機動戦士ガンダムSEEDDESTINY 運命を切り開く赤と菫の瞳
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「アスラン・ザラ?あの人が!?」

 

アリサは驚きの声を上げた。

帰還したシンやイチカたちに、やはり当直を終えたメイリンがブリッジで起こったことを告げたのだ。そういえばルナマリアがそういう疑惑を口にしていたが、まさか本当だったとは。驚愕する彼やイチカたちを余所に、レイだけは眉一つ動かさない。だが一応の興味は覚えているのか、黙ってメイリンの話を聞いている。

 

「だってぇ、議長が言ったのよ『アスラン・ザラ君』って。それで彼、否定しなかったんだもの。それだけじゃないの、凄かったんだからぁ!」

 

ルナマリアの妹のメイリン・ホークは、姉と正反対の女の子っぽい甘えた口調で話す。『アスラン・ザラ』の機転によって艦が救われたということを。

メイリンの話を聞いている間、シンはだんだんと不機嫌な表情になった。

さっき自分がしてきた戦闘が蘇る。敵にまんまと裏をかかれたとはいえ、結局またあの二機を倒すことも出来なかった。ミネルバが危機に陥り掛けたときも、自分たちは敵に翻弄されてばかりだった。

子供っぽい苛立ちと、過去の傷に根ざした反感が、シンの中で渦巻いていた。

 

『イチカ、イチカ・オリムラ。第1医務室へ向かってください』

 

と、艦内放送がメイリンたちの会話を遮る。

 

「あ……悪い、ちょっと行ってくる」

 

「ああ、また後でな」

 

そう言って、その場を後にするイチカをシンは見送った。

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「失礼します」

 

リニアサーボ動作の自動ドアが開き、イチカは医務室の中に入る。

その途端、奥から聞こえてきたのは、ただ事とは思えない絶叫だった。

 

「うあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!」

 

「何だ!?」

 

常人が出しているとは思えない声を聞き、イチカは慌てて傷病者用ベッドの方に走る。

 

「いやぁあ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛あ゛!!」

 

そこには手足を激しくばたつかせ身をよじり、ベッドの上で暴れるステラがいた。精神錯乱者の自傷行為を抑止する為のゴム製拘束具で、ベッドに縛り付けられているがベッドを破壊してしまいそうな勢いで暴れ続けている。手首や足首の拘束部分には、内出血で黒ずんでいた。

 

「あっ、オリムラ君!?」

 

イチカに気付いた軍医長が、イチカの方を向く。

 

「どうなってるんですか、軍医長!?」

 

「わからん!突然暴れだしたんだ!」

 

イチカは問いただすが軍医長の答えは要領を得ないものだった。

 

「スデラ、じにたぐなぃい゛い゛い゛、じぬのいやぁあ゛あ゛あ゛!

 

「ステラ!大丈夫だ!俺がここにいるから!!」

 

イチカが枕元に顔を寄せ、呼びかけるがステラには聞こえている様子すらない。

 

「軍医長、早く鎮静剤を!」

 

「打ったよ、でも効かないんだ!」

 

「何だって!?」

 

イチカと軍医長が困惑のやり取りをしていている間にも、ステラは暴れ続ける。このまま暴れ続ければ、ベッドや拘束具より先に、ステラの身体が壊れてしま うだろう。

 

「仕方ないかっ」

 

「な、何を?」

 

イチカは懐から平たい樹脂製のケースを取り出した。それを開けると、中に注射器と一体になった、アンプルが数本並んでいる。ガラスキャップを外し、針を露出させるとイチカはそれをステラの首元に注射した。

 

「ひぃっ!?」

 

注射の痛みに、ステラは一瞬甲高い悲鳴を上げる。

 

「はぁっ!」

 

やるせないため息を混ぜて、イチカは息を吐き出した。

 

「あ、ぅ……あ……ぁぁ……」

 

ステラは暴れるのを止め、身体をベッドに横たえる。

 

「ぅ……ステラ……イチカ……?」

 

まだ呂律は回っていないようだが、 ステラはイチカを見て、その名前を呼んだ。

 

