The Duelist Force of Fate 27 |
第二十七話「無能者の前夜」
「おい・・・遠坂」
「何かしら?」
「いや、どうしてこんな場所まで来てるんだオレ達?」
「あいつらがいそうな場所にもそれなりに仕掛けをしておけば後々有利になるかもしれないじゃない」
「それは理解できるさ。ただ、どうしてオレだけがこんなにカードの詰まったリュックを背負っているのかという・・・」
「男の子でしょ?」
「・・・理不尽だ・・・」
私は衛宮君と一緒にとある屋敷の前まで足を運んでいた。
敵である魔術師が潜伏していそうな場所という意味でなら怪しい限りの場所。
寂れた館は未だ厳然と立っている。
「・・・何かありそうね」
「気味悪い館だな」
「まぁ、元々は聖杯戦争に参加してた奴の館らしいから、何か仕掛けぐらいはしてあるかも・・・」
ギィイイ。
そんな音と共に扉が開く。
「「あ」」
扉の先から人間が普通に出てくるところを目撃して思わず固まった。
「ん?」
そちらも気付いたらしく目が合う。
「まさか、こうも早く出会うとは・・・」
紅い髪を短く刈ったスーツ姿の女がこちらを見つけて、何やら驚いた様子になる。
「貴女・・・誰?」
女は答えず。
後ろの衛宮君を見て僅か逡巡したようだった。
「聖杯戦争の参加者。いえ・・・元参加者と言うべきでしょうか」
「元参加者?」
訊くと「ええ」と頷き返される。
「何かややこしい匂いがするんだけど、とりあえず訊くわ。貴女・・・私達の敵?」
「・・・・・・敵というのは妥当な表現ではありません。私の聖杯戦争はもう完結しています。ですが、だからと言って未だ続く聖杯戦争に何の干渉もしないというわけにもいきません」
「完結って・・・何言ってるの貴女?」
フッと女が何処か悟ったような笑みを浮かべた。
「こちらの話です。今から諸悪の根源を叩きに行かなければなりません」
(この女・・・何か知ってる・・・)
「大人しく退いてくれると助かるのですが?」
「悪いけどそうもいかないのよね。こちとら最大戦力がどっか行っちゃって大変なのよ。できれば、知ってる情報を洗いざらい話してもらえると助かるんだけど」
「遠坂凜。貴女の欠点はその理性的な判断を過信して何処かでミスをするところです」
「な!?」
名前を知られているだけならばまだしも他にも知っていそうな口ぶりに内心の警戒レベルを引き上げる。
「どうやらアーチャーがいないようだが、それで私に勝てると思っているなら、それこそ過信であると誡めましょう」
「アーチャー? 貴女・・・何を知ってるのか分からないけど、逃がすわけには行かなくなったわよ。衛宮君!」
「え? 遠坂戦うのか!?」
「今、戦わずにいつ戦うってのよ!?」
「いや、ほら、別に悪い感じはしないし、ここは穏便に・・・」
「甘い!? 激甘よ!? そんなんで聖杯戦争を勝ち抜けるとか思ってるんなら鼻で笑っちゃうくらい甘いわ!!!」
「な、何でヒートアップしてるんだ!?」
「私がミスですって? なら、そうかどうか確かめさせてあげるわ」
女が何故か「フゥッ」と溜息を吐いた。
「執行者に喧嘩を売る度胸は買いましょう」
カッチーンとくる物言いに私は足に括り付けているケースから二つ目のデッキを取り出す。
「聊か面倒ですが、立ち塞がるというなら痛い目を見てもらう事にします」
「あんたが執行者かどうかなんてどうでもいいわ。ちょっと、その鼻っ柱折らせてもらうわよ」
宝石剣を掲げる。
融けていく輝きはやがて紅のデュエルディスクとなった。
「これは・・・?」
隻腕の執行者が目を見張る。
「【決闘者の作法】」
一枚のカードがディスクにセットされた瞬間、世界の理が捻じ曲がった。
「デュエル!!!」
決闘者VS執行者。
それがどんな結果に行きつくのかは分からない。
一つだけ確かな事は冬木の地で新たな決闘の幕が上がるという事だけだった。
「僕のターン!!! ドロー!!!」
急激に肉体の動きを制限された秋葉は驚愕に目を見開いていた。
「か、体の動きがッ!?」
「僕はフィールド魔法『歯車街(ギア・タウン)』を発動!!!」
「これは・・・風景が・・・街!?」
急激に塗り変わっていく世界に驚きの声が上がる。
