遊☆戯☆王 Love†Princess 洛陽決戦 劉備VS董卓! |
洛陽決戦 劉備VS董卓!
◆
俺の目の前で、2人の決闘者が対峙している。
1人は桃香。俺達『チーム劉備』のリーダー。
もう1人は董卓ちゃん。洛陽で暴政を敷いていたと言われていた人物だ。しかし、どう見てもそんな暴君には見えない。むしろ守ってあげたくなる小動物みたいな子だ。
何故2人が戦おうとしているのか。それは、少し時を遡る。
水関、虎牢関を落とし、洛陽へと到達した反董卓連合。俺達『チーム劉備』は洛陽への先行という役目を袁紹から押し付けられた。元々俺達は董卓を助けるつもりだったから、それ程問題は無かったけどね。
しばらくして、斥候から戻ってきた鈴々と共に朱里、雛里、華雄さんを除くチーム全員は洛陽へと入城した。
洛陽から逃げようとしているらしい董卓らしき少女。もしかしたらまだ居るかもしれないという鈴々の言葉を受け、俺達は董卓救出へ向かった。
鈴々が董卓を見つけたという場所。そこから少し離れたところで2人の少女を見つけることができた。ウェーブがかかった薄紫色の髪とルビー色の瞳を持つ儚げな少女が董卓、もう1人の緑色の髪を持ち、眼鏡をかけた勝気な少女が賈駆というらしい。
朱里達の推測通り、2人はどこかへ逃げようとしていた。しかし、『暴君董卓を排する』という大義名分の元に集った反董卓連合。この連合は、この戦いの責任をなすりつけるためにどこまでも董卓……いや、董卓ちゃんを追い続けるだろう。
諸侯の権力争いに巻き込まれて、事態に流され、命を散らそうとしている2人の少女。改めて、俺は彼女達を助けたいと考えた。そこで俺は、
『俺達が董卓を討ち取ったことにして、2人には死んだことになってもらうのはどうか』
こう提案した。
既に華雄さんから、『董卓は心優しい少女』だということを聞いていたので、誰も異議を唱えることはなかった。
曹操や孫策はこの連合の本質を見抜いているはずだし、袁紹や袁術は目先の野望の達成にばかり目を向けている。そのため、あまり危惧する必要はないはずだ。
俺達の話を聞き終え、数秒黙りこんでいた董卓ちゃん。やがて彼女は、『自分を助けることで何の得があるのか』と聞いてきた。
助けたとしても、大きな得なんて無い。かといって、董卓ちゃんを処罰したからといって得が有るわけでもない。これは困っている人を放っておけないという単なる自己満足と、可愛い女の子を殺すなんてことはできないというちょっとした下心だ。
それでもまだ俺達を信用しかねている董卓ちゃんと、とてもじゃないが信じられないとキツい言葉を吐く賈駆。
まあ、当然か。人の甘言に乗ったことで董卓ちゃんはこんな権力争いに巻き込まれたのだ。それに参加していた俺達の言葉をそう簡単に受け入れるなんてこと、難しいだろう。
そこで、桃香はこう言った。
『どうしても信用できないなら、デュエルをしようよ。デュエルをすれば、相手が何を考えているか分かり合えるし、仲良くなれるから。私、董卓ちゃんのことを知りたいし、貴女にも私のことを知ってほしい。どうかな?』
桃香の言う通りだ。デュエルは人の心を繋ぐ架け橋。デュエルをすれば、誰とだって分かり合える。水関でも雛里と華雄さんはデュエルを通してお互いを認め合ったのだ。だから、デュエルをすることで、董卓を助けたいという気持ちをわかってもらえるはずだ。
董卓ちゃんは、桃香の申し出を受け入れた。やはり彼女も真の決闘者のようだ。もっとも、賈駆は『わけわかんない……』と頭を抱えていたが。
そして場面は冒頭へと戻る。
中山靖王より伝わるというデュエルディスク『靖王伝家』を構える桃香。対するは、北斗七星の意匠を施したデュエルディスク『七星宝刀』を構える董卓ちゃん。
俺、愛紗、鈴々、星、賈駆。5人が見守る中、
「「デュエル!!」」
2人の声が重なり、決戦の幕が開かれた。
◇
董卓は重度のデュエル脳である。それはもう、幼馴染の賈駆の悩みの種となる程に。
例えば天水にいた時、
「((月|ゆえ))、張譲が『さっさと洛陽まで来い』って言ってるんだけど……」
「……もうちょっと待ってもらって、詠ちゃん。このデッキ、もうすぐ完成するから」
『デッキ作成』という理由で洛陽への招聘を先延ばしにしたり。
例えば洛陽へと向かう途中のある日の夜、
「詠ちゃん。今夜の満月、とっても綺麗だね」
「ええ、そうね」
「あのお月さまの上でデュエルしたら、きっと楽しいんだろうな〜」
「………………ええ、そうね」
荒唐無稽なことを言い出したり。
例えば反董卓連合が結成されたという知らせが『チーム董卓』の元へやってきた時、
「どうして、なの……」
「月……」
「どうして、《七星の宝刀》が制限カードになっちゃったんだろう……」
平常運転だったり。
※後に準制限カードになりました。
例えばその数日後、
「詠ちゃん、私にデュエルさせて! 洛陽の人達を守るために、私が戦いたい!」
「駄目に決まってるでしょ!?」
守られるべき人物なのに最前線に出ようとしたり。
例えば今この時、
「わかりました、劉備さん。そのデュエル、受けて立ちます」
連合の本隊が迫っているのにデュエルを始めたり。
賈駆は心のなかで涙しながら呟いた。ボクはどこで接し方を間違えたのだろうかと。
◇
「先攻は私ですね。カードドロー、です」
5人が見守る中で始まった、劉備と董卓のデュエル。デュエルディスクによって先攻となった董卓がカードをドローする。
なお、このデュエルは『連合本隊が来る前に早めに終わらせよう』という賈駆の提案により、初期ライフポイントは4000スタートである。
「私は手札のレベル7モンスター、《焔征竜−ブラスター》さんを除外して、魔法カード《七星の宝刀》を発動です。そしてその効果により、カードを2枚ドローします」
《七星の宝刀》は、手札またはフィールド上のレベル7モンスターを除外することで、新たに2枚のカードをドローするカードだ。
董卓のデュエルディスクと同じ形状の剣が焔の竜の胸を突き、次元の彼方へと消し飛ばす。するとデッキから2枚のカードが飛び出し、彼女の手札へと加わった。
「《七星の宝刀》かぁ〜。董卓ちゃん、凄いレアカード持ってるんだなぁ」
貧乏チーム故に、あまりレアカードには縁がない劉備は、感心して呆けた声を漏らす。彼女にはこの行為がただの手札交換に見えたのだろう。しかし、董卓が行ったのはただの手札交換ではない。
「劉備さん、感心している暇はありませんよ。私は、除外されたブラスターさんの効果を発動します」
「あ! そうか、「征竜」が除外されたってことは……!」
「その通りです。「征竜」は、除外された時にデッキから自身と同じ属性のドラゴン族モンスターを手札に加えます。ブラスターは炎属性。よって、《((八俣大蛇|ヤマタノドラゴン))》さんを手札に加えます」
次元の彼方へと飛ばされた竜の咆哮が響き渡り、それに呼応した董卓のデッキから1体の竜が彼女の手札へと加えられる。
手札交換に加え、更なるカードのサーチ。一連の流れを見た劉備は、《青眼の白龍》が大好きな友人も似たようなコンボを得意としていることを思い出した。
「続いて、私は《((荒魂|アラタマ))》さんを召喚します。このカードは、召喚に成功した時にデッキからスピリットモンスターを手札に加えます」
荒々しく、暴力的な表情をした霊魂が董卓のデュエルディスクより飛び出し、同時に彼女のデッキから新たな霊魂が手札に加わる。
そのカードは、《((和魂|ニギタマ))》。こちらは《荒魂》とは逆に慈悲深く優しげな表情をしていた。
