超次元ゲイムネプテューヌ 未知なる魔神 プラネテューヌ編 |
●● ●●の始まりは恐怖から始まった。
意識が覚醒して周囲を見れば見覚えのない真っ白な部屋。
そして無意識に思考がここは病室だと理解した。
次に活動し始めたのは聴覚。吹く風と共に踊っているカーテン。
この部屋にあらゆる物の名称がまるで高性能のパソコンで瞬時に検索され情報が流れるようだった。故に自分のことが全く分からないその無知が一番恐れる事だった。
体調を回復して医師からはなんらかのショックから起きた逆行性健忘症と診断された。医師曰く倒れていた場所がモンスターと呼ばれる危険な生物が闊歩する地域であり、外傷こそは対したことなく、モンスターに襲われた心的障害やストレスによる心因性だと語っていた。
検査していく上で更に調べた結果、不思議なことが分かった。生きていく上で必要な知識はあったがゲイムギョウ界の女神やモンスターの存在は分からなかったのだ。ゲイムギョウ界で生まれたなら絶対に知っている筈の知識が抜けており、医師もこれには頭を悩ました。そんな時に協会から訪問者がやってきた。内容は女神様が救いなった人の身柄の確認だったが、名前すら抜け落ちている人物にそれは無理だと医師は言った。
そして、未だに自身の状態が分からず情緒不安定で刺激を与える事は医師として反対していたが、協会の中でも過激派であったその人はスパイの要因があると医師の言葉を無視して、●●の部屋に押し込み脅迫めいた質問を次々投げた。
それは●●にとって地獄だった。あらゆる物に既知感がありながら、一番知り合い部分の暗黒の中にあるという矛盾が身を切り裂くような痛みだった。そんな不安定なときに荒々しく扉が開けられ名も知らぬ男が入ってきた。その人物は椅子に座り、疑念と警戒心を隠すことなく●●にぶつける。
蛇に睨まれた蛙の如く体が縮めるような感覚が襲ってくる。息が詰まり、冷や汗が止まる事なく溢れる。
一体俺が何をしたんだ?
攻撃的な言動に何も言えない。否自分の事を聞かれても知らないとしか言えない状況で、相手はこちらに疑惑を固めており何も言っても言っても裏があると自己解決され火石に水だ。痛くもない腹を突かれ、追い詰められていく●●は顔色を悪くなり、それを尻尾を掴んだと勘違いする協会から来た男は更に攻める。誰がどう見ても悪循環だった。
いっその事、舌を噛み切ってしまえばいいのだろうかと極限まで追い詰められた●●は罵倒の迫る現実から逃げようと舌を出して大きく口を空けたその時だった。
『お止めなさい』
優しげな声が罵倒と自殺を止めた。
見ただけで人と次元が分かるような人智を超えた美貌。先まで薄い山吹色が彩っており、彼女の醸し出す包み込むような母性溢れるその姿に誰もが見惚れた。
初めて心の底から綺麗と思えた●●は言葉を失い彼女の姿を見続ける。男は驚いた様子で急いでその場を立ち上がり頭を下げた。それに彼女は頷くと彼と二人っきりにしてくれませんかと尋ねた。丁寧語ではあったが、その瞳には静かな怒りが灯っていた。男の攻撃的な言動は病室からは良く響き彼女の耳にも良く聞こえたからだ。男は顔を青く染めながら何度も頷き逃げるように病室から出て行った。その後ろ姿を黙って見つめ小さくため息を付き●●と向かい合った。
『初めまして、雄大なる緑の大地グリーンハートですわ』
そよ風のような透き通る声に●●の停止していた思考に衝撃が走る。医師からはある程度、ゲイムギョウ界の知識を教えてもらったからこそ分かる。相手は女神、この国で間違いなくトップに君臨する存在だ。同時に救ってもらった存在あり、●●は急いで頭を下げた。それに微笑むグリーンハート。
『大変でしたわね。もう安心していいですわよ』
そう言って男が座っていた椅子に腰を下ろすグリーンハート。だが、●●は先ほどとは違う冷や汗が流れる。相手はこの国で一番の権力を持つ存在。ある意味で先ほどの男より性質が悪い。粗相のないように慎重に言葉を選ぶ。この時だけでは自分の既知感には感謝した。
