英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク
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クーデター事件が終結し、クーデター事件の影響で中止の可能性が高いと囁かれていた女王生誕祭が無事開催された。王都は生誕祭でいつも以上に賑やかになり、グランセル城の前には大勢の人々がアリシア女王の姿を見ようと駆けつけ、空中庭園から姿を現した女王の姿を見て歓声をあげた。

 

〜遊撃士協会・グランセル支部〜

 

多くの遊撃士達見守られているエステルとヨシュアはエルナンから最後の推薦状をもらおうとしていた。

 

「―――エステル・ブライト。並びにヨシュア・ブライト。今回の働きにより、グランセル支部は正遊撃士資格の推薦状を送ります。どうぞ、受け取ってください。」

「「はい!」」

エステルとヨシュアは念願のグランセル支部の正遊撃士への推薦状をエルナンから受け取った。

「これで、5つの地方支部での推薦状が揃ったわけですね。それではカシウスさん。よろしくお願いします。」

「うむ。」

エルナンが下がり、いつもの余裕のある表情とは違い、真剣な表情をしたカシウスが進み出た。

 

「エステル・ブライト。並びにヨシュア・ブライト。これより、協会規約に基づき両名に正遊撃士の資格を与える。各地方支部での推薦状を提出せよ。」

「は、はい……」

「どうぞ、ご確認ください。」

厳かな雰囲気を出すカシウスにエステルとヨシュアは緊張しながら、今まで貰った5枚の推薦状をカシウスに渡した。

「ロレント支部、ボース支部、ルーアン支部、ツァイス支部、そしてグランセル支部……。5支部全てのサインを確認した。最終ランク、準遊撃士1級。ここまで行くとは思わなかった。正直、驚かされたぞ。女神(エイドス)と遊撃士紋章において、ここに両名を正遊撃士に任命する。両者、エンブレムを受け取るがいい。」

「「はい!」」

「おめでと、エステル、ヨシュア!」

「はは、新しいエンブレム、なかなか似合ってるじゃないか。」

「まあ、今回ばかりはよくやったと誉めてやるよ。」

「うふふ、準遊撃士1級で正遊撃士になるなんて、さすがはレンの”お姉ちゃん”と”お兄ちゃん”ね♪」

「おめでとう2人とも。これからは同僚だな!」

「フフ、これからは同じ正遊撃士として、一緒に頑張りましょうね?」

「へへ、お前達ならすぐにA級になる気がしてきたぜ。」

「フッ、お前達なら将来大物になる事間違いなしだな。」

エステルとヨシュアがカシウスから正遊撃士の紋章を受け取ると、シェラザード、ジン、アガット、レン、ルーク、アーシア、フレン、バダックはそれぞれ拍手をしながら祝福の言葉を贈った。

 

「えへへ……みんな、ありがと!」

「ここまで来れたのも……皆さんが支えてくれたおかげです。」

仲間達からの祝福の言葉にエステルは照れながら、ヨシュアは姿勢を正して笑顔でお礼を言い

「遊撃士としてのキャリアはここからが本番だ。そのことを忘れないようにな。」

「うん……わかってる。」

「一層、精進するつもりです。」

カシウスの言葉に2人は真剣な表情で頷いた。

 

「さて、めでたい話の後で非常に申しわけないのですが……。ここで皆さんに、ひとつ残念な事をお知らせしなくてはなりません。」

「残念な知らせ……?」

エルナンの言葉が理解できずクルツは首を傾げた

「本日を持ちまして、カシウス・ブライトさんが遊撃士協会から脱会します。しばらくの間、王国軍に現役復帰するとのことです。」

「なっ……!」

「ほ、本当ですか!?」

カシウスが遊撃士を辞める事を知ったカルナとグラッツはそれぞれ驚きの表情で声を上げた。

 

「長らく留守にした上に突然、こんな事を言い出して本当にすまないと思っている。だが、クーデター事件の混乱はいまだ収拾しきれていない。情報部によって目茶苦茶にされた軍の指揮系統も立て直す必要がある。その手伝いをするつもりなんだ。」

