福岡港改造生物密輸事件 6
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 昭和通りに出ると、スイッチアのロボットの姿は見えない。

 かわりに、街灯の消えた道路に避難民が、足の踏み場もないほどあふれていた。

 明かりはオーバジーン・オークスンが設置した灯光機のみ。

 その明かりは人々の足元を照らすほどではなく、通りは黒い波が蠢いているだけのようにも見えた。

 時々、爆音が響く。

 そのたびに目の前の人々が肩を震わせるのが分かる。

 『走らないでください!喋らないでください!』

 オーバオックスがスピーカーで声を響かせる。

 『天神中央公園付近で大規模な戦闘が続いてます!福岡アジア美術館側から避難してください!!』

 

 「列を乱さないよう、歩行速度を守ってください」

 オレは後ろの皆にそう言い、先頭に立って歩き出した。

 本屋の店員達が買い物袋にアウトドア関連の本を入れて、急いで列に加わる。

 「じゃあ、私達は・・・」

 これで原隊に戻ろうとした橘花たちだったが、『飛行ノッカーズの方は飛ばないでください!自衛隊などの航空機が優先です!』というオーバオックスの放送に阻まれた。

 それを証明するように、コブラやアパッチといった対戦車ヘリコプターがビルの屋上ぎりぎりを飛び、ミサイルを次々発射していく。

 数秒後に再び爆音が響いた。

 対空機関砲の栄光弾、ノッカーズの攻撃。

 煙が多いためか、レーザーの軌道もはっきり見えて、夜空が暗く見えない。

 「このまま歩いて戻るべきか?」

 橘花が弱気な声でたずねた。

 「低空で飛べバ、大丈夫ヨ」

 シュヴァルベが答える。

 「そうやね。クオーレ、あんたはここで残りなさい。

 ここのほうが安全ばい」

 青かったクオーレの顔が、さらに青ざめた気がした。

 「私は、足手まといですか…」

 「そういうことばい。

 戦いたいなら、そのふらふらを何とかするばい!

 じゃあ!そういうことで!」 

 橘花は容赦ない言葉を浴びせると、シュヴァルベと共に去っていった。

 でもみんな、仕方がないと分かっているはずだ。

 後には、悔しそうに唇をかみ締めるクオーレが残った。

 

 天神中央公園か…。

 HMDの端に、福岡市全体を映したマップがある。

 そこに、たくさんの色の粒が、めまぐるしく動き回っている。

 「ねえ、これは福岡の地図ちか?

 この点はいったい?」

 須藤君がクオーレのランナフォンを除きながら聴いていた。

 「街を全部埋め尽くしてる黄色は避難民です。

 ほら、どんどん街の外に避難しています。

 青は味方のヒーローです。

 赤は敵。

 小さな点は、首にプロペラがあるロボット、エアマフラーです。

 ほら、道に沿って歩いたり、飛行したり、動きがつかみづらいでしょ。

 霧みたいのが、クモの巣をはきつけてたエアバグ。

 そして、この天神中央公園にある一回り大きな点が、あの空飛ぶ円盤、エアクラウンです」

 オレは自分の地図のそれをタップ、指で押すしぐさをして、「天神中央公園を見せて」と、音声入力。

 さっきまでならビルの上にはランナフォンがいて文字道理、町中くまなく監視していた。

 だが今では数も減り、電波障害はまだ続いている。

 今の通信は遮蔽物が無い場所でのレーザー通信。

 ランナフォンを何機も経由して、中洲と西中洲を挟んだ対岸、天神中央公園を撮影するカメラを探し当てた。

 

 漫画家、桜舞河 大将率いる漫画のスタジオ、秘密基地。

 そこではスタッフ全員でヒーローをやっている。

 そこのアシスタントの一人が、電撃能力を持ち自前の青いパワードスーツで戦う少年、鉄仮面フウ。

 車両へ変形しての高速走行。

 両耳に当たる部分からプロペラを出して飛行できる。

 怪力に、コンデンサーを利用した電撃砲を搭載している。

 彼のカメラからの映像だ。

 

