福岡港改造生物密輸事件 4 |
夜の福岡市。
本来ならビル明かりやネオン、道にならぶ屋台などで明るく、夕食や宴会にはずむ声が聞こえてくるはず。
だが今は、電線が寸断されたため明かりが消えたところも多く、所々火災が地面をなめるように広がっている。
そんな街をさらに蹂躙する、身長20メートル、首から4枚のプロペラを出した怪ロボット。
便宜上オレがエアロマフラーと名づけたそいつは、隊列を組んで今も奴隷にするための人攫いをおこなっている。
そしてエアロマフラー隊の中心には、自らエアクロラウンと名乗った、直径300メートルほどの巨大な空飛ぶ円盤が、音も無く空中に静止している。
その下には、中州と呼ばれる那珂川と博多川に囲まれた島があった。
日本で一番屋台がならぶといわれる繁華街だ。
橋はすべて落とされている。
オレ、透明なパワードスーツの偵察専門ヒーロー・アウグルこと吉野 健太郎は、銀翼の超音速ノッカーズ・イーグルロードこと久 広美に吊り下げられ、エアロクラウンを遠く見下ろしながら周りを旋回していた。
地上では、中州への上陸作戦に向け、準備が進められているはずだ。
「私が5秒カウントしたら、作戦開始よ」
イーグルロードが降下の全責任を追っている。
「いや待て、橘花とシュヴァルベが来る」
オレが報告すると同時に、かわいい福岡弁が聞こえてきた。
「待つば〜い!」
高速で飛行して来たのは2人の女性。
たちまちオレ達を囲む。
クレイジードールの同僚、青の七に属する長いオレンジ色の髪の五ヶ山 橘花と、BOOTSのシュヴァルベ・ヴェンデフルトだ。
2人ともノッカーズ名はない。
「アウグルも一緒ですか?」
「へえ。橘花にはすぐわかるんだ。
重力を操るノッカーズだから、重さが見えるのか?」
「そうです!」
橘花は手にインドの剣、ジャマダハルに似た、パンチと同じように突きを繰り出すパイルバンカー、八九式空中突撃杙を持ち、腰や腰に柑橘色の風鎮を付けた和風のブースター…?八月朔黒鳶を纏う。
シュヴァルベはBOOTSの正式採用自動小銃、G36を持っている。
そのバレル下には40ミリグレネードランチャー、M320GLMを取り付けてあった。
マシーネン・リユストウンと呼ばれる近代的なデザインのドイツ製ブースターを纏っている。
2人とも変身はしない高速飛行ノッカーズだ。
「その突撃!まつばい!ドルチェ!なんで私達を置いて行ったと?!」
橘花は激しい剣幕だ。
戦場ではクールなシュヴァルベも厳しい目でドルチェを見つめる。
「単純にスピードの差です。正直、もう辛いのです。でも、僕の能力でないと、周囲に被害を出さずにあのデカ物は倒せない!」
ドルチェの声に疲労がにじんでいた。
「確かニ、アレを破壊する能力も兵器もあるにはアルガ、その二次被害も凄まじいヨ。
その点ドルチェの能力なら、相手は切り裂かれるダケ」
シュヴァルベの言うとおりだ。
だが、能力をしまうことができないクレイジードールの精神的疲労は、もう限界に近いだろう。
他の能力者を探してくる余裕も無い。
その分オーバジーン・オークスンに負担が掛かる。
「…先輩たち、援護をお願いします」
イーグルロードが決断した。
「カウント5でアウグルを切り離し、私とドルチェは昭和通りに突撃します。
先行は私達が、二人はなるべく離れて防御機動しながら付いてきてください」
「任せなさい!」
そう言って橘花は胸を張った。
「ドルチェにはバリア破壊ダケ、おねがいスルヨ。
ソシテこの作戦後にすぐ離脱するコト」
シュヴァルベは有無を言わせない口調で言い放った。
「…わかりました」
ドルチェの援護は、オレが呼んでおく。
懐から飛び出す自衛用ランナフォンはワシ型が6機。
死なない分には十分だ。
同じものをイーグルロードも1機持っている。
連絡用と、彼女の戦いを見るためだ。
「では、切りはなし5秒前!4・3・2・1・0!」
イーグルロードはオレのサブアームを離し、橘花とシュヴァルベと共に突撃を開始した!