「あ、そうか……。軍人は遊撃士になれないから……。そういえば、先輩たちはこのことを知っていたみたいですね。」

カシウスの説明を聞き、納得したアネラスはカシウスが遊撃士を辞める事に驚いていない様子のシェラザード達に視線を向けた。

「ええ、相談を受けたからね。正直心細いけど……いつまでも先生に頼ってばっかりじゃあたしたちも一人前になれないし。」

「ああ。これからは俺達だけでもなんとかできることを父さんに証明してやろうぜ。」

「フッ、言うようになったな。だが、いつまでもカシウス頼みにする訳にいかんという意見には同意だ。」

「そうか……そうだな……」

シェラザードとルークの頼もしい言葉にバダックとクルツはそれぞれ口元に笑みを浮かべて頷いた。

 

「しかし、いつまでたっても忙しさから解放されないねぇ。」

「まあ、こうして新たな正遊撃士が2人誕生したんだ。せいぜい俺の代わりにコキ使ってやるといいだろう。」

「あのね……」

「はは、これからはもっと忙しくなりそうだね。」

カルナとグラッツの会話を聞いていたエステルは呆れ、ヨシュアは苦笑していた。

 

「さて……カシウスさんが遊撃士協会から脱会するという残念な知らせがありましたが……同時に嬉しい知らせもあります。…………レンさん。」

「はーい。」

エルナンに名指しをされたレンは慌てる事無くエルナンの前に出た。

「レン・ブライト。今までの働きを称して貴女を”特例”で正遊撃士に任命します。最終ランク、準遊撃士1級。やはり私達の予想通りでしたね。――――なおこれも”特例”になりますが最初からE級になります。エンブレムをお受け取り下さい。」

「ええ。」

レンはエルナンから正遊撃士の紋章を受け取った。

 

「なっ!?」

「レンが正遊撃士だって!?」

「し、しかも最初からE級だなんて……アハハ、ついにレンちゃんに遊撃士としてもぬかれちゃったな〜。」

「おいおい……っ!唯でさえ規定年齢に全然達していないその嬢ちゃんが準遊撃士をやっている事自体もありえねえのに、正遊撃士……しかも最初からE級のランクを与えていいのかよ!?」

その様子を見守っていたクルツとカルナは驚き、アネラスは表情を引き攣らせた後冷や汗をかいて苦笑し、グラッツは信じられない表情で尋ねた。

 

「ええ、本部直々の指示です。今回の事件でもレンさんはエステルさん達に負けない程素晴らしい活躍をしましたからね。まあ、帝都で起こったギルド襲撃事件によって減った戦力を一人でも多く補充する為かもしれませんが………」

「うふふ、数合わせの為っていう理由はちょっと気に入らないけど、どんな理由であれ正遊撃士にしてくれた事には感謝しているわ♪」

「う”〜……あたし達は苦労して推薦状を貰って正遊撃士になったのに、何でレンは推薦状も貰っていないのに正遊撃士になった上しかもあたし達より最初からランクが上なのよ〜!?」

「まあまあ。レンは出張に行く兄さん達に頻繁について行って仕事をしていたから仕方ないよ。」

悔しがっているエステルをヨシュアは苦笑しながら諌めていた。

 

「まあ、何はともあれ……これからもよろしくお願いしますね、レンさん。」

「はーい♪どうせなら最年少でSランクにもなって見せるわ♪」

「ほう?うかうかしていたら、お前達より先にレンがSランクになるかもしれんな?」

エルナンの言葉に笑顔で頷いたレンの言葉を聞いたカシウスは感心した後口元に笑みを浮かべてエステルに視線を向け

「うふふ、速く追いついてきてね、お、ね、え、ちゃ、ん?」

レンは小悪魔な笑みを浮かべてエステルを見つめた。

 

「むっかー!――――ヨシュア!こうなったら、一日でも早くレンを追い抜けるようにたくさん仕事をこなすわよ!」

「ハハ……凄い忙しくなりそうだなあ……」

その後ギルドを出て、家族で黒のオーブメントや姿を消したカノーネ大尉やロランス少尉の事のことについて話をしていたら、一の間にか城門の前に到着し、城の中へと入って行くカシウスと別れたエステル達は家族で生誕祭を楽しもうとしたが、レンの計らいによってルークはレンが連れ出し、エステルはヨシュアと二人っきりになり、二人は今までお世話になった先輩遊撃士や友人、ラッセル一家ににお礼の挨拶回りをした後、休憩するために東街区の休憩所に向かった。

