しあわせを夢見て
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「――もう、司令官も好きなんだから……♪」

「何がよ、なにが……。お菓子の感想言っただけでその反応はおかしいでしょ?

 このえろっ子。……や、美味しいけど。うん」

 

 

 

――そう言いながら、『司令官』はまた一つ、クッキーを手に取る。

ちょっとだけビターめの、チョコチップクッキー。

 

 

「うー、出来が良すぎて近付ける気がしないわ…」

「弱音はダメよ、司令官?『これ』をちゃあんと出来るようにして、

 睦月ちゃんの所に持って行ってもらわなくちゃ……ね♪」

「うぅぅ……義妹が厳しいよぅ……睦月ぃ……」

 

 

ここは、リンガ泊地、鎮守府。

海より来る異形の存在、『深海棲艦』に対抗するべく作られた前線基地。

……けれど、今は。

間近に控えたとある『出来事』の事もあって、女の子たちのかしましい声があちこちで響く場所。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――Hmmm……これは由々しき事態デス……このままではNo goodデス……」

 

 

――とある日の、お昼時。

私は食堂で、お昼御飯のカレーライスを手に。今日は誰と食べようかしら、なんていう風に考えていた。

 

お昼の時間は、お話の時間。

席を並べて、今日あった事、昨日の事、いろんな事を楽しくお喋りする時間。

もちろん、戦闘の事も……女の子が気になる、お肌や服の事も、ね?

 

 

そうして、私が席を探している時。ふと、そんなことを呟いている金剛ちゃんの姿が目に入った。

……金剛ちゃん、なんだか変な顔してるわね。金剛ちゃんにしては、あんな表情は珍しい気がするかも。

と、そんな風にそう思って。

 

 

「こんにちは、金剛ちゃん。お昼、ご一緒してもいいかしら?」

「Oh,如月ネ?勿論No Problemネー!」

 

 

今日は、金剛ちゃんと一緒にお昼にすることにした。

 

 

 

 

 

 

 

「……それで、金剛ちゃん?さっきは何を悩んでたのかしら。

 考えすぎてストレスになると、お肌に悪いわよ?」

 

……食事が始まってから、しばらくは他愛のない話を彼女として。

カレーライスの量が残り少なくなった頃、私は金剛ちゃんにそう切り出した。

やっぱり、私は彼女のあの表情が気になったんだもの。

 

……すると。

金剛ちゃんは、見られていた、という感じの、ちょっとだけばつの悪そうな表情を浮かべた後。

少し考えてから、ゆっくり口を開いた。

 

「Hmmm……如月、実は私、今すごーく悩んでいるのデス……」

 

……やっぱり、珍しい、と思う。金剛ちゃんが、ここまで深く考え込んでいるのは。

普段の彼女は、明るくて、自信に溢れている人だから。

 

「御悩み事なら……私でいいなら、聞くわよ?勿論、恋の悩みでも大丈夫♪」

 

……とは言っても。『ここ』での恋の悩みとなれば、女性同士の恋、という話に十中八九なるのだけど。

だってこの鎮守府は、司令官まで含めて女の子しかいないんだもの。

 

私がそう言うと、金剛ちゃんは。

 

「如月に相談……Hm,成程、そういう事なら……如月に是非とも、相談したいことがあるのデス…!」

 

 

 

 

 

 

 

「――提督と!睦月が!結婚してからまだ一度も一緒にデートしていないのデス!

 これは……これは由々しき事態デース!」

 

 

 

 

 

 

……。

 

…………。

 

……………………ええと、ちょっと予想外の言葉だったわね。

 

 

 

「金剛ちゃん、司令官も睦月ちゃんも、お仕事が忙しいのよ……だから、それはちょっと仕方ないかなあ、って」

「No!Noデース!提督と睦月はこの間Weddingした新婚夫婦!つまり今が一番熱い時期なのデース!

 それなのに仕事で一緒にいる時間が少ないのはNo,Good!良くないデス!二人はもっと、夫婦の時間を大切にするべきネ!」

 

金剛ちゃんが声を張り上げ、叫ぶ。

……どうやら、彼女にとっては大事な事みたい。司令官と、睦月ちゃんの事。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

――2月14日、バレンタインデー。

私達の生活するここ、リンガ泊地の鎮守府で。一つ、大きな出来事があった。

……それは、私達を指揮する司令官と――睦月ちゃんの、結婚。

 

司令官は、女の子。

睦月ちゃんも女の子。だから、2人揃って純白のドレスを着て。

そうして、結婚式を挙げたのよね。

 

 

それから、しばらくの間。私達の間では、2人の結婚の事が話題になっていた。

結婚は、女の子の憧れ。その憧れの花嫁姿を間近で見たからか、

その後の鎮守府はちょっとふわふわした感じになっていて。

……バレンタインデーの前より、今の方がちょっと、空気が熱を帯びてる、かも?

