The Duelist Force of Fate 25
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第二十五話「転轍者の未来」

 

世の中にはどうしようもない事がある。

人は死んだら生き返らない。

在った事を無かった事には出来ない。

どんな力を持ってしても時間は巻き戻らない。

だから、人は考え、より良い結果を求めて行動する。

しかし、魔術師の世界にはそんな「どうしようもない事」に対して例外が存在する。

魔法。

そう呼ばれる魔術師ですら羨む奇跡。

失われたモノもあれば現存するモノもある。

が、その内で最も勇名を馳せるのは人が科学において望んだ理不尽。

時間旅行(タイムトラベル)。

SFにおいてこれほどに愛される題材もない。

魔術師達には程遠い科学の世界において実現不可能ともいつか実現されるとも論じられる技術。

その能力の現物が実在するだけで魔術を科学より上位に位置付けしようとする者もいる。

いつか科学が追いつく日まで魔術が先を行く領域にある力。

それは理不尽の塊で世界を変えるに足る。

【ドロー】

月明かりの下。

彼は最初の一枚を引いていた。

「へぇ、これが貴方のスタイルなのね」

身動きが取れないまま固まった紅い髪の女魔法使い蒼崎青子が素直に感心した様子を見せた。

【手札より魔法カード『一時休戦』を発動。このカードの効果により互いにカードを一枚ドローする。相手ターン終了時までに発生する互いのダメージは全て0となる】

「魔力ありがと」

己の内に魔力が湧き上がるのを感じて青子はまったく動じた様子もなく微笑む。

【自分フィールド上のカード一枚を手札に戻して墓地から『BF-精鋭のゼピュロス』を特殊召喚】

彼の足元が爆発し彼が数メートル背後に着地する。

爆発した足元から黒羽を纏ったモンスターが現れた。

【この時、自分は400のダメージを受ける】

しかし、『一時休戦』の効果で一切のダメージはない。

【カードを四枚セットしてターンエンド】

エンド宣言と共に青子の動きが戻る。

「自分のターン中は相手に動かせない・・・か。面白いじゃない」

まるで能天気な答え。

その微笑みを彼は偽装では無いと感じた。

強者の余裕。

それもあるだろうが単純に性格かもしれない。

初めて出会った魔法使いを前にして、彼は不動。

【――――!!?】

「行くわよ!!!」

青子が彼の前にいるゼピュロスへと腕を向ける。

呪文の高速詠唱。

蒼い光が迸った。

膨大な熱線がモンスター共々彼を飲み込む。

「ついでもうもう一丁!!!!」

ゼピュロスが光の中に融け崩れた次の瞬間、彼のどてっ腹に高速で突撃してきた青子の拳が入る。

「吹き飛べッッ!!」

掌が輝いた。

モンスターを一撃で破壊した攻撃が零距離で彼を飲み込んだ。

勢いもそのままに彼が高速で路地裏から表通りへと吹き飛んでいく。

表通りの店舗の一角に彼がぶち当たった。

それを追って一撃しようとした青子が誰もいない通りの最中、彼の数メートル前で止められた。

ギチギチと拳がそれ以上進まなくなる。

「攻撃は自分のターンに一度ってところ?」

拳をあっさりと引き、余裕の笑みを崩さない青子が後退する。

街には明かりが点っている。

しかし、そこには人の息吹が無かった。

「いつの間に人払いなんてしたんだか」

魔法使いとしての苦笑が青子の口から漏れる。

強大な力を使用している人間達は基本的に他者を省みない。

魔術の隠蔽の為に魔術師がその力を見られれば、見た人間を処分するのが普通だ。

それが嫌なら隠蔽工作するものだが、その隠蔽する瞬間がいつだったのか。

青子には解らなかった。

彼がどういう力を持っているのか。

正確には把握していない青子にとって、彼の戦場を整える手際は賞賛に値した。

青子本人が破壊活動以外に向かないというのもあるが、それにしても鮮やかな手並みだった。

「そんなところで油売ってなくてもいいわよ。まだまだやれるわよね?」

【・・・・・・】

「もしも自分がモンスター扱いだったら即死だった? それって褒められてるのかしら?」

彼が店舗の内部から公道へと出る。

 