 

〜王都グランセル 東街区〜

 

「さてと、休憩所に着いたね。色々回ったから、そろそろ休憩にしようか?」

「うん、そうしよっか。」

2人は傍にあったベンチに座り、一息ついた。

「しばらくここで休もうか。とりあえず、王都で騒ぎが起きそうな気配はなかったね。」

「ハァ……あっきれた。そんな心配してたんだ。今日くらい、事件の後始末は父さんたちに任せとけばいーのよ。遅れて来たんだからそれくらい当然の義務だってば。」

せっかくの生誕祭を満喫せず、遊撃士として周囲の警戒をしていたヨシュアにエステルは呆れて溜息を吐いた。

 

「はは、そうなんだけどね。何となく性分っていうか……」

「はあ、仕方ないわねぇ。それにしても……あたしたちも正遊撃士かぁ。」

相変わらずのヨシュアの性格にエステルは苦笑した後、ついに長年の夢だった正遊撃士になれたことに感慨にひたった。

「これからは支部の監督を受けずに自由に行動できるようになる。ただその分、責任も増えるんだけどね。」

「うん、でもまあ何とかやっていけるわよね。今回だって、クーデターは阻止することができたんだし。もう、父さんに『ヨシュアがいないと心配だ』なんて言わせないんだから!」

「はは……さすがにもう言わないと思うよ。でも僕は、これからも君と一緒にいたいと思ってるけどね。」

正遊撃士になって、もう一人前のつもりでいるエステルにヨシュアは苦笑しつつ、女性を自分に惚れさせるような殺し文句をさらりと言った。

「……え……。………………………………。ええええええええっ!?」

「あれ、迷惑だったかな?」

ヨシュアの言葉を聞いてエステルは一瞬呆けた後、顔を赤くして驚いて叫んだ。そしてエステルの叫びを聞いたヨシュアは以外そうな表情でエステルを見た。

「いや、迷惑っていうか……。一緒にいたいって……それって……どういう……?」

エステルは目線をヨシュアに合わせず、恥ずかしがりながらヨシュアに真意を聞いた。

 

「そりゃあ、気心は知れてるし、お互いのクセは判っているからね。このままコンビを組んだ方がいいと思ったんだけど……」

「あ……遊撃士の仕事のことか……。なーんだ、てっきりあたし、逆に告白されちゃったのかと……」

ヨシュアが考えていることは自分の考えていることと思い違いであることに気付いたエステルは、安心してふと口から自分がこれからしようとしている言葉を口にした。

「えっ……」

すると今度はエステルの呟きを聞いてしまったヨシュアが驚いた。

「わああああああっ!今のナシ!忘れてっ!」

自分の失言に気付いたエステルは大きな声を出して、先ほどの言葉を取り消すようヨシュアに言った。

「エステル、それって……」

「し、しっかし今日はホントに暑いわよねっ!?暑いときにはアイスが一番!おごってあげるからちょっとここで待っててっ!」

ヨシュアの返事も聞かず、エステルは適当な言い訳をした後、何も考えずアイス売り場とは逆方向に走り去った。

 

「あ……。アイス売り場はそっちじゃないと思うんだけど……。………………………………。もしかして……エステル……。いや…………そんなわけないよな……」

ヨシュアは言っていることと違う方向に走り去ったエステルを見て呟いた後、エステルがさっき、自分に何を言おうとしたのかを考え、あることに思い当たったがすぐにその考えを打ち消した。そしてエステルと入れ替わるかのようにある人物がヨシュアに近づいて来た。

 

「いやぁ。若い人はうらやましいですね。」

ヨシュアに近づいてきた人物とは2人の旅で各地で出会った考古学者――アルバ教授だった。

「アルバ教授……」

「やあ、しばらくぶりですね。最近、色々と騒がしかったですが平和が戻って本当によかった。やはり人間、平穏無事に暮らすのが一番ですね。」

「………………………………」

和やかに話しかけてくるアルバ教授をヨシュアは警戒の表情で睨んでいた。

 

「おや、どうしました?顔色が優れないようですが……。正遊撃士になれたのだから、もっと晴れやかな顔をしなくては。そうだ、私からもお祝いをさせて頂きましょうか。あまり高いものは贈れませんけど。」

