訳あり一般人が幻想入り 第24話
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「あれは……」

 咲夜は思わずつぶやく。目の前でマジックショーを見た気分だった。一体どんな仕掛けを使ったのかと問いただしたい。

 今までそこには鈍臭そうな気分の暗い雰囲気を持つ、腹に穴の空いた人間がいた。

 今では誰が見ても危険と感じさせる違った意味で暗い雰囲気を持つ、全く無傷の人間と思しき人物がいた。

 さらに咲夜がつぶやいていたが、あまりの衝撃的な出来事に自身がそれを何と言ったのかさえ覚えていない。

 一瞬、レミリアの顔を見ると唇を舐めながら笑っていた。その目も獲物を見つけた動物さながらに((爛々|らんらん))と輝かせ、小さく口を動かして何かつぶやいた後に唐突に佇む謎の男に向かって接近する。

 咲夜の中で、何もかもが現実とは思えない出来事が続々と起こり頭が混乱してしまう。むやみに近づいてはならないと考え急いでレミリアを止めようと手を伸ばしたが、すぐに手を引っ込める。

 たとえ何があろうとも主人の命を背くことはしてはいけない。そのことは胸に刻んでいる。決して、邪魔してはいけない。再び動き出した時間に自分は脇役でしかない。

 それは、主人が謎の男にふきとばされて城の壁に叩きつけられても、二人の間に入ってはいけないのである。

 

 

 

 

 

第24話 覺醒スル内ニ祕タル牙

 

 

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レミリアが突如冷めた顔で、

 

「もういいわ」 

「グハァッッ!」

 

横谷は塀の壁に向かって叩きつけられ、その衝撃で骨が軋み吐血してしまう。

 

「――神槍『スピア・ザ・グングニル』」

 

 宣言した途端、ハートブレイクの時よりも一回り大きい槍が出現する。レミリアの身長より長い((得物|えもの))を軽々と持ち上げ、槍投げの要領で横谷に向かって一直線に投げる。地面に倒れる前にグングニルがそうはさせまいと、目にも留まらぬ速さで疾走する。

 

「ッッッッッ!!!」

 

 声にならない程の、声にできない程の激痛が腹部から指先に、髪の毛先にまで伝わったのではと思う程の激痛の電流が流れる。

 大量に吐血し服が血の色に染まり、中の筋繊維や内蔵、骨がグチャグチャに壊れて、後ろの壁も人体を貫いた程度では衝撃が和ぐことなく、亀裂が千々に広がりボロボロと崩れる。

 

「ガハッ、グアァ! あ……が、あぁぁぁぁ……」 

 

 口から大量の血が流れ出、痛みと苦しみで脚が立ち続けることを放棄する。口からの息がまともに出来ず、身体も大木並みの重さのグングニルが貫いたままの状態で、動かさないためのかせとなって再度立つことさえも叶わない。

 

「ふん、あれだけほざいた割りには呆気無く終わりそうね」

 

 蔑みの目でレミリアが横谷に近付く。顔を覗くとその目は先程まで射抜くような眼光も、全く光がなくなり、涙を止め処なく流していた。

 レミリアの横谷に対する興味は、完全に消えた。思うようにことがうまく行かなかったことへ業を煮やし、次いであの罵声に抑えていた感情がなだれ込み、興味は雪崩の中に埋もれてしまった。

 

「あなたも馬鹿ね、あのまま怒りに任せて戦えばよかったのに」

「ッッッ!?」

 

 レミリアが貫かれた穴から手を突っ込み入れる。そこからさらに血が溢れだし、痛みが走った瞬間に横谷の意識が飛びそうになる。

 引きぬいた時に横谷の体内に溜まった血が、レミリアの手を染めていた。その手を恍惚と見て、滴り落ちる血を舌で舐めた。

 

「ああ、美味しいわ。やっぱり新鮮なB型の血は癖になるほど美味しいわぁ。特にあなたの恨み辛みの感情が入ったコレは格別よ。非常にまったりとして、味や匂いの濃さが違うわ。何世紀ぶりかしら、こんな味」

 

 以前に居た国での味を思い出し、レミリアは身体をゾクゾクと震わせた。

 

「これならあなたの『力』を見なくても充分よ。最初からこうすればよかったかしら?」

「いえ、むしろこれでよかったのですよ。ワインのように寝かせる分だけ美味しくなるのですから」

「血がワインと同じようにはならないと思うけど、負の感情に満ち満ちた時に栓を開けたのが良かったわね」

 

