真・恋姫†無双 〜胡蝶天正〜 第三部 第06話
[全5ページ]
-1ページ-

 

 

 

 

 

この作品は、北郷一刀の性能が上方修正されています。はっきり申しましてチートです。

 

また、オリジナルキャラクターやパロディなどが含まれております。

 

その様なものが嫌いな方はご注意ください。

 

 

 

 

 

 

-2ページ-

 

 

水関を抜け、虎牢関へと伸びる街道に入る手前の開けたくぼ地。

そこで連合軍は今後の方針の検討と兵の疲れを癒す為に野営する事に決まる。

水関で唯一武功を起てた俺達は連合の中央付近に陣を構える事になり、周囲を他の諸侯が固めてくれるので安心して休めるようになった。

「あ、お疲れ様っす大将。これだけの戦で怪我一つ無いのは流石っすね」

陣を張っている途中、俺は聞き慣れた少女の声が耳に入りそちらを向く。

そこには今回の戦で使った武具を手入れする為に、急ごしらえの鍛冶炉を兵士達に作らせている正の姿があった。

「正もお疲れ様。今回は本当に助かったよ、正が作ってくれたネットランチャーのお陰で難なく華雄を捕まえる事が出来た」

「アタイはもう戦場はコリゴリっすよぉ〜!・・・・・・大将、実際に使ってみて分かったんすけど、あの試作品は使い物にならないっすね。使う火薬の量と効果が割に合わなすぎっす」

正は両の手を使って大げさなリアクションをしながら、俺に試作品の報告をしてくる。

今の時代では恐らく世界最高の技術力を有するであろう正の工房の力量を計る為に試作してもらったネットランチャー。

それを何とか形にするだけの技術力は在ったのだが、今の時代では火薬自体が貴重なので実用には向かなかったらしい。

「そっか、態々作ってもらったのにすまなかったね」

「作るの自体は面白かったし別に良いっすよ。ただ、心配なのは今量産しているあっちの方っすね。概念的にはこれと大して変わらないっすから、折角作ったのに役に立たない可能性もあるっす」

そう言いながら正は近くに置いてあったネットランチャーを持ち上げてこちらに見せる。

まぁ今回の結果が芳しくなかったし、作った本人としては色々と考えるところもあるのだろう。

だが、それに関しては心配は無用だろう。

「その点に関しては問題ないよ。今回の試作品みたいに単体で運用する物じゃないし、有効範囲も網とは段違いだよ」

「そうっすかねぇ?アタイとしてはあんまり自信ないっすけど」

「まぁある程度数を揃えて訓練してみればわかるさ、それはそうと捕まえた敵の武将は?」

「華雄将軍っすか?"敵の手に落ちるくらいなら死んだほうがマシだ!"とか言って自決しようとするもんっすから向こうの天幕で簀巻きにされてるっすよ」

そう言いながら正は俺の天幕が張ってある方向を指差す。

華雄はこの戦における重要人物の一人。

当然、捕縛した事は他の諸侯も知るところとなっている。

彼女から引き出した情報は共有するという話で纏まってはいるが、俺にとって不利になる情報を提供する気は毛頭無い。

麗羽や袁術たちは兎も角、他の有力な諸侯はその事に薄々勘付いてはいるだろうから、当然の事ながら間諜を放ち情報を盗み、あわよくば華雄の身柄を密かに持ち帰り、彼女を逃げた事にして俺の面子を潰しに来る可能性まである。

そんな輩から守るために風達に彼女の身柄の安全も確保して欲しいとお願いしていた。

恐らく俺が休む天幕の近くに華雄を置き、諜報部隊を使って俺の身の安全とセットで守らせたほうが得策と考えての事だろう。

それにしても、敵の手に落ちたとはいえ下手に自決を図って簀巻きにされるとは・・・・・春蘭じゃあるまいに。

「何と言うか・・・・。体育会系特有のアルアル展開だな」

「たいいくかいけい?」

「気にしなくていいよ・・・・。他の皆はまだ戻ってきてないのかな?」

「星の姉御達もまだ陣を張る作業中っすね。もうそろそろ戻ってくると思うっす」

「そっか・・・・・正、もう少ししたら華雄を俺が直接尋問するって皆が戻ってきたらそれとなく伝えといてもらえるかな?」

「了解っす」

俺は正との会話を早々に切り上げて残った仕事に取り掛かる。

 