「ああ、俺はここにいるよ」

 

イチカは優しげに微笑んで、そう言った。

 

「イチカ……おとうさん……」

 

呟くように言いながら、ステラは瞼を下ろした。軽い寝息を立て始める。イチカは姿勢はそのままで眠りについたステラを見ながら、表情を曇らせる。

軍医長は呆気にとられていたが我に返ると、イチカの足元に転がっていたアンプルのキャップを拾い上げる。貼られていたラベルを覗き込んで、驚愕の色を見せた。

 

「こんな強い薬……どうして持ち歩いているんだ!」

 

ギリギリ合法と言うその薬品名を見 て軍医長は即座に立ち上がり、そしてイチカに問いただす。

 

「それは」

 

イチカは苦笑気味に言い、軍医長の方を向くと、

 

「こういうことなんですよ」

 

そう言って軍服のボタンを外し、上着を脱いで空いているベッドに無造作にかけた。インナーに包まれた上半身が露わになる。そして軍服・ノーマルスーツ・私服と衣装を問わず常に身に着けている、左腕の肩にまで届く長手袋を、右手でゆっくりと外した。

 

「!」

 

軍医長はそれを見て目を見開き、絶句する。イチカの左腕は上膊部の中ほどから先が金属フレームの可動式義手だった。その動きの滑らかさは、むしろ故に不気味に見える。下腕部には一部オープンになっている部分があり、そこには━━

 

「高度な神経接続……それでか」

 

「はい」

 

軍医長が合点が行った、というように言うと、イチカは答えながら長手袋をはめなおした。

 

「もっとも、俺の身体は慣れてきちゃってるんですけどね、この腕にも、薬の方にも……ね」

 

上着を着て、ボタンを留めながら、イチカは苦笑してそう言った。

二年前のオーブ解放と称した侵攻作戦の時、シンとマユが両親を失ったように、イチカも左腕を失っていたのだ。

その事実を、二人とその場に居合わせオーブの軍人以外はまだ知らない。

丁度イチカがボタンを留め終わった ところで医務室の廊下側の扉が開く音が聞こえた。

 

「失礼するよ」

 

「議長!」

 

軍医長が素っ頓狂な声を上げる。デュランダルが随員も伴わず、1人でやってきた。イチカも慌てて直立不動の体勢で敬礼する。

 

「硬くならなくても良い」

 

デュランダルは優しげな口調でイチカを制してから、視線をステラの眠るベッドに向けた。

 

「ナチュラルの民間人が1人収容されていると聞いていたのだが……どうやら、ただ事ではないようだね……」

 

険しい表情になり視線を今度は軍医長に移す。

 

「は……普通の人間ではないようです。どうやら神経を弄られているようですね」

 

軍医長は、苦しそうに言った。

 

「う」

 

ある程度予想していたイチカだが、その言葉を聞いて、呻くように声を漏らす。

 

「ブーステッドマンかね?」

 

デュランダルが軍医長に問いかけ る。

 

「いえ、薬物依存といった中毒症状はないようですが……情緒が半ば破壊されているという点では、大同小異です」

 

軍医長はデュランダルにそう説明した。

 

「…………」

 

イチカはステラを振り返り、哀しそうな表情で見る。

 

「先程も重度の錯乱状態に陥り、暴れ始めたというわけでして。オリムラ君のおかげでなんとか助かりましたが」

 

「あっ、いえっ」

 

軍医長がイチカの名前を出したところで、イチカは慌てて正面を向き直す。

 

「俺は、別に……」

 

気まずそうに、視線を伏せしてまう。

 

「そうか……本来なら後送すべきなのだろうが……どうも取り扱いの難しい問題になりそうだね」 

 

デュランダルも険しい表情で言い、視線をステラに向けた。

調べたところ、どうやら彼女には身寄りがないらしく、敵パイロットに予算を割く事など出来ないという声が大きいとの事らしい。

と、そこでデュランダルが何かを思いついたかのような素振りを見せた。イチカはそれが、何か良からぬ出来事の前触れなのではないだろうかと自然と身構えていた。

 

