福岡港改造生物密輸事件 5
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 オレはスーツを見てみた。

 破片によるダメージは大きく、光学迷彩は引き裂かれていた。

 だが体に影響は、無い。

 スーツ各所に隠された、クイックリリース機能のワイヤーを引く。

 光学迷彩はいくつかのパーツに分割され、それを支えるアクチュエータごと体を離れていく。

 機密保持のため、オーバオックスの背中についてるラックへ放り込んだ。

 ポイ捨ては嫌いなんだ。

 今着ているものは、黒く塗ったケプラー繊維二重織り込みにチタン製の装甲のみ。

 飛行ユニットは…プロペラが曲がってる。

 これもラック行きだ。

 飛行ユニットの下に隠れていた2本のサブアームは、無事だ。

 アルクベインに憧れて作った、このアーム。

 さすがにオリジナルと同じナノマシンは作れないが、手の部分、シリコン製のソフトマシンは自信作だ。

 ソフトマシンは、やわらかいシリコンが使われている。

 それを駆動させるのは圧縮空気。

 風船にするときは、ヘリウムを入れる。

 さてと。

 オレは機体にノックして話しかけた。

 「隊長、飛行と透明化は出来なくなりましたが、ランナフォンは散布しました。

 ヘルメットも無事です」

 『よし、データリンクは正常だ。

 俺達は、ここから中州に上陸し、避難を援護する。

 アウグル!お前はこれから俺が言うことを放送してくれ』

 

 ランナフォンには共通して搭載された機能がある。

 情報収集。

 通信端末。

 武器としての液体窒素噴射。

 そして、LRAD(長距離音波発生装置)。

 元は騒音を1キロ先まで撒き散らして、相手を追い払うための兵器だが、オレはこれを小型高性能スピーカーとして搭載した。

 

 「緊急事態発生、緊急事態発生。

 ただいま、人間を奴隷として捉えるロボットが、福岡市内で暴れています。

 至急、避難してください。

 避難には、鉄道やバスなど公共機関を使わず、徒歩で避難してください。

 1箇所に集まると、一網打尽にされます。

 なるべく徒歩で、ばらばらに避難してください。

 現在中洲地区では、すべての橋が落とされています。

 現在、仮設の橋やノッカーズによる輸送が準備されています。

 怖がらずにご利用ください」

 コピーして再放送。

 

 あわぁあああああああ!

 いぎゃあぁあああああああ!

 

 その放送をかき消すような、多くの悲鳴や怒声。

 中州からだけではない。

 仕事を終え、日本一の屋台で一杯やろうとしていたお父さん。

 博多名物のとんこつラーメンを楽しんでいたお姉さん。

 そういった人たちが、何も分からぬまま巨大ロボットに捕らえられてゆく!

 

 『アウグル!ラックに乗っていろ!』

 隊長の指示には従えない。

 オレは装甲の上でクラウチングスタートの体勢になった。

 サブアームも、ソフトマシンの手を吸盤のようにして装甲に張り付く。

 スタートの時は圧縮空気を噴射して10メートル程度ジャンプできる。

 「千田隊長!このまま上陸してください!

 少しでも早くオレがトリッキーに動いたほうがいい!」

 それに、隊長には見えないかもしれないが、ラックの中はオレが捨てた粗大ごみだらけだ。

 これは秘密。

 『分かった!総員上陸!!上陸!!!上陸!!!!』

 隊長の指示で一時的に敵がいなくなった昭和通りに6体のオーバオックスが上陸する。

 サイズはだいぶ小さいが、これは地上を走るヒーローに確実に追いつき、装甲で援護するため、求められたサイズだ。

 

 オレは両サブアームから圧縮空気を噴射し、飛び上がった!

 そして右サブアームのワイヤーを飛ばし、左側のビルの壁に貼り付けた。

 ワイヤーを引き、さらに浮かび上がる。

 その加速で左サブアームのワイヤーを飛ばす。

 そうやって、壁伝いに進んでいく。

 

 ピピピ

 

 HMDが、近づくランナフォンを教えてきた。

 犬型、背中から4本棒を伸ばし、水中でも飛行にも使える4枚のプロペラをつけた水空両用実験タイプだ。

 上空ではマイクロ波が吹き荒れているから、ビルの上から直接おりてきたんだ。

 立ち止まって差しだした手に乗る。

 その腹部にはめ込まれたタッチパネルに映し出されていたのは、上空を飛び交う多数の航空機だった。

 航空自衛隊と在日米軍の戦闘機。

 陸上自衛隊の対戦車ヘリコプター。

 小さいアイコンは箒にまたがった魔法使いだった。

 新たなマイクロ波の発生源もあった。

 米空軍のCHAMP (対電子機器高出力マイクロ波先進ミサイル計画:Counter-electronics High-powered Microwave Advanced Missile Project)だろう。

 彼らはマイクロ波をスイッチアのマシンにマイクロ波を照射すると、そこに向かって攻撃を開始する。

 だが、それは攻撃できる相手が限定されるということだ。

 地上からはエアマフラーのレーザーが照射される。

 時間と共にアイコンが消え、街のどこかで爆発が起こる!