 

-3ページ-

 

 

一通りの仕事を終えてから一休みした後、他の場所の作業の進行具合を見て廻っている途中で星や風達と合流する。

「正殿から華雄を尋問すると話を聞きました。我々も同行しても構いませんね?」

「ああ勿論、その為に正に声を掛けたのだから問題ないよ。それじゃあ、華雄のところまで行こうか」

俺達は華雄が簀巻きにされている天幕へと向かう。

その途中で風はこの戦に赴く前に俺が言った事を確認する為に話しかけてくる。

「お兄さんは華雄さんを尋問するといいましたが、こちらへと引き入れる交渉も一緒に行うつもりですかー?」

俺の周囲には常に諜報部隊が居る為、諸侯が放った間諜に聞かれる心配は無いと分かっている風は遠まわしな言い方をせず、単刀直入に聞いて来る。

「そのつもりだよ。今回の水関の作戦でも分かるように、大将の俺が前線に出なきゃいけないくらい俺達は人手不足だからね。いい人材は一人でも多くこちらに引き入れないと」

「しかし主、あの手の武人は死しても主君への不義理は働かないもの。そう簡単にこちらに就くとは思えませぬぞ」

星の意見も最もな話だ。

簡単に主君を裏切るような将ならば、水関が攻められた時点で開門してこちら側に・・・・・。

いや、それ以前に水関の守備には就かず、日和見し易い本丸である洛陽の守備にまわっていた事だろう。

「金や地位で転ぶような人物ではないのは確かだね。だが、そういう人物だからこそ仲間になったときに最も信頼出来る」

「ですがその分、こちら側に引き込むのも一筋縄では行きません。なにせ相手は虜囚に甘んじるくらいならば自らの命を絶つ事を選ぶ程なのですから」

「まぁ、それを何とかするのが"交渉"というものだよ」

そうこう話しているうちに、俺の天幕のある辺りへと到着する。

俺は正から華雄の居る場所の大まかな位置しか聞いてないので、彼女の身柄を任せた風達にその場所を聞いてみた。

「それで風、華雄はどの天幕に居るのかな?正からは正確な場所を聞いていないんだけど」

「華雄さんならその天幕に居ますよー」

そう言うと風は飴を舐めながら俺の天幕を指差す。

風の言っている事が今一理解できない俺は、自分なりの解釈を加えて風に聞き返す。

「えーっと、風が指差しているのはどう見ても俺の天幕なんだけど、この裏手にある天幕のことを言っているのかな?」

「いいえー、風は間違いなくお兄さんの天幕を指差しているのですよー」

「おうおう、兄ちゃん。現実逃避をしちゃあいけねぇなぁ」

「・・・(゚д゚ )」

風がはっきりと明言してしまったことにより、思考の逃げ道を失った俺は口をポカンと開けて唖然とする事しか出来ない。

だが、そうしてばかりも居られない。

まだ現場の状況を理解できただけでどうしてこうなったのか、その経緯を聞いていないのだから。

「ちょっと待ってくれ。何故俺の天幕に華雄の身柄を置く事になったのか、その経緯をkwsk」

「落ち着いてください、一刀殿。その件に関しては私が説明いたしましょう」

気が動転して舌が上手く回らなくなっている俺の質問に答えを述べるために名乗り出たのは風の隣にいる稟だった。

「一刀殿から華雄の一件を頼まれた折、私と風も当初は一刀殿の天幕の近くに新しく天幕を建て、そこで諜報部隊を使って身柄を監視する事にしたのです」

「・・・それが、どうしてこんな事に?」

「一刀殿のお見立て通り何者かが放った間諜が、華雄との接触を計ったのでこれを撃退したのですが、その者が思いのほかにつわものだった様で諜報員の数名が負傷してしまったのです」

