インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#113
[全1ページ]

「これはマズいですね。」

 

真耶は全世界に向けて放送されている『亡国機業からの声明』を眺めながら一人つぶやいた。

 

声明の内容は、ひどく簡単だ。

『自分たちは世界平和のための活動をしている。それに賛同しないのは世界平和への挑戦とみなし武力で制圧する。』

 

…まさか声明を出したその日のうちに武力制圧に乗り出すなんて、短気にもほどがある。

そう声を大にして言いたい真耶であるがそういう文句の類をこぼしている暇は無い。

 

最寄であり、IS発祥の国であり、『何を仕出かすか分からない』の前科がある。

そんな『争いごとになったら真っ先に潰しておくか無力化するべき条件』が見事に揃っている国を見逃してくれるとは思えない。

 

「…とはいえ、出来ることは待つことだけというのは歯がゆいですね。」

 

思わず出そうになった舌打ちを飲み込んだ真耶は代わりとばかりにため息をこぼす。

いくら負けられない勝負だろうとも、そもそもで手札が無ければどうしようもないのだ。

 

 

果たして『手札』の到着が先か、亡国機業の襲撃が先か。

 

胃が痛くなりそうな時間が始まる。

そんな予感を払うべく、先ほど淹れてもらった砂糖増量版ミルクティーに口をつける。

 

「熱っ!」

 

周りから、くすくすと控えめな笑い声が聞こえてきたのが分かった真耶は憮然とした表情を浮かべながら、今度は慎重にミルクティーをそっとすする。

 

胸焼けしそうなくらいに甘いミルクティー。

けれども胸中の『苦々しいナニカ』は中々払われてくれないようだ。

 

――ホント、勘弁してくださいよ。

真耶は、泣きたい気持ちでいっぱいだった。

 

けれども泣くことは誰が許そうとも自分が許せない。

今更かもしれないが――自分は『織斑千冬の代役』なのだから。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

航空自衛隊 百里基地。

 

またの名を茨城空港といい、『首都防衛の要』とも言われるその基地は普段と違った様相を見せていた。

 

人気のまったく無い空港ターミナル。

次々と現れては着陸し駐機場へと向かってゆく軍用輸送機たち。

そこから現れるのは人種も民族もバラバラであるが何れも軍服姿の歳若い女性たちばかり。

 

また、一機の輸送機が着陸して駐機場へと向かってゆく。

 

その中から現れたのは、黒い軍服に眼帯という姿の女性将校たちの一団であった。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 * * *

[side:クラリッサ]

 

案内された基地の中にあるミーティングルームはある種の独特な緊張感に包まれていた。

 

――それもそのはずだ。

 

我々、ドイツの『((特殊任務部隊「黒ウサギ隊」|シュヴァルツェ・ハーゼ))』、アメリカの『((IS特殊戦術開発隊|ISTAD))』にイギリスの『((IS特殊空挺団|ISAS))』。

他には、ロシアやイタリア、フランス。

 

日本の航空歩兵隊の姿が見えないが、ここ百里基地は彼女らの((本拠地|ホーム))だ。

続々と集結してくる各国IS隊の案内や誘導などで駆け回っている姿はちらほらと見受けられた。

 

…と、まあ。

世界各国の有力なIS隊の隊員がこの部屋に集まっているのだ。

その中には過去に((世界大会|モンド・グロッソ))に出場した者も居るのだし、妙な緊張感が漂うのも無理は無い。

 

――これから、何が起こるのか。

 

脳裏に過ぎるのは先の『亡国企業』なる連中の声明演説であった。

世界に対して無条件の恭順を求めるというとんでもないものであったが、ISという強力な力に裏付けられたものである以上、無視できる国は少なくない。

 

そもそもで自国が保有していた((最大戦力要素|ISコア))を返納した先がまるごと『敵』になったのだ。対抗手段など無いに等しい。

 

 

それでも、((わが母国|ドイツ))は返答を保留にした挙句、我々を最も前線に近い場所となりうるここに派遣した。

 