 

 ズウウウウウン

 

 だがパネルには、ほかにも気になる物が映し出されていた。

 UNKNOWN・該当機なしと表示された、巨大な飛行物体。

 それは地球人、スイッチアの攻撃をものともせず、こっちに向かってくる!

 「マジン団の輸送機よ!」

 空からイーグルロードが降りてきた。

 「エアクラウンとエアマフラーは街で立てこもるみたい!」

 

 その時、オレたちの真上でまばゆい光が発した。

 背中になにか固い物がぶつかった。

 サブアームの吸盤が強引にはずされ、突き飛ばされた。

 その直後に爆音と衝撃波が空から地上へ飛んできた!

 

 ドカーン!

 

 激しく揺さぶられて、ここはどこだ?

 目をあけると、イーグルロード・広美がオレに覆いかぶさっていた。

 電気は消えているが、暗視装置で回りの様子は分かる。

 周りには棚がならび、大量の本が無造作に床に散らばっている。

 ここは、さっきのビルの1階にあった本屋か?

 あの一瞬の間に、ここまで連れてきてくれたのか。

 そのとき気が付いた。

 入り口のドアガラスが外から割られており、広美は俺を庇うため背中を外に向けている。

 「だっ大丈夫か?!けがしなかったか?!」

 オレは最悪の事態を考えた。

 まさか今の破片が広美の背中に!?

 「サブアーム。ライトを!」

 真っ暗だった周囲を、オレのマーカーライトが照らす。

 壁に大きなひびがはいいっていた。

 彼女の背中を急いでみた。

 羽にもエンジンにも、かすり傷1つついていなかった。

 「ま、間に合ったばい」

 イーグルロードの後ろで橘花が、両手を外に突き出した格好で固まっていた。

 その手の先には、爆発で引きちぎられたのだろう、クモロボットの残骸が浮かんでいた。

 重力のシールドだ。

 クオーレをつれたシュヴァルベも一緒だ。

 「ありがとウ!命の恩人!」

 シュヴァルべはそう言うと、周囲を警戒し始めた。

 ほんとにありがとう、橘花。

 

 ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ 

 

 そのとき、エレメンツネットワークのリーダー・アルクベインから通信が入った。

 発進場所は…陸上自衛隊の福岡駐屯地?!

 第4師団司令部の!?

 忍び込んだのか、客員として遇されてるのか。

 まあいい、通信を聞こう。

 『アウグル。すぐにそこに落下したコンテナを確認してください。

 アメリカ海軍からの要請です。

 なんだか分からないが、人が乗っていないコンテナを見つけたので撃ち落した。そうです』

 

 オレは急いで外を向いた。

 そこには、粉々に打ち砕かれた後、向かいのビルに激突したエアマフラーの残骸。

 そして、真っ二つになった人を詰め込むためのコンテナがあった!

 「あれ?」

 コンテナからは、黒い液体が漏れ出している。

 血ではないのか?

 外にいたジエンドとサイボーグたちが近づく。

 「これは、血じゃないぞ!ラーメンのスープだ!」

 ジエンドが叫んだ。

 マスクをした俺にはわからないが、イーグルロードにはわかった。

 「ほんとだ。

 あの液体がジエンドの炎にあぶられると、何とも言えない良い香りが漂ってくる」

 しかし、なんでそんなものをエアマフラーが?

 

 「せ、せんぱい?」

 シュヴァルベの腕の中から、か細い声が聞こえてきた。

 「クオーレ?調子はどう?」

 イーグルロードが声をかける。

 「広美さん?あれ?ドルチェは?私、あの後どのくらい…」

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 外ではオーバジーン・オークスンと協力するヒーロー対エアマフラーとクモロボット―今アイコンにエアバグという名称が付いた―の戦いが続いていた!

