欠陥異端者 by.IS 第四話(やるべき事) |
[ヒソヒソヒソ・・・]
[ヒソヒソヒソ・・・]
零「・・・」
どうやら、完全に二組の人達に警戒されてしまったようだ。それに伝染されて、他クラスも上級生も近寄らなくなった。
気分的には良いのだが、何か居ずらい・・・
一夏「お〜い零、飯食いに行こうぜ」
織斑さんは、変わらず私を昼食に誘ってくる。昼食だけでなく、朝食も夕食も最近は一緒に食べている。
しかも、前は篠ノ之さんとの三人だったけど、今は・・・
セシリア「一夏さん、遅いですわよ。レディーを待たせるなんて、ジェントルマン失格ですわよ」
四人で食事を取っている。何回か食事をして気付いたことだけど、オルコットさんも織斑さんに惹かれた一人なのだろう。篠ノ之さん同様。
しかも、先日の戦闘で勝ったオルコットさんが一組の学級委員になるはずだったが、辞退して織斑さんが学級委員になったらしい・・・まさか、あの戦闘中に恋に落ちたのか?
セシリア「そういえば、落合さんには専用機はないんですの?」
食事中、どこからそんな話題が生まれかは分からないが、オルコットさんの質問に「ありません」と答えた。
一夏「へぇ〜、じゃあ俺だけなんだな、男で専用機もらえたの」
箒「技術スキルは低いがな」
一夏「うぐっ・・・!」
織斑さんは今、篠ノ之さんとオルコットさんの二人にISの訓練を放課後にしている。実際にその訓練状況を見たわけではないが、寮室に戻ってきた織斑さんの疲れ具合を見るとけっこう辛いようだ。
零(専用機か・・・)
考えたことも無かったが、やはり私も渡されるのだろうか。今のところ、そんな話は無いからもらうとしても先の話だろう。
第一、私の操縦スキルは高くない。中の下あたり。
セシリア「それにしても、見かけによらず結構、食べますのね?」
零「はい、まぁ」
セシリア「毎食、そんなに食べてその体型・・・運動とかなさってらっしゃるのですか?」
この人は毎度毎度、ズカズカと意見を言ってくる・・・今までそういう人と距離を置いていたから、長く接するのは初めての体験だ。
その後も質問してきたため、当たり障りのない答えを返す。
零「すみません、少し抜けます」
一夏「ん? トイレか?」
食事中にその単語を出すのは、問題だと思うんだが・・・
【一夏SIDE】
セシリア「一夏さん。落合さんって何か気味悪くありませんか?」
一夏「そうか? 普通だと思うが・・・」
しかし、セシリアの言いたい気持ちは悪くないのが、正直なところだ。
一夏『何で、そんなに俺と壁を作るんだ?』
零『・・・"壁"? 別に壁なんか・・・作ってませんよ』
先日の夜に質問した時の零の表情・・・図星を突かれた動揺と、どこか本人自身も自覚していないことに困惑していたようだった。
気味が悪いとは少し違うが、零が思っている事、感じている事・・・人間的な感情を見せようとしていないところが、壁を作っているように感じている。
箒「おい、セシリア。本人がいないのに失礼だろ」
セシリア「しかし、あんなに八方美人のような返答をされ続けると、気味が悪くなりますわ。一夏さんと二人っきりの時もあんな感じなのですか?」
一夏「まぁそうだな。勉強熱心で、向こうから話しかけてこないし」
・・・そういえば、零のこと何も知らないなぁ。
本音「おりむ〜、ホ〜ホ〜、せっし〜!」
雰囲気が静まった時、のほほんさんと谷本癒子さん、夜竹さゆかさんがお盆を持ってやってきた・・・相変わらず、のほほんさんの袖は必要以上に長い。
三人が席についた同時に零が帰ってきた。
本音「あ〜っ、れいち〜ん!」
零「あ、こんにちわ、布仏さん」
全員「「「えっ?」」」
【零SIDE】
何で人数が増えているのだろうか・・・?
それが、学食に戻ってきて最初に思った感想だった。しかし、ここで布仏さんと遭遇するとは・・・。
本音「れいちんがISが使えるなんて〜、驚きだよ〜」
零「はははっ、僕もです」
IS学園に編入して一回も会っていなかった。布仏さんも前に会った簪お嬢様も、二人のお姉さんにも顔を出していない(というより顔を知らない)。
二か月くらい同じ屋根の下で生活していたから、自然と笑みがこぼれる・・・自分でも不思議だ。
全員「「「・・・」」」
零「・・・?」
何でそんなに私の顔を見るのだろうか?
