インフィニット・ストラトス―絶望の海より生まれしモノ―#114
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「まったく、スコールの奴…」

 

マドカは誰に言うでもなくつぶやいた。

 

――今、彼女が居るのは夜の太平洋上。

 

暗い色に染まった((水面|みなも))のほかは遠くにぽつりぽつりと光る点になった町明かりのみという場所だ。

 

では、何ゆえにそのような場所に居るのか。

 

それは『更識』経由でIS学園側から依頼されたためである。

 

――到着予定の輸送艦が、着岸するまでの間の哨戒と護衛を。

 

その輸送艦の積荷に関して、マドカは何も教えられていない。

 

…だが、いまや『ご禁制の品』となったISを持ち出してまで護衛をする必要がある代物なのだ。

よっぽど大事なものなのだろうことは容易に想像がつく。

 

そして、この依頼をしてきたIS学園はそれを使って亡国機業に一矢報いる気満々なのは又聞きでしか無いマドカにも分かる。

 

きっと、ここぞというタイミングでお披露目するのだろう。

―――どこぞの技術長のような笑みを浮かべながら『こんなこともあろうかと』、と。

 

する側や見てる側からすれば痛快かも知れないが、される側からしたらたまった物ではないだろう。

 

『更識』の保護を受け、学園と敵対しない現状を迎えられたことをマドカは心から感謝する。

それこそ欠片も信じても居ない『神』とやらに、少しくらいなら敬意を払ってもいいと思えるほどに。

 

「…ん?」

 

センサーに反応。

同時に曳航弾らしき光の筋が夜闇を切り裂くように幾筋も延び――、すぐに止む。

どうやら、向こうも『敵』を見つけたらしい。

 

 

「これは、出番かね。」

 

つぶやきながら、右手に((大型狙撃砲|スナイパーライフル))を量子転送しておく。

 

 

使い慣れたエネルギーライフルも量子変換してあるが、それはあえて使わない。

競技用リミッタ解除状態とはいえ、機体のエネルギーは無限ではないのだ。

節約できるところは節約しないと後が怖い。

 

「――こちらマドカ。護衛目標とそれを狙ってるらしい送り狼を発見。これより、戦闘に入る。」

 

そして、『相棒』のスラスター出力を最大へと叩き込んだ。

 

 

 

 * * *

[side:シャルロット]

 

身支度を整え、ついでに移動用意まで整えて。

解散からちょうど一時間後に管制室に集まった僕たちを待っていたのは、またしても『待機』だった。

 

但し、待機場所は自室でもなければ職員室でも、管制室でもなかった。

 

待機場所として指定されたのは、この島に来るときにも使った港。

正確には、その一角にある事務所の一室。

 

周りを闇に包まれたそこで、僕たちはただ刻が過ぎるのを待っていた。

 

 

 

―レトルト食品と缶詰ばっかりな夕食をとりながら。

 

 

「…なんだか、こういう食事も久しぶりね。」

 

「普段は寮の食堂だからな。」

 

「まだ下手だったころは、よくご飯焦がしたりして世話になったなぁ…」

 

ちなみに、しみじみとした感慨深そうな雰囲気でカレーをつついているのが鈴と箒、あと一夏。

 

ちなみに、ご飯はレンジでチンして、カレーはアルミパックごと湯煎で三分というアレ。

 

ちょっと気になって箒から一口貰ったけれど、これが中々においしかった。

 

流石に織斑先生も満面の笑顔を浮かべる特製カレーや寮の食堂で出るカレーに比べられないけれど。

 

「なんだか、不思議な感じがしますわね。」

 

そういいながらシチューとパンを食べてるのがセシリア。

このシチューもレトルトパックを温めたものだし、パンに至ってはなんと缶詰。

 

流石にちょっと独特なにおいがしてたり油っけが強かったりしてびっくりはしたようだけど。

 

「私としては、むしろ懐かしいくらいだがな。」

 