 店にも3機、侵入された。

 すぐ蜂の巣にされたが、また来るだろう。

 オレは、有線でHMDに直結されているゴリラ型を向かわせた。

 いつマイクロ波が飛んでくるか分からないからだ。

 天井を這い回り、ガラスの割れたドアを乗り越え、空を見る。

 エアクラウンのバリアは地上からの攻撃を全く受け付けていなかった。

 突然、円形の機体が、真ん中で二つに割れ、上に向かって折れ曲がり始めた。

 半円となった機体の一方からは2本の柱のようなものが引き出され、地面に向かって伸びた。

 もう一方の半円からは香椎浜埠頭でコンテナを崩したあの2本の腕が伸びる。

 エアクラウンめ。人型に変形できたんだ!

 変形開始の時できた機体の割れ目から、次々に詰め込まれていたコンテナが吐き出される。

 機体を軽くするつもりか。

 捨てられたコンテナは、ここから10メートルほど西にある博多川に落とされたようだ。

 激しい水しぶきが上がる。

 

 「せ、先輩の屋台!あそこです!」

 だがクオーレは、そんなことが気にならないようだ。

 激しい砲火にも目もくれず、エアマフラーの残骸が衝突したビルを指さす。

 そこからは隠れていた多くの人たちがジエンドらの援護のもと避難を開始していた。

 そこに、エアマフラーのプロペラで真っ二つになったミニバンがあった。

 赤いワゴンショップだ。

 

 その時、再び上空から激しい光と爆音が響いてきた!

 今度のは爆発ではない。

 見たこともない大型輸送機が前方にロケットの炎を噴射し、急停止したところだった!

 主翼には4発のプロペラエンジンが搭載され、来た時は前を向いていたそれが、今は上を向いている。

 「なんか、でっかいティルトローターがきた!」

 その壁面には巨大な爬虫類の手で鷲づかみされる地球の絵があった。

 「マジン団の輸送機だ!」

 一体どうやってあんな飛行機を手に入れたのか考えてみた。

 さまざまな次元に手を出しているから、こっちの世界で整備しやすい製品を買うか盗むか、したんだろ。

 その機首が、動物の口のように開く。

 荷物や人を乗り降りさせるタラップだ。

 中から雷のような大音量で、男の声が聞こえてきた。

 【我が名はフクイペリオン!

 マジン団大幹部にしてスイッチアへの輸出計画の責任者である!

 エアクラウン!貴様は我が部下、アステリオスを謀り、多くの仲間を攻撃した!

 よってお前は敵である!覚悟せよ!】

 その声が終わると同時に、これまでにない金色の光が輸送機の機首から放たれた!!

 フクイペリオンは、太陽の力を持つノッカーズだ。

 フルパワーはジエンドに及ばなくても、その力は戦略兵器と言って差し支えない。

 上空では、ものすごい勢いで戦闘機のエンジン音が遠ざかる。

 同時に飛行ノッカーズも。

 『退避!退避!』

 千田隊長も叫ぶ。

 だが、果たして衝撃波と熱線から逃れられるかは疑問だ。

 

 「ゴリラ22号!戻れ!」

 外に向かわせらランナフォンを呼び戻す。

 「ごめんなさ〜い!」

 店の奥には、バックヤードに続くのであろうドアがあった

 そのドアノブを回す時間さえもどかしい。

 「もっと奥に行くぞ!」

 オレ達は簡易なキッチンのある廊下を通り抜け、裏玄関横にドアを見つけた。

 「ここだ!四方を壁に囲まれた所なら、爆風から守ってくれるかもしれない」

 開けると、そこは休憩室らしい畳の部屋だった。

 そこには6人の市民が先に来ていた。

 非常袋と書かれたリュックサックをかずき小学3年生くらいの男の子を連れた夫婦。

 店の店員だろうか。そろいのエプロンをつけた初老の男性と30歳くらいの男性。

 そして、ラーメンの汁が付いた白エプロンを付けた、ねじり鉢巻を締めた高校生くらいの男。

 皆、おびえた目でこっちを見ている。

 「お願い!助けてください!」

 オレがそう叫ぶと同時に残り4人が入ってくる。

 「来るな!化け物!」

 男の子がミニカーを投げつけてきたので、受け止めた。

 意地悪しないでよ。

 

 【テルモピュライ!!】

 外から、フクイペリオンの声がした。

 雷と同じようにガラスを振動させ、それは奴の持つエネルギーの凄まじさをいやおう無く感じさせる。

 フクイぺリオンの持つ円形の盾。

 熱き門ともいわれる彼の必殺技だ。

 その光は太陽のコロナ、すなわち100万度に達し、周囲を熱線と振動で満たしていく!