私は気付かなかった。布仏さんとの会話の態度が、昔の私と比べて柔らかくなっている事・・・これに気付くのは、もっと先の話である。
小林「え〜、今日から二組に転入生が来ます」
昼休み終了後。一年二組の担任、小林 加奈子(35歳、婚活中)先生が、ツインテールで小柄な女生徒を廊下から連れてきた。
というか普通、転入の挨拶はその日の朝のSHRにやるものなのでは・・・別にこだわる必要はないか。
鈴音「凰 鈴音です」
小林「・・・え〜と、そういう事です」
先生・・・その中途半端さが、万年独身を引き起こす引き金の一つなのでは。そんな人間は、恋愛も中途半端な気持ちで始まって、中途半端な気持ちで終わると思います。
恋愛をしたことのない私が言うのは、お門違いだけど・・・。
凰さんは、教壇から歩き出した・・・自分の席ではなく、現一年二組の学級委員に。ちなみに、青柳さんという。
鈴音「あたしと学級委員、変わってくれる? くれるよね?」
青柳「え?」
いきなり食って掛かる。生真面目でいつも冷静な青柳さんでも、いきなり絡まれたら戸惑う。
鈴音「ほら、もうすぐクラス対抗戦があるでしょ。一組が専用機持ちで出場するから、フェアで戦ったほうがいいと思うんだよね・・・あっ、あたし専用機持ちだから」
青柳「は、はぁ・・・」
"専用機持ち"という発言は驚く場面なのだろうが、青柳さんへの迫りように反応する余裕が無かった。
鈴音「で? 変わっていいの? ダメなの?」
青柳「ど、どうぞ・・・」
鈴音「そっ。ありがとっ」
素っ気なくお礼を言った後、自分の席へ戻っていく凰さん。
教室は、微妙な静けさが漂っていたが、小林先生は気にしないよう授業を始めた・・・。
鈴音「ねぇ、そこの男子」
零「・・・」
『そこの男子』と呼ばれるのは小学生以来だ・・・まさかもう一度、言われるとは。
鈴音「ちょっと、聞いてるの? 耳、腐ってないわよね」
随分と突っかかって来る人だ・・・チンピラか、この人?
零「・・・何でしょうか?」
鈴音「あんた、よく織斑一夏と食事を取ってるわよね」
零「・・・」
鈴音「取ってるわよね?」
零「あっ、はい」
返答しなかっただけで、そこまで声をすごめなくても・・・と内心、思いながら凰さんの質問の意図を考えていた。
鈴音「それで?」
零「・・・?」
抽象過ぎて意味が分からない。
鈴音「だから! だから・・・ほら、織斑一夏の印象だとか、その・・・」
言葉に詰まる凰さんを見て、一つの仮説が立った。
クラス対抗戦を理由に学級委員の交代を交渉(脅しとも取れる)をし、織斑さんの事を聞き出す今の凰さんの表情の変化。
この人、織斑さんの事を前々から知っているのではないだろうか。まるで、久々に会うのが恥ずかしいから、手当たり次第、偶然を装って接触しようとしているのではないだろうか。
零「・・・たぶんですけど、本人に直接会っても問題はないと思いますが」
鈴音「ッ!?」
図星を突かれたようで目を見開く・・・分かりやすい。
凰さんは「そ、そうね・・・」と呟いて、自席に戻っていった。
根本「落合君、大丈夫?」
凰さんが自席に座ると、私が座る一つ前に座っていた根本さんが声をかけてきた。
根本さんは、クラス内では全ての生徒とコミュニケーションを取っている。私にも時々、唯一声をかけてくる方だ。
零「はい、大丈夫です」
根本「こんな時期に転入も不思議だけどさ、いきなり青柳さんに迫るのも不思議よね」
私もすぐ学園に編入してきたから共感は出来ないが、あの迫りようは傍から見れば異常だった・・・その意図は、大方予想はついたけど。
その後、凰さんが織斑さんのいる一組に行ったのは、翌日のことだった。
そして、翌日の夜。織斑さんは、訓練の疲れを引きずっているのかノロノロと寮室に帰ってきた。
一夏「う〜〜・・・」
ベットにダイブする織斑さん。低反発の高級ベットは、急な一人分のGを優しく受け止め、織斑さんの眠気を誘う。
私はこの時、てっきりIS訓練の疲れが出て倒れこんだと思ったが、凰さんの告白を勘違いしていた事が、凰さんの怒りに火をつけ制裁を受けていた。
