外史異聞伝〜ニャン姫が行く〜 第一篇第六節
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第一篇第六節 【旅は道連れ?のこと】

 

 

「なるほど、そうするとこの外史はそうとう特殊な世界ですね」

 

 一刀の説明を受けた于吉は整った顔の顎に手を当てて、そうつぶやいた。

 

「この世界を外史が望んだと言いたいのか。于吉」

 

 于吉の考えを聞く前に左慈が問い掛ける。

 

「彼の説明通りであるならば、そうでしょうね」

 

「だが、外史が意思を持ったなどと見たことも聞いたこともないぞ!」

 

 于吉の答えを聞いた左慈は、寝床から立ち上がり、于吉に向けて声を荒げる。

 

「私もありません。しかし、あり得ない話ではないはずでs」

 

「あり得ん。それこそ正史の人間が望まなk…?!」

 

 于吉に思わず掴みかかった左慈だが、何か思いついたのか荒げた声を止める。

 

「気付きましたか。正史の人間が、意志ある外史を創造したのならばありえます」

 

「しかし、ジジイ共がそれに気づかないはずないだろうが」

 

「確かに…しかし、偽装…いえ、それは…」

 

 少し置いてきぼりされてしまった一刀は、ふと何かを思いついて、論議する于吉たちに恐る恐る声を掛ける。

 

「あの…」

 

「…なんだ」

 

 案の定、左慈が口出しするなとばかりに睨んでくる。

 

「まあまあ、左慈。何ですか、北郷一刀」

 

「外史って正史で創られた世界なんだろ?例えば、アニメとか小説みたいな」

 

「ええ。厳密に言えば違いますが、その考えで問題なですよ。それで」

 

 于吉は一刀の問いを肯定し、先を促す。

 

「外史で創られた外史ってのはないのかなって?」

 

「それこそあり得ん!外史の人形どもにそんな力があるわけがない!しかも外史に意思など!」

 

 左慈は、一刀に近づくと、左手で一刀の襟首を掴み上げる。

 

「あぐ」

 

 一瞬の動きに対応できなかった一刀は、苦しそうに声を上げる。

 

「左慈!」

 

「パパ!!」

 

ガルル

 

「黙ってろ!!ガキども!」

 

「ひぎゅ」

 

 于吉が止めるより早く数多と大煌が動こうとするが、それを一睨みで黙らせる左慈。

 

「とにかく落着いて下さい、左慈。北郷一刀が言っていることは、((強|あなが))ち出鱈目とも言えません」

 

 そこに立ち上がった于吉が、左慈の左手首を掴む。

 

「…どういうことだ。于吉」

 

「ぐっ」

 

 一刀を掴む手首を掴まれて苛立ちを覚えた左慈は、襟を掴む力を上げる。

 

「確かに、ただの外史の登場人物であるならば、外史の想像は不可能でしょう。しかし、正史の人間に望まれた存在であるならば可能性があります。正史の人間である北郷一刀。そして、意思ある外史が望んだ外史を創造した正史の人間がいたならば、あるいは…」

 

「外史が望んだ外史など…」

 

 その手に力が抜け、一刀から手を放す左慈。

 

「かは」

 

「パパ!」

 

 襟を掴まれたことで、息が存分にできなかった一刀はそのまま膝をついてしまう。そして、数多は一刀を支えようと、抱き着き倒れそうになるが大煌が数多の背中に回り込み一緒に支える。

 

「げほ、けほ…あいがとう数多、大煌。だいじょうふだ」

 

 呂律が上手く回らない一刀は、膝をついたまま体を持ち上げ、心配そうに一刀の様子を窺う数多たちの頭を優しく撫でる。

 

 一方で、左慈は未だに動くことをせず、その視線は何処にも焦点が合っていない。

 

「…取り乱して申し訳ありません。北郷一刀。ご覧のとおり私たちも現状を把握が出来ない事態にいる。このことを理解していただいた上で提案があります」

 

 左慈を心配そうに見てから、于吉が一刀に話しかける。

 

「…提案?」

 

 一刀は、左慈を警戒しながら、于吉を見上げる。

 

「ええ、我々と一緒に“彼”を探してほしいのです」

 

「彼?」

 

 一刀は、誰のことかわからず首を傾げる。

 

「はい。鏡が発光した時に一緒にいた管理者の一人である。貂蝉を」

 

「奴がここに来ているのか?」

 

 貂蝉の名にすぐに反応を示したのは、左慈だった。

 

「ええ。貂蝉は、アレでも管理者です。我々がここにいるならば、こちらに来ていてもおかしくないでしょう」

 

「そうだとしても、奴が何かを知っているとは思えん」

 

「確かに、ただ我々だけでは、今の所動きようがありません。であれば、貂蝉を探すことは有効です。そして、彼女らも一緒に探したいと思います」

 

「…管路と南華老仙か」

 

「ええ、中立の立場にあり、あの場には居ませんでしたが、三国志の世界において、彼らの“行動”が起点です。彼らがこの世界にいたとしても不思議ではありません」

 

「わかった。奴らを探すことに対しては、同意しよう。ただ、なぜコイツと一緒なのだ!」

 

「左慈。貂蝉を探すことは、法術の使えない私たちには、ほぼ不可能に近い。しかし、貂蝉がこの世界に来ているならば必ず北郷一刀と合流します。これは断言できます」

 

