福岡港改造生物密輸事件 8 |
青いボディ。金色の翼。長い孔雀のような尾羽。
そして、装着者の顔を反映させたアヒルのような口。
鎌倉 ひろゆき。あだ名はカマちゃん。
関東でその名を轟かす少年野球チーム、カマちゃんズのキャプテン。
しかし、それは世を忍ぶ仮の姿。
カマちゃんズとは、カマちゃんを慕う宇宙人、異世界人、超能力者(ノッカーズも、能力をデミアジュウムに依存しない者も含む)、奇人、貴人、変人、怪人、ロボットなど、さまざまな子供たちが、心の潤いを得るために集まる野球チームなのだ。
そしてひとたび有事となれば、その力はカマちゃんの指揮の下、正義のために振るわれる。
カマちゃんが装着する鳥型ブースター・BEE3号機、BEEV。
「鳳翼天昇!!」
その翼が大きく羽ばたくと、攻撃的な嵐がエアマフラーをなぎ倒す!
「ふっ。あの調子じゃ、ギリシャ当たりまで飛んでいくかもしれないな」
カマちゃんのカバのような口が笑う。
「ありがとう!カマちゃん!」
喜ぶ街の人々。
「素敵!カマちゃん!」
路上に、青い大きな前足と赤い後ろ足を持った犬型BEE、BEEUが憧れのまなざしを送っている。
中学1年生の女子、そしてカマちゃんズのエース、スバルちゃんが装着者だ。
ちなみに、BEEは人間がスーツをまとっているわけではない。
人間の体を変化させているからだ。
だから、BEEシリーズは非人間型のものもある。
にもかかわらず、スバルちゃんのうっとりした視線は隠しようがなかった。
「カマちゃん、どんどん逞しくなって、男らしくなってる!
私、カマちゃんと結婚するわ!」
・・・なんだ、こりゃ。
オレはイーグルロードに吊り下げられながら、アステリオスが指定した香椎埠頭から須崎埠頭の間に向かうべく、まず味方部隊と合流するため箱崎公園へ向かっている。
目下には住宅地。
高度は、その屋根すれすれ。
もうすぐ、工場や倉庫が目立つようになるはずだ。
上空では幾多の戦火が瞬き、そのたびに空間が揺らぐ!
そんなことより、オレはスピーカーから聞こえてくる、なぞの一人朗読会に首をひねった。
これは確か、指揮官へのホットラインとして渡した、ランナフォンからの通信のはずだ。
持ち主はカマちゃんズのキャプテン、鎌倉 ひろゆき。
間違いない。
HMDには、通信者の声紋を調べて名前を字幕表示させてるんだが…。
やっぱりカマちゃんだ。
『寝言ですよ』
違う少年の声が聞こえてきた。
字幕によれば、怪盗レイドリフトとある。
『最初はBEEVを纏ってたんですけど、怖がったまま、何もせずにエアマフラー隊に蹂躙され、気絶しました。
それを救出したところです』
紹介しよう。怪盗レイドリフト。
『その怪盗って言うの、やめてもらえませんか。
メディアが勝手に付けた肩書きです』
なんで?泥棒してたじゃないか。
犯罪者が盗んだものを、持ち主に返したんだけど。
『僕は、虐げられる人も物も救いたいんです。
救助が専門ですから』
なるほど。
では改めて。
レイドリフト。
本名、都丹素 巧。
サバイバルが得意な10歳の小学生。
前線で取り残された人を救助する、専門のヒーローだ。
そして、オレと同じロボットをこよなく愛するメカマニアでもある。
今、オレが見ているHMDの映像は、これから向かう場所の様子だ。
広い駐車場に隙間無く車が止まり、道には人が溢れんばかりになって避難を続けていく。
その周りには、大型ノッカーズやロボットが警戒と緊張感を高めるために、立っている。
マップによれば、カメラがあるのは倉庫街の駐車場にあるトイレの屋根の上。
この中に、カマちゃんとレイドリフトがいる。
なるほど、四方を壁に囲まれて安全だし、水も使える。いいところに隠れたな。
『ノックパパのアドバイスですよ。あの人、大工だから。
中の映像は、勘弁してください』
それは分かるね。
カマちゃんは今頃、口とかお股とかが大変なことになっているだろうね。
オレ達はちょっと涙ぐんだ。
倉庫外を撮影しているのは、レイドリフトが相棒とする全力疾走全領域監視ロボット・サウル(Sprint・All・Sphere・Watch・Robot)。
前に見たけど、いいマシンだ。
全長60センチの、灰色で堅牢なボディに、4つのプロペラにもなる車輪。
それによって空中でも水中でも移動できる。
ランナフォンにリンクした、情報端末でもある。
偵察に使われるデータ集めは、ランナフォンのだけではなく、レイドリフトなど、他のヒーローからの物もある。
ちなみに、彼が使う機材はすべて市販のものばかり。
ノッカーズ犯罪の増加は、防犯グッツ業界に多大な刺激を与えた。
にしても、こんなのが市販されるなんて、恐ろしい世の中だ。
「そいつは、大変だな。それで、今は誰が指揮を取ってる?」
『ノックパパです。
今、須崎公園の臨時指揮所にいるはずです。
で、避難経路の確保は僕に任されました』
ノックパパは、平行世界からやってきた家族戦隊ノック5のリーダーだ。
怪力を持つノックパパと息子のノックダン。
奥さんが水や氷を操るノックママ。
長女が炎を操るノックメイで、次女が超音波を放つノックオン。
5人はもといた世界から、調査のためにこの世界にやって来た。
だが次元のゆがみか何かの影響で、こっちの世界では手のひらサイズに縮んでいるんだ。
いきなり、HMDには警告音が鳴り響く。
なんだ?!