稟の言葉に俺は少し驚愕してしまった。

うちの諜報員、しかも俺の周辺や重要人物を守るような古参の手練に手傷を負わせる程のとは並大抵の事ではない。

その内容を聞いただけでも、より一層華雄の周りを固めないといけないと思ってしまうほどだ。

「私と風もこの事態を重く見たので、最も安全な場所に華雄を移す事にしたのです」

「・・・・・それで俺の天幕に?」

「雍州の州牧である一刀殿の天幕に諸侯が間諜を放った事が明るみに出れば、この連合の存続事態が危うくなる。それはここに集っている者にとって好ましい事ではありません」

「だからと言って、男女で一緒の天幕って言うのも・・・・」

「おやおや、お兄さんは虜囚を手篭めにする変態さんなのですかー?」

「しないからっ!そうじゃなくて捕虜とは言え女性なんだから男の俺が居たら色々と困る事もあるだろって話だよ!」

「その点は大丈夫ですよー。お兄さんの私物や寝所は外側に移動しておいたので気にする必要はないかとー」

「ちょっ!それって締め出されてるって事だよねっ!?州牧の天幕なのに俺が中に居なかったら何の意味もないよねぇっ!?」

「いえいえ、お兄さんの天幕という事実が重要なだけですので、お兄さん自身は中でも外でも問題ないのです」

「俺って天幕の付属品っ!?」

このまま行けば自分の天幕の横で野宿をするという間抜けな醜態を晒すはめになる為、口元に手を当ててニヤニヤと笑っている風に全力で抗議をするが完全に何処吹く風。

からかい半分なのは分かるが、半分本気なので余計にたちが悪い。

必死に抗議をしつつ、何とかこの状況を打破する為に頭をフル回転させていると、俺の肩をトントンと星が叩いてくる。

「主よ、こうなってしまっては説得は無駄ですぞ。ここは夜空を見ながら寝るのも良いものだと腹を括るしかありませぬ」

「・・・・・(´・ω・` )」

天は我を見放した・・・・。

項羽ではないが四面楚歌というのはまさにこの事を言うのだろう。

だが、俺はここで諦めるほど潔くは無い。

ここは代案を出す事でこの場を治めるしかない。

「じゃあこうしよう、この天幕には華雄と一緒に書き割りか人形を置いて俺が中に居るように見せてくれ。俺自身は華雄がさっきまで居た天幕で寝るから」

「むぅぅ、お兄さんも中々良い落し所を提示してきますねー。風としてはもう少しお兄さんをからかいたかったのですが」

「まあその辺りで妥協でしょう。風もあんまり一刀殿で遊ぶと痛い竹箆返しを貰うわよ」

「大丈夫ですよー。お兄さんはこの程度の事で怒るような人ではありませんしー」

「俺としては正直勘弁願いたいよ・・・・」

何とか野宿を回避する事が出来て俺はホッと胸を撫で下ろす。

それと同時に、今夜の寝床の心配が無くなった事により思考に余裕が出来たためか、俺はここまで潜入したと言う者の事を考えた。

俺達の野営地、しかもこれほどの中心部にまで潜入。

華雄と接触する直前で見つかるも、こちらの諜報員数名に手傷を負わせて逃走する程の実力の持ち主。

慢心している訳ではないが、俺の旗下に居る諜報員は大陸最強だと自負している。

ましてや古参の者となると、俺が洛陽に居た頃から仕えている戦力としても超一級の精鋭達だ。

そんな彼らと渡り合ったとなると武将クラスの実力が必要となる。

その上、他の諸侯に勘付かれないように事を荒立たせずに逃げおおせるとなると・・・・・・。

「十中八九、彼女達だろうなぁ・・・・」

「ふむ、主は此度の件が誰の手によるものか目星が付いているようですな」

「まぁ、確証が無いから明言も出来ないよ。それに今は天幕の中に居る人物の方が重要だからね。さ、入ろうか」

適当なところで話を切り上げ、俺達は天幕へと入る。

 

 

-4ページ-

 

 

天幕の中には形だけではあるが、華雄を見張る兵士数名が居り、俺達が入ってきたのを確認すると直立してこちらへと軍礼をしてくる。

こちらもそれに応礼した後、兵士達に華雄の様子を聞く。

「捕まってから大分暴れていたって聞いたけど、調子はどう?」

「仲達様の天幕に移ってからは大人しいものです。もっとも、あの状態では騒ごうにも身動きを取る事が出来ませんが」

「そんなに頑丈に縛られているのかい?というより、華雄は何処に?」

「はい、華雄将軍でしたらそちらに・・・・」

そう言うと兵士は天幕の隅にある"それ"を指差す。

ああ、まさに"それ"としか表現のしようが無かったのだ。

筵で巻かれ、荒縄で雁字搦めにして隅に置かれているそれを、一見して人間だと認識する事が出来る者が居るだろうか?