彼女たちは、速度の割には静かに降下していく。
バン!
加熱された空気の膨張音。
一方はイーグルロードのエンジン音。
もう一方はエアロマフラーからの反撃のレーザー。
だがイーグルロードの上にはクレイジードールがまたがり、その斬撃がレーザーを無効化する!
橘花とシュヴァルベは、降下と同時に左右にはなれ、複雑な機動を描きながらすすんでいく。
その動きは異星のロボットでも捕らえきれないようだ。
だから、敵は一番先頭に狙いを定める。
何発かレーザーがドルチェの斬撃をすり抜け、銀翼を赤く染める!
だが、こんな事も在ろうかと、とばかりにイーグルロードの銀色の装甲には、レーザーを反射させる効果がある。
『バリアの範囲は胴体の中心から全身を包める半径10メートルくらい!球形!』
空中のホコリ粒子まで見分けられるイーグルロードが解説しつつ、昭和通りとエアクラウンの手前で人型に戻ると、レーザー砲をもう1丁創造した。
そして2丁でレーザーを放ち、エアマフラーを両断する!
『プロペラで飛んでいるときは頭上と下はバリアを張らないよ!空気穴だね!
でもプロペラ自体にもバリアがある!
剣としても優秀よ! 』
無人偵察ロボットとスマートフォンを兼ねるランナフォンからの報告は、インターネットを通じて逐一後方へ送信される。
後方ではエレメンツネットワークの協力者がオペレーターとしてそれらを編集し、前線へ放送する。
胸からのバリアを破壊されても、エアマフラーの機能が止まるわけではない。
むしろ残った手足を振り回し、プロペラを刀として襲ってくる。
そんなロボットの相手は橘花とシュヴァルベだ。
橘花の八九式空中突撃杙が白兎のマスクをかぶったエアマフラーの頭を貫く。
ドン!
突撃杙の中で30ミリ炸薬が炸裂し、巨大な鉄の塊が加速されるんだ。
それに、橘花自身が超音速で飛行できる。
エアマフラーは頭どころかプロペラの基部まで破壊された。
ところが、エアマフラーは無事だった足を高く上げて反撃してきた!
あいつの足は飛行時の固定翼としても使えるため、前後に広く、よけにくい!
だが橘花はあわてない。次の技があった。
『耶麻小天狗流 二之門!烈風!』
小型の重力波が見えない弾丸となり、次々にエアマフラーの裂け目に打ちこまれる。
その衝撃で砕けた破片が兆弾となる。
外から見ても装甲がベコベコ曲がる。
エアマフラーを内部から完全に破壊した!
