真恋姫†夢想 弓史に一生 第九章 第十九話
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〜聖side〜

 

 

またなのか…。

 

また俺の所為で傷つく人が出ようとしているのか…。

 

そうならないように努めようと、三姉妹の時に誓ったばかりじゃないか…。

 

なのに……また……。

 

 

「ひ〜ちゃん!! ひ〜ちゃんってば!!!!」

 

「……はっ!? 悪い、呼んだか雅…。」

 

「もぉ〜…いくら通り抜けて帰るだけって言ったって、敵は襲っても来るし、万が一のことがあったらいけないんだからちゃんと集中してくれなくちゃダメじゃない!!」

 

「……そうだな…。まだ終わってないもんな…。」

 

 

袁紹の所に最後通告を伝えた俺たちは、敵本陣から元来た道を戻っている。

 

その道中、連絡弓を空に向けて打ち上げたところで、見上げた空の青さに、前の三姉妹の時に起こったことがフラッシュバックしてさっきのようなことを思い出してしまった。

 

 

前回の時と同様、今回も関与しているという于吉…。

 

やつの目的は一体なんなのか……まるっきり想像がつかない……。

 

袁紹と接触し、唆して董卓相手に戦を起こさせるのが狙いであったのだろうか…。

 

確かにそうすれば各諸侯の兵力を推し量ることも、董卓の兵数を減らすことも出来るが…それが狙いだとは到底思えない。

 

やつはもっと根底に何かの陰謀を持っていて、それの実行のために袁紹を駒のように使ったはずだ。

 

董卓を追い詰めたかったというのか??

 

いや、違う。その先に目的があるとすれば…。

 

洛陽から董卓を排除することがやつにとって都合のいい状態であるということだ。

 

ならば、やつの目的は…。

 

 

「ひ〜ちゃん、危ない!!!!!!」

 

「っ!!??」

 

 

雅の声に咄嗟に身を左側に倒すが、

 

 

「ぐっ!!?」

 

「ひ〜ちゃん!!!!!?????」

 

 

反応が遅かったこともあり右肩の付け根に矢を受けてしまう。

 

幸い傷は深くはなく出血もひどくはない。命に別状はないが、右腕を振るたびに激痛が走る。

 

まるで戦場で集中力を欠いていた自分への天罰だと言わんばかりの仕打ちだな…。

 

 

「おんどれらは私のひ〜ちゃんになにしてくれとんじゃ〜〜!!!!!!!!」

 

「「「「「「うぎゃああああ!!!!!!!!!」」」」」」

 

 

雅の振るった一撃で、その場の袁紹軍の兵士が一人残らず吹き飛ぶ。

 

 

「ひ〜ちゃん!!!!!!!!!」

 

 

袁紹軍の兵士が全員戦闘不能になったのを確認した後、矢を受けて右肩を押さえるように倒れ込んだ俺のもとに、雅がものすごい速さで駆け寄ってきた。

 

その速さはウサイン・ボルトもびっくりの速さ…。

 

一瞬残像みたいなものが見えた気がしたが気のせいだったであろうか…。

 

 

「大丈夫!? きゃあ!!? 右肩から出血が!!!! 直ぐに止血しなきゃ!!! このリボンで腕を括って…次は…そうだ、消毒しなきゃ!!!! よし、ひ〜ちゃん服を脱いで!!!! 私が傷口を舐めて消毒するから!!!!!」

 

「待て!!!! それはいくらなんでもおかしいだろ!!!!」

 

「大丈夫……全部私に任せておけば大丈夫だから……はぁはぁ……。」

 

「完全に目が逝ってやがる……。」

 

「舐めるだけ……舐めるだけ……えへへ……。」

 

「いい加減に目を覚ませ!!!!!」

 

 

腰に履いていた磁刀の鞘で雅の頭を軽く小突く。

 

そんなに強くしたつもりはないが、打ちどころが悪かったのか雅は頭を抱え込むようにして痛がる。

 

 

「……痛い。 ひど〜い!!! ちょっとした冗談じゃん……。」

 

「お前の目が冗談って域を超えてたんだが………。」

 

「………元はといえば、ひ〜ちゃんが集中力を欠いていたのが原因じゃない……。」

 

「…………。」

 

 

そう言われてしまえば元も子もない。

 