「そして、2枚のカードを伏せて、ターン終了です。それと同時に、スピリットモンスターである《荒魂》さんは、エンドフェイズに手札に戻ります」
猛っていた霊魂が、董卓の手札へと戻っていく。
《荒魂》や《和魂》、そして《八俣大蛇》。これらのモンスターはスピリットモンスターと呼ばれるモンスター群である。
強力な効果を持つ反面、特殊召喚ができず召喚・リバースしたターンの終わりに手札に戻ってしまうというデメリットが課せられているため、扱いが非常に難しい。
それを操るということは、董卓という決闘者はかなりのデュエル・タクティクスを誇るのか。
一瞬とはいえ董卓が放つフィールに怯んでしまった劉備。目の前の少女の威圧感は、つい先程までの儚げな雰囲気とはまるで正反対ではないか。
その時ふと、水関の戦いの後に『チーム劉備』に加わった元『チーム董卓』の決闘者、華雄の言葉を思い出した。
『董卓様は、普段は心優しい少女だ。だが、デュエルとなると雰囲気は一変する。その実力はチームの中でも最も高いのだ』
なるほど。一目見た時は信じられなかったが、今こうして相対してみるとよくわかる。このデュエル、少しでも気を抜けば簡単にやられてしまうのだと。もっとも、互いの気持ちをぶつけ合うという目的で始めたのだから、気を抜くなんてことをするつもりはないのだが。
「さあ、劉備さん。貴女のターンですよ」
「……っ! いくよ、董卓ちゃん! 私のターン、ドロー!」
劉備は気を引き締め直し、カードをドローする。自分を見守ってくれている一刀達のためにも、無様なデュエルを見せるわけにはいかない。
「私は、手札を1枚墓地に送って、魔法カード《オノマト((連携|ペア))》を発動するよ!」
カード名が示す通り、このカードは『オノマトペ』に関する効果を持つ。
その効果は、手札を1枚墓地に送ることで、デッキから「ズババ」「ガガガ」「ゴゴゴ」「ドドド」の4種類のモンスターの中から1枚ずつ手札に加えるというもの。
「なるほど、私と同じくまずは手札交換ということですね」
「その通りだよ! 私が手札に加えるのは、《ゴゴゴゴースト》と《ガガガガードナー》! そして、《ゴブリンドバーグ》を召喚して効果を発動するよ!」
ゴブリン達が乗り込む3機の飛行機が出現し、彼らが運ぶコンテナが地上へ落とされる。その中から、《オノマト連携》によって手札に加えられたモンスターの1体、《ゴゴゴゴースト》が出現した。
その姿は、まるで魂だけとなった落ち武者。
「続いて《ゴゴゴゴースト》の効果を発動するよ! このモンスターが特殊召喚に成功した場合、墓地の「ゴゴゴ」モンスター、《ゴゴゴゴーレム》を守備表示で特殊召喚するよ!」
「! 《オノマト連携》で墓地に送ったカード、ですね」
董卓が気付いた通り、劉備は《オノマト連携》の発動コストとして墓地に送っていた《ゴゴゴゴーレム》を蘇生させる。その体型は太ましく、防御面で優れているかのような雰囲気を感じさせる。
また、《ゴゴゴゴーレム》を蘇生したことで《ゴゴゴゴースト》の表示形式は強制的に守備表示へと変更されてしまう。さらに、《ゴブリンドバーグ》自身も効果を使ったことにより同じく守備表示となっている。これにより、3体のモンスターは攻撃を行えない。
しかし、3体のモンスターのレベルは共に4だ。
「私は、レベル4の《ゴゴゴゴースト》と、《ゴブリンドバーグ》でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
3体のうちの2体、落ち武者とゴブリンがそれぞれ紫色と茶色の球体となり、劉備の眼前に発生した光の渦へと吸い込まれていく。
「来て! 私達の夢と希望を守る、光の戦士!」
渦より金色の光が爆発する。そこから君臨するのは、彼女達を希望へと導く光の騎士。その名は――
「《No.39 希望皇ホープ》!」
「っ! 「((No.|ナンバーズ))」……!」
左肩に39の刻印が刻まれた光り輝く騎士。通常のモンスターエクシーズとは一線を画す威圧感を放つこのモンスターは「No.」と呼ばれるカテゴリに属する。
このカテゴリはそれぞれ大陸に1枚しか存在せず、全ての「No.」を集めた決闘者は全能の力を手にすることができるとも言い伝えられている。
「このモンスターエクシーズこそ、私の一族に伝わる希望の力! さあいくよ、ホープで、董卓ちゃんに((直接攻撃|ダイレクトアタック))! ホープ剣・スラッシュ!」
希望皇ホープが右手に構えた大剣を董卓へと振り下ろす。その攻撃力は2500。これが通れば一気に半分以上のライフポイントを削り切ることができる。だが――
「それを通すわけにはいきません。私は、速攻魔法《月の書》を発動します」
三日月が描かれた書物が出現し、放たれた光が希望皇ホープを包み込む。それが収まると、騎士は裏側守備表示へと変更させられていた。
「そ、そんな!」
セット状態になったことで、攻撃は中断させられてしまう。またフィールド上に攻撃表示のモンスターが存在しないため、バトルフェイズの終了を余儀なくされる。
「……ターン、エンド……」
エースモンスターを無防備な状態にされてしまった劉備は、悔しげな表情を隠しもせず、ターン終了を宣言した。
「それでは、私のターンですね。カードをドローです。そして、まずはライフを500ポイント支払い、魔法カード《スター・ブラスト》を発動します。このカードは、ライフを500ポイント支払う毎に、手札またはフィールドのモンスター1体のレベルを1つ下げることができます。私は、《八俣大蛇》のレベルを7から6に変更します」
董卓 LP4000 → LP3500
「500ポイント……? プレイングミスだね、董卓ちゃん。それじゃあ《八俣大蛇》を召喚することはできないよ!」
そう、レベル6のモンスターを召喚するためには、1体のモンスターをリリースしなければならない。だが、董卓のフィールドにはモンスターは存在しない。
劉備の言うように、このままでは《八俣大蛇》を出すことは不可能である。
「プレイングミス、ですか。とんだロマンチストですね、劉備さん」
「え、でも…………あ! さっき手札に加えたのは……!」
「気付いたようですね。私は、《荒魂》さんの効果で手札に加えた《和魂》さんを召喚します。このモンスターが召喚に成功したことで、私はこのターンもう一度だけスピリットモンスターを召喚できます」
本来ならば、通常召喚は1ターンに1度しか行えない。そのため、モンスターをリリースして上級モンスターを召喚するアドバンス召喚は若干手間がかかる。だが、このように召喚権を増やすことでそのタイムラグを軽減することができるのである。
「私は、《和魂》さんをリリースして、レベル6となった《八俣大蛇》さんをアドバンス召喚します」
光の玉を喰らいて、8つの頭と尾を持つ大蛇がその姿を現す。天の世界にて伝わる神話において、村々を荒らしまわったとされる巨体は目の前に立つ決闘者・劉備をその眼光にて威圧する。
「ここで、墓地に送られた《和魂》さんの効果が発動されます。このモンスターは墓地に送られた時、自分のフィールドにスピリットモンスターがいれば、カードを1枚ドローします」
ディスアドバンテージが目立つアドバンス召喚。それを董卓は手札補充によって補う。その手際を見て、劉備は大蛇に威圧されているにも関わらず、感心してしまう。
「更に、手札の《((草薙剣|クサナギノツルギ))》と《((八咫鏡|ヤタノカガミ))》、そして前のターンに伏せていた《((八尺勾玉|ヤサカノマガタマ))》を《八俣大蛇》さんに装備します」
