ゴンダくんのバレンタイン |
あれは2月10日
バレンタインデーまであと4日という所の模型部での話だ。
唯一の女子部員であるヒロインが、この日何気なくカレンダーを眺め、「ユウキ先輩っ
てバレンタインもすごそう・・・」こう呟いたのが事の発端だった。
答えはすぐ知れた。凄いもなにも筆舌しがたい女子の争いが毎年引き起こされているら
しい。
確かにモテるユウキは羨ましいと思うのだが、あの「惨状」を見るとその気も失せると
云う者も中にはいるので相当な物なのだろう。
「当日の部長はそれはもう、女生徒がさながら宇宙戦争を引き起こすかのごとく苛烈を
極める戦いをだな!」
ユウキを中心に4日後のイベントについて盛り上がっている部員達。
すでにユウキ関しては自分達とは次元が違うと捕らえているので、これに関し彼に対し
て嫉妬も羨望もなく、毎年恒例となりつつある、「格好の話題」程度の認識だ。
他校生の友人にネタで話して受けが取れると云った所だろうか?
「今年も100超えるんじゃないかユウキ」
「さぁ?どうだろうね」
だが、当の話題の主はその事に興味があまりないらしく、薄く唇に微笑みを湛え適当に
合わせているといった感じが見て取れる。
(やっぱり学園のアイドルと称される先輩なだけあるなぁ〜〜・・・)
部員から語られるユウキの武勇伝には純粋に感心しか出ない。
だが、彼女は同時にハタッある事にも気付く。
(そう云えばゴンダ先輩学園の風紀に厳しいしバレンタインはどうするんだろ?)
聖鳳学園は私立なだけあって、風紀や規則に厳しく登下校の買い食いや私物持込等の禁
止事項がとても多く、取り締まる側である執行委員もそれに準じてかなり口やかましい
と評判で、生徒内では嫌っている者も多い。
そして、今自分の目の前には先輩であり同時に模型部副部長でもあり、加え執行委員も
務めるゴンダ・モンタがいる。
「執行委員はバレンタインどうするんですか?」
彼女がこの疑問を浮かべるのも当然の事であろう。
だが、先ほどからされる話題には入らず黙々作業を進めていた彼は、片目でヒロインを
見やったと思うと。
「学業に関係無いモノは没収に決まってる!」
―――こうハッキリ云ってのけた。
「お前は頭堅いんだよ!」
「少しはバレタインくらい大目に見ろよ!」
「んなだからゴリラって女に云われるんだよ・・・」
お陰でそれを聞いた部員達からは、ゴンダを中心にブーインの嵐が形成されいる。
当初は大人しく聞いていたゴンダだが、流石に最後の言葉で我慢の限界が来たらしい。
「最後のゴリラつった奴は誰だーーーーー!!」
雄たけびを上げ、追いかけるゴンダと、逃げる部員。
ある意味、模型部では間々見掛ける光景でもあり、誰も気に止めはしない。
(楽しそうだなぁ〜〜・・・)
相変わらずの光景を、ヒロインが眺めていると部員との話に一区切りついたであろうユ
ウキがいつものように柔和な笑顔を浮かべ近づき、まるで秘密でも教えてくれるような
口ぶりで。
「大丈夫。彼も、あんな事云ってるけど、あまり目に余る以外は大目にみてるから安心
していいよ」と声を潜め囁くのは会長としての立場故だろうか?
「はぁ・・・」
ユウキの言葉に曖昧に答え、ゴンダ先輩の大目ってどこからなんだろ?とヒロインが思
ったのはバレタインデー4日前の話だ。
2月14日 当日。
執行委員でもあるゴンダ・モンタは聖鳳学園正門を前で他の執行委員を従え、正門前を
陣取っていた。
理由は勿論、「持ち物検査」だ。
バレンタインデーにはなにかと、学園の風紀を乱す物を持ってくる生徒が何かと多い。
一言で云えばチョコレートだ。
何故ならばバレンタインデーだから。
この一言に尽きる。
(まったく・・学生の本分をなんと思っているのだろうか・・・)
学園の風紀を守る為、日夜巡回など勤しむゴンダであったが、その勤労意欲とは裏腹に
彼の評判はすこぶる悪い。
「融通が利かない」「厳し過ぎる」その厳つい外見を模して「ゴリラ」と貶して来る者
もいる。
表立って口にする者は流石にいないが。
何を云われようと、これも学園の風紀を守る為。
誰かが悪者にならねばならんのだ!そしてそれは執行委員たる自分の役目だ。
―――こうゴンダに思わせるのは、彼の好きなアニメ故だろうか?
