恋姫無双 〜蜂蜜姫の未来〜 第18話 |
この作品は恋姫無双の二次小説で袁術ルートです。
オリ主やオリキャラ、原作キャラの性格改変やオリジナルの展開などもあります。
そういうのが許せない、特定のキャラが好きな方はスルーしてください。
※一刀アンチ作品ではありません。
第18話
朝の日差しが差し込み、城の者たちが動き出すころ、城の中庭から少し外れた練兵場からは金属を打ちつけ合うような音が聞こえている。
そしてその澄んだ空気に響く甲高い音も、一刻ほどすると静かになった。
「朝から付き合ってもらっちゃって申しわけねっす。迷惑じゃなかったすか?」
「いえ、こちらこそいい訓練になりました」
男は、訓練でかいた汗を水で濡らした手拭いで拭っている。熱くなった体に冷たい布の感触が気持ちよさそうだ。とそんな事を考えていると、顔良の視線が気になったのだろうか。男はこちらに向き直り、少し気まずそうに尋ねてきた。
「顔良さま、手拭いあるんすけど、使います?」
「えっ?」
まさか自分の分まで用意してあるとは思っていなかったのか、顔良は男の申し出に面食らってしまった。それ以前に、この男性にそういった心遣いができるとは思えなかったというのもあったのだが。
「いやね、呂範の兄貴とか楽就が予備の手拭いくらい持っとけって、うるさいんすよ。まぁ、実際役に立つこともあるんで無視もできねぇんすけどね」
苦笑しながら、そばに掛けてあった白い布を顔良へと差し出す。
「あ、ありがとうございます」
確かに、さっきまで動きまわっていたせいか多少なりとも汗をかいているのは分かっていた彼女は彼の好意を素直に受け取った。そんな彼女の対応に何を思ったか彼はそっぽを向いてしまう。
どうしたのだろうと顔良が彼の顔を覗き込むと、若干耳が赤くなっているように見えた。こういったことに慣れてないのだろう。少し微笑ましく思える。
「そういえば、呂範さんってここに来てどれくらいなんですか?」
「さぁ?別に人を募集してたわけじゃないんすけど、三月<<みつき>>ぐらい前だったか、ある日紀霊様たちが連れてきたんですよ。特にこれといった説明もなくて『武官兼文官として働いてもらうからよろしく』って。んでそれから色々あって、張勲様の補佐と紀霊様並みの部隊を任せられるようになったんですよ。今じゃ俺も呂範隊の副官なんてものに収まっちまいましたけど」
どことなく自嘲めいた笑いを漏らす男を顔良は視線をそらすと、こちらに歩いてくる男性が視界に入った。そのまま二人のそばまで来ると簡単な挨拶もそこそこに雷薄と話し始める。
「こちらにいましたか。捜しましたよ、雷薄」
「よぉ、楽就。お前にしてはずいぶんのんびり寝てたもんだなぁ」
「馬鹿言わないでください。私が寝坊をするような人間だと思っているんですか?」
「冗談だよ、それで?」
「仕事です。それも急を要します」
こちらをちらりと一瞥し、そのまま小声で二三言葉を交わすと顔つきを真面目にした雷薄が顔良に向かって一礼する。
「顔良様、早朝訓練に付き合っていただきありがとうございました。これから急ぎの用が入りましたので自分はこのあたりで失礼させてもらいます」
言葉づかいもかなり丁寧なもので、これがさっきまで話していた男性なのかと軽く疑いたくなってしまう。
「あの、どうかしたんですか?」
そんな二人の様子が気になった顔良は不躾だとは思いながらも、尋ねてみた。すると……、
「大事な話があるから集まってほしいと張勲様に言われ、雷薄を探していたのです」
楽就は簡潔に答え、一礼するとそのまま雷薄とともには広間の方へと去っていってしまった。
「皆、集まったかの?」
「は〜い、美羽さま〜。ばっちりで〜す」
「うむ!八恵、はじめるのじゃ」
「はい、美羽様。では呂範殿、最近の調査報告からお願いします」
「はい、紀霊様。私が調べた限りでは、近頃周辺の賊が集結していること。そしてその賊共はいずれも、何らかの形で袁術様の領内で汚い仕事をしていたことが分かりました。おそらく、以前追放した文官どもの協力者か何かだったと考えられます」
淡々と話しているように見える呂範からは微かにだが気の高まりが感じられる。
(今回の一件、大事にならなければよいが)
大地の真向かいでそれを見ていた八恵は、そんな事を考えていた。
その後の議題には急を要するような案件もなく会議は滞りなく進み、残った議題は一つとなった。
「最後に以前から話していた筆頭文官の空席についてなのですが、先日遣いを出した水鏡塾という学び舎からお返事がありました。ついては皆さんのご意見を伺いたいと思いますが、どうでしょうか?」
呂範の口から、水鏡塾という単語が出たとたん広間にいた文官たちの間でひそひそと話し合うようすがみられた。
返事の内容は簡潔なものだった。
