「真・恋姫無双  君の隣に」 第18話
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野戦で袁紹軍にかなりの痛手を負わせたせいで、ねねの狙い通り連合の攻撃は尻すぼみになってる。

恋に加え涼州騎馬兵の強力な攻撃を恐れた諸侯は、虎牢関を攻める時は守りを固めた布陣を敷き慎重で、攻城も無理な攻撃はしてこない。

その間に霞と詠が華琳に投降した事を確認出来た。

人材大好きの華琳が二人を粗末に扱うわけが無いから、複雑ではあるけど安心してる。

華雄は行方知れず、雪蓮に倒されたらしいが死んだという報告はない、無事だといいが。

董卓殿からはお詫びの、七乃からは宮廷工作は順調に進んでると言伝が届いた。

俺が出来る事は虎牢関を守る事だけに絞られた。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第18話

 

 

「愛紗、ずっと元気ないだろ、兵の士気に響くぞ」

「白蓮殿、お気遣いありがとうございます。私もこのままではいけないと分かっているのですが」

「桃香が戦に参戦してる可能性は低いと思うぞ。それに麗羽をはじめ、他の諸侯も戦わないお前への風当たりが強くなってる」

「はい、当然でしょう」

私は体調が優れぬ事を理由にまだ一度も戦に出ていない。

情けない、鈴々や雛里にも気遣わせっぱなしだ。

だが、どうしても気持ちが固まらない。

この戦いに意義を見出せない。

そんな私を度々励ましてくださる白蓮殿には感謝に堪えない。

義勇軍を発足した時から白蓮殿には色々お世話になっており、伝えないわけにもいかず桃香様との事を話した。

白蓮殿は「そうか」と言われただけで、それからは何も言われない。

私は意を決して尋ねる。

「白蓮殿、桃香様や私達は不自然だったのでしょうか?」

中途半端かつ不明瞭な質問なのは自覚がある、だが自分でも上手く言葉にならない。

それでも白蓮殿は私の真意を察してくれた。

「正直に言ってもいいか?」

「・・はい、お願いします」

「甘えてる、その一言につきた」

辛辣な一言だった、確かに桃香様の優しさは甘いともとれるかもしれないが、それでも懸命に国や民の事を憂慮していたではないか。

「愛紗、納得のいかない顔をしているが、私からすれば桃香やお前達の考えや行いは自己満足だ。そして上手くいかない事は全て自分達以外が悪いと考える、甘えてる以外何ものでもない」

「な、何故ですか?我々は懸命に弱き民を守ろうと戦っていたのです。甘えてなどいません、ましてや自己満足など」

「だったら武具や食料はどうやって手に入れた?お前の言う弱き民が懸命に作り上げたものだ。お前達と共に戦い死んだ者達の家族にどう報いた?大義の為に働いた名誉ある死が報酬か?お前達が出世すればそれが礼だというのか!」

激しい怒りを見せる白蓮殿に私は完全に呑まれていた。

「桃香には人を惹きつける力がある。それに物事を深く考えず一時の感情で動く事が他者には自己犠牲、慈愛のようにも見えるからな。だがあいつは綺麗事を強調して、無意識に自分本位の考えを他者に強制するところがあった。正直恐ろしいと思っていたよ」

そんな、桃香様は頼りになる友人だと白蓮殿の事を慕って。

「それでもあいつ自身には武も知も権力もない、世に出ることは無いと思ってた。だがあいつは手に入れた、極上の武と知を」

もう聞きたくない、でも声が出せない、身体も動かない。

「そして周りは暴走した。桃香の理想が全てだ。他の考えは受け付けず、自分達と同じ考えでなければ全て悪だ。だがな、私から言わせて貰えば、人の上に立つ者が本気で正義や悪なんて考えるのは単なる責任逃れだ」

もう立ってもいられなかった、自分の存在すらあやふやだ。

「愛紗、最後の忠告だ。桃香も正義も関係ない、戦え!本気で平原の民を護りたいならな」

 