そういうラウラは嬉々としてレトルトパックのサンマの蒲焼を暗緑色の缶に入ったご飯と一緒に食べていた。

――他にも、ラウラの周りにはご飯が入っている缶と同じ色の缶や、蒲焼のレトルトパックと同じロゴの入った容器やらがあって中々にメニューも豊富だ。

 

ラウラが言うには、この蒲焼は宇宙食として今も老骨に鞭打って頑張ってるらしい国際宇宙ステーションで食べられているもので、ご飯は自衛隊が戦闘糧食として採用しているものなのだとか。

 

 

ていうか、

 

「そんなのよく見つけたね。」

 

形成容器に充填されたパックのご飯とかならあったけど、缶詰があるとは思わなかった。

 

「ん?これは私物だぞ。」

 

「へ?」

 

「夏休みに基地祭へ行ったときにな。隊の連中に『土産として送れ』と催促されていたものを自分用にも買っていたが中々食べる機会が無かったのだ。」

 

だから、せっかくの機会にと持ち出してきた。

そう胸を張るラウラのほっぺにはご飯粒がついていた。

 

「そ、そうなんだ。」

 

「む、もしや戦闘糧食だと、宇宙食だと馬鹿にしているのか?」

 

僕の若干引き気味な反応はどうやらラウラのナニカを逆撫でてしまったらしい。

 

というか、夏休み中にそんなとこ行ってたんだ。

 

「日本の戦闘糧食は合同演習をすると必ず『食事は日本の戦闘糧食もしくは野外炊具を用いて――ともかく日本製で』と要望されるくらいに他国軍にも人気なんだぞ!それにこの宇宙食は次に来る者の分が置き土産だと間違われて他国のクルーに食べられるという事件があったもので―――」

 

僕は自分の手元にある焼鳥の缶詰めをおかずにパックのご飯を食べながら妙に熱くなってるラウラのレトルト食品談義、題して『日本、食の変態伝説』を聞き流す。

 

――簪と本音は今頃何してるのかな。

 

箒に言わせると『ここ最近はいつものこと』という簪と本音の不在。

聞いた話によるとこの島の持ち主が簪の親戚らしいし、そっちにでも行ってるのだろうか。

 

「おい、聞いているのか!?」

 

「はいはい、聞いてるよ。」

 

そのときだった。

 

暗かった外が突如として明るくなる。

 

外の様子を伺うと港を照らす照明が煌々と照っていた。

 

「入港してくるようだな。」

 

ラウラの言うとおり、港の一角に大型輸送艦が着岸する。

その様子を見守るかのように、少し離れた沖で三隻の駆逐艦らしき艦影がさかんに探照灯を今までたどってきたであろう方向に向けている。

 

「これは、どうやら揉め事らしいぞ。」

 

ラウラのつぶやきは、さっきまでレトルト談義に熱を上げていたとは思えないほどに冷たかった。

 

 

 

――ほどなくして、山田先生が駆け込んできた。

 

「皆さん、輸送艦へ乗艦をお願いします。」

 

「あの、よろしいのですか?」

 

山田先生からの指示に疑問をはさんだのはラウラだった。

 

「何がですか?」

 

「輸送艦とはいえ、軍艦に他国の人間をそう易々と乗せていいものでは…」

 

「緊急時ですし、いざとなってもどうにでもなりますから。」

 

「は、了解しました。」

 

今にも敬礼をしそうになるラウラに続き、みんなが動き出す。

 

食事の後片付けはほぼ終わってる。

あのマナーとか礼法にうるさいセシリアすら、照明がついたあたりでシチューをかき込み食事を終わらせている。

 

――この『非常事態慣れ』は喜ぶべきか嘆くべきか。

 

「シャルロット、置いていくぞ。」

 

「あ、ごめん!」

 

少し先で待ってくれていたラウラを追いかけて、ところどころに焼け焦げたような跡が残る輸送艦のタラップに足をかけた。

 

 * * *

 

案内された先は、格納庫だった。

 

