漂う一家 |
漂う家族
目覚めると、星々の輝きが目に入った。暗い闇の中で輝く無数の星はとても美しく、アイは自分の部屋でその輝きを見ながら寝る事が大好きだった。壁の大部分が透明となっており、その向こうに、宝石をばら撒いたかのような星々が瞬いていた。広大な宇宙の中を飛び続ける小さな宇宙船。その一角にアイの部屋があった。
アイは寝袋から器用に這い出て、宙を泳いで部屋の灯りを付けた。部屋の中は無重力で、さっきまで自分が使っていた寝袋や、目覚まし時計が宙に浮いていた。時間を見ると、いつもよりも今日は早く起きた事が分かった。
アイは眠い目をこすりながら、泳いで出口へ向かって行ったが、外に出ると、宇宙船内に重力が発生し、アイは床に着地した。昔はマグネットの靴を履いていないと、顔を床にぶつけていたが、もうそんなことは殆どなくなっていた。
長い銀色の通路を進み、洗浄室と書かれた部屋に入って行った。正面が鏡張りとなっており、横になれないほど狭い小さな部屋だった。
「ふ、あああ……」
アイが部屋に入るなり大きな欠伸をすると、天井から水が口の中へ発射される。欠伸をしたままの体勢でうがいを始めた。そのまま前屈みになると、目の前の壁から洗面所が出てきたので、水をそこへと吐き出す。
今度は口を空けながら顔を右に向けると、壁からチューブが伸びてきて歯磨き粉を口の中へ流し込む。次に左を向くと歯ブラシが現れ、アイの口の中を磨いていく。一通り磨き終わった後、正面の洗面所で口をすすぎ、顔を洗った。
部屋を出る時に備え付けられたタオルを持って行き、顔を拭きながら近くの部屋へと向かった。その部屋には人が一人入れる大きさのカプセルが一番奥に備えられていた。
アイがその円筒状の機械に近付いてスイッチを押すと、空気の噴射音と共にカプセルが開いて行く。中には背の高い一体のロボットが横たわっていた。顔は水色の塗装が施された顔、目は半透明の樹脂に覆われている。
突然、ロボットの目が光り、ゆっくりとカプセルから出ると、足元を確かめるように数歩歩きだした。目は視覚センサとなっており、発した光線と電磁波で周囲の状況を認識するのだ。
「おはよう、ダディ」
ダディと呼ばれた人物は、不気味に黄色く光る眼をアイに向ける。
「おはようアイ! 今日も張り切って行こう!」
ロボットから発せられる快活な電子音声が部屋中に響いた。
?
アイの父親は星から星へと飛び回り、貨物を運搬する仕事をしている。一か所に留まる事がないため、宇宙船自体を家として家族と一緒にいられる様にしているのだ。
体を機械に改造する事が趣味な身体改造者で、頭部は既に脳を除き、完全に機械の顔になっている。アイの母親に出て行かれたのもそれが原因で、今ではアイと二人暮らしをしているのだ。当然、機械でできた頭は重くすぐにバランスを崩して転んだりするが、本人はいたく気に入っているようだ。
「次は両手を人工筋肉に改造して、今の百倍の筋力にしよう。そうすれば、宇宙船から貨物を楽に取り出しできるぞ」
それが今の口癖だが、そんなことしなくても運搬用の反重力装置で、数トンの荷物を運べるのだ。何かと理由を付けて体を改造しているが、そんな必要のない事をアイは最初から知っている。だが、言うだけ無駄なので、アイは聞いてないふりをしている。
「さて、私は顔を磨いてくるから、アイは先に行って朝食の準備をしてくれ」
そう言って父親はふらふらと部屋の外に出て行った。
アイは部屋を出ると銀色の廊下を父親とは反対方向へ進んで、調理室へと向かって行った。本来は栄養剤で食事を済ますのが一般的だが、出て行った母親は料理を作る事が趣味だったので、こうした調理室が宇宙船の中にあるのだ。そのための、食材もちゃんと用意されている。星に着いた時、必要な雑貨の他に調理用の食材も買い込んでおくのだが、星によって食材が異なるので、そのつど何を作るか考えなければならなかった。
今日は根っこがオレンジ色をした不思議な植物と、何層にも葉が集まった球状の植物を使って温かいスープを作った。球状の植物は葉を剥がすと目を刺激する成分を出した為、思ったより時間がかかってしまった。そのスープをパックにいれ、穀物から作られた『パン』という食べ物を食堂へと運んだ。
