本編補足 |
飛翔
C1 取引
C2 機知
C3 凱旋
C4 辞退
C5 謀殺
C6 兆し
C7 暴政
C8 強権
C9 羽ばたき
C1 取引
セレノイア王国地下闘技場センギョク。リングを駆け、距離を取る筋肉質で体格のいいコブラ人と筋肉質で体格のいいマングース獣人。
センギョク及びセレノイアの多数の闘技場を運営し、牛耳るアルビノパンダ党のアルビノパンダ獣人達が並ぶ席の上のビップルーム。リングを見下ろすマジックミラー越しの特別席の巨大なベットにアルビノパンダ獣人の露出度の高い服を着た美男美女を侍らせ、笹のついた華桔竹と冷箭竹の茎を片手に持つ巨漢でアルビノパンダ獣人にしてアルビノパンダ党惣領モネトカン。
半裸のアルビノパンダ獣人の美男Aとアルビノパンダ獣人の美女Aが舌を絡めあう。息を吐きながら乳輪と秘所に手を当てる半裸のアルビノパンダ獣人の美男美女達。
扉を開けるセレノイア王国の格闘家及び剣闘士等出自を中心とする議員派閥徒手組の総裁でケレンケン人の元格闘家で体格のいいアイコニノニイ・ジャアク。後ろにはセレノイア王国の議員で熊獣人のクーマン・ベアード。
モネトカンは笹のついた華桔竹と冷箭竹の茎を左右に揺らす。アルビノパンダ獣人の美男Aとアルビノパンダ獣人の美女Aが舌を伸ばして笹に触れる。彼らから笹を離すモネトカン。アルビノパンダ獣人の美男Aとアルビノパンダ獣人の美女Aの舌が触れ、二人は互いに寄り合って舌を絡ます。彼らを見て眉を顰めるモネトカン。彼は笹のついた華桔竹と冷箭竹の茎を竹置きに入れる。
モネトカン『あなたたちばかりいい感じでずるいですよ〜。』
アルビノパンダ獣人の美男Aとアルビノパンダ獣人の美女Aが口を開く。モネトカンはアルビノパンダ獣人の美男Aとアルビノパンダ獣人の美女Aの頭を掴み、胸に寄せる。モネトカンの胸を舐めるアルビノパンダ獣人の美男Aとアルビノパンダ獣人の美女A。
モネトカン『うをっふぉう!いい感じですねー。いい感じですねー。』
アイコニノニイ・ジャアク『お楽しみの最中悪いが…相変わらずだなモネトカン。』
モネトカンはアイコニノニイ・ジャアクの方を向き、半裸のアルビノパンダ獣人の美男Aとアルビノパンダ獣人の美女Aを押しのけ、ベットから降りて跪く。台座が揺れ、果実の入ったバスケットからリンゴが転がり落ちる。
モネトカン『これはこれは総裁殿!毎度毎度我々に便宜を図っていただいてありがとうございますねー。』
アイコニノニイ・ジャアク『いやいや、これからも宜しく頼むぞ。』
顔を上げるモネトカン。
モネトカン『ところで…。』
モネトカンはクーマン・ベアードの方を見た後、アイコニノニイ・ジャアクの方を向く。
モネトカン『サーカス熊が居るようですか、何のご用件でございましょうか?』
大歓声。
モンテイアの声『おおっと!模擬盾がもがれたーーーーーーっ!模擬盾がもがれたーーーーーーーっ!!』
モネトカンの足に当たるリンゴ。モネトカンは体を一瞬震わして、足元のリンゴを見る。
モネトカン『果実か…。』
アイコニノニイ・ジャアクはマジックミラーからリング上で距離を取るコブラ獣人とマングース獣人を見つめた後、眼を細めて歓喜する人間達の方を暫し見つめる。
モンテイアの声『これは、いいところをついてきてますね。』
リンゴを拾うモネトカン。リングの上でコブラ獣人とマングース獣人ががっぷり四つに組む。汗が飛び、照明の光に当たり、光沢を放つ彼らの体。
アイコニノニイ・ジャアク『今日の解説はモンテイアか。』
モネトカンは頷き、顎に翼を当てるアイコニノニイ・ジャアクの方を向く。
アイコニノニイ・ジャアク『彼の実家は土建屋だったな。』
アイコニノニイ・ジャアクはクーマン・ベアードの方を向く。
アイコニノニイ・ジャアク『おい、クーマン。…空樹の塔の受注、モンティアの会社に便宜は図れるか?』
眉を顰め頷くクーマン・ベアード。
アイコニノニイ・ジャアク『ふむ。よかろう。』
アイコニノニイ・ジャアクはゆっくり2、3回頷いた後、モネトカンの方を向く。
アイコニノニイ・ジャアク『偽造パスポート及び金をご所望だ。できるな。』
頷くモネトカン。
モネトカン『はは。』
顔を上げるモネトカン。
モネトカン『しかし、何のためにその様な物を?』
頷くクーマン・ベアード。
クーマン・ベアード『ゼムドとの戦争の為に。』
モネトカンは目を見開き、アイコニノニイ・ジャアクの方を向く。
モネトカン『なんと!』
アイコニノニイ・ジャアク『我ら徒手組は出入り禁止に謹慎となったからな。その辺の事情は良くわからんが…。』
目を細めるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『まあ、そういうことにしておこう。』
アイコニノニイ・ジャアクを見つめるクーマン・ベアード。
アイコニノニイ・ジャアク『しかし、お前は人間に水軍連中に宜しくやっているそうだな。…まぁ、いいが。では、空樹の塔の受注の件頼むぞ。くっく、まあ、これから先もいい感じに続けて行こうや。』
一礼するクーマン・ベアード。
セレノイア王国地下闘技場センギョク選手控室。体をタオルで拭くコブラ獣人。
マングース獣人『あ〜。今から人間のババアとか…はぁ。』
マングース獣人の方を向くコブラ獣人。
コブラ獣人『大変だな。俺なんかこの前、人間相手で舌つっちまったぜ。』
ロッホ・ネス・モンスター人がコブラ獣人の方を見る。
ロッホ・ネス・モンスター人『まったく、やつら得体がしれないぜ。見た目と年齢が合わねえしよ。』