――――彼をデジャブが襲った。

 

人通りの無い一本道。

外灯が照らし出す道の中、風も無いのに紅い髪が靡いていた。

【敵能力を確定】

彼が再び彼女の数メートル手前に立つ。

【カード効果の発動及びセット・モンスターが召喚・特殊召喚・反転召喚・リバースした時、そのカード・カードの効果を過去・未来の任意のターンへ送る事が出来る。プレイヤー及びフィールド上の状態を過去・未来のターンへ任意に移行出来る】

絶望的な能力だった。

「へぇ、凄い。今度はもう看破したわけ?」

彼が青子の言葉に目を細める。

【・・・・・・】

「これで看破したのは【何度目】か? ふふ、どう思う?」

サラリと言われた言葉は致命的。

彼が己のデッキを見る。

明らかに使用してもいないデッキが減っていた。

いや、厳密には【巻き戻されていない彼が使った】のだろうが、それを彼は記憶していない。

「それにしても宝具ってのはやっぱり特別なのね。結局、使った分はデッキから減っちゃってるみたいだし」

【・・・・・・】

「あれで【何回目のスタート】だったのか? そういうとこまで解ってるなら話は早いわ。降参する気があるなら、今からでも遅くないわよ?」

青子がいつの間にか【半分程に減っている魔力】のまま彼に近づく。

「あのカードを渡してくれるなら、これ以上の危害は加えない。約束してもいい」

彼が首を横に振る。

「そう。なら、『最初』まで行くわよ!!!」

彼の思考が次の手を考えるより先に青子の魔法が発動した。

【罠(トラップ)カード発動(オープン)!!!!】

彼の場に伏せられたカードが起動する。

青子の魔法が如何に絶望的なものであろうとDuelである以上はDuelの形式における能力に過ぎない。

魔法である事に変わりがないなら、それはカードによってチェーンを生む。

処理を必ず行う。

彼が反射的に全ての罠を開放したのは決して間違ってはいなかった。

現に彼が知らないDuelの痕跡は確かに存在する。

青子の魔力がいつの間にか減少していた。

未来での痕跡が少なからず確かに青子を疲弊させているという現実に彼が勝機を見出す。

【宮廷のしきたり】

「未来に送らせてもらうわ!!!」

励起した魔力が青子から立ち上り、魔法が発動した。

だが―――その魔法が使用者の意思と反して、止まる。

(また・・・やっぱり魔法すらこの空間のルールに従ってる・・・)