そう改めて、自分に言い聞かせていると、見慣れた人物が雪に足を取られ転びそうにな
ってたのが見え、ゴンダは寸での所で手を伸ばし、彼女の二の腕を捕え転倒を阻止する
のであった。
「大丈夫か?気をつけろ。今の時期は特に滑るからな」
「ヒイィイ。凄い怖かった〜〜 あ、先輩。有難う御座います」
「いや、大丈夫ならそれでいいんだが・・・」
「平気ですよ〜 あ、おはようございます。一体何時からここにいるんですか?」いま
2月のど真ん中ですよ!雪降ってますよ!といいたげ雰囲気が全身から伝わってくる。
高等部1年D組。男ばかりの模型部で唯一の女生徒。
女子には難関と云われる、模型部テストを謀らずとも己でハードルを上げ、合格した生
徒で部活においてのゴンダの後輩で名前をユメノ・ヒロインという。
当然、模型部に所属しているゴンタとは、部活を通しての先輩後輩の関係。
声を掛けるのもオカシクはない。
そう、いつもならば。
ただ、流石に今日ばかりは勝手が違う。
今日はバレンタインデーだ。
しかも自分は数日前、彼女に持ち物検査を当日に行うと伝え、彼女もそれ聞いていた筈
だというの彼女は声をかけてきた。
どちらかと云うと、咄嗟の事故により自分がヒロインに声を掛け、そして彼女が対応し
た。というのがこの場合正しいのかもしれない。
しかし理由はどうあれ、これでは、ゴンダはヒロインに聞かねばならない。
そう、彼女の持ち物について。
「おはよう。6時からだな」
ヒロインの事はそれなりに、知っている仲なので見逃すとまでは云わないが、大目に見
るつもりだった。
いかな、ゴンダいえ女性のバレンタインに掛ける情熱はそれなりに理解している。
しかも我が学園には、女生徒の人気を一身に集めるユウキ会長もいるのだ。
今更、「会長がバレンタインに誰かからチョコレートを貰った」と聞いてもこの学園で
驚く者はいないだろう。
だから、きっと彼女の鞄にも会長用のチョコが入ってるに違いない。
いつもは見掛けない大きめの紙袋を持っているのがその証拠だ。
そして自分は会長の事を尊敬しているし、会長がヒロインの事を気にかけてるのはなん
とはなしに気が付いていた、しかしそれが、部員だからなのかそうでないかは、こうい
った事に疎いゴンダには解らないが。
きっと会長へのチョコも持ってきているのだろう。
それをこんな場所で、晒し者みたいに、こじ開けるのは避けたい気持ちもあった。
だから、数日前に彼女に何気なく聞かれた時、本来は委員内で黙秘事項である「検査」
の事を自分も何事もないように伝えたのだ。
そうすれば、当日ヒロインは自分を警戒して声を掛けて来ないだろうと。
だが、彼女は・・・・
「6時?えっ?2時間も?!・・・風邪引かないよう気をつけてくださいね。カイロい
ります?」
予備ありますよ?避ける事なく、いつもなんら変わらぬ態度で話しかけて来るのだった。
「い、いや、大丈夫だ。・・・」
「ならいいんですけど・・・」
欲しくなったら云って下さいね。と呟き鞄へ戻すヒロインに、ゴンダは本題を口にする。
「そ、それより、持ち物検査だ。学業に関係ないもの持ってきてないだろうな?」
「いえ、持ってきてます。でもここで会えて良かった・・・はい。没収して下さい先輩」
「はぁ?」
そんなゴンダの気持ちを無視するかのように堂々とこう云うのだった。
「いつもお世話になって有難う御座います」
小さい手の平に小さいプレゼントを乗せて。
数日前に「検査」の事も伝え、「学業に関係ない物は没収する」と云い切った自分にち
ょっとしたアクシデントが遭ったとはいえ、会話を切り上げる事もせず、声を掛けてき
たヒロインだ。
もしかしたら、チョコなどは自分の杞憂であって、彼女は持って来てはいないのかもし
れないと思い直したゴンダだったが、それはヒロインの台詞によって違うと知れた。
「いや・・しかしだな・・・」
この場合一体どういう対応が一番正解なのだろうか?