「イチカ・オリムラ君、一つ提案があるのだが」

 

「何ですか?」

 

「何、簡単だよイチカ・オリムラ君。君が彼女、ステラ・ルーシュ嬢の保護者になってくれないだろうか?そうすれば彼女の治療費にいくらかは融通が利く」

 

「保護者に、ですか?」

 

確かにFAITHという優秀な人材を手綱として作ってしまえば、情報収集はもちろん、今後のブーステッドマン対策にもなり得るかもしれない。まずカオスとアビスを強奪したのは十中八九ブーステッドマンに近い存在なのだから。

 

「ああ。そうだな、具体的に言うとだね、ステラ嬢を君の妹にしてやってはくれんかね?幸い君たちの仲はまだ数回しか出会ってないが非常に親密になれそうだし、君はマユといいユーリといい女性を大切にしそうだからね。問題ないだろう。そうと決まれば早速こちらの方で複雑な手続きは行っておこう。心配する事は無い。そうそう、彼女をプラント本国へ届けるまでの間、面倒は君に見て欲しい。レイとシンの方には私の方から事情を説明して部屋を開けさせておこう。これで彼女は戻り次第、適切な治療を受けることが出来るというわけだ。いやぁ、良かったよ君が自ら申し出てくれて。では、私は他の用事があるので失礼するよ」

 

「……え?ちょっ!?議長!?」

 

あまりの早口と一度も噛まなかった滑舌の良さに呆然としていたイチカは、気付かぬうちにステラの義兄兼保護者となっていた。

議長が出て行った医務室では、未だ呆然としているイチカと苦笑気味の軍医長、そしてすやすやと眠っているステラが取り残されていた。

 

『お兄ちゃーん!』

 

ふと、脳裏にステラが自分をお兄ちゃんと呼んで、ちょっと良いかも……と思ってしまったイチカであった。

 

一方その頃、格納庫にて

 

「「はっ!」」

 

「わっ!びっくりした」

 

アリサが突然声を上げたマユとユーリにびっくりしていた。

 

「どうしたのよ?二人とも」

 

ルナマリアが尋ねてみると、

 

「「なんかイチカお兄ちゃん(イチカさん)を巡る恋敵が増えた気がする(します)!」」

 

「「ああ〜……」」

 

何故だか納得してしまう二人であった。

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その報せが入ったとき、ミネルバは衛星軌道ベースステーションにいた。月のL3点に位置するこのベースステーションはヤキン・ドゥーエ戦役で月での拠点を失ったザフトが月軌道艦隊の拠点として新たに設置したものだ。もちろんその大きさは軍艦数隻を入港整備できるという、コズミック・イラの世では人工衛星に毛が生えた程度の ものでしかない。ミネルバは本格的な航海に向けて、自身とMSの予備パーツや装甲モジュール、それに銃弾や推進剤や粒子ビーム用の薬剤といった消耗品を補充している。

 

「えーっ、ゲイツRの予備機ないのかよー?」

 

ミネルバの格納庫で、ショーンが不満そうに言う。

 

「はい、丁度全部出払っちゃってるらしいです」

 

手にリストの差し込まれたクリップボードを持ったユーリが、苦笑しながら答えた。その隣でマユも苦笑している。

 

「マユちゃん、GUARDIANだろー?2機ぐらい何とか都合させておくれよー」

 

「いくらなんでも無理だろショーン。そもそもGUARDIANにそんな権限はないし、仮にあったとしてもマユちゃんのGUARDIANなんて都合でつけてるようなものだし……第一、実機があるんならともかくアーモリーかマイウスからの取り寄せ待ちなんだよ」

 

駄々を捏ねるように言うショーンをデイルはまるで年下を嗜めるように言った。そんなやり取りをしていると、

 

警報が鳴り、警告灯が点滅を始めた。4人は驚いて、辺りを見回す。

 

『コンディションレッド発令。ミネルバ、発進待機シークェンスに移れ。コンディションレッド発令、ミネルバ、発進待機シークェンスに移れ』

 

「一体、何があったの?」

 

4人がおろおろとし、マユが声に出す。

 