 レミリアと咲夜の他愛ないやり取りをしている間に、横谷の命の灯火が弱まっていく。

 

 ひゅうひゅうとこぼれ出す血と共に息をして、火を燃焼させるために酸素を肺に送るが、出血し続けたために体内にある血液が生命のデッドラインに差し掛かっていた。

 

「ああ、そうそう。ワインといえばラベルも重要だから、あなたのラベルも保存しないとね」

 

 そう言ってレミリアは、横谷の右腕に飾ってあるラベルに手を伸ばして剥がそうとする。

 

「これはいいデザインだわ。髑髏と水晶……なかなか見る目があるんじゃない? ねぇ、スグル」

 

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『痛ぇ……苦しい……息が、まともに……できねぇ……』

 

 薄れていく意識の中、腹から流れ出る血を見て喉から血がせり上がり、気管を閉じさせる事に息苦しさを感じる。

 今まで味わったことのない激痛に自然と涙が流れる。腹を殴られた時よりも、ストレスで胃潰瘍になった時は耐えたが、内蔵や骨が麻酔なしで壊されて涙腺が刺激されないわけがない。意識が遠のくせいで言葉にできているのかすらもわからない。

 

『……俺……死ぬ、のか……? アイツらの、餌に……なっちまうのか……? 嫌だ、嫌だ、ふざけるな』

 

 ふと、自殺の時も出てこなかった人生の終焉を身体が直に感じる。徐々に痛みが鈍くなり、体の感覚が曖昧になってくる。まるで自分の肉体と精神を、ゆっくりと痛みを感じさせずに剥がされていく気分に陥る。

 

『でも……あいつに目をつけられていた時から、もう死んでいたような、ものだよな……』

 

 周りの音が徐々に弱まっていく。心臓の鼓動音も弱くなり、回数が減っていく。下半身の感覚がほとんど無くなる。視界も漆黒の闇へと飲み込まれる。

 

『逃げる場所が、地獄になるなんてな……どの道行くことには、なってたがヨォ。喰われるのは癪だが……もう……無理だ…………コンティニューなんざ…………ありゃ…………しないんだから……………』

 

 

 

 

『…………お……こぞ…………』

『……あ?』

 

 どこからか酷く砂嵐のノイズが入り混じる、低く響く男性の声がする。

 

『……おい……こぞ……う……』

『あぁ……? 誰だ……?』

『……おい、小僧……』

 

 ひどいノイズは取り除かれたが、声自体がラジオの音源から電話を介して又聞きしているような聞き取りづらさがまだあった。しかし聞き取りづらいその声に、どこか聞いたことのある声のような気がした。謎の声が続けて言う。

 

『……小僧の身体を貸せ……』

『……は?』

 

 現実にゲームや漫画、小説のような鉄板な展開がありうるのか。横谷はまるでおとぎ話の世界――と言うより、もう御伽話のような世界に入っているのだが――に入り込んだ感覚に戸惑う。

 

『おい……誰か知らんがな、この状況見て……よく言えるな。こんだけ……ぶっ壊れた身体取り憑いても……動くとは思えんけどなぁ……』

 

 確かに腹に重い杭が刺さったままで動けず、両手足が折れた状態のままで立ち上がることも困難な身体に取り憑くメリットがないはずだ。

 

『……大人しく、小僧の身体を貸せ……』

『・・・・・・』

 

 しかし謎の声は身体を貸せ、の一点張りだった。とにかく入れ物が欲しいのだろうか。どんな身体でもどんな状態でも、身体という入れ物に入った実感を味わいたいのだろうかと横谷はそう思った。

 

『……さあ、その身体を、貸せぇ!……』

 

 謎の声は声を荒げる。とにかくこの死に体を何が何でも欲しているようだ。

 横谷は致し方なくといったふうに応えた。しかし、答えはとうに決まっている。

 

『……はぁ、わかったよ。どうせ……助からねェんだ……どの道、この身体は……ここの吸血鬼に喰われちまうんだ……』

 

 こんなカラダが欲しけりゃ…………テメェに…………くれてやるッ!

 

 煮るなり、焼くなり、暴れるなり、一生の入れ物にでもしやがれぇ!