 

 

雪の降る、長い冬を終えて。今はまだ、3月に入ったばかり。

司令官と睦月ちゃんが結婚して、大体2週間くらい。

けれど――

 

 

「提督も睦月も、どうしてあんなに働きっ放しでLoveを育む時間がないのに文句がないんデスかー!」

 

 

……そう。

司令官も睦月ちゃんも、今のところ、『2人揃っての休日』っていうものがないのよね。

 

 

かたや、鎮守府をあずかる最高責任者。

 

かたや、鎮守府のエースで参謀役。そして、司令官のお嫁さんで一番の理解者。

 

 

2人ともお仕事に、出撃にと忙しくって。なかなか、長い時間を二人きりで過ごす、というのは難しいみたい。

……ただ、それを金剛ちゃんが懸念してるっていうのは――ちょっと、意外かしら?

そう思いながら、金剛ちゃんの顔を見て。…………ああ、なるほど、と思い至る。

私は司令官達の近くにいる事が多いから、二人も結構満足してるのがわかってるけど。

ちょっと離れたところからだと、『足りてない』様に思えちゃうのね。

 

私の基準で考えたら駄目ね、と。そう思いながら。

私は、金剛ちゃんに聞いてみる。……そういう話なら、協力するのも悪くないかも、と。

……そう、思っていたら。

 

「……もう、そうだよね!提督も睦月ちゃんも、それじゃだめだよね!」

「二人とも、少しはお休みしてもいいと思うのですけど……」

 

と、横から声が割って入る。瑞鳳ちゃんと祥鳳ちゃんの姉妹だ。更に、

 

「金剛さんの気持ち、ちょっと分かる、かも……。『お嫁さん』って、女の子の憧れですから」

「あらあらぁ?羽黒ちゃんも、乙女ねえ♪……もしかして、ウェディングドレス着てみたい?」

「えっ……あの、その」

「ウェディングドレス……ですか。榛名は、白無垢の方が似合うかも。洋装は、あまり」

「榛名!?白無垢って誰と結婚するつもりネー!?」

「い、妹にいつの間にか恋で負けてた…っ!?どどどどうしましょうお姉さま!?」

「えっ……!?い、いえ!榛名は!まだ!まだですから!まだお嫁さんなんて早いです!」

「……ねえ響。暁が一人前のレディになって、一人前のお嫁さんになれる日は何時になるのかしら」

「暁、気にしないでいいよ。その日はちゃんと来るんだから。睦月も結婚しただろう?」

「響ちゃん、睦月ちゃんはちょっと特別だと思うのです……。司令官さんの一目惚れですし」

 

私と金剛ちゃんの話を聞いていたのか、みんながいつの間にか集まってきていた。

……みんな、睦月ちゃん達の事、気になっていたのね。妹としては、ちょっとうれしいかしら?

 

 

 

 

 

 

 

 

そうやって、私と金剛ちゃんの話し合いはいつの間にか大人数になっていって。

 

私達で、睦月ちゃん達にお休みを作ろう、という話になったの。

目安は――結婚式から一か月後の、ホワイトデー。

……結婚からの一か月記念日としては、ちょうどいいかしら♪

 

 

 

***

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***

 

 

 

「――と、いうことで。睦月ちゃんと司令官には、3月14日はお休みをしてもらいます♪」

「……ぉよ?」

「……はい?」

 

鎮守府、執務室。

みんなでまとめた「2人のお休み計画」を、私はお仕事中の二人に伝えに来た……のだけど。

あら、二人とも固まっちゃった。

 

……少し、間をおいて。司令官が口を開く。

その表情は、少し戸惑った感じで。

 

「えーと……私達の、お休み?」

「ええ、そうよ?」

 

いきなりの提案に、戸惑いを隠せない司令官。それに対して、私は落ち着いて答えた。

 

「……あー、いや。私、提督なんだけど。お休みしたら不味くない?指示とか艦隊運用とか」

「それに関しては、この私……如月が、司令官の代理を務めさせていただきますわ。

 勿論不勉強なのは十分承知です。なので事前に司令官の仕事をしっかり教えてもらってから、ね?

 それに、補助として瑞鳳ちゃん、金剛ちゃん、あと、他の子達にも手伝ってもらうつもりです」

「……もし、私がその話を断ったら?」

「その時は、みんなで一日ストライキの予定です。

 司令官がお仕事をしようとしても……『緊急時以外は』出撃も遠征も、な・し♪」

「私、今の状態でも結構満足なんだけど……」

「んもぅ、司令官じゃなくて、『みんな』がダメなの、よ?

 それに……『結構』っていうことは、司令官も不満、あるのよねぇ?睦月ちゃんと触れ足りない、って思ってない?」

「……うぐ」

 

ふふ、みんなと話し合って、結構きっちり詰めてきたもの。

さあて、司令官はどうするのかしら?

 

 

そして、睦月ちゃんは。

 

「そ、その……睦月と提督がデートって……で、でもお仕事あるんだよ、如月ちゃん!