「何をしてんだよマユ、ショーン、デイル!急いでブリーフィングルームに行くぞ!」

 

積載用デッキの方から走ってきたシンが、3人に強い口調で言う。

 

「あ、う、うん」

 

マユが答え、ショーン、デイルと共にシンを追いかける。

 

「何があったってんだよ、一体」

 

ショーンが後ろからシンに問いただす。

 

「ユニウスセブンが動いているんだ!!」

 

「ええ!?」

 

デイルが素っ頓狂な声を出す。マユも驚愕に目を見開いた。

 

「ユニウスセブンて、100年単位の安定した公転軌道に入ってるんじゃなかったのお兄ちゃん!?」

 

マユが聞き返すように言うと、シンは叫ぶように声を上げた。

 

「それが動いてるから問題なんだろ!」

 

 

 

ミネルバの司令部公室として使うために用意されている会議室。

 

「予測される進路はこの通り。遅くても7日目に地球への突入軌道に入ります」

 

大型ディスプレイに地球周辺の太陽系軌道図が表示され、動き出したユニウスセブンの予想進路がその上に描かれている。

 

「ただし、これも楽観的な予測でしかありません。ユニウスセブンの軌道と速度はなお変わり続けているというのが現在の状況、との事です」

 

アーサーがそう説明した。

 

「どう転んでも面白い結果にはなりそうにないな」 

 

デュランダルは目を細めてそう言っ た。

 

「既に月軌道艦隊からジュール隊を中心とする破砕部隊が出撃しています が……」

 

アーサーは言い淀んだ。

ユニウスセブンは血のバレンタインで核ミサイルにより死滅したプラントのコロニーだ。当然内部にはなお犠牲者の遺体が眠っている。それを破壊するというのは若干の抵抗があった。

 

「迷っている場合ではないわ!」

 

タリアが声を上げる。

 

「ミネルバは全速で急行、破砕作業の支援に移ります」

 

「はっ」

 

一度そうと決まればアーサーにも異論は無い。短く返事をし、敬礼した。

 

「申し訳ない、姫」

 

一方で、デュランダルはその場にい た2人のゲストの方を向き、そう声をかけた。

 

「本来ならばここで下船いただくべきだったのでしょうが、何分事態が事態です。我々も現状では姫を安全に地上へ送り届けることが出来ない」

 

今、シャトルで地上へ向かったとしても、それはユニウスセブンが大気圏に突入せんとしているところへ着陸することになる。安全なわけが無い。

 

「いや、これは我々にとっても非常事態だ。むしろ同道を願い出たい」

 

カガリも険しい表情で、そう答える。

 

「今しばらく不自由な思いをさせてしまうかと思いますが、ご辛抱ください」

 

デュランダルは謝罪するように言っ た。そう言ったカガリのさらに隣でアスランは俯き、複雑な表情で軽く歯を噛み締めていた。デュランダルはそんなアスランの姿を見て、目を細めた。

 

 

 

「砕く、か……」

 

はぁ、と溜め息を吐くようにルナマリアが言った。士官・パイロット用食堂。ガラス越しに地球が見える。

 

「でも、あそこにはまだ死んだ人がたくさん眠ってるんでしょう……?」

 

メイリンが後ろめたそうな、切なげな表情で言う。

 

「でもそのまま地球に衝突するようなことになったらどっちにしろパーなんだ。それだったら、生きてる人間のこと考えるってのがまともだろ」

 

シンが言った。 傍らにマユがいて、こくこくと頷く。

 

「そりゃ2人とも、元オーブだから言うのもしょうがないけどさ」

 

ヴィーノが言う。緊急発進といっても戦闘ではなく、移動中は即時待機を解かれていた。

 

「そういう問題じゃないだろう」

 

イチカは呆れ顔で言い返した。

 

「大体、俺たちはもうオーブには未練なんてひとかけらも無いんだ。俺なんて生まれ故郷でもないし……」

 

「へ?」

 

愚痴交じりに言いかけたイチカの言 葉に、マユが反応して軽く驚いたようにイチカを見る。

 

