チートでチートな三国志・そして恋姫†無双
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第33話 真名

 

 

 

 

 

 

女?との話が終わり、福莱たちを呼びに行くとき、ふと気になったことがあった。“真名”だ。どうして真名が女性にのみ存在するのか。愛紗たち以外の真名、例えば此処の女将さんの真名は聞いたことがない。……。直接聞くのが一番だろう。

 

 

「なあ、福莱。聞きたいことがあるんだけど、いいかな?」

 

「何でしょう?」

 

「“真名”って何なの?」

 

そう言った瞬間、一瞬福莱と愛紗の顔が凍った。

 

「それはとても無礼な質問です。なぜ貴方に名があるのか、それを疑問に思うのと同じだからです。」

 

「親しい者、心を許した者だけが呼ぶことのできる、神聖な名。前にそう告げたではありませんか。」

 

福莱、愛紗はそれぞれそう説明した。でも、俺は釈然としなかった。

 

「それにしたって、親しい人が呼ぶのは問題無いんだよね? ここの女将さんの真名を聞いたことがなかったから、何故かな……と思ったんだ。」

 

2人は顔を見合わせ、険しい顔になった。まずいことを言ってしまっただろうか。

 

「鋭いですね。ですが、何故今さら真名について聞こうと思ったのか、差し支えなければ教えて頂けないでしょうか?」

 

「甄に真名が無いから。怪しまれないか心配になったんだ。」

 

「なるほど……。」

 

 

女?の真名は一切明かしていない。存在しないからだ。それを誰も不思議に思わない。何故か。深い理由がある気がした。

 

 

「“全てを背負う覚悟があるのならば、大衆の面前で真名を晒せ”

 

真名を授けた者からそう言われました。」

 

「全てを……背負う……?」

 

その時、古文の勉強について2人から聞いたことを思い出した。何故平安時代の女性に“名前”がある人物が少ないのか。皇族方くらいしか伝わっている人は居ない。

 

清少納言・紫式部・藤原道綱母・((菅原孝標女|すがわらのたかすえのむすめ))、皆、本名は不詳だ。(※1)

 

 

 

「どうしてだと思う?」

 

「わからないから聞いているですが……。」

 

「問題。長岡京から平安京に遷都した理由は何?」

 

「そこからかよ……。」

 

早坂さんがそう言って問題を出すと、藤田さんは苦笑した。もう結末が見えているらしい。

 

「え? 確か、僧侶の政治発言を防ぐため?」

 

「ハズレ。」

 

「それは、平城京から長岡京に遷都した理由よね? でも、長岡京から平安京に移った理由は……。」

 

「祟りがあると言われたからですよね。」

 

「アタリ。」

 

「……。真面目に答えてください。それと何の関係があるんですか?」

 

「私は真面目だよ。

 

こういうことは、当時の社会的背景がわからないと理解できないんだ。今なら、“呪い殺す”なんてできないとわかるけど、当時は大真面目にできると思っていたんだから。天災を祟りや((怨霊|おんりょう))の仕業だと思うことにしてもね。

 

つまりだ、女性は呪われたりする可能性が高いから本名を明かさなかったんだよ。」

 

「どうして皇族方は?」

 

「陰陽師だちが全力で守るからね。心配ないんだよ。

 

「そんな無茶苦茶な……。」

 

「そんなものさ。“わからない”から怖がるんだよ。非科学的だがね。

 

遷都の話がなかったら絶対に信じなかったろう?」

 

 

 

 

もしも名を晒すのが危険な行為だとしたら、女性だけが真名を持っていることも納得がいく。

 

「真名を授けた人物の名、聞いても良いか?」

 

「((許詔|きょしょう))という人物です。人物評の大家、許家の者が決めるというのが代々の決まりです。

 

家の繋がり、家格、親の願いなどを考えて決めるのです。名家など、一部の家には決められた字があることさえあるようです。私が知るのは袁家の“羽”だけですが。」

 

「許家……。」

 