マングース獣人『まあ、その癖、金払いはいいがな。チェッ。』
扉が開き、現れるアイコニノニイ・ジャアク。
マングース獣人『ははは、違いな…。』
一斉にアイコニノニイ・ジャアクを向く選手たち。彼らは一斉に立ち上がると深く一礼する。
選手一同『お疲れ様です!』
アイコニノニイ・ジャアクは彼らを見回して頷く。
アイコニノニイ・ジャアク『…ゼムドとの戦争がある。我らは謹慎の身ではあるが戦には命令違反でも参戦する!』
跪く選手たち一同。
選手たち一同『ははぁ!それぞ徒手組の意地!それが我らの生きる道であります!』
アイコニノニイ・ジャアク『もし、王が我らを命令違反の咎で処断にかけようものなら、王を討ち滅ぼす!!』
大歓声が上がる。
C1 取引 END
C2 機知
セレノイア王国地下カジノ、アイコニノニイ・ジャアクのアジト。アイコニノニイ・ジャアク専用の部屋で椅子の背に持たれ両翼を広げて足を組むアイコニノニイ・ジャアク。扉が開き、徒手組副総裁で栄養剤の販売人組織の元締めで赤マムシ人のソーロウとセレノイア王国の大手土建会社兼芸能プロダクションのウコッキンの重役で海亀人のモンティアがそれぞれ一礼して入ってくる。
アイコニノニイ・ジャアクは彼らを見つめた後、目の前のソファに翼を向ける。頭を下げ、ソファに座るソーロウにモンティア。モンティアは満面の笑みを浮かべてアイコニノニイ・ジャアクの方を向く。
モンティア『いやはや、空樹の塔の受注の件ありがとうございます!』
アイコニノニイ・ジャアク『なに良い取引条件がそろったのでな。』
アイコニノニイ・ジャアクは目を細め、顎に翼を当てる。
アイコニノニイ・ジャアク『その代わり、分かっておろうな。』
喉を鳴らし、目を見開いて何回も頷くモンティア。ソーロウが手をこすり合わせる。
ソーロウ『そういえば聞きましたか?総裁。魔砲購入担当者の人間が女を連れて行ったと。』
鼻で笑い、ため息をつくアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『フン、好色な輩だな。しかし、我々の提供した資金を使って、まったく胸糞の悪い話だ。』
ソーロウ『まっこと同感。』
扉が開き、現れる徒手組の亜人議員A。ソーロウは徒手組の亜人議員Aの方を向き、睨み付ける。
ソーロウ『貴様!ノックも無しに入るとは何事か!』
眼を見開いて後ずさりし、直立不動になる徒手組の亜人議員A。
徒手組の亜人議員A『も、申し訳ありません!』
頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『まあよい。で?何だ?』
徒手組の亜人議員Aは頷く。
徒手組の亜人議員A『は、はい!メタファ城のセレノイア軍…ラドラック山岳城に向かったそうであります!』
眼を見開くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『何!!』
ソーロウ『ラドラック山岳城だと!宣戦布告も無しにか!』
頷く徒手組の亜人議員A。立ち上がるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『前徒手組の組合員に伝えろ!我らの出陣ぞ!コクシごとき蹴り殺してくれるわ!』
セレノイア王国格闘闘技場に集うセレノイア王国のヴェルクーク級人型機構、ティム級戦車にブラブラ級起動城塞多数。集うセレノイア王国徒手組の組合員達。足部を強化してあるモンクヴェルクーク級人型機構アイコニノニイ・ジャアクカスタムのコックピットのハッチに立ち、組合員達を見下ろすアイコニノニイ・ジャアク。彼は兜の紐を締める。隣にはインカムを付けたソーロウ。
アイコニノニイ・ジャアク『我ら徒手組!ゼムドと一戦!王が我らに不服を唱えるならば…王と一戦しようぞ!!』
拳を振り上げ、大歓声を上げる徒手組の組合員達。ソーロウはインカムに手を当て、横を向く。
ソーロウ『何っ、それは…。』
ソーロウの方を向くアイコニノニイ・ジャアク。ソーロウはアイコニノニイ・ジャアクの方を見つめ、一礼する。
ソーロウ『ジャアク様。人間の王が戦死しました。』
鼻で笑うアイコニノニイ・ジャアク。
ソーロウ『そして、ゼムド王並びにレンゲン、ゼットフ両将討ち死に…。』
眼を見開くアイコニノニイ・ジャアク。
ソーロウ『只今、戦は終わり、セレノイア軍はムライト城にルソタソ、メルミン及びシュヴィナ王国と共に入場致しました。』
眼を見開き、血管を顔中に浮き出させるアイコニノニイ・ジャアク。暫し沈黙。
一歩前に出るソーロウ。
ソーロウ『ジャアク様。』
アイコニノニイ・ジャアク『何だ?』
ソーロウ『…ここは彼らの我らが彼らの凱旋の音頭をとるべきです。』
アイコニノニイ・ジャアク『何だと!!』
コックピットのハッチを力強く一踏みするアイコニノニイ・ジャアク。揺れるモンクヴェルクーク級人型機構アイコニノニイ・ジャアクカスタム。頭を下げたまま動かないソーロウ。
ソーロウ『メルミンにルソタソ、シュヴィナまで来ております。これは何かあるに違いありません。ここは長い間セレノイアの地を守ってきた徒手組の精鋭達が度量を示すべきです。』
アイコニノニイ・ジャアク『人間どもに媚を売れと!!』
首を横に振るソーロウ。
ソーロウ『いえいえ、人間どもではありません。しかし、凱旋してくるセレノイア軍を温かく迎えれば民衆の眼には我々がどう映るか…。』