だが、それと同時にいくつもの金属の塊が意図的にばら撒かれた。
一方のシュヴァルベは地上ぎりぎりを、すべるように飛行していた。
地上といっても、今や乗り捨てられた自動車がおもちゃ箱をひっくり返したように転がっている。
それでも、良くこんなに隠れる場所が見つかるもんだと思えるほど、彼女の動きには無駄が無い。
先にイーグルロードが開けた穴に、正確に40ミリグレネードを打ち込んでいく。
次々に爆発が起こり、エアマフラーは機能を停止させていった。
その周りに、エアマフラーがばら撒いた金属物が落ちてきた。
それは、側面から6本の足を生やすと、人間の下半身くらいの大きさのロボットになった。
シュヴァルベの周りに8機。
それが、シュヴァルベに近いほうの足を上げ、すばやく一斉にカプセルを放った。
カプセルから放たれたのは、クモの巣状に広がる捕獲ネットだった。
同時に、正確に放たれたそれは、何も無い空間で絡まりあい、捕獲ネットと足をつなぎ相手を引き寄せるロープもあって、8体のクモロボットは完全に身動きが取れなくなった。
シュヴァルベは、その動体視力によって捕獲ネットが絡まるタイミングを見計らい、上空に逃げていた。
そしてすばやくUターンするとG36の5.56ミリ弾をお見舞いした。
クモロボットには牽引ロープを切る機能があったようだが、間に合わず蜂の巣になった。
このタイプにはバリアは無いのか。
上空では、他の飛行ノッカーズやヒーローからの援護射撃も行われる。
色とりどりのビームやミサイルが、3人の手が届かない敵に殺到する。
だが、さすがにエアクラウンのバリアは破れない。
千田隊長からの命令が飛んだ。
『イーグルロード!ドルチェ!エアクラウンに攻撃しろ!
輸送能力がそがれれば、奴らの目的は達せられない!』
「「了解!!」」
イーグルロードはドルチェを載せて、急速上昇を始めた。
エアクラウンを眼下に、その高度はどんどん上がる。
そしてある高度になると、今度は急降下を開始した!
猛スピードでエアクラウンに近づくイーグルロードの背中から、クレイジードールが飛び降りた!
『くらえ!!』
その手から特大の斬撃が放たれる。
今出せる力のすべてを込めた白いエネルギーの刃。
突き刺さった!
と誰もが思った。
しかし、ドルチェの体はエアクラウンのバリアを貫いたと思った次の瞬間、空高く舞い上がった!
いや、飛ばされたんだ!
エアクラウンの側面が再びまげられ、巨大な腕となってドルチェの体を突き飛ばしたのだ。
広美は、吹き飛ばされたドルチェを追おうと、急制動を掛けて再び上昇を開始しようとした。
だが、間に合わない!
『させないばい!』
ドルチェの後ろに、オレンジ色の陰が滑り込んだ。
橘花だ!
よくやった!
だが、ドルチェの藤色の髪がピンクに変わっていく。
ノッカーズ能力が尽きたんだ。
2人がちょうどぶつかった時、その動きが止まった。
その瞬間めがけ、ビルの向こうから小型のロケット弾が次々に発射される。
エアマフラーか?
橘花はそれを察知すると、昭和通りに戻ってきた。
さっきまで橘花たちのいた空中に、無数の爆発が起こる。
それまで昭和通にいたエアマフラーとクモロボットはほぼ一掃された。
だが、すぐに増員が響かせるプロペラ音が響いてきた。
その時オレは、彼女たちが飛んだより低い軌道を、2枚のプロペラで速度を落としながら降下していた。
中州と対岸の川端町をつなぐ橋が掛かっていた場所。
そこでは、メタルストームに入らず先行した犬型ランナフォンが偵察している。
HMDに、落とされた橋の間に巻き込まれた自動車が映し出される。
そこへ約束通り、川を進む灰色の巨人が現れた。
巨人といっても、20メートルはあるエアマフラーに比べれば、全高5.72メートル。
数も6台と少ない。
だが、その足には浮上ファンが搭載されており、水面をホバークラフトとして移動していく。
うち2台が崩れた橋のそばでファンを止め、川底に立った。
そして瓦礫の押しのけ下から人を救い出す。
残り4台は救助作業中の2台を中心に円陣を張り、背中に仕込んだ火器を放った。
大口径のプラズマ砲・掃除機が、空中のエアマフラーをバリアごと焼き尽くす!
