チートでチートな三国志・そして恋姫†無双 |
第32話 于吉と左慈の感覚
「さて……。私はこれから一刀と二人きりで話さねばならぬ事がある。すまぬが部屋へ戻って貰えるか? 終わったら呼ぶ。」
俺たちの話がひとまず終わったのがわかったからか、女?がそう声をかけてきた。それだけでも珍しいのに、ため息をつきながらだった。先ほどから感じていた嫌な予感。それが現実のものになる気がした。
「その話を我々が聞くことはできないのでしょうか?」
「できぬ。先ほども言ったが、一刀と二人だけで話す必要があるのだ。」
愛紗の問いにはそう答えた。間違いなく良い話ではないだろう。仙人関係で俺が思い出すことのできる“悪い話”の最たるものは、最初に于吉と戦ったときに言われた“あのこと”だ。
『そして覚えておけ。所詮、外史は人形の世界だということをな。』
今なら嫌でもその意味はわかってしまう。奴の考えが、手にとるように。
「ではご主人様、また後ほど。」
「ものすごく怖い顔をしていらっしゃいますよ。では。」
「あ、ああ……。」
そう言って愛紗と福莱は出て行き、俺と女?の二人きりになった。すると女?は手をかざした。
「またその術を?」
「念には念を入れておかねばな。時は止めておらぬが。」
周囲に音などが漏れないようにする仙術。普通の密談では使わせてくれないのだけれど、こういうときは特別らしい。
「それで……。お前は先ほど
『治らないのは信仰心が足りないからだ』
と言ったな?」
「あ、ああ……。」
女?が言ったことは予想外だった。俺は“外史に住む人間”についての話が来ると思っていたのだから。
「違うのか?」
「違う。“鍵”が使われている。“聖水”を飲めば病気は本当に治る。」
「何だって!? ……? 鍵?」
「あれから、もう半年以上前になるのだな……。まだ白露のところに居たときに話したろう。忘れたか?
“(私の仕事は)お前の護衛と、その仙人2人と管理者1人の捕縛だ。それに、この世界で連中が”操り”の起点としている4つの鍵を集めることだ。”鍵”を連中が全て持っていることは無いと思うがな。”
と言ったのを。」
女?は感慨深げにそう言った。そうか、もうそんなに経ったのか……。
「ああ、それは覚えてるよ。鍵、4つで中国ってことは“四神”か?」
「察しが良いな。そうだ。 “青龍の鱗”・“朱雀の羽”・“白虎の牙”・“玄武の甲羅” の4つだ。それぞれ……。」
「それぞれ?」
「お前には関係のない話のはずだ。忘れろ。」
そう言われると凄く気になるけど、女?がそう言うのなら聞かなかったことにしよう。
「わかった。それで、それと“聖水を飲めば病気は本当に治る”というのはどう繋がるんだ?」
「……。“何か”に鍵の力を埋め込み、それを使って張角が“祈祷”した水に病気が治る効果を与えているのだ。」
吐き捨てるような口調だった。それで、何となく意味が分かってきた。いや、分かってきてしまっていた。
「何か……? まさか“太平要術の書”か!?」
「知らん。お前のほうが詳しかろう。」
太平要術の書。確か、南華老仙という仙人が張角に授けた書物。だが、南華老仙は善人だったはず。“仙人”ということは、“もしかしたら”女?なら何か分かるかもしれない。
「なあ、“南華老仙”という仙人を知っているか?」
「誰だ? ……。ただ、この世界に居る仙界の住人は私を入れて4人。それは確認済みだ。」
そんなところだろうと思っていた。それでも、重要なことが少しずつ明らかになってきてる。そう、少しずつ。
「どうしてお前は情報を小出しにしか言わないんだよ!? もっと前に分かっていれば……。」
「何ができた? 私は情報を小出しにしてきたわけではない。この地に入って、連中の行動をつかみ取り、そうして初めて分かってきたことだ。教えなかったのは連中の感覚、思想。そういうものだけだ。」
「ごめん。残り3人のうち1人は“管理者”で、残る2人が“敵”ってことだよな? 名前は分かっているのか?」
「于吉と左慈。于吉に特別な思想はないようだが、もう一人の左慈は((太公望|たいこうぼう))((気触れ|かぶ))れの男らしい。」
「どうして太公望気触れって分かったんだ?」
「色々調べた。」
「だけと、太公望といえば善人だろう? こんな乱を引き起こすなんて考えられないんだが……。」
「私に連中の心の中まで推し量れというのか?」
どう見ても女?は怒っていた。この冷静な仙人でも怒る事なんてあるんだな……。それにしても、太公望。周の軍師として殷を倒すことに多大な貢献をした人物だ。善人中の善人だろう。その人物にいわば“憧れ”を持っている。それがこんなことをする。わけがわからない。それに……。
「どうして“鍵”を使ってこんなことをするんだ? 大切なものなんだろう?」
「挑発だ。お前と“管理者”への。それと、“麻薬的快楽”を得るという目的とどちらが大きいかと言われると分からぬがな。」