 

 最後にシュヴァルベがドアを閉めた時、周囲のビルの窓がすべて突き破られる音がして、建物そのものが大きく揺さぶられた!!

 無我夢中でクオーレと男の子を中心に皆で丸まる。

 暴れる男の子を両親がしっかりと押さえ付けた。

 

 コンクリートや鉄でできた何かが、えぐれる音がした。

 最上階は溶けたか吹き飛んだか、したかもしれない。

 10秒ほど振動は続いただろうか。

 やっとおさまった。

 「クオーレ?クオーレか?」

 ねじり鉢巻の青年が驚いてクオーレを見つめる。

 「先輩?お久しぶりです…」

 この人がクオーレの料理の先輩?

 クオーレは倒れた体を起こそうとしたが、力が入っていない。

 あわててイーグルロードが支える。

 声にも力が入っていないようだ。それでも、うれしそうに笑顔を見せる。

 一方、橘花は震えていた。

 「須藤。あ…あんたが…」

 こぶしが硬く握られる。

 そして、怒りの大声が飛び出した。

 「あんたがクオーレをかどわかしたぁ!この害虫!!」

 そう言って詰め寄る!

 

 きゃあああああ!

 

 母親が、あらん限りの声で叫んだ。

 3人の大人の男性も、須藤と呼ばれた先輩と橘花のやり取りを怪獣同士の決戦でも見るように慄いている。

 

 だが当の須藤君は、橘花の怒りを、そのまま受け止めていた。

 「五ヶ山?どういう事ばい?」

 「あんたのせいで、クオーレは、クオーレは…」

 「いったい何の話だ?!」

 橘花は、お前にはこれがお似合いだと言わんばかりに彼を壁に押し付け、襟首をつかんで持ち上げる!

 「やめろ!橘花!

 今はまだ爆発が続いてるんだ!

 サブアーム!両腕のパワーアシスト!」

 2本のサブアームが両腕に添えられる。

 オレはソフトマシンに手袋のように自分の手を突っ込んだ。

 

 予感どおり、ひときわ大きな爆発がビルを揺さぶる。

 壁に固定されていなかった棚が倒れてきた。

 それをアシストされたオレの手が支える。

 イーグルロード、シュヴァルベも同じ事をしている。

 それでも橘花は怒りの言葉をぶつける。

 「あんたが修行なんかに行くから、学校はあんたがクオーレを怖がって逃げたっちゅう噂で持ちきりよ。

 そしたらクオーレは、すべてをドルチェに押し付けて引きこもてしまったちよ」

 そこまで聞くと、須藤の顔が青ざめる。

 「それじゃあ能力は?あんな能力じゃ緊張感で精神がー」

 「もう遅い!遅いばい!!」

 橘花の目には涙があふれていた。

 「もう・・・・…やめて…ください」

 か細い声が聞こえた。

 「クオーレ?」

 「しゃべっちゃダメヨ!」

 辛いはずなのに、それでも、クオーレは笑顔を作る。

 「アウグルさん、橘花さんを離してください。

 こうなったのは、誰のせいでもありません。

 私のせいです。

 私が須藤先輩のことを信じていれば、こんな事には、ならなかったんです」

 自分を責める言葉に我慢できなかったのか、イーグルロードがクオーレの言葉をさえぎる。

 「それは違うよ!

 悪いのは無責任な噂を流した学生だしー」

 広美は必死に励まそうとしているようだったが、当のクオーレに止められた。

 「やめてください!友達を悪く言いたくない!」

 そのとき、オレは「デマを流す奴は友達じゃない」と言おうとした。

 その瞬間、再び爆発によってビルが揺さぶられた。

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 「とりあえず、ここから逃げないと」

 「ドアが、曲がってイル。破らないト出られないヨ」

 シュヴァルべがそう言うと、店長らしいおじさんは「ド、どうぞ」とおびえた声で言った。

 見れば、さっきのやり取りで避難していた市民はオレ達を恐れたようだ。

 非常袋のお父さんは息子の口をしっかりとふさいでいる。

 そのお父さんが、「痛ッ!」と叫んで顔をしかめた。

 男の子がお父さんの手に噛み付いたんだ。

 お父さんはあわてて手を放した。

 「化け物!ノッカーズは出てけ!」

 再び男の子は騒ぎだした。

 両親が再び男の子の口を押さえ、きつく抱きしめた。

 でも男の子は文字どおり切歯扼腕している。

 両親も、オレ達に賛同して静かにしてるわけじゃない。

 オレ達や見えない外に恐怖し、オレ達を興奮させそうな行動をあきらめてるんだ。

 