暫し、沈黙。口角をあげるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『なるほどな。』
アイコニノニイ・ジャアクは咳払いし、徒手組の組合員達の方を向く。
アイコニノニイ・ジャアク『諸君らに伝えなければならぬ事がある!セレノイアに派遣された人間の王は死んだ!派遣したゼムドの王と彼らの取り巻きは死んだ!セレノイアは戦に勝利した!』
ざわめきが起こり、顔を見合わせる徒手組の組合員達。彼らを見回すアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『我々は数えきれない戦場を駆け、我が徒手組の同胞達は数えきれぬ血と汗を流してきた。人間どもによって捨て地として建国された我が国は度重なる脅威を我らの武で跳ね除けてきた!諸君らの体を見よ!鍛え上げられた鋼の肉体と幾多の傷跡!それこそ我々の武威の証であり、我らの血はセレノイアを守り続けてきた熱き礎である!』
アイコニノニイ・ジャアクを見つめる徒手組の組合員達。
アイコニノニイ・ジャアク『その様な我らが戦場へ出遅れ、手柄を取られただけで動揺してどうする!我々は長年、セレノイアを守り続けた!だからこそ、余裕を持ってゼムドとの戦に勝利した彼らを温かく迎えようではないか!』
顔を見合わせ、握り拳を上げる徒手組の組合員達。大歓声が上がる。
C2 機知 END
C3 凱旋
足部を強化してあるモンクヴェルクーク級人型機構アイコニノニイ・ジャアクカスタムのコックピットの中にマントをたなびかせて入るアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『急げ!人間どもに先を越されるな!』
ソーロウ『はは、モンティアには手配しております。』
笑うアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『相変わらず手が早い。人間どもと蜜月とはいえ、この特ダネは文屋どもが欲しがるだろう。』
ソーロウ『はは。すぐにこの場に現れるでしょう。』
ヘリのローターの音。ざわめきが巻き起こる。翼を組み口角を上げるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『…ふっ、来たか。』
一礼するソーロウ。アイコニノニイ・ジャアクはマントをはためかせて、コックピットのハッチから出る。セレノイア王国格闘闘技場の観客席を埋め尽くすセレノイア王国の報道人達。カメラのフラッシュがセレノイア王国格闘闘技場を埋め尽くすセレノイア王国徒手組のセレノイア王国のヴェルクーク級人型機構、ティム級戦車にブラブラ級起動城塞と徒手組組合員達、そしてモンクヴェルクーク級人型機構アイコニノニイ・ジャアクカスタムのコックピットのハッチに立つアイコニノニイ・ジャアクを照らす。
腰に両翼を当てるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『諸君らに告ぐ!我がセレノイア王国軍はゼムド王国と戦をし、勝利した。』
顔を見合わせるセレノイア王国の報道人達。ざわめきが巻き起こる。記者Aがメモ帳とペンを取り出す。
記者A『ゼムドとの戦なぞ聞いていないが!』
記者・報道関係者達『そうだ!そうだ!』
頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『諸君らが知らぬのも無理はあるまい。ゼムドからきたヴィートリフとかいうこの国を無茶苦茶にした人間の王は、宣戦布告も無しに諸君らを戦渦に巻き込もうとして勝手に死んだ。そして、奴を派遣したゼムドの王もその取り巻き達も死んだ!今、ゼムドのムライト城において諸外国と共に協議に入っている段階だ。我々はメタファ城に向かい、彼らと合流する!』
記者B『メタファ城だってよ!』
記者A『メタファ城だ!』
記者女A『メタファ城よ!』
アイコニノニイ・ジャアクは彼らに背を向けコックピット内に入る。
アイコニノニイ・ジャアク『これよりメタファ城に進む。』
ソーロウに向けて翼を上下に振るアイコニノニイ・ジャアク。ソーロウはアイコニノニイ・ジャアクの傍らに寄る。
ソーロウ『はっ!』
アイコニノニイ・ジャアク『ムライト城のセレノイア軍に打電しろ。メタファ城にて民衆が待っている…とな。』
頭を下げるソーロウ。
ソーロウ『はは。流石はジャアク様。』
セレノイア王国メタファ城。敷地内にはセレノイア王国のヴェルクーク級人型機構、ティム級戦車にブラブラ級起動城塞多数。集うセレノイア王国徒手組の組合員達。そして、セレノイア王国の民衆たちが埋め尽くす。モンクヴェルクーク級人型機構アイコニノニイ・ジャアクカスタムのコックピットのハッチに立つアイコニノニイ・ジャアクは腰に両翼を当てる。砂煙が巻き起こり、セレノイア王国のブラブラ級起動城塞が多数、メタファ城の敷地内に入り、止まる。
大歓声が巻き起こる。
暫くしてブラブラ級起動城塞旗艦ヴィートリフからタラップが降ろされ、降りてくるクーマン・ベアード。アイコニノニイ・ジャアクはコックピットのハッチから飛び降り、クーマン・ベアードに向かう。アイコニノニイ・ジャアクの方を向き、眉を顰めるクーマン・ベアード。アイコニノニイ・ジャアクはクーマン・ベアードの正面で止まり、右翼を差し出す。
アイコニノニイ・ジャアク『ゼムド王国との戦の勝利見事!』
クーマン・ベアードは周りを見回した後、右手を差し出し、握手をする。カメラのフラッシュが彼らを何回も照らす。