一方ヨシュアの様子に気付いたアルバ教授は不思議そうな表情で尋ね

「最初に会った時から……強烈な違和感がありました……。今では少し慣れましたけど……。あなたを見ていると何故か震えが止まらなかった……」

「ほう……?」

ヨシュアの説明を聞き、目を丸くした。

 

「そして……各地で起きた事件……記憶を消されてしまった人たち……。あなたは調査と称して……事件が起こった地方に必ずいた……。そう……タイミングが良すぎるほどに……」

「………………………………」

「決定的だったなのは……クルツさんの反応です……。記憶を奪われたクルツさん……。あの人も、アリーナの観客席で気分が悪そうにしていた……。そして……あなたも同じ場所にいた……」

「………………………………」

「アルバ教授……。あなた……だったんですね?」

アルバ教授は自分に懸けられた疑いを晴らすこともなく、ヨシュアの話に耳を傾け、そして語り終えたヨシュアはベンチから離れ、アルバの正面に立って睨んだ。

 

「クク……。認識と記憶を操作されながらそこまで気付くとは大したものだ。さすが、私が造っただけはある。」

するとその時アルバ教授は不気味に笑いながら呟き

「……え…………」

「では、暗示を解くとしようか。」

自分の言葉にヨシュアが呆けている中、アルバ教授は指を鳴らした。するとヨシュアの脳裏に封印されていたさまざまな血塗られた記憶が蘇った。

「……………………あ…………。あなたは……。……あなたは……ッ!?」

全てを思い出し、アルバ教授の正体をも思い出したヨシュアは青褪めさせた表情で声を上げた。

 

「フフ、ようやく私のことを思い出したようだね。バラバラになった君の心を組み立て、直してあげたこの私を。虚ろな人形に魂を与えたこの私を。」

「対象者の認識と記憶を歪めて操作する異能の力……!7人の『蛇の使徒(アンギス)』の1人!『白面』のワイスマン……!」

自分の様子を面白がるアルバ教授――――ワイスマンを睨むヨシュアは後ろに跳躍して双剣を構え、いつでも迎撃できるようにし

「はは……。久しぶりと言っておこうか。『執行者(レギオン)』No.XV。『漆黒の牙』―――ヨシュア・アストレイ。」

その様子をワイスマンは満足した様子で見つめていた。

 

「あ、あなたが……。あなたが今回の事件を背後から操っていたんだな!それじゃあ、あのロランス少尉はやっぱり……」

「お察しの通りだ。彼の記憶は消さないであげたからすぐに正体に気付いたようだね。はは、彼も喜んでいるだろう。」

「あ……あなたは……。………………………………。僕を……始末しに来たんですか……!!」

「ふふ……。そう身構えることはない。計画の第一段階も無事終了した。少々時間ができたので君に会いに来ただけなのだよ。」

「第一段階……。あの地下遺跡の封印のことか……」

ワイスマンの話を聞き、すぐに心当たりを思い出したヨシュアは真剣な表情で呟いた。

 

「『環』に至る道を塞ぐ『門』……。それをこじ開けることがすなわち、計画の第一段階でね。”星杯騎士”―――それもかの”七の導師(セブンスフォンマスター)”の従騎士にして教会の中でも指折りの法術士――――”七の守護者(セブンスガーディアン)”が同行している事は計算外だったがまあ、封印が解けた今となっては、どうでもいい事だ。……ふふ……もはや閉じることはありえない。」

「やはり……これで終わりじゃないのか……。『輝く環』とは一体何です!?『結社』は……あなたは何を企んでいるんだ!?」

ヨシュアはかつて自分が所属していた組織の狙いを知るワイスマンを睨みながら叫んだ。

 

「それを知りたければ『結社』に戻ってくればどうだい?君ならすぐに現役復帰できるだろう。少々カンは鈍っただろうがリハビリすればすぐに取り戻せるさ。」

「………………………………」

「フフ、そんなに恐い顔をするものじゃないよ。わかっているさ。今の君には大切な家族がいる。尊敬できる父親、実の息子のように自分を愛し育ててくれた優しい母親、目標とすべき兄、あの”殲滅天使”同様さまざまな方面に天賦の才を持ちながらそれを鼻にかけることなく”殲滅天使”のように君を兄のように慕う”殲滅天使”の姉、そして……何よりも愛おしく大切な少女……。たとえ『彼』が、こちら側にいてもそれらを捨てるなど馬鹿げた話だ。」

