英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク |
〜ル=ロックル・宿舎〜
「装備はこれで完璧ね。」
自分が泊まっている部屋に向かったレンはクーデター事件時の王城の地下の遺跡の探索の際にエステル達が手に入れ、自分が使えるので渡してくれた柄に十字架が刻み込まれた剣―――ホーリーセイバーと白ハヤブサの紋章が刻み込まれている小剣―――エルベダガーを装備し、また防具や靴、装飾品も装備した後オーブメントのクオーツの並びも確認した。
いや………さすがは”あいつ”と双子だけあって、成長しても随分似ていると驚いただけだ。髪の色が同じであったら、”あいつ”と顔見知りの俺でも見分けが難しいだろう。
「…………………」
装備の点検をし終えたレンはふと女王宮で戦ったロランス少尉の自分に向けた言葉を思い出し
「まさかユウナが生きていたなんてね……てっきり”楽園”で死んじゃったかと思っていたけど。ま、”血の繋がった妹”が出てきたとしても今更”どうでもいい”けどね。でも……レンの邪魔をしようとしたり、レンがようやく手に入れた”幸せ”―――”本当の家族”を壊そうとするのなら、例え相手が”血が繋がっている妹であろうと”容赦しないわよ。」
全身に膨大な殺気を纏い、まだ見ぬ自分とそっくりの容姿をした橙色の髪の少女を思い浮かべながら射殺すような冷徹な視線で扉を見つめて呟いた後部屋を出て、たまたま自分と同時に部屋を出たエステルと共に一階に降り、玄関に向かうと食事をしていたテーブルにクルツとアネラスが向かい合わせに座っていた。
「来たか、エステル君、レン君。向かいの席についてくれ。」
クルツに言われた二人はそれぞれ空いている席に座った。
「本日の演習は遺跡探索だ。この宿舎の西にある『バルスタール水道』に入ってもらう。」
「『バルスタール水道』……。古めかしい名前だけどやっぱり訓練用の施設なの?」
「ああ。中世の遺跡を改築した施設でね。昔の仕掛けも残っているし、危険な魔獣も多く徘徊している。」
「うふふ、少しは歯ごたえがあるといいけどね♪」
「それじゃあ早速、その水道に出発するんですか?」
「いや、その前に……。3人とも、これを見てくれ。」
クルツは3人の前に見慣れぬ戦術オーブメントを出した。
「あれ、これって……」
「もしかして……戦術オーブメントですか?」
「ああ、その通りだ。導力魔法の使用を可能にする戦術オーブメントを造っているのは『エプスタイン財団』というが……。これは先月、財団から納入されたばかりの新型でね。スロットの数は1つ増えて7つ。今までのアーツに加えて新型のアーツも組むことができる。」
「へ〜、凄いじゃない!」
「うんうん!かなり期待できそうだね。で、クルツ先輩。私たちも貰えるんですか?」
「ああ、希望するならギルドから無償で提供される。ただし……」
アネラスの希望にクルツが答えようとしたその時
「――――前に使っていたクオーツは使えない、でしょう?」
レンが続きを言った。
「ああ。しかし、よく気付いたね?」
「ええ。だって、構造も変わるのだから、互換性の問題で以前使っていたクオーツが使えなくなるのは当然の事でしょう?」
「ハハ、普通の人はそこまで気付かないよ。」
レンの鋭さにクルツは苦笑しながら答え
「ええ〜っ!?そ、それってつまり……」
「今まで合成したクオーツが無駄になるってことですかっ!?」
エステルとアネラスは今まで使っていたクオーツが全て無駄になる事に不安そうな表情になった。
「残念ながらそうだ。面倒だろうが、また最初から1つずつ揃えてもらうしかないな。」
「そ、そりゃないわよ〜。」
「ちょっとは使う側の事を考えて開発して欲しいわね。」
クルツの答えを聞いたエステルは肩を落とし、レンは頬を膨らませた。
「うーん……。確かに迷っちゃうよね。このまま今のオーブメントを使い続けたらダメなんですか?」
「ダメじゃないが、推奨はしない。新型オーブメントは、全ての面で以前のものより性能が高いんだ。最大EPも大幅にアップするし、最新型のクオーツにも対応できる。将来的には、さらなる身体能力の向上が期待できるということだ。それに何と言っても以前のオーブメントになかった新しいアーツが組めるのが大きい。……エステル君、レン君。ロランス少尉を覚えているか?」
「え!?う、うん。忘れるなんて出来っこない相手だけど……」
ロランス少尉の話がクルツの口から出てくるとエステルはヨシュアと関係しているかもしれない事に不安そうな表情で頷き
「なるほどね。その新型のオーブメントならロランス少尉が使った未知のアーツ―――確か『シルバーソーン』、だったかしら?そう言った今まで使えなかったアーツが使えるのね?」
「その通り。」
レンの推測にクルツは真剣な表情で頷き
「そ、それじゃあ……。あの赤い隊長さんは新型を使っていたんですね!?」
アネラスは不安そうな表情で尋ねた。
「その可能性は高そうだ。さて、君たちはどうする?」
クルツがエステル達に判断を促すとその場に静寂が訪れたが
「………………………………。あたしは……新型を使いこなしてみたいな。」
エステルが静寂を破り決意の表情で答えた。
「え?」
「あら。」
エステルの答えを聞いたアネラスは驚き、レンは目を丸くし
