「真・恋姫無双  君の隣に」 第20話
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天の御遣い、どんな人なんだろ。

私は皇帝陛下であるお姉様の命で、勅命を伝える為に虎牢関に向かってます。

こ、怖くないもん。

わ、私は皇帝陛下の妹だもん。

立派に役目を果たして、お姉様の役に立ってみせるんだもん。

 

 

「真・恋姫無双  君の隣に」 第20話

 

 

連撃を捌きながら、氣を込めた掌底を胸部に打ち込む。

じゃが相手は数歩下がっただけで構えを取り直す、ふむ、咄嗟に氣を込めて耐えたか。

「良い攻めじゃが、まだまだ甘いのお。その程度では儂を倒すことなど出来ぬぞ」

「流石は孫家の宿将と言われる黄蓋将軍です。貴女に比べ私はまだまだ弱い。ですが、此処は通しません!」

ほう、素直に実力差を認めながら闘志は変わらぬか。

じゃが構えるだけで攻めて来んな、攻め手が見つからぬのか?

「どうした、儂の首を獲るのではないのか。攻めて来ねば埒があかぬぞ」

「私の使命は関を守る事。貴女を足止めする事が、今の私が出来る最善です」

「ほう、家臣としては正しいやも知れぬが、武人としては情けなくはないか?」

「我が武は、宰相殿を、宰相殿が護りたいものの盾です。その為なら武人の矜持など、幾らでも捨てます」

この者の目に迷いは無い、真に良い武人じゃ。

うらやましいのう。

かつて主であり友であった堅殿を、儂は護る事が出来なかった。

生き恥を晒している儂にはその姿が眩しい。

時代はこのような若き者達を必要としておる。

ならば、敵味方を越えて若者を導くのも老骨の務めじゃろう。

「その心意気や良し、見事この黄公覆を止めてみせよ。実力が足らぬというなら儂から学んでみよ!」

「楽文謙、参ります!」

 

敵の動きに是までと違い、違和感を感じます。

「雛里、駄目なのだ、矢の雨が降って来てボロボロなのだ」

「雛里、こちらも陽動を見破られた。周倉が負傷した」

どうして?完全に此方の動きが読まれてる。

前の出陣では呂布将軍に阻まれたけど、主導権は完全に掴んでたのに。

兵の動きではなくて、私の考えが読まれてる?