 200メートル四方の公園を、上空から見下ろす映像。

 隣にあるビルディング、アクロス福岡は、公園側の壁面が段差上になっており、草木が植えられているので山に面した公園のように見える。

 エアクラウンが入ればほぼ満杯。

 その周りを、マジン団が素早く動き回って翻弄している。

 さすが、あの苛烈なバース・テロ事件を、オージョロン「おもしろい作戦だったね〜」で済ませただけの事はある。

 だが、それでも勝ち目は薄いかもしれない。

 

 爆発が起こり人影、いや、怪人影がカメラのほうに飛ばされてきた。

 今回始めてみた、財布怪人だった。

 茶褐色だったレザークラフトのよろいは所々黒く炭化し、背中のロケットで制動をかけると、ぼろぼろになった部分が崩れて飛んだ。

 疲労困憊したようすの彼は、それでもエアクラウンをにらみつける。

 だが後ろからカメラの主達が接近するのに気づき、叫んだ。

 『オーマイガァー!(何てこった!)』

 カメラのほうから、男が現れた。

 緑の逆立った髪、金のゴーグル、全身タイツは紫と赤のツートンカラーに金の模様入りで、やたらケバい。

 桜舞河 大将が変身した最強クラスのヒーロー、キャプテン・オーマイガー。

 『オレの名だ。地獄に落ちても忘れるな!』

 『何だ?やる気か!?』

 財布怪人が鎖鎌を構える。

 『いや、すまん。

 ついノリで・・・』

 

 エー、今の財布怪人とキャプテンのやり取りは、ノーマルでありながら世界最高峰の殺し屋ジーザスのお約束というべき状況とそっくりである。

 敵が追い詰められ、今わの際に「ジーザス!(なんてこった!)」とさけぶ。

 するとジーザスは、「オレの名だ。地獄に落ちても忘れるな!」といって止めを刺すんだ。

 

 なんか、もめ始めたな。

 財布怪人君はジーザスのことを知らないらしい。

 若い子かな。

 こっちは、ほって置こう。

 フウ君、戦場を見せて。

 

 …あれ?エアクラウンの色が何か黒いぞ。

 発光する部分が減り、黒いビニールのような物で覆われているみたいだ。

 そのせいで、バリアを破る攻撃でもダメージが与えられなくなっているのか?

 まさか…。

 

 あ、エアクラウンの足元に2つの人影が走っていく。

 1人はウエーブの掛かった長い金髪に、白い猫耳を生やした女性。

 その両手は肉球のついた猫の前足だ。

 スタジオ秘密基地の紅一点、ナスターシャ。

 もう1人は黒いガイコツじみた鎧を着た男だった。

 そのカブトの左右からは禍禍しく曲がった4本角が伸び、額からはすべてを掴もうという意思がこもっているのだろうか、左手の平を模したオブジェが付いている。

 スタジオ秘密基地のスタッフ、侵略大帝だ。

 

 侵略大帝が、エアクラウンに決然として手を突き出す。

 その手に眩い光が宿る。

 『超銀河カリスマ波!独裁者粛清落とし!AP15,000ン!!』

 光が空を駆け、エアクラウンに直撃する!

 『ワシは、全宇宙の正当なる支配者、侵略大帝の力と技を持ったノッカーズなるぞ!

 貴様はこの星に来た時、人類への支配欲を持ってきたのじゃろう?

 その支配欲、権力欲がある限り、このワシの果て無き支配力と権力欲が、隔絶した力となってお前を支配するのだぁ!!』

 そう言い終わったとき、エアクラウンの足が2人を踏み潰すために振り下ろされた。

 『何じゃと!?』

 侵略大帝が驚愕の声を上げる。

 ナスターシャと共に逃げるしかなかった。

 その数秒前まで2人でいたところをエアクラウンの足が踏み潰す

 

 「バカ!」

 オレは思わず叫んだ。

 「スイッチアのロボットは、スイッチア人のためのプログラムに従ってるに過ぎない!