「はろはろー、みんな元気?」

 

そこで待ち受けていたのは、どこかやつれた様子の篠ノ之博士だった。

 

化粧でごまかしているみたいだけど、ごまかしきれて居ない疲れのようなものは見えてしまっている。

 

――だからだろか、一夏と箒が物凄く心配そうな顔してるのは。

 

「束さん、非常時なので手短にお願いします。」

 

「ん、りょーかい。それじゃ、コンテナ開封するよ。」

 

篠ノ之博士が手元に投射したコンソールを操作すると、すぐ奥の大きなコンテナの扉が開く。

 

その中にあったのは――

 

「あーーー」

 

それは、誰がこぼした声だったんだろうか。

 

一夏のものでも、箒のものでも、セシリアのものでも、鈴のものでも、ラウラのものでも、そして僕のものでもある、こぼれるような声。

 

コンテナにしまわれていたのは、七機のIS。

 

カシュ、という圧縮空気の放出される音とともに、主を待つそれは、見慣れたようで、なんだか新鮮で、随分と長いこと見てないような気もする―――

 

「ちーちゃんからの預かり物だよ。」

 

僕たちの、((IS|あいぼう))。

 

 

 

思わず、目じりが熱くなりそうになるのをぐっとこらえる。

 

国際IS委員会が『全て回収する』と言ったISコアがここにあるのだ。

絶対に、何かしらの問題があるに違いない。

 

「感動のところ申し訳ないのですが、早速お仕事です。」

 

案の定、山田先生の声がかかる。

 

「艦長さんによると、ここにくる途中で襲撃を受け、護衛の半数と来援した一機のISが襲撃者の足止めをしてくれたそうです。」

 

「では、その救援を?」

 

「はい。見殺しにできませんし、手を出してきた以上は殴りかえさざるを得ないでしょう。」

 

ニコ、といつもどおりな笑みを浮かべる山田先生だけど、今はその笑みがなんだか恐ろしい。

 

「機体の調整は篠ノ之博士にお願いしてやってありますから、最終的なマッチングを移動中に行ってください。教員部隊と更識さんも後から現場に向かいますが…」

 

「救援は急いだほうが良いだろう。特に護衛艦が心配だ。」

 

「無事だといいが…」

 

そんな、話をしているけれど、その間にみんなして待機状態のISに乗り込む準備を整えている。

 

といっても、制服を脱いでISスーツ姿で乗り込むだけ。

 

カシュ――と再び圧縮空気の音がして待機状態だった相棒が目を覚ます。

 

 

『――System Check.........Ok』

『――Fire Control.........Ok』

『――IFF..................Ok』

『――Core Network.........Online』

次々とチェック項目がOkに変わってゆく。

 

 

『――((Bienvenue a nouveau|おかえりなさい))』

 

最後に表示されたその一行は、思わず涙が出てきそうだった。

 

まるで、永いこと会えなかった親友に、笑顔で迎えてもらったように。

 

だから、僕はこう答えるんだ。

 

「――ただいま、ラファール。」

説明
#114:火蓋は切られた


勢いに任せて更新。

なんか、ラウラをまた新しい一面に目覚めさせてしまった気が…
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コメント
元々が『むら』を単位にして集団で農耕してた民族ですからね。そして、イギリスの政治家の言葉を借りて要約すると『普段おとなしいが、一線を越えると激怒する』という爆弾みたいな側面ももっているらしい・・・(高郷 葱)
『個』はそうそう表に出さないくせに、妙なところで『我』が強いのが日本人……。創作上のことも含むとはいえ、本当に奇妙な国民性ですよね。(組合長)
『大抵のことには寛容。でも食が絡んだり限界まで追い詰められると本気出して何しでかすか分からない国、日本』という認識の元この小説はお送りしてます。(高郷 葱)
食という点において一切の妥協をしないのが日本という国(タイプ・マァキュリー)
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インフィニット・ストラトス 絶海 

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