいいとこだ。なんて考えながら歩いていたら、

 

「がっ!?」

「ひゃぁ!?」

 

 曲がり角で張本人と真正面からぶつかった。

 

「いてて……、だ、大丈夫か?」

「あ」

 

 俺が差し出した手を、劉備は戸惑いながらも握った。力強く引っ張って彼女を立たせると、俺は自分の尻を軽くはたく。

 

「すまない。少し考え事をしててな。怪我とかはしてないか?」

「…………」

 

 それに小さく頷くのを見てると、後悔が頭をよぎるが、今はそれに呑まれる時ではない。

 

「……あ〜、その、なんだ」

「…………」

 

 どうしたもんか、さっきまでの思考は転んだ時に吹っ飛んでしまったので、ゼロから考えるには少し時間が掛かる。と、俺が悩んでいると、劉備が口を開いた。

 

「玄輝さん、今の仕事が終わったら時間を貰えないですか?」

「あ、ああ。仕事って言ってもお前さんを手伝ってくれって言われているから」

「そう、ですか。それじゃあ、終わった時にまた」

 

 俺が聞き返す前に彼女は俺の後ろへと駆けて行ってしまった。

 

「〜っ……」

 

 何の用なのか、せめてそれだけは言ってほしかったんだが、なんて愚痴ったところで何も変わるわけも無く、俺はとりあえず会場予定地へ向かう事にした。

 

(さて、早めに終わらせるか)

 

 たぶん、この話は長くなりそうだ、直感でそう感じた俺はその足を速めて、その時にどうするか、それを考えていた。

 

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〜会場予定地〜

 

「さて、こんなもんかな」

 

 会場のセッティングを終えた俺は、小さく息を吐いてから呟いた。

 

 形式としては“立食パーティー”という形式らしい。まぁ、11歳で平成の知識は止まっている。そんな俺に、この形式は新しい平成の知識になった。

 

(……そういや、あそこはどうなったんだろうか?)

 

 “あの時”のままなら、荒れ放題だろう。

 

(考えたところで、どうしようもないだろう)

 

 あの世界には、二度と戻れないのだ。明るくて、楽しかった、あの場所へは。

 

「さてと、劉備は、っと」

 

 そう言いながら見渡していると、彼女が重そうな壺を持ってこっちに歩いてくる。たぶん、酒だろう。

 

「んっ、ひゃぁ!?」

 

 で、案の定、と言うべきだろう。転びかけたので、その壺を反対側から支えた。

 

「大丈夫か?」

「だ、大丈夫です」

「お前には重いだろう。俺が運んでおく」

 

 そう言って壺を持とうとしたら、彼女が離さなかった。

 

「だ、大丈夫です! 自分でもっていきます!」

「いや、大丈夫じゃ……」

「大丈夫です!」

 

 で、強引に俺の手を離そうとして、また転びかける。

 

「……どこがだ?」

「…………」

「頼るべき時には頼れ、でなければ取り返しのつかないことになるぞ」

 

 “この酒の様にな”そう付け加えて、今度こそ彼女から酒を預かった。

 

「よっと」

 

 壺を平らなところにおいて、一息ついてから、劉備に向き合った。

 

「酒はこれだけか?」

「えっと、後は酒屋さんが運んできてくれるみたい、です」

「そうか」

 

 それが最後の言葉になってしまう。準備自体はこれで終わりのはずだが、劉備は口を開かず、沈黙が支配する。さて、どうやって切り出したものかと考えるが、どうにも思い浮かばない。

 

(……しゃあない)

 

 ここはストレートに行く。

 

「とりあえず、さっきの話とやらを聞こうか」

 

 一瞬だけ、ビクッとした劉備だが、すぐに真剣な面持ちとなり、その口を開いた。

 

「あの、今日言われたことをずっと考えたの」

「…………」

「……それで、気が付いたんだ。私は、甘えていただけなんだってことに。戦場には愛紗ちゃんや鈴々ちゃん、玄輝さんが出てくれる、怖くてもご主人様や雪華ちゃんが居てくれる。政は朱里ちゃんや雛里ちゃんがやってくれる。だから私は、理想を見ているだけでいいんだって」

 

 俯いてそう話す彼女の表情には、何が浮かんでいるかは分からない。だが、その口調から恥じている気がした。

 

「でも、愛紗ちゃんと鈴々はもっと強くなろうとして鍛錬している、朱里ちゃんと雛里ちゃんは少しでも被害を減らそう、もっといい政治をしようって本を読んでる。そして、ご主人様と雪華ちゃん、玄輝さんはこの世界の事をなんにも知らないのに、それを知ろうとして、努力している。それなのに私は、変わろうとしなかった。だから、玄輝さんは、怒っていたんだよね?」

「……そう、かもな」

 

 そういった面も、あったと思うので否定せずに続きを聞く。

 

「すっごく恥ずかしかった。それを分かろうとしなかった自分が、甘えて変わろうとしなかった自分が、何もしないくせに、頼ってもらえないことに不安を感じていた自分が」

「で? 恥ずかしかったで終わりか?」

 

 それに劉備は首を横に振る。

 

「ううん、このままでいいわけがない、そう思って、どうやったら変われるだろうって、ずっと考えていたの。でも、どうしたらいいのかが思いつかなくて」

 

 俯いた顔を上げずに、彼女は自分の考えを口に出し続ける。

 

「私、昔から剣はからっきしで、今からやってもご主人様にやっと勝てるか勝てないかくらいだろうし、勉強は私塾にいた時はそれなりだったけど、ずっとしていなかったからあんまり覚えてないし、だから、どうしようって、ずっと考えて……」