青子の顔に僅か苦いものが混じる。

それまでのDuelが脳裏に甦った。

最初の失敗はあるモンスターを彼に召喚させた事だった。

【光と闇の竜】

あらゆる魔法を無効化する化け物を相手に何度も魔法を使わされた。

形勢が苦しくなった時点でフィールド上の時間を逆行し、Duel開始時まで持ち込んだものの、やはり手札がある限り彼は強く、青子が思う程有利に戦闘を運べていなかった。

問題は幾つか存在する。

まず一つ目はDuelにおいて魔法の発動タイミングがシビアである事。

青子は最初気付かなかったが、魔法に対して【チェーン】というものを組まれる可能性が常にあった。

セットされたカード群から後の先で先取りされる効果は極めて危険。

【光と闇の竜】を何とか倒せたのはその効果が同一【チェーン】上複数回乗らないと気付いたからに他ならない。

セットされたカードをその場その場で破壊するか未来へと飛ばす事で何とかなると思っていたものの、そう事は上手く運ばない。

伏せれば未来に送られるとたった一度見ただけでバレれば、手札あるいは青子には認識できない墓地からカードの力が発動した。

魔法カードを幾つもチェーンさせ、魔法での干渉を防ぐ事すらあった。

結局のところ青子の魔法はフィールド上の時を巻き戻さざるを得なくなった。

一定空間内部の時間を巻き戻すのにはそれなりの魔力がいる。

疲弊は許容せざるを得ない。

更に問題はフィールド上の時間を巻き戻して戦う毎に能力の看破が早まった事だった。

相手そのものの時間を戻せば、敵に魔法の能力を気付かれないまま戦えるという目論みはすぐに崩れ去った。

それでも勝ち筋は見えていた。

問題は手札の枚数。

無数に組まれるチェーンに魔法を重ね続ければ、やがて相手の手札は枯渇する。

枯渇すれば相手にはこちらと戦うだけの戦力は残らない。

実際に相手の手札全てを使い切らせる寸前まで戦いは縺れ込んだ。

だが、最後に残った罠が発動する前に青子はフィールド上の時間を巻き戻した。

彼が使おうとしていた最後の二枚が何か致命的なものだという予感があった。

戦えば戦う程に見えてくるのはカードの多様性。

魔法の連続発動を封じるカードが一枚でもあれば、そして・・・そのカードがチェーンに乗って飛んでくる事があれば、魔法すら使わせずに彼は魔法使いを粉砕する。

結局、青子は最も安全な勝ち方を選択させられた。

フィールドの時間を巻き戻した際に彼へ発生するディスアドバンテージ。

それは使用したカードは時間が巻き戻るとデッキから消費された扱いになっているという事。

手札及びフィールド上のカードは巻き戻された時間軸上には存在する。

しかし、発動・召喚されたカードは消費された扱いとしてデッキから消え失せる。

たぶん、魔法とDuelという力の拮抗がそうさせている。

時間を戻そうとも確かにDuelでカードを使ったという事実は消えない。

しかし、時間軸上はカードが其処に存在していなければならない。

そんな矛盾の矛先がデッキに向いていた。

つまり、限界までカードを消費させる事が出来れば、デッキ切れにより彼は戦闘すらできずに負ける。

青子の狙いはほぼ達成されていた。

問題は青子の魔法への看破速度がもはや1ターンという事。

必ず気付かれるならば、もはやデュエル開始時に場を戻し、相手のデッキ切れを待つのは必然の戦法だった。

相手の手札二枚。

残りデッキはもう数枚を切っている。

故に伏せられた四枚を消費させ時間を巻き戻せれば、その時点で彼女の勝ちは確定したも同然。

【チェーン『ポール・ポジション』フィールド上で攻撃力の一番高いモンスターは魔法の効果を受けない!! このカードがフィールド上に存在しなくなった時、フィールド上の攻撃力の一番高いモンスターを破壊する!!】

「!?」

青子が一瞬、魔法の使用を躊躇った。

あまりにも拙い状況。

モンスター呼ばわりされるのは心外だったが、魔法の効果を自身が受けなくなれば、危険なのは目に見えていた。

そして、まだ隠されているカードの効果如何によっては敗北は目前。

青子はカード及びカード効果を未来に送らず、重ねて魔法を発動した。

―――そして、彼が更なる罠を起動する。

【チェーン『極宝星レーヴァテイン』このターンにモンスターを戦闘破壊したモンスター一体を破壊する。この効果に対して罠・魔法を発動する事は出来ない】

(チェーンを組めない!?)

虚空に浮かび上がる巨大な剣が吸い込まれるように青子の胸へと迫る。

魔法が発動せず、自身を別の時間軸に逃がそうとする事も出来ない。

その事を悟って拳で迎撃する事を選んだものの。

ドズン。

そんな音を立てて宝剣が青子の胸に埋まった。

【相手モンスター一体を破壊!!】

そのまま倒れ臥す魔法使いは自分の敗北と勝利を確信する。

「これが切り札・・・確かにこれなら・・・私だって倒せるわよね・・・」

【?!】

死に往くはずの青子の言葉に彼が不穏なものを感じ取る。

「もう、魔法は発動し、効果は解決される。だから、貴方は負けるわ。【過去の私に】」

そのまま刻を操る魔法使いは失血死した。

 

