英雄伝説〜焔の軌跡〜 リメイク |
ボースの復興が始まって数日後の夜、ヨシュア達が王国軍から強奪した飛行艇―――”山猫号”は暗闇の空を飛んでいた。
〜上空・夜・山猫号〜
「あれ……?なんだ、こっちにいたんだ」
探し人―――ヨシュアを探していたジョゼットは飛行艇の入口の裏側にもたれかかっているヨシュアに近づいた。
「……こちら側の方が月がよく見えるからね。風の流れも肌で感じられる。」
「あはは、ま〜たカッコ付けちゃってさ。……よっと。」
淡々と答えるヨシュアの言葉を笑いながら受け止めたジョゼットはヨシュアの隣に座った。
「カッコ付けているわけじゃないか……。必要なんだよね、それも?」
「月明かり、雲の位置、風の流れがけっこう重要になってくるから。失敗の可能性はなるべく下げておきたいんだ。」
「な、なるべくって……。あんたねえ……できる限りって言いなよ!失敗したら死んじゃうんだよ!?」
死すらも恐怖を感じていないヨシュアに呆れたジョゼットはヨシュアを睨んだ。
「大丈夫、失敗の可能性は軽微だ。この程度のミッション、昔は毎日こなしていたからね。むしろ危険なのは……ミッションが成功してからだ。」
「………………………………。……ね、ヨシュア。本当にあんたがそこまでやる必要あるわけ?」
自分の身を犠牲にして無謀な事に挑もうとするヨシュアを理解できないジョゼットは心配そうな表情で尋ねた。
「え……?」
「あんたもボクたちと同じエレボニア生まれなんだよね。そりゃあお互い、事情があって故郷に帰れないかもしれないけど……。だからといって、この国に義理立てする必要ないじゃない?以前ちょっとだけあたし達と一緒に行動していた凄腕の奴―――クラトスって奴はあの能天気娘達と一緒に行動しているし、あの竜騒動の後はあんたの依頼を断ったリオンって奴もあいつらの仲間になったんだろう?あの二人がいたら、大丈夫じゃないの?」
「………………………………」
「ね、今ならまだ引き返せるよ。このまま、ボクたちと一緒にリベールを離れてさ……どこかの自治州あたりでパーッと一旗揚げてみない?空賊稼業が気に喰わなければ他の仕事を探してもいいんだし。アニキたちとも話したんだけど、この船のスピードを活かした運送業なんていいと思うんだよね。」
自分の話を聞いて何も返さず黙っているヨシュアに気にせずジョゼットは話を続けた。
「飛行船を使った運送業か……。今後も需要は増えそうだし、なかなか有望なビジネスかもね。少なくとも空賊よりは確実に稼げると思うよ。」
「そ、それじゃあ!」
自分の話に賛成な様子のヨシュアを見たジョゼットは明るい表情で立ち上がったが
「そうだね……。”結社”の計画を潰して僕が生き残ることができたら考えさせてもらおうかな。」
「………………………………」
ヨシュアの言葉を聞き、続ける言葉を失くした。
「ああ、心配しなくても僕たちの契約はこれで終わりだ。この作戦に協力してくれたら貸しは帳消しという約束だからね。いつでも出発してくれて構わない。」
「……もういい。」
「え。」
「バカ!誰が貸し借りの話をしてるのさ!もういい!あんたなんか知るもんか!勝手に危険に飛び込んで勝手にくたばっちゃえばいいんだ!」
自分の心配を無下にするヨシュアに怒りを感じたジョゼットは思わずヨシュアを睨んで叫んだ後その場から去って行った。
「……ごめん、ジョゼット」
「まったく……鈍いフリも楽じゃないねぇ。」
「……キールさん。」
去って行ったジョゼットを見てヨシュアが呟いたその時、見張り台からキールが顔を出した。
「あいつもいい加減、ガキっぽさが抜けないんだが……。それでも今のはやっぱりお前の言い方が悪いと思うぜ。」
「……そうだね。謝るつもりはないけどすまないとは思っている。」
「やれやれ……。それがお前なりの気遣いだとは分かっちゃいるんだけどな。まあ、さっきの話は真剣に考えておいてくれや。全てのケリを付けた後、あの遊撃士の嬢ちゃんの元に帰るつもりがないんだったらな。」
「はは……それは無いよ。所詮、僕と彼女は生きている世界が違いすぎる。もう交わることは無いはずだ。」
キールに尋ねられたヨシュアは一瞬エステルの顔を思い浮かべて自分がエステルの隣にいる風景を思い浮かべたがすぐに打ち消して苦笑しながら答えた。
「ふーん……ま、いいけどな。だったら尚更悪い話じゃないだろう?」
「そうだね……。前向きに考えておくよ。」
キールにヨシュアが答えたその時、サイレンが鳴った!
