ヨリコとみちよの非日常的日常1 「テレパス恐怖症」
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 おかしい。

 

 絶対におかしい。

 

 みちよの挙動がどうも変だ。

 

 通学電車の中、どうも落ち着きが無い。

 おどおどしていると言うか、こう、何かにおびえているようなふう。

 

 みちよというのは、あたしの小学校低学年からの幼なじみ。

 関西から転校して来た彼女とは妙に馬が合うというか、すぐ仲良しになった。

性格なんてぜんぜん違うのに。そんな関係。

 

 小、中、高とエスカレーター式の学校だったから、ずっと一緒。

 黒髪のロングヘアーには見事な天使の輪。黒くて綺麗な瞳。笑うと右ほほに

できるえくぼ。

 会った時から「この子、将来、絶対美人になるぞ」と思ってたけどホントに

なっちゃった。

クセっ毛ライオン髪のあたしとしてはちょっと羨ましかったりする。

 

 それはいいとして、今日の彼女。

 

 何か、ある。

 

 あたしたちは割と早めの電車に乗るので、そんなに混んでいないから

痴漢の心配も無いはずなのに。

 

 だとすると、やっぱり、あれか。

 

 この時間なら、2、3本電車遅らせても余裕で学校には間に合う。

 

 「みっち!、ちょっと次の駅で降りるよ!付き合いな!」

 

 えっ、えっ?と言う感じの彼女の手を引いて、ちょうど停車した駅の

ホームに下りる。

 

 「まあまあ、座りな」

 「う、うん」

 ベンチへ座らせる。

 

 自販機へ行く。

 チャリチャリ、ゴトン

 

 タンッ!

 彼女の好きなレモンスカッシュ缶をベンチの上に置く。

 

 「まあまあ、飲みな」

 「う、うん。ありがとう、おおきに」

 

 プシ!

 缶の開けて、彼女、ひと口、ふた口。

 

 「落ち着いた?」

 「え?う、うん」

 

 すううぅぅ。

 大きく息を吸い込むあたし。

 

 ダンッ!!

 と、ベンチを叩く。

 

 「みっち!今度はいったい何を読んだっ?!な・に・を・っ!!」

 「わあん!ヨリちゃん、かんにん!」

 

 みちよは頭を抱えて縮こまる。

 

 彼女は非常に多趣味であるが、その一つに読書がある。ただ、困ったことに、

時々読んだ本の世界と現実をごっちゃにしてしまうという妙な癖があるのだ。

 よく小さい頃、こわいお話を聞いてトイレにいけなくなっちゃうことが

あるけれど、彼女はそれを高校まで引きずっているわけ。

 

 話を聞くと、新井何とかと言う人のSFを読んだらしい。生まれたときから

人の心を読むことの出来る女の子が、成長するにつれ心が歪んでゆき、

最後には精神をパンクさせてしまうと言うストーリー。これは怖い。

 

 「もしこの電車の中にテレパスがおって、ウチの心、のぞいてるかもと

思たら、なんだか恐いねん。ウチかて、心、人に覗かれても平気なほど

きれいやとは言えへんし」

 

 素直な娘。

 

 こういうところが好きだ。でもこの娘の心が覗けたら、色とりどりの

お花畑にチョウチョが飛んでいるのが見えると思うぞ。たぶん。

 

 「何言ってんのよ、大丈夫、へーきへーき。テレパスなんているわけないし、

いたとしても、何百人も乗っている電車の中でみっちの心だけ読み取る

なんて出来るわけ無いじゃない。心配ないって」

 「そやろか・・・」

 

 彼女はあたしに言われて、安心したようだけど、まだちょっぴり不安そう。

 

 「ささ、飲み終わったら、次の電車で行くよっ」

 「うん」

 

 パァン

 電車が来た。

                 *

 

 その日の帰りのことだ。彼女はあのえくぼであたしに言った。

 「なあ、ヨリちゃん、ウチええ事考えた」

 「ん、何?」

 「あのな、電車に乗るとき、頭の中、真ぁっ白にしてったらええねん。

 テレパスがおって心の中読もうとしても真っ白だからわからんへんやろ?」

 