この戦場で別のことに意識を取られ挙句怪我をしたのだから、悪いのは全て俺であって……それに雅は行き過ぎとは言え、俺の心配をしてくれたというのにそれを怒る権利が俺にあるはずがない……。

 

むしろ怒られるべきは俺の方ではないか……。

 

 

「………済まなかった……。」

 

「考えを巡らすのは良いけどさ、もう少し目の前のことも考えないと足元掬われちゃうよ??」

 

「足元掬われた結果が既にこれだもんな。」

 

「………何か不安なことでもあった??」

 

「少しな……。」

 

「それはこの戦のこと?? それとも別のこと??」

 

「別といえば別だし、この戦の事と言えばこの戦の事だ。」

 

「どうにか出来ない問題なの??」

 

「………今はまだやつの動きが読めないから何とも言えないな…。」

 

「やつって………三姉妹の事を幽閉していたっていう??」

 

 

そう言えば雅は直接やつに会ったこともなければ、名前も知らないはずだ。

 

今のうちに敵になるだろう相手の名前を覚えておいてもらった方がいい。

 

 

「あぁ。名前は于吉って言うんだが……。」

 

「っ!?」

 

「ん?? 知っているのか??」

 

「ううん………知らないよ………あははっ…。」

 

 

俺がその名前を口にすると、一瞬雅の体が強張ったように見えたが、次の瞬間には元通りに戻っていた。

 

本人も知らないと言っているし、まぁ本当に知らないのかもな……。

 

 

「まぁいい。今はまず虎牢関に戻ることを第一に考えないとな。」

 

「戻ったら、ひ〜ちゃんの怪我を直ぐに治療するから逃げちゃダメだよ。」

 

「はいはい。ちゃんと受けますよ…。その為にも、さっさとこの人垣を越えていきますか!!!」

 

 

片手にはなったが、それでも雑魚兵相手に遅れをとることはない。

 

それに雅も一緒なら後ろを安心して任せられるしな。

 

 

「行くぞ、雅!!!」

 

「…………。」

 

「どうした、雅??」

 

「えっ!? あっ……うん。よしっ!! 行っくぞ〜!!!!!」

 

 

いつもなら、俺の話を聞き逃すことのない雅にしては珍しいこともあるものだ。

 

まぁ、雅としても考えるべきことがあったんだろう。ならばそれを追求してもしょうがない。

 

何れ答えが出てから話を聞くことにしよう。

 

そう思って深くは追求しなかった聖であった。

 

 

実はこの時、雅は先ほどの名前の人物について考えていた。

 

 

「(于吉………。もう、介入してきたか……。今回の奴の目的が見えない以上、ひ〜ちゃんにこのことを話すのはまだ早いわね……。でも、早めに対応出来るように準備だけは怠らないようにしよう……。)」

 

 

前を行く自分の主の背中を見つめながら、そんなことを考えていた雅であった。

 

 

 

 

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「状況の報告を!!」

 

 

虎牢関に帰ってきた俺は、まずは自軍の状態を確認することにした。

 

 

「私達の軍は約15万人、敵軍は約35万人程まで減っています〜。」

 

「袁紹、袁術軍の両軍は半壊。残りの諸侯に関しては少しの被害が出ている程度のようなのです。」

 

「ウチらの方は各部隊に少しずつ被害が出とるな。」

 

「よし。報告ご苦労。作戦は順調だ!! 敵兵の数は我らの二倍近くまで減少した。このまま虎牢関で戦えばこの戦、勝つことも出来るだろう。だが、我々はその方法を取らないことを選んでいる。皆、これからは生き残ることを第一とせよ!!!!」

 

「「「「「「「応っ!!!!!!!」」」」」」」

 

「伝令!! 伝令!!!」

 

 

これからの作戦が決まり、篭城戦の準備を始めようとしたところで、伝令兵が玉座の間に飛び込んできた。

 

 

「どうした!?」

 

「はっ!! 賈駆様より伝言です。 洛陽にて、十常侍の一人、張譲が牢より脱走。行方をくらませております!! 願わくば、一人こちらに寄越して欲しいとのことです。」

 

 

伝令の話をまとめると、洛陽で既に捕らえていた十常侍の一人、張譲が脱走。

 

まだ見つかってないため、万一のことを考えた詠がこちらに将を一人寄越すように伝令を送ったというわけか。

 

 