 それに、睦月は他のみんなと同じように、時々お休み貰ってるし……」

 

そわそわ、そわそわと。ちょっと落ち着かない様子を見せながら、言葉を作る。

……もう、睦月ちゃんも真面目なんだから。

 

「ね、睦月ちゃん。司令官がお仕事忙しいから、『司令官と一緒のお休み』はなかったでしょう?

 今は司令官と睦月ちゃん……あと私も、で、一緒に過ごす時間は増えたけど。

 睦月ちゃんは、司令官のお嫁さんなんだもの。もうちょっと、一緒にいる時間が増えてもいいと思うわ?……それに」

「そ、それに?」

「最近の睦月ちゃんは『褒められるだけ』で満足、出来るのかしら♪」

「に、にゃ……っ」

 

あらら、睦月ちゃん顔真っ赤。

ふふ、睦月ちゃんの事はよーく分かるのよ?……さて、これで睦月ちゃんは大丈夫かしら、ね?

 

あとは、と。司令官の方へ、私は向き直る。睦月ちゃんの方へちらりと目線をうつして、どうかしら?と。

 

 

 

 

 

 

 

……司令官は、少しの間渋い顔をして。

そわそわとする睦月ちゃんの顔を見てから、

 

「…………あー、わかった!わかったわよ!睦月と一緒に休めばいいんでしょ!」

「ふふっ……♪了解して頂けて、嬉しいですわ♪」

 

はああ、と深い溜め息を吐いてから。

司令官は、了解してくれた。……ふふっ、大成功かしら♪

 

「い、いいの……提督?睦月と新婚さんデート……」

「もう、ここまでお膳立てされたら仕方ないじゃない……。私と睦月の事を思って、っていうのもあるし。

 ……ただ、条件は付けるからね!仕事を教えてて、如月が司令官代行をするのが難しそうならお休みは中止!

 あと、緊急の時はお休み中でも仕事に戻るからね!」

「ええ、勿論。それじゃ、みんなに伝えてくるわね?司令官と睦月ちゃんに了解してもらえた、って――」

 

そう言って、執務室を出ようとしたとき。

 

 

 

 

 

「あ、如月ちょっと待って」

 

 

 

 

 

司令官に、私に声を掛けてきた。……何かしら?

立ち止まり、振り返って。私は司令官の話を聞こうとする。

 

……けれど。

 

 

 

「ねえ、如月。その……うー……………………あ!そうだ!

 ねえ睦月、睦月がみんなに言ってきてくれないかな!

 その方が、みんなも私達がほんとに了解したって思ってくれるし、ね!!」

「おょ?うん、いいよ?」

 

……司令官は、そのまま話を続けず。どうしてか、睦月ちゃんに私の代わりの伝達を頼んでいた。

なんだか……不自然、よね?

 

司令官は、普段はいつも、すっぱりと物を言う方で。

こんなに、歯切れの悪さを見せる事はあまりない。あるとしたら、大体は――あ。

 

 

そう、考え込んでいた間に。ばたり、と執務室の扉が閉じ、睦月ちゃんの足音が遠ざかっていく。

これから、睦月ちゃんはみんなの所へ向かうのだろう。――そして、今は執務室のなかには、私と司令官の二人きり。

私の目の前にいる司令官は、少し目をそらしたりして、落ち着かない。……ふうん?

 

「御用かしら、司令官?御用なら、いつでも大丈夫ですわ。

 それとも、さっき言い淀んでいたこと――もしかして、睦月ちゃんの事、かしら?」

「う」

 

ふふ、と微笑みを浮かべて、私は推測を口にする。……どうやら、当たりみたい、かしら?

司令官は、睦月ちゃんの事となると、いつもこうなのよね。ちょっと臆病になっちゃう、というか。

司令官は、右手で頭を抱えながら、

 

「――あー、やっぱり如月にはわかっちゃうか。どうにも見抜かれちゃうんだよねー……」

「司令官、睦月ちゃんの事で悩んでる時はいつもそうなんですもの。

 ……もうちょっと、強気になってもいいと思うわ?」

「そう、なれたらいいんだけどねー……。いろいろ難しいのよ。

 ま、いいわ。それで如月、ちょっと相談なんだけどね――」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

「――お菓子の作り方、教えてくれないかなっ!お願い!」

 

 

 

***

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***

 

 

――お菓子の作り方、教えてくれないかなっ!お願い!

 

 

睦月ちゃんと司令官に、お休みの話をした、あの日。

司令官は、まじめな顔で……そう、私に相談してきた。話を聞いてみたら、

睦月ちゃんに、バレンタインと結婚のお返しをしたくてお菓子を作りたい、という事だった……のだけど。

 

今の司令官がどれくらいの腕なのか、見せてもらってもいいかしら?