脅威は続く。董卓は3枚の装備魔法を大蛇へと装備した。3種の神器と伝えられる3枚を装備したことで、大蛇から発せられる威圧感はより一層増幅する。
「っ……! これが、最上級スピリットが放つ力……!」
一刀や義姉妹達と共に修行を積んできた劉備も、さすがにこの迫力には耐えられないのか、一歩後退ってしまう。
彼女のエースである希望皇ホープはオーバーレイ・ユニットを1つ使うことでモンスターの攻撃を防ぐ効果を持つ。しかし、セット状態である現在、その能力は発揮できない。
「それでは、「No.」には早速ですが退場して頂きます。まず私はカードを1枚伏せます。
そして、《八俣大蛇》さんで裏側守備表示のホープさんに攻撃します。((屍山血河|しざんけつが))!」
董卓は1枚のカードを魔法・罠ゾーンへとセットし、《八俣大蛇》へと攻撃命令を出す。
すると大蛇の8つの口より火炎球が放たれ、光の騎士は為す術もなくその身体を四散させる。
「ここで、装備されている《八尺勾玉》と《草薙剣》の効果が発動されます。まず、《八尺勾玉》の効果で私は破壊したモンスターの攻撃力分のライフを回復します」
《八尺勾玉》は、装備モンスターが相手モンスターを戦闘破壊した時、そのモンスターの元々の攻撃力分、自分のライフポイントを回復させる効果を持つ。希望皇ホープの攻撃力は2500。よって、その数値と同じだけ董卓のライフポイントは回復する。
董卓 LP3500 → LP6000
「続いて《草薙剣》の効果により、劉備さんに貫通ダメージを与えます」
《草薙剣》は、装備モンスターが守備モンスターを攻撃した時、その攻撃力が守備力を超えていれば、その数値だけ相手に戦闘ダメージを与える効果を持つ。
《八俣大蛇》の攻撃力は2600。対する希望皇ホープの守備力は2000。よって、600ポイントのダメージだ。
「く、うぅ……!」
劉備 LP4000 → LP3400
「たった600のダメージなのに、この衝撃……! これが董卓ちゃんのフィール……!」
「驚くのは まだ 早いです。戦闘ダメージを与えたことで、《八俣大蛇》さんの効果発動です。その効果により、私は手札が5枚になるようにカードをドローします」
「今の董卓ちゃんの手札は2枚だから……! 3枚のドロー!?」
デュエルにおいて、基本的には手札を多く持つことが有利とされている。そのため、多くの決闘者は如何に手札を節約して戦うことができるかを意識している。加えて、汎用性の高い手札補充のカードは使用を制限されることが多い。
つまり、最大で5枚もの手札補充を行うことができる《八俣大蛇》の効果は非常に強力なのである。さすがは最上級スピリットといったところか。
「これで私はターンを終了します。そして、私は《八俣大蛇》さんに装備されている《八咫鏡》の効果を適用します。このカードを装備したスピリットモンスターは、手札に戻る効果を発動せずとも良くなります。
また、戦闘によって破壊される場合、代わりにこのカードを墓地に送ることができます。さあ、どう突破しますか……?」
◆
「これは、かなり良からぬ状況ですね、ご主人様」
回復、貫通、戦闘破壊耐性、そして手札補充。強力な効果を持つ大蛇を見て、俺の隣に立つ愛紗は驚嘆の声を漏らす。
「ホープがあっさりと倒されてしまうとは……。桃香様は大丈夫でしょうか……」
義姉のエースを倒され、彼女は不安なのだろう。桃香の攻撃をいなし、即座に反撃する董卓ちゃんの実力。大人しい娘だと思っていたが、彼女が扱うデッキは、出しにくい《八俣大蛇》を投入した【スピリット】。アレは高いデュエル・タクティクスを持っていないと使いこなすことはできないデッキだ。それを巧みに操る彼女は、さすが『チーム董卓』のリーダーといったところか。
「確かに愛紗の不安はわかる。だけど、今は桃香の勝利を信じるしか無い。そうだろ?」
「……ええ、そうでした。すみません、ご主人様」
仲間や観戦者が感じる不安は、そのまま決闘者にも悪影響を与える。だから、俺達は桃香の勝利を信じ、応援するしかない。
「主の言う通りだ、愛紗。それに、董卓のデッキには付け入る隙が多くあるようだしな」
俺の言葉と同調するように、星が俺達の会話に参加する。
「どういうことだ、星。まさか、このターンだけで董卓ちゃんのデッキの弱点がわかったのか?」
「無論。鈴々はどうだ、気付いたか?」
「うん。あのお姉ちゃん、あんなに手札が増えたのに何もしなかったのだ。何かおかしいのだ」
「! そうか、5枚もの手札があって、伏せカード無し……!」
そう、スピリットモンスターは特殊召喚ができず、エンドフェイズに手札に戻るという非常に厳しいデメリットを持つ。また、手札にスピリットモンスターが必要以上に溜まることも多い。
召喚権を増やし、《八咫鏡》のようにフィールドに維持するカードを用いることである程度軽減できるが、やはり防御面で不安が残る。
特に《八俣大蛇》をフィールドに維持したいのならば、何らかの妨害札を伏せるべきであろう。それをしないということは……!
「あの自信に満ちた表情を見る限り、手札事故ということはないでしょう。手札誘発のカードを抱えているということもあるでしょうが、それでも全く伏せないというのは少々おかしい。となれば、おそらく董卓のデッキには除去・妨害のカードはそれほど入っていないはず。
賈駆よ、この趙子龍の推理、当たっているかな?」
「……ええ、正解よ。月のデッキは相手モンスターを戦闘以外で破壊するカードはほとんど入っていないわ」
賈駆は一瞬驚いた表情を見せたものの、隠していても意味は無いと悟ったのか口を割ってくれた。
「それでも、月が負けるなんてことはあり得ない。だってあの娘はチームで最もデュエルを愛しているのだから。
………………あのデュエル脳はなんとかして欲しいのだけれどね」
なるほど、多少の弱点があったとしても、それを補う実力を持っているってことか。賈駆からの信頼も厚いみたいだし、やはり厄介な相手のようだ。……ところで、最後に何か呟いていたみたいだけど、なんて言ったのだろうか。
◇
「『どう突破しますか』、か。何の問題もないよ、董卓ちゃん。《八俣大蛇》はこのターンで倒すから」
「っ! それはどういう……!?」
「それを今から見せてあげるよ! 私のターン、ドロー! まずは、《ガガガマジシャン》を召喚!」
身体に鎖を巻き付け、鋭い眼光の青年が姿を現す。名前の通り、種族は魔法使い族なのだが、そうは思えない風貌。一刀に言わせれば、「ヤンキー」のようである。
「攻撃力1500……? それでは《八俣大蛇》を倒すことは――」
「それはどうかな? 私は、魔法カード《ガガガボルト》を発動! このカードは自分フィールドに「ガガガ」モンスターがいる時、フィールドのカード1枚を破壊できる! 私が破壊するのは、当然《八俣大蛇》!!」
不良青年の右手から雷撃が迸り、大蛇を襲う。
戦闘(・・)による破壊が困難であるならば、効果(・・)で破壊してしまえば良い。直撃を受けた大蛇はその身体を焼かれ、地に倒れ伏し消滅した。
「へぅ……。《八俣大蛇》さんが……!」
よもや倒されるとは思っていなかったのだろう。董卓の表情から焦りが見え始める。
「続けていくよ! 《ゴゴゴゴーレム》を攻撃表示に変更して、バトルフェイズ! まずは《ガガガマジシャン》で攻撃! ガガガマジック!」
大蛇を葬ったことで、董卓の場は伏せカードのみとなった。絶好の機会を逃すまいと、劉備は2体のモンスターによる一斉攻撃を試みる。先陣を切るのは《ガガガマジシャン》。
不良青年はその攻撃名に反した、拳による攻撃を繰り出す。だが――