食堂も母親の要望で作られたのだが、テーブルと椅子の他に食べ物にかける調味料や、冷凍保存する為の冷蔵庫などが備え付けられており、小さい割にはごちゃごちゃとした部屋だった。
既に父親は席についていた為、スープを渡してトースターにパンを二枚突っ込んだ後、アイも席に着いた。
「さっき洗浄室で顔を洗ったんだけど、最初にうがい用の水が降ってくる事を忘れていたよ。それで、背中に冷たい水がかかって、思わず驚いてしまったよ」
アイの父親が話していると、トースターから焼けたパンが射出される。父親が両手を伸ばしてキャッチすると一枚アイの方へ軽くパスする。
「アイ、食事の時くらい重力装置をつけないかな。このままじゃあ落ち着かないよ」
椅子に座ったまま逆さまになっている父親がそんな事を言った。部屋の中は家具が殆どないアイの部屋と違って、トースターやテーブル、調味料の入った瓶などがあり、それらの備品が宙を漂っていた。
「だめよ。この前の仕事で、燃料代が思ったよりもかかっちゃったじゃない。節約する為にも、あまり機械を作動したりしちゃいけないの」
パックに入ったスープを飲みながらアイは答えた。父親はしょんぼりしながらパンを口に入れる。口に入れた物を口中でミキサーし、そのまま胃へ流し込まれる仕組みとなっている。
味は分からないらしいが、毒物なんかが入ると、それを察知して吐き出す仕組みになっているらしい。それで、母親の料理を一度吐き出し、大喧嘩になった事をアイは思い出した。
「アシモフ、冷蔵庫から固形栄養剤を取って」
様々な物が浮いてる部屋の中で、唯一床から離れずにいるロボットが、アイの言葉に反応して動き出した。
ポリバケツをひっくり返した様な形の、このアシモフというロボットはアイが五歳の時に、スクラップから作ったお手伝い用ロボットなのだ。体内に小さな反重力装置を備えた三輪駆動のロボットで、アイの命令のみに反応し一度充電すれば一年は動き続ける、中々の性能を持つ。
アシモフは宙に漂う調味料やテーブルに当たらない様に冷蔵庫へ向かうと、アームを伸ばして戸を開け、目的の物を取りだした。
「ありがとう、アシモフ。その場に待機」
アイは固形栄養剤を受け取ると、それを焼けたパンに塗り付けた。パンの熱で融点の低い固形栄養剤は僅かに溶けだし、パンの中へ染み込んでいく。
「しかし、アシモフは便利だなあ。アイはきっといい開発者になるよ」
父親はそう言いながら給水口からスープを流し込んだ。物を食べたり飲んだりしながら話せるのは、電子音声だからこそ可能な事だ。
「そして、アイが造ったロボットを私が様々な星に売るんだ。娘と一緒に働けるなんて、なんて素晴らしいんだろう!」
働いてなくても、こうして毎日一緒にいるのに。心の中でそう呟きながらアイはパンをかじった。
朝食後、父親は貨物の確認をしに収納庫へと行っている。父が運ぶ貨物の中には希少生物などがおり、運搬中に病気や怪我をしない様、定期的に看る必要があるのだ。
アイは自分の部屋に戻り、外の景色を眺めていた。一見、何の変哲もない宇宙空間だが、星の位置や距離が刻一刻と変化しており、一度として同じ景色ではない事をアイは知っている。気がつくと、名も分からない惑星の上に、緑色の光の筋が浮かんでいた。
それはオーロラという星が創り出す光の芸術だった。まるで、生き物のように、星の上で揺れ動いていた。その様子を見ながら、アイはある事を思いだした。
昔、父親と一緒に見た古い映像の中で、宇宙のどこかにある、タンホイザーゲートという場所でオーロラが見える事を知った。それが何処にあるのか知らないが、もし大人になって、好きな場所に行けるなら、一番最初にそこへ行こうと決めているのだ。それは父親にも秘密にしている、アイのひそかな夢だった。
ぼんやりと考えながらオーロラを見ていると、突然、船内放送が流れた。
「宇宙船が結合されました。住居区のロックを解除して下さい」
どうやら、別の宇宙船が自分の宇宙船に結合してきたようだ。本来、宇宙船同士が結合する事は、宇宙船が何らかの理由で機能しなくなったりしたのを、別の宇宙船が修理できる所まで運ぶ時などに行われるもので、両方共に同意がなければならないのだ。仮に遭難していて至急救助を求めているのなら、救援信号を周囲に飛ばしていて、事前にこちらがその信号をキャッチしているはずなのだ。だが、そんな信号は全く感知されていなかった。