アイコニノニイ・ジャアク『指揮官は貴様か?』
首を横に振るクーマン・ベアード。
クーマン・ベアード『いや、王が陣頭指揮をとった。』
ため息をつくクーマン・ベアード。
クーマン・ベアード『不幸な事故だった…。』
クーマン・ベアードは旗艦ヴィートリフを見上げる。
C3 凱旋 END
C4 辞退
セレノイア王国。愉快な仲間たち議事堂内に集うセレノイア王国の議員達。クーマン・ベアードが演壇の前に立ち、マイクに向かって咳払いする。
クーマン・ベアード『我がセレノイア王国は…。』
クーマン・ベアードを見た後顔を見合わせる徒手組の獣人議員Aと徒手組の獣人議員B。
徒手組の獣人議員A『おいおい、本来ならオラオンがやるんじゃねえか?』
徒手組の獣人議員B『何で熊公なんか…。』
徒手組の獣人議員Aと徒手組の獣人議員Bの方を向いた後、クーマン・ベアードの方を向くアイコニノニイ・ジャアク。
クーマン・ベアード『早急に王を決めねばなりません。』
ざわめき。
クーマン・ベアード『ここはセレノイア王国の伝統に基づいて、我々が我々の中から相応しいと思う人物を王として投票し、決定いたします!』
頷くセレノイア王国の議員達。
クーマン・ベアード『では、お手持ちの紙に相応しいと思われる議員の名を書き、投票箱にお入れください。』
頷き、ペンを取るセレノイア王国の議員達。
セレノイア王国地下カジノ、アイコニノニイ・ジャアクのアジト。アイコニノニイ・ジャアク専用の部屋。椅子に座るアイコニノニイ・ジャアクと向かい合って座るソーロウ。ソーロウは頭を下げる。
ソーロウ『ジャアク様…。お気を落とさずに。』
微笑んで頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『流石にオラオンには勝てんな。清廉潔癖を絵にかいたような人物。人気もそれは篤かろう。』
ソーロウ『いやいや、しかしながらジャアク様は次点ではありませんか。』
頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『そして残念ながら同じく次点は糞人間の爺、次に熊公…そういえばあの人間、誰だったか…まあいい。人間の名前なぞ、あいつも7票ほど入っていたな。』
ソーロウ『大派閥を抱えるカルデハイフンはともかく、無名の人間議員なぞに票を投じるなんぞ正気の沙汰とは思えませんなぁ。』
頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『さて。』
アイコニノニイ・ジャアクを見つめるソーロウ。
アイコニノニイ・ジャアク『ゼムドとの戦況は聞いたか?』
首を傾げるソーロウ。
ソーロウ『は、ま、まあ。ゼムド王とレンゲン、ゼットフの部隊に向かって行ったヴィートリフの背後から…オラオンの侍従のラドルが魔砲を放ち…王もろとも。』
アイコニノニイ・ジャアク『おかしいだろう。』
ソーロウ『まあ、確かに。』
アイコニノニイ・ジャアク『熊公は偽造パスポートを持ち、魔砲購入担当者の行く先はメルミン、ルソタソ、シュヴィナ…。どいつもゼムドの拡張戦略を快く思っていなかった連中だ。そして、極めつけは宣戦布告をしていない。味方にも行先を直前になってからしか告げていないのにも関わらず、ゼムド側に先回りされていたことだ。』
眼を見開き、喉を鳴らすソーロウ。
ソーロウ『調査の必要があると…しかしながら、この調査はいったい我々に何の意味が?王は決定しましたし、これはオラオンのスキャンダルではございません。』
首を横に振るアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『そうではない。議場ではオラオンではなく熊公が司会をした。引き金を引いたのはオラオンの侍従…。おそらくオラオンは今回の件、責務を感じて王を降りる。』
上体を前に出すソーロウ。
ソーロウ『何と!』
アイコニノニイ・ジャアク『オラオンが降りれば、オラオンに入っていた票はどう動くかだ。』
頷くソーロウ。
ソーロウ『カルデハイフンは、あれ以上は無理でしょうし…。』
頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『俺に流れるか、熊公にながれるか。』
セレノイア王国。愉快な仲間たち議事堂内に集うセレノイア王国の議員達。演壇に立つ青ざめたオラオン。
オラオン『皆さん。皆さんが私をこのセレノイアの王として選んで下さったことは非常に光栄なことであります。』
眼を閉じ、俯くオラオン。
オラオン『しかしながら、セレノイアの王、ゼムドの王と将軍達…そして多くの兵を葬り去ったのは私の侍従が犯した過ちゆえであります。これは私の監督責任ミスであり、私は王には相応しくありません!この場で犠牲になった方々に深く陳謝し、王の地位を辞退するものであります!』
ざわめきが巻き起こる。
腕を組み頷くアイコニノニイ・ジャアク。
C4 辞退
C5 謀殺
セレノイア王国地下カジノ、アイコニノニイ・ジャアクのアジト。アイコニノニイ・ジャアク専用の部屋。椅子に座るアイコニノニイ・ジャアクと向かい合って座るソーロウ。
ソーロウ『いや、ジャアク様のおっしゃる通りで。』
頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『清廉潔癖が仇となったな。メルミンもルソタソも、あのシュヴィナでさえゼムドに非があるといっているのに愚かなことだ。』