「そうは、いきません! 手札の《バトルフェーダー》さんの効果発動です! 相手モンスターの直接攻撃宣言時、このモンスターを手札から特殊召喚して、バトルフェイズを強制終了させます!」
悪魔による振り子の鐘がもたらす音が辺りに響く。それにより、不良青年の攻撃は中断させられてしまった。
「う……。また防がれた……」
またもや攻撃が通らず、劉備はやや気落ちする。こう何度も攻撃を防がれては、多少へこんでしまうのも当然と言える。
「だけど、今度はタダじゃ終わらないよ! 私は、レベル4の《ガガガマジシャン》と《ゴゴゴゴーレム》でオーバーレイ!」
不良青年は紫色の球体へ、岩石の兵は茶色の球体へと姿を変え、先程と同じく光の渦に吸い込まれて行く。
「2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
渦が赤い爆発を放ち、細剣の如き指揮棒を持つ黒服の青年が姿を現す。
「来て! 《交響魔人マエストローク》!」
守備表示にてエクシーズ召喚された黒衣の指揮者。その守備力は2300であり、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで破壊を免れる効果を持つ。
場持ちが良く、相手のターンに備えるには絶好のモンスターと言える。
「私はこれで、ターンエンド!」
攻撃は通らなかったものの、最上級モンスターを倒し、強固な壁モンスターを出すことができた。
劉備の残りライフは3400。対する董卓は6000。2600もの差があるが、まだいける。共に戦う((モンスター|仲間))を信じて、ターン終了を宣言した。
「《八俣大蛇》さんを倒すだけでなく、戦闘・効果への破壊耐性を持ったモンスターエクシーズ……。さすがです、劉備さん。
でしたら次は…………私の家に伝わる力、私が持つ「No.」でお相手いたします!」
「っ! 董卓ちゃんのフィールが、変わった……!?」
相手に威圧感を与えながらも静けさを保っていた董卓のフィール。だが、今彼女から発せられるのは、全てを飲み込まんとする宇宙の如きフィール。
また、彼女は「No.」で相手をすると宣言した。この巨大なフィールによって召喚される「No.」、いったいどれ程の脅威をもたらすのだろうか。
「私のターン、ドロー! 私は、2体の《半月竜ラディウス》さんを特殊召喚! このモンスターは、相手フィールドにモンスターエクシーズがいる時、レベル8のモンスターとして特殊召喚することができます!」
鋭い刃を持つ竜が2体現れる。攻撃力は1400という低めの数値だが、レベルが4から8となることで、威圧感を倍増させる。
「レベル8のモンスターが2体……まさか、ランク8の「No.」!?」
「そのまさかです! 私は、レベル8となった《半月竜ラディウス》さん2体でオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築! エクシーズ召喚!」
2体の竜が黄色の球体となって光の渦へと吸い込まれる。そして――
「宇宙を貫く雄叫び、遥かなる時をさかのぼり銀河の源より来てください! 顕現し、そして私達を勝利へと導いて! 《No.107 ((銀河眼の時空竜|ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン))》さん!!」
金色の爆発と共に、暴虐の竜が光誕した。
「107番目の、「No.」……!? それに――」
◆
「バカな、「((銀河眼|ギャラクシーアイズ))」だと……!?」
桃香が優勢になったと思われた直後、その自信を叩き潰すかのように董卓ちゃんが繰り出した「No.」に、愛紗は驚愕する。
頭部の右側に107の刻印を持つ竜。『「No.」の数は100枚である』と伝えられていたこの大陸で107番目の「No.」が現れたのだ。愛紗だけでなく、鈴々や星までもが目を見開いた。だが、愛紗が反応したのはそれだけではない。
あの「No.」の名に含まれる「銀河眼」。それは、彼女のデッキのエースである《((銀河眼の光子竜|ギャラクシーアイズ・フォトン・ドラゴン))》にも含まれているのだから。
「賈駆よ、これはいったいどういうことだ! なぜ「銀河眼」の名を持つ「No.」が存在するのだ!?」
「ボクに聞かないでよ! アレはあの娘が自分の家で見つけたものなんだから!」
『幽州の「銀河眼」使い』としてのプライド故か。愛紗はやや興奮しながら賈駆へと説明を求めた。
俺は再び愛紗を諌め、桃香のデュエルに集中し直すよう注意を促す。だが、やはり董卓ちゃんの「No.」……いや、「銀河眼」が気になって仕方ないようだ。
俺としては、「銀河眼」の名を持つ「No.」よりも、あのカードを使い始めた時からキャラがかなり変わった董卓ちゃんの方が気になるんだけどね……。
◇
「続けます、私は墓地の《八俣大蛇》さんを除外して、《((大和神|ヤマトノカミ))》さんを特殊召喚! このモンスターは通常召喚できず、墓地のスピリットモンスターを除外することでのみ特殊召喚できる、唯一のスピリットモンスターです!」
劉備の驚愕を余所に、董卓は猛々しい風貌を持つ戦士を召喚した。
「更に、《荒魂》さんを召喚して、デッキから2枚目の《和魂》さんを手札に加えます! そして伏せていた《((二重召喚|デュアルサモン))》を発動!」
《二重召喚》は、発動ターンの召喚権を1度だけ増やす魔法カード。現在董卓のフィールドにいるモンスターは4体。5体目のモンスターを召喚しようというのか。
「《二重召喚》の効果により、《((伊弉波|イザナミ))》さんを召喚します! そして効果を発動です! このモンスターが召喚に成功した時、手札を1枚捨てることで、墓地のスピリットモンスターを手札に加えます!」
白装束の巫女の効果により、董卓は手札に残る最後の1枚である《和魂》を墓地に捨て、前のターンに墓地に送られていた《和魂》を手札に加えた。それにより、再び《和魂》の効果が発動される。
「自分フィールドにスピリットモンスターがいる状態で《和魂》さんが墓地に送られたことにより、私はカードを1枚ドローします!」
「5体のモンスター……! でも、私のフィールドにいるのは守備力2300のマエストローク! それを上回るのは攻撃力3000の((時空竜|タキオン・ドラゴン))だけ!
それにマエストロークはオーバーレイ・ユニットを1つ使うことで破壊を防ぐ! いくら5体のモンスターが並んでいたとしても、この壁は突破できないよ!」
「それは、どうでしょうか」
「!?」
劉備が言う通り、董卓の場に並ぶのは攻撃力3000の時空竜、攻撃力2200の《大和神》、攻撃力1100の《伊弉波》、攻撃力800の《荒魂》、そして守備表示で存在するバトルフェーダー。破壊耐性を持つマエストロークを前に、これでは突破できないはずである。だが、董卓はその自信を一掃する。
「私はバトルフェイズに入り、タキオンさんの効果を発動します! オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、フィールドに存在するタキオンさん以外のモンスターの効果を無効にします! タキオン・トランスミグレイション!」
時空竜から放たれた光によりマエストロークの防御は削がれ、ただの壁へと成り果ててしまった。
「破壊耐性を失ったことで、マエストロークさんは1度の攻撃で倒すことができます。そして、タキオンさんを除くモンスターの総攻撃力は4100。対する劉備さんのライフは3400、これで終わりです!
