恋姫無双 武道伝 8話
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「李文殿、お待ちしておりました。みな揃っております。」

 

広場につくと厳綱が迎えてくれた。予想通りというべきか少し遅れてしまったようで、広場には邑の者たちが半円になって集まっていた。目ざといものは厳綱と話す俺達に気づきざわめき始めている。

 

「ああ、遅くなってすまない。すぐに始めよう」

 

俺と星が皆の前に出ると、いよいよざわめきが大きくなる。公孫讃の客将が来ると聞いていたら坊主と美人の女性が出てきたのだから無理もないだろう。中には侮蔑の声も聞こえてくる。生臭坊主だとか金の亡者だとか主に俺に向けられたものがほとんどだが、中には女などという、星にむけたものもある。

 

「兄弟、わざわざ集まってもらって済まない。今日集まってもらったのは、賊討伐にむけ義勇軍を立ち上げるためだ。」

 

俺の言葉により一層ざわめきが増す。あまりの騒ぎに厳綱が声を荒げたほどであった。

 

「皆静まれ、聞きたいことがあるならば最後にまとめて聞けばいいだろう。まずは李文殿の話を聞こうではないか」

 

地を震わせるような大音声に喧騒はぴたりと静まる。いきなりの大声だったので思わず『うおっ』と声を上げてしまったのが地味に恥ずかしい。それを見ていたのか星が横でクスッと笑うのが聞こえた。

 

「知っているとは思うが、最近いくつもの邑が賊に襲われ消滅している。特にこの辺りは諸侯の勢力境界で賊徒鎮圧の出兵もしにくい。そこで北方太守の公孫讃殿は俺、李同臣とこいつ、趙子龍、以下数名を賊徒鎮圧のため派遣した。主な目的は付近の邑の自衛力の強化と、義勇兵を立ち上げ賊徒討伐することだ。申し訳ないが、どこかの勢力の軍として動けば諸侯の間でいらぬ諍いが生まれるかもしれないために、義勇兵として動くことになる。当然支援もないと思ってもらいたい。」

 

伝えたいことは伝えたと、厳綱に目配せをする。厳綱は一つうなずきを返し、邑人に聞きたいことはあるかと問いかける。それを機に各々が隣のものと話をはじめ、空気がざわつき始める。

 

「失礼、邑で話し合う時はいつもこうなのです。一度皆で自由に相談する時間を作り、意見をまとめてから話を進める。こうやって無駄な時間や労力を省いているのです。」

 

纏まってない意見を聞くのは骨が折れますからね、と厳綱。なるほど、確かに一人ひとり意見を聞くやり方では意見が重なっていれば時間の無駄になるし、気が小さい者では満足に話すこともできないかもしれない。あまり大人数では収拾がつかなくなるが、この程度の人数ならば有用なやり方であろう。

 

「そろそろ意見もまとまったと思う。質問があれば出してくれ」

 

厳綱の言と共に質疑応答が始まった。賊徒の数は?義勇兵は自分たちだけなのか?褒美ももらえないのか?数々の質問に対し、答えられる範囲で答えていく。

 

「義勇兵を率いるのは李文殿ということでよろしいですか?」

 

質疑応答の中、一人核心ともいえる質問をしてくる者がいた。名を楽進と言う、褐色の肌に銀髪の生える少女である。その眼は語っている。自分たちが命を懸けるのは貴方になるのか、と。

 

「お前達の中に戦に慣れた者がいるのならその限りではない。俺のすべきことは被害を減らすことだからな。俺達がやるより適したものがいるのならそのものに任せるさ」

 

「なるほど、わかりました。ではあと一つ。貴方達の力を示していただきたいのですが」

 

傍から聞いていれば傲慢とも取れる意見。だがそこに宿る意思に邪なものは感じられない。己が命を懸けるのならば己が認めた者でなければ納得できないと言葉にせずとも聞こえてくる。

 

「ならば直接手合せをし、兄弟が認めたなら陣頭指揮は我々が執るということでどうだろうか?」

 

問題ありません、と答えが返ってくる。

 

「では任せたぞ星」

 

「・・・いや、話の流れからしてお主が出るべきであろう」

 

俺の振りに冷静に対応する星。だが俺にも一応考えがあるのだ。

 