「脱走に関して、原因がなにかは分かっているのか??」

 

「いえ!! はっきりとした理由は分かっておりません。ですが、噂では、宮廷に隠し扉があるようで、そこを通ったのではないかと言われております。」

 

「………そうか、分かった。こちらから至急将を一人送ろう。」

 

「はっ!!! では、私はこれで!!!」

 

 

さて、張譲が逃げたということ自体にはあまり心配をしていない。

 

奴一人が逃げたところでどこかに落ち延びることしか出来ないであろう。

 

問題はそこに于吉が関わっているかどうかである。

 

話を聞いた限りでは何者かの手助けで脱走したわけではなさそうだが………。

 

だが、脱走したあとで于吉が張譲と接触していると、張譲を唆し、何か行動を起こすことも考えられる。

 

最悪のことまで考えれば、張譲を煽ってこの状況に追い込んだ月を恨ませ、暗殺を企てることもあるかもしれない。

 

もしものことを考えれば、俺が行ったほうが安全だろう。

 

幸い、虎牢関を守るのに後はそれほど大変なことはなく、さらに撤退の方法も既に考えてあることを加味すれば俺がいなくても十分に皆がこなしてくれるはずだ。

 

 

「皆も聞いたとおり、洛陽で人手が必要になった。これについては俺が行こうと思う。」

 

「えっ!? ちょっと待てよ、聖。この場の指揮官のお前が行ったら俺らどうすればいいんだよ!!」

 

「落ち着け一刀。今から撤退の方法を教えておく。撤退の方法は水関と同じだ。二、三日篭城戦を続けた後、空城の計で時間を稼いで全軍撤退しろ。ただし、今度は本気で空城でいい。連合軍のやつらは一度あの空城の計を見ているから、門が開いていると言って無闇矢鱈に前進はしてこないだろう。きっと何日かかけて虎牢関の様子を探ってから動くはずだ。だからその間に皆は撤退し、手筈通りの進路で帰ってくれ。俺は洛陽に行って月と詠を連れて行く。」

 

「でも、お頭怪我してるじゃないか!! そんなんで行って大丈夫なのかよ!!」

 

「奏の言うとおり、俺は今怪我をしている。だからこそ前線で全力で戦えないからこそ、洛陽に行こうと思っている。大丈夫だ、流石に俺一人で行くことはしない。護衛として10騎ほど兵を付けていくつもりだ。」

 

 

ここまで俺が話すと、誰も俺の意見に文句を言うものはいない。

 

それだけ皆も分かっているのだ。

 

この虎牢関の戦いにおいて、これ以上聖の力を借りる必要はないであろうことに。

 

 

「誰も意見がないなら俺は直ぐにでもここを立つ。連絡は一日毎に伝令を送ってくれ。じゃあ、皆また後で会おう。」

 

 

そう言って玉座の間から走り出た俺は、厩に移動して陽華を、兵舎に移動してすぐに動ける兵10人を引き連れて洛陽へと向かうのであった。

 

 

 

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〜一刀side〜

 

 

聖が虎牢関から洛陽に向けて出発した日から三日経った。

 

相変わらず単調な攻めを繰り返してくる連合軍から今日も虎牢関を守りきり、日暮れを迎えている。

 

聖の言うとおり、あいつ無しでも作戦は順調に進んでいった。

 

このまま夜の内に俺たちは虎牢関より撤退し、翌朝連合軍は再び門の開いた虎牢関を目にするはずである。

 

そこで活きてくるのが前回の水関での空城の計。

 

あの残像が敵の頭の中に残っている以上、そう簡単に攻め込むことはできず、細作を放つなどして様子を窺うであろう。

 

そうすればこちらが逃げるだけの時間を稼ぐことが出来、さらに敵は肩透かしをくらった格好になるわけだ。

 

こちらの味がいいことは間違いない。

 

 

 

全くもって、聖は一体どれだけ先のことを考えながら、かつ人の考えそうなことの裏を読むことができるのだろうか。

 

自分が元いた時代で言うなら、聖は将棋の棋士のようである。

 

相手の指し手によってそこから何千通りもの手を読み、取捨選択し、最善手を指す。

 

こういう喩えをした後では、聖にとって戦場というのは将棋盤の上での駒の動かし合いをしているのと大差ないのかもしれない。

 

ただし、将棋と大きく違うとすればそれは実際に人が死ぬことであろうか……。

 