『なにぶん経験のある者がいないためその話はお断りさせていただきたく思います。ですが遣いを出したそちらの面子もあるでしょうから、研修という形で良ければ一人、経験を積ませたい者がおります。期間としては一月から三月を目安に考えていただきたい。』
最初からうまくいくとは思っていなかったので、この断りは予想していたが妥協案まで付いてきたことは良かったと言える。大地としては、この返事で何とか半歩踏み出せた形になり多少安堵していた。
一方、集まった文官たちは諸侯たちの間で有名な水鏡塾から試験的にではあるが、生徒を使ってみないかと問われたのである。すぐに意見がまとまらないとしても無理もない。
多少文官たちが落ち着いたのを確認して、呂範は話を再開した。
「文によると、推薦したい人物は女性だそうです。研修ということなので、内政面での雇用が望ましいとのこと。まぁ、軍略もそれなりにできるそうです。護身術程度に剣戟も修めており、経験さえ積ませれば前線の指揮もこなせるのではないかとのことでした。まぁ、見もしないうちから全てを鵜呑みにするわけにはいきませんが、試してみる価値はあるのではないかと私は考えています」
伝えるべき内容と自分の考えを言い終えた呂範は、静かに皆の反応を待つ。文官や武官たちは近くの人物と軽い相談をしながら自分の考えをまとめているようだ。
一方美羽の方は大地の話についていくのに精いっぱいだったようで、頭上に?マークが並んでいる。そんな美羽を見かねた八恵がさっきの話を丁寧に教えていた。こういう光景を最近よく目にする。これはいい傾向だ。分からないことをそのままにせず、自分で理解しようとする。それでも分からなければ分かる人間に聞けばいい。そして自分なりにでも答えを見つけられたら、その知識は自然と自分の知識として吸収される。そこから自分の考えというものを見つけて行けたなら、それは必ず自分の望む未来への力となるだろう。
美羽には与えられた道ではなく、自分の力で道を切り拓いていってほしいと思っている。それがどんな道になろうとも大地はその手助けをするつもりでいた。
一人、美羽の行く末に思いを馳せていると誰かに呼ばれた気がした。声の聞こえた方に目を向けると、不機嫌そうに頬を膨らました少女と目があった。
「なにをぼうっとしておるのじゃ!妾の話が聞こえておらんかったのかや!」
訂正。不機嫌そうではなく、確実に怒っていらっしゃる。こうなると、悪いのは会議中にもかかわらず主の話を聞いていなかった呂範だ。覚悟を決める。
「申し訳ありませんでした」
その場での許しを得ることはできたので、ひとまず会議を終わらせる。研修生の件については概ねの同意が得られたため、受け入れる方向で一致した。
皆が広間を後にすると、呂範は美羽の正面に立たされ、しっかりと美羽のお説教を受ける大地に七乃は顔をにやけさせ、八恵は苦笑を浮かべていた。話すこともなくなった美羽からやっとのことで解放された大地だった。
「お嬢様と八重ちゃんは先に行っててください。私は少し大地さんにお話がありますから」
その言葉に素直に従う美羽と怪しむような視線を投げかけながらも広間を出ていく八重。逃げ出すタイミングを失った大地は、目の前で心底楽しそうな笑いを浮かべる女の動きを注視することしかできないでいた。
「さてと。大地さん、ちょっとだけ耳を貸してもらえませんかね〜」
「なんだよ?お前に耳打ちされるなんて、嫌な予感しかしないんだけど……」
ぶつくさと文句を言いながらも素直に耳を七乃の方に近付ける大地。
「なんとですねぇ、今日の昼食は大地さんに作ってもらうことになってるんですよ〜。といっても、私たちと麗羽様たちの分だけなんですけど」
「……は?」
「そういうことなんで、よろしくお願いしますよ。おいしいのを期待してますから。……最悪不味くてもそれはそれで面白そうですし」
軽やかな足取りで広間を出ていく七乃。大地はしばらく七乃が言った言葉の意味を理解できず、いや理解などしたくなく、その場に立ちつくすしかなかった。
あとがき
一年経ってしまいました。ただただ申し訳ないです。
でも、書いたからには完結まで行きたいと考えています。拙い文章、遅筆ではありますが、途中で投げ出すようなことはしたくありません。
最後まで書ききりますので、よろしくお願いします。
それでは、失礼します。
説明 | ||
かなり短いです。 | ||
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コメント | ||
お久しぶりです。続きを楽しみにしてました。完結目指して頑張ってください!(シグシグ) | ||
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