アイが外に出ると部屋の前で父親と遭遇した。
「やあ、アイ。さっき宇宙船が揺れたから何事かと思ったけど、誰かが勝手に私たちの宇宙船に結合してきたみたいだね。おかげで、もう少しで貨物の下敷きになる所だったよ」
アイは気がつかなかったが、放送の前に結合した衝撃で宇宙船が揺れたらしい。不機嫌そうな口調の父親の手には、護身用の光線銃が握られていた。
勝手に宇宙船が結合してきた時、それは宇宙船強盗の危険性が高い。父親が子供のころは大変問題になっていたようだが、一般人でも武装が当たり前になった上、乗り込んだ宇宙船が宇宙警察や好戦的宇宙人の船だったりして、返り討ちにされる様になったので今では殆どなくなっている。ただ、万が一という可能性もあるので警戒はしなければいけない。アイはアシモフや父親と共に連結区へ向かった。
連結部への出入り口に着いた。こちらの許可がない限り、扉は開かない仕組みになっている。その横に備えられている端末モニターが点滅しており、何者かから通信が入っている事が分かる。
父親が端末を操作すると、モニターに一人の男が映った。どうやら、彼が連結した宇宙船の乗員らしい。
「何者だ?」
「初めまして。こちら、ヴォーガサービスの者です。どうか、扉を開けてください」
「((宇宙船訪問販売|スナッチャー))だって!? これなら宇宙船強盗の方がましだ!」
父親はこの世の終わりの様な悲鳴を上げた。宇宙船訪問販売とは、見つけた宇宙船と勝手に連結して商品を売り付けるため、父の様に星を飛び回る仕事をしている人には、好戦的宇宙人よりも嫌われている存在なのだ。そして、スナッチャーは寄生系宇宙人の名称だが、宇宙船訪問販売員を表す隠語でもある。
その理由として、宇宙船訪問販売をする者には、その証明書が与えられ、相手の同意なしに宇宙船を連結できるのだ。
「ここに証明書があります。確認次第、居住区への扉を開けてください」
父親が渋々端末を操作すると、証明書がスキャンされる。それが本物だと分かったため、扉を開くと、販売員が中に入ってくる。
「取引先についたら、暫くは仕事の引き受けを拒否してやる……」
父親はひとり言のように悪態をついてtる。
「ご安心ください、商品の説明がすんだらすぐに帰りますので。私、宇宙船訪問販売員のリックと申します」
リックは何千何百回と繰り返してきたであろう定型文を述べる。頭の右側頭部には髪がなく、代わりに透明な化学樹脂で覆われている。尖った耳と鼻を持ち、気取った小悪党の様だとアイは思った。
「いいから、早くしてくれ。じゃないと、宇宙船の燃料が無駄に消費されるんだよ」
「私が紹介しますは、危険な宇宙飛行のお供に役立つこの商品です」
リックはそう言いながら、持っていたケースを開いた。中には不格好な形をした銃が入っていた。
「こちらの銃は『エレメントランチャー』と言いまして、どんな好戦的宇宙人が襲いかかっても対応できるように、四つの機能が備わっているのです。まず一つ目に……」
リックは懐から小さなモニターを取り出した。その中にはリックが目の前にある銃を重そうに構えている映像が映っている。
「一つ目の機能は実弾を発射できる機能ですが、特徴なのは厚い鉄板ですら撃ち抜く、機関銃並の破壊力があります」
モニターの中でリックが銃を撃つ。機関銃並の破壊力は本当らしいが、反動も機関銃並の様で今にも吹っ飛びそうなのを必死でこらえている。
「二つ目は光線を撃つ機能ですが、宇宙船の燃料を消費しない様に、宇宙線で充電可能となっております。紐で繋いで宇宙空間に出しておけば、突然好戦的宇宙人が襲ってきた時に、充電不足で撃てない。なんて問題もありません」
アイはそもそも、宇宙空間に出していたら、緊急の時に使えないのではないかと思ったが、質問する前にリックは次の説明に移った。
「三つ目は火炎放射機能で、寄生生物からケイ素生物までどんな生物にも対応可能」
モニターに銃口から炎が噴射する映像が映る。長い頭を持つ宇宙生物の形をした的に浴びせるが、二、三分も延々と浴びせ続けてから的が溶解したのを見せる。
一匹倒すのにこれだけ時間がかかるなら、もう一匹いたら確実にやられていただろう。そもそも、銃が重いので少し素早い宇宙生物なら、浴びせる前に餌にされてしまうだろう。