「…………ッ…………やはりレンはユウナの………!(道理でレンと最初出会った時から、既視感をずっと感じていた訳だ………!僕があの時、レーヴェに”あんな事”を言わなければ今頃ユウナもレンやエステル達と一緒に幸せに暮らしていたのに……!)」

ワイスマンの口から出た自分が大切にしている家族や愛する少女の事が出るとヨシュアは血相を変えると共にある真実に気付いて唇を噛みしめた。

 

「だから私は、君に会いに来た。『計画に協力してくれた』礼として真に『結社』から解放するために。……おめでとう、ヨシュア。君はもう『結社』から自由の身だ。この5年間、本当にご苦労だったね。」

「………………………………。………………え…………」

しかしワイスマンの口から出た予想外の言葉を聞いたヨシュアは呆けた。

 

「なんだ、つまらないな。もっと嬉しそうな顔をしてくれると思ったのだが……。ふむ、まだ感情の形成に不完全な所があるのかな?」

「僕が……計画に協力……。……はは……何を……馬鹿なことを言ってるんだ……?」

ワイスマンの呟きにヨシュアは誰にも見せた事のない暗い笑顔で呟いた。

「ああ、すまない。うっかり言い忘れていたよ。君の本当の役目は暗殺ではなく諜報だったのさ。」

「え……」

「『結社』に見捨てられた子供として同情を引き、見事保護されてくれた。そして定期的に、結社の連絡員に色々なことを報告してくれたんだ。遊撃士協会の動向と……カシウス・ブライトの情報をね。」

「!!!」

そしてワイスマンの口から語られた真実にヨシュアは目を見開いた。

 

「無論、そんな事をしていたのは君自身も覚えていないだろう。私がそう暗示をかけたからね。」

「………………………………」

ヨシュアは絶望した表情で顔を下に向け、ワイスマンの話を聞き続けた。

「S級遊撃士、カシウス・ブライト。まさしく彼こそが今回の計画の最大の障害だった。彼に国内にいられては大佐のクーデターなどすぐに潰されてしまっただろうからね。彼の性格・行動パターンを分析して、悟られずに国外に誘導するために……。君の情報は本当に役に立ってくれた。」

「…………嘘……だ………………」

ヨシュアは頭を抱えてうずくまり現実を否定するかのようにうわ言を呟いた。

「だから……改めて礼を言おう。この5年間、本当にご苦労だった。」

そんなヨシュアにワイスマンは追い打ちをかけるかのように醜悪な笑みを浮かべて止めの一言を言った。

 

「嘘だ、嘘だ!嘘だあああああああっ!……僕は……みんなと……エステルと過ごした…………僕のあの時間は…………」

ヨシュアは絶望した表情で叫んだ後、さらにうわ言を繰り返し始めた。

「ふふ……何がそんなに哀しいのかな?素知らぬ顔で、大切な家族と幸せに暮らしていけばいいだろう?君が黙っていれば判らないことだ。」

「………………………………」

「しかしまあ……考えてみればそれも酷な話か。ブライト家の者達はどうも健全すぎるようだからね。君のような化物にとって少し眩しすぎたんじゃないかな?」

「…………ぁ………………」

黙り込んでいたヨシュアであったがワイスマンの口から出たある言葉に反応した。

 

「君は、人らしく振る舞えるが、その在り方は普通の人とは違う。どんな時も目的合理的に考え、任務を遂行できる思考フレーム。単独で大部隊と渡り合えるよう限界まで強化された肉体と反射神経。私が造り上げた最高の人間兵器。それが君―――『漆黒の牙』だ。」

「………………………………」

「そんな君が、人と交わるなどしょせんは無理があったのだよ。この先、彼らと一緒にいても君が幸せになることはありえない。」

「………………………………」

「だから、辛くなったらいつでも戻ってくるといい。大いなる主が統べる魂の結社。我らが『身喰らう蛇(ウロボロス)』に……」

ヨシュアに絶望を与えたワイスマンは最後に言い残した後、その場から去って行った。

 