ソーロウ『まっこと。』
ソーロウは頷いた後、両手を組んでこすり合わせる。
ソーロウ『ところでジャアク様。情報が得られました。』
上体を前に出すアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『おお。やはりか。』
ソーロウ『いえ、そう大した情報ではございませんが…、実はゼムドとの戦で砲術長を務めた男が酒浸りになっていると。』
頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『ほっほう。』
ソーロウ『接触を試みて見ます。』
アイコニノニイ・ジャアクはソーロウを見つめる。
アイコニノニイ・ジャアク『頼むぞ。』
頭を下げるソーロウ。
ソーロウ『はは。』
ソーロウは立ち上がり、扉から出ていく。
セレノイア王国地下カジノ、アイコニノニイ・ジャアクのアジト。アイコニノニイ・ジャアク専用トレーニングルーム。サンドバックを叩くアイコニノニイ・ジャアク。扉をノックし、駆けこんで来るソーロウ。
ソーロウ『大変でございます!』
サンドバックを叩き続けるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『何だ?』
ソーロウ『先手を打たれました!砲術長を務めた男が…人間の剣闘士に殺されました!』
大きな音が鳴り響き、サンドバックが千切れ、砂が舞う。眉を吊り上げ、血管を浮き出させるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『何だと!』
跪くソーロウ。
ソーロウ『はっ!砲術長を務めた男が…ドクガの酒場にて人間の剣闘士に殺されました!』
眼を見開くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『何…ドクガの酒場にてか。』
ソーロウ『はは。』
笑い出すアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『ケレンケンケンケン!ケレンケンケンケン!ドクガの酒場といえば、熊公どものアジトじゃねえか。これは大きいぞ。』
顔を上げるソーロウ。
ソーロウ『は?』
アイコニノニイ・ジャアクはタオルで汗を拭く。
アイコニノニイ・ジャアク『先手を打って墓穴を掘ったな。どいつが焦ったか分からんがこれは重大なイメージダウンだ。』
手を叩くソーロウ。
セレノイア王国。愉快な仲間たち議事堂。クーマン・ベアードの前に立つアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『よう、クーマン。』
アイコニノニイ・ジャアクを見つめるクーマン・ベアード。隣の席のセレノイア王国議員のクランケンシュタインが立ち上がり、深く一礼する。
アイコニノニイ・ジャアク『気の毒にな。お前らが丹精込めて作った酒場で殺人事件があったそうだな。』
眉を顰め、頷くクーマン・ベアード。
クーマン・ベアード『ああ…。』
アイコニノニイ・ジャアクはクーマン・ベアードの肩を叩き、去って行く。アイコニノニイ・ジャアクの背に向かい一礼するクランケンシュタイン。演壇に立つセレノイア王国議員でアミメキリン獣人のジョウ。
ジョウ『それでは、国王に選出されたオラオン殿が王を辞退いたしましたので…オラオン議員以外で我々が我々の中から相応しいと思う人物を王として投票してください。』
頷くセレノイア王国の議員達。
ジョウ『では、お手持ちの紙に相応しいと思われる議員の名を書き、投票箱にお入れください。』
頷き、ペンを取るセレノイア王国の議員達。
C5 謀殺 END
C6 兆し
セレノイア王国王都セレノイア、歩道、屋根はセレノイア王国の民衆で満ち溢れ、勇壮な音楽と共にセレノイア城へと進むブラブラ級起動城塞群及びセレノイア王国のヴェルクーク級人型機構、周りにはティム級戦車。空でアクロバット飛行を繰り返すスカイルーク級戦闘機、そして鎧兜を装着した徒手組の組合員達。先頭には足部を強化してあるモンクヴェルクーク級人型機構アイコニノニイ・ジャアクカスタムのコックピットのハッチに立ち、壮麗な鎧兜を身に着け、マントをはためかせるアイコニノニイ・ジャアク。
紙吹雪が飛び、大歓声が上がる。
セレノイア城の城門に止まるアイコニノニイ・ジャアク機。アイコニノニイ・ジャアクは自機から飛び降りる。彼は兜の紐をほどき、脇に抱えて城に一礼し、門の中へ入っていく。セレノイア王国玉座の間。赤絨毯を進むアイコニノニイ・ジャアク。左側に立つ人間議員達。右側に立つ亜人・獣人議員達。アイコニノニイ・ジャアクは玉座の前で暫し、跪いた後、立ち上がり周りを見る。
アイコニノニイ・ジャアク『この度、私アイコニノニイ・ジャアクがセレノイアのやり方に基づいて王として任命された。これより、セレノイアの王は私だ。』
頭を下げる一同。玉座に座るアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『さて、始めにしておかなければならないことがある。』
アイコニノニイ・ジャアクは羽を弾いて鳴らす。一斉になだれ込む徒手組の組合員達がカルデハイフン、カスチン等の大多数のセレノイア王国の人間議員達を取り押さえる。
カルデハイフン『な、何をする!離せ!離さんか!!』
カスチン『王になった途端にこの様な狼藉を働くとは…。』