って言って、翌日に執務室の準備室に備え付けてある簡易調理場で、お菓子を作ってもらったんだけど。

 

 

――ど、努力はしてるのよ、努力は。うん。

  美味しくならなかったけど。……というか、美味しくないよね、私のお菓子。

 

 

入れたら、きっともっと美味しくなるはずだ、って。

そう思っていろんなものを入れて、甘味と酸味のバランスが取れなくなったケーキ、とか。

隠し味のつもりが逆効果になっちゃった、なんだか味に違和感のあるクッキーとか。

 

 

司令官、ふつうのお料理は作れるから、惜しいところまではいってるんだけど……。

んもう、張り切り過ぎて失敗する女の子のいい例じゃない。慣れてないものなのに、凝ろうとする、なんて。

……いえ、ふつうのお料理が作れるから、なのかしら?

 

 

そんな風にして。

私は司令官に、お仕事を教えてもらって。

司令官は私に、お菓子作りのやり方を教えてもらう、っていうことになったの。

……ただし、睦月ちゃんには内緒で。ホワイトデーまでに腕を上げて、渡したいんですって。

 

 

そうして、私のお勉強と、司令官のお菓子作りの特訓が続いて。

今に至る、のよね?

 

 

 

 

 

 

 

 

「――ん、ご馳走様。やっぱり美味しい。如月は料理もお菓子作りも上手で、羨ましいよね……。

 服も化粧もしっかりしてるし、私よりずっと女の子らしいや」

 

そう言いながら。

司令官は、私が『お手本』として作ってきたチョコチップクッキーの、最後の一枚を食べ終わる。

クッキーを美味しいって、そう言ってもらえて。少しだけ、嬉しくなる。

甘いだけじゃなくて、ちょっとだけビターな……司令官好みの味。そうした甲斐はあったかしら、って。ふふっ♪

 

……あら、いけない。もっと厳しく司令官に教えなくちゃ。喜ぶのはいいけど、それを忘れちゃだめだもの。

そう思って、ちょっとだけ怒った顔を作ってみる。

 

「し・れ・い・か・ん?これを出来るようになってもらわなきゃ、ダメなのよ?」

「……はい。お菓子作りって意外と地味な作業なのよねー……。うー、もうちょっと派手にやりたい……」

「もう、まだ凝ろうとしてるわよ?お菓子作りは、まずレシピと手順を守ることから。

 自分流の『アレンジ』は、そ・の・あ・と。いい?」

「うぅ、やっぱり厳しいよー……。いつか如月を唸らせるようなの作ってやるー……」

 

その言葉に。私はふふ、と笑って。

 

「あらあら、司令官に嬉しいこと言われちゃった…♪

 でも、これはあくまで睦月ちゃんの為の物なんだから、ね?――睦月ちゃんが一番よ?」

 

 

 

 

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――そして、ホワイトデー当日。

 

 

「それじゃ行ってくるね、如月ちゃん!」

「いい?危なかったら府内全域で緊急放送流すのよ?いいわね?」

「はいはい。司令官は心配性なんだから……何かあった時はちゃぁんと頼るから、安心して?」

 

 

 

「「――行ってきます!」」

 

 

 

行ってらっしゃい、と。鎮守府の本部施設の玄関から、普段とは違う、私服の装いの二人を見送る。

そして、二人がだいぶ離れたことを確認してから、踵を返して、建物へと向かう。

 

これから、睦月ちゃん達はどんなデートをするのかしら、ね?

この鎮守府には、司令官が私達のために軍部に掛け合って作ってくれた広場や、

アクセサリショップ、ブティック、他にもいろんなお店があるけど……そこに行くのかしら?

それとも全く別の場所で、二人きりで過ごすのかしら。

 

 

なんて、歩きながら考えていたら。

 

「如月ー、早くするネ!」

「まずは今日の出撃についての会議、しなきゃ!ほら、如月ちゃん急いで!」

 

建物の傍で待っていた金剛ちゃんと瑞鳳ちゃんが、私に声を掛けてくる。

……ええ、そう。今日の私は、司令官代行、ですものね?みんなを待たせちゃいけないもの。

 

それじゃあ……二人の休日のための、大切なお仕事。始めましょう♪

 

 

 

 

***

 

 

 

 

――会議を終えて。みんなが出撃していって。

少しだけ、鎮守府が静かになる。

 

そんな中、私は金剛ちゃんと瑞鳳ちゃん……それに、弥生ちゃんと卯月ちゃんに手伝ってもらって、仕事をする。

仕事の中身は、探索を終えた海域の最近の状況の報告を見たり、この後の遠征の計画を立てたり。

 

そんな、お仕事の中。

 

 

「提督と睦月さん、ブティックにいらっしゃってましたわよ?お二人とも楽しそうでしたわ。

 でも、提督はちょっとエスコートが甘いところがあると思いますの。もっとこう――」

「くーまーのん?そんなこと言って、あんな風にイチャイチャしてる二人が羨ましいだけなんでしょ?」

「な――」

「ほれほれ、もっと素直になりなよー?好きな人とイチャイチャ、したいんでしょー?