「ねえ、冥〜琳〜、暴れちゃ駄〜目〜?」

「いいだろう、暴れて来い、但しお前一人でな。蓮華様にはお前の馬鹿さ加減を細部に亘って報告しておく」

あらま〜、孫家は今日も平常どおりですね。

私も出番が無いので本でも読んでましょうかね〜。

天幕に戻ろうとしましたら、肩をつかまれちゃいました。

「穏、どこに行こうとしておる?」

「祭様。いえいえ天幕に戻って落ち着いて戦術でも考えようかと思っただけですよ〜」

「ほう、実は儂も天幕に戻って薬を飲んでおこうかと思ってたところじゃ」

確かに百薬の長とはいいますけど。

「呑みすぎは毒ですよ〜」

「うむ、呑み過ぎればな。少量なら立派な薬じゃ」

祭様の少量は常人の十倍以上だと思いますけどね。

「ではご一緒に〜」

「いや、断る。若い者が明るい内から狭いところに篭っていてはいかん」

え〜、ずるいです。

「祭、ずるいわよ、私も付き合うからね」

雪蓮様、という事は、

「さて、冗談はこれ位にしておきましょう、明命ちゃんに用があったんでした〜」

私はこの場を速やかに離れようとしましたが、またしても肩をつかまれちゃいました。

「明命には虎牢関の様子を見に行ってもらってる。穏、さぞかし素晴らしい戦術を思いついたのだろう、じっくり聴かせて貰いたいものだ」

やっぱりです、冷や汗が止まりません〜。

「雪蓮、祭殿、お二人は孫家にとって失ってはならない存在。薬を呑まれるのなら私が看病しましょう、さあ天幕へどうぞ」

その優しい言葉と笑顔が恐怖を増大させます、雪蓮様たちも青い顔をされてますよ。

私達は連合の最後方に配置されてまして、今出来る事は情報収集だけなんです。

つまり時間がたっぷりあるんです〜。

真面目な話、今後の為に停戦の勅が早く届いて欲しいですね。

先程の軍議で碌でもないことが決まってますから〜。

 

「麗羽、今のままじゃ百年経っても虎牢関は陥ちないわよ」

「それ位、言われなくても分かっていますわ!」

忌々しいですわね、董卓軍の将を捕えたぐらいで何を勝ち誇ってるんですの。

とにかく何とかしませんと、わたくしの軍は半数が戦闘不能な状態、これ以上の損害は御免こうむりますわ。

そもそも諸侯の役立たずっぷりが問題なんですわ、美しくはありませんが許攸さんの策を使いましょう。

「今後の戦いは全てわたくしの軍が後詰に入ります。先陣が不甲斐無い戦いをしていないか拝見させていただきますわ」

諸侯がざわめいていますわ、どうやら自分達の立場を理解できたようですわね。

「関羽さん、貴女にもいい加減戦って頂きますわよ」

「了解した」

あら、随分様子が変わりましたわね。

まあいいですわ、働くのなら問題ありませんもの。

後は田豊さんと沮授さんの献策でとどめですわ。

「もう二つありますわ、明日から昼夜問わず攻撃を仕掛け続けます。先陣は左右に分かれて二つの軍で務めますわ。各軍順次交代して相手に休む暇を与えずに虎牢関を陥としますわ」

 

「冥琳様〜、今は最後方に配置されてますが長引くと拙いですよ〜」

「確かにな、総攻撃はいいが袁紹軍が督戦を用いるとなると此方もまともに戦わざるを得ない。本来なら内部分裂が起こるところだろうが、勅を直接受けた袁紹には大義名分がある為に逆らえない」

この戦に勝つには有効な手かもしれませんが、ただでさえ反感のあった袁紹さんへの感情が諸侯は更に高まったでしょうね〜。

袁紹さんは今後の戦いに於いて自身に足枷をつくりましたよ。

「何か有効な策はありますか〜?」

「無念だが思いつかん。連合には攻城兵器が碌に無い為、数で押すしかない。御遣いなら総攻撃もかなり耐えられるだろう。情けないが停戦の勅が早く届くのを祈るのみだ」

 