もし外に置かれていたら雨水などで湿らないように丁寧に筵で巻かれた薪か何かと勘違いするに違いない。

俺もそれが人間だとかろうじて認識できたのは、筵の端から足の先が出ていたからに他ならない。

「・・・・・死んではいないよね?」

「舌を噛めない様に口には布を巻かれておりますし、息は出来るようにしてありますので問題はないかと」

「でも流石に、これは・・・・・・・と、とにかく解いてくれないかな?これじゃあとても話なんて出来ないよ」

「は、直ちに」

兵士は天幕の隅にあるそれに近づき、縄を解いて筵を広げ始める。

この距離ならこちらの会話は聞こえていただろうし、人が近づいて来た事で多少は暴れるかと思っていたが、予想に反して何の反応も示さない。

まさか先ほど現れたという間者を囮に、何者かが華雄の身に何かをしたのではないか?

そんな嫌な予感が頭を過ぎり、兵士の後ろから華雄を覗き込むと・・・・。

「ちゅ、仲達様。これは・・・・・」

「ああ・・・・・・見るに耐えないね」

「お兄さーん、そこに立たれては見えませんよー」

風の言葉に反応して後ろを向くと、星たち三人が何かあったのかと華雄の様子を伺っていた。

どうやら三人とも俺と同じ事を考えていたようで、特に風と稟は俺から彼女の身柄の事を任されていただけに気が気ではないのだろう。

まぁ、そんな大した事ではないんだけど。

「まぁ・・・・・百聞は一見に如かずって言うし、見てもらえば分かるよ」

そう言いながら俺は三人にも華雄の顔が見えるように今立っている位置から横に数歩ずれる。

三人は既に華雄が死んでいるかも知れないと思ったのか、恐る恐る彼女の顔を覗き込むと・・・・・・。

「なるほど、これはこれは・・・・」

「一刀殿が見るに耐えないと言ったのも頷けますね」

「いや、稟よ。敵の手に落ちていながらこの態度、中々豪胆な性格で良いのではないか?」

三人がこんな反応を見せる原因は華雄の今の状態にある。

ズズズゥ゙ー・・・・・・ズズゥ゙ー・・・・・・

虜囚として簀巻きにされたこの状況下で、華雄は盛大に鼾を掻いて寝ているのだ。

口に巻かれた布からは涎が染み込んで横から滴る程のだらしない顔から、彼女の熟睡具合が伺える。

彼女が寝ているのに兵士が気付けなかったのは、口に巻かれた布と簀巻きにされたことにより音が外側に漏れず、大人しくしている様にしか見えなかったためだろう。

「とりあえず起そうか・・・・・。すまないけど、濡らした手拭いを持ってきてくれるかい?」

「は、はい。只今!」

俺は見張りの兵士に華雄の顔を拭くための手拭いを持って来るように命令し、それを受けた兵士は天幕を出て行く。

兵士が戻ってくる間に、俺は華雄の口に巻いてある布を取る事にしたのだが・・・・・。

ネチョ

「うわっ!きたなっ!」

布は縛ってある部分まで涎が染み込んでおり、触った途端に涎特有の粘度の高い湿った感触が指に伝わってくる。

その気持ち悪い感触を堪えつつ、華雄の口に巻いている涎まみれの布を外すと・・・・・・。

ダラー

ン゙ゴゴゴゴゴォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ーーーーー・・・・・・ン゙ゴゴゴゴゴォ゙ォ゙ォ゙ォ゙ーーーーー・・・・・・