『−−−何か思い出しましたか?』
相手を刺激しないように物腰柔らかな態度で接するグリーンハートに男の圧迫感によって苦しんでいた精神が柔らかくなり、深い呼吸をして思考が落ち着かせることが出来た。同時に今まで接したことがないのにも拘らず女神としての雰囲気のお蔭のなのか、これからのことや自分の事を斜めに考えていた思考が軟弱化して深く深く思い出そうと記憶の海に身を沈ませることが出来た。
『紅夜ーーー俺は、零崎 紅夜です』
そして思い出すことが出来た自身の名前。
そう、零崎 紅夜の始まりを動かしたのは間違いなくグリーンハート−−−ベールなのだ。故に紅夜はベールを命の恩人として尊敬する女神として信仰という区切りを超えて、彼女を想い続けるのだろう。それは、生まれたばかりの雛鳥が最初に見た者を親と認識するように。
◇
「ふぅ………」
激動した事件は多くの犠牲と共に終わりを告げた。相変わらずふわふらと降りてくる雪は変わらない。
この場には俺だけしかいない。コンパには一人してくれと頼んだからだ。
山の中にある協会だからこそ見える光景。山下にある街が照らす地上の星群を静かに眺める。
『後悔してる?』
「まぁ、冷静に考えたらな。俺は最悪だ」
結局、俺は一人で喧嘩出来ないから協力しろ。そして、勝ってしまったらその後の後処理もお願いしますーーーだからな。
ブラッディハードとして出来るとすればモンスターになる分の『負』を自分が背負う事。今まで消費する分だけ『負』を燃料として燃やしてきたが、それを無尽蔵に取り込み制御するとなると途方もない労力が必要になるだろう。
犯罪神マジェコンヌから押し込まれた負に?み込まされそうになった。あれで|全て《・・》ではないのだ。
「…………」
先代のブラッディハードはやはり『負』によって暴走したのだろうか、それとも己の意志で女神を殺戮する決意をしたのか今の俺には分からない。ブラッディハードと女神は存在的から敵同士。これはどうやっても曲げられない理。お互いに分かり合えても−−−いや、それは俺の一方的なことなのかもしれない。
「紅夜」
呼ぶ声に振り向くとそこにはベールがいた。思うのだが、その露出が激しい服で寒くはないのだろうか。そんなことを考える俺を余所に俺と肩を並べるベール。その視線は虚無に向かっていたが、一年という短くても濃い日々を過ごした影響なのか、なんとなく分かったベールは怒っていると同時に悲しんでいると。
「……あなたに世の人柱は無理です」
『ぶっちゃけ、コイ〇ングでカイ〇ーガに立ち向かうぐらい無理な話』
進化させてメガストーン使ってメガギャ〇ドスならチャンスがあるぞ。相手の技とか、レベル差ありなら、かなりいける。
『勝手にメガ進化させんな。ところでどうしたの何か様なの?』
「…貴方は、分かっていても止めないですか?」
『全ての行動には誰かがプラスに動き、誰かがマイナスに落ちるそれが世の中。人でも神でもそれは歪めらない絶対なる天理。その中でこいつはプラスとマイナス部分を見極めた上で((決めたんだ|・・・・・))。口出す必要ある?』
「−−ッ!」
ベールが、今にも泣きそうな顔になっていた。女神という立場とかそんなことを一切除外して、ただ心配してくれる事がすごく嬉しかった。だけど、その好意に甘える事は出来ない。
「どうしてーーーどうして、そこまでするのですか!?。私は紅夜がどんな者になっても気にもしません。いいじゃありませんか、紅夜は十分、ゲイムギョウ界の為に働きましたわ!今からでも遅くはありません!リーンボックスの奥地でひっそりと暮らして余生を過ごしになってください。生活に必要な物は女神として私がなんとかしますから……!」
「…………」
「紅夜が背負う必要なんてないんですよ…。誰もそれを強制していません。確かに夜天 空の作り出した摂理が間違っていると私も思います。でも、だからって紅夜を世界の生贄になる必要なんて……!」