 いろいろ考える娘だ。

 でも、頭の中真っ白にするってどうやってやるんだろう。でも、彼女なら

なんとなく出来そうな気がした。いや、やってのけた。

 

 帰りの電車の中。

 ぼーっとしてる彼女。いや、ぼーっとしているという間抜けな感じじゃなくて、

まるで精神活動を止めてしまった感じ。無言、無表情なマネキンのよう。

 あたしは電車の中、なんだかちょっぴり寂しい感じで彼女のお人形のような顔、

見てた。そんな毎日が週末まで続いた。

 

 翌週、月曜日。

 

 「ヨリちゃん、やっぱり、あかんわ」

 

 みちよが、言う。

 

 「どしたの?」

「一人で電車に乗ってるとき、頭の中真っ白にしてたら、降りなきゃいけない駅、

通り越してしまうねん」

 

 あたしはコケた。

 確かに違いない。あたしは終点の駅まで行ってしまい、あわてて折り返し電車に乗り、

また同じことを繰り返している彼女が頭に浮かんだ。

 しかし、彼女はめげていなかった。

 

 「それでな、またええこと考えてん」

「今度はどんな?」

 「あのな、電車に乗るときは、やっぱり頭の中真っ白にして乗るねん。そしてな、

しばらくしたら頭の中でおもいっきり大きな声で、『キャー!』って叫ぶんよ。

もし、その電車の中にテレパスがおったらびっくりするやろ。テレパスさん、

みーっけ、や」

 さらにあたしはコケた。テレパス見つけてどうするのとツッコミたかったけれど

出来なかった。彼女のえくぼがそれを許してくれなかったから。

 

                *

 

 それから1週間、彼女はそれを実践したらしい。らしいと言うのは、あたしは

部活の遠征で他校へ行っていたのだ。

 遠征帰り初日の登校前の朝、彼女はなぜかわたしの家へ迎えに来て、玄関で

涙をいっぱい溜めたあの瞳でこう言った。

 

 「ヨリちゃんー、電車通学やめてバス通にしよ。な、な?」

 「え?い、いったい急にどうしたのよ」

 

 彼女の言うにはこういう事だ。

 ある日、彼女が頭の中でいつものように『キャー!』と叫んだところ、電車の

隅にいた一人の神経質そうな男の子が反応したというのだ。

 彼女、「うふふ、みっけた、テレパスさん」と思おうとしたのですが、

心を読まれると困るので真っ白にしたままその電車を降りたという。

 

 しかし、その日を境にして電車の中で彼女の心の叫び(?)に反応する人が増えて

ゆき、昨日などはその車両のほとんどの人がびっくりして、きょろきょろした

というのだ。

 

 「みっち、ほんとに声だして叫んじゃったんじゃないの?」

 

 ふるふるふる!

 彼女、首を振る。

 

 「あんなにぎょうさんテレパスおる電車に乗るの恐いんよ。だからバスにする。

学校行くとき一緒にバスにしよ?な?」

 「う、うん。そのほうがいいね」

 

 バスにしたところで問題は解決するとは思わなけいれど、彼女がそれでいいと言うん

だから、いいのだ。

 

                *

 

 それからしばらくして。

 彼女が乗らなくなった電車。

 車内の週刊誌の吊り広告に、こんな見出しが載った。

 「××線の怪!!白昼の車内にこだます女性の悲鳴・・・自殺者の霊か?」

 

                *

 

 彼女は今、ちゃんと電車に乗っている。立ち直りが早いのも彼女のいいところ。

 「コーデリアってええ名前よね?」とか、最近はモンゴメリを再読しているようだ。

そのうち、その辺の道に妙な名前をつけ始めるに違いない。

 でも、こんな彼女だから、あたしは気に入っている。

 

       お し ま い

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仲良し二人の不思議な日常 その1
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