橘花とドルチェを失った戦線に、強力な助っ人だ。
川のオーバオックスが4機、上陸を始めた。
うち3機はそれぞれプラズマ砲・掃除機、レーザー砲・箒、超振動波砲・塵取りを搭載している。
それらが火を噴くと、ただでさえ崩れていたエアマフラー隊の隊列は、完全に崩壊した。
コンテナを捨てて逃げていく。
エアクラウンも、それに続いた。
あれがオーバオックス。
最高出力の600万馬力は、機体そのものに使われるわけではない。
搭載されるさまざまな装備に電力をまわすためだ。
その最高出力にしても、ただ存在するわけじゃない。
ノッカーズの脳内に存在する異能をつかさどる物質、デミアジュウム。
それはソフトウェア制御で制御可能なもので、常識を超えたさまざまな機能をもたせることができる。
オーバオックスでは大容量バッテリーに使われている。
文字道理、人知を超えた逐電量を誇るが、その能力すべてを使うことは稀だ。
だが、今日は違うぞ。
もう1機、非武装でありながら円陣の先頭にいたオーバオックスがいた。
そのオーバオックスは、両足を縮め両手を地面に付けた。
すると、収納された6輪のタイヤがあらわれてロボットモードからSUVモードへの変形が完了する。
その上に、灰色の霧が広がった。
霧の上に、20メートルはあるリフティングボディコンテナが落下する!
その霧はコンテナの勢いをゆっくりと落とし、静かに静止させた。
熱でも運動エネルギーでも抵抗をかけるノッカーズ、野方さんの仕業だ。
野方さんの霧は、その長さを50メートルほどに伸ばした。
もう、橋の代用としては十分だ。
仲間のオーバオックスと3台で、ふんわりと河へ放り投げると、川岸にぴったりと嵌った。
『昭和通にかかっていた、東中島橋の場所に、仮設の橋を作りました!
しかし効果は、1時間ほどです!
付近の方は、急いで避難してください!
遠くの方!敵が近くにいる場合は、救助が来るまで建物や地下に避難してください!』
千葉隊長の声がスピーカーで流れた。
川から1台のオーバオックスが橋に上がり、コンテナを開放した。
コンテナから出てきた人と、中州から逃げ出そうとする人々が合流し、外へと駆け出す!
急げ!急げ!
だがHMDの地図には、そこへ多数のエアマフラーが近づいてくるアイコンが映し出された。
「アウグルより千田隊長へ。一時撤退したエアマフラーが、体勢を立て直してきました。
上空から急降下しようとしています!」
何だ?
新たな敵の接近を報告している間に、地図に新たなアイコンが現れた。
場所は箱崎埠頭と須崎埠頭の近く。
アメリカ海軍のアーレイ・バーク級ミサイル駆逐艦ウイリアムP.ローレンスと、ズムウォルト級ミサイル駆逐艦ズムウォルトだ。
どちらもオルタレーション・バースト以降に予算アップと工期短縮とパワーアップがなされた艦だ。
その艦から、複数のアイコンが放たれた。
そっちに回されたランナフォンは、滞空時間を稼ぐため飛行機の羽のような形の風船を担いだワシ型飛行船タイプ。
「アメリカ海軍の駆逐艦から、攻撃が開始されました。
多数のミサイルが福岡市に向かっています!」
多数のミサイルの中に、各艦が1機ずつ搭載している無人ヘリコプター MQ8B ファイア・スカウトがあることを確認した。
直後、2機のファイア・スカウトから強力なマイクロ波が放たれた。
どーんどーんどーん どーん
極太のミサイルが、オーバジーン・オークスンに襲い掛かろうとしたエアマフラーに炸裂した。
その衝撃はロボットの体を粉々に打ち砕き、街に無残なガラクタとして撒き散らす。
地上では、野方機が大わらわだ。
タイヤに抵抗を強くする力をはりつけると、近くのビルの壁に張り付いた。
そして、灰色の霧を避難民の傘として広げた。