後日。学園玄関前にクラス対抗戦の対戦表が張り出された。
第一試合、一年一組vs一年二組・・・織斑一夏vs凰鈴音。
前回のオルコットさんとの戦闘は第三アリーナだったが、今回は第二アリーナ。といっても、内部の作りは変わっていない。
また観客席から私はステージを観察する。織斑さんが乗る『白式』、凰さんが乗る『((甲龍|シェンロン))』が試合開始を待ってる。
『甲龍』・・・中国の第三世代機。特徴は、肩部上に浮遊する二つの球体"龍砲"・・・第三世代兵器である"衝撃砲"。
ちなみに、『甲龍』の龍砲。『ブルー・ティアーズ』のビット兵器(これも『ブルー・ティアーズ』と言う)。そして『白式』の近接ブレード"雪片弐型"は、((初期装備|プリセット))と言って元々そのISに備わっている装備。
今、『甲龍』が手に持つ青竜刀。『ブルー・ティアーズ』のライフル"スターライトmkV"は、((後付装備|イコライザ))という装備で((拡張領域|バススロット))の容量を使ってインストールさせている。
時間潰しに読んでいた参考書を脳内で反復している間に、試合が始まった。
さっそく、衝撃砲が火を噴いて『白式』に直撃する。見えない弾丸が徐々に勢いを増して襲いだして、防戦一方の『白式』。
しかし、織斑さんはその中でもチャンスを窺っている様子が見て取れた・・・何か、奥の手があるのだろうか。
頭に浮かぶのは、((瞬時加速|イグニッション・ブースト))。
スラスターから一時エネルギーを放出し、それをまた取り込んで圧縮。名称通りその圧縮エネルギーで、瞬時的に加速する技。
格闘型のISにとっては無くてはならない技術、だと備考に書かれていたはず。
『白式』の((唯一仕様の特殊能力|ワンオフ・アビリティ))・・・『((零落白夜|れいらくびゃくや))』。
SEを消費することで、ISを取り巻いているシールドを相殺し、エネルギーの消費量の多い"絶対防御"に直接攻撃できる諸刃の剣・・・この前、織斑さんが呟いていた。
一夏『うおおおおおおぉっ!!』
チャンスを狙った瞬時加速からの斬撃。何故か、その動きがスローモーションに見えて、「決まった」と感じ取った。が───────
[ズドォォォォォンッ!!]
零「っ!?」
突如、アリーナ上空から熱線の火柱が立つ。アリーナに天井はないが、ISと同じエネルギーを使用した見えない隔壁がある。それを破壊するほどの出力を持つ"何か"が攻撃したという事。
その襲撃者を目撃する前に、観戦席とフィールドを隔てるように隔壁が上がってきて、赤いランプが観戦席を照らす。
生徒1「なになに!? 何が起こってるの!?」
生徒2「あ、あれ!? 扉が開かないよ!?」
突然の事態に生徒達はパニック状態に陥っている。アリーナの出入り口がロックされて出られないことも重なって、先生もいない、統率力のない一年生だけの集団が扉を叩いたり押したりしていた。
周囲を見渡すと、その集団の中に布仏さんらが同じくパニック状態になっているのを発見したり、簪お嬢様は集団から離れて不安げな表情をしたのを見つけた。
零「・・・一体、何が起こっている」
自然と丁寧口調から本来の口調に戻る。
既に襲撃から5分は経過していても、完全にフィールドと遮音されていて今の現状も分からない。外に出られず、パ二くる生徒達が扉に殺到している。先生からの放送もない。
私は進展しない状況に痺れを切らして、生徒の人垣を掻き分けて出入り口に向かう。
零「どいて下さい」
生徒2「へ?」
零「どいて下さいっ」
さっきよりも力強く言うと、女生徒は戸惑いつつも場所を譲ってくれる。
零(今は自分にやるべき事をやるんだ)
この扉は、コントロールルームから操作される仕組み。コントロールルームには先生がいるはずだから、何かしらの異常でロックがかかっているという事。
なら、電力を途絶えさせて手動で扉を開く。荒療治だが、ツールもない状況ではこのやり方がシンプルだ。
私は扉脇に設置されている電子パネルを剥がそうと試みる。しかし、壁に完璧に埋め込まれていて剥がすことはできない。