 ……ま、好きな人が出来るまではあたしが代わりに付き合ってあげるから、さ!」

「鈴谷は……調子に、乗りすぎですわ。……でも、その提案。乗ってあげても宜しくてよ?」

「お、意外ぃ」

 

 

「アクセサリ屋さんに、提督と睦月ちゃん、来てたわよ?」

「二人とも、真剣な表情でじっとアクセサリを見てて……いいですよね、きっとお互いへのプレゼントですよ!」

「あら、……五月雨ちゃんも、もしかしてアクセサリ欲しい?」

「え!?いえ、私は、ちょっとだけ羨ましいなって思って……もう、夕張さんてば!」

 

 

なんていう風に、今日はお休みの子達が睦月ちゃん達の様子を話しに来てくれたり。

それにしても、睦月ちゃん達、いろんなところを回ってるのね?楽しんでくれてると、嬉しいわ。

……あら?そういえば、そのお店。

 

 

――もう、女の子ばっかりなんだからその辺配慮してよ!戦いだけしてろとか馬鹿じゃないの?

  具体的には服屋とか!化粧品とか小物とか!あと本とか!談話室とか!?

  戦果きっちり挙げてるよね?なら、それくらいはしてくれてもいいんじゃない?

 

 

そんなふうに言って、司令官は上層部に掛け合って。

私達のために、鎮守府に少しずつ手を入れていってくれたものなのよね。

……でも、私達じゃなくて自分が行くことになるとは、思ってなかったんじゃないかしら、ね♪

 

 

 

 

***

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***

 

 

 

――そして、仕事をしながら時間は流れていって。

 

 

 

 

 

執務室の窓から、茜色の光のが差し込む。――もう、夕方。

金剛ちゃん達には休憩に行ってもらって……今は、執務室で私一人で仕事をしていた。

 

「……ふぅ。司令官のお仕事って、大変なのね」

 

溜め息を、一つ。一日中お仕事をしている、というのは思ったより大変ね……。

と、思ったとき。その私の言葉に応える様に、執務室の扉が開き――

 

 

 

「――調子はどうかな、如月」

 

 

「思ったより大変、かしら。……司令官と睦月ちゃんは、いつもこんな事をしてるのね。

 それで……ご用事は何かしら、響ちゃん?」

 

 

きぃ、と開いた扉の向こう。そこから現れたのは……響ちゃんだった。

執務室に入ってきた響ちゃんの銀の髪に、茜が射しきらきらと光る。彼女は、その陽の当たる部分を軽く撫でながら。

 

「なに、司令官がやっと休みを取ってくれたのが嬉しくてね。それを話しに来たという訳さ。

 彼女はいつも、頑張っているから」

 

ふ、と響ちゃんが少しだけ笑う。……少しだけ、遠い目で。

その言葉に、他にも話したい事がある――と、そう察して。相槌を打つように、私も話を続ける。

 

「……ええ、本当に。今まで全然休んだことがないんですもの。

 ちょっとくらいは私達に任せてくれてもいいのに……」

「任せられない……いや、任せたくないんだよ、司令官は。

 彼女は、ただ必死に自分の力で皆を守ろうと――自分が、守るんだと。そう思っているから」

 

あの時みたいに、ね――と。響ちゃんは、そう言った。

 

 

 

 

 

 

――あの時。

 

南西諸島海域の、未探索の領域に進んで。

私達と……そして、いつもの様に一緒に来て指揮をとっていた司令官は、深海棲艦に襲われ、危機に陥った。

 

私達の持つ弾薬は残り少なく、受けたダメージも大きい。

それに対して、向こう――重巡級の深海棲艦は、ほぼ無傷で。絶体絶命の状況だった。

 

 

……そんな時。

 

 

 

 

――ここは、私が足止めする。……陸仕込みの技術じゃ、さすがに水上戦闘には向かないけど。

  勝つのは無理でも、囮くらいは出来るでしょ。だから、みんなは鎮守府まで戻って。

 

 

 

 

司令官は、そう言って。

足に履いた、私達についてくる為の疑似艤装を唸らせ――私達と、重巡級の間に立った。

手には、私達の様な砲――じゃなくて、長い棒……棍や、槍のようなものを持って。

 

 

私は、司令官を止めようとした。

……戦うのは、私達の役目で。それなのに、司令官が私達のために戦うなんて――って。

そう言おうとしたら――。

 

 

 

 

――わかった。睦月達は、撤退すればいい……ん、だよね。

  みんなは、睦月が守る、から。だから、無理しないで……っ、ねっ。

 

 

 

 

私の言葉を、遮って。

睦月ちゃんが、司令官の言葉に頷いた。……震えて、今にも泣きそうな声で。

 

意外だ、と、その時は思ったのよね。

だって、睦月ちゃんと司令官はすごく仲が良くて。こんな時に、離れようとするなんて思わなかったから。

 

 

 

 

――で、でも!絶対!絶対だよ!絶対、帰ってきてね!

  ぷ、プロポーズ……っ、睦月、まだお返事してないんだから……っ!