「続いて四つ目の機能は液体窒素を……」
「もういい、充分だ」
流石に中途半端で扱いづらい機能ばかりで、変わり者の父親もあきれ返っているらしい。
「え、そ、それじゃあ、これだけの機能がついて値段の方は何と……」
「いや、いらないよ。だってその銃、役に立たなさそうだもの」
リックの表情が曇った。彼らの仕事は商品が売れなければ、生活に直接かかってくるのだ。必死にリックは勧誘を続ける。
「そんなこと言わずにほら、お子さんが危険な時に、この銃を持って颯爽と駆けつければ、父親としてかっこいい所を見せる事が出来ますよ?」
アイは正直な所、危険でなくてもすぐに飛んでくるので、少し鬱陶しいと思っているのだが黙っていた。
「はいはい、もういいから、その変てこな銃をしまってとっとと帰ってくれ」
そんな必死な勧誘に適当な返事をしながら、父は端末を操作し始める。どうやら、宇宙船を切り離す準備をしているらしい。
「どうしても買いませんか……」
「ああ、私は必要ないから君が使っていればいいんじゃあないかな?」
「じゃあそうしましょう」
突然、リックが銃を父に向けて構える。表情も先ほどとうって変わり、嫌らしい笑みを浮かべている。
「ガキの方もその変なロボットも動くな。私の作ったこの銃の良さが分からないとは、なんと愚かな一家だ……」
「本当に宇宙船訪問販売員には、ロクな奴はいないな。もう二度とこの辺りの仕事なんてするものか」
アイの父親は手を上げたまま、ため息をつくと、リックは父親の顔に銃口を押しつけた。
「なに、大人しくしていれば私も手荒な事はしない。さあ貨物室まで案内したまえ」
アイは、リックがこの船が貨物船だと知っている事に気付いた。この船が貨物を運搬する貨物船だと知っているのは、乗員の自分達か取引先の人間だけのはずだ。
「あなた、ただの訪問販売員じゃないのね。何でその事を知っているの?」
「ほう、ガキのくせに察しが良いな。普段はただの宇宙船訪問販売員。だが、実は貨物船だけを狙う智的な宇宙船強盗なのだ!」
リックは気取った役者の様に芝居がかった口ぶりで、自分の正体を明かす。
「おしゃべりはそろそろ終わりにしようか。早く私を案内したまえ」
さらに銃口を押しつけられたアイの父親は、ほんの少しの間アイと目を合わせた後、手を上げたまま歩き出す。アイもアシモフと一緒に父親の横に並んで歩きだした。
背後から宇宙船強盗のリックに銃を突きつけられたまま、アイたちは銀色の廊下を進んでいく。アシモフに命令させればすぐに取り押さえる事が出来るが、この状況では下手に動く事は出来ない。
「ふむ、私の銃ほどではないが美しい廊下だ」
ふと、後ろからリックの感嘆する声が聞こえてきた。どうやら、この銀色の廊下をとても気に入ったようだ。
「あんたにもこの良さが分かるのか。この廊下は私も気にいっていて、様々な機能があるんだ」
「ほう、それは見てみたいな。どんな機能なんだ?」
「まず、手を三回叩くと……」
「待て、そうやって私をどうにかするつもりだろう? 私は智的な宇宙船強盗だから、すぐにわかるぞ。だから……」
そう言った後、リックはアイに近付くと、銃を左脇で固定しながら自分の方へ無理やり引き寄せた。
「もし私に危害が及べば、その時はこのガキも被害が及ぶ。智的な私らしい完璧な考えだろう? さあ叩いてみろ」
アイの父親が手を三回叩いた。小気味良い音が三度響くと、廊下が緑色に輝きだした。
「おお、これはなんと綺麗な……」
リックが感嘆していると、突然、強い力で左腕が頭上に引っ張られた。何が起こったのか、驚いたリックが見上げると、自分が持っていた銃が、天井にぴったりと張り付いていた。
「アシモフ! こいつを捕まえて!」
アイが叫ぶと、アシモフが腕を伸ばしてリックの身動きを封じた。何が起こったのか分からずに、リックは茫然としている。
「手を三度叩くと廊下全体に磁力が発生する仕組みになっているんだ。あんたの銃、あまりいい金属を使ってないようだね。最近の物は磁力を帯びない金属で作っているはずだからね」
そう言って、アイの父親は捕縛されたリックを見下ろした。元々、重力発生装置が故障した時、上下の区別をつける為の機能なのだが、アイの父親はそれを利用してリックから銃を奪ったのだ。アシモフは元々、磁力を帯びない部品で造られているし、アイもそういった物は殆ど身に着けていない。