一方エアマフラー隊は、ミサイルをレーザーで打ち落とそうとしていたが、それさえマイクロ波に妨害されているようだ。
地上へ下がっていく。
『なぜだ?アメリカ海軍のミサイルはバリアに捕らえられないぞ!?』
困惑する千田隊長の声。
「アメリカ海軍の無人ヘリコプターが、対電子機器高出力マイクロ波をはなちました。
それなら、狙った場所に照射することで、そこにある電子機器を破壊することができる。
もともとは、敵のコンピュータが集中する行政機関や、変電所など都市インフラを破壊する兵器です。
アステリオスの戦いぶりを見て、バリアを破る方法に気が付いたんだ」
『だがランナフォンとの電波状態は?』
千田隊長の懸念ももっともだ。
「悪くありません。
マイクロ波の範囲が狭いから、それ以外の場所を経由すれば通信は確保できるんです」
米軍のミサイルが来るたび、街に降り注ぐ破片の量が増えてくる。
その中には大きい物もあった。
そんな破片には、暗い地上からひときわ輝く群れが飛び掛った。
その一人一人にアイコンが付き、名前が表示される。
さまざまな現象を用いて破片を川に叩き落すヒーローノッカーズ達だ。
今はそれぞれ怪獣や野獣、植物、ロボットのような姿に変わり、それらを使役する能力を使い、それぞれ最も得意とすることをしている。
なかなか統制が取れているじゃないか。
視線を博多湾のほうへ向けてみる。
通りを炎がなめるように広がっているのが見える。
その間を巨大なロボットやドラゴンの頭が通る。
あれもエレメンツネットワークのヒーローだ。
そしてロボットのパイロットもドラゴンも、会議場でオレに祈るような視線を送っていた小学生達。
巨大ノッカーズや巨大ロボット用の巨大な消火器をもち、避難路を確保していく。
この広い戦場から人々を逃がすため、多くの人々が命がけで戦っている。
だが、ひとつの問題に一生懸命なら一生懸命なほど、周囲への注意がおろそかになる。
まってろ。今その死角をなくしてやる。
オレは、中州の付近にある福岡アジア美術館の屋上にいた。
高さもあるし、屋上も広い。
下から攻撃を受けて気付いても、対処できるだろう。
い・・・イヤだ!こんな!何で!?
ぐあああああぁ
下からは、無数の叫び声が響いてくる。
同時に、銃声。魔法的力を発動させるのに必要な歌や音楽、呪文。
鉄を引き裂き焼き尽くす音。
人間なら今すぐ駆け寄り、巻き込まれた人が居れば助けたくなる音だ。
でも、こんな状況下でも次の偵察の準備をするのも、偵察専門ヒーローの仕事だ。
真上に向けられ、正方形に並んだ10×10の銃身。
銃身内の火薬を電子的に調節して着火することで、360度に放物線を描いて60個ものランナフォンを戦場に飛ばせる機関銃。
メタルストームを設置し、位置を微調整する。
有効射程距離は80〜1,500メートル。
効率的に撃てば海岸から福岡駅までランナフォンを飛ばし、偵察できる。
だからこそ、調整が必要なのだ。
調整が済めば、下に接着剤のついたアウトリガーで屋上に固定する。
そして発射だ。
だ!
あまりの発射速度に、銃声と銃声の間が聞こえない。
必要なことだけど、まるで花火だ。
これは目立つ。
目立つから、エアマフラーがやってきた。
マスクは立派なとさかの鶏だ。
しかも、部品を撒き散らし、変なスパークを放っている。
まさか…。
敵のローターが、隙の無いギロチンとなって、3つ向こうのビルの屋上に当たる。
その勢いは削がれる事は無く、給水タンクなどが派手に吹き飛んだ。
一方オレのスーツはすでに煤け、匂いの粒子は風に舞っている。
高性能な匂いセンサーなら、丸分かりだろう。
2個向こうのビルまで敵はやって来たとき、オレは飛び上がった。
自衛用ランナフォンは6機。
そのうち2機を先行させ、あえて敵の前に突っ込ませる!