「そうです。特に当代の許詔は俊才と名高いです。」

 

 

許詔。曹操を“治世の能臣、乱世の姦雄”と評した人物……と俺の知識にはある。だがこの世界では……。

 

「なるほど……。なら、真名が無くても怪しまれることはないかな?」

 

「表に出ても真名を呼ばせない方もいらっしゃいます。ですから、現状では問題無いかと。」

 

ひとまず、懸念は解決した。これでだいたい終わりかな。

 

「さて、夕食にしようか。」

 

「いえ、まだです。」

 

福莱はそう言った。

 

「まだ何かあるの?」

 

「“他に考えていらっしゃること”それをまだ聞いていません。」

 

「ああ。“憲法”の話でもしようか。」

 

「憲法?」

 

「そう。端的に言えば、国家を縛る法。」

 

「国家を、縛る?」

 

「俺たちの世界の国は基本的に、色々な原則があって動いてるんだけど、その中で“憲法”と“法”の話をしようと思う。

 

俺たちの世界で一番尊重されるものは何か、それは“個人の自由”なんだ。そして法には原則がある。“法は道徳に踏み込まず”という。」

 

「な……。」

 

福莱も愛紗も唖然として聞いていた。当然だ。儒教を根本に据えるといった1.2時間後には、儒教を否定しているのだから。

 

 

「儒教はどうするのです?」

 

「国の形が定まり、独立勢力となった暁には“一宗教”になってもらう。“政教分離”だ。」

 

日本においてはおそらく、今に至るまで完全に成し遂げた者はいない政策。政教分離。マトモな政教分離は戦後の話だ。三国時代の中国においては、儒教が密接に絡み合っていた。それを潰すのだ。“大変”などという言葉では済まされないだろう。といっても、俺がこの国を変えるにあたって、最大の目標は“その先”にある。

 

 

「で、憲法が何か、その具体的な話だけれど、俺の国には“国家六法”という考え方がある。かなりいい加減に話すよ。」

 

珍しく、“人間の本質を問うもの”だと言っていたのを鮮明に覚えている。

 

「借りたものは返す必要があるよね? それをわかっていても返さない人が居る。だから民法がある。

 

嫌いな奴、殺してはいけない。でも殺す人がいるんだ。だから刑法がある。

 

民法の枝分かれで、会社、ようは店同士の取引には商法がある。

 

民法で問題が起きたときのために、民事訴訟法がある。

 

刑法で問題が起きたときのために、刑事訴訟法がある。

 

そしてもう一つ。権力者の地位に就いた者が権力を乱用しないようにするために憲法がある。国民の権利を保障するものなんだ。要は国家を縛る法だ。

 

これら6つをあわせて“国家六法”という。

 

そして憲法には特殊な一面があって、他のどの法も憲法に抵触してはいけないんだ。憲法が最高法規なんだよ。」

 

これを俺が作るにあたって、問題が一つある。大きな問題が。

 

アメリカと比べれば一目瞭然だ。アメリカは独立戦争を通じて世界初の成文憲法を“自分たち”で作った。“国の主”意識を持っている。一方、この国では……。“俺から与えられた憲法”になりかねない。そうなればいつの日か“押しつけ”だと言う人が出てくる。如何にして“自分たちで作った”という意識を持たせるか。そこが。

 

「……。分かるのですが、頭が追いつきません。やはり、今聞くべきではなかったかもしれません。」

 

福莱は言葉少なだった。

 

「さて、夕食にしよう。」

 

解説

 

※1:左からそれぞれ、枕草子・源氏物語・((蜻蛉|かげろう))日記・((更級|さらしな))日記 の作者。

 

 

 

後書き

 

第31話で“仕込みは終わり”と書きましたが、ここまでが“仕込み”でした……。次話からはのんびりした、いわゆる“拠点フェイズ”に入ります。じっくりと書きたいと思っています。

説明
第3章 北郷たちの旅 新たなる仲間を求めて
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