ままなりませんねー。

お兄さんが華雄将軍に、華琳様が連合軍にと、お互い味方に足を引っ張られています。

稟ちゃんの策では、適度に兵糧を失った連合に危機感を募らせて総攻撃に誘導しようと考えてましたのに、逆に失いすぎて諸侯は戦意を無くしてしまいました。

盟主の袁紹さんは勝手に自滅して、無茶振りもいいところの総攻撃を決めてしまいましたし。

「策士、策に溺れるだな」

「風、サラッと言わないで下さい、貴女も賛同したことでしょう」

「風は何も言ってませんよー」

言ってるのは宝ャですよ。

「とにかく、袁紹の見張りがついた状態で戦うなんて、どんな難癖をつけられるか分かったもんじゃないわ。力攻めの攻城なんて下の下よ」

「そうは言ってもこの状況では逆らえませんよー」

「分かってるわよ。でも無理に攻めたところで得られるものは無いに等しいのよ!」

そうですね、桂花ちゃんの言うとおり得するのは袁紹さんだけです。

丁度いいですね、華琳様に聞きたいと思っていましたし。

「華琳様、よろしいでしょうかー?」

「何かしら、風」

「華琳様はこの戦に対して、どこまで求められていますかー?」

「どういうことかしら」

華琳様の目が鋭くなりましたね。

「連合の勝利を求める、つまりお兄さんを倒すのか、もしくは停戦の勅を待つかです」

「風、貴女何を言ってるのですか!」

「風、あんた何を!」

「稟、桂花、黙っていなさい」

華琳様に動揺はみられませんね。

「風、私の前に立ち塞がる者は何人たりとも払い除けるわ。私は曹孟徳、大陸の王となる者よ」

「お兄さんは立ち塞がる者ですか?」

「・・何が言いたいのかしら」

「風は、お兄さんは華琳様にとって失ってはいけない人と思います」

華琳様はお兄さんの事ですと本心が垣間見られます。

この方は王であり、とんでもない才をお持ちです。

それでも世間が言うような、非情な心の持ち主では決してないです。

王としての毅然とした振る舞いが、民の安寧に繋がると考えられてるからです。

風達はこの方の力となり支えたいと思ってます。

でも風達は家臣です、踏み込めない領域がどうしてもあります。

華琳様の全てを支えられるのは、きっとお兄さんだけです。

この戦に連合が勝利すればお兄さんに生きる道は絶対にありません。

霞ちゃんや詠ちゃんとは訳が違います、董卓さんよりお兄さんこそ連合にとって憎むべき敵ですから。

華琳様に分からない筈がありません。

そしてお兄さんに勝つ事が出来る戦力を持っているのは、連合において華琳様だけです。

「風、下がりなさい。今の言葉は聞かなかったことにするわ」

・・やっぱりこの方は風の掲げる日輪なんですね。

どこまでも自分に厳しくあろうとされます、ですが悲しいと思ってしまうのは風だけでしょうか。

 

 

「よし、これでいい。よく頑張った。もう大丈夫だ」

俺は今、怪我人の治療を行ってる。

医学も俺のいた世界で幾分かは学んできた。

とはいえ出来る事は本当に限られる、薬を作る技術、優れた医療機器なんてある訳がない。

人体の構造を教えての適切な止血法、衛生面を考えた煮沸消毒の徹底、痛みを和らげるテーピングでの患部の固定等、民間医療がいいところだ。

知識で持っていた、傷が深い、もしくは大きいときは患部を焼いて止血するなんて無茶な方法も行った。

この時代の人も自然に医術の心得は持っているから似たような事は行われていたが、俺の医学としての説明は画期的だった。

医師や衛生兵に統一して指導した事は兵士の死亡率を下げたので皆に感謝された、人によっては涙も流された。

俺の命令した戦で傷ついた兵士やその家族達に。

「宰相、もうお休み下さい。これは私だけではなく此処にいる皆の気持ちです」

凪の言葉に、医師や衛生兵、傷ついた兵達も同意し休むように懇願される。

「わかった、ありがとう」

 

楽進さんと一緒に戻っていく御遣い様を見つめながら、私は桃香様に出会った時の事を思い出します。

村を護る為に戦っていた桃香様たちと出会い、戦いが終わった後は桃香様も御遣い様のように一生懸命傷ついた人たちの為に治療をされていました。

その後、桃香様の「皆が笑ってすごせる世の中にしたい」という理想を聞いて、私はこの方の為に学んだ事を生かしたいと思いました。

でも現実は力とも言えないほどの小さな力しかなくて、私は力を持つ方法を必死に考えました。

思い返せば姑息な方法ばかりです、桃香様は民を護れるのなら独立しなくても満足されてたと思います。

ですが私達は満足できなかった、桃香様に王となって欲しいとしか考えられなくて、桃香様が王になる事を求めていない事を認めたくなくて、全てを桃香様の為と偽り続けました。