ギリギリギリギリ

布で抑えられて溜まっていた涎が口からあふれ出し、床敷いた敷物に垂れて広がり、そしてその後からけたたましい鼾と歯軋りの音が部屋中に鳴り響く。

「ギャアアアアァァァーーーッ!!雑巾!!誰か雑巾をハヨ!!!」

「あ、主・・・・・敷物は洗えばまた使えますゆえ、ここはどうか落ち着かれよ」

「でもこの現状を目の当たりにしては、流石にもう使いたくはありませんねー」

風の言うとおり。

例えるならば、う○こ塗れになったスニーカーを綺麗に洗ってももう履きたくない様な、そんな感覚だ。

だからと言って拭かないわけにもいかないのも確か。

俺は何か拭く物は無いかと右往左往していると、密かに華雄の監視と警護に当たっていた諜報員の一人が空雑巾を持って目の前に現れる。

「仲達様、こちらをお使いください」

「ありがとう!助かったよ!」

諜報員に礼を言うと直ぐに差し出された雑巾を受け取り、涎が垂れた部分を上から叩くように拭きに掛かる。

タンタンタンタン

「ン゙ゴ・・・・・・ん?ここは・・・・・さっきの天幕ではないな?な!貴様はッ!?」

ガジッ

「いってぇぇぇーーッ!!」

「だ、大丈夫か!?主!」

横で床を叩く音で眼が覚めたのか、漸く眠りから覚めた華雄は目の前に俺が居ると見るや、雑巾を持っているほうの腕に噛み付いてきた。

敷物の事で慌てていたのも相まって、俺は大した痛くも無いのに思わず声を上げてしまい、星たちが慌てて噛み付いた華雄を引き剥がしに掛かる。

なんとか華雄を引っぺがし、今しがた外したばかりの布を口に宛がおうと星たちはしたのだが・・・・・。

「・・・・・稟、すまんがそこにある布を取ってくれぬか?私はこいつを抑えているゆえ手が離せん」

「それを言ったら私も足を押さえているので無理です。風、貴方が取ってくれませんか?」

「申し訳ありませんが、風はお兄さんの腕の手当てをしているので手が離せませんねー」

とまぁ、この様に涎まみれの布を誰も触りたくないのか、三人で盥回しにしている始末。

そんな不毛な行為を止めさせる意味も込めて、俺は星たちに話しかける。

「これから彼女と話さなきゃならないし、さっきの布はいいよ。風、軽く歯形が付いただけだし手当てはしなくていいよ」

「分かりましたー」

そう言うと風は俺の腕から少し離れて、華雄を軍師として見据える。

華雄も俺の発言を聞いて大人しくなった様で、足を抑えていた稟も彼女から離れて風の隣に座った。

「・・・・話だと?私は貴様などと交わす言葉など何も無い!とっとと頸を刎ねるなりしたらどうだ!?」

星に押さえつけられた状態にも関わらず、華雄は戦で対峙した時と同じ胆力で俺に向かって怒声をぶつけて来る。

俺は彼女から放たれる胆力を適当に受け流しながら話しかける。

「すまないけど、君の要望どおり頸を刎ねるわけにはいかないな。それに余り見苦しく騒いだら武人としての名誉に傷が付くよ」

「ぐっ・・・・」

武人の名誉と言う言葉が効いたのだろう。

華雄は喚くのを止め、黙したままキッと威嚇するような視線で俺の顔を睨みつけてくる。

漸く話をする場が出来たので、俺は本題へと話を進める。

「先ずは虎牢関と洛陽を守る董卓軍の戦力の事だけど、主だった武将は呂布さんと張遼さん、軍師は賈?さんでその補佐として現地に陳宮さんが詰めているという形で間違いないかな?」

「・・・・・」

俺の言葉を聞いても華雄はムスッと剥れたような顔をして俺から視線を逸らして押し黙る。

どうやら騒ぎはしないが俺と話すことは何も無いという彼女なりの意思表示らしい。

そんな彼女の態度を気にせず、俺は話を続ける。

「あとこれは俺の憶測だけど、洛陽の宮中は張譲率いる十常侍と董卓さんの勢力で二分してるんじゃないかな?」

「なっ・・・・!」

流石の華雄も俺の発言には驚き、思わず声を上げてしまった。

当然だろう、宮中の勢力争いなど地方に居を構える諸侯が知っているは稀な事。

ましてや董卓の名が浮上してきたのは黄巾の乱が終結し、大将軍の何進が暗殺されてから。

普通に考えれば十常侍が政治を思いのままに動かすための傀儡だと思うのが自然な流れだ。

俺がこの状況を予測できたのも前世で最愛の人と別れる事になってしまったあの日、彼女達に会ってその人となりをある程度知っていたからに他ならない。

「それで、華雄さんはどっちの勢力に付いているのかな?賈?さんは水関で篭城するように命令していただろうし、それを無視して開門したと言う事は十常侍側かな?」

無論、華雄の様な誇り高い武人が張譲なんかと連むとは端から思っていない。

これは彼女の反応を見るための安い挑発だったのだが・・・。

「誰があんな下衆共の下に付くものかっ!董卓様のご命があればあんな奴等すぐにでも頸を刎ねてくれるわっ!・・・・・ハッ」

「(´く_,` )」

当たらずとも遠からずといった憶測とちょっとした挑発に我慢できずに声を荒げた上、自軍の情報を敵に洩らしてしまった事に気付き、華雄はしまったと言う顔をする。

予想していた以上の効果があり、俺は思わずほくそ笑む。

「麗羽が大義に謳っている董卓さんの暴政、先に都で行われた大粛清も濁流派の役人共を処断したのが真相だって言うし、この状況で内と外で戦わなければならないのではもう限界じゃないかな?」