何かを犠牲にして相手の大将を討ち取ったところで、その犠牲にしたものはもう戻っては来ない。

 

そんな非常な手を多分聖は指さないであろうな…。

 

 

「一刀さん。そろそろ撤退の時間ですので、徳種隊三番隊をまとめてきてもらってもいいですか〜??」

 

「了解。聖の作戦はここまで順調だね。」

 

「はい〜。任されたものとして順調じゃないと困ります〜。」

 

「ははっ。本当にそうだね。じゃ、俺は行ってくるよ!!」

 

「はい〜。」

 

 

何気ない会話であったが、お互いに作戦が上手くいったことを確認し合った、そんな会話であった。

 

 

 

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翌日、俺たちは作戦通りに帰路についていた。

 

今いるのは虎牢関から20里程離れた場所。

 

このペースで進めば、連合軍が虎牢関に攻め込む時には、俺たちは安全な位置まで移動出来ているはずだ。

 

 

「いや〜。一時はどうなるかと思ったけど、なんとかなりそうでよかったよ。」

 

「当然なのです!!先生の作戦が上手くいかないなんてことはないのです!!」

 

「後は、聖様が無事にお二人を連れてきてくださるだけですね〜。」

 

 

 

そんな感じで会話をしていた、そんな時だった。

 

 

「伝令!!! 伝令!!!!」

 

 

虎牢関方面より、伝令が走ってくる。

 

 

「……来る…。」

 

「どうしたのです、恋殿。」

 

 

一早くその存在に気づいたのは恋であった。

 

 

そして次の瞬間には、伝令の報告でそこにいた皆が気づいた。

 

 

「敵が我が軍の後ろ10里程の位置まで追って来ています!!」

 

 

皆の顔に焦りが見える。

 

それもそうだろう。敵の動きとしては早すぎるのだ……。

 

 

「……しゃーない。ウチがここで敵を引き付ける。その内に皆は逃げるんや。」

 

「そんな、霞。引き付けると言ったって……。」

 

「大丈夫や。ウチの隊なら、ヤバくなったら速攻で離脱出来る。それに、誰かがここで時間を稼がな、全軍が逃げきれずに捕まってしまう。そんなんになるくらいなら、この方が良いやろ!!!」

 

 

霞の言葉に返す言葉がない。

 

確かにそれが最善だと分かってはいるが、それは霞を死地に送り出すも同然ではないか。

 

そんなこと……。

 

 

握る拳に力が入る。

 

 

「………分かった。ただし、聖の言ったことを忘れないように…。」

 

「分かっとる。ウチもまだ死にたくはないしな。」

 

「合流地点で待ってる。必ず来てくれよ!!!」

 

「任しとき!!! 張遼隊!!!! 全軍が逃げ切るまで時間を稼ぐで!!!!」

 

「「「「「「応っ!!!!」」」」」」

 

 

こうして霞と離れ離れになった徳種軍。

 

後の伝令で霞が曹操軍に捕らえられたと情報が入るのは、まだ先のことであった。

 

 

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弓史に一生 第九章 第十九話     忍び寄る足音  END

 

 

 

 

 

 

 

 

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後書きです。

 

第九章第十九話の投稿が終わりました。

 

今話よりPCを新しくしたため、誤変換が怖い所ですが…。

 

 

 

さて、愈々物語も反董卓連合戦の終わりに差し掛かっております。

 

洛陽に向かった聖。闇に消えた張譲。そして于吉と謎の金髪の思惑とは…。

 

次回をお楽しみに。

 

 

 

次話は二週間後を予定しております。

 

それでは、また次話でお会いしましょう!!

 

説明
どうも、作者のkikkomanです。

投稿が遅くなってしまって申し訳ありません。

日曜日に投稿するつもりが、気付けば日が変わって月曜日になっていました・・・。

また、文章を推敲する時間がなかったため、変な文章になっているところがあるかもしれませんし誤字があるかもしれませんが、そういうところは見つけ次第報告していただけるとありがたいです。
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コメント
>nakuさん  コメントありがとうございます。毎度のことながら手厳しいコメントですね。  何かを成すためにはそれにより傷つくことと傷つけてしまうことがあることを知って欲しくてこのように書いてます。実害無しの平和などただのまやかしですので・・・。(kikkoman)
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