だったら、液晶を破壊して内部の配線を露出させるしかない。
零「少し、離れてください」
いつもより凄みのある声で言ってしまったせいか、周囲の女生徒は2メートル近く後退した。
私は躊躇せず、学生服の上着を手に纏って液晶を殴りつける。二回、三回・・・六回、殴りつけて液晶から火花が散った。
そこからまた二回、三回と殴りつけて、完全に液晶を破壊した。
零「ぅっ・・・」
手から上着を外し、素手で腕一本入る大きさまで穴を広げる。その際、火花や機材の破片が皮膚に突き刺さる。
生徒3「ちょ、ちょっと! 危ないわよ!」
零「だ、大丈夫です、これぐらい・・・」
全員「・・・」
働いていた私は未熟だった。だから、こんな危険な目にあうことなんてザラにある。ただそれが、仕事とは無縁な場所で起こっているだけだ。
そして、片腕を肘まで入れ、手に触れた配線一本を引っ張り出した。それを引き千切ろうとしたが、強度が高く切れない。
阿部「貸しなさい」
そう静かに言ったのは、一年二組、柔道部の期待のホープである阿部さんだった。
肩幅は私よりも二倍ぐらい広く、体格、背も私よりしっかりしていて「女子?」と疑いたくなるような阿部さんなら、いとも簡単にコードを引き千切れるだろう。
阿部「ふんっ!」[ブチッ!!]
[ブーンッ・・・!]
千切った瞬間、照らしていた赤いランプまでもが消灯した・・・どうやら、今のコードはアリーナ全体に電力を供給する大事なコードのようだ。
私は、手の感覚だけで扉に触れ、引き戸のように開け放った。
零「もう一度、繋ぎ合わせて下さい」
バチッと、火花が散ると赤いランプが点灯する。扉は感覚通り、開いていた。
すると、キャーという喜びと安堵の声が上がり、この扉に生徒が殺到した。その波に私は体制を崩したが─────
阿部「おっと」
零「ぁ・・・すみません」
阿部さんに人の波から救出してくれた。阿部さんは黙って、親指を縦に立てた。
千冬「これが、お前の処分だ」
零「・・・」
アリーナの設備を勝手に破壊した張本人であり、他生徒にも促した教唆として、反省文の作文用紙100枚が机に置かれた。
千冬「ああいう状況の時は、騒がず冷静に教師の救出を待てばいい・・・まぁ、危険性を考えればどんな手を使ってでも脱出する手は、分からなくもないがな」
先生も共感するところがあるのかもしれないが、この反省文の枚数を変更してくれそうにない。しかも、何かを言い出せば増やされそうな気がする。
千冬「しかし私は、お前が大胆な行動に出るような奴だとは思わなかった」
零「すみません」
千冬「いや、これは褒めているのだ。"人間"らしい」
人間、らしい・・・じゃあ、今まで人間じゃなかったいうことになる。
千冬「お前には感情というものが見えなかったからな」
感情・・・
零(何が"感情"だ・・・! あんなのは、自分を見失って自滅させる生物の欠陥能力だ!)
千冬「・・・なるほどな」
目の前の先生は何かを呟いたが、私には聞こえなかった・・・何か、この先生、今まで見てきた人と何かが違う。
というより、食堂で会った時は思わなかったけど、過去にこの人に会ったような・・・
千冬「まぁ、その反省文は明後日までに出せ。私が決めた処分だからといって恨むなよ」
笑みを浮かべて、教育指導室を出ようとする・・・しかし、ドアノブを握った時に何かを思い出したのか、私の方に首だけ振り返った。
千冬「あ〜、そうだ。落合、お前のISはもう少しかかるそうだ。おそらく、学年別トーナメントぎりぎりになるだろう」
零「わかりました」
そう言い残して先生は出ていった。
ついに、私にも専用機が届くのか・・・不思議と好奇心が燻ったが、包帯を巻いた両手の鈍い痛みを感じた。
零(この用紙の束、どうやって持っていこう・・・)
説明 | ||
本話は一巻の後半に当たります。 しばらくの間、原作の内容と近いので退屈かもしれませんが、楽しめていただけたら、ありがたいです。 |
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