【Duel!!!】

 

「――――?!!」

彼をデジャブが襲った。

酷い乗り物酔いのようなふらつきを覚えて、彼が気付く。

自分のデッキに殆どカードが残っていなかった。

「どうかしたのかしら」

「・・・・・・」

「これで何回目か? それを聞くのもお終いって思ったら少し感慨深いかもしれないわね」

笑みを零した青子に彼は『未来(かこ)の自分がどれだけの死闘を繰り広げたのか』理解した。

「・・・・・・」

「正直言って此処までこれたのを自分でも不思議に思ってる」

「・・・・・・」

「貴方はよく戦ったわ。私を倒しもした。けど、此処にいる私を倒す方法を貴方はもう持ち合わせてない」

「・・・・・・」

「何故分かるのかって? 貴方のデッキの切り札を受け続けたからに決まってるじゃない」

「・・・・・・」

「確かに無事であるはずがない。ええ、だから【未来の私】は幾度も死んだ」

「・・・・・・」

「でも、貴方なら分かってるはずじゃない? 今、此処に私がいるという事がどういう意味か」

彼が全てを察して目の前の魔法使いを見つめた。

刻を操る能力。

想定された敗北の一つ。

その理由が彼の目の前にあった。

「そうよ。私は貴方のデッキの内容をほぼ全て把握した。だから、今私は此処に立ってる」

【能力を推定。未来の情報を過去に送る】

時間を操る力の内で彼が最も恐れていた事が現実になった瞬間だった。

「例え、未来の私が倒れても過去の私に情報を送る事が出来るなら、どんなコンボで戦おうと決して貴方が勝つ事はない」

彼は自分のデッキが減った理由を即座に看破する。

そして、目の前の魔法使いが本当の意味で強敵になったのだと理解した。

「どれだけ優れた力も最初から全てを理解しているなら、攻略法は存在する」

刻を操る魔法。

その本当の真価はカードや効果を過去や未来に送る事でも、フィールド上の時間を巻き戻す事でもない。

相手の戦術の全てを先んじて知る事が出来るという一点に尽きる。

それは言うなれば究極のピーピング効果。

そして、それにDuel原則上のデッキデスが加わった時、本当の絶望は完成する。

 

未来からのピーピングとデッキデスを防ぐ手段などDuelには存在しない。

 

「・・・・・・」

「これだからピーピングとデッキデスは恐ろしい? それで貴方はどうするのかしら?」

彼が空を見上げる。

月は今も変わらず世界を照らしていた。

どれだけの時間Duelしていたとしても、彼にとって始まったばかりの戦いはドローした瞬間に終焉を迎える。

ラスト六枚。

最初のドローにおいてデッキは零となる。

如何な彼もこの後に及んで時間を巻き戻されれば、デッキからドローできずに負けるしかない。

「あのカードを渡しなさい。それ以上を私は望まない」

彼はただ首を横に振った。

未だ五枚のカードを引いていない。

そして、自分はDuelを始めていない。

だから、負ける為にサレンダーするなんて事はしないと。

「そう・・・残念」

最後の一戦。

その始まりの五枚が静かに引かれた。

「なら、ドローした瞬間に魔法を発動させてもらうわ。これが最後・・・思いっきり派手に行くわよ!!!!」

 

彼はただ無心に切り札を引いた。

 

負ける為ではなく。

 

勝つ為に。

 

例え、どんな理不尽が立ち塞がろうと。

 

その手で未来を切り開く為に。

 

――――――ドロー。

 

彼を蒼い光が、球形の魔法陣が包み込む。

 

周囲を闇が閉ざしていく。

 

「手札からチェーンを組んで発動しないの?」

 

無数の光弾が青子の周囲から湧き出し、彼へと殺到した。

 

速攻魔法ならばチェーンが出来る。

 

手札の「禁じられた聖槍」さえ発動したならば、そのターンを凌ぐ事は可能。

 