 

 

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「!?」

 

 右腕のブレスレットを奪い取ろうとしたレミリアの腕に、誰かの手がそれを阻んだ。その腕は血に濡れてはいた。ブレスレットが付いている右腕と同じような肌色、爪、肉付きだった。

 そのレミリアの腕をつかんだ手の主は、身体が槍に貫かれ、足下には人間には致死量相当の血溜まりが出来上がっていた。頭を垂れて意識が無いことを表し、右腕も運動神経が働いておらずブラブラと脱力している。

 左腕だけが意思を持ったようにレミリアの腕を掴んだ。まるで秘宝を守るガーディアンのように、レミリアの腕をギリギリと万力のごとく掴み、侵入者を阻む。

 

「なっ、何よこの力!? 痛っ」

 

 腕を引っ込めようと腕を動かすが、全くびくともしない。あの時と立場が逆転する。

 

「・・・・・・」 

「きゃっ!?」

 

 無言のまま横谷はレミリアを上空にぶん投げる。レミリアはあまりに突然の出来事に思わず悲鳴をあげる。

 

「お嬢様っ!」

 

 咲夜が叫んだ後、レミリアが、横谷が、雲や風の流れが止まった。木々の一本一本も、時計の針も。ただ一人、咲夜だけがレミリアの元へ急ぎ飛んでいく。

 

 十六夜咲夜。霊夢や魔理沙と同じ只の「能力を持つ人間」。霊夢は「主に空を飛べる程度の能力」。魔理沙は「魔法を使う程度の能力」を持っている。

 十六夜咲夜の能力は、「時間を操る程度の能力」。

 言葉通りの意味で、ある空間の指定したモノの時間を早めたり止めたりする事が出来る。横谷が初めてここへ来た時扉の前で横谷の首に一瞬でナイフを突きつけた時にも、その能力を使い近づいた。

 補足すれば、時間と空間は一対と――時間と空間を合わせて表現する用語「時空」があるように物理学で定められている。つまり時間を操ることが出来ることは、空間を操る事も出来ることと同義だ。

 横谷が紅魔館の広さが、外部と内部とでは違いが生じるのを感じたのも、咲夜が能力を駆使して広くしている為である。

 

 咲夜がレミリアのもとにまで到着し、そのまま抱きしめて、投げる勢いを止めようと図る。

 時が動く。咲夜以外の流動している事が常識の者たちが動き出す。

 

「ぐっ!」

 

 レミリアにかかっていたベクトルは((凄|すさ))まじいものだった。咲夜が抱きしめて重さを増やしてもなかなか速度が落ちなかった。横谷から数十メートル離れたところでようやく勢いが弱まり、堂々と佇む時計塔の前で止まった。

 

「大丈夫ですか、お嬢様!」

「ええ……」

 

 咲夜の気に掛けに素っ気無く答えたあと、レミリアは自身を投げた死に体の人間を凝視する。

 あの男は確かに仕留めた。現に今は身体が動いていない。それ以前にあれだけ身体がボロボロにされては、どの部位も動かすことができないはずだ。

 では何故、左手が動いたのか。何処から腕をギリギリと締め上げ、ここまで飛ばす力が出てきたのか。

 まだ死にたくない、喰われたくない、やられてたまるか、と魂が訴えて精神だけで動かしたのか。それとも、あのブレスレットに触れさせないために無意識に動いたのか。それとも……。

 

 それとも、あの男に宿る『力』が、遂に目覚めたのか……。

 

 レミリアはいろいろな思惑が駆け巡るが、その思惑とは関係なく本能が顔に現れる。顔には笑みがこぼれていた。

 そんな事はどうでもいい。なんにせよ、『お遊び』はまだ続行できる。まだ退屈せずに済みそうだ。

 この私が四肢をへし折って腹に槍を刺した只の人間だった奴に、咲夜を含めここまで投げ飛ばされるわけがない。力が出たのなら、これでようやく本気が出せる。あの身体の状態で私を投げ飛ばしたのだから、少々の本気でくたばりはしないだろう。

 レミリアは『お遊び』の第二幕に心踊らせ、そこから掻き立てるお遊びの光景を想像し、興奮して唇を舌で舐め湿らせる。

 

 それに呼応したのか、横谷は身体にグングニルを串刺しにしたまま立ち上がった。自らの身体を支点とし、スピアーヘッド(穂先の部位)は地面に、バット(石突の部位)が漆黒の闇夜の方に向けていた。

 

「あ、歩いて抜くなんて……」

「……へぇ」

 