地図上に、敵を示す真っ赤な表示が陸から海に向かって押し寄せてくる!
スイッチア軍がこっちに向かってくるんだ!
そのとき、さっきスイッチアの増援を一蹴したのと同じ光が、頭上から降り注いだ。
同時に、通信が切れた。たぶん、ビームが放った電磁波で。
ドドおおおおオン
直後、凄まじい衝撃がオレたちを襲い、軌道が一気に下がった!
マップには、工場地帯から放たれる一筋の線が、ギザギザだった赤い敵表示を丸く抉り取るのが映る。
レジェンド・オブ・ディスパイズのビーム砲だ!
「だっ大丈夫!?」
イーグルロードの叫びが響く。
迫る路面!
グエッ。ワイヤーを引き上げられた!
衝撃で、肺を圧迫される。
苦しい!
地面への激突は避けられたが、体がぐるぐる回る。
「着陸するよ!」
イーグルロードはそう言うと、ゆっくり下り始めた。
それでも、こっちは背中から延びる2本のサブアームを羽にしてバランスを取っているとはいえ、たった1本のワイヤーで吊り下げられた身だ。
両手両足を四方に伸ばし、突っ張ったが、かなりの衝撃があった。
「いてて」
立ち上がりながら、海のほうを見る。
このあたりは住宅地で高い建物は無いので、その灰色の姿が良く見えた。
レジェンド・オブ・ディスパイズ。直訳すれば、見下し伝説。
姿はマッシブな人間型。腰や腕に、それぞれ2門のビーム砲を備えている。
だが今は、体の前にエプロンのように垂れ下がる分厚い装甲板に隠れていた。
このそう甲板は、左右に分かれて大きく広がることで、背中から生える巨大な翼になる。もちろん、空を飛ぶためのものだ。
その外側から右腕が前に突き出され、静かに排気が漏れる。
さっきのビームの発射口だな。
頭部は戦車の砲塔その物だ。レールガンの大砲が突き出している。
全高は約120メートル。重さは1万トンだ。
オレ達の後方からランナフォンの録画映像が送られてくる。
あのビームの着弾地点。
閑静な住宅地に着陸しようとした4機のエアクラウンと、その周りを取り巻くエアマフラーの群れが、一瞬で吹き飛んだ!
当然、足元の町もランナフォンも、その衝撃で吹き飛ぶかと思われた!
でもそれは要らぬ心配だった。
いかなる物理法則を書き換えたのか、破片や炎はすべて重力を無視して空へ送られていく。
ドスン ドスン
港の方から、アスファルト道路を踏み砕く巨大な足音が聞こえてきた。
オレ達から見て、港のほうだ。
現れたのは、ティラノサウルスのような体形の巨大な怪獣だった。
それも、全長が150メートルもある。
ヒーローノッカーズ、キュウキサウルスだ。
頭にはトリケラトプスのような硬いフリルと、3本角が生えている。
首から尾にかけては、骨が浮き出たようなよろいで覆われ、両肩からスパイクが大きく突き出ていた。
尾の先には光るハンマーがある。アンキロサウルスのよう。
キュウキサウルスのキュウキとは、窮奇と書く。
体にとげの生えた牛とも、翼のある虎とも言われる、中国神話の四凶と呼ばれる怪物のひとつだ。
だがこいつは、中華風ドラゴンノッカーズではない。
体はガラスに黒い墨を混ぜたような半透明。
ところどころに、赤や青、黄色などの濃淡がある。
スパイクや鎧は、真っ白に輝く!
実はこの体は、宇宙のある領域のデータが詰まった、いわば宇宙のレプリカだ。
黒は宇宙空間。カラフルな濃淡は星間ガスなど。スパイクや鎧は銀河その物。
正体は、U1.27。73個のクエーサーが40億4000万光年もの長さで数珠繋ぎになった宇宙の巨大構造物。
複数のクエーサーの重力で、平行世界からさまざまな可能性を引き寄せしかも、その影響で自我を生み出した。
それが、同じ旺盛な好奇心を持つ、日本の天文学者に取り付いてしまったのだ!
鎧がカメラのフラッシュのように、それよりもっと眩く、輝く!