悔しそうに俯くリックに、アイの父親は勝ち誇ったように笑い出した。アイはそんな父親を呆れた顔で見上げていた。アイの父親は顔を天井に貼り付けたまま笑っているのだ。
「さて、アイ。そろそろ下ろしてくれるかな……」
磁力を解いた後、リックは自身の外見と身体能力をデータに取られ、釈放された。そのデータは後に宇宙警察に渡され、彼らに逮捕されるまで追われる身となる。すぐに宇宙警察に引き渡す事が出来ない場合、この様な方法を取るのが一般的とされているのだ。
「クソ! この私が、あんな奴ら何かに……」
自身の宇宙船の中でリックは悪態をついていた。あまり、武器を持ってない個人が所持する宇宙船を見つけ、物を奪うのが生業だった。今回も、娘一人だけを連れた身体改造者が、貨物船に乗ってこの辺りにやってくる事を、事前に調べていたのだ。
だが、あろうことか相手の罠にはまり、データを取られてしまった。データを取られた以上、もうこの辺りで悪事をする事は出来ない。
「データを消さなければならない。それも、あいつらごとな」
リックは、銃の入っていたケースを取り出した。アイたちに釈放された後、銃はアイたちの宇宙船に置いてきたままだ。
「エレメントランチャーの隠された五つ目の機能……それは、自爆機能。このケースの末端からコードを入力すれば、エレメントランチャーに内蔵されている、プラズマ爆弾が作動し、小さな衛星一つは爆破できるのです」
独り言を言いながら端末にコードを入力する。元々この機能は、盗みが終わった後、宇宙警察に連絡されるのを防ぐために、相手の宇宙船を爆破する物なのだ。入力が終わると、端末に最終確認の画面が映し出される。後は画面にタッチすればプラズマ爆弾が作動する。
「私を虚仮にしたその礼だ。美しい花火を上げてやろう」
ゆっくりと手を伸ばし画面にタッチすると、プラズマ爆弾を作動させた。
?
リックを逃がした後、アイは自分の部屋に戻っていた。あれから、何もする事もなく、再び外の景色を見続けている。宇宙船強盗に会ったのは初めてだったが、宇宙空間を飛び回っているアイたちにとって、この程度の事件は日常茶飯事だった。
隕石や流星と衝突しそうになった事、好戦的宇宙人の船に追われた事、壊れた宇宙船の残骸の中で生き残っていた男を助けた事、コールドスリープ装置ごと宇宙にほうりだされ、五十年も眠ったままの女性に会った事。
どれもこれも、この広大な宇宙空間でアイが体験したことだった。この宇宙には色んな人たちがおり、その分だけ何かが起こるのだ。
ふいにアイは大きな欠伸をした。宇宙にいると時間の感覚が分からなくなるが、もう寝る時間の様だ。眠る前に父親にあいさつをするため、部屋を出ると父の部屋へと向かった。
父は机に座ってコンピュータを操作していた。貨物の様子や運搬状況を記録しているようだ。
「おや、アイはもう寝るのか。私ももう少ししたら寝る事にするよ」
挨拶を終えて部屋に戻ろうとしたアイだったが、ある事を思い出したので父親に聞いてみる事にした。
「ねえダディ。リックとかいう人が持っていた、あの銃はどうしたの?」
暇な時に分解でもしようと思っていたのだが、何処にもないみたいなので少し気になっていた。
「あの銃かい? あっても邪魔になるし、あいつが自分の宇宙船に戻る時、入れておいてやったよ。それがどうしたんだい?」
「別に。ただ思い出しただけ」
そう言ってアイは自分の部屋に戻った。その時、外を見ると何かが光っている事に気がついた。
どうやら、少し離れた場所で何か爆発が起きたらしい。隕石と隕石が衝突でもしたのだろう。アイにとって、それは小さな花火の様に綺麗で、消えるまでずっとその光を見ていた。
その光が消えた後、アイは部屋の灯りを消した。そうすると、無重力状態の部屋の中が星灯りに照らされ、まるで宇宙の中にいるようだった。寝袋に入ったアイはその小さな宇宙の中で目を閉じた。
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宇宙を旅するとある家族の一日。随所に好きなSF映画のネタを散りばめました | ||
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