そんな事が出来るのは、この世に一人しかいない。

・・朱里ちゃん、なんだね。

「どうした、雛里」

「・・愛紗さん、向こうの指揮を執っているのは朱里ちゃんです。私の考えをここまで読めるのは朱里ちゃんだけです」

お二人の表情が変わります、朱里ちゃんがいるということは、桃香様もいらっしゃるに違いありません。

袂を分かったとはいえ、私達が桃香様の事を考えない日はありません。

出来るならまた一緒に居たいと、内心皆が思ってます。

それが出来るとすれば、桃香様と愛紗さんが自分達の歪みに気付き、現実に向き合う事。

愛紗さんは薄々気付かれてきたように思いますが、桃香様はどうなのでしょうか。

朱里ちゃんは桃香様に歪みを伝えたのかな。

・・伝えてないよね、自分で気付かなければ何も変わらないもの。

今は桃香様の事は置いておこう、私は軍師、考える事は劣勢を挽回する事。

現況で有利な情報は一つもありません。

天の時、地の利、人の和、全てが負けていて、戦いを継続する事は愚行です。

今は気持ちを抑えて、軍を立て直して損失を抑えるべきです。

「鈴々、私を援護しろ。こうなれば力ずくで御遣いを討ち取る!」

愛紗さんが信じられない発言をされました。

「ま、待って下さい。いくら愛紗さんと鈴々ちゃんでも無理です」

「無理でも平原の民の為に討たねばならん。狙いは御遣い只一人、我が軍の総力を挙げて討つ」

あわわ、このままだと関羽軍は多くの兵を失ってしまいます。

でも愛紗さんに私の言葉は届かないでしょう。

「愛紗、鈴々は断るのだ。そんな事したら兵がいっぱいやられちゃうのだ」

鈴々ちゃんの反論に愛紗さんが驚いてます。

私もです、戦場で鈴々ちゃんが愛紗さんの言う事に逆らうなんて初めて見ました。

「鈴々、何を考えてる。御遣いを討たねば平原の民を護れないのだぞ!」

「愛紗こそ目を覚ますのだ。そんな無茶したら民を苦しめるのは愛紗の方なのだ!」

「私が民を苦しめるだと、取り消せ、鈴々!」

「愛紗は馬鹿なのだ。自分の気持ちしか考えてないのだ。周りの兵たちを見てみるのだ!」

愛紗さんを見る兵達の表情に好意的なものはありません。

軍神に喩えられ、崇拝すらされている愛紗さんですが、天賦の才を持つ為に力を持たない者の気持ちが理解できていません。

言葉では弱き民を護ると言われ、本心ではあるのでしょうが、取り様によっては傲慢とも見れます。

周りを見渡し状況を理解したのか、愛紗さんは俯いてしまいました。

武器を持つ手が震えています。

「皆さん、撤退です。鈴々ちゃん、殿をお願いします」

 

 

こりゃ負けだな。

ずっと後詰として先陣の戦いを見てっけど、虎牢関は小揺るぎもしねえや。

戦が始まって、もうすぐ一ヶ月。

斗詩は孔融軍の兵糧の借り入れを断りに行ったけど、頼んできた軍は三つめだぜ。

うちも帰りの事を考えると、もうギリギリだよな。

どう考えても楽勝だったのに、御遣いに全部ひっくり返されちまった。

姫もそう思ってんだろうな、全然喋らなくなったし。

会いに行った時はそこらにいる兄ちゃんにしか見えなかったけどなあ。

どうしたもんかねえ、あたいじゃ何も思いつかねえや。

向こうはま〜た士気が上がってんな、関の上にでっかい旗が掲げられてるぜ。

「劉」ね。

・・あれ?敵は袁術、董卓、馬超だよな、劉姓のやつなんていたっけ?

 

「月、よかった」

「やってくれたで、一刀!」

詠と霞が虎牢関で掲げられている劉旗、皇帝旗を見て喜びの声をあげてる。

とうとう休戦の勅が届いたのね。

・・この戦でよく分かったわ、華琳様の最大の敵となるのは誰なのかが。

風はあいつを、一刀を敵ではないと考えてるようだけど、それは私達の心の内での事。

寿春で善政を行い、何倍もの敵を相手に戦いぬいた武名、間違いなく民は一刀を望むわ。

陣容の薄い今の内に潰したいけど、曹操軍もまだまだ力が足りない。

陳留に戻っても休んでる暇はないわ。

「詠、霞、あんた達はどうするの?休戦だから、交渉次第で董卓軍に戻る選択があるわ」

二人は即答する。

「馬鹿にしないでくれる。一度仕えると言っといて、状況が変わったから止めます、なんて軽く考えてないわよ」

「そういうこっちゃ、華琳の器、しっかり見極めさして貰うで」

そう言うとは思ってたわよ。

「悪かったわよ。でも華琳様を呼び捨てにするんじゃないわよ!」

そうよ、あの全身精液男も呼び捨てで呼んで、絶対に認めないんだから。

「あのね、僕は桂花みたいに華琳に惚れてる訳じゃないの。いちいち突っ掛かんないでくれる?」

「それにウチらは一刀に惚れとるからな、安心し」

「だ、誰が一刀に惚れてるのよ!霞、いい加減な事言わないでよ!」

「口付けしとったんは何処の誰やろな〜」

口・付け?・・あのケダモノ、絶対泣いて謝らせてやるわ!

 

「・・・以上が皇帝陛下の妹君、劉協様がお持ちになられた勅命です」

私は集まった諸侯に内容を話しました。

戦の即時休戦。

董卓さんは相国の位を辞し、袁術様も後将軍の位を返上。

姫様の大将軍、及び各諸侯の新たな官職の発表。

そして今回の勅命に従わず、戦に参戦しなかった袁、董、馬を除く諸侯の討伐令。

「新たな勅命を受け、反董卓連合は解散とします。わたくしは劉協様の立会いの下、休戦の約定に署名します。以上ですわ」

姫様は明らかに機嫌が悪いです、諸侯を顧みず天幕を出て行きました。

諸侯から御遣い、一刀さんの処分を求める声もあがりますが、敗色濃厚なのは誰の目にも明らかだったので戦を継続しようとまで言いません。

私は諸侯に礼をして姫様を追いかけます。

「姫様、諸侯を労った方がいいのでは?」

「あんな役立たず達等どうでもいいですわ、それより向こうの署名は美羽さんですわね」

「は、はい。そう聞いてます」

姫様、劉協様の手前で罵声なんて上げないで下さいよ〜。

 