「………………………………。これが……罰か………………。……姉さん……レーヴェ……。…………僕は………………。………………………………………………僕は………………」

ワイスマンが去った後、ヨシュアは絶望した表情で何度もうわ言を呟き続けた。

 

〜夕方〜

 

「はあ……。ずいぶん待たされちゃった……。何だかんだでもう夕方だし……。ヨシュア……さっきのどう思ったんだろ……。う〜っ……思い出したらまた顔が熱く……」

「おや、エステルさん。」

一方アイスを買いに行ったエステルは溜息をついた後、先ほどの失言を思い出し顔を赤くしたが自分を呼ぶ聞き覚えのある声に気付き、その人物を見て驚いた。

「あれ、アルバ教授。こんな所で会うなんて珍しいわね。」

「はは、そうかもしれませんね。そうだ、先ほどヨシュア君とも会いましたよ。おめでとうございます。正遊撃士になったそうですね。」

「えへへ……まあね。あれ……?」

何かの違和感を感じたエステルは首を傾げた。

 

「?どうしました?」

「教授ってば……いつもと雰囲気が違わない?なんだかすごく楽しそうな顔をしてるわよ?」

「………………………………。はは、見抜かれましたか。実は、考古学の研究で色々と進展がありましてね。それで少々、浮かれていたんです。」

自分の感情を見抜いたエステルをワイスマンは内心感心しながら笑顔で答え

「へ〜、よかったじゃない。あ……ゴメン!アイスが溶けちゃうからあたし、これで行くわね!それじゃあ、またね〜!」

エステルはワイスマンの思惑も知らず、祝いの言葉をあげるとヨシュアのところへアイスを持って、去って行った。

「ふふ、なるほど。あれがカシウス・ブライトの娘か。『教団』の『儀式』で生き残り、『剣聖』に引き取られたあの『殲滅天使』の双子の姉であり、かの『武神』をも破り、『剣仙』直々から二つ名を贈られた『剣姫』レン・ブライト。なかなか楽しませてもらえそうだ。」

ワイスマンは去って行ったエステルの後ろ姿を見て、醜悪な表情で口元に笑みを浮かべて呟いた後、エステルとは逆の方向に去って行った。

 

一方エステルはヨシュアの後ろ姿を見て走って、ヨシュアの近くに着いた後声をかけた。

「ごめん、遅くなっちゃって!ものすごく混んでてさ〜。ようやくゲットできたのよ。」

「そっか、ご苦労さま。ありがたくご馳走になるよ。」

ヨシュアはエステルにワイスマンが去った後した、自分の決意がわからないよう、いつもの様子で答えて両手に持っているアイスの片方をエステルから受け取った。

 

「……うん……。えっと、さっきの事だけど……」

「ああ、さっきはゴメン。紛らわしい言い方しちゃって。確かにあれじゃあ出来の悪い告白みたいだよね。」

「え……うん……。出来が悪いってことはないけど……」

ヨシュアの軽い謝罪にエステルはどもりながら答えた。

「まあ、考えてみればそう結論を急ぐこともないよね。正遊撃士になったからといって別の仕事についてもいいわけだし。ここはお互い、将来についてじっくり考えるべきかもしれないな。」

「た、確かに……。(結婚なんかしちゃったら子育てなんかもしなくちゃいけないし……。……だから!先走りすぎだっての、あたし!)」

ヨシュアの『将来』という言葉に反応したエステルは色々想像してしまい、心の中で想像してしまった自分を突っ込んだ。

「………………………………。……ヨシュア?」

笑顔で城への帰路を提案したヨシュアの雰囲気に違和感を感じたエステルは真剣な表情で呟いたが

「どうしたの、エステル。将来についての相談があるとか?」

「ち、違うってば!さっさとお城に戻りましょ!」

ヨシュアの言葉に気が散ってしまい、ヨシュアに雰囲気がおかしいことを尋ねるのを忘れていっしょに城へ向かった。

 

〜夜・グランセル城客室〜

 

「うーん……」

夕食後、エステルは部屋の中を考え込みながら何度もうろうろし、その様子を見ていた同室のシェラザードは不思議そうな表情で尋ね

「何よ、エステル。さっきからそわそわして。なにか気になることでもあるの?」

「う、うん……ねえ、シェラ姉……。食事の時……ヨシュア、変じゃなかった?」

尋ねられたエステルは真剣な表情で尋ね返した。

 