ベールの頬を伝う雫にあの時を思い出す。偽造された罪を押し付けられ、毒を飲まされたネプテューヌ達を助けるために協会に単身突っ込んで大暴れした。ネプテューヌ達を無事に逃がすまでは良かったけど、その場所は民衆の場であり、俺はあの時ベールに討たれる事を願い、そして望みどおりに討たれた。
「もう一度、紅夜は私に討てというのですか!!!」
涙を流しながらベールは叫んだ。ネプテューヌ達を助け女神グリーンハートの地位を守ることが出来てもベールを傷付けてしまった。
『(やれやれ、泣く女ほど厄介な者はねぇぞ?)』
「(うっさい)」
……何か言われるとは覚悟していたが、まさか泣かれるとは思わなかった。
既にベールは子供のように離すまいと俺のコートの裾を掴みながら、地面に顔を向けたまま泣いている。雪の積もった地面に幾つも涙の痕が次々と造られていく。
「どうして紅夜なんですか…!紅夜じゃないといけない理由があるのですか…!人として暮らしていく事に一体どこがいけないというのですか…!」
「……ベール」
ベールは、俺より俺のことを心配してくれている。
そして先を見ている。先代ブラッディハートの事を考えれば、真っ先に思いつくのはブラッディハートと女神の殺し合い。お互いの存在を証明するための聖戦が行われる。正に宿命同時の血で血を洗う対決と言う訳だ。モンスターの存在しないがもし実現したとしたら、政治的に経済的にもゲイムギョウ界は更に発展することが出来る。
その先にいるのが女神。
この世界の希望の象徴。
ゲイムギョウ界の守護たる存在。
「俺がブラッディハードの力を手に入れた理由は、理不尽と戦う為なんだ」
「………」
ぎゅっと裾を掴む手の強さが強くなる。ベールは大人って感じだけど今は本当に子どもみたいだと少し笑いながら続ける。
「こうでありたかったけど、現実はこうだった。世の中いつもそんなことばかりだ。良い奴が死んだ。悪い奴が生きている。どうして、そうなんだろう?と思って俺は女神の力に憧れた」
女神ではなく、女神の力が欲しかった。
モンスターがいなくなればといつも考えた。
みんなを守れる力が欲しかった。
笑顔を溢れる力がこの手にあればと願った。
「……けど、力は在り方でしかない。剣を握ればモンスターを斬れるし、同時に人も斬れる。魔法で火を灯らせば凍えなくて済むけど、火災を引き起こすことも出来る。力の使い方を満足に理解していなくて、みんなに迷惑を掛けたこともあった」
リーンボックスでの暴走時にどれだけネプテューヌ達を傷付けたか、弁えを考えず色んな者に手を伸ばし過ぎて、手の間から零れ落ちても意味もなく拾い集めて結局崩壊して全部を壊した。
「俺は弱い。空が居なければ間違いなく誰かを無自覚のまま殺していた。どうしようもないさ……。だからこそ、俺は強くなる、強くなり続けることが出来る」
それは仲間がいたから。どんな状況でも笑う奴がいた。俺の為に泣いてくれる奴がいた。
だからこそ、挫けることは俺が俺を許せない。
「明日、明後日と一緒に居てくれる奴がいるだけで俺は強くなれる」
自信なんてない。
確信なんてない。
恐怖しかない。
だけど、倒れても立ち上がろうとする自分がいる。
「だから−−−信じてくれ」
それだけで、明日を迎えるだけの力が俺には沸いてくる。
確かに『負』に?まれるかもしれない。だけど、その時に何度も楽しかった時を帰る場所があるということを柱にして俺はいつまでも俺であり続ける。
「信じて、いいのですね。紅夜」
「お前が光であり続けるかぎり俺は闇であり続ける」
ベールは裾から手を離して、今度は両手で俺の腰に回して泣き顔を隠すように俺の胸に顔を押し付けた。少しだけ驚いたが、俺もベールと同じようにベールを抱き締めた。
「女の子を泣かせた代償は高いですわよ」
「いつまでも、どこまでも、お前が望むのなら払い続けるさ」
雪の降る寒い日。
だけど、そこには温かな絆を結んだ二人が確かにそこにいた。
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