 横谷は恐ろしく無表情で、貫かれたところから、口から血が垂れ落ちてもいとわず、グングニルのバットの方向から歩き、グングニルがズルズルと身体から抜いていく。

 全てが抜けきった時、上空を見上げて動かなくなる。そして、

 

「おおおおおああああああああああ!!!」

 

 咆哮。しかしそこには感情が感じられない悲哀とも怒号とも取れぬ、ある種不気味な気分にさせる男の叫び。

 そしてその咆哮に呼応するように、右腕のブレスレットにある水晶が明滅し始める。その光が徐々に強くなり横谷を包みこむほど広範囲に光っていく。

 

「なに、この光っ!?」

「ふふふふ、さあ、早く始めましょうよ。見せてよ、貴方の持っているその『力』を。その『牙』を!」

「あああああああああああああああああ!!!!!」

 

 包む光が凝縮した後、紅魔館全体を照らすほど光が拡散し、同時に突風をも生んだ。周りの木々、庭の草も花もその風に当てられザワザワと音を鳴らす。

 そしてその光と風が時計台とその前の二人にも襲いかかる。強烈な発光と突風に、手を前に持っていき顔と眼を守る。

 

「「ッ!?」」

 

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 それらはすぐに収まった。景色はもとの暗がりの風景に戻り、風も妖怪の山から来る弱く冷たい北風が吹いていた。

 そして、横谷は姿を消していた。代わりに全く違う男が、横谷が元々立っていた位置に現れていた。

 陰鬱そうな長めの髪だったのがやや短めになり、口から鼻にかけては黒い布で覆い隠され、余った部分が北風でなびいている。服装はどう見ても黒の忍者服そのものだった。上も伊賀袴も帯も手甲も((脚絆|きゃはん))も足袋も、家紋もなく、シンプルな漆黒を見に纏い((粛然|しゅくぜん))として立っている男だった。

 腰には忍者刀と脇差サイズの刀、二つの刀を所持していた。

 

「し、侵入者!? いつの間に!? いや、もしかして進化!?」

 

 咲夜のギャグとしか思えない本気の困惑にもツッコミせず、レミリアはその男を見据える。

 

(右腕にブレスレットがある……あれは間違いなくアイツ本人だわ。侵入者でも進化でもない、あれは、取り憑いたと言った方がいいのかしらね)

 

 見るとあの男の右腕には、横谷と同じ髑髏と水晶でできているブレスレットを身に付けていた。

 

「あれが、スグルの力……いや、アイツではない。あの『装飾品』が力を宿しているんだわ」

 

 横谷と同じブレスレットを身に付け、しかし横谷がいた場所には忍者が佇んでいる。もしあれが、横谷の身体に他人が乗り移って成り代わったとしたら。その前の左腕が動いたあの行為が、あのブレスレットを奪われない為に取り憑いたあの男が動かしたのだとしたら。

 その男は普段ブレスレットに閉じ込められて、持ち主が危険な状態になって初めて出てきたとしたら。

 

「このおもちゃに、随分箔が付いたんじゃない? 紫」

 

 羽を大きく広げ、急速に男に近付く。レミリアの眼は獲物を追いかけるライオンの如く、口元が悪魔のように牙をむき出しにして笑っていた。

 男はそれに気づいたのかレミリアを一瞥した後、刀に手を掛けず近くにあった大木一本並の重さを持つ紅い槍に手を伸ばす。

 

「確かにそれなら私に大きなダメージを与えられるけど、たかが人間にそれを持てるかしらぁ!?」

 

 確かに腰に所持している刀では、弾丸のような速さの相手に正確に斬りつけることは難しいだろう。その上どんなものでも弾き返す事ができる羽で、その刀を弾くことも壊すことも容易だ。

 そういう意味でグングニルを用いえば、刀よりは大きいダメージを与えられることは確実だが、人が持つには重すぎる武器だ。

 重量ある武器は威力を特化した分、移動距離が減り、攻撃回数が少なく、そして隙が大きくなる。扱う者も限られ、ましてや忍びにそのような武器を持たせることなど無い。

 そしてこの男が持とうとしている武器は、人には誰も扱えぬ神の武器。人では誰にも持てぬ人間には過ぎた得物。争っている中でそんな物をそれを人間が手にかけることは、相手に背を向ける事と同じことになる。