だが、そんな事に何の意味もない。

 

「これでッッッ!!!」

 

膨大な蒼い光の本流が彼を呑み尽し。

 

 

――――――――――――――――――勝敗は決した。

 

 

「どうして・・・・・・」

暗い闇の奥底にいるかのような錯覚を覚えて青子が拳を握る。

目の前で何が起こっているのか分からなかった。

新たなカードの効果かとも思ったが、その発動を自身は感じ取っていなかった。

「・・・・・・」

「唯一勝つ方法を私が逃した? 面白い冗談じゃない」

「・・・・・・」

「ただガムシャラに攻撃されカードの効果を未来に送り続けられたら負けてた? 魔術師として戦ったからこそ私が負ける? 訳分かんないんだけど」

ズン。

「?!!」

青子が不意に圧力(プレッシャー)を受けて飛び下がる。

「どんなカードを隠してたかは知らないけど、カードは伏せられてない。そして、手札から発動したならば過去にこの場を戻すだけで全てが終わる。過去に情報を送るまでもなく。残念だったわね。決闘者さん」

青子の魔法が発動した。

 

巻き戻ったはずの戦場は闇に閉ざされていた。

 

「何が・・・起こってるの・・・?」

目を見張った青子は先程とまったく変わらない位置に佇む彼を見つける。

「・・・・・・」

「私が撃破されても効果で過去に情報を送ってDuelできていたのは特殊裁定? 何よ裁定って?」

莫大な破壊の光が激流となって彼を飲み込む。

「?!」

その光の中で青子は・・・見た。

光が収束する。

 

【封印されし者の右腕】

 

いつの間にか。

彼の手札にはカードが一枚あるだけだった。

暗闇の背後。

配置されている五つのカードが一枚ずつ開かれていく。

「なッ!?」

青子の魔術は破壊に特化している。

その力を持ってしても破壊できないソレが姿を現す。

巨大で無骨な右腕だった。

それが青子の砲撃から悉く彼を守り切っていた。

 

【封印されし者の右足】

 

「くッ!? モンスターなら未来に送れば――」

魔法が発動し、何の変化も訪れず、足が地面に降り立つ。

 

【封印されし者の左足】

 

二本目の足に彼女が魔力の消費も構わず莫大な砲撃を始める。

しかし、如何な攻撃も足に傷一つ付ける事が出来なかった。

「効果だって、送れるはずでしょ?!」

それがモンスターであれ、効果で現れた幻影であれ、全ての力を未来に送る事が出来る青子にとっては何ら問題ないはずだった。

フィールド上に出ているカードならば、干渉できないはずが無かった。

 

【封印されし者の左腕】

 

二本目の腕が虚空へと迫り出し、青子を捕らえようとした。

鈍い腕に掴まりはしなかったものの、青子が背筋を凍らせる。

「こいつは・・・何なの!?」

彼は青子に最後の警告を告げる。

「・・・・・・」

「負けを認めろですって? 残念だけど、次は勝つわ」

青子の魔法が発動した。

 

【Duel!!!】

 

(どうして!?)

青子は未来からの情報を受け取り、そして・・・未だ自分が敗北の前にいる事を知った。

(戦いが始まる前まで情報を送れない?!)

絶対に勝たなければならない一戦。

その最後の切り札は戦闘前に戻り、相手への備えをして再び戦いに望むという至ってシンプルなもの。

時間を操る事ができるならば、そんな事は誰だって考え付く。

そして、それが出来るならば、誰であろうと青子の前に敵はいないはずだった。

本来なら殆ど使わない魔法をフル活用した戦術は例え相手が同じ魔法使いであろうと圧倒的有利を生み出す事が出来る。

その、はずだ。

そのはずだった。

「・・・・・・」

「敗北は避けられないって何よ」

「・・・・・・」

「幾ら遡っても、幾ら先へ行っても無駄? なら、試してみる!!?」

青子が彼のドローと共に自身を未来に送った。

 

【封印されし者の右腕】

 