タキオンさんでマエストロークさんを攻撃! 殲滅のタキオン・スパイラル!!」
董卓の攻撃命令を受けた時空竜の息吹がマエストロークを粉砕する――
「この瞬間、手札の《虹クリボー》の効果発動!」
――ことは無かった。
突如劉備の手札より出現した小さな悪魔が時空竜の身体を旋回し、その軌跡が虹の鎖となって締め上げる。
「《虹クリボー》は、相手モンスターの攻撃宣言時に、手札からそのモンスターの装備カードになる! そして、この効果で《虹クリボー》を装備したモンスターの攻撃を封じるよ!」
「タキオンさんが自身の効果を発動したバトルフェイズの間、相手のカード効果が発動すれば、タキオンさんの攻撃力が1000ポイントアップし、再度攻撃ができます。しかし……」
「どの道攻撃ができないから意味が無い、よね」
「でしたら、バトルフェイズを終了し、メインフェイズ2に移ります! 私は、レベル4の《荒魂》さんと《伊弉波》さんでオーバーレイ! 2体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを構築!」
勝負を決める絶好の機会を逃し、歯噛みする董卓。彼女は次のターンに備えるために新たなモンスターエクシーズを呼び出す。
「エクシーズ召喚! 来てください、《カチコチドラゴン》さん!」
大地が隆起し、岩の身体を持つ竜がその姿を現した。攻撃力は2100と、それほど高いわけではない。だが、彼女がこの岩石竜を呼び出した真意は別にある。
「そして、魔法カード《エクシーズ・ギフト》を発動します! 自分フィールドにモンスターエクシーズが2体以上いる時、フィールド上のオーバーレイ・ユニットを2つ取り除き、カードを2枚ドローします!」
董卓は、時空竜と岩石竜からそれぞれ1つずつオーバーレイ・ユニットを使うことで、2枚の手札をドローする。
「! 私はこれで、ターンエンドです!」
またもや伏せカード無しのエンド宣言。だがカードをドローした時に見せた、彼女の驚くような表情。いったい何を引き当てたというのだろうか。
「私のターン! 私は、魔法カード《エクシーズ・リベンジ》を発動! 墓地からホープを特殊召喚して、相手のモンスターエクシーズのオーバーレイ・ユニットをホープのオーバーレイ・ユニットにするよ!」
墓地から光の騎士が蘇り、《カチコチドラゴン》に残っていた最後のオーバーレイ・ユニットを奪い取る。
「攻撃表示で特殊召喚、ですか。しかし、ホープさんの攻撃力は2500。タキオンさんには届きません!」
「うん。今の私の手札じゃ、そのモンスターには勝てない。だから、このカードに懸ける! 魔法カード《エクシーズ・ギフト》! 効果が無効となっているマエストロークから2つのオーバーレイ・ユニットを使って、2枚ドロー!」
「私と同じカードを……!」
マエストロークから取り除かれた2つの光球が墓地へ送られ、新たに2枚のカードが劉備の手札に加わる。
そのカードを手にした彼女は、笑った。
つまり、逆転のカードを引き当てたのだ。
「私は、装備魔法《ガガガリベンジ》を発動するよ! 墓地の「ガガガ」モンスターを特殊召喚して、このカードを装備! もう1度力を貸して、《ガガガマジシャン》!」
棺が開かれ、《ガガガマジシャン》が復活する。そして――
「続いて《ガガガガードナー》を通常召喚して、2体のレベル4モンスターでオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《ガガガガンマン》!」
2丁の拳銃を持ったカウボーイ風の青年が現れる。なお、今劉備が召喚した《ガガガガードナー》は、相手の直接攻撃宣言時に特殊召喚する効果を持つ。彼女はその防御を捨て、攻撃に転じたのである。
「ここで、《ガガガリベンジ》のもう1つの効果発動! 装備モンスターがオーバーレイ・ユニットになる事でこのカードが墓地に送られた時、自分フィールドの全てのモンスターエクシーズの攻撃力を300ポイントアップさせるよ!」
この効果により、希望皇ホープの攻撃力は2800、《ガガガガンマン》の攻撃力は1800。マエストロークの攻撃力は2100となる。
「ですが、それでもタキオンさんの攻撃力には及びません!」
「それは、どうかな? 董卓ちゃん」
「え……?」
「《ガガガガンマン》の効果発動! オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、表示形式によって異なる効果を適用するよ! 今、《ガガガガンマン》は攻撃表示!
このカードが相手モンスターとバトルする時、自身の攻撃力を1000ポイントアップさせて、相手モンスターの攻撃力を500ポイント下げる!」
「ということは……!」
「そう、時空竜はこのターンで倒すよ! バトルフェイズ! まずは《ガガガガンマン》で時空竜を攻撃!」
2丁の拳銃が時空竜を撃ち抜き、その攻撃力を下げる。その結果、時空竜の攻撃力は2500まで下げられ、一方カウボーイの攻撃力は2800まで上昇した。
「タキオンさんの攻撃力を上回った……!?」
攻撃力が逆転したことを確認した《ガガガガンマン》は、手にしていた拳銃をしまうと、時空竜へと拳を繰り出し粉砕した。どうやら、「ガガガ」モンスターはいずれも武闘派のようである。
「タキオンさん……!」
董卓 LP6000 → LP5700
「もう一撃! ホープで《大和神》を攻撃! ホープ剣・ツインブレード・シュート!」
希望皇ホープが両手に構えた大剣を連結し、《大和神》へと投擲する。回転する斬撃を受けた《大和神》は、その身体を引き裂かれた。
「へぅ……!」
董卓 LP5700 → LP5100
「私は、カードを1枚伏せて、ターンエンド! 今度こそ形勢逆転だよ、董卓ちゃん!」
2体のモンスターを破壊したことで、董卓のフィールドはオーバーレイ・ユニットを持たない《カチコチドラゴン》と、守備力0のバトルフェーダーのみ。
一方劉備は手札を0にしたものの、フィールドには3体のモンスターエクシーズと伏せカード1枚。ライフポイントは劣っていても、この布陣なら勝てる。ターン終了を宣言した彼女はそう確信する。 だが――
「………………ない……」
「?」
「私は、負けたくないです!!」
◆
「……このデュエル、月の勝ちのようね」
「賈駆、それはいったいどういうことなんだ?」
董卓ちゃんの絶叫。唖然とする俺達を余所に、そんな彼女を見た賈駆が呟く。
「北郷一刀。アンタは気付いてない? あの娘が「No.」を出す時から、語気が少し強くなったこと」
「そりゃあもちろん気付いてるよ。あんな儚げな女の子が急に大きな声を出すんだから」
朱里や雛里も、普段は大人しいけど、デュエルとなると多少強気になる。俺はてっきり董卓ちゃんも同じなんだと思っていた。だが、さすがにこれは……。
「なら、『「No.」を手にした者は好戦的になる』って噂は聞いたことある?」
「……ある。以前戦った黄巾党も、連合内の諸侯も、「No.」を使う決闘者はやたら強気だった」
特に、曹操。共に黄巾党討伐をした際、『奴等をデュエルで拘束せよ!!』と叫びながら「No.」を出しまくっていた。その中でも《No.80 狂装覇王ラプソディ・イン・バーサーク》を召喚することが最も多かった。
「もっとも、董卓ちゃんみたいになる人は見たことがないけどね」
「でしょうね。これはボクの推測だけど、元々の性格が大人しい、または内気な人物であればあるほど、「No.」の影響を大きく受けるはずよ。
月は優しい娘だけど、デュエル以外は内向的。だから「No.」を使うことで、ああなっちゃうのよ」
なるほど、納得だ。ということは、はわあわコンビが「No.」を使うと、董卓ちゃんみたいになるってことか。……あんまり想像したくないかも。
と、そこへ愛紗が会話に加わる。
「だが賈駆よ、待って欲しい。その話が真実だとしても、今のフィールドは桃香様が圧倒的に有利。董卓の勝利を確信するのはまだ早いのでは?」
「普通はそうね。だけど、月が『負けたくない』と叫んだ以上、次のドローで引き当てるのは高確率で((あのカード|・・・・・))。あれを使ったデュエルであの娘が負けたことは、無い」
「な、なんだと!?」
虎牢関で連合を苦しめた呂布。そんな彼女でさえも敵わないという董卓ちゃんの切り札、か。それはいったいどれ程の力を秘めているのだろうか。
「……………………なんでボクがこんな解説しているのよ……」
「? 何か言った?」
「なんでもないわ…………はぁ」
なんかよくわからんけど、苦労しているようだ。
◇
「と、董卓……ちゃん? ど、どうしちゃったの?」
後方の一刀達と同様に、劉備は((慄|おのの))いていた。いや、同様ではないだろう。より強くなった董卓のフィールを間近で受けた劉備の狼狽は彼ら以上だ。
「《八俣大蛇》さんだけでなく「No.」まで……。もう、((究極の銀河眼|・・・・・・))を出すしかないようです……」
「!? 董卓ちゃんのデッキが、赤く光ってる……!?」
赤く輝き出す董卓のデッキ。それは辺り一帯を侵蝕し、劉備のフィールドに立つモンスターをも戦慄させる。
「行きます! ここからが私の本当の力! バリアンズカオス……ドローッ!」
宣言と共に、光を大きくしながら董卓はカードをドローする。彼女が引き当てたのは――
「私はっ! 《((RUM|ランクアップマジック))−((七皇の剣|ザ・セブンス・ワン))》を発動します!!」
「ら、ランクアップマジック!?」
《七星の宝刀》と同様、北斗七星が描かれた魔法カード。発動された瞬間、墓地より倒したはずの時空竜が蘇った。
「倒したはずの、時空竜が……!」
「このカードは、自分のエクストラデッキ・墓地からオーバーハンドレッド・ナンバーズを特殊召喚し、そのモンスターをランクアップさせ、カオスエクシーズを特殊召喚します!