 本当に心なんかもってないんだから、支配なんかできないよ」

 

 侵略大帝から返事はなかった。

 だが、彼らには助け舟があった。

 再び踏み下ろされるエアクラウンの足。

 そこに一台のバイクが突っ込んできた!

 乗っているのは2人。

 青いコートに背中に赤い風車を十字架のように描き、銀色の鉄仮面をかぶった男。

 それと黄色いボディスーツを着て、同じ柄の猫耳ヘルメットをかぶったグラマスな女性だ。

 男の名はアンサー。

 オレと同じメカニックヒーローで、武器はムチ。

 本名、有賀 透。

 芸能プロダクションでプロデューサー。

 女性のほうは、相棒である猫のライカンローヴ(ノッカーズとはまた違った怪人)、西表 山音。

 どうやら、スタジオ秘密基地と一緒に来ていたようだ。

 

 巨大なバイクの名はロシナンテ。

 マッコウクジラのようなずんぐりしたノーズ。

 そのノーズが真上にはじけ飛ぶ。

 下から現れたのは、らせん状に折りたたまれた巨大なランスだ。

 後ろのマフラーにも、円陣には不必要な巨大なものが2つある。

 左右に2つあるそのマフラーには、ロケットが仕込まれていた。

 バランスをとって左右に飛び降りる搭乗者。

 ロケットが点火される。

 たちまち加速したロシナンテは、エアクラウンの足に激突した!

 そこは、あのビニールのような装甲が覆っているが、勢いを殺しきれない間接部分。

 キックの勢いを一瞬殺いだ!

 その隙に、大帝達は逃げ出すことができた。

 

 

 ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ

 

 アンサーからの警報が入った。

 その彼が知らせたのは、渦警報。

 本文を読む。

 

 〔エアクラウンの追加装甲は、デミアジュウムと判明。

 本来デミアジュウムは、命を持つ者の願いを受けて、その力を発揮する。

 だが侵略者ロボットには心が無い。

 彼らには装甲か潤滑油くらいしか使い道は無い。

 だが、デミアジュウムは多数の平行世界をつなぐ、次元のゆがみの性質を持っている。

 それが大量に集まれば、複数の世界をつなぐゲート・渦を作り出せるかもしれない〕

 

 「千田隊長!」

 オレが話しかけると、隊長はもう考えをまとめていたようだ。

 「アンサーの警報か?」

 「そうです!どこから渦が生まれるかは分かりません。

 高い位置に強力な武器を置いてください!」

 千田隊長がスピーカーで叫ぶ。

 『野方!ビルの屋上へ上がる道を作れ!

 対空砲を積んだ奴は、屋上へ上がって、渦の出現に備えろ!』

 『『『了解!』』』

 野方さんのオーバオックスがSUVモードでビルに張り付く。

 そして、そのまま壁面をまっすぐ上に走り始めた。

 その後には、灰色のペンキを塗ったように、まっすぐ上に伸びる超抵抗エリアができていた。

 そこへ、背中に大型火器を備えたオーバオックスが次々に張り付き、ビルの上へ駆け上がっていく。

次はジエンドだ。

 『ジエンド!エアクラウンのほうに向かえ!

 スタジオ秘密基地を助けるんだ!』

 その声を聴いて、それまで松明のように消えた街頭の上で道を照らしていたジエンドはビルの上まで飛び上がった!

 

 でも、どこからデミアジュウムなんて調達したんだろう。

 「あの、学研都市の大学の先生が言ってたんですけど」

 須藤君が口を挟んだ。

 「博多屋台の料理には、ごく微量のデミアジュウムが含まれているそうです。

 たぶん、食欲を満たしたいと言う人の願望が強すぎて」

 

 それはありえる。

 この福岡県の直方市には、かつて東洋一の採掘量を誇ったと言う築豊炭鉱跡地がある。

 そこには多くの人間の願いが、結晶化した大量のデミアジュウムが存在したらしい。

 しかも、青らく(しいらく)という一つ目怪獣まですんでいたとか。

 それはアルクベインの政治工作で福知山ダムの水の下に沈められ、その後、橘花によってほとんど酢昆布にされてしまった。

 何いってるか分からないだろうが、これが世界の一端なんだから仕方ない。

 