鼻で笑うアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『これはセレノイア王国による戦後処理だ。貴様らがゼムドの王族を招き入れたため、我ら亜人や獣人は酷い乱暴狼藉にあった。牢へと連れて行け!』
アイコニノニイ・ジャアクを睨み付けるカルデハイフン及び大多数の人間議員達。立ち上がるクランケンシュタイン。
クランケンシュタイン『お待ちください!これは明らかな暴政です!』
頬杖をつき、クランケンシュタインを見つめるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『はぁ?』
クランケンシュタインはアイコニノニイ・ジャアクを見つめる。
クランケンシュタイン『彼らはあの暴政の中でゼムドの威光とヴィートリフ王の武と軍を恐れ、追従しただけであります。』
アイコニノニイ・ジャアク『ほう、ゼムドの威光と前王の武と軍か…。愚かしい。ただの保身ではないか。』
クランケンシュタインを見つめるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『ならばなぜ奴らは人間の王侯貴族どもとコネがあるのに、前の王を止めようともしなかったのだ?』
眼を見開いた後、俯くクランケンシュタイン。
アイコニノニイ・ジャアク『まあいい。連れて行け!』
一礼し、多数の人間議員を引き連れていく徒手組の組合員達。青ざめるセレノイア王国の議員達。
立ち上がるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『これよりは王である私の方針に従ってもらう!』
顔を見合わせた後、アイコニノニイ・ジャアクの方を向き、頭を下げるセレノイア王国の議員達。
アイコニノニイ・ジャアク『まずは議員の無許可の渡航を禁止する。次に酒場を全て国王直属のものとする。最後に全議員の3分の2が賛同しなければ、国王の選出はできないものとする。なお、牢獄にいる議員の議決権は無効とする。』
喉を鳴らすセレノイア王国の議員達は薄目で、大多数の徒手組の議員達を見る。
C6 兆し
C7 暴政
セレノイア王国国王執務室。椅子に座るアイコニノニイ・ジャアク。隣にはソーロウ。正面にはドクガの酒場の女将のドクガが居る。
アイコニノニイ・ジャアク『呼び出したのは他でもない。』
アイコニノニイ・ジャアクはドクガに契約書を差し出す。ドクガは契約書を開き、暫し目を通した後、アイコニノニイ・ジャアクを見つめる。
ドクガ『納得いきません。いくら陛下の御命令と言えど、私はお客様に対してこんな差別をすることはできません!』
アイコニノニイ・ジャアク『なら担当者を変える。お前の酒場では殺人事件が起きたからな。』
ソーロウ『そうならばもう、ドクガの酒場ではありませんなぁ。くくく。』
ソーロウの方を向くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『いいネーミングを考えておけ。なんせ国王直轄の酒場の第一号だからな。』
一礼するソーロウ。
ソーロウ『はは。』
眉を顰め俯くドクガ。
ドクガ『…暫く考えさせて下さい。少し旅に出て…頭を冷やします。』
ドクガは肩を落として扉を開けて去って行く。
アイコニノニイ・ジャアクは立ち上がり、腰に翼を当て、窓から外を向く。道を歩く亜人や獣人達。彼の傍らに寄るソーロウ。
アイコニノニイ・ジャアク『人間どもも随分と居なくなったな。』
頷くソーロウ。
ソーロウ『それはもう。すがすがしいまでに。そういえば、そろそろ空樹の塔が完成いたします。』
アイコニノニイ・ジャアク『ほう。』
アイコニノニイ・ジャアクは窓から建設されている空樹の塔を見つめる。
デモ隊隊長Aの声『王の圧政を許すな!徒手組の横暴を許すな!!』
眉を顰めるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『あの不快な声は?』
ソーロウ『ああ、人間どもですな。』
デモ隊隊長Aの声『王を出せ!』
鼻で笑うアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『まったく前王の時は何もやらなかった癖に、自分たちの身がさらされればこれだ。人間というものは全く持って醜悪な輩だな。』
2、3回頷くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『よかろう。話し会おう。』
眉を顰めるソーロウ。
ソーロウ『よろしいので?相手は人間ども…。』
アイコニノニイ・ジャアク『無論、そう伝えておき、豚箱に誘導しろ。』
笑みを浮かべるソーロウ。
ソーロウ『はは。』
扉から出ていくソーロウ。アイコニノニイ・ジャアクは窓から空樹の塔を見上げる。
アイコニノニイ・ジャアク『もう一歩か。くくくくく。』
C7 暴政
C8 強権
セレノイア王国愉快な仲間たち議事堂。集うセレノイア王国の議員達。演壇から彼らを見つめるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『我々、セレノイアの亜人・獣人は長らく差別されてきた。そこで、我々亜人・獣人の不当な人権侵害から救済するために、人権擁護に関する事務を総合的に取り扱う機関の設置し、亜人・獣人人権擁護法案を提案するものである。』