 外から、再び雷のようなフクイペリオンの声。

 【そこをどけ!!ジエンド!!】

 次はジエンドだ。

 【うわ!何しやがる!】

 レーザーやロケット砲が何発も発射される音がした。

 それに続く、いくつもの爆音。

 フクイペリオンの宣言が続く。

 【ここはマジン団の戦場とする!我々の邪魔をせず避難する者、それを支援するヒーローには絶対攻撃しない!約束する】

 地上を滅ぼせる者は、総じてすべてのパワーが桁外れだ。

 当然声も大きく、人々をおびえさせる。

 

 オレは、何とか男の子に落ち着いて欲しかった。

 アレだけ高度なセンサーをもつスイッチアの技術なら、こんな部屋の会話など聞こえるかもしれない。

 「あのね、少年」

 だが、イーグルロードに止められた。

 「ここは任せて、あんたは外のようすを見て。

 あ、そうそう。あんたが受け止めたミニカー、返すから、ちょうだい。」

 そう言って、ミニカーを受け取り変身をといた。

 

 広美が話を始めたときにシュヴァルベがドアを一蹴りで破った。

 

 「お父さん。お母さん。この子の名前は、なんていうんですか?」

 お父さんの引きつる声で答えがくる。

 「国谷……純一です…」

 「そうですか。

 純一君、君はさっき、とても…うすとんびん(おっちょこちょい)なことをしたのよ。

 このままじゃ君は犯罪者になる」

 そう、高圧的にならない普段の会話のような声で話し出した。

 それにしても今日初めて、あいつが使った博多弁が、これか。いやだなぁ。

 純一君の目が驚きで大きく開かれた。

 だが、すぐに屈辱が目に宿る。

 それでも広美は口調を変えない。

 「今は2月。夜は寒い。

 だから焚き火がしたくなる。

 でも外はかなりの被害でしょ。

 水道だって折れたりしている。

 そんな時に焚き火なんかしたら、大火事になっちゃうぞ」

 

 広美は投げつけられたミニカーを返した。

 純一君の目に宿ったのは、恐怖。

 これから話すだろうことを思うと、胸が痛んだ。

 でも、言わなかったら言わなかったで、後悔するかもしれない。

 「それに、しばらくは避難所生活も続くでしょう。

 このとき、よくあるミスは生ごみを匂いの届かない所におこうとして、日当たりの良いところにおくことなの。

 そこから疫病が発生するかもしれない」

 純一君が震えだした。

 「これから君が逃げるのは、そういうところだよ。

 こんな時にどうすればいいのか分からない人だって、いっぱいいる。

 悪い人だっている。

 そんなところでも、少しでも快適に生活できるよう工夫してごらん。

 落ち着けばきっと、いいことがあるから

 君のコレクションも、これ1つになっちゃった。

 でも生きてさえすれば、また集めることもできるとおもうよ」

 純一君の震えがおさまっていく。

 そしてミニカーを見つめながら、「やってみるよ」とつぶやいた。

 わかってくれたのか。

 

 少し時間をさかのぼり、シュヴァルベがドアをけり破るところから。

 「待て。まだ外に出るな」

 今、手元にいるランナフォンはゴリラ型が1機。

 犬型が1機。ワシ型は4機に減っていた。

 電波状態は、最悪。

 強力な電磁波が乱れ飛んでいる。

 たぶんフクイペリオンとジエンドのせいだろう。

 こんな時は有線だ。

 20メートルのコードでつながったワシ型を2機、玄関側と裏玄関側にそれぞれ放した。

 映像が送られてくる。

 外から流れ込んだ爆風は、入り口の自動ドアのガラスを吹き飛ばしていた。

 本棚も、ずれたり倒れたりしている。

 2機のワシ型ランナフォンは外に飛んでいく。

 

 外は、建物のガラスはすべて割れ、車も人もすべて煤けていた。

 そして通りを、大勢の人が走って逃げていく。

 ランナフォンネットワークを見てみよう。

 思ったより多くのランナフォンが生き残っていた。

 小さな体を生かして、隙間などに隠れたんだろう。

 それでも残りは、42機。

 驚いたことに、一番被害が多いのは、ここを中心に半径五キロの円の線上だけだ。

 再び空から明るいフラッシュが煌き、カメラ画像にノイズが走る。

 戦いによる電磁波は確実にランナフォンの機能を狂わせる。

 こんなのが、まだ続くのか。

 「あ、近くにランナフォンが近づいてきた。記録を見てみる」

 ノーマルな犬型だ。

 近距離ならアンテナ同士を合わせて交信ができる。

 手元に残ったランナフォンは4つ。

 オレはHMDで見ることができるから、人数分ある。

 「ここからは録画映像を映すぞ」

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 フクイペリオンがテルモピュライを放つ瞬間、ジエンドがそれめがけて飛びあがった。