 須藤君の説明は続く。

 「でも1日に生まれる量はわずかだし、お客に食べられた後は全国に運ばれる。

 デミアジュウムだけをより分ける技術も無いから、工業化は無理って話だったんですけど」

 スイッチアは、それが可能だったわけだ。

 

 「そういえば、ここの道路、いくらなんでも屋台の数が多いと思ってたけど」

 イーグルロードの言うとおりだ。

 通りの両側には、乗り捨てられた車がサイボーグによって集められていた。

 それにしても、屋台の数が多すぎないか?

 道路に収まりきらないぞ。

 オーバオックスが、そんな屋台をピラミッド状に積み上げていく。

 それを野方さんが抵抗を極限まで強くした灰色の霧で固定している。

 

 「俺も、そこにある屋台も、怪ロボットに連れてこられたんです。

 最初は何で、さらわれたのか分からなかったんです。

 でも昭和通りにおろされたら怪ロボットは、ラーメンを集めるのに夢中になって、その隙に逃げたんです」

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 その頃、天人口中央公園では。

 侵略大帝とナスターシャへの攻撃に、怒ったキャプテンたちは強引に戦線に飛び込んでいった!

 フウ君の電撃がエアクラウンの装甲を直撃した。

 だがデミアジュウム装甲は難なくそれに耐える。

 マッハ1万(!)で飛行できるキャプテンが、その猛スピードでエアクラウンを翻弄しようとする。

 だが、エアクラウンは腕をヌンチャクのように振るい、それに対応して見せた。

 あれはデミアジュウム入りオイルかもしれない。

 これじゃ足止めにはなっても決定打にはならない!

 

 真っ赤な炎がエアクラウンを包んだ。

 ジエンドが到着したんだ。

 だが、戦いは始まったばかりだ。

 

 そのとき、エアクラウンの巨体が、風船のように宙に浮いた。

 あの全身の発光体を光らせて。

 「!エアクラウンが変形を始めました!

 円盤形態に戻るようです!」

 当然マジン団や周囲のヒーローからの集中砲火を食らう。

 だがデミアジュウムの装甲は、平均的な攻撃など物ともしない。

 気にせずに上昇を続けていく。

 

 そのさらに上に、3つの輝く流星のようなものが見えた。

 くしくも同時に飛び掛った、ジエンド、オーマオガー、フクイペリオンの3人だ。

 

 『バックドラフト!』

 ジエンドが、その手に炎を携えたまま勢いよく手を後ろに引く。

 すると炎は一直線にエアクラウンを焼いた!

 一見奇妙な逆行現象だが、これは密閉された部屋での火災で、よく見られる現象だ。

 密閉され、酸素を使い尽くした炎がある。

 その部屋のドアを開けるなどすると、新鮮な空気が流れ込み、その気流に向かって部屋の外に炎が流れ出る現象だ。

 ジエンドは手を引くことで密閉された無酸素空間を真空として作り出し、エアクラウンの表面までの空気を引っ張って、炎が逆流するための空気の流れを作り出したんだ。

 

 『マジックビーム!』

 オーマイガーの左手のひらに、円形の魔方陣が現れる。

 その魔方陣から、イカヅチのように曲がりながら飛ぶ魔法光線が放たれる。

 どうやって放っているかは、科学と相反する魔法のため、分からない。

 威力は、バックドラフト以上かもしれない。

 

 『テルモピュライ!』

 さっきも街中の人に見せ付けた炎が、再び放たれる!

 

 3者3様。

 敵対することもあった3人の必殺技が、同時に目標に殺到する!

 「みんな目を閉じろ!」

 誰とも無く、そういう声が聞こえた。

 もちろん、オレもイーグルロードも、この後の閃光や爆風のことは予想が付く。

 監視していたランナフォンには「閃光防御!」を命じた。

 カメラの映像がサングラス越しになる。

 目を閉じた瞬間、凄まじい爆音と共に台風のような風が押し寄せる!