そして、目の前で左右に分かれさせた。
手前で大きく動けば、相手も大きく反応せざるを得ない。
これで相手の機動力がわかる。
先行させたワシ型の映像を見る。
相手の下半身はすでに失われていた。
レーザーとミサイルを放つ両腕も。
だからミサイル代わりに利用されたのか。
オレは左へ大きく旋回した。
プロペラの横を通り過ぎ、上昇しながらスピードを落とす。
思った通り、エアマフラーはオレより大きく旋回している。
HMDのウインドウに、散開させたランナフォンが集めた情報は書き込まれる。
3Dレーザースキャナやレーダーが観測した敵味方の位置。地図には記されてない、即席バリケード。壊れて乗り捨てられた車。火災や停電の情報。
これを待っていた。
でもその前に、身を守らないと。
ヘルメットに付けられた、ターゲット・ロケータ。
GPS情報とレーザー測量機により、対象の位置情報を算出する。
そして直接ターゲットを指さすことで、援護命令をワシ君達に出す。
6機はミサイルエアマフラーに四方から飛び掛り、ローターに液体窒素カッターを放つ!
飛行能力を完全に奪われた敵は、ローターをまき散らしただけで落ちていく。
下は美術館と中州の間を流れる博多川。
今は、ガラクタとなっているエアマフラーが無造作に放り込まれている。
そのガラクタの中から、いきなり機械の腕が天にのばされた!
かろうじて機能を保っていた腕があったんだ。
ということは、レーザー砲も?!
オレはさっき先行させたランナフォンに出した指示と同じように、急降下して川のエアマフラーに突っ込んだ。
ドカーン!
後ろで、半身のエアマフラーが爆発した!
最初からあれを撃ち、その爆発に巻き込むつもりだったな。
まずい!今の破片がスーツに!
そのとき、6機のランナフォンがオレの上に集まった。
そして同時にグライダー風船を開いた!
高密度強化繊維の風船が、小さい破片から守ってくれる。
だが、破片は小さいといっても、ピストルの弾みたいなものだ。
3度4度と繰り返し当たれば、貫く物も出てくる。
しかも、他にも人間の頭大の破片も落ちてくる。
それには、ランナフォンが体当たりして軌道をそらした。
オレは落下を続ける。
下のエアマフラーの腕が、目前に迫る!
ランナフォンの敵だ!
イーグルロード相手に研究した成果。
隙とは、攻撃そのものに現れる!
「サブアーム起動!殴る!」
ターゲット・ロケータで、突き出される腕をロック!
スカイフックで使ったアームが再び伸びる。
その先端にあるシリコン性の部位は、今度は風船ではなく内部の空気圧で動くクッションとなってエアロマフラーのレーザー砲を殴りつけた!
体が急に移動したため、意識が跳びそうになる。
まだまだ!
ショットガン付液体窒素カッターを振るう!
レーザー砲は真っ二つに切れた。
これでもうレーザーが放たれることは無い。
オレはエアロマフラーの残骸で埋め尽くされた川面を水平飛行し、オーバジーン・オークスンに合流しようとした。
だが、高度が高く保てない。
故障か?
「おい!あのロボットまだ動いてるぞ!」
川べりから声が聞こえてきた。
見れば、警官やヒーロー達を含んだ多くの人々がこっちを見ている。
逃げ遅れた人々を救出し、建物の中に避難させようしていたようだ。
ヒーローの銃や弓など、多種多様な飛び道具が博多川に向けられる!
「うわ!やめろ!撃つな!」
オレはあわてて叫びながら敵味方識別装置を作動させた。
たちまち空からワシ君の群れが舞い降り、ヒーローや警官の目の前で叫び腹のスマートフォンをみせてオレの危険を知らせる。
だが、気づいてる人はいない。
今度から立体映像にしよう。
誰か安く売ってくれないかな?