 

 

 

 

……震えながら言った、睦月ちゃんのその言葉に。司令官は、重巡級を睨んだまま。

 

 

 

 

――当たり前、でしょ!まったく、睦月は心配性なんだから!

  『好きな子を死んで守る』、なんて冗談じゃないもの!私にはかわいい睦月がいるんだから!

 

 

 

 

微かに笑って、そう答えた。

そして、司令官は重巡級に向かって水上機動用の疑似艤装で駆け――、

 

 

――司令官一人じゃ、帰ってこれるかどうかは分からないからね。私も行くよ。

 

 

そう言って、響ちゃんが司令官に着いて行き。

私達は、司令官達を信じて……鎮守府へと、撤退した――。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

……そして、そのあと。

私達は――私達も、司令官達も。鎮守府に帰り着く事が出来たのよね。

みんな、少なからず傷は負っていたけれど……けれど、誰も失わなくて済んだ。

 

「殿を務める、というのも、皆を守れるなら悪くない――と。そう言ったら、司令官に怒られたんだ、あの時は。

 何言ってるの、あんたも帰るんだから――とね」

「ええ、響ちゃんはそう言ってたわね。懐かしいわ……」

 

響ちゃんの言葉に、私はあの時の「後」の事を思い出す。……あの時、響ちゃんが司令官と一緒に帰ってきたとき。

それまで、司令官のいない鎮守府で気を張っていた睦月ちゃんは、泣き出しちゃったのよね。

直前まで……司令官が帰って来るまで、睦月がここを守らなくちゃ――なんて、言ってたのに。

 

 

 

 

 

……そんな風に、昔の事を思い出していたら。

 

「ねえ、如月。私達の司令官は、昔に比べてずっと頼もしくなった……と、そう思うんだ、私は。

 みんなを守る、というその言葉も、昔よりもずっと力強く聞こえる。だけどね」

 

そこで、一旦言葉を切って。響ちゃんは、真っ直ぐ私の方を向く。

 

「……司令官は、もう少し私達を頼ってくれてもいいんだ。『私達みんなで守ればいい』と、

 司令官はそう言ってくれるけど……やっぱりまだ、睦月以外にはすべてを預けてはくれないんだ。

 だから、如月――」

 

 

 

「――私達も強くなっているんだと、今日の『休日』で司令官が認めてくれたら嬉しい。そんな風に、思っているんだ」

 

 

 

ふ、と笑った後。

恥ずかしい事を言ってしまったな……と、言って。響ちゃんは、目深に帽子を被り、つばを下げる。

 

鎮守府に、人が増えてから。司令官が前線へ出る事は少なくなった。

私達だけだったころとは違って、今は沢山の子達がいる。

だから、司令官はみんなを守るために……そして、みんなを不自由なく生活できるようにするために。

複数艦隊での遠征での資源確保や、武装開発の強化とかの、後方支援も多く行うようになった。

 

……けれど。

それでも司令官は、新しい海域の探索を行うときは、一緒に来てくれるのよね。

その場所を知らなきゃ、安全に往く方法を確保してからじゃなきゃ、

私はみんなを安心して送り出せないから……って、そう言って。

 

 

……顔を隠した響ちゃんに、

 

「笑わないから、大丈夫よ?私だって、そう思っているもの」

 

そう、私は返す。……本当に、司令官はもう少し位、私達に責任を預けてくれてもいいのに、ね?

私の言葉を聞いてから、響ちゃんは帽子のつばから手を離し、再び被り直す。

 

 

「Спасибо.そう言われて、悪い気はしないな。……ああ、そういえば」

 

帽子を目深に被ろうとして、私から離した視線。

それを再び私に合わせてから――響ちゃんは、言った。

 

「睦月や司令官だけじゃなくて……如月も、あの頃くらいから少し変わった気がするよ。

 司令官を誘惑するような言動は変わっていないけれど――こう。そうだね。

 張り詰めた様な感じが、なくなったような気がするね」

「あら、響ちゃんにそう言われるとは思ってなかったかしら?……でも、そうね――」

 

唇に、指を当てて。

私は内緒話をするように――小さな声で、響ちゃんに答える。

 

 

 

「――どんな時も、相手の事を大切に思っていて。みんなも大切にしてくれて。

 そんな、格好良くて可愛い、ずっとそばに居たいって思える素敵な人を……2人も見つけちゃったから、かしら♪」

 

 

そばに居るために――じゃ、なくて。そばに、居たいから。

あの出来事の後、私はそう思えるようになった……のかも、しれないわね。

 

 

睦月ちゃんと司令官に抱いている、私のこの気持ちは。

もしかしたら、恋心の様なものなのかも、ね?