「え、あ、いや……なんでもない、関係のない話だった、あはは……」

 

イチカはパタパタと手を振って、慌てたように誤魔化す。

マユはわざとらしく苦い顔をしてみせてから、イチカから視線を離した。

 

「けど砕くったって、あんなデカブツ、そう上手く破壊できるのかね」

 

砕けた少年のような口調で、デイルが言う。

 

「デブリや小惑星とはワケが違うからな」

 

「だが、やらないわけにはいかないだろう」

 

シンの言葉に続き、対照的なスマートな口調でレイが言う。

 

「ユニウスセブンの構造物は比較的原形を保っている。もしそのままで地表に落下することになれば……」

 

直径一キロの小惑星が落下した場合のエネルギーを、TNT火薬の爆発力に換算すると十万メガトンに相当すると言われている。核爆弾が五十メガトンだから、その二千個分に当たる。

その計算でいくと直径十キロ近いユニウスセブン衝突のエネルギーは一億メガトン近くになってしまう。もちろん、突入速度は小惑星と比べてかなり遅いはずだから、単純に換算するわけにはいかないが━━

 

「…………」

 

「地球、滅亡……だもんな」

 

食堂に一瞬、冷え冷えとした沈黙が降りる。

レイ以外の面子がゴクリと息を呑んでから付け加えるようにヴィーノが言った。

 

「はー、でも、それもしょうがないっちゃしょうがないんじゃね?不可抗力だろ?」

 

軽い口調でヴィーノの傍らにいた整備員が言った。

 

ヨウラン・ケント。

ヴィーノとは同期生で今もコンビといって言い仲だ。

 

「むしろ鬱陶しいゴダゴダがなくなって、俺達ザフトにとっては案外楽かも」

 

「そんなわけ……」

 

マユが言いかけたとき、

 

「良くそんなことが言えるな!お前達は!!」

 

と、別の大声がそれをかき消し、割り込んできた。その場にいた面子が振り返る。そこにはカガリの姿があった。

 

「しょうがないだと!?案外楽だと!?これがどんな事態か、地球がどうなるか、どれだけの人間が死ぬことになるか、ほんとに解って言ってるのか、お前達はっ!?」

 

カガリは猛烈な勢いでヨウランを指差し、糾弾する。

 

「すいません」

 

ヨウランはしかし、ヴィーノ達と顔をあわせてから、形式ばかりに頭を下げた。その姿に、カガリはさらに顔を紅潮させた。

 

「くっ……やはりそういう考えなのか、お前達ザフトは!あれだけの戦争をして、あれだけの思いをして、やっとデュランダル議長の下で変わったんじゃなかったのか!?」

 

激情のままに、ヨウランやマユ達に怒鳴りつける。

 

「もうよせ、カガリ」

 

傍らに控えていたアスランが、カガリを制止しようとする。

 

「止めるな、これは許されるような問題じゃないぞ!!」

 

だが、カガリはそれすら振り払おうとする。ミネルバクルーの面々は困惑気な顔だったが、その中で1人、表情を引き締めている者がいた。

 

「別に、本気で言ってたわけじゃないさ、ヨウランも、言って良いことと悪いことがあるけど、冗談かどつかもわかんねぇのかよ、あんたは!」

 

さっきはヨウランの言葉を言い過ぎだと感じていたシンも、カガリノあまりに傍若無人な糾弾に、今は完全に腹を立てていた。彼から見れば、相手は世界の実状もわからないまま、ただ奇麗事を言い続ける無責任なお姫様だ。

 

「それに、『ザフトがそういう考え』だと?そんなザフト全員の総意みたいな言い方、俺たちをそういう人間だなんて勝手に判断するなよ!それとも、それが今のオーブなのかよ!?」

 

「あ……」

 

冷静になり、自分が言い過ぎたと自覚したのか、カガリが声を漏らすがシンは構うことなく続ける。

 

「大体、戦争の引き金を引いたのも、今回の騒ぎの大本のユニウスセブンを崩壊させたのも、地球に住む人たちだろうが!」

 