 両手のひらと足の裏から、ロケットのように炎を噴射し、さらに加速する。

 「この加速、私より早いかも」

 変身しなおしたイーグルロードが言った。

 ジエンドは、発射されたテルモピュライの真下にやって来た。

 だが、正確にはランナフォンがジエンドは、そこにいると予想しただけだ。

 地上数十メートルで、いきなり発生した太陽のごときエネルギーの前では、カメラも使い物にならない。

 つぎの瞬間、ジエンドのいる地点から空に向かって、強力なマイクロ波が放たれた!

 その電磁波は完全にフクイペリオンの力を拘束する!

 この時に捕らえ切れなかった熱エネルギーが円形の焼け跡を生んだんだ。

 

 そういえばジエンドは以前、地球に落下しそうになった隕石を、太陽のプロミネンス並みの力で焼き払った。

 技の名もストレートに、ソーラープロミネンス。

 地上に向けられればユーラシア大陸を焼き払ったというエネルギーを制御したのは、自らが放つ電磁波だったそうだ。

 

 テルモピュライの炎が、その大きさを小さくしていく。

 放たれるエネルギー量も。

 やがて火の玉を抱きかかえるようにして拘束するジエンドの姿が見えてきた。

 【うー!りゃあ!!】

 豪勢一発!

 奪った火の玉をエアクラウンにぶつけた!

 電磁波で誘導するとか、そんなものではない。

 足から炎を放って飛び上がり、バスケットボールのスラムダンクのように、相手の頭から叩きつけたんだ!

 博多川に三角錐の輝くピラミッドのようなものが立ち上がる。

 中にはエアクラウンが閉じ込められた。

 足元は川のはずなのに、水蒸気爆発が起こらないのは、足まで三角錐に覆われていないということか。

 「さすがジエンドさん!頭いい!」

 ジエンドに憧れている橘花が叫んだ。

 【そこをどけ!!ジエンド!!】

 輸送機の前方タラップから、やたら長い首を持つ人影が飛び出した。

 フクイペリオンだ。

 その姿は灰色の肌を持つ、福井県で発掘された巨大な草食恐竜フクイティタンを、後ろ足で立ち上がらせ、金細工を施した古代ギリシャ風の鎧兜をまとったもの。

 右手には長槍トロイを、腰には剣マラトンを挿している。

 どちらも切っ先に触れたものは全て焼き尽くし、灰燼に帰す。

 左手にある巨大な円形の盾は、さっきも太陽の力の一端を、みせつけたテルモピュライだ。

 【うわ!何しやがる!】

 フクイペリオンが飛び掛ったのは、ジエンドのいるプラズマ三角錐の頂点。

 地上では、オーバジーン・オークスンがエアマフラーとエアバグに襲い掛かった。

 サイボーグたちがロケット砲まで持ち出したが、バリアが健在のエアマフラーには効果が無い。

 わずかに進行速度が鈍ることもない。

 

 そんなエアマフラーの群れに、まっすぐに飛びかかる影があった。

 全身ひび割れ、緑の宝石の輝きをランダムに埋め込まれた鎧をまとう乙女。羽に槍と、さす又を付けた堕天使・シームビクト。

 彼女が司るのは被害そのもの。

 その肥大化した右腕を振るうと、燃え盛る火事の炎も消し炭も付き慕う。

 たちまち巨大な火の竜巻となり、エアマフラーを飲み込み、誘爆させる!

 

 筋肉隆々とした人間の男を思わせるシルエットを持ちながら、全身を緑のうろこで覆い、右腕には何本もの棘を、左手には鞭のような器官を生やし、背中の蝙蝠のような羽で空を飛ぶ怪獣人ギルドレイク。

 頭は銀色の兜をかぶり、兜を貫く黄色い3本の角を持つ。

 その兜をはずすと、鋭い牙を並べた大きな口があらわになった。

 その口から、まっすぐに伸びる熱線がほとばしる!