「四枚のカードをセット。更にモンスターを一枚セット。ターンエンド」
不意に動きが戻り、秋葉が慎二を睨み付けた。
「一体、何をしたんですか?」
「教える義理はない」
「なら、踏みつけにしてでも聞き出すだけです!!!」
靴が地を蹴る。
女学生とは思えない速度で慎二に迫っていく。
しかし、目標である慎二の前に立ち塞がったセットカードに攻撃が阻まれた。
「こんなもの!!」
蹴りが裏守備モンスターを蹴り砕く。
「リバース効果発動!!! 『メタモル・ポット』 互いに手札を全て捨てて五枚ドロー!!!」
「!?」
秋葉が己の中から力が根こそぎ奪われ、更に押し込められるように湧き上がったのを感じて、そのあまりのおぞましさに身震いした。
バックステップでその何かしらの攻撃らしきものから逃れようとするも、一瞬の内に効果は完了される。
慎二の前でまるで壷のようなモンスターが破壊され、墓地へと消えていった。
「これは!? 空想具現化の類ですか・・・」
「教えてやる必要は無い」
その答えに秋葉が再度突撃を掛けようとして再び体を拘束された事に気付いた。
「ま、また!? なら、これで!!!」
秋葉の視線が苛烈さを帯びて慎二の前に立ちはだかる四枚のカードを睨み付けた。
ベキリッとセットカードに罅が入った瞬間、本能的に慎二がチェーン発動を宣言する。
「罠(トラップ)カードフル発動(オープン)!!! 『無謀な欲張り』×3 『ヤタガラスの躯』×1」
トラップが破壊される瞬間、ドローソースが一斉に発動する。
「僕は七枚のカードをドロー!!! これからのドローフェイズを二回スキップする!!!」
秋葉が破壊されるカードの効果を目の当たりにしながら、自分が何と戦っているのかを理解し始める。
(カードを使った能力。あのカード一枚一枚が何らかの力を宿しているとすれば!!)
視線が慎二へと注がれた。
秋葉の力が間髪入れず再び発動し、物体から熱量を奪い去る事で手札を破壊―――できなかった。
「なッッッ!?」
大量の手札を片手に慎二の目が細められる。
「・・・・・・能力を確定。フィールド上のカードを任意の枚数破壊する。破壊したカードがモンスターカードの場合、自分の攻撃力と守備力を破壊したモンスターの数値分アップする。更に攻撃力と守備力の合計値分のライフを得る。このカードの効果は相手ターンにも発動できる」
「何を言って・・・」
秋葉が僅か後退した。
能力が届かないというだけではない。
その慎二の戦い方の異様さが混血の本能を防衛へと傾け、警戒心を引き上げさせていた。
「エンドサイクどころの話じゃないわけか。お嬢様の癖にえげつない能力持ってるね。遠野さん」
「貴方みたいな変な力を持ってる人に言われたくありません!!」
「そろそろか」
一分の壁が彼のターンを運ぶ。
「僕のターン! ドローフェイズをスキップ!! スタンバイ!! メインフェイズ1!!!」
慎二が手札を見て計算を働かせる。
(さて・・・どう攻めるか・・・ん?・・・こんなカード・・・デッキに入ってたか?)
一枚のカードが目に留まった。
効果を見た慎二が苦笑する。
(ああ、そうか。確かにそうだろうよ。僕はただの凡人だ。能力じゃ叶わない。だからって、【コレ】かよ。あいつ・・・僕にはこれがお似合いだってのか)
慎二もそのカードの事は知っていた。
しかし、未だそのカードは現実には発売されていないはずだった。
「手札から速攻魔法『禁じられた聖杯』を発動!!! 遠野秋葉の効果をこのターン中無効化する!!!」
「!?」
虚空へと投げ放たれたカードが秋葉へと向かう。
能力が迎え撃とうとして―――もう己の能力が封じられている事を即座に彼女は悟った。
「そんな!?」
胸元に突き刺さるカードは体を傷つけない。
しかし、それ以上の威力を確かに発揮させていた。
紅赤朱。
混血の女王。
その最たる能力である熱量を奪う力が見事に消え失せる。
「これで展開を邪魔するものは無い。『サイクロン』で『歯車街』を破壊! デッキから『古代の機械巨竜(アンティーク・ギアガジェルドラゴン)』を特殊召喚!!」
機械の龍がデッキより降臨する。
姿を現すソレに秋葉の血の気が引いた。
(こんな!? まずい!? 能力が封じられている状態でコレの攻撃を喰らったら!?)