「という訳で長沙に帰ったら忙しくなるわね」

冥琳達は私の報告を聞いて呆れてる。

ま、無理もないわ、朝廷は何を考えているんだか。

「領土を増やす大義名分をくれるのはいいが、力を増した諸侯が大人しく言う事を聞くと本気で思っているのか?」

「潰しあわせるのが目的かもしれませんね〜」

「どちらにしても末期じゃな」

「今回の戦で朝廷の権威は健在だと勘違いしてるんでしょ。相国や後将軍の地位にどれだけの価値があるのかしらね」

 

「?州を早急に押さえ、青州、徐州を攻略するわ。各自励みなさい」

「「「御意」」」

討伐令。

一刀、これは貴方の狙い?それとも朝廷の愚策?

いえ、どちらでもいいわ、我が覇道、今より始まりよ。

 

「愛紗、盟を組みたい」

「白蓮殿」

「間違いなく麗羽が河北四州を獲りに来る。単独では抵抗できない」

共に戦った者も明日は敵か、力を持たない私は無力だ。

ならば力をつける、私に足りないもの、この戦で充分に分かった。

「分かりました、よろしくお願いします」

 

署名が終わり劉協様が御車にお戻りになられ、わたくしの前には美羽さん達がいます。

「美羽さん!貴女、御自分が何をしたか分かっていますの。名門袁家の名に泥を被せましたのよ!」

「麗羽姉様、聞いて欲しいのじゃ」

「何をですの、言い訳なんて聞きたくありませんわ。そもそも何が天の御遣いですの。朝廷やわたくしに逆らって、逆賊以外の何者でもありませんわ!」

「一刀は逆賊ではないのじゃ、取り消して欲しいのじゃ」

「お断りですわ!」

わたくしに詰め寄ろうとしました美羽さんを御遣いが止めましたわ。

「美羽、ありがとう。俺が話してもいいかな?」

「一刀、分かったのじゃ」

どうしてそんなに素直なんですの、斗詩さんから聞いてましたけど本当に別人ですわ。

そういえばわたくしの事を姉様と呼ぶのは小さい頃以来ですわ。

「紹介が遅れてすまない。美羽の宰相を務めてる北郷だよ」

「わたくしが袁本初ですわ、フン、無能そうな顔ですわね」

「その無能そうな顔にコテンパンにされたのはこっちですけどね」

「猪々子さん、黙ってらっしゃい!とにかく貴方が美羽さんを誑かしたんですわね!」

「まだですよ〜、時間の問題ではありますけどねえ」

「・・七乃、ちょっと黙ってて」

味方からも言われてるのですから間違いありませんわ。

「まあ、俺の事はどう思ってくれてもいいよ。袁紹さん、君の考えてる通り、俺の我儘で君と戦った、それは間違いない」

「やっぱりですわね。美羽さん、こんな胡散臭い男は追放してしまいなさい!」

「嫌なのじゃ、一刀は妾の家族なのじゃ!」

「何ですって〜」

「ひ、姫、落ち着いて下さい。まだ話は終わってません」

「斗詩さん、わたくしはいつでも冷静沈着ですわ」

「ええっと、突っ込んでいい?」

「一刀さん、止めて下さい」

「斗詩さん、その呼び方はどういう事ですの」

どうして斗詩さんがこの男を真名らしき名で呼んでますの。

最悪ですわ、最悪ですわ、最悪ですわ!

この男だけは絶っ対許しませんわ!

「袁紹さん、聞きたいことがあるんだけど」

「何ですの、くだらない事でしたら承知しませんわよ」

「勅があったとはいえ、君は董卓の事実を知っていた筈だ。戦を起こす必要があったのか」

御遣いの雰囲気が変わりましたわね、ですが、だから何だというのですの。

「何を言ってるのか分かりませんけど、私は漢の名門袁家の当主ですわ。私自身恥じるような行為は何一つしてません事よ」

御遣いとわたくしがお互い目を逸らさず意志を貫きあっていましたら、

「一刀、麗羽姉様を怒らないで欲しいのじゃ」

美羽さん?

御遣いは美羽さんを優しい目で見ながら、優しく頭を撫でていますの。

「大丈夫だよ。俺は怒ってないし、むしろ感心してたから」

はあ、感心?どういう事ですの?