部活中に渡されたのなら、礼をいい受け取っただろうが、今は正門前で他の生徒の視線
もある。
かつ、現在自分は執行委員として取り締まる立場におり、このまま受け取ったら周りに
示しが付かない。
「あれ?関係ないものは没収ですよね?どうぞ?」
かといってニコニコと笑顔渡してくる後輩の好意を無碍に出来ず、ゴンダはほとほと困
っていた。
「先輩?甘い物お嫌いでした?」
不安そうに言い募るヒロインの顔が見える。
「い、いや・・そうでなくてな・・・」
さてどうしたものかと悩んでいるゴンダの元に、
「後輩からの好意は受け取らないとね」
さながらホイワイトドールのような救世主が車から現れた。
「ユウキ部長おはようございます」
「おはようユメノくん」
「会長!おはようございます!」
「ゴンダくんもおはよう。ダメだよ折角のバレタインなんだから受け取ってあげなきゃ」
相変わらずの柔和な笑顔で微笑むと周りから黄色い歓声が漏れ、それに応えるかのよう
に手を挙げ微笑んでいる。
しかもこれが毎日の事なのだ、やってる方は兎も角、よくユウキ会長は飽きない物だと
ガンプラバトルとは違う意味で尊敬に値する。
「会長が・・・そうおっしゃるなら・・・」
ゴンダはヒロインから受け取るのであった。
なにはともあれ、ユウキ会長のお陰で後輩を傷つけにすんで良かった。
生徒会会長である自分が云えば、誰に角を立てるのでなくゴンダが受け取る事が出来ると
解って、あえていつもは正門を越えるまで車内から出ない方がわざわざ、自分にこう云っ
てくれたのだろう。
こういった気遣いの出来るのもまた会長たる所以なのだ自分もより精進しなければと思う
ゴンダなのだった。
そんな感動にゴンダが打ち震えていると、
「先輩!これ!」
「私も!!」
どこから沸いて出たのか?そんな物一体どこに隠してここを突破したんだろうか?という
ような物を次々と女生徒がユウキに渡して行く。
しかも笑顔で「ありがとう」と微笑むのでその熱気は加速するばかりで、正門はユウキに
渡そうとする者と登校する生徒とで満員電車のようにごった返していた。
「こら、お前達! いつの間にそんな物を・・・・!」
執行委員の仕事を思い出し、注意するゴンダだが、
「ちょっと退いてよ!ゴンダ!」と色めき立った女達は彼の声に聞く耳をまったく貸さな
いのあった・・・・
(こいつら・・・人が大人しくしていれば・・・)
いい加減、堪忍袋の緒が切れそうになり一喝しようかと、息を吸い込んだ時、誰かに袖を
引かれその感情のままそちらに顔を向ける。
「先輩?顔赤いですけどやっぱり風邪引きました?」
そう云って冷たい手で自分の頬を触れてくるヒロインに一気に何かが霧散するのだった。
「やっぱりカイロ渡しておきますね。それではゴンダ先輩。ユウキ先輩、お先失礼します」
「また部活でね」
女生徒の中心からユウキが、そして少し離れたところから、多少冷静さを取り戻したゴン
タが「あ、ああ。今度は転ぶなよ」と云ってくれるので、ヒロインはそんな二人に頭を下
げ戦場と化したその場を早々に離脱するのであった。
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ヒロイン高1なのに、何故か2月にユウキ先輩が学校にいる不思議はパラレルと思い気にせずお読み下さい。 ※注意書きはプロフに書いてあります |
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