私は、ランク8の銀河眼の時空竜さんでオーバーレイ! 1体のモンスターでオーバーレイ・ネットワークを再構築! カオスエクシーズチェンジ!」
上空に現れた黒い渦。復活した時空竜が、赤い光となって吸い込まれて行く。
「我が魂に宿りし粒子! 今、光を超えた力となりて時を逆巻き顕現してください! ランク9! 《((CNo.107|カオスナンバーズ107)) ((超銀河眼の時空竜|ネオ・ギャラクシーアイズ・タキオン・ドラゴン))》さん!!」
「モンスターエクシーズのランクが上がった!?」
輝く金色の身体を持つ三つ首の龍が咆哮する。その目の前には通常のモンスターエクシーズと異なり、オーバーレイ・ユニットは光球ではなく金と赤の結晶が浮遊する。
そして、その龍が持つ4500という攻撃力。まるで、公孫賛の切り札である((青眼の究極竜|ブルーアイズ・アルティメット・ドラゴン))ではないか。
「これで終わりではありませんよ! 私は、《和魂》さんと《夜叉》さんを召喚します! そして《夜叉》さんが召喚に成功した時、相手の魔法・罠を1枚手札に戻します!」
「っ! チェーンして罠発動、《ブレイクスルー・スキル》! 相手モンスター1体の効果を無効にするよ! 対象はネオ・タキオン!」
パリン、と。何かが割れる音が響いた。劉備が発動した罠が、時空龍の能力を打ち消したのである。
「でしたら、レベル4の《和魂》さんと《夜叉》さんでオーバーレイ! エクシーズ召喚! 《フェアリー・チア・ガール》さん! そして、オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、効果を発動します!」
蝶の羽根を広げ、両手にポンポンを持った少女が現れ、その効果が発動される。周囲を旋回していた光球が墓地へ送られると、董卓のデッキトップから新たなカードが彼女の手札に加えられる。
「続いて、《RUM−バリアンズ・フォース》を発動です! このカードは、フィールド上のモンスターエクシーズ1体をランクアップさせて、カオス化します!
私は、ランク4の《フェアリー・チア・ガール》でオーバーレイ・ネットワークを再構築します!」
「嘘!? 2枚目のランクアップマジック!?」
《フェアリー・チア・ガール》が時空竜と同じく赤い光となって黒い渦へと吸い込まれる。そして緑色の爆発と共に、その身を黒く染めた少女が姿を現す。
「来て下さい、ランク5! 《((CX|カオスエクシーズ)) ダーク・フェアリー・チア・ガール》さん!」
その名の通り、属性を光から闇へと変えたチアガール。表情は朗らかなものから一転して威圧的に、攻撃的なものになる。まるで今の董卓のフィールのようだ。
「そんな……、モンスターエクシーズのランクを2体も上げるなんて……!」
見たことも聞いたこともないカードによって呼び出された2体のカオスエクシーズ。その姿を前に、劉備は3歩後退する。だが――
「驚くのは! まだ 早いです! バリアンズ・フォースのもう1つの効果! 相手フィールド上のオーバーレイ・ユニットを1つ、ダーク・フェアリーさんのカオス・オーバーレイ・ユニットにします! カオス・ドレイン!」
「あぁ! ホープのオーバーレイ・ユニットが!」
希望皇ホープからオーバーレイ・ユニットが奪われ、その光球は銀と赤の結晶となってダーク・フェアリーの眼前を浮遊する。
また、オーバーレイ・ユニットが無くなったことで希望皇ホープの輝く身体は色を濁らせていく。
「バトルフェイズに入ります! まずは、ダーク・フェアリーさんでマエストロークさんを攻撃です! フェアリー・ターン・パーティクル!」
攻撃名の通り、ダーク・フェアリーの身体が回転し、巻き起こった竜巻がマエストロークを吹き飛ばす。
「くぅ……! マエストローク!」
「この瞬間、ダーク・フェアリーさんの効果発動です! 相手モンスターを戦闘で破壊した時、カオス・オーバーレイ・ユニットを1つ使うことで、私の手札1枚につき、400ポイントのダメージを与えます! ((黒光弾子鹿跳|ダークバンビ・ジャンパー))!」
ダーク・フェアリーのカオス・オーバーレイ・ユニットが杖へと姿を変え、そこから放たれた光弾が劉備を襲う。
「くぅううう!?」
劉備 LP3400 → LP3000
董卓の手札は1枚しかないため、受けたダメージは400のみ。だが、その衝撃は《八俣大蛇》が放った攻撃を上回る。これが、カオスエクシーズの力ということだろうか。
「続いて、ネオ・タキオンさんでホープさんを攻撃です!」
「ホープの効果! オーバーレイ・ユニットが無い状態で攻撃対象になった時、自壊する!」
輝きを失った希望皇ホープ。その身体は、攻撃対象となった瞬間崩れ落ちていった。
「自壊、ですか。ならば攻撃対象を《ガガガガンマン》さんに変更です! アルティメット・タキオン・スパイラル!!」
時空龍の3つの口から放たれた息吹が収束し、《ガガガガンマン》を消し飛ばす。両者の攻撃力の差は2700。つまり、《青眼の白龍》の直接攻撃に迫らんとする威力のダメージを受けることになる。
「ぐ、きゃあああああ!?」
劉備 LP3000 → LP300
カオス・オーバーハンドレッド・ナンバーズによる莫大な戦闘ダメージ。その衝撃をまともに受けた劉備は後方へと大きく弾き飛ばされた。
◆
「桃香!!」
董卓ちゃんが召喚した龍の攻撃を受けた桃香が吹き飛ばされてくる。落下地点に先回りした俺は、なんとか彼女を受け止めることができた。
そして俺に少し遅れて、愛紗に鈴々、星も駆け寄って来てくれる。
「大丈夫か、桃香」
「あ、あはは……。あんまり大丈夫じゃないかも……」
無理もない。未知のカードで呼び出されたモンスターエクシーズの攻撃を2度も受けたんだ。普通なら意識を失っていてもおかしくない。
耐え切ることができたのは、デュエルに備えて体力強化を施したおかげだろう。
「でも、ここで倒れるわけには……いかない、よね」
桃香は身体をよろめかせながら、なんとか立ち上がる。そう、まだ倒れてはいけない。董卓ちゃんにはもう1体のモンスターの攻撃が残されているのだから。
董卓ちゃんは、桃香が立ち上がるのを確認すると、《カチコチドラゴン》へと攻撃命令を下す。
「それでは、これで決めさせて頂きます。《カチコチドラゴン》さんで、劉備さんに直接攻撃!」
大地が隆起し、桃香へと迫る。この攻撃を受ければ桃香の敗北は決定する。だが、桃香の墓地にはあのモンスターがいる。
「私は、墓地の《虹クリボー》の効果を発動! 相手モンスターが直接攻撃をして来た時、このモンスターを特殊召喚するよ!」
「!? 墓地から!?」
墓地から守備表示で特殊召喚された《虹クリボー》。その守備力は100しかないため、攻撃力2100の《カチコチドラゴン》の前にあっさりと敗れ去る。だが、どうにか桃香への攻撃を防ぐことができた。
また、自身の効果で特殊召喚された《虹クリボー》は除外されてしまうため、もう攻撃を防ぐことはできない。
《虹クリボー》、お前はよくやってくれたよ。
「防ぎましたか……。ですが、それでも私の勝利が揺らぐことはありません」
「それは……どういうことかな、董卓ちゃん」
「まず1つ。ネオ・タキオンさんは、タキオンさんをカオス・オーバーレイ・ユニットとして持っている時、自分フィールド上のモンスター2体をリリースすることで、相手モンスターへの3回攻撃が可能となります。