 

 その風は熱かった。

 あっという間に全身から汗が噴出す。

 これを生み出したエネルギー量を思うと、精神は逆に恐怖に凍りつきそうだ。

 だが、エアクラウンはこれで終わりだ。

 そう思うと、心にちょっと余裕が出てくる。

 オレはそう思った。

 多分、他のみんなもそうだろう。

 

 だが、そうはならなかった。

 あの忌まわしいエアクラウンは、戦略兵器クラスの技3連発を食らいながらも、3人を跳ね除け、天高く舞い上がる!

 

 「コアンダ効果よ!」

 イーグルロードが叫んだ。

 「ああゆうドーム状のものに上から風を送ると、浮力が発生するの!

 でも、あんなエネルギーに耐えるなんて…」

 

 空高く浮かび上がったエアクラウンは、もう黒い姿をしていなかった。

 もはや白熱化し、巨大な電球のように夜空に輝いている。

 その白い姿が、一瞬で10倍くらいに膨らんだ。

 

 …デミアジュウムか。

 回転したエアクラウンが、デミアジュウムを薄く、遠心力を利用して広げたんだ。

 だが、もうエアクラウンは機能を失っているかもしれない。

 それを引き換えにやりたいことって?

 

 その白い輝きから、黒煙のようなものが広がった。

 それは風に流されることも無く、同心円状に広がっていく。

 「渦だ!」

 その中に見えたのは。

 

 「地球?いや、スイッチアか!」

 それは、明らかに元は地球型の惑星と分かるものだった。

 宇宙の漆黒の中、陸地と海、そして雲による独特の姿があった。

 だが、そこに美しさは無い。

 陸地は土がむき出しの茶色か、鋼鉄で覆われたらしい黒いエリアで覆われている。

 所々、緑が見える。

 わずかに残った森だろうか。

 だが、その緑も黒や茶色の前には風前の灯に見えた。

 

 海は海で、どす黒い水で覆われていた。

 陸地からは、赤、白、黄色と、正体の分からない物質が無限に注ぎもまれている。

 それは海流に乗って渦を巻き、海をさらに汚していく。

 

 さっきから、少しづつ、あっち側へ引っ張られるような気がする。

 重力だろうか。

 

 だが、そんなことより気を付けねばならないことがある!

 スイッチアの前には、増援の多数のエアクラウンが浮かんでいた!

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 距離は、こんなにも詰められていたのか。

 エアクラウンから、多数のエアマフラーが放たれた。

 それは一気に地上へ殺到する!

 

 ピピピ ピピピ ピピピ ピピピ

 

 HMDに再び警告。

 こんどはなんだ?!

 

 発信したのはキュウキサウルスとレジェンド・オブ・ディスパイズ。

 海側にいる超巨大ロボットとドラゴン型ノッカーズからだ。

 内容は対空攻撃の予告。

 天を仰ぐと、渦のすぐ下、高度1キロメートルほどのところが、厚さ200メートルにわたって空全体にマーキングされている。

 仮想現実の映像だ。

 当然、文章でもそのことは知らされている。

 同時にカウントダウンも。

 今20秒をきった。

 

 その間にも敵の増援からは次々に対地攻撃が放たれる。

 味方の迎撃も。

 それは上空で激突し、凄まじい爆炎に変わる!

 戦闘ヘリや飛行ノッカーズたちが逃げていく。

 だがスイッチアのロボットにとって、その炎は恐怖の対象ではないらしい。

 それを突っ切って現れた!

 避難民は更なる恐慌状態に陥った!

 

 「私もいこうか?」 

 イーグルロードが聴いた。

 「だめだ。後5秒でカウントダウンが終わる。伏せろ!」

 そう言ってオレは伏せた。

 だからこの後の惨劇は、すべてランナフォンからの映像。

 5秒が過ぎた。

 

 ずどどどどどどどど

 ぶぅごごごごごごご

 

 予告された空域を、巨大なエネルギ−が駆け抜ける!

 それに触れた時、スイッチアのロボットは瞬時に爆発、炎上し、パチンコ玉より小さな芥子粒に変えられていく!