「あの時、あたしはあの銀髪男に全く歯が立たなかった。アリエッタさんのお陰で勝てたようなものだし………オーブメントを変えたからって自分が強くなるわけじゃないけど……。それでもあたし、より大きな力を使いこなせるようになってみたい。だから……」
「エステルちゃん……。……うん、確かにそうだね。クルツ先輩。私も新型、使わせてください!」
「それじゃあレンも新型をお願いするわ。後々の事を考えたら、そっちの方が役に立つでしょうし。」
やがて二人もそれぞれ新型のオーブメントを使う事に決めた。
「いいだろう。それでは受け取ってくれ。あと、これを渡しておこう。」
エステル達の返事を聞いたクルツはそれぞれに新型の戦術オーブメントを渡し、各属性のセピスも初級のクオーツが作れる数を渡した。
「それだけあれば基本的なクオーツは揃うだろう。演習に行く前に、そこの工房でロベルト君に合成してもらうといい。新しい結晶回路(クオーツ)と導力魔法(オーバルアーツ)のリストはブレイサー手帳に追加しておいた。工房に行くときは自分たちで確認しておくように。」
「うん、了解です。」
「さらに……。今日の演習は長丁場になるはずだ。いざという時に備えて、食料も用意した方がいいだろう」
「うーん、食料ですか……。それはフィリスさんにお願いすればOKですよね?」
「ああ、そうだな。ロベルト君とフィリス管理人……2人に相談して準備を整えるように。………それでは自分は宿舎の出口で待っている。準備が終わったら来てくれ。」
アネラスに尋ねられ、答えたクルツは立ち上がって先に外に出て行った。
「それじゃあ、エステルちゃん、レンちゃん。早速、演習の準備を始めようか。」
「うん、フィリスさんとロベルトさんの所に行って話を聞いてみなくちゃね。」
「そうね。」
そしてエステル達は管理人から携帯食料を貰った後、オーブメントの調整をする整備士の所でクオーツを順番に合成し、レンの番になった。
「後はレンちゃん、君だけだよ。」
「はーい。ちなみにだけど、スロットの強化も勿論できるのよね?」
「ああ。」
「レン?そんなにセピスは残っていないわよ?」
レンの提案を聞いたエステルは首を傾げて尋ねた。
「うふふ、レンは”さっきクルツお兄さんからもらったセピスを使う”だなんて一言も言っていないわよ。」
するとその時レンは荷物の中から多くの各属性のセピスが入った袋を取り出して整備士の前に置いた。
「へっ!?」
「レ、レンちゃん!?一体どこでそんなにもたくさんのセピスを手に入れたの!?」
「ティータや博士から戦術オーブメントはいつか進化する可能性は非常に高く、その際前の戦術オーブメントとの互換性がなくなる可能性も非常に高いって話を聞いていてね……その時に備えて今までの戦いで手に入れたのを使わずにとっておいただけよ。まあ、どこかの誰かさんはいざという時の事を考えもせず、全部クオーツへの合成やスロットの開封に使ったり、ミラへの換金に使っていたようだけねえ?」
「ハハ、ちゃっかりしている娘だなあ。」
驚いている二人にレンは口元に笑みを浮かべて答えた後エステルを見つめ、その様子を見守っていた整備士は苦笑していた。
「ちょっと!何でそこであたしを見るのよ!?」
「アハハ、私もちょっとはレンちゃんを見習わないといけないなあ。」
遠回しな言い方で自分の事を指摘された事にすぐに気付いたエステルはレンを睨み、その様子をアネラスは苦笑して見守っていた。その後レンは整備士にオーブメントのスロットの強化を全てしてもらい、クオーツも回復用の水属性クオーツと消費EPを少しでも減らすための空属性クオーツを合成してもらい、自分の真新しいオーブメントにつけた。
「はい、終わったよ。」
「ありがと、ロベルトお兄さん。わあ、EPがたっぷり増えたわ♪これなら下級アーツなら使い放題ね♪」
整備士から渡されたレンはオーブメントに表示されてあるMAXEPの値を見て可愛らしい微笑みを浮かべ
「どれどれ……って、さ、”399”!?」
「うわっ、レンちゃんのオーブメントって全連結だから元々EPは私達より高かったけど、強化されたらここまで増えるんだ……」
興味深そうな様子でレンの持つオーブメントのMAXEPを見たエステルは驚き、アネラスは目を丸くした。
「前衛の剣士なのに、全連結で無属性だなんて珍しいな。しかも全て無属性だからアーツの組み合わせも自由に組め、組み合わせにもよっては他の人達とは比べ物にならないくらい豊富なアーツを使えるだろうね。」
「しかもその娘が放つアーツの威力って何気にアーツの威力があたし達より高いクローゼやオリビエみたいに、滅茶苦茶高いのよね……」
興味深そうにレンを見つめる整備士の言葉に続くようにエステルは疲れた表情で答え
「うふふ、レンは”天才”なんだから当然の結果よ。」
「さすがはレンちゃん!可愛くて強い!まさに”可愛いものには正義がある”事を身を持って証明しているね!!」
悪びれもなく笑顔で答えたレンをアネラスは興奮した様子で見つめた。
その後クルツと合流したエステル達は訓練する場所へと向かった。
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第43話 | ||
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