そして、アメリカもイギリスもフランスも、ロシアもイタリアも…ここにいる全員の母国が同じ決断をしている。

 

一体、何が起こっていて、何が起ころうとしているのか。

 

 

 

ガタっ、と椅子を蹴立てる音にハッと我に返る。

 

見ればいつの間にか来ていた航空歩兵隊の面々が入室してきた面々に敬礼を送っている。

 

…どうやら、お出ましのようだ。

 

入室してきたのはIS隊トップ2の鈴代((二佐|ちゅうさ))と一澤((一尉|たいい))。

 

ざわつく室内。

我々も含めたいくつもの視線が向けられる。

 

鈴代二佐が演台の前に立ち、紗紀がその後ろに控えたところで、室内が瞬時に静寂に包まれる。

 

…それも仕方がない。

 

二十代後半というのはIS実戦部隊では最年長に近い年齢層であり、中佐に相当する階級は各部隊長クラスの階級である。

それだけでも畏敬の対象であるというのに、鈴代二佐は元代表候補、それも『((あ|・))((の|・))((織|・))((斑|・))((千|・))((冬|・))と代表枠を争った存在』なのだ。

その意味では、『生ける伝説』と言っても過言ではない。

 

「遠路はるばる御足労頂きありがとうございます。私が、航空自衛隊航空歩兵隊隊長の鈴代です。」

 

そんな、柔らかい物腰での自己紹介に拍子抜けしたように雰囲気が緩む。

―模擬戦でもしていなければ、この優しげな女性が獰猛な笑みを浮かべながら苛烈で精密な銃撃や容赦のない爆撃をかましてくる姿など想像もできないだろう。

 

「本日お集まり頂いたのは、先日の国際IS委員会直轄研究所――元IS学園施設の占拠並びに『亡国機業』なる国際テロ組織の武装蜂起に対しての対処行動のためであります。」

 

演題の後にあったモニターに、光点と矢印の表示された日本近海図が映し出される。

沿岸部にあった光点から矢印が現在は小笠原諸島沖にある光点まで伸びている。

 

説明を聞く限りだと、一つ目の光点がIS学園の場所、二つ目の光点が現在位置らしい。

 

そしてやることは簡単だ。

母艦で可能な限り接近し、そこからISを用いた強襲を仕掛ける。

 

簡単すぎて作戦と呼べるかが心配になる位に判り易いが、問題が無いわけではない。

むしろ根本的な部分に関わってくる大問題がある。

 

スッと、手が挙がった。

 

「何かな、コーリング大尉。」

 

イーリス・コーリング。アメリカの国家代表か。

 

「作戦はよく分かった。どんな馬鹿でも理解できる、端的で簡単な作戦だ。だが、前提条件に問題がある。…違うか?」

 

大尉の、中佐に対する口の利きかたではないが、鈴代二佐はそれをとりあえず置いておくことにするらしい。

 

「作戦に使用するISのことね。」

 

「ああ。ウチもアンタらの所と同じく、保有していたISコアは委員会に返納済み。委員会の発表が正しければ現存する全てのISコアが連中の手にあると言う事になる。」

 

――それで、どうやってISを用意するつもりなのか。

 

「一澤一尉。」

 

そう、集められた私達の心の代弁に対して鈴代二佐は微笑んで紗紀を呼んだ。

 

「はっ。」

 

演台の前を紗紀に譲り、鈴代二佐は少し下がる。

 

「それでは作戦に使用する装備について私、一澤が説明させて頂きます。」

 

スライドが切り替わり、何やら図面のようなものが表示される。

 

モニターだけでなくそれぞれの手元にも空間投射ディスプレイが展開されているために視線はそれぞれ下に集まる。

 

「槇篠技研製次世代型量産試作機『舞風』。基本的な部分に関しては第二世代型量産機とも大差ありませんが、最大の特徴として装甲を含めた各種装備のパッケージ化が挙げられます。これは骨となるフレームの上に装甲を含めた各部品を展開することで運用の柔軟性を確保し全天即時対応を――」

 

食い入るようにモニターを見つめる。

 