 その光線に当たらなかった物には、衝撃波が襲い掛かった。

 バリアーが有ろうが無かろうが、装甲がめくれ上がり、真っ白な炎に包まれていく。

 

 衝撃波が地上を鞭打つように襲う。

 多くの人々が背中を丸めてうつぶせになる路上にも。

 こういう光景は何度見てもなれることは無い。

 自分のせいで、さらに被害が増した。という思いが心に広がる。。

 理屈の上では正しくても、多くの人に後でそう言われても、衝動的に思ってしまう。

 

 それでも、ランナフォンの目は留まらない。

 複数のエアクラウンのバリアーに囲まれ、地上まで届いた敵がいる。

 

 最も避難が進んでいないエリアは・・・。

 カメラを切り替えてみる。

 

 博多駅付近。

 その東側を南北に走る5車線の道路、住吉通り。

 昭和通りと同じく、街灯もビルの明かりも停電で使えない。

 乗り捨てられた車のライトや、付近のビルの非常灯が頼りだ。

 駅の周りにはホテルが多い。

 まさか、逃げ惑う人々は、旅行者や出張できた土地勘のない人なんじゃないか?!

 その向こうには、ホテルの前に並ぶ屋台と、そこに頭から突っ込んだエアマフラーがいた。

 それが3。

 破壊されたわけではない。

 周りにはエアバグが走り回っているから、デミアジュウムをくすねているんだろう。

 

 その場にいるヒーローから、攻撃力の高いヒーローへ応援要請のツイッターがひっきりなしに書かれていく。

 

 立ち往生する車と、人の流れの中に、陸上自衛隊の軽装甲機動車・ライトアーマーと高機動車・疾風が止まっていた。

 付近には、89式小銃を構えた普通科隊員の姿も見える。

 だが、立ち往生しているわけではない。

 無駄とは知りながら、1秒でも敵の注意をひきつけるためだろうか。

 絶え間ない銃撃を加えていた。

 

 『窓から離れてください! ガラスの破片をもろにかぶります!』

 それにスピーカーのナレーションが重なる。

 『頭をひくくして!走って逃げてください!』

 

 『うおおお!』

 鋭い気合の声と共に、エアマフラーが吹き飛んだ。

 たくましい人間サイズの影が、殴り上げたんだ!

 男義丸。

 幾多の番長の男義が詰まった学ランを着ることで、凄まじい筋力を得たヒーローだ。

 

 エアマフラーは、乗る人のいない車の上に落下した。

 隙だらけだ!

 

 ライトアーマーと疾風に搭載されたM2銃機関銃が、周りからも普通科隊員の小銃が雨あられと銃撃を食らわせていく。

 だが、バリアーが健在のエアマフラーには届かない。

 レーザー砲が付いた鋼鉄の腕が、めんどくさそうに自衛隊に向けられる。

 

 『ダーリンパニッシュメント!』

 空から女性の声がした。

 同時に鋭い電撃がエアマフラーに襲い掛かり、バリアを無効化する。

 電撃の夜叉と呼ばれる、黒いレザースーツに、萌の字をあしらったマスクをかぶった、ミス・サンデーの電撃だ。

 『今よ!』

 

 その声と共に、3人の自衛官が乗り捨てられた車の陰から飛び出した。

 横一列に並んだ彼らの肩には、01式軽対戦車誘導弾があった。

 

 ボシュ! ボシュ! ボシュ!

 

 同時に発射されたそれは、バリアを失った敵の体を焼き払い、吹き飛ばし、役に立たない炎とガラクタに変えてくれた。

 

 『まだちゃ!サンデー!こっちの電源ちゃ!』

 声の主は、カメラの持ち主だった。

 マンホールを、巨大な鉄の手が握るロッドが叩き割る。

 手の主は胸に大きく一番星とデコレーションされた、青いロボットのはずだ。

 長距離トラックから変形する巨大ロボ、一番星。

 パイロットは元姫女子プロレスの実力者、ステラ百瀬。

 オレの状況監視システムは、ランナフォンだけで構成されているわけじゃない。

 メカニックヒーローや、予め登録された協力者が持つ携帯電話のカメラなど、様々なものが使われている。

 