「貴様に何が分かるっ!!十常侍どもの悪政の隠れ蓑に利用され、それでも尚まつりごとを正そうとするあの方をお気持ちを田舎諸侯の貴様如きが分かったような口をきくなっ!!!」

一度喋ってしまって開き直ったのか、華雄は自分の主の事を気安く語るなという強い怒気を込めた叫びを俺にぶつけて来る。

確かに華雄の身からしてみれば何処の馬の骨とも分からない俺にこんな事を言われるのは我慢ならなかったのだろう。

尤も、十常侍に国賊の汚名を着せられ処刑された父を持つ俺も、境遇としては董卓とそれほど大差はない。

そんな俺が董卓たちに自分を重ねてしまうのは致し方ないわけで・・・・。

「みんな・・・・」

「解っておりますぞ、主」

俺の考えている事を察したのか、星は華雄を羽交い絞めにした状態でこちらが口にするよりも先に言葉を返してきた。

「ここで無実の者を見捨てる様な方ならば、私は主の下には居りませぬ。この趙子龍、義の為ならば喜んで槍を振るいましょう」

「お兄さんは頭の回転は速いですが基本的にはこの飴の様にあまい方ですし、地和ちゃん達の事を考えればこうなる事は解っていたのです」

「彼女達をこちら側に引き込むことが出来れば我々が抱える問題も解決しますし、万一ばれたとしても一刀殿の見立て通りになれば漢朝は完全に失墜するので諸侯も私達に構っている暇はない。ここで彼らを助けても我々が不利益をこうむる心配が低いのであれば軍師の私が口出しする理由はありません」

「・・・・・・・ありがとう」

三人の答えを聞き、俺は笑みを浮かべながら感謝の意を伝えると、再び気を引き締めて華雄に取引を持ちかける。

「華雄さん、一つ賭けをしないかい?」

「賭け…だと?」

虜囚に身を落とし何も賭ける物が無い自分と、生殺与奪を握っている俺。

立場に天と地ほどの開きがあるにも拘らず賭けを提示してきた俺に対して、華雄は怪訝な顔をこちらに向ける。

そんな彼女の疑問に答えるように俺は話を進める。

「賭けは董卓さんと軍師の賈?さんの身の安全の確保出来るか否か、掛け金は君の身柄」

「董卓様の身の安全だと!?」

「ああ。俺達はこれから虎牢関を攻略した後、洛陽へも兵を進める。その時に誰にも悟られず彼女達を保護する事が出来たのならば、君は俺の軍門に下ってもらう」

「お前のような小賢しい男にそんな天をも欺く事が出来るものか!事が明るみに出て裏切り者と処断されるに決まっている!」

「もしそうなったのならば直ぐにでも君の身柄を解放する。董卓さんの所にはせ参じるなり好きにするといいよ。どうだろう、悪い条件ではないと思うんだけど」

賭けの内容を聞き、何か裏が在るのではないかと此方に疑いの目を向けてくる華雄。

そんな彼女に星が後ろから声を掛ける。

「安心しろ華雄よ。主は敵に対しては本当に容赦無いが取引で"嘘"を言うお方ではない。尤も、賭けに負けるところも私は見た事は無いがな」

「・・・・・・」

星の言葉を聞いて暫し沈黙していた華雄だったが、意を決したように俺の方を向く。

「董卓様たちのご無事を確認するために真っ先に私に会わせろ、それが条件だ」

「当然の権利だね。それじゃあ賭けも成立した事だし・・・・星、彼女の縄を解いてあげてくれないかな?」

「・・・・主、それは少々甘過ぎではありませぬか?捕まえた敵将の縄を解くなど、ここから逃げろといっているようなものですぞ」

俺の発言を聞くや否や、呆れた顔を此方に向ける星。

まぁ、確かに普通ならそんな甘い事はしないのだが・・・。

「彼女なら大丈夫。ここで逃げたり自害したりするようなら"俺との賭けに負けるのが怖くて逃げ出した臆病者"って事になるからね。そんな自ら名誉に傷を付けるような人じゃないよ。そうだよね、華雄さん?」