 

 足の変わりに1本の鋭い尾を持ち、両腕も金属製の1本棘。

 四角い頭から、なぜか2本の三つ編みを伸ばすなぞの怪人コンパーサ。

 尾を軸に体を回転させると、両腕が大きな円を描く。

 その円陣に集まるのは空間の断裂。

 ドルチェほどではないにしろ、その斬撃はバリアごと鋼鉄の巨人を切り裂く! !

 

 この3人が攻撃を防いでいる間、後から次々に異形が飛び出してくる。

 その数は百にも満たない。

 

 【ここはマジン団の戦場とする!我々の邪魔をせず避難する者、それを支援するヒーローには絶対攻撃しない!約束する】

 フクイペリオンはそう宣言し、ジエンドを蹴落とした。

 マイクロ波のくびきが解き放たれ、太陽のかけらの大爆発が起こった。

 その衝撃でカメラが揺さぶられる。

 飛び出すマジン団の最後に、長いキャラメル色の髪に巨大なパラボナアンテナを載せ、メタリックブルーのスーツを着て白いマントを羽織った少女が飛び出した。橘花とかなり雰囲気が似ている。

 マジン団幹部、電波少女怪人、レーダだ。

 その体が見る見る巨大化する。

 その白い肌は金属に変わり、両手にはピストルが、下半身は体の半分はある巨大なリボルバーに変わる。

 レーダの巨大化した姿、キャバリエ態。

 最後に見たのは何時だったか。

 その鉄板で作ったような顔がにんまりと笑うと、3つの銃身が同時に火を噴いた。

 その銃弾はエアマフラーのバリアに突き刺さった。

 あのバリアは、ぶつかった物の軌道をそらす働きがあるはず。

 もしも、上下左右いずれにも同じ力が働く場所があれば…。

 その予感は当たった。

 銃弾が刺さったところが死角。

 魔神は襲い掛かる。

 「銀河流星螺旋撃!!」

 流星のごとき速度で回転するドリル、螺旋女王ドリラス。

 巨大な蜘蛛の巣を投網のように使い、敵を拘束するのは蜘蛛女オージョロン。

 猛毒の牙が鉄さえ溶かす不死身のコブラ、砂塵妖蛇コブレーラ。

 超音波が敵を砂鉄に変える、コウモリ男。

 パワー・スピード・策略をつかさどる3匹の超音波ゼミはマクミゼ・ニィニィ・ブラア。

 川に落ちたエアマフラーを氷結させる氷点女王ハッコーダ。

 バリアごと相手を食いちぎる暴食大臣イマグル。

 呪われし幽霊巫女ノロイ・ミコンと、謎の光線でターゲットをパズルにしてしまう難解導女パズル・シスター。

 すべての自然法則を自分の思う通りに変える異世界の門、電脳怪魔人ゲーム・ノー。

 レーザーさえ弾く鉄壁の水陸要帝ガメトレス。

 タコとコウモリのキメラ、コウモリダコス。

 全身に移植されたファンから吹雪を見舞うペンギン、ファンギン。

 ギリシャ神話にその名を記す邪悪なドラゴン、ヒュドラの化身。ハイドラン。

 アスファルトを割って草木がエアマフラーを締め上げる、毒花怪人ポワゾフラワー。

 短距離のテレポーテーションを繰り返し、鋭い鍵爪で襲い掛かるウデムシ男、アームデムス。

 体だけでなくマントなど衣服からも炎を噴出す、強炎子爵イヤファー。

 背中から各種センサーを詰め込んだ観測ポールを伸ばし、小型砲で狙撃を行うガンジャグラー。

 全身が岩石で作られ、肥大した右腕に右手指差が岩石砲になっているロックシャワー。

 10本の腕と無数の糸でエアマフラーを人形使いのように操る傀儡公爵アヤツッター。

 怪力で戦う骸骨仮面、名称不明。

 左半身に雷神、右半身に風神を宿す2人で一人の怪人、フウライマ。

 通常とは異なる時間軸で移動することで、相手に探知されないうちに破壊していく、時計怪人・名称不明。

 自ら、名も無き草と名乗るくノ一、菜母奈 利叉。

 2人のゴーレムは、コンビネーションで戦う。小さいほうが小ささとスピードで相手をかく乱し、巨大なほうがパワーと質量で圧砕する。名称不明。

 電撃を放つ、全身にコンセントを配したサイボーグ蟹、名称不明。

 噴水と黄色い雨傘の2人のシャイターン。噴水は流水魔人セセラギーガだが、黄色い雨傘の女性は名称不明。

 リング状の本体からレーザーやミサイルを放てる幻影を生み出す、デコイ。

 マジン団の番犬、ケルペロス。

 インド神話のガネーシャを思わせる戦象、名称不明。

 強力な魔法を使うのはヤギとライオンと毒蛇と蝙蝠のキメラ、キマイライン。