更に、カオス・オーバーレイ・ユニットを使うことで、表側表示のカード効果をエンドフェイズまで無効にし、ターン終了時まで相手フィールド上のカード効果の発動を封じます。
2つめ。先程のようにダーク・フェアリーさんは相手モンスターを破壊した時、カオス・オーバーレイ・ユニットを使うことで私の手札1枚につき400ポイントのダメージを劉備さんへ与えられます。
また、今から私が伏せるカード。それは《メテオ・レイン》。発動ターンに私のモンスターに貫通能力を付与する罠カードです。つまり、守備モンスターを伏せても無意味。
以上の点から、もう貴女には勝ち目が無いのです」
「そ、そんな……」
「私は、カードを……《メテオ・レイン》を伏せて、ターンエンドです。さあ劉備さん、貴女のラストターンです」
フィールドを意のままに操る龍に、バーン効果を持つ闇天使。そして《メテオ・レイン》。
一方、桃香は手札0。フィールド0。残りライフ300。墓地にも相手を妨害できるカードは残っていない。
まさに万事休す。絶望的な盤面を前に、桃香の眼から光が消えていく。だが――
「かっとビングだ、桃香!!」
「ご主人……、様?」
「まだ君はカードをドローしていない。その前から諦めてはいけないと、俺は教えてきたはずだ」
「で、でも! この状況じゃあ、何を引いても勝てっこない! 私のデッキにはこの状況を覆すカードなんて…………あ! もしかして――」
「そう、((ZEXAL|ゼアル))だ」
――ZEXAL
それは、この世界に伝わる究極の力。そして『クリアマインド』と同じく、選ばれた決闘者のみがたどり着けるという境地。
辿り着くためには、どんな時でも決して諦めずにあらゆる困難へと一歩踏み出してチャレンジする精神、『かっとビング』を極限まで高めなければならない。
「このデュエルは、桃香の思いを董卓ちゃんにぶつけるためのもの。それなのに、君がデュエルを諦めるなんてこと、しちゃいけない
それに、あの桃園で誓ったはずだ」
『同年同月同日に生まれることを得ずとも、同年同月同日に死せるまで、「かっとビング」し続けることを誓わん』
たとえどのような困難が立ちはだかろうとも、諦めず、一歩踏み出していく。そして、いつの日か誰もが笑顔でデュエルできる世の中にすると誓った桃園の誓い。
俺達の心に根付く大切な思い出。
「そうだ、そうだよね。チームリーダーの私が、あの誓いを破るなんてこと、しちゃいけないよね。
それに、まだ私の思いをぶつけきってない。
……最後の最後まで、絶対に諦めない! それが私の! 私達の! 『チーム劉備』の!」
――かっとビング!!
洛陽全てへ響きわたるかのような桃香の叫び。それに応えるかのように、変化が起こる。
「! 俺と桃香の身体が……!」
「輝いてる……!?」
俺の身体は蒼く……、桃香の身体は紅く輝き出す。その光は辺り一帯を包み込む。
徐々に俺達の力が高まるのを感じる。つまりこれが……。
「桃香。行くぞ……!」
「うん、ご主人様!」
奇跡を起こす、伝説の力!
「俺と!」
「私で!」
「「オーバーレイ!!」」
俺と桃香の身体が中へと浮き上がり、その軌跡が螺旋を描く。
「俺達2人でオーバーレイ・ネットワークを構築!」
地上から『どういう……ことだ……』と聞こえた気がした。
「遠き2つの魂が交わる時、語り継がれし力が現れる!」
螺旋は再び地上へ戻り、光の爆発と共に、究極の力が誕生した。
「『エクシーズチェンジ! ZEXAL!!』」
――長く流れる桃色の髪は、先端を茶色に染め、純白のヘルメットに包まれる。
――右目は蒼く、左目は黄金の輝きを放ち、目の前に立つ決闘者を見据える。
――桃香が纏っていた衣服の上を、俺の学生服が肩から外套のように包み込み、棚引く。
――左腕に構える『靖王伝家』は金色に輝く。
「その、姿……。もしかして、劉備さん達は合体したというんですか!?」
理解が追いつかないのか、激しく狼狽する董卓ちゃん。無理もない。決闘者同士の魂のオーバーレイを見たことがある決闘者なんて、大陸に1人か2人いればいい方だろうから。
『その通りだ、董卓ちゃん。これがZEXAL』
「この力で、最後の全力を董卓ちゃんにぶつけてみせる!」
『俺と!』
「私の!」
「『タァアアアアアン!!』」
2人で同時に叫び、カードをドローする。
そのカードを、俺達は確認せずに『靖王伝家』へと挿入する。
「『魔法発動! 《エクシーズ・トレジャー》!』」
このカードは、フィールド上のモンスターエクシーズ1体につき、カードを1枚ドローするカード。
現在、フィールドに存在するモンスターエクシーズは3体。よって、3枚のドローだ。
「確認もせずに発動!? そんな、あり得ない!」
背後から賈駆が驚愕の声を上げる。
だが、今の俺達はZEXALとなっている。その力を使えば、《エクシーズ・トレジャー》を引き当てたのは必然となる。
そして、この3枚のドローが新たな奇跡を起こす。
『最強決闘者のデュエルは全て必然!』
「ドローカードさえも、決闘者が創造する!」
「『シャイニングドローォオオオオオ!!』」
究極のドローによって、金色に輝くデッキから引き当てられた3枚の((希望|カード))。これで、勝利の方程式は揃った!
「私達は、魔法カード《死者蘇生》を発動するよ! 言わずと知れたその効果で、墓地のホープを特殊召喚!」
死の淵より再び蘇る光の騎士。これこそが、俺達を勝利へ導く1枚目。
「「No.」を復活させましたか。しかし、オーバーレイ・ユニットを持たないホープさんでは、何もできません!」
確かに、オーバーレイ・ユニットを持たない希望皇ホープならこの状況を覆すことはできない。
『だから、こうするのさ! 俺達は、希望皇ホープをカオスエクシーズチェンジ!』
「「RUM」を使わないカオスエクシーズチェンジ!?」
ホープが待機形態となって光の渦へと吸い込まれて行く。そこから現れたのは、黒く巨大な剣。
その剣が展開され、4本の腕を持つ新たなホープが特殊召喚される。
「『混沌を光に変える使者! 《CNo.39 希望皇ホープレイ》!!』」
ZEXALとなったことで生み出された、新たなる希望。これこそ2枚目のキーカード。
「更に、魔法カード《オーバーレイ・リジェネレート》を発動! このカードを、ホープレイのオーバーレイ・ユニットにするよ!」
ホープレイに新たなオーバーレイ・ユニットが追加され、その数は2つとなる。これが、3枚目!
『ここからだ! ホープレイの効果発動! 俺達のライフが1000以下の時、オーバーレイ・ユニットを1つ使う毎に、自身の攻撃力を500ポイントアップさせ、相手モンスターの攻撃力を1000ポイント下げる!』
「私達は2つのオーバーレイ・ユニットを使い、ホープレイの攻撃力を1000アップさせ、ネオ・タキオンの攻撃力を2000下げる!
オーバーレイ・チャージ!!」
ホープレイが4本の腕で構える3本の剣のうち、一際巨大な剣に2つの光球が吸い込まれる。すると、ホープレイの身体が黒から白へとその色を変え、攻撃力を上昇させる。
また、攻撃力を大きく下げられたネオ・タキオンは、金色の輝きを失っていく。
「攻撃力3500……! ですが、その攻撃力では私のモンスターさん達を倒せても、私のライフは削りきれません!」
――それは、どうかな!?