顔を見合わせるセレノイア王国の議員達。
セレノイア王国の人間議員Aが立ち上がる。
セレノイア王国の人間議員A『それで具体的には?』
アイコニノニイ・ジャアクは正面を向く。
アイコニノニイ・ジャアク『機関が差別と認定した人間に罰則を無条件で課すことができる。無論、機関には王である私が相応しい者を選任する。』
ざわめきが巻き起こる。
セレノイアの人間議員B『王は人間嫌いではないか!』
セレノイアの人間議員C『既に、人間だけ税を増税され、酒場のサービスですら分けられている!不公平だ!!』
セレノイアの人間議員A『そんな法案など認められるか!』
立ち上がるクーマン・ベアード。
クーマン・ベアード『いくらなんでも、それはやりすぎだ!』
演壇を叩くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『亜人・獣人人権擁護に反対するのか!長年、弱き立場に立ってきた我々を守る為の…。』
クーマン・ベアード『我々は人権擁護に反対しているのではない!この法案に反対しているのだ!これは強権的すぎる!』
立ち上がるセレノイアの亜人議員A。
亜人議員A『これでは監視国家の恐怖政治と同じだ!』
立ち上がるジョウ。
ジョウ『ジャアク王!これではあのヴィートリフと同じではないか!』
顔を真っ赤に染め、血管を浮かび上がらせるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『何だと!まとまらぬようならば多数決で決める!』
一斉に立ち上がるセレノイア王国の人間議員リオンフレッシュとセレノイアの人間議員達。
セレノイアの人間議員A『多数決なら牢獄の人間議員達を出せ!』
セレノイアの人間議員B『そうだ!そうだ!』
リオンフレッシュ『これは人権擁護法案ではない。人間排除法案だ!』
クランケンシュタイン『ジャアク王!ご再考を!』
セレノイアの人間議員達を睨み付けるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『牢獄に入った議員に議決権はないと申したであろう!』
立ち上がるオラオン。
オラオン『ジャアク王!これは明らかに強硬であろう!誰も目から見ても、王の権力の乱用だ!』』
舌打ちするアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『よかろう!ならば明日の議場で、牢獄に居る人間どもも踏まえて審議致そうではないか!』
セレノイア城国王執務室に入るアイコニノニイ・ジャアク。続くソーロウ。
ソーロウ『まったく、人間どもは生意気な野郎どもですな。それによりにもよって、あんな人間どもに追従するとはやっかいな…。』
鼻で笑うアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『案ずるな。明日、朝一で格技闘技場議事堂に徒手組の全議員を集めろ。邪魔者が居ないところで可決するぞ。』
ソーロウ『は…し、しかし、それでは…。』
アイコニノニイ・ジャアク『後から来た議員どもを一網打尽にし、政治犯として豚箱へぶち込む。』
頷くソーロウ。
ソーロウ『名案でございます。これで王の治世は安泰!』
アイコニノニイ・ジャアク『ふん。不満を唱える者が居れば、我が徒手組の武でひねりつぶすまでだ。』
頭を下げるソーロウ。
ソーロウ『はは。では、手配をしておきます。』
扉から出ていくソーロウ。
アイコニノニイ・ジャアクは窓から空樹の塔を見上げる。
C8 強権
C9 羽ばたき
セレノイア王国の国王執務室の扉が開き、現れるモンティア。モンティアは深々と頭を下げる。椅子に座るアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『おお、モンティアか。何かあったのか?』
満面の笑みを作り、顔を上げるモンティア。
モンティア『陛下!お喜び下さい!空樹の塔が完成いたしました!』
アイコニノニイ・ジャアク『おお、それはまことか!』
モンティア『はは。真っ先にお伝えし、できれば王に最初の登頂者になっていただきたいと…。』
頷き、時計を見るアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『良かろう。』
一礼するモンティア。
モンティア『では、ささお早く。』
セレノイア王国、最大の高さを誇る空樹の塔を夕刻が染める。ウコッキン株式会社所有のリムジンから降りるアイコニノニイ・ジャアクとモンティア。アイコニノニイ・ジャアクはケレンケンの紋章の巨大タイルを見つめる。
アイコニノニイ・ジャアク『これは粋な計らいをするものだ。』
手を握り合わせこすり合わせるモンティア。
モンティア『それは無論。王の為でございます。』
笑みを浮かべるアイコニノニイ・ジャアク。彼はモンティアとともに空樹の塔の中へ入っていく。空樹の塔のエレベーターの窓から王都セレノイアを見つめるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『美しい。』
アイコニノニイ・ジャアクは道を歩くまばらな人間たちを見つめて、舌打ちし、翼を震わせる。モンティアは彼の方を何回も向く。
セレノイア王国空樹の塔最上階の露天展望台。風を受け前に進むアイコニノニイ・ジャアクを夕日が染める。
アイコニノニイ・ジャアク『素晴らしい景色だな。流石、どの国の塔よりも高い、我がセレノイアの塔だ。』