 

 

***

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***

 

――響ちゃんが帰って。

それから、休憩を終えて帰ってきた金剛ちゃん達とお仕事をして――お仕事が、終わって。

 

 

「睦月ちゃん達は、素敵なデート、出来たのかしらね?」

 

 

……そう、私は一人きりの執務室でつぶやく。もう日は沈んで、窓の外には星が輝いていた。

今日の分のお仕事は、もう終わり。出撃や遠征に行ったみんなも帰ってきて、鎮守府は朝と同じ賑わいを取り戻していた。

金剛ちゃん達が、お仕事が終わって帰った今――あとは、睦月ちゃんと司令官を待つだけ。

 

睦月ちゃんと司令官は、今日はどんなデートをしたのか。

それを聞くのが楽しみで……そして、それを嬉しそうに話すだろう二人の顔を見るのも、楽しみ。

 

……と、そんなことを思っていたら。

 

「ただいまなのです、如月ちゃん!」

「ただいま、如月。……緊急事態はなかったみたいね?ふふ、ありがと」

 

きぃ、と執務室の扉を開けて……睦月ちゃん達が帰ってきた。

私の予想通りの、嬉しそうな顔で……ふふっ♪

 

「ええ、勿論。睦月ちゃん達のデートに、水を差すわけにはいかないもの。

 みんな、頑張ってくれたから。後でみんなにも、そう言ってくれると嬉しいわ」

 

……と、そこまで言って。

椅子から立ち上がって、司令官に近づいて。私は小さな声で、囁くように聞く。

 

「――ね、司令官。ホワイトデーの『お返し』は、上手くいったかしら?」

「ええ、大丈夫だったわよ。如月のおかげで、ね」

 

司令官は、そう私の言葉に応えて。……そして、睦月ちゃんの方をちらりと見て。

睦月ちゃんが、頷いた……ように、見えた。そして、

 

 

 

「――ふっふっふ……実は睦月、如月ちゃんにご褒美があるのです」

「今日一日、頑張ってくれた可愛い義妹に、ね。さ、目閉じて」

 

 

ご褒美、と。睦月ちゃん達は、そう言った。

……うーん、とちょっとだけ悩む。だって私は睦月ちゃん達のためにお仕事をしてたのに、それでご褒美、っていうのは。

でも……睦月ちゃん達が何をご褒美にしてくれたのかは、ちょっと気になる……かしら。

 

 

「あら。ね、司令官……私に目を閉じさせて、どうするつもりなのかしら♪」

「はいはい、いやらしい事なんてしないから安心なさい。……睦月ってお嫁さんがいるのにそんな事する訳ないでしょ」

「はぁい♪」

 

目を閉じて、その『ご褒美』を待つ。

何をしてくれるのか、少しだけ期待しながら。

 

 

「――ん、っ」

 

 

――ちゃり、と。首元に冷たい感触がふれて、

ふいに触れたその冷たさに、声が漏れる。

 

 

「はい、できた」

 

 

司令官のその声に。

目をゆっくりと開いて、『それ』を私は確かめる。

私の首に付けられたものがなんなのか、見やすいように手に取って確かめようと、して。

 

 

 

――私の目に入った『それ』は。

銀色の、三日月の飾りを付けた――ペンダント、だった。

 

 

 

 

「――え」

 

……予想とも、期待とも、違っていた。

『ご褒美』だって、そう言うから。もっと、何でもない、ありふれたものだと、思ってた。

でも。でも、これは――。

 

一目見て、装飾の精緻さがわかる。これは、高価な細工物……よね。ありふれたものなんかじゃなくて。

睦月ちゃんならともかく、『私』がこんなものは受け取れない、と言いそうになって……ぐっと、抑える。

これは、司令官と睦月ちゃんがくれたもの。だったら、そんな風には言えないもの。

 

 

「……あら、司令官。こんな高価そうなもの、私には勿体ないわよ?

 こういうのは、お嫁さんに送るべきものだと思うの。……ふふ、もしかしてプロポーズかしら?」

 

睦月ちゃんがいるのだから、それはないわよね、と思いながらそう言うと。

――帰ってきたのは、予想外の答え、だった。

 

 

「……ま、そうね。似たようなもの、かな」

「――」

 

言葉に詰まる。

そんな私を見て、司令官は一拍おいて。

 

 

「今日はありがとね、如月。おかげで、睦月と思いっきり過ごせちゃった。

 ……ただ私達って、今までこんなに長い時間を取れたことがなかったから……あはは、

 途中で何をしていいか分からなくなっちゃって」

「それで睦月達、何をしようか、って一生懸命考えて。2人同時に思い付いたのが、如月ちゃんの事だったのです」

「如月も、ずっと近くにいたからかしらね?」

 

司令官の言葉に、睦月ちゃんが続く。えへへ、とちょっと恥ずかしそうに笑いながら。

折角、二人でデートさせてあげたのに……という目で見ると、司令官はちょっとだけばつの悪そうな顔をした。

 