『これが、最後のカード! ZEXALによって生み出されたもう1つの力!!』
「私達は、手札のモンスター《((ZW|ゼアル・ウェポン))−((阿修羅副腕|アシュラ・ブロー))》の効果を発動だよ!」
「『このモンスターを、攻撃力1000ポイントアップの装備カードとして、自分フィールドの「希望皇ホープ」と名のつくモンスターに装備!
そして、装備モンスターは相手フィールド上の全てのモンスターに攻撃できる!!』」
ホープレイに更に2本の腕が追加され、その数は6。それぞれの腕で合計5本の剣を構える姿はまさに阿修羅。
「全体攻撃……ということは…………! 攻撃力4500の4回攻撃!?」
驚愕に目を見開く董卓ちゃん。そう、この力があれば5100ものライフポイントを持っていたとしても、削りきれる!
『バトルだ! 桃香、これで決めるぞ!』
「了解だよ、ご主人様! ホープレイで、全てのモンスターに連続攻撃!」
「『ホープ剣・アシュラ・ディバイダァアアアアア!!』」
ホープレイが繰り出す無数の斬撃が、《バトルフェーダー》を、《カチコチドラゴン》を、ネオ・タキオンを、ダーク・フェアリーを切り刻む。
ZEXALとなった俺達が放つフィールと連続攻撃による衝撃。その威力を受けた董卓ちゃんは、身体を空中へと投げ出していった。
董卓 LP5100 → LP0
◇
――詠ちゃんを、皆を、護りたかった。
私は自分1人では何もできず、周りの人達に護ってもらってばかりでした。
デュエル・タクティクスは低く、賊の討伐に向かう時、いつも私はお留守番。
討伐を終えてボロボロの身体で帰ってくる恋さんや((霞|シア))さん、華雄さんを見て、いつも胸が苦しくなりました。
そんなある日、私は屋敷の倉庫から、「No.」と「RUM」を見つけました。
その力を手にした私は思いました、『これがあれば、皆を護ることができる』と。
でも、現実は大して変わりませんでした。チーム内では勝率TOPに立つことができたものの、『リーダーの月を前線に立たせるわけにはいかない』と詠ちゃんに止められ、反董卓連合を組まれても、やっぱり前線に立つのは恋さん達。
チームリーダーという立場が、『暴君董卓』という汚名が、私を縛り付けていました。
でも、私はついに『チーム董卓』以外の人とデュエルをする機会を得ました。
洛陽から脱出しようとしていた私と詠ちゃんを保護しようとしてくれる『チーム劉備』の人達。
私が彼等の好意に若干訝しんでいると、チームリーダーの劉備さんが、こう提案してきたのです。『デュエルをして、お互いの気持ちをぶつけ合おう』と。
私は心が躍りました。やっと、詠ちゃん達以外の人とデュエルができる。私の力を試すことができるのだと。
あと一歩で勝てるはずでした。「RUM」を2枚も使って出した2体のカオスエクシーズ。負ける要素なんて、1つも無かったはずなのです。
だけど、私は負けました。究極の力、ZEXALによって。
反則だろうと思う気持ちがありましたが、同時に納得もしました。何があっても諦めずに立ち向かう心を持つ『チーム劉備』の人達。
そんな人達に、力を手にしただけで、強くなったのだと勘違いしていた私が、勝てるはずがないのだと。
詠ちゃん達も、だから私を戦わせようとしなかったのだろう。
――やっぱり私は、誰かに護られてばかりのお人形さん。
劉備さんの「CNo.」の攻撃を受け、私は空中に投げ出されながら、そんなことを考えていた。
もうすぐ私は、地面に叩きつけられ、痛みに苦しむのだろう。
でも、痛みはやって来ませんでした。代わりに感じるのは、私を包み込む暖かな温もり。
見上げると、輝く白い衣を纏った男性が私を受け止めていました。
「大丈夫? 董卓ちゃん」
「へぅ……」
笑顔で問いかけてくる彼に対して、私は上手く言葉を返せませんでした。どうして、こんな弱い私を助けてくれるのでしょうか。
「どうしてって顔だね。デュエルの前にも言ったけど、俺は困っている女の子を放っておけないんだ。特に、君みたいに可愛い娘なら、尚更だよ」
「でも、私は……」
「董卓ちゃん。2体のカオスエクシーズを倒した時に、君の心が俺達に流れ込んできたんだ。
今まで、辛かっただろう」
「っ! ……それなら、わかったはずです。私の罪を、愚かさを……」
まさしく、力に溺れた『暴君』。だから助けてもらう資格なんて……。
「そんなことない。誰かを護りたいという気持ちが愚かだなんてこと、ある筈がない。君はただ、少し焦っていただけなんだ。
だから、今度は俺達『チーム劉備』が君を支える。友達を護りたいっていう君の心を」
「…………」
――ああ。敵わない、ですね。この人達には。
「董卓ちゃん?」
「月、です」
だから受け入れよう、彼等を。
「性は董、名は卓。字は仲穎。そして、真名を月と言います。私達の全て、『チーム劉備』の皆さんへ捧げます」
私の全てを受け入れてくれる、素晴らしいチームを。
「俺は、性は北郷、名は一刀。字も真名も無いから、好きなように呼んでくれて構わない。これからよろしくな、月」
「……はい、ご主人様」
これからは、諸侯がしのぎを削る群雄割拠の時代となるのでしょう。でも、この人達なら何の問題もない。そんな確信が今の私にはありました。
天に浮かぶ真昼の月が、私達のこれからを見守ってくれている、そんな気がしました。
●オマケ1……あ、桃香ちゃんいたんだ
桃香「あれ、私は?」
一刀「あっ」
美味しいところは一刀さんが持っていく。
●オマケ2……賈駆文和の憂鬱
愛紗「さすが桃香様とご主人様だ!」
鈴々「かっこよかったのだ!」
星「それでこそ、『チーム劉備』の主!」
詠(なんなのこの人達……)
詠ちゃんの苦悩は続く。
●オマケ3……管理者2人でオーバーレイ!
于吉「左慈、私とオーバーレイしましょう。フフフフフ……」
左慈「」
左慈の苦悩も続く。
Q.月ちゃんのキャラ崩壊しすぎ、訴訟。
A.全部ドン・サウザンドってやつのせいなんだ。
Q.かっとビングって?
A.いずれわかるさ。いずれな。
Q.結局オーバーレイしてるじゃん。
A.今は反省している。
Q.鈴々のセリフが少なすぎるのだ、訴訟。(匿名希望さん)
A.そのうちデュエルさせるから許してくれ。
Q.ご主人様と合体したい。(漢女Aさん)
A.どうぞどうぞ。
登場人物紹介その3
『劉備』
皆が笑顔でデュエルができる世の中にするために頑張る巨乳さん。
本作ではデュエル至上主義となっているため、デュエルの勉強だけは頑張っている模様。
一刀さんとオーバーレイするというふざけたことをしてしまったのは、書いている時に卒論作成の疲れで頭がおかしくなっていたからに違いない。
使用デッキは【遊馬デッキ】
ただし、遊馬先生みたいにカウンセリングはできない。
ホープレイラインがめんどくさい。
『董卓』
銀河眼大好きのデュエル脳ロリ。
キャラ崩壊が著しいキャラの1人。詠ちゃん頑張れ。
普段は原作通りの性格だが、デュエルになると好戦的になる。詠ちゃん頑張れ。
使用デッキは【スピリット+ミザエル】
《七星の宝刀》で《焔征竜−ブラスター》を除外して《八岐大蛇》を手札に加えて戦う【スピリット】にする予定だったのに《RUM−七皇の剣》と《半月竜ラディウス》のせいでミザエル要素が紛れ込んでいた。
同じ銀河眼使いの愛紗との仲は悪く、頻繁に争っている。詠ちゃん頑張れ。
説明 | ||
恋姫†無双と遊戯王を組み合わせた短編集。 《自重》をリリースした結果、カオスが生まれてしまった。 この話を書いていて、ツッコミ役はある程度必要だと実感。 ハーメルン様とのマルチ投稿です。 |
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