それはこの場にいる全員の、いやザフトの代弁とも言える言葉。

独立要求の返事として24万3721人の同胞たちを殺された、コーディネイターたちなら誰もが抱いている思いだ。

 

「シン、言葉には気を付けろ」

 

レイが低く咎める。シンはその言葉を受けて、軽蔑したように肩をすくめてみせた。

 

「あー、そーでしたね。この人、エラいんでした。オーブの代表でしたもんね」

 

「お前っ……!」

 

彼の態度に再び激昂したカガリが食ってかかろうとするのを、アスランが腕を掴んで留める。

 

「もうよせ、カガリっ!」

 

その様子には食堂にいた全員が驚いていた。護衛の人間が代表を怒鳴り散らすなど、普通なら有り得ないからだ。

同時にアスランの正体を知っている者たちからは、お姫様の腰巾着に成り下がっていたとばかり思っていたが、彼らの力関係は表向きとは違うらしい

そんな驚きの視線を受けながら、睨み合うシンとカガリの間にアスランが割って入り、鋭い目でシンと対峙した。

 

「君は、君たちは、オーブがだいぶ嫌いなようだが、何故なんだ?」

 

イチカ、マユ、シンの順に視線を移していくアスランにシンは視線を移し、睨み付ける。アスランは動じる様子もなく、抑えた。

だが不穏な調子の漂う声で続けた。

 

「昔はオーブにいたという話だが、何か理由があるのなら、教えてはくれないか?」

 

シンの頭がカッと熱くなった。

 

「そんなに知りたいのかよ」

 

その瞼に、焼け焦げた衣服の残骸をまとわりつかせ、ねじくれた形で横たわる両親の変わり果てた姿が蘇る。たった14年と9年しか過ごせなかった人たち、一瞬にして全てを奪った放火。

 

「だったら教えてやる……」

 

彼は眼前に立つカガリとアスランを睨み据え、言い放った。

 

「((俺たちの家族はアスハに殺されたんだ……!|・・・・・・・・・・・・・・・・・))」

 

周囲の皆が、その言葉に凍り付く。だが、シンの目が見ているのはたった一人━━失われた命に責任を負うべき人物だった。

 

「国を信じて、あんたたちの理想とかってのを信じて、そして最後の最後に、オノゴロで殺された……!」

 

他国を侵略せず、他国の侵略を許さず、他国の争いに介入しない━━それがオーブの理念だ。

口で言うだけなら美しい。だがその理念を貫くために、国民を犠牲にする国家とは何だ?

国はそこに暮らす民のためにあるものだ。それなのに、掲げた正義を守るために、無辜の国民を殺し、苦しめるのでは本末転倒ではないか。

その挙げ句、施政の側に立つ者は自分だけ生き残り、何事も無かったかのように口を拭って元の地位に居座っている。奇麗事の正義を掲げて誤った道に民を導き、一度は国を滅ぼした癖に、英雄などと呼ばれてちやほやされ、またも奇麗事を並べて同じ道を歩もうとする。個の女を、自分は絶対に許さない。

 

「だから俺はあんたたちを信じない!オーブなんて国も信じない!そんなあんたたちが言う奇麗事を信じない!この国の正義を貫くって……あんたたちだってあの時、自分たちのその言葉で、誰が死ぬことになるのか、ちゃんと考えたのかよ!?」

 

シンが怒りに震える声で喚くと、カガリは顔色を失って後ずさった。その体を抱き留めるアスランの顔にも、ありありと動揺が見て取れた。

 

「何もわかっていないような奴が……わかったような事、言わないで欲しいね!」

 

シンは最後に吐き捨て、一言も返せずに竦んでいるカガリの脇を荒っぽい足取りで通り抜け、部屋を後にした。その表情は、内心と同じくらい荒れていた。

凍り付いたように静まり返った室内から、ヴィーノの慌てた声が迫ってくる。

 

「お、おいっ!シンっ……!」

 

シンは足を止めなかった。握り締めた両手の拳はまだ小刻みに震えている。

他国を侵略せず、他国に侵略を許さず、他国の争いに介入しない。口で言うだけの正義など何の役に立つ?力が無ければ侵略を拒む事など出来ない。相手がこちらを撃とうとするなら撃ち返すしかない。生き残るにはら守るためには、力が必要なのだ。美麗で空虚な言葉ではなく。