桃香様も変わりました、明るく優しいお心は同じですが、理想を叶える為には自分は何もしない方がいいと思われてしまったのです。

だから学ぼうとしない、知ろうとしない、行動しようとしないと他力本願な今のお姿になってしまいました。

そして劉備軍にとってはその方が良かった、歪んでいるけど安定した形だった。

私達は桃香様を利用していたのです。

「ねえ、朱里ちゃん」

「はわわ、な、なんでしゅか、桃香しゃま」

思考に没頭していたので吃驚してかみまくりましゅた。

「私、何か分かった気がするの」

「桃香様!」

 

眠れない。

宰相を部屋にお送りし、退出しようとしたら呼び止められました。

「凪、すまないが今夜は一緒にいてくれないか?」

私は脳が沸騰しそうになりながら辛うじて頷いた。

宰相と共に寝床に入り、会話も無く時が過ぎる。

私は何も考えられず、しばらくの間、固まっていた。

少し落ち着いてきたので宰相の方に目をむけると、こちらに向かって腕が伸びてきていた。

瞬く間に宰相に抱き締められた。

今度こそ脳が沸騰したのか、心が真っ白になり心臓が破裂しそうになる。

宰相の手が私のお尻に触れ、私は身を強張らせる。

だがそのまま何も起こらず、瞑っていた目を開けると宰相は眠られていた。

お疲れなのだな。

お顔を眺めていると宰相の表情が苦しそうになる。

はっきりとは聞こえなかったが、唇の動きでわかった。

「みんな、すまない」と。

私は動ける範囲で腕を伸ばし、宰相を抱き締め返す。

そんな貴方だから、私達は、兵達は付いていくのだと伝える為に。

伝わったのだろうか、宰相の表情が和らいでいく。

「お慕いしてます」

私は宰相の唇に自分の唇を重ねる。

 

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あとがき

小次郎です、作品を読んで頂きありがとうございます。

桜が咲いてきました、私は仕事の花も咲いて凄く忙しいですが(給料変わらない)、皆様はいかがでしょうか。

私は話を書くとき基本イメージで書いてるのですが、キャラが勝手に動き出す事が多々有り、帳尻合わせに四苦八苦してます。

そもそも桃香と愛紗を離す気なんかありませんでした。

全体像はおおまか出来ているのですが、ホントどうしよう。

以前も書きましたが私は皆大好きです、甘い話ですが可能な限り幸せになってほしいと思って書いてます。

でも多分今後も勝手に動き出すと確信があります。(特に猪と思い込み激しいのに該当する恋姫たち、不幸になっても知らんぞ)

それはそれで楽しんでる点もありますので、頑張って書こうと思ってます。

それではまた次回を読んでいただけたら嬉しいです。

説明
戦は正念場の虎牢関の防衛
各陣営の思惑が交差する
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コメント
…劉備軍って、劉備教狂信者の余り、却って劉備を傀儡化してるよな、とは思っていた。…でも、そんな実状に気付いていながら、そのままで在り続ける事を願っていた孔明って、物凄く性質が悪いんじゃないか?軍師は自らがその身で血潮を浴びる訳では無い、だからこそ悪辣だと、そう思ってしまった。(クラスター・ジャドウ)
だいたい同意見。そもそも民が劉備を支持したのも理想ではなく結果として得られる利益があるから。蜀√以外じゃ桃香と愛紗は最後までそれに気づかないんだろうな。(白黒)
結局、愛紗たちも利益のために動いてましたからね…朱里はそれに気付いたようですが、果たして愛紗が気付くのか。nakuさんの意見は極論かもしれませんが、結局、その行動に仁や義があると感じるのは他者だけ。人は正義を口にした瞬間から正義ではなくなる…ということでしょうね。(Jack Tlam)
ワンコかわいい、ワンコかわいい(一火)
自分から真名返上をしたのに愛紗はまだ劉備の真名呼んでるのか・・・・(真山 修史)
……確かに、華琳は太陽なのでしょうね。ただし、太陽とは天高くにあって初めて意味を為すものであって、地に降り立てば全てを焼き尽くす災厄でしかありませんが……(h995)
そうか、連合に負けたら一刀は殺されてしまうのか・・・やばいでですな!(nao)
凪「やっとチューできた・・・♪」←相手の同意無し。(kazo)
純朴なワンコでございました(黄昏☆ハリマエ)
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