 『OK!』

 ミス・サンデーは空を飛ぶと、一番星が開けた穴に飛び込んだ。

 やがて、中から雷の音と光が放たれた。

 街灯がともる。

 マンホールの中は、地下に埋設された電線だった。

 

 『突撃!突撃!突撃!!』

 自衛隊がホテルに突入し、エアバグの掃討を開始した。

 車の陰や煙でよく見えないが、けたたましく銃声が響き、そのたびに鉄の砕ける音がする。

 

 その戦場の中で、奇跡的に胴体が原形をとどめていたエアマフラーがあった。

 『あの機体には攻撃しないでください!クラッキングを試みてみます』

 カメラの視界に、これまで気配さえ感じさせなかった銀色の影が立った。

 エレメンツネットワークの代表、アルクベイン!

 青い防弾ガラスで顔を覆ったヘルメット。

 その左半分には数字の6のような形のオブジェが付いている。

 それは量子コンピュータSPARCの端末だ。

 長いマフラーの付いた銀色のコートは、すべてオーバーテクノロジーの極小機械、ナノマシン製。

 マフラーの先が変形し始めた。

 3本、というより3枚のリボンのような足が生え、小型ロボットになってエアマフラーの残骸に向かう。

 アルクベインとは、極細いワイヤーで有線操作されてるんだろう。

 あの人は世界的に有名なコンピュータの権威だ。

 スイッチアのバリアを丸ごと無力化するくらいのことはするかも…。

 

 だが、突然エアマフラーの上から自動車が跳んできた。

 二つの鉄の塊は互いにつぶれあい、車からはガソリンがこぼれた。

 たちまち炎が上がる!

 

 『ああ!火の手が上がりました!車のガソリンに引火します!早く逃げてください!!』

 指揮官が上ずった声で叫んだ。

 ライトアーマーに搭載されたスピーカーが、街全体に声を響かせる。

 だが、アルクベインは冷静だった。

 『それでも、バリアは使えなくしました』

 『よし!それなら!』

 車上のM2重機関銃が火を噴く。

 使用される50口径弾の直径は12.7ミリ。

 ヘリコプターや軽装甲車を打ちぬける。

 そしてエアマフラーも、同じ運命をたどった。

 『バリアは消えたぞ!攻撃を集中しろ!』

 その叫びと共に、カメラの主、一番星が一気に動き出した。

 目標は、上空に集まってきた新手のエアマフラーだ! 

 『必殺!一番星ブレイク!!』

 一番星の巨大な両足がそろって天に向けられる。

 そしてひざから下に付いていた突剣がせり出し、一番星は巨大な槍となってエアマフラーを次々に貫いていく!

 すごい!

 

 バタバタバタ… ズシン ズシン

 

 いくつものプロペラ音の後に重い足音が響き、エアマフラーは炎の向こうに降り立つ。

 さらに大きな影も。

 エアクラウンだ。

 炎がさらに大きくなる。

 ロボット達がレーザーで車のガソリンに火をつけたんだ。

 炎は周囲のビルの窓にぶつかり、今にも中へ進入するように見えた。

 

 その炎を手前から突きぬけて、手裏剣か紙飛行機のようなものが幾つも飛んでいく。

 アルクベインのアームから、いくつも飛び出した小型ロボットだ。

 次々にエアマフラーに張り付く。

 はりつかれたエアマフラーは、これまでの行動を覆し、張り付かれなかったロボットに立ち向かう!

 『バリアーの再起動はさせません!

 このまま接続を保って、他の能力も掌握します!』

 

 さすがです!アルクベイン!

 

 その頃、博多駅から港までをまっすぐ結ぶ大将通りには、BOOTSと青の七が展開している。

 彼らも攻撃を続けている。

 先頭を飛ぶのは、橘花とシュヴァルベだ。

 さっきの戦闘経験が生きているのか、次々にエアマフラーを破壊している! 