「仕方ないじゃない、もー。……ま、そんな次第でね。如月の事を思いついてから、私達いろいろ考えたのよ。

 うん、さすがに如月が出てくるようじゃ新婚っぽいデートとはいえそうにない、って。

 それで、いろいろ。今から何をしたいとか、戦いが終わってから何をしたいか、とかいろいろ話し合って。

 ……そうしたら、だいたい如月が出てくるんだもの、私達」

「二人でこうしたいああしたい、っていうのはあったけど、如月ちゃんも一緒に、っていうのも多かったんだよ?」

「……もう、2人のデートなのに。ダメじゃない。睦月ちゃんも、司令官も。

 今度デートするときは、ちゃんと『2人で』楽しく過ごしてもらわなくちゃ」

「あはは、ごめんごめん…。ま、今回は結婚後初めてだし、ね?」

 

嬉しさと同時に、デートをセッティングしてあげたのに、という不満もちょっと混ざる。

 

「それで、ね。如月。睦月といろいろ話してて、思ったのよ。

 2人で過ごすのもいいけど、みんながいても私達楽しいんじゃないか、って。

 それで、デート中、睦月と二人でいろいろ話してて――」

 

 

 

 

「遠い話になるけど……いつか全部が終わって、海が静かになったら。

 ……私達みんなで、『家族』でどこかで暮らすのも、悪くないかなって。そういう話になってね」

 

 

 

……とくん、と。

胸が、少し高鳴った気が、する。

 

「……『家族』って」

 

『家族』って、誰の事を呼んでいるのだろう。

……と、そう聞こうとする、前に。

 

「『義妹』なんだから、家族でしょ?私の家族。そうじゃない、なんていわせないからね、如月」

 如月も、弥生も、卯月も、皐月も……文月とか、他の妹達も。みんな私達の家族。……だから、『これ』は」

 

そう言って、司令官と睦月ちゃんは目配せをして――二人とも、胸元に手を入れて。

 

 

「私達の家族のしるし、ってことで。――まあ、三日月で揃えはしたけど弥生や文月達と違うのは勘弁ね?」

「ふっふっふ……でも、司令官と睦月、如月ちゃんで、3人でお揃いなんだよ?」

 

 

胸元から取り出されたのは――銀の、三日月。

司令官と睦月ちゃんは、私の首に掛けられたものと同じものを着けていた。

 

 

……お揃いの。私達の、『家族』のしるし。

そう聞いて、とくん、と。再び高鳴る。

 

 

「――家族」

 

 

家族。……私が、家族。司令官の……家族。

私は、睦月ちゃんと違って司令官と結婚してるわけじゃないのに……。

 

私を、家族って……思って、くれてるの?

 

 

 

 

「……だったら、」

 

胸に溢れる、嬉しさを隠しきれないで。笑顔になる表情を、冗談を言って誤魔化す。

 

「ね、だったら……司令官?鎮守府のみんなを『家族』にしちゃっても、いいんじゃないかしら?」

 

私がそういうと、司令官はぷ、と噴出して、

 

「うーん……さすがにそこまで大所帯にする気はないかなー、あはは。

 ま、必要ならやるけどね。それも賑やかそうだし。

 ……睦月達が『私達だけじゃ寂しいよ!』っていうならそれも、ね!」

 

 

それも悪くないわね、と。司令官は、そう言った。

……そして、もう一度実感する。

 

 

 

 

 

 

 

 

――私は。2人に、『家族』だって、思ってもらえてるんだ、って。

 

 

***

-7ページ-

***

 

 

執務室に、今日の確認のため――という名目で、睦月ちゃんと司令官を二人っきりにしてあげてから。

私は、一足先に部屋に戻って来た。

 

 

 

――いつか全部が終わって、海が静かになったら。

  ……私達みんなで、『家族』でどこかで暮らすのも、悪くないかなって。

 

 

ベッドの上に座りながら――思い出すのは、さっきの司令官の言葉。

ネックレスの三日月の飾りを、胸元でぎゅっと握りこむようにして胸に当て、

……とくん、とくん、と。いつもより少しだけ早い心臓の鼓動が、手に伝わってきた。

 

「……っ」

 

 

――義妹なんだから、家族でしょ?私の家族。

  そうじゃない、なんていわせないからね、如月。

 

家族っていう、その言葉を思い出すたび――また少し、鼓動が早くなる。

お嫁さんの睦月ちゃんだけじゃなくて、私も。

これからも、一緒にいていいって……一緒にいてほしいって、そういわれたようなものだから。

 

「家族、だなんて……もう、どきどきしちゃうじゃない」

 

……でも、この高鳴りは、気持ちいい。

睦月ちゃんと司令官の傍で、私も。……私達も、一緒にいる。そんな素敵な未来を、思う。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

とくん、とくん、と胸が高鳴る。

大好きな人たちと一緒の、あたたかく幸せな――いつかの未来を、夢見て。

 

 

説明
如月SS。
……睦月と提督が結婚して、少しの時間が経って。――鎮守府は、ホワイトデーを迎えようとしていた。
結婚後も相変わらず仕事に勤しむ睦月達二人に、如月達は「お休み」をあげようと計画を立てる
――そんなお話。睦月結婚もの第3話。

***

ホワイトデーものなので、本当はもっと早くに投稿する予定だったのですけど遅くなってしまいましたうぐぐ。
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