槇篠技研といえば篠ノ之博士が所属し、この夏に『第四世代型試作機』を発表した研究所だ。

そこの開発した『次世代型量産機』ということは、第四世代型量産機ということになる。

 

図面の片隅には、おそらくIS学園であろう場所の空を縦横無尽に飛び回る動画が添付されていた。

 

――なるほど。

確かに、いい機体のようだ。乗れるならばぜひとも乗ってみたい、そう思わせる何かがある。

 

だが、問題はその最重要部品なのだ。

公式発表を信じる限りでは、ISコアを保有する勢力は例の『亡国機業』のみ。

 

機体だけいくらあったとしてもISコアが無ければただの置物にしかならないのだ。

 

「なお、本作戦の実施に当たって新造のISコア七〇個が提供されています。各隊に十個ずつ配当しますので作戦に参加する十名の選抜をお願いいたします。」

 

はぁ!?

 

「ISコアを新造だって!?」

 

先ほど質問したイーリス大尉が驚きの声を上げる。

 

他の面々も声こそ上げていないが同じ気持ちなのだろう。

 

ISの開発者、篠ノ之束が発表したISコアの製造限界。

それは素材的な意味での限界を意味したものであり端的に言えば『もう材料がないから作れない』という告白だった。

 

それなのに新造コア?

とてもではないが信じられる話ではない。

 

「これより、駐機場までご案内します。我が隊の者が誘導しますのでご同行をお願いします。」

 

ザッと音を立てて航空歩兵隊の面々が動き出す。

 

「それでは、こちらです。」

 

 * * *

 

案内された先、格納庫の一角にある、厳重な警備体制の敷かれた本来は航空機用格納庫であろう場所には『壮観』というべきな光景が広がっていた。

 

 

置いてあるのはISだ。

 

全体的に見れば日本の暮桜・打鉄((型|タイプ))なのだが、何処かラファール((型|タイプ))の面影もある。

細部を見ればどこかレーゲン((型|タイプ))にも、ティアーズ((型|タイプ))にも、テンペスタ((型|タイプ))にも見える。

 

そんな、搭乗者待ちの状態で並ぶISが、七十機。

 

IS学園でもお目にかかれないような光景に言葉を失っていると、説明役だった沙紀が前に出てくる。

 

「それでは、機体の割当を行います。各隊、十名の選出をお願いします。」

 

途端、いくつもの期待に満ちた視線が集まった。

視線の主は探すまでも無い。なんせここに居る黒ウサギ隊の隊員全員なのだから。

 

――この中から九人を選ぶのか。中々に大変そうだ。

 

新型機、高性能機が羨望の的になるのはどこの国も同じらしく、ちらりと視線をやった他部隊も似たり寄ったりな状態らしい。

ふと目が合ったISASの隊長も困ったような表情を浮かべていた。

 

 

 * * *

[side:   ]

 

海上自衛隊 横須賀基地。

 

旧海軍時代からの拠点である基地はその日、ちょっとした騒ぎになっていた。

 

――『一隻の大型輸送艦が入港してきた』。

 

それ自体はたいした問題ではない。

自衛隊も大型輸送艦は保有しているし、同じく横須賀の地を停泊地にしている米海軍も持っている。

 

騒ぎになる理由はその輸送艦の積荷にあった。

 

 

「来たぞ。特注品の((花|・))((火|・))だ。」

 

港湾責任者のつぶやきは誰にも聞かれることなく虚空へと消える。

 

厳重に梱包された、一辺が七メートルに及ぶ荷物は慎重に、輸送艦から降ろされ運ばれてゆく。

 

――少し離れた岸壁からクレーンの音が響いてきた。

説明
#113:History is not a story they only.


中身に困った挙句主人公が殆ど出てこない罠。
伏線の回収タイミングを考えすぎてるのかなぁ…

そして内容よりサブタイトルに悩む。


追)ハーメルンさんで艦これ小説始めちゃいました。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
1172 1124 2
タグ
インフィニット・ストラトス 絶海 

高郷葱さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com