「アウグル!居るのか?」
流石、レイズマンはすぐ気付いてくれた。
頭髪は青い炎。
額には黄金に輝くワッかが付いている。
ワッカーズとも呼ばれる特殊な縁を持つノッカーズだ。
武器は、その左腕に付けられた巨大な左腕の形をした機械腕。
指先にある特殊な弾丸を使い、すべてのものを分解できる。
本名は知らない。
オルタレーション・バースト当初から活躍を続けるベテランで、エレメンツネットワークのサブリーダー的存在だ。
「やめろ!発砲するな!」
振り向いて周囲に知らせる。
だが、残骸だったはずのエアマフラーやクモロボットが押し寄せる。
動けるガラクタはあいつだけではなかった。
狸の覆面をかぶったエアマフラーは上半身だけで、自分のプロペラを剣として振り回し、ふたたび地上を目指す!
レイズマンが叫ぶ。
「総員抜刀!」
「了解!レーザーチェーンソー!」
ネクロマンが真っ先に飛び掛った!
黒いマントをまとい、髑髏をモチーフにしたアーマーに、赤く染まった卒塔婆や、三角頭巾をあしらった白いマスクをつけた、ちょっとユルキャラみたいなデザイン。
その正体は大惨寺 語というオレの後輩だ。
その手には巨大なエンジン付きチェーンソー。
刃のレールにテキサス魂と彫り込まれたレーザーチェーンソーを持っている。
ネクロマンが大きくジャンプし、その必殺武器を縦横無尽にふるった。
たちまち、エアマフラーの動きが止まり、縦横さまざまな方向にスライドしていく。
完全に使い物にならなくなるまで寸断されたんだ!
ネクロマンに続き、剣を使うヒーローヒロインが川から這い上がる敵を切り裂きながら駆け抜ける!
レイズマンも、すべてを分解する左腕で手刀を繰り出す。
それだけでエアマフラーはその巨体を大きくえぐられた。
えぐり取った部分は、もう無い。
あっちは心配なさそうだ。
オレも負けずに、足元は不安定なガラクタにおおわれた川で、使い物にならない飛行ユニットの重さに耐えながら、この川を渡らなければならない。
「サブアーム!両足のパワーアシスト!」
背中から伸びた2本の腕。
その手がオレの両足の踵をつかみ、脚力を引き上げてくれる!
早速モグラマスクを踏みつけてやった。
そして足が離れた瞬間に、液体窒素カッターを頭にお見舞いする。
あっさり切り落とせた。
ウイーン
モグラ頭が持っていたプロペラ剣が重力に従って振り下ろされる。
濡れてるね?
1機のワシ型ランナフォンが現れ、剣を持つ腕の肘に液体窒素を吹きかける。
切り裂かれた腕がオレの上に落ちてくる。
「ロケット噴射!フルパワー!」
腕を潜り抜け、一気に距離を稼ぐ。
ジャンプ中に、ショットガンでスタン弾をお見舞いしてやる。
それにこの銃には、弾丸を発射するガス圧を調整できるレバーが付いている。
低圧なら人に当たっても痛いだけだが、高圧なら防弾チョッキや軽装甲車を打ち抜ける。
ダン ダン ダン!
最近のショットガンの弾には、安定翼が付いていて射程が長い。
今撃っているスタン弾の先には、人体など柔らかいものに刺さりやすいよう、返しが付いた爪が付いている。
軽装甲など硬い目標の時は、その爪が付け根のプラスティックの土台ごと破壊される。
そして、土台の下に仕込まれた弾頭が、硬い目標を貫通する。
弾頭は貫通した先で電撃を放つ。
今川に落ちている奴は、多くのヒーローの攻撃によって、バリアは破壊されている。
ヒーロー魂とは、絶え間なき献身であるという事実がここにある!
ダンダン!