「おいでなすったか!兄貴、来たのか!?」
「おお!小僧の読み通りだ!北東の方からぐんぐん近付いているぜ!」
「聞いての通りだ。すぐにブリッジに来な。」
「分かった。」
そしてヨシュアは山猫号の中に入った。
「おう、来やがったか。」
「………………………………」
「状況は?」
ふくれている様子のジョゼットを気にせず、ヨシュアはドルンに尋ねた。
「ヘッ、おめぇの読み通りだ。来な。こっちのディスプレイだ。」
ヨシュアがドルンの傍にある小さなディスプレイに移動して画面を見つめた。
「高度1560アージュ、時速2100セルジュの速度で北北東からリベール領に潜入……。高度・速度共に普通の船じゃないのは確実だぜ。おめぇが付けた特殊レーダーがちゃんと効いているみてえだな?」
「いや、まだ分からない。帝国あたりの偵察艇かもしれないからね。キールさん、目視は?」
「……捉えた!映像をそっちに回すぞ!」
キールが操作すると、赤い飛行艇が映っていた。
「……間違いない。今回のターゲットだ。」
「へへ……これで舞台は整ったか。ゾクゾクしてくるねぇ。」
「おーし、おっ始めるか!小僧!心の準備はできてるだろうな!?」
「問題ない。僕が位置に付いたらすぐにでも始めてくれ。」
「あ…………」
ヨシュアは自分の目的を果たす為に出口まで歩いたが何を思ったのか、出口付近で立ち止まった。
「ドルンさん、キールさん、それからジョゼット……。今までありがとう。契約上の関係だったとはいえ、本当に感謝している。」
「え……」
「へっ……」
「はぁ!?」
そして唐突にヨシュアの口から出た感謝の言葉にジョゼット達は驚いた。
「本当なら作戦が終わった後に言うべきかもしれないけど……機会がないかもしれないから今のうちに言っておくよ。それじゃあ、元気で。」
「あいつ……」
「ったく……。最後の最後でそう来たかよ。」
「……っ………!」
ヨシュアが出て行った後、キールとドルンは複雑そうな表情をして溜息を吐き、ジョゼットはヨシュアを追って行った。
「え……」
ヨシュアが外に出るとジョゼットに後ろから抱き締めてきた。
「最後の最後までホント可愛くないやつ!しおらしい顔で、な〜にが『今までありがとう』だよっ!そんなの聞いたってボクは嬉しくともなんともない!そんな言葉、ボクは欲しくない!」
「……ジョゼット……」
「……約束、してよ。あんまり無茶はしないって……。必ず生きて戻ってくるって……」
「………………………………。相手が相手だけに安請け合いはできないよ。」
「……ッ………」
「でも、これだけは約束する。たとえ、僕の目的が果たせなかったとしても……生きて帰って、いつの日か君たちに改めて礼を言おう。」
「あ……」
「……それでいいかな?」
「うん……。忘れるなよ!絶対に約束だからね!」
ジョゼットに約束をしたヨシュアは決意の表情で行動を開始した。
〜赤の飛行艇内〜
「―――高度1559アージュ。北北東よりリベール領内に潜入。このままヴァレリア湖上空まで針路を固定しろ。」
「了解。」
ヨシュアが行動を開始し始めたその頃、謎の飛行艇内で紅蓮の鎧を着こんだ猟兵達が飛行艇を操作していた。
「リベールの警備艇には気付かれなかったようだな。『ステルス機能』か……。便利な装置を積んでいるものだ。」
「まあ、そんな機能でもないと大騒ぎになるだろうからな。この船はともかく、あの化物が侵入した日には。」
「ハハ、違いない。」
猟兵達が呑気に会話していたその時、外から砲撃音が聞こえた!
「な……!」
「敵襲か!?」
「うろたえるな!レーダーはどうした!?」
「レーダーに反応!4時方向から小型艇が接近!」
「データベース照合―――出た!帝国ライフォルト社製、『カプア空賊団』所属《山猫号》!」
「空賊だと!?」
予想外の敵の登場に猟兵達が驚いている中、山猫号は赤い飛行艇にギリギリまで近づいた。
「………………………………。よし……!」
タイミングを見計らったヨシュアは山猫号から飛び降り、赤い飛行艇に鎖をひっかけた!赤い飛行艇は鎖にひっかかったヨシュアをぶらさげながら、山猫号から離れて行った。
「やった……成功だよ!」
「おお!やりやがったか!」
「よーし!俺たちもずらかるぞ!」
ヨシュアが目的を果たした事を確認した山猫号は赤い飛行艇から去って行った。
「空賊艇、離脱したぞ!?」
「どうする、追撃するか!?」
「いや……放っておけ。王国軍の警備艇ならともかく、小物に構っている場合じゃない。」
「そうだな……」
「今は”グロリアス”の航路確保が優先だ。」
「……いったん帰投する。空賊どもに関してはカンパネルラ様に報告しよう。」
そして赤い飛行艇はヨ密航者がいる事に気づかず、どこかに向かった。
「へへっ……あっちも退きやがったか。何から何まで小僧の読み通りだったな。」
「……うん。………………………………」
「ジョゼット、心配するな。あいつのことだ。きっと無事に戻ってくるさ。」
「うん……そうだよね。約束したんだもん……。