「???変なのはあんたの方でしょ。あの子はいつも通り落ち着いてたじゃないの。」

「それはそうなんだけど……」

言葉を返されたエステルは何かが脳裏の奥に引っ掛かってなんともいえない表情になった。

「ハッハーン。そっか、そういうことか。」

「な、なによいきなり……」

しかし口元に笑みを浮かべたシェラザードを見て、嫌な予感を感じ取ったエステルは警戒の表情をした。

 

「隠さない、隠さない♪そんな雰囲気はしたけど……。やっぱり自覚しちゃったわけね。ヨシュアのこと……好きになっちゃったんでしょ?」

「……うっ………………。レンも言ってたけど…………や、やっぱり分かっちゃう?」

「悪いけど、丸わかりよ。あんたが今おかしいと思っていないのはルークぐらいよ。でも、その様子じゃ、ヨシュアにはちゃんと伝わっていないみたいね。」

「うん……そうだと思う……。ヨシュアって、こういうこと昔からニブいところあったし……。ってあたしも人のこと言えないか。」

「ああもう、初々しいわねぇ。あの花よりダンゴだったエステルがよくぞここまで……。おねーさん、感激しちゃうわ!」

恋のカケラも感じさせなかった妹分の初恋にシェラザードは喜び、茶化した。

「……もうシェラ姉にはこんりんざい相談しない……」

一方茶化されたエステルはジト目でシェラザードを見て呟いた。

 

「ウソウソ。からかって悪かったわ。でも、そうね……。考えてみれば、あんたたちは思春期に入る前に出会ったのよね。なかなか、お互いの気持ちに気付かないのは仕方ないか……」

「そ、そういうものなのかな……。あたしは、旅をしてる最中にちょっとしたきっかけで意識して……。い、いちど、気になりだしたらどんどん意識するようになって……。ああもう、こんなのあたしのキャラじゃないのに〜!」

「ふふ……。咲かない蕾はないってね。女の子はみんなそういうものよ。それこそあのレンだって、いつかは恋をするでしょうね。」

「シェラ姉……」

真面目に相談に乗ろうとするシェラザードの態度を見たエステルは感激した。

 

「あまり軽率なことは言うつもりはないんだけど……。覚悟が決まってるなら打ち明けた方がいいんじゃない?ふんきりがつかないのならちょっと占ってあげよっか?」

「ううん……。実はもう、覚悟が決まってるの。話を聞いてもらう約束もしたし。」

「そっか……。よし、それでこそあたしの妹分!ああもう!おねーさん、泣けてくるわっ!」

「それはもうええっちゅーねん。でも、ありがと、シェラ姉。なんだか少し勇気が出てきたわ。あたし、ちょっとヨシュアのところに行ってくるね。」

茶化しながらも自分に応援の言葉を送ったシェラザードに感謝したエステルは部屋から出て行った。

「……初恋かぁ……。うまく行くといいんだけどね……」

エステルが部屋を飛び出すのを見送った後、シェラザードは一枚のタロットカードを見て、複雑そうな表情で呟いた。

 

ルークと同室のヨシュアを呼び出す為にルークとヨシュアが泊まる部屋に顔を出したエステルだったが、そこにいたのはルークだけであった。

「あれ……ルーク兄だけ?」

「ん……?エステルか。ヨシュアはちょっと前にどこかに出かけちまったが………そう言えばヨシュアの奴、変な事を言って―――」

エステルの疑問にルークが答えかけたその時、聞き覚えのあるハーモニカの音が聞こえてきた。

 

「あ………」

「………どうやら言わなくてもいいようだな。」

「うん。ありがとうルーク兄。」

「別にいいさ。………ああ、言い忘れるところだった。レンは今夜、ティータといっしょに寝るそうだから、エステル達の部屋には戻って来ないから自分を待たなくてそのまま寝ていいって言ってたぞ。」

「ん、わかった。」

そしてエステルはハーモニカの音を頼りにヨシュアを探すために部屋を出て行った………

 

 

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外伝〜女王生誕祭、そして――〜
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