 

 そこでようやく上がった彼女の顔には、初めて会った時と同じような輝きを放つ瞳があった。だが、あくまで同じような、だ。

 

「だから、私は大勢の人を救うためなら、笑顔に出来なかった人たちに愛紗ちゃんたちの分まで恨まれようと思うの。いつか、その人たちも笑顔になれるように、笑顔になれる世界を創るために必要だったんだって、前を向いて言えるように」

 

 前と違うのは、その光に芯が宿り始めたことだ。少なくとも前に比べたらその存在はハッキリと感じ取れる。しかし、まだ甘い。

 

「それは、お前一人になったとしてもか?」

「……それ、は」

 

 明らか様に動揺する劉備だが、一度だけ閉じてから、決意を宿したその目を開いた。

 

「そんなこと、させない。どんな困難な状況でも、絶対、誰一人死なせない!」

「な!?」

 

 こいつは、何を言っている?

 

「お前、ふざけているのか?」

「ふざけてない」

「本気で言っているのか?」

「本気だよ」

 

 ……いいだろう。

 

「どう意味か、聞かせてもらおうか。先に言っておくが、ナメた答えだったら、俺はこの場でこの陣から去るぞ?」

「……わかってる」

 

 つまり、覚悟だけはある、ってことか。彼女は一度だけ深呼吸をして、さっきの発言について語り出した。

 

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「私の、死なせないって言ったのは、愛紗ちゃんや鈴々ちゃんとかの、私の近くにいる人たちの事なの」

「つまり、兵は含まれていないんだな? お前の理想に共感し、共にその世界を創りたいと願う兵たちは」

 

 少々意地の悪い言い方だが、その言い方で彼女は頷いた。

 

「そうだよ。でも、だからって兵隊さんを見捨ててるわけじゃない。兵隊さんのためにも、愛紗ちゃんたちを死なせるわけにはいかないって、思って」

「……なるほどな」

 

 ようやくさっきの発言の意味が分かった。

 

「要は、兵の損害を最小限にするためにも、有能な指揮官、軍師を死なせるわけにはいかない、だから絶対に死なせない、そういう意味ということだな?」

「……うん」

 

 ……まったく。

 

「そう言う割には、お前の顔はそれに納得してないようだが?」

「うっ」

 

 まぁ、こいつの事だ。頭から湯気が出るほどに考えて考え抜いて、ギリギリ許せる範囲まで絞り込んだ考えなのだろう。

 

「……まぁ、及第点、ってところか」

「え?」

「はっきり言えば、まだお前の考えは甘い。それは自覚しているか?」

 

 その問いに彼女は渋々といった感じで頷いた。

 

「ならいい。自分が甘いって分かっているなら、そのうち変わるだろうさ。それに」

「?」

「……まぁ、これはいいか」

 

 さすがに、関羽との話をするのは、何となく気が引けた。彼女がせっかく変わろうとしているのに、あの事を話せば落ち込むかもしれん。

 

「とにかく、お前の答えは聞かせてもらった。が、正直、納得出来てない面もある」

「う〜」

「言っただろう、及第点って」

 

 まぁ、どっかで変な方向に舵を切らなければ、問題ないはずだ。それに、彼女自身の軸はこれから先、どうなろうと変わることはないはずだ。

 

(まっ、そこだけは信用している、って言えるかもな)

 

 なにせ、こんな世界で甘ったるい幻想を本気で叶えようとしている奴だ。躓くことはあれども、折れることはないだろう。彼女を信じている、仲間がいる限り。そして、その仲間が信じる彼女がいる限り。

 

「さて、こっちの準備は終わったんだ。孔明たちの手伝いに戻ろうぜ」

「あ」

 

 背を向けて歩き出した俺の背後から、

 

「うん♪」

 

 何ともお気楽な、でも、何かが変わった嬉しそうな劉備の返事が返ってきた。

 

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あとがき〜のようなもの〜

 

おはこんばんにゃにゃにゃちわ、風猫です。

 

いやはや、今回はちょっと短めになってしまいましたね。でも、話の切り目が見つからなくて……

 

まぁ、次はちょっと長いと思うので、これでいいかな、なんて思ったり。

 

にしても、ここ最近の天気はすごいですね。先週と今日、こっちで雪が積もったのですが、先週のがすごかったです。まるで、雪の砂漠のような光景が幻想的で、今でも忘れられません。

 

あんな雪は今までの人生の中で一度も見たことがありませんでした。本当にすごかったです……

 

なんか、ニュースとか見ると怪我人とか結構出たみたいですけど、皆さんは大丈夫でしたか? 体調やらそういったものにはお気を付け下さい。

 

では、この辺で。何かありましたらコメントの方にお願い致します。

 

また次回〜

説明
白髪の鬼子と黒の御使いの、守るために戦い抜いたお話

真・恋姫†無双の蜀√のお話です。

オリジナルキャラクターが蜀√に関わる話なので、大筋の話は本編とほぼ同じですが、そういったのがお嫌いな方はブラウザのバックボタンをお願いします。

大筋は同じですけど、オリジナルの話もありますよ?(´・ω・)
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コメント
naoさん:そうですね、とりあえず自分の気持ちに一区切りを付けたって感じですw (風猫)
とりあえず仲直りしたのか?まぁ喧嘩してた訳じゃないかw(nao)
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蜀√ オリジナルキャラクター 真・恋姫†無双 鬼子 

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