キミ行(ゆ)き世界の箱庭(佐幸)1 |
関ヶ原で真田の旦那と別れてから、大体400年。
生まれ変わりなんてもんが猿飛佐助と名を馳せた、元忍びの俺様にあるのも驚きだったけど、真田の旦那と再会出来るのもまさかだよね。
一年違いだけど同じ高校と知った時は、奇跡なんて本当にあるんだなと、胸にこみ上げたもんだよ。
ただこの国の、八百万の神様たちは、ちょっとだけ意地悪だった。
昼休みの屋上で、俺様と、俺様の同級生である元・奥州筆頭サンの二人で真田の旦那を待つのは日課となった、ある日。
雲一つない青空に、今更なことを愚痴りたくなった。ちなみに隣にいる伊達政宗ー今生でも隻眼ーは三段重箱、俺様は二段重箱で、自分と真田の旦那の分の昼食を用意している。
きっと数分もすれば、元気な足音を立てて来てくれる。だからこの寂しさは、今だけ。
「どうして真田の旦那だけ記憶ないんだろ。独眼竜はどこまでも独眼竜だってのに。ていうか片倉の旦那まで片倉小十郎なのってどうなの、今生でぐらい立場逆転してたらどうなのさ」
「うるせえぞ猿」
「別にあんたに言ってない。勝手に聞かないでくれる?」
飲み込んだ俺様の溜め息が、あろうことか独眼竜の口から出た。
「ったく、ウダウダしつけえぞ。まさかてめえがそこまで女々しいとはな」
語尾は鼻で笑いやがった。やだやだ、殺意が重すぎて、無意識にありもしない懐に手を入れてしまいそうになる。今度、先を尖らせたさい箸の一本ぐらい忍ばせておくか。
旦那、まだかなあ。天を仰げど屋内へ戻る扉を眺めても気配一つ無い。
別に、本当に旦那の記憶がなくたって俺様は構わない。当然でしょ、会えたんだよ、それ以上の何を求めるってえの。
命を削りあう必要もない、明日どころか今日を生き延びるか保証もない世界じゃない。テストと進路に追われる、学生という箱庭世界。
まあ、旦那と学年が違うのは残念だし、独眼竜と俺様が同い年っていうのが果てしなく不本意だけど。
だからこそ、ちょっと言いたくなったのかもしれない。
「俺様を女々しいって言うけど、伊達サンとこも、罪深いよねえ」
たっぷり嫌みたらしく言ってやった。羨ましさ八割、呆れ二割な感じで。
だってさ、どう考えたって正しいのは真田の旦那なんだよ。記憶がなくて当たり前。過去をリセット出来るからこそ、生まれ変わるんだと思う。
真田幸村がどんな最期だったとしても、きっと旦那は後悔していない。俺様がどれだけ理不尽だと叫んだ最期でも、それは真田幸村にとっての理不尽じゃなかったんだ。
だから、本当は記憶がなくて、ほんのちょっとだけ安心した。
今の旦那の中に人殺しの草はなく、血生臭い栄養も無いから根も生えようがない。
「過去の記憶が無いからこそ、旦那は先入観の無い出会いをしてくれる、傍にだっていられる」
隣の独眼竜が、間髪入れず「ha.おい忍び」と、かつて聞いたままの憎たらしい返しをしてきた。横目で睨むと、独眼竜は本気で怒っていたから、思わず隻眼を凝視してしまった。
「先入観云々は幸村じゃなく、てめえの方だろが。あいつにてめえの自虐を押しつけてんじゃねえよ」
伊達政宗が仰ぐ天は、俺様が見たのと変わらない青色。かつてこの男が背負った、狭い世界の広い国色。けれど、この世の空に重さなんて欠片もない。
苛烈な怒りがそんな空に霧散したかのように、次に俺様を見る独眼竜の隻眼は、明らかに勝ち誇っていた。
「おっと、自虐じゃなくnarcissistか」
「はあ?」
「忍びが自己陶酔とは、ほとほとあいつも変わった奴を従えてたもんだ。まったく400年経っても同情するぜ」
言うにことかいて、笑いながらなんてことをっ
「そんなんであいつが来た時、てめえがどんなツラ晒すのか楽しみだぜ」
「何それ」
どうにも独眼竜の言い方が気になったけど、それを上回るのがナルシスト発言。何で俺様がナルシストなんだよっ自己陶酔てなによ、俺様とかすがを一緒にしないでっ
今からでも遅くない、手持ちのお箸で両耳ぐらい刺せる。俺様の本気の殺意に水をさしたのは、ほかでもない真田の旦那だった。
予想通りの激しい足音を立て、壊れんばかりに勢いよく扉を開けてやってきた。けれど、少しばかり予想とは違う形相。いつもなら太陽をも影らすほどの明るくて元気な様子なのに、今は、そんな太陽を焦がす怒りがにじみ出ていた。
「さぁあすけえええっ!」
「はいっ……いっ?」
かつて呼ばれたままの呼び方と肺活量に、驚きながらも条件反射で、立ち上がって返事をしてしまった。今生で出会ってからは、一度とてそんな風に叫ばれたことはない。
懐かしい呼ばれ方にも驚いたけど、明らかにつり上がった旦那の目尻には泣いた跡があった。目も鼻もうっすら赤い。
どうして?いつどこで泣いた?誰が泣かせたの?
一方、独眼竜は予期していた事象のごとく、座ったまま耳を手で覆い、真田の旦那の叫びを回避していた。そしてエコーで旦那の声が空に消えていくのを確認してから、ゆっくりと手を外す。
「よう、遅かったな。その様子だと、あいつと会えたのか?」
「あいつ?」
眉を顰めて独眼竜を見下ろす俺様の傍に、旦那は、あっという間に近づいてきた。珍しく対処に遅れている俺様の胸ぐらを掴んだ手は力強く、怒りのオーラを全身に滲ませている。
どうして泣いたのか、その怒りの意味も分からない。けど、これだけは分かる。
真田幸村は、猿飛佐助に怒っている。
ならひとまず殴られたとしても、それを受け入れてから理由を聞くかと、覚悟を決めた俺様を睨み上げながら、旦那は一心に叫んだ。
「俺を殴れ佐助っ」
「・・・・・・はい?」
殴りづらい体勢のまま目を丸くする。その目が呆然とした物に変わるのは、5秒後。
開けっ放しになっていた扉の奥から、400年遡る関ヶ原の地で、東軍の総大将を背負った男が現れた。
記憶よりも幾分小柄な奴は、東照権現と、誰とはなしに呼ばれていた。
間違えるはずがない。とっくに力は失ったとはいえ、俺様の魂に闇が落ちる感覚を忘れることなんて出来ない。
「徳川・・・・・・家康・・・・・・っ」
何せあれは、かつての地で、真田の旦那を討ち倒した男。
説明 | ||
◆当作品はコピーで発行済みですが、【9/21の戦煌!5 ス34b】にて前後の時期入れて出します。その場合「コピー本持参の方に限り、250円引き」で頒布◆ 戦国バサラの学バサ設定の転生パロもの。一見、佐政や家幸ですが、立派な佐幸。そして家→三。 もしかして関幸もありかもしれない。 |
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