 男は両手で柄を握る。レミリアとの距離はまだ開いているが、相手は恐ろしいスピードで接近している。男は未だグングニルを持ち上げるどころか、バットの部分すら少しも浮かせていない状態にあった。さらに柄の部分は横谷の血で濡れて滑りやすくなっている。

 

「あっははは! 背中ががら空きよ!」

 

 その間にもレミリアは距離を詰めていく。しかし男はグングニルに苦戦しているのか全くその場から動かない。

 

「馬鹿な人間。夜符『バットレディスクラン――』」

 

 スペルカード名を言い終える前に、重々しく、それでいて鋭く強烈な衝撃音が響いた。レミリアは驚く間もなく地上に落とされ、紅魔館の外壁に激突した。

 

「ぐっ!」

「お嬢様っ!!」

 

 咲夜は顔面蒼白になり、急ぎレミリアのもとに近づき容態を確かめる。外傷は特に酷いものはなかったが、地面に叩きつけられた時と外壁に衝突した時の体内ダメージで、その痛みを沈静化しようと肩を浮かせながら息をしている。

 

「はぁ、はぁ、油断したわ。まさか振り回してしまうなんてね……」

 

 男が手にしたグングニルは、スピアーヘッドは地面に付いているもの元の位置より男を中心にして反対側にあり、柄の部分は男の両手によって持ち上がっていた。

 男はタイミングを計り、グングニルを使って一瞬の内に振り回し、レミリアを打ち落としたのだ。人では持つことが不可能のこの槍を使って。

 男も息使いを荒くし、肩を浮かしていた。一瞬だけだが常人ならぬ力を発揮して、グングニルを使った代償として体力を一気に持っていかれたのだろう。

 

「いいわ、合格よ」

 

 レミリアは咲夜の手を借り、おもむろに立ち上がりながら手を前にかざす。

 すると、男が手にしていたグングニルがガタガタと動き出し、次いで男の手元から離れ、投げた時と同等の速度でレミリアの手元に戻る。

 北欧神話でグングニルは、敵を貫いた後は持ち主のもとに戻るのだという。つまり横谷が腹に風穴を作った時点でレミリアのもとに戻ることもできた。さらに言うならば、この男が持つ前に、振り回す前に引き寄せてあのダメージを食らうこともなかったのだ。

 何故か。理由は簡単、ただただ単純に試したかったのだ。あの男がこの『お遊び』に招待し得る者なのかを。その男は『横谷』なのかどうかを。

 そして先の一撃で、レミリアの中であの男は『お遊びに招待し得る、横谷ではない者』と判別した。

 一瞬ではあるがグングニルを振り回すほどの力を所持している。

 急速に接近しても怖じけない((剛毅|ごうき))さと、その時にレミリアを見据えた眼が修羅か((羅刹|らせつ))のような射抜く眼光。

 横谷には放っていなかった戦慄するような雰囲気。

 横谷よりも確実に骨のある、どこの馬の骨とも知れない輩。本来戦う対象ではないのだが、それがどうしたというのだろう。

 その対象はもうここにはいないし、元より目の前で戦いが繰り広げられようとしていたにもかかわらず、無用な戦いは避けたいという甘い考えで、目の前の相手に背を向け、強引に巻き込ませて多少は粘ったが、結局はここの食料とされるはずだった男の興味はとっくに失せた。

 退屈な日々に刺激をくれる奴なら誰だっていい。特にままごとのようにただ座り、陳腐な演技を加える生温いものではなく、喧嘩のような動きまわり、本能が向き合える熱い『お遊び』がしたいのだ。

 だから今いるこの男と遊びたい。『お遊び』に全力で向かってくれる相手がいいのだ。その相手がいるなら、全力で向かわない奴より余程楽しいはずだ。

 

「もう一度言うわ咲夜、余計な手出しは駄目よ。まだあの男とサシで遊びたいの」

 

 レミリアは手に持ったグングニルを消し、人間には過ぎた神槍を奪われても尚、その場に動かない男を見る。

 

「さっきまでの男はネズミのようにちょろちょろ逃げまわった奴だったけど、貴方はそういう奴でないことを祈るわ」

 

 その言葉と同時に紅い弾幕が創りだされ、その紅い弾幕全てが遠くの男に向かい一斉射出された。

 

説明
◆この作品は東方projectの二次創作です。嫌悪感を抱かれる方は速やかにブラウザの「戻る」などで避難してください。してください
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