同時に放たれた無数の弾丸……らしきものが、爆発四散するスイッチア軍に放たれる。
それが着弾すると同時に、爆炎も破片も、すべて天に送られてしまう!
「全然重力の影響を受けてない。宇宙まで飛んでいくね。あれ」
イーグルロードの目で見たのなら、それで確かだろう。
あれの正体は気になるが、今はそれどころじゃない。
現場指揮官であるノックパパから通信が来た。
だが、聞こえてきたのは少女の声だ。
『ノックパパ!スイッチア軍は人質を取ることを覚えたようです!』
その声は叫び声だったが、小さい。
ノックパパがオレに使った以外の通信機からの声のようだ。
声の主は、レジェンド・オブ・ディスパイズのパイロット。
成沢 あかね。12歳。
それでも、多くの異世界に招かれ戦ったベテランだ。
あんまり過激すぎて、キャンセルされることもあるらしいが、本人は納得していない。
最初の会議でオレの後ろに座っていたあの子だ。
『それでこっちの避難民を狙いに来たのか!交戦を許可する!援護は必要か?』
『当然!合体のために1分間ください!!』
ノックパパはすべてのカマちゃんズに交戦許可を出すと、やっとオレ達につないだ。
『すまない。計画変更だ。
スイッチア軍が海に向かっている。これより交戦を開始する。
お前達は目的地には自力で向かってくれ!』
了解。
『うん?目的地付近にはレイドリフトがいるな。
今後は彼と話し合ってくれ』
そうしましょう。
『僕のほうも、準備できました。
カマちゃんも移送できます』
そう言って、あいつ自身が身に着けているメガネ型通信端末、グーグルグラスからの映像が送られてきた。
トイレの鏡に、レイドリフトの姿が映る。
最近、普及し始めた複眼暗視装置が付いたヘルメット。
耐炎繊維の作業着、防弾仕様のベスト。
両腕には、スポーツ用ガントレッド型のワイヤーガン。
すべて、つやの無い黒でまとめられた、大変ベーシックなスタイルだ。
口にだけ、ヒーローらしい装飾がある。
戦国武将が兜に付けていたような、牙が掘り込まれたマスク・面頬。
それなりに大きく、サイドからは1本ずつ突起が跳ね上がっている。
そのため、手で持てば防具と刺突武器を兼ねる。
その足元に、担架にベルトで固定された、カマちゃんがいた。
『カマちゃんは、他の人に任せられます。
僕はここで待機します』
分かった。10分掛からずに合流できるだろう。
そのとき、キュウキサウルスの鎧に、いきなり亀裂が入った。
ゴツゴツ!と土砂崩れのような音と共に左右に広がる。
鎧の間から現れたのは、鳥のような羽だった。
始祖鳥のように、その先には3本のカギヅメが並んでいる。
そして最初にしたことは、自分に敵の注目を集めることだった。
口をすぼめると、汽笛のような、大型管楽器のような音を鳴らす。
口笛か。
カマちゃんズにその名を記す天才少女、初島 愛。
あの子は口笛もうまかった。
その子が今回選んだのは、戦前から存在した軍歌のひとつ、抜刀隊の曲だった。
でも、オレ達ヒーローにとっては、かつて千田隊長が在籍していた、山桜隊の歌だ。
普通、こういう時はミィンちゃんの歌じゃないかな?
彼女の歌は、歌っているだけで勇気がわいてくる。
「ヒーローじゃない友達とカラオケ行くたびに、戦いの事、思い出すでしょ」
キュウキサウルスは地面をふるわせながら助走を続け、その羽で空に舞い上がった。
口笛を吹きながら。
それに合わせて、街のあちこちから唱和が起こる。
我らは人間 我が敵は 人に仇なす悪鬼なり
人を捨てたる痴れ者に 仁と愛とは無用にて
とことん完膚なきまでに 叩き砕けよ山桜
親兄弟の仇討に 情け容赦も無用にて
一鬼たりとも残すまじ 殲滅せしめよ山桜
敵の潰えるその日まで 進めよ進め突撃ぞ
鋼の銃剣振りかざし 人類平和を守るべし
同時に、数限りない攻撃が放たれた。
レーザー、ビーム、ミサイル。実態弾も、ピストル、ライフル、大砲と選り取り緑だ。
車や家を飛び越え、突撃するヒーローもいた。
こんなにもヒーローがいたとは。
まるで、歌そのものが攻撃力を持ったみたいだ。
「なるほど。
こういう時はアイドルの歌より、戦いの歌か」
そしてオレ達は、彼らに背を向けて匍匐飛行に戻った。
アステリオスの奴、下らん用事だったら、ひどいぞ!!
説明 | ||
少年たちよ。明日の小宇宙を燃やせ! ところで、杉田智一さんの紹介するときに、キョンや銀さんだけ出されるとねぇ、一輝兄さんまでひょうきんな人に見えるねぇ。 | ||
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