御遣いはこちらに向き直って笑顔を浮かべていますわ。

「な、何を笑ってるんですの、気味が悪いですわ」

「いや、王の器って色々あるもんだなっと思ってね」

王の器、・・成程、ようやくわたくしの偉大さが分かったようですわね。

当然ですわ、高貴な私こそ人の上に立つのに相応しいのですから。

 

袁本初か、お馬鹿にしか思えなかったけど不思議な魅力があるな。

何というか、憎めない?

何だかんだ言っても美羽の事を気にかけてるし、善悪関係無しで自分の気持ちに真っ直ぐだ。

威張っているのも意図的じゃないな、地がそのまんまなんだ。

名門の血筋か、鼻にはつくけど誇りと重責の自覚はあるんだな。

俺が袁紹の評価を再構成してると、

「貴方、いつまで人を見つめてるんですの。いかにわたくしが完璧な美を体現してますとはいえ不躾ですわよ」

「あ、ああ、確かに綺麗だね」

急に話し掛けられたんで特に考えずに返事をしてしまった。

「あら?分かってるじゃありませんの。当然ですわ、わたくしこそ大陸一の美を持つ者、袁本初ですわ」

そこまで言ってないけど、確かに美人だしプロポーションは抜群だな。

・・ただ中身があれだから。

「どっちかというと、むしろ可愛いか?」

ギャップ萌え?

痛っ!七乃、足踏んでる。

「な、な、な、何を言いますの!こ、こ、このわたくしを可愛いだなんて、こんな屈辱は初めてですわ!」

あちゃ、顔が真っ赤だ、怒らせちまったかな。

「すまない、気に障ったんなら謝る。悪気は無いんだ、正直な感想というか、頑張ってるんだなと思って」

痛い!痛い!痛い!七乃、謝ってるのに何で踏むんだ。

袁紹の顔が更に赤くなってる、拙い、地雷踏んだか。

「麗羽ですわ」

「えっ?!」

「わたくしは絶対に貴方を許しませんわ!今この時から貴方をわたくしの生涯の敵と決めましたわ。長いお付き合いになるでしょうから、わたくしの真名を特別に許しますわ、いいですわね!」

「あ、うん」

「貴方の真名は」

「一刀です」

「よろしい、特別に預からせて貰いますわ。行きますわよ、斗詩さん、猪々子さん」

袁紹、麗羽は足早に去っていった。

あまりの剣幕に真名を預けたけど、

「七乃、真名って生涯の敵にも預けるものなのか?」

七乃は満面の笑顔で、

「一遍死んでみますか、女の敵として」

怖いよ、ていうか何で女の敵なんだ。

「一刀!」

美羽が抱きついてきた、涙を浮かべて。

「無事で良かったのじゃ、皆、無事で良かったのじゃ」

「・・ありがとう、美羽」

七乃が俺の包帯を巻いた左手を優しく包む。

「無茶したんでしょう。本当に貴方は仕様がない人ですね」

「七乃もありがとう。お陰で助かったよ」

俺は虎牢関に振り向き、共に戦ってくれた皆に向かって腕を振り上げる。

 

「俺達は守りきったぞーーーーーーーーーーーーーーーーー!」

「「「「「「ウオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオオ!!!!!!」」」」」」

説明
虎牢関に一人の少女が使命を持って向かう。
戦の決着は近い。
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コメント
tinamiのユーザーの多くが桃香(というかショク)のアンチが多いから仕方ない流れかも(keishun0512)
アンチ劉備すぎると思ったけど、そうでも無いのか?正史や演技云々は置いといて実際恋姫だと劉備の覚悟前半だと無いに等しいしなぁ、だってぽっと出てきた一刀を主と祭り上げるあたり世が良くなら自分じゃなくても良いって思ってるって事だし(走る地軸)
>白黒さん 今の世の中も似たようなもんですよ。結局、国が違うとか歴史が如何とか関係なく、同じことを繰り返してるだけなんです。人間の歴史なんて……(てんぺす党)
こんな言葉があります。知らない事は恥じゃない。けど、知ろうともしないのは罪でしかない、と。恋姫のほぼ全員に言えるかもしれませんね。(h995)
なんとか停戦が間に合ってよかったです!麗羽は一刀に惚れた?w(nao)
問題は誇りとやらに中身が全くないことだろうに。為政者である以上無能は罪だよ(白黒)
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七乃 美羽 麗羽 雛里  反董卓連合軍 北郷一刀 真・恋姫無双 

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