「――――――どういうこと」

青子は再び戻っていた。

あの敗北へと向うはずの未来(かこ)に。

彼が青子の驚きように全てを悟って最後通告をする。

「・・・・・・」

「勝利が決した事を無しには出来ない?」

青子に対して彼は語る。

Duelにはチェーンに乗らず効果を無効にできず勝利するカードがあるのだと。

それは手札に特定のカードが五枚揃った時、全てを決するカードなのだと。

そして、過去に未来にどれだけ移動しようと情報を送ろうと一度決した勝利は覆らない。

もしも揃うタイミングが何らかのカードの効果によって導かれたなら、過去に情報を送る事で阻止できるかもしれないが、そうでないならば、結果は決定している。

「そっか。そういう事だったのね・・・貴方が時々、決して使わない手札があった。墓地にも送らずセットもしないカードが・・・『必ず過去の初手において揃う』のを貴方は待ってたってわけ・・・か」

青子はもう魔法を発動しなかった。

Duelという刻の牢獄に囚われ、もはや未来に行くのはただ死期を早めるのみ。

過去に戻ってすら、勝敗は決している。

永遠に自分の情報を過去に送り続けたとしても勝つ事ができないのなら、刻を操る魔法に勝つ見込みは無い。

だが、それでも譲れないものがその胸には宿り続けていた。

「でも、だからって、諦められるわけないじゃない」

拳が握られる。

無駄だと悟ったとしても、諦める気など更々無い顔がカラッと笑った。

「最後の勝負よ。決闘者(Duelist)」

彼の背後で五枚のカードが展開されていく。

 

【封印されし者の右腕】

 

【封印されし者の右足】

 

【封印されし者の左足】

 

【封印されし者の左腕】

 

「―――行くわよ!!!!!!!!!!!!!!!!!!!!」

 

【封印されしエグゾディア】

 

攻撃力∞

 

【怒りの業火 エグゾード・フレイム!!!!!】

 

「うああああああああああああああああああああああああ!!!!!!!!!」

 

封印を解かれた古の神が放つ業火と宇宙戦艦とすら揶揄される青子の全力砲撃が真正面から激突した。

 

刹那の拮抗。

 

蒼い光を飲み込んだ灼熱の輝きが全てを、ただ真白く染めていった。

 

―――――――――――――――――――――――――――『ご隠居の猛毒薬』を発動。

 

意識を取り戻した青子は草原の中で目を覚ました。

それはまるでいつか見た原風景。

それなのに景色には一つだけ異質なものが置かれている。

巨大な鉄の塊。

まるで門のように存在するソレが己の中に未だ僅か残っているものと同種のものなのだと青子は理解する。

よく見れば門の中央には一つのカードが置いてあった。

 

【時の機械 タイムマシーン】

 

馬鹿馬鹿しい話だ。

負かした相手を気遣うなんて。

青子は苦笑を隠し切れず、辺りを見回す。

遠方に紅い帽子が去っていくのが見えた。

 

声を掛ける事も、本当の名を聞く事も、この扉の先に何が待っているのかも、聞いた所で意味など無い。

 

「『次』は勝つわよ」

 

敗者は進む。

 

己の物語を始める為に。

 

その先に何が待っているとしても覆してみせる為に。

 

己の全てを掛けて、あの自分の『今』へ帰還する為に。

 

「じゃあね。また会いましょ」

 

機械が草原から消え去った後。

 

彼は手に残った一枚のカードをそっとデュエルディスクに翳した。

 

『第五魔法・青』

 

デッキがあるべき場所にカードが戻り、ディスクに表示されるライフが回復していく。

 

今まで戦った全ての者を思い出しながら、彼は言った。

 

準備は整った、と。

 

そろそろ秋から冬へと移り変わりゆく三咲の地に幾度目かの夏の夜がやってくるのはそれから十日後。

 

何もかもを巻き込んで戦いが始まろうとしていた。

 

To be continued

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未来と過去に立ち向かうのは今!!
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