ショットガンの弾倉には10発しか装弾できないが、効果はあった。
エアマフラーの腕は高圧電流で機能が麻痺してる。
オレはその麻痺した体に降り立ち、再びジャンプすればいい。
後は、千田隊長たちに任せよう。
徹甲弾の弾倉に交換する。
だが、その気がそれた一瞬、足が滑った。
それだけなら問題は無い。
最後のロケットを噴射すればいいだけだ。
だが、横から伸びた機械腕がオレを突き飛ばした。
オレは川に落とされた。
頭からヘドロの混じった水に突っ込む!
急いで出ないと!
足の裏に硬いものが当たる。
思いきり蹴飛ばすと、しっかり川底に着いた車の残骸だった。
水面に顔を出す。
その上ではエアマフラーの剣が待ち構えていた。
「ぐっ!」
振り下ろされる剣。
オレは剣を持つ腕を徹甲弾で撃った!
今、液体窒素カッターを使っても自分が凍るだけだし。
オレの弾丸は、何とか剣を持つ腕を打ち砕いた!
だが喜ぶ暇は無い。
相手は全身でオレを押しつぶすことにしたようだ。
光学迷彩は水をかぶって使えない。
そのとき、目の前に黒と白の影が現れた。
肩には白いレースをあしらい、黒いフレアースカートをはいた、いわゆるゴスロリドレスのようだ。
その手がオレの手をつかむと、ものすごい勢いで空へ引っ張りあげてくれた。
「アンテロース!」
オレと入れ替わりに、白い突風が川に激突する。
たちまち川とエアマフラーは凍りつき、砕け散った。
いつ見てもすごい。
オレは助けてくれた人を見た。
腰まで伸びた銀髪のストレート。
全身は黒いウェットスーツを着ているように見えるが、これは犯罪組織TPCが何十人ものノッカーズから命と共に奪ったデミアジュウムでできている。
彼はその中枢として無理やり押し付けられたんだ。
背中からは持って生まれた氷の羽が。腰と腕からは炭素繊維性の人工の黒い羽が出る。
彼はアンテロース。
この世界でTPCに改造された、異世界の騎士だ。
今は千田隊長の秘書をしている。
「ありがとうアンテロース」
「礼には及ばん。感謝なら行動で示せ」
オレは千田隊長のオーバオックスの上に降ろされた。
同時に、8×8 10トン オフロードカーゴトラックのHEMTT、通称ドラゴン・ワゴンが疾風と轟音と共に昭和通りに下ろされた。
そのカーゴの上にいるのは、この世界で最も恐ろしいとされる男。
燃える炎の頭髪。縦に並んだカメラレンズのような二つの目。
顎からは髭のような六本の突起が左右に跳ね上がっている。
全身が真っ赤な装甲。
胸だけはひびわれた銀色の板で、心臓の部分に青い大きな宝石のようなものが埋め込まれていた。
ジエンド。
この世のすべてを燃やし尽くせるという超人。
本名、明 超次。
行きつけの沖縄料理店の店長だ。
ドラゴン・ワゴンはアンテロースが運んだものだ。
その後ろの観音開きの分厚いドアが開き、中からオーバジーン・オークスンの歩兵部隊が飛び出してくる。
そのほとんどが、我が小山ブレイスのユーザー。
つまりサイボーグだ。
千田隊長と同じ自衛隊や、警察、海上保安庁の経験者で構成されている。
その能力は腕にマシンガンを仕込んだ者、足を改造して高速で走る者など様々だ。
通常の人間にはできないスピードと火力。
数万人に1人でしか生まれないノッカーズにはできない数。
しかも全員がHMDか脳波通信機でランナフォンのネットワークにつながっている。
「これですべてです。隊長」
アンテロースの声はどこまでも冷静で、この世のものとは思えない深遠さを放っていた。
「よし。一応制空権は確保した。
周囲の安全を確保し、建物内に避難した人たちを誘導するんだ」
結果、一言も話さずにクモロボットを蹂躙する。
説明 | ||
福岡を蹂躙するスイッチアのロボット群! 許すまじ! そこへ現れたのは、伝説(になる予定)の美少女達だった!! | ||
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