 小型だがパワータイプの格闘派。アオミノウシの特性を持つ、シースラッガー。

 4本の腕にはそれぞれ建設に必要なものが搭載されており、それがそのまま強力な格闘戦力になる人型建機、ジオ・コージィ。

 全身、黒いゴムのような体。両手は指ではなく一つ目が突いている。その球形の頭は体とはつながっておらず、一つ目があるだけ。その頭からは先端に頭と同じ形の目をもつ触手が何本も伸びている。エネルギーの支配者、アブソープションアイ。

 二本足で空中をすべるサーフボードに乗り、2本のナイフで敵を切り裂くウサギ怪人、名称不明。

 全身タイツの3姉妹怪人。毎回変わる胸の文字は、毎回変わる。今夜は長女が正直、次女が信頼、三女が勝利と書かれた、バカンヌ。

 凶暴な虎、名称不明。

 暴走しかねない能力を、自ら付けた仮面で拘束し、周囲の水を取り込み自ら奔流に変身して戦う戦士、名称不明。

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 その攻撃に気づいたエアマフラーたちが、一斉にレーザーを発射した。

 だがそれも、マジン団にとっては新たな隙ができただけだった。

 自分から生み出したバリアの亀裂に、全ての次元の物理法則を、かき集めるだけかき集めた不死身の怪物たちが逆襲する。

 弾丸はサタンデミアジュウム、超音波、何万気圧もかけた水流など様々。

 猫顔エアマフラーの前には、宙に浮く巨大な水の玉が現れた。

 レーザーは水を蒸発させ、その水蒸気によって防がれる。

 その蒸気の中から、巨大な氷の槍が突き出した。

 レーザーもそれを止めることはできず、そのエアマフラーは上半身を押しつぶされて凍りついた。

 オレが知らない魔神もいた。

 全身、唐草模様が彫りこまれたレザークラフトの鎧で、その茶褐色に経年変化した姿は、古い財布を思わせた。

 鎧はコイン大の銀のリベットや太いベルトで止められている。

 戦いぶりもすごい。

 背中のレザーに包まれたロケットを唸らせ、手にした鎖鎌で襲い掛かる。

 鎖がどこまでも伸びる分銅でバリアの死角を貫き、蛇のように自在に動かして縛り上げる。

 止めに鎌が胴体を切り飛ばした。

 

 『全作戦を一時中止。第2防衛線まで後退しろ!』

 外から千田隊長とジエンドが叫んでいる。

 第2防衛線ということは、当初考えられていた戦場の博多港から最終防衛線の九州自動車道の間。

 20キロは後退することになる。

 本屋にアンテロースが駆けこんできた。

 アンテロースの手には子供一人を入れて担いで運べる携帯シェルターがあった。

 「聞こえたか?

 今、マジン団がスイッチア軍を抑え込んでいる!

 今のうちに撤退する!」

 オレは、耳を疑って聞き返した。

 「待って、マジン団を信用するんですか!?」

 「千田隊長が言うには、俺達のすることはひとつだ。だそうだ。

 五ヶ山、アストゥート、ヴェンデフルト。

 君たちは原隊にもどれ。

 BOOTSと青の七は大博通りから昭和通りに向かっている。

 アウグル、イーグルロード、お前達は避難民の誘導に当たれ」

 「了解。

 しかし、連絡しなかったけどシェルターを持ってきてくれたんですね」

 このシェルターは、子供が歩くには危険な地形や、爆発物の破片などから守るためのものだ。

 アンテロースが、純一君をシェルターに入れながら答えた。

 「レーダが教えてくれた。

 彼女のレーダーは突発的な電磁波の影響を受けないらしい」

 やれやれ。オレも修行が足りないな。

 いや、魔神のすることだから、奇跡なのか?

 「僕、自分で歩けるよ」

 「純一君。外は何万人もの人が走っている。これがないと危険なんだ」

 アンテロースがシェルターをかつごうとした時、須藤君が声をかけた。

 「その子は俺がかつぎます」

 それはありがたい。

 よし、それじゃ行くぞ!

説明
本来なら悪の組織、マジン団の本隊現る! 怪人全員が量子変動率の頂点を極めた魔神という、驚異の軍団!! しかし、今回は様子が違うようで…。
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