「「…」」

 

 どうしてそこまで断言できるのか不思議な一刀と左慈であったが、あの貂蝉ならあり得ると頭のどこかで思ってしまうのであった。

 

「アレは、勘で動いているのが、常です。法術がなくとも、今、目の前に現れても不思議ではありません」

 

「ならば、この村に留まれば良いじゃないのか?」

 

 一刀は、山で遭難した時は動かない方が良いということを思い出さいながら、そんなことを口にする。

 

「いえ、それは確実に貂蝉がこちらに居ればの前提です。もし居ないのであれば、早急に管路や南華老仙たちを探す必要があります。いつ貂蝉に会えるかもわからない現状で待つ時間が勿体ないですね」

 

「しかし…」

 

 左慈は、于吉に反論しようとするが、言葉が見つからず言葉を止めてしまう。そこに于吉が押し込むように言葉を続ける。

 

「そこで、北郷一刀と行動を共にすることによって、貂蝉と合流、管路と南華老仙の探索が望ましいと私は考えます」

 

「…チッ」

 

 左慈は、反論できないと舌打ちをして、部屋の中央にある囲炉裏の近くに置かれた丸太に乱暴に座る。

 

「さて、どうでしょうか?北郷一刀」

 

「そうすれば、彼女たちがどうなったのかがわかるのか?」

 

 一刀は、思った疑問を口にする。

 

「それは…」

 

 そう問いにうまい答えを出すことができない于吉が言葉を濁す。

 

「ふん、そんなことなど、調べなければわからんだろう」

 

「…」

 

 適当に答えを返してきた左慈を思わず睨んでしまう一刀。たっだ言っていることは正しく、反論する気は起きないが、その態度に馬鹿にされたように感じた一刀だった。

 

「…わかった。俺も彼女たちがどうなったのか知りたい。ただ…」

 

 一刀は、数多のことや孫堅のことを思い、躊躇う気持ちが起きる。正直面識のない人物であるが、助けた人物をほったらかしにすることはしたくないと思ってしまうところが、フラグ一級建築士と言われるゆえんなのだろう。

 

「今は了承だけいただければ結構です。私たちも療養が必要なのも確かなのですから」

 

 于吉は、その辺を読み取ってか。そういうと緊張していた空気を緩ませる。

 

「では、改めて自己紹介と状況確認をさせてください。私は于吉。貂蝉が言うところの否定派の管理者です。そして

 

 「…」

 

彼が左慈です。情けないですが、目覚めたらここでした」

 

 丁寧な于吉の自己紹介に、無言の左慈。

 

「北郷一刀。で、こっちが

 

 「…ほんごうあまた」

 

 ガル『大煌』

 

だ。今は、さっき診てくれた華佗と森で出会って、助けた女性をこの村まで運んで来て、于吉さんたちをって感じです。あと、動物と話せます」

 

 一刀は、于吉への対応に困り変な丁寧語になってしまっている。一方、数多と大煌は、未だに警戒をしているのか。左慈をじっと見ている。

 

「ああ、呼び捨てで構いませんよ。それにしても動物とですか…」

 

「こっちに来た時、猫が周りに集まってて、話しかけてきたんだ。今も大煌の言っていることは理解できるし」

 

 一刀はそう言いながら、大煌の頭を撫でると、大煌は左慈を警戒しながらも気持ちよさそうに目を細める。

 

「なるほど…あの猫外史が関わっているのでしょうが、何ともいえませんね」

 

「于吉、今はそれはどうでもいい。北郷一刀、俺はまだお前の同行に対して納得が出来ない」

 

 于吉が不思議そうに大煌と一刀を見ていると、左慈が徐に立上り一刀を睨み言い放つ。

 

「左慈…」

 

 于吉はそんな左慈をどこか悲しそうに見ている。

 

「北郷一刀、今から付き合ってもらう」

 

「しかし、左慈

 

 「于吉。これは俺のケジメだ」

 

…わかりました」

 

「付き合うって何を」

 

 于吉と左慈のやり取りが理解できず、声を出して問う一刀。

 

「貴様は黙ってこれを持って、付いて来い」

 

 そういって出入口の所に立てかけられた1メートル強程の木の棒を放り投げてくる。

 

「おっと」

 

 それを思わず受け取る一刀を見ると、外に出ていく。何となく左慈のやりたいことが見えた一刀は于吉をみてしまう。

 

「でも、俺の実力じゃ…」

 

「まあ、思う通りにしてあげてください」

 

 アイシャたちと同等以上の実力を持つ左慈に俄か剣道の自分が敵うわけがないと言おうとしたが、頭を下げる于吉に言葉を飲んでしまう。そして、自分の袖を引かれ、そちらを見ると心配そうに自分を見上げる数多と大煌がいる。

 

 今後の自分に不安を持つと同時に目的が出来た安堵もあったが、今はこの娘がいるのかと思い棒を握りしめると、数多の頭を撫で外へと足を向ける。

 

 

 彼女たちから託された娘を守れる力が欲しい。ただ、そう一刀は思う。

 

 

つづく

説明
第一篇第六節です。

楽しんでもらえれば、幸いです。

誤字・脱字がありましたら、ご報告下さい。
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タグ
猫外史 恋姫†無双 左慈 于吉 一刀 ニャン オリキャラ 

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