「『愚かな埋葬』を発動。デッキからモンスターカードを一枚墓地に送る」
たった一枚の薄っぺらなカード。
しかし、そのカード達が織り成すコンボが始まろうとしていた。
如何な混血の力だろうともデュエル上はモンスターの効果に過ぎない。
圧倒的なアドバンテージを有し、その攻略法がデッキの内にあるならば、デュエリストは如何なる能力の相手だろうとも粉砕する。
その片鱗をすでに理解し始めていた秋葉は懐にあるものを意識した。
「確認はこれが最初で最後だ。遠野さん【今ならまだ間に合う】」
「・・・ふん。随分と余裕ですね」
「これから行かなきゃならない場所が出来たって言ったはずだ。邪魔しないなら戦う必要はない。だが、戦闘を続行するなら、あんたの持ってる能力に手加減は出来ない」
「こんな所で退けるなら、戦おうとなんてしません」
「・・・・・・なら、どんな手段を使おうと退いてもらおうか」
慎二が己のデッキに入っていなかったはずのカードを掲げる。
―――手札からフィールド魔法『エコールド・ゾーン』を発動!!!
「これは!?」
風景が景色が歪んでいく。
「このフィールドがある限り、お互いのプレイヤーは、直接攻撃する事ができない。そして、このカードがフィールド上に表側表示で存在する限り、モンスターの召喚・反転召喚・特殊召喚を無効にして破壊し、そのモンスターと同じレベルを持つ「マスク・トークン」1体を特殊召喚する」
「――――ッ」
正確な意味は理解できずとも言われている事が己の身に極大に危険な災厄として降りかかってくるのは秋葉にも感じ取れていた。
「このターンで終わりにする」
ゾッとする程に冷静な瞳で慎二が告げた。
「デッキから「究極宝玉神 レインボー・ドラゴン」一体を除外して、手札から【Sinレインボー・ドラゴン】をフィールドに特殊召喚!!!」
宝玉に彩られた竜神の幻影が慎二の背後に立ち上り、暗闇へと消えていく。
そして、漆黒の体が出現した時、倉庫を跡形も無く吹き飛ばした。
爆発的な力の解放に伴う暴風が秋葉の視線を遮り、一瞬の後に周辺全ての家屋が瓦礫と化していく。
「こ、こんな力をどうすれば制御できるって言うのよ!?」
気圧された故の言葉だった。
たった一枚のカードが引き起こした現象。
そう信じられない規模の力が周辺に渦巻いていく。
「これで、終わりじゃぁない。『エコールド・ゾーン』の効果発動!!! さぁ!! 来いよ!!!」
慎二の声に竜神が断末魔を上げる。
その体が爆散した。
(あれだけの力を自分で破壊した!?)
何が起こっているのか目まぐるしく変わる状況に秋葉が目を見開く。
「マスク・トークンを特殊召喚!!!」
散ったモンスターの破片が砕け散る前に灰色に変色し、まるで録画を逆再生したかのように巻き戻った。
しかし、ギュルギュルと音を立てて組み上げられていくのは竜神そのものではなく。
竜神と同等にまで膨れ上がった幽霊の如きのっぺりした相貌を持つ灰色の化け物だった。
「まだまだぁあああああああああ!!! エクストラデッキから「サイバー・エンド・ドラゴン」を除外して『Sinサイバー・エンド・ドラゴン』を特殊召喚!!」
新たなモンスターは三つ首の機械竜だった。
やはり、幻影が慎二の背後の闇に沈んで、浮上した時には黒い姿となっていた。
「『エコールド・ゾーン』効果発動!! 二体目の「マスク・トークン」を特殊召喚!!!」
消失・黒化・爆散・再結合。
四つの過程を経て、フィールドに超攻撃力重視の「マスク・トークン」が生成されていく。
「ははははははは、はははははははははははははははっっっっ!!!!」
慎二の哄笑に秋葉の前身に汗が伝う。
伝い切る間もなく蒸発していく。
笑いが途切れる頃には四体の攻撃力4000の「マスク・トークン」がフィールドに勢揃いしていた。
唯一残った機械の龍が吼える。
吹いた音圧に秋葉が仰け反った。
「遠野さん・・・【行くよ】」
躊躇なく慎二の猛攻の火蓋が切って落とされる。
「ダイイチダァアアアアアアアアアアッッッ!!」
『マスク・トークン』の豪腕が容赦なく能力を封じられた秋葉へと迫った。
避ける事あたわず。
その強大な暴力に全身を硬くして防御体勢を取った体がインパクトの瞬間、吹き飛んだ。
直撃。
僅かながらの抵抗か。
接触の寸前に自ら後方に飛んだ体は五体が欠ける事は無かった。
ノーバウンドで瓦礫の山に追突した秋葉の耳にはもう慎二の声は聞こえていない。
「ニレンダァアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッ!!!」
遥か上空に跳躍したトークンが急降下し、その脚で秋葉諸共瓦礫の山を粉砕した。
「サンレンダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッ!!!!」
三体目のトークンが巨大な両手をギチギチと握り締めクレーターと化した大地に叩きつける。
「ヨンレンダァアアアアアアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッ!!!!!」
個性無きトークンは無慈悲に血の底に沈む肉体に向けてダイブし、その巨体で全てを押し潰した。
圧倒的な質量がクレーターを更に倍まで広げて尚沈み込んでいく。
「これで最後だ」
最後に残っていたアンティークギアの最終兵器がもはや死んでいるのか襤褸雑巾なのか分からない血肉の塊へと突撃していく。
「『リミッター解除』―――ゴレンダァアアアアアアアアアアアアアアアッッッッッッッ!!!!!!!」
歯車や螺子を落としながら内側から爆発的に湧き上がる輝きを纏った龍がクレーターの中央部に直撃した。
普通の人間ならば血の染みになっているはずの一撃。
「・・・退けば良かったんだ」
慎二が結末を見届けず、龍の末路も見ずに、背を向ける。
ライフ8000制。
攻撃力が例え2000で破壊されずに攻撃を耐えたとしても、合計ダメージは一万を優に超える。
ライフ0の人間から魔力が枯渇したならば、その結果は知れている。
「・・・・・・」
身に付けていた十五枚のサイドデッキから慎二が魔法カードを一枚引き抜こうとした時だった。
「・・・・こに・・・・・・・・・・くん・・・・か?」
凍り付いて振り返った慎二は在り得ない現象を見る。
「――――――なん、だと?!!!」
巨大なクレーターの中心で襤褸切れとなった辛うじて人型と分かる何かが声を発していた。
「そ、そんなはずはない!!? 確かにライフはゼ―――馬鹿なッッッッ?!!!」
慎二が相手のライフをその目で確認しようとして信じられないものを見る。
決闘者の能力の一つにはライフを数値化して見る能力があった。
そのライフが1と表示されていた。
1だ。
0ではない。
「琥珀・・・使わせても・・・・らう・・・・・わね・・・・」
秋葉の胸元でキラキラと何かの小瓶のようなものが割れていた。
その液体はまるで血を洗い流すように、あるいは肉体へ行き渡るように、伝っていく。
「この・・・・・まき・・・きゅー・・・xxx(とりぷるえっくす)・・・」
今にも死に掛けそうな少女は思い出す。
その小瓶を渡された時の事を。
近頃は物騒なので真面目に心配そうな顔をした召使が「効くか分かりませんけど」と苦笑しながらもお守り代わりに持たせてくれた。
その優しさが嬉しくて、でも・・・素直になれなくてお礼を言えなかった。
些細な棘がチクリと遠野秋葉の弱まった鼓動を刺激した。
「こんな」
【1】が―――ゆっくりと【2】へと移り変わる。
「こんなデタラメがあって―――」
そして・・・・・・変化は急速だった。
「たまるかぁああああああああああ?!!!」
急激なライフの増加によってその数値はジャスト10000へと辿り着く。
慎二の目の前でただの女学生・遠野家の主・紅赤朱・そのどれでもありながら、どれでもない存在が・・・・・立ち上がった。
―――――――――――ズン。
とても静かにその一歩は踏み出された。
まるで怯えたように「マスク・トークン」達が下がる。
己よりも巨大な存在を見上げながら・・・・・・。
それは嘗てG秋葉と呼ばれていたものに違いなかった。
しかし、ただそれだけの存在ですらもうなくなっていた。
【G秋葉X】
今、未知(X)なる力との決闘(Duel)が始まる。
【ビィイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイイム】
「うあああああああああああああああああああああああああああああああ」
都市を分断する灼熱の輝きに慎二は飲み込まれていった。
To be continued
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