小刻みにふるえる拳を押さえながら、自室に向けて歩き続ける。

心を落ち着かせようとしても、逆に荒れていくだけ。

血が滲むほど固く拳を握り締めても、その震えは止まらない。

それ以上にシンを苛立たせていたのは、一行に消えない、あの声だ。

 

あの反吐が出る程くだらない理想を信じ、国民を守る事すら出来なかった張りぼての理念を叫ぶ、あの若き元首の声。

 

『我々は誓った筈だ!もう悲劇は繰り返さない、互いに手を取り合って歩む道を選ぶと!』

 

「黙れ……黙れ……黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ黙れ…………っ!」

 

そんな誓いを何時、誰がした?イチカの言ってた通り、ユニウス条約は悲劇的な戦争行為の禁止……戦争そのものを終結させる講和条約ではないのだというのに……

 

上空を舞う蒼い翼を持つモビルスーツ

 

そこから放たれた、色鮮やかな破壊の放流

 

轟音

 

周りを赤く照らし、熱で肌を灼く炎

 

崩れた土砂にまみれて息絶えた、両親の姿

 

足下に転がる、親友の腕

 

そして━━━嘲笑うかのように宙を舞い続ける、自由の名を冠した悪魔の機体

 

「黙れぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇぇっ!!!」

 

脳裏を掠めたあの日の光景。

それを振り払うように叫ぶと、シンは力任せに壁を殴りつけた。

ガァァンッ……という音と共に、拳に痛みが走る。

拳を切ったようだが、頑丈な戦艦の壁を殴りつけたのだから当然と言えば当然だろう。もっとも、その鋭い痛みのおかげで、あの頭に響き続けていた声が消えた。

 

「ハァッ……ハァッ……ハァッ……」

 

荒い息を吐きながらやっとの事で自室に入ったシンは、明かりも点けないままベッドに腰掛け、ぼんやりと天井を見上げた。

その姿は、今にも泣き出しそうなのをこらえる、十六歳の少年だった。

 

オーブは嫌いだ。

 

国民を守れない元首も嫌いだ。

 

何の意味もない張りぼての理念が嫌いだ。

 

両親を奪ったあの悪魔が憎い。

 

肩を震わせながらサイドボードに手を伸ばし、置いてある物を掴み取る。

手にしたのは、一枚の写真を入れた写真立てだ。

そこには、満面の笑みを浮かべる妹と自分、そしてもう二度と見ることのない、明るく笑う両親の笑顔。

イチカもいる。 以前、一度だけ家族について聞いたことがある。 そしたら『多分、生きているとは思うけど会うことはまずない』と、意味深な言葉で返されて以来、イチカの家族については一度も触れることはなかった。なんとなく、それ以上 聞いてはいけないと思ったから……

 

それを見る度に、胸が軋む。

 

「俺は……」

 

口をついて出たその酷く弱々しい声は、誰に聞かれることもなく、暗い部屋の中へと消えていった。

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「遠距離熱センサーに反応。大型艦接近します!」

 

ユニウスセブン。

前大戦の始まりと終わりの場所。そんな死の街と化した筈のコロニーで、蠢くモノの姿があった。

 

「来たか、牙を抜かれたナチュラルの犬どもが……ここで死んでいった者たちのせめてものはなむけに、道連れにしてくれようぞ!」

説明
PHASE4 割り切れぬ過去
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コメント
……書き直してきます(アインハルト)
でも、マユと軍医長が困惑のやり取りをしていている間にもって書いてありますけど?(カイ)
カイさんへ いえ、医務室には最初から居ませんよ(アインハルト)
マユ医務室にいるんじゃないの?何で格納庫にいるの?(カイ)
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機動戦士ガンダムSEEDDESTINY シン主人公←ここ重要 マユ生存←ここも重要 オリキャラ オリ機体 キラアンチ 一部キャラ生存あり インフィニット・ストラトス 

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