「あいつは自分の腕にかなり自信があるようだ。邑人達も信を置いているらしい。それをあいつらからして副将の位置にある星が倒せば、星も認めるし、その上にいるっぽい俺も認められる。だが俺があいつに勝っても星が認められるってことはないだろう?それに」

 

「それに?」

 

「あいつの武器は徒手のようだ。お前のいい鍛錬になる」

 

「なるほど。あいわかった。ちゃんとした考えがあるなら構わん」

 

星としても強い者と手合せできるのは嬉しいのだろう。快諾してもらえた。楽進と星が進み出、邑人達が二人を囲むよう大きな円になる。

 

「楽進殿のお相手はこの趙子龍がいたそう。これでも万夫不当を自負しておりますゆえ、落胆させるようなことはないでしょう」

 

「・・・いざ」

 

右拳左掌の包挙礼をとる楽進。星も合わせて包挙礼をとる。お互いが礼を解いた瞬間。一息の間に勝敗は決していた。

 

「お見事」

 

カランと槍の落ちる音と、ドサリと膝をつく音が同時に響く。勝ったのは星であった。

 

「では詳しい編成は明日、残りの二名を交えて行うこととする。今晩の見張りは今までの当番通りこなしてくれ。では解散」

 

楽進と星の手合せにより実力を示すことに成功した俺達。中には不満そうなものもいたが、実力があることは認めたのだろう、ここにきて抗議の声を上げるものはいなかった。これ幸いと夜の見張りと翌日の予定について指示を出し、解散を告げる。邑人達がバラバラと仕事に戻っていく中、一人の少女・・・楽進がこちらに近づいてきた。

 

「先ほどは失礼いたしました。あれほどの実力を持つ方に対し弱卒の身でありながら大言を吐いたことをお許しください」

 

そういって跪き頭を垂れる。俺と星は思わずお互いの顔を見合ってしまった。

 

「あー、そんなに畏まらなくていい。俺達はそんなに偉い身分じゃないからな。それに自分や家族の命を懸ける相手の実力を試したいと思うのは普通のことだろう」

 

「それに楽進殿も相当なやり手。今回は運よく勝たせていただきましたが、あの蹴撃には肝を冷やしましたぞ」

 

邑人達の目では捉え切ることが出来なかったであろう二人の勝負。李文の鍛え抜かれた動体視力は確かにその動きを捉えていた。礼を解いてからの二人同時の踏込。星の下段からの突きを、楽進は槍のそのさらに下に入れた右手でもって上へと弾き上げた。星は上へと逸らされた突進力を殺さず、槍を片手で回転させ石突き(槍の柄の部分)での殴打に切り替えた。防御が間に合わないと見て取った楽進は、とっさに中段蹴りを放った。星はその中段蹴りを石突きの一撃でもって逸らしたのだが、いかな星と言えど、片手で支えきることはできなかったようで、槍を弾かれてしまった。しかし不安定な体勢から放った蹴りによって体は流れ、そこを見逃さず放った星の掌底によって勝負は決した。

 

「お二方のおかげで世の広さを知ることが出来ました。上には上がいるものですね」

 

尊敬の眼差しで見つめてくる楽進。客将とホラを吹いているだけに少し居心地が悪い。

 

「楽進殿の言うとおり。私も自分の腕に自信があったのだが、この男に鼻をへし折られてな」

 

ちらりと視線を投げてくる星。どうやら楽進が気に入ったらしい。あわよくばこちら側に引き込もうという考えか。

 

「やはり李文殿も使われるのですか!ぜひご教授のほどをお願いします」

 

真摯な目で見つめられては断れない。もし仮に、本気で弟子を取ったとしたらこういう感じなのだろうか。そんなことを考えつつ、楽進と、そしてなぜか星に請われるままに手合せをしたのだった。

 

説明
お待たせしました、武道伝8話です。
仕事が急きょお休みになったので、過去の誤字や内容を少しずつ修正しました。
読者さんに聞きたいのですが、みなさん三国志や武術に関してはどの程度の知識で読まれてるんでしょうか?武器や人物など、説明を入れるべきか悩むことが多々あるのでよかったら回答お願いいたします。
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