感謝を君に
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まだ霜月の寒空の下賑わっているのは、異国の珍しいものを仕入れていると言う市だ。隣の清の皿や茶器、装飾品などが出ている品の6割を占めているのだが、残りは全く見たことのない品物ばかりだ。用途不明の小さな輪っかや、何かの神様だろう雰囲気を醸し出す木彫りの像、皮しかない不細工な猫もいると思いきや毛の塊の動物も居た。少し分けてあげればいいのに。

しゃがんで品を眺めているとドンッ、という鈍い衝撃と共に「痛ってぇな!この野郎!」という罵声と拳が飛んできた。拳の方は避けたのだが被っていた笠が飛んでしまった。こんなところで面倒事もごめんだ、鬼月は立ち上がりぶつかってきた男を少しばかり睨んでやる。

 

「こんな人の多い所でしゃがんで品を見ていた俺が悪いがいきなり殴るのはどうなんだ」

 

少し、本当に少しばかり高圧的に言うと、ぶつかってきた男は「つ、次は気を付けやがれ!」と捨て台詞を吐いて人ごみの中に消えていった。

 

「だっせぇな、ほら笠」

 

差し出された笠の持ち主を見ると驚いたことに偽り人である秋津茜だった。本来ならば警戒するべきなんだろうがここで面倒を起こす気はないし、笠を拾ってくれたという事は秋津もそのはずだ。鬼月は渡された笠を大人しく貰い今度はきつく縛るが正直そんなに意味はない。脱獄犯で手配書を広められている可能性のある自分の顔を隠す目的で笠を被っているのだが、鬼月はここに居る誰よりも背丈が高い。先ほどの男とは一尺ほどの差があった。つまり被ったところで身長が高いため顔を隠しきれていないのである。

 

「なんで笠被ってんだよ」

「良いだろうが別に、太陽嫌いなんだよ」

「そこまで日焼けしておいて何言ってんだ、別の理由があるんだろ」

「うるせぇな、絶対に言わねぇぞ。大体なんでテメェがここに居るんだ」

「それはアタシのセリフだ、今日だけでここのつ者二人に会うなんて付いてないよ」

 

ぼやく秋津の顔は苦々しくもどこか嬉しそうだった、何かあったんだろうかと思うもここのつ者と偽り人という間柄では聞き出すような仲じゃない。そもそも鬼月はここのつ者である自覚なんてない、今まで旅費目的で助けた奴らが鬼月をここのつ者だと勝手に勘違いして勝手にここのつ者が集まると言う茶屋に引きづり込んだのだ、鬼月は偽り人で脱獄犯だと言うのに。

 

「どうせアンタも茶店の例の買い出しだろ」

「目的分かってんじゃねぇかよ…」

 

人目を気にしなければいけない鬼月がなぜこんな人の多い所に来たのか、もちろん今度茶店で催される異国の祭りの準備だ。そこでは「ちょこれいと」という異国のお菓子を交換するためこうして異国のものを取り扱う市まで足を伸ばしたのだ。

 

「で、アンタは誰に買おうってのさ」

 

この女ド直球で人が悩んでいることに首を突っ込みやがる…そう鬼月が思った事を秋津が知る由もないが。異国の祭りで渡せる「ちょこれいと」には制限がある。好きな人に想いを伝えると言う祭り本来の意味を優先するならば迷わずに一つだけ買った。しかし常日頃世話になっている親友である鶯花と鶸に渡さないのは絶対に違う。だが二人に渡してしまうと本命のものを買えないのである。どちらを優先するべきか、ここ数日鬼月は頭を悩ませているのである。

 

「あ、分かった、どうせあの女に形だけの愛を送るか、それとも女を捨てて男どもに貢ぐか悩んでんだろ」

「テメェその言い方何とかなんねぇのか、俺が男色趣味に聞こえるだろうが。形だけの愛とか止めろ、それはちょこれいとがそういう形してるだけだろうが」

「だってわたしという女が居るのにお前さま一度たりとも抱いてくれないじゃない」

「気持ち悪ぃ、やめろ、そんな事一寸も思っていないくせに。むしろよく俺相手にやる気になったな」

「正直やってて笑いそうになった、」

「だろうな、余計な御世話だよバカ女」

「で、どうすんだ?女を取るのかい、それとも男取んの?」

「迷ってんだようるせぇな…」

 

頭をガシガシと掻き毟る鬼月を見て秋津はわざとらしくため息を吐く。どうしてこの男はこんなにも頭が固いのだろうか。

 

「アンタ本当馬鹿だな」

「はぁ?ケンカ売ってんのか?」

「あるだろうが、男ども二人に渡して女にも告白する手が」

「いや、ねぇだろ…?」

「……結婚した男女は?」

「夫婦だけど…それが何の関係があるんだよ?」

「これでも分からないとか本当に馬鹿か、その頭飾りなんじゃねぇの?これ以上言わせるなら金取るぞこの不憫野郎」

 

夫婦…ちょこ……そもそもちょこれいとの種類ってなんだ?本命、友、哀れみ……あとなんだ?なんか鶯花がユウに渡すとか言ってたのって…家族………家族?結婚した夫婦…家族…

 

「家族?!な、何言ってんだ馬鹿!そんな、付き合ってもねぇのに家族チョコとか!!」

「だから家族チョコ渡して付き合っちまえば良いだろうが」

「いや、だから家族ってのは付き合ってからで」

「最終的には家族になりてぇんだろ?それに家族チョコにしちまえば男二人にチョコ買えるじゃねぇかよ」

 

確かに秋津の言うとおりだ。朔夜に渡す分を本命チョコから家族チョコに変えてしまえば鶸と鶯花の分を買うことが出来る。それで本当に良いのだろうかと思いつつも、現時点で一番いい解決策が出てきてしまったのだ。どちらを選んでも悩みそうだが、これ以上頭を抱えるのは辛い。いったんここで一休みしてしまおう。

そう思い秋津に礼を言い、鬼月はちょこれーとを買おうと市の商人と交渉し金を払い商品を受け取る。異国できのこと同じ名前のちょこれいとらしい。口触りがなめらかなので気に入ってもらえるだろう。

 

当日鬼月は親友二人にちょこれいとの入った箱を渡して笑う。

 

「鶸、鶯花、いつもありがとうな」

 

説明
眠い中2時間で仕上げたためにいろいろボロボロです大変申し訳ございません…鬼月が友チョコを買う話。
当初のオチは秋津姐さんに財布をすられるでした。

お借りした偽り人→秋津茜
ちょっと登場するここのつ者→黄詠鶯花・砥草鶸・雀崎朔夜
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