「ただそのためだけにこれだけの乱を引き起こしたっていうのかよ!?」
「私やお前と奴らでは感覚、価値観、思想といったものが根本的に違うのだ。率直に言おう。私も、立場が立場でなければ、捕まえた暁には連中を永劫、死より辛い目に遭わせてやっているだろう。」
「どうして“立場”なんて言うんだ!!」
「刑の執行は妲己の仕事と決まっているのだ。奴が癇癪を起こすと仙界の秩序が揺らぐ。」
「“感覚、価値観、思想といったものが根本的に違う”ってのは要するに、愛紗たちを“人間”扱いしていないってことだろ?」
「そうだ。連中にとって外史の人間は単なる人形、子供に与えられた((玩具|おもちゃ))。といった感覚なのだ。だから何でもやる。いや、何でもやることができる。それによってもたらされる混乱こそ“楽しみ”なのだ。我らからすれば“狂”だよ。」
怒りで、頭が沸騰しそうだった。連中の感覚、考え方は絶対に認めるわけにはいかない。愛紗たちは人形でも玩具でもない。この地に生きる“人間”だ。
「お前はどう捉えているんだ? 愛紗たち、いや、外史に住む人のことを。」
「……。お前が巻き込まれて仙界に入ったときに妲己が言ったことを忘れたか? 奴はこう言った。
『外史というのは、いわゆる“想い”とか“妄想”というようなものが具現化した世界のこと。それでも、その世界に人が居て生きていることに変わりはない。』
私の認識も同じだ。外史がどういう経緯でできたにせよ、何があったにせよ、そこには一つの世界が有り、人が、動物が、植物といったものが生きている。それらを“個”として尊重するというのが私の考えだ。そこに介入するのは許されることではない。」
「良かった……。」
それを聞いてものすごくほっとした。
「安心したか?」
「ああ。“話”はこれで終わりなのか?」
「そうだな。何かしたか?」
「一つ、相談したいことがあるんだ。」
「何だ?」
「俺は、表には一切出さなかったけれど、この世界に降りたって愛紗たちと共に戦い始めてからずっと悩んでいたことがある。
指揮官で、大将でもある自分が一切手を汚さず、愛紗たちだけが人を殺す。それで良いのか、を。」
「それは問いではない。自分でも分かっているだろう?」
「ああ……。」
そう。 これは自分で決めることだ。“誰かに言われたからそうする”ではダメだ。そんなことはわかっている。
「……。一つ、話をしてやろう。早坂、章人。そやつについてだ。」
「早坂さん!? 俺、あの人のことをなるべく考えないようにしたいんだけど……。」
そうでなければどうしても意識してしまう存在だ。剣道をやっていてこれほど“強くなりたい”と思ったのも、勉強して“もっと成績を伸ばしたい”と思ったのも全てあの人の影響だ。ましてこの世界に来てからは、あの人に学んだ知識を使っている。でも、福莱に言われて気がついた。ただ真似るだけじゃだめだと。なのにそれを知っている筈の女?から話を出されるなんて、どういうことなんだろう。
「わかっている。ただ……。お前はかつて『そのバケモノ人間に勝つことはできるか?』と問うたな。だからだ。」
「どうして今さら……?」
「言わないつもりだった。だが、思い直した。お前が“自分も人を殺すべきか”と問うたからだ。これは我々の推測だが、奴は修羅の道を進んでいる。」
「修羅の道?」
「要は、過去に人を殺している。」
「早坂さんが、人を殺して……?」
信じがたい話だったけど、顔を見て冗談ではないとわかった。
「ああ。直接手を下したわけではないだろうが、間違いない。お前がその道に踏み込むかどうかだ。
あるいは……。連中と同じところに堕ちるか。“人の皮を被った何か”だと思えば罪の意識も薄れる。」
「ふざけんな!!」
「ならばどうするか、じっくり考えろ。幸いにしてこの村は平和のようだ。今すぐ人を殺さなければいけないような事態に直面することはないだろうから、時間はある。
修羅の道を進むということは、全てにおいて覚悟が違うということ。それも含めてよく考えろ。」
「……。ありがとう。」
後書き。
どうしても入れざるを得ない話だったので書きました。それと……。戦国恋姫、凄い作品でした。そのうち書きたくなった兼ね合いもあり、早坂の話も入れました。
説明 | ||
第3章 北郷たちの旅 新たなる仲間を求めて 前話の補足、というより謝罪なのですが、upしているここが“公の場”ということで、“太平道”と“天の御遣い”以外の宗教は出せませんでした。そのため、わかりにくいところがあったかもしれません・・・・。 今話は本当に不快な話です。覚悟してお読みください。警告の意味でたくさん改行しておきます。 |
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