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 「アウグル!川に付いたんだけど、手伝うことないの?」

 イーグルロードに言われてはじめて気づいた。

 ここは、博多川に仮設された橋の上だった。

 

 あのエアクラウンが人型に変形する時、コンテナを落とした。

 あの中身は大丈夫なんだろうか?

 

 コンテナのひとつに、ガイダブルというヒーローが乗っていた。

 彼は、介護用パワーアシストスーツに様々なアタッチメントを付けて戦うメカニックヒーローだ。

 マスクは額から太い触角がV字型に伸び、赤い2つの複眼が輝く。

 普段は高校教師をしているらしい。

 いまは、川に浮かんだコンテナの上で、腕に取り付けたエンジンカッターを使って3角形の穴をあけているところだ。

 そして、中を覗き込んでいる。

 

 「センサーをやられたの?ガイダブル」

 イーグルロードに引かれ、降り立ったスクラップは相変わらず、ぐらぐら揺れる。

 「おまえ!アウグルか?!」

 久しぶり、ガイダブル。

 「お前、透明じゃない装備も持ってたんだ。

 イーグルロードがいないと分からなかったぞ」

 「うらやましいかい?助けてー!ランナフォンさーん!」

 オレが叫ぶと、ワシ型や背中にたくさんプロペラを付けたゴリラ型が降りてきた。

 ひとつをガイダブルに渡す。

 「スマートフォンから、音波や電波による非破壊検査機能のアプリを使う」

 「口で言えばいいのか?」

 「そうだよ」

 「非破壊検査機能」

 コンテナにランナフォンを近付ける。

 「よし、これは焼き鳥だ」

 イーグルロードが短くレーザーを放ち、焼き鳥と焼きつけた。

 

 海上警察隊は、ゴムボートで救出された人々を川辺まで運んでいる。

 川辺には、引き上げられたと思われる、おびただしい数のコンテナ。

 消防隊が救助を行っている。

 そして、避難を始める人々の姿があった。

 すごい早業だ。

 いったいどうやったんだ?

 

 「いや何。最初は俺がコンテナを上から切って開けて、海上警察のゴムボートで人を運んでいたんだが、スワローテールが来たら、コンテナごと川辺まで引っ張り上げてくれたんだ」

ピンクのスーツをまとった女性飛行ノッカーズが、リフティングボデイを持つ飛行コンテナの先端を持って、水面をボートのように引っ張っていった。

 彼女のヘルメットには猫耳と、長く垂れ下がる2枚のリボンが付いている。

 

 「次に亀甲マンのダンナと岩石男が来て、ロープを張って、流れるコンテナを止めてくれた」

 川辺に、全身ぴっちりとした黒いタイツを着たヒーローがいる。

 亀甲マンだ。

 顔には大きく甲の文字をあしらったヘルメットをかぶっている。

 だが最も目を引くのは、全身を縛る亀甲縛りだろう。

 この世の緩んだ精神をきつく締めなおす。をモットーとする正義の変態だ。

 手首からロープをどこまでも伸ばすことができる。

 彼は、電柱にロープをもやい結びしていた。

 

 川の中に身長3メートルほどの、全身が岩石でできた男がいた。

 体に亀甲マンのロープを巻きつけ、両脇にコンテナを抱えて陸地に向かって歩いている。

 あまり会ったことはないが、強力なノッカーズらしい。

 

 「最後にフィードバック・ジョーが来て時間を止めてくれたら、水面を歩けるようになってな。

 それで、みんなには歩いてもらった」

 人間大のぬいぐるみのようなノッカーズがガイダブルの前に降り立った。

 黒くとがったフード付きマントを羽織り、顔は布製でX字の縫いこまれた糸で口をあらわしている。

 だが、しゃべる事はできない。

 今は隠れているが、そのミント製の手を交差させて放つ時空転戻砲 ファイナライズリターンは、時をまき戻すことができる。

 彼の姿が消えた!

 思わず左右の川岸を見る。

 いた!

 しかも、コンテナ内につかまっていたと思われる大勢の人々を連れて。

 

 すごいや。

 今度参考にしよう。

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スイッチアの本当の目標が明らかに!
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