モンティアは跪き、下を見つめる。足音が鳴り響く。首を傾げ、振り返るアイコニノニイ・ジャアク。空樹の塔最上階の露天展望台に現れるセレノイア王国の議員達とドクガ。彼らはアイコニノニイ・ジャアクを見つめる。
アイコニノニイ・ジャアク『何だ。貴様らか…。』
アイコニノニイ・ジャアクはモンティアを睨み付ける。
アイコニノニイ・ジャアク『モンティア、これはどういうことだ?空樹の塔でこの議員達と引き合わせるとは…ふむ、審議は明日だがな。』
跪き、動かないモンティア。
アイコニノニイ・ジャアク『それに…酒場の女将か。』
ドクガから書簡を受け取るオラオン。
オラオン『ジャアク王!貴族連合より勅命でございます!』
眉を顰めるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『貴族連合だと!』
オラオン『は…。』
書簡を広げるオラオン。
オラオン『…王の位を返上し、自害せよ…と。』
顔を真っ赤にし、血管を浮き出させ、書簡をオラオンから奪い取るアイコニノニイ・ジャアク。アイコニノニイ・ジャアクは書簡に暫し眼を通し、唸り声を上げて破り捨てる。
アイコニノニイ・ジャアク『貴様らぁ!数えきれない戦費を賄い!幾多の戦争に血を輸出した我らを!我ら徒手組をセレノイアの病巣とでも言うのかぁ!』
俯くセレノイア王国の議員達。
アイコニノニイ・ジャアク『この国を守る為に幾多死んだ?後ろの人間どもを守る為にどれ程まで我々がこの手を汚してきたと思っている!人間のために!ああ、人間のために!あの忌まわしい人間の為に!!腐った人間どものためにいいい!!』
顔を歪めるモンティア。
モンティア『陛下!申し訳ございません!私は、私を含め徒手組の者達は古参のあなた方程、人間を憎んではおりません!彼らとて我々と同じ。人間の露骨な排除政策には我々は残念ながら賛同できません!』
眼を見開くアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『なっ…。』
クーマン・ベアード『ジャアク王。下を見ろ。』
空樹の塔から下を見るアイコニノニイ・ジャアク。空樹の塔の下で、徒手組の組合員達が徒手組のソーロウ、モネトカンを含めたおもだった者30名の首を掲げる。笑い出すアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『ケレンケンケンケン!ケレンケンケンケン!もはや趨勢は決まったということだな。』
崩れ落ち、俯くクランケンシュタイン。傍らに駆け寄るドクガ。
クランケンシュタイン『…恩人のあなたにこんなことをしたくはなかった。』
クランケンシュタインを見つめるアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『…そうか、お前が。』
顔を上げ、アイコニノニイ・ジャアクを見つめるクランケンシュタイン。
クランケンシュタイン『なぜ、あなたは武人としての実績、王として相応しい能力も品格も風貌も兼ね備えていた。なのに、なぜ…。』
鼻で笑うアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『それ以上汚い息を吐くな、汚物が!恩人…笑わせてくれるたかが産業廃棄物処理の産業廃棄物め!誰も触りたがらぬ汚物処理に相応しいから生かしてやっただけだ。』
アイコニノニイ・ジャアクはドクガの方を向く。
アイコニノニイ・ジャアク『ふん。そうか。女か。』
2、3回頷くアイコニノニイ・ジャアク。彼はセレノイア王国の議員達を見回す。
アイコニノニイ・ジャアク『この鍛え上げられた肉体も幾多の戦歴も戦傷も、いくらの血を流しても流させても我々は人間の王侯貴族の装飾具でしかないのだぞ。』
セレノイア王国の議員達に背を向け、展望台の縁の方に歩いていくアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『フン、王侯貴族、人間どもの言いなりになるのはくそくらえだ!』
アイコニノニイ・ジャアクはセレノイア王国の議員達の方を向く。
アイコニノニイ・ジャアク『おい、貴様ら。俺は、王位は、返上はせん。永劫にセレノイアに君臨してやるわ!』
アイコニノニイ・ジャアクを見つめるセレノイア王国の議員達。アイコニノニイ・ジャアクはクランケンシュタインを見つめる。
アイコニノニイ・ジャアク『とくと見ておくがいい。飛べない鳥の末路というものを!』
展望台の縁から翼を広げて跳ぶアイコニノニイ・ジャアク。
アイコニノニイ・ジャアク『とうっ!』
唖然とする一同。翼を広げて空樹の塔から落ちていくアイコニノニイ・ジャアク。彼の眼に映るケレンケンの紋章のタイル。大きな音と共に血しぶきが周りを染める。
C9 羽ばたき END
END
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・必要事項のみ記載。 ・グロテスクな描写がございますので18歳未満の方、もしくはそういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。 ・心理的嫌悪感を現す描写が多々含まれておりますのでそれういったものが苦手な方は絶対に読まないで下さい。 |
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