「むむ、無論だっ・・・・!わ、私はそんな恥知らずではなだろうっ・・・・・!」

真っ先に逃げ出そうと考えていた為か、俺に話を振られて華雄は激しく動揺している様子。

解りやすいなぁ・・・・。

風や星も俺と同じ事を考えていた様で、華雄を見てニヤニヤと笑っていた。

「まぁ、捕虜であることには変わり無いし、移動の際は縛らせてもらうけど、ここに天幕の中に居る分には好きにしてもらって構わない・・・・」

「遅くなりまして大変申し訳ありません、ご命令通り濡らした手拭いをお持ちいたしました」

大方の話が付いてひと段落したところに、俺の命で手拭いを取りに出て行った兵士が漸く戻ってくる。

「随分時間が掛かったね」

「申し訳ありません、実は・・・・」

「いや、別に責めている訳じゃないから。それが手拭いだね、早速使わせてもらうよ」

兵士が手に持っている手拭いを受け取ると直ぐに広げて左手に持つ。

そして、星が縄を解いている最中ではあるが、未だ後ろ手に縛られている華雄に近づく。

「な、何をする気だ」

目の前まで近づかれたことで警戒する華雄を余所に、俺は正面にしゃがみ込むと右手をそっと彼女の頬に当てて左手の手拭いで顔中に付いた涎を丁寧に拭き始める。

「もう乾いちゃってカサカサだ。君も一介の将で女の子なんだから身嗜みには気を付けないと、兵達に涎の付いた顔なんか見られたら示しがつかないよ?」

最初は俺が何をしているのか解らず呆然としている華雄だったが、状況を理解するや否や顔を真っ赤にして動揺し始める。

「も、もも、も、もういいっ!か、顔くらい自分で拭けるっ!」

そう言って縄が解けて自由になった手で俺から手拭いを奪い取ると、俺に背を向けながら両手で顔を拭き始めた。

どうやら自分の顔が涎まみれになっていることを俺に指摘されたのがよっぽど恥ずかしかったらしい。

「まぁ、失敗は誰にでもあるし仕方ないよ。あ、肋骨の方が大丈夫かい?あの時の感触から言って二本くらい折れてるはずだけど」

「し、心配ないっ!ここ、この程度の怪我で騒いでいては武人の名折れだっ!」

「そう言うわけにもいかないよ、折れた骨が肺に刺さったりでもしたらそれこそ命取りだ、どたばたしていて禄に手当ても受けられていないようだしすぐにでも診て貰わないと・・・・」

「あら、捕虜といちゃついてるなんて随分と元気そうじゃない・・・・・・・一刀」

「!Σ(0ω0;)」

 

 

-5ページ-

 

 

俺はこの天幕の空気が一瞬で凍りついた様な、そんな感覚に襲われた。

何せここに居る筈の無い人物の声が俺の後ろから聞こえ、しかもその声には閻魔や門神も裸足で逃げ出すほどの強い怒気が篭っているのだから。

「え、え〜っと・・・・・・華琳さん。何でこんなところに居るのでしょうか?」

「仲達様、その件に付きましてはわたくしからご説明を・・・」

そう言いだしたのはついさっき手拭いを持って戻ってきた見張りの兵士だった。

「先ほどご命令の手拭いを用意して戻る途中、陣の入り口前を通ったのですが何やら騒ぎが起きている様でしたので少し覘いてみたのです。するとそこには?州の州牧で在らせられる曹孟徳様が仲達様に会わせろと衛兵と揉めておられたのです。孟徳様は仲達様と黄巾の一件以降同盟を結ばれておりますし、特に問題はないと判断いたしましたのでこちらまでお連れ致しました」

なるほど、確かに普段なら気が利いていると言うところだが、今のタイミングで彼女が来るのは最悪だ。

「ち、因みに華琳さんはどの辺りから見ていたのでしょうか・・・?」

「そうねぇ、そこの兵から手拭いを受け取って捕虜を口説きに掛かった辺りから・・・・・と言えば解るかしら?」

何と言う酷い独自解釈!

涎まみれで見るに耐えない華雄の顔を拭いていただけでそんな風に思われるとは思いもよらなかった。

これは早々に誤解を解かないと豪い目にあう。

「誤解だ華琳!俺は只たんに涎塗れになってた華雄の顔を拭いて傷の手当てを手配しようとしていただけであって、決して華雄を口説いていたわけでは・・・」

「主、いくらなんでもその言い訳は苦しくはありませぬか?私からはどう見ても華雄を籠絡しようとしていた様にしか見えませんでしたぞ」

「ちょっ!星!?」

助け舟を出すどころか火にニトログリセリンをぶちまけて来る星。

そんな彼女に呼応するかの様に、俺の隣に居た風が口を開く。

「曹操さーん、お兄さんは無自覚で女の人を口説いてしまうのは今に始まった事ではないので、弁解を聞いても意味を成しませんよー」

ふ、風!

この状況でなんて事を口にするんだ!?

そんな事をもし目の前に居る覇王様が聞いたら・・・・・。

「へぇ〜、つまり相手が女であれば誰であろうと所構わず口説いている訳ね・・・・・・。覚悟は良いかしら、か・ず・と?」

「\(^o^)/」

それから俺がどうなったのかは言うまでも無い。

俺は戦では無傷なのにも関わらず、打撲と引っかき傷の手当てで半日ほど動けなくなるのであった。

女って・・・・・怖い。

(ふんっ!怪我がないか心配して見に来てあげたのに捕虜なんかといちゃついてるんじゃないわよ・・・・・・)

 

 

説明
買ったばっかりのロードバイクで初運転早々、ビニール袋が絡まり前輪大破・・・・。
去年の事故といい神は私に自転車に乗るなと言っているのでしょうか・・・・・。

「神は言っている、ここで乗る定めではないと・・・・」
「だが断る!」

それでは第06話をお楽しみください。
総閲覧数 閲覧ユーザー 支援
7311 5373 41
コメント
もう少しかっこ良く終わらせることもできないのですか 一刀君をバカにしすぎです 身の程を知りなさい(阿修羅姫)
観珪さん、御報告有難うございます。修正させていただきました。(ogany666)
嫉妬する華琳様てらカワユス・・・なぜもっといちゃこらしないのかね?もっとやりたまえ(^◇^)(サイト)
なんでしょうこのお二人の妙な気の合いっぷりは。曹操が嫉妬するのも頷けるがそれもどうだろうか。(禁玉⇒金球)
アタイとしてはあんまり自身ないっすけど → アタイとしてはあんまり自信ないっすけど それにしても、華琳さまの最後のひとこと……かわいすぎる。 死人が出ますな、これは(神余 雛)
うん。普通に仲良すぎですね。この二人。そして、一刀の大奥にまた一人・・・(Fols)
私もこの春からロードバイクデビューしました。ま、北海道はまた雪降って乗れなくなりましたが(泣) かゆうまさん仲間入り?(きの)
一刀、百面相の巻・・・という感じの話でしたね、結果は散々な一刀でしたがww(本郷 刃)
>結婚しろ 麗羽「許しませんわーー!」 一刀さん「じゃあ麗羽もする?」 麗羽「あっはい」 そして世界はちょっと平和になった 完(牛乳魔人)
もうホント二人共さっさと結婚すれば良いのに(*´・ω・)(・ω・`*)ネー(黒鉄 刃)
次の軍議でなぜか戦での負傷扱いとなってるわけですね、分かります。(アルヤ)
ほんと流れるように口説きますね。あとおまえらもう結婚しろ。(もずきゅ)
捕虜の訊問中という機密の中に、事前連絡もなく連れ込んどいて気が利くもなにも……。この覇王さま甘くて嫉妬深い(笑) しかし一刀くんは優秀すぎるなあ!(wakuwaku)
一刀が相変わらずの扱われ方ですな〜俺にも口説いてるようにしか見えんかったしなw(nao)
何時も楽しみに楽しく読んでいます・・・・・・・・・・覇王様の嫉妬の前では何者であろうと無力(アサシン)
タグ
真・恋姫†無双 魏√ 北郷一刀    華雄 華琳 オリキャラ 

ogany666さんの作品一覧

PC版
MY メニュー
ログイン
ログインするとコレクションと支援ができます。

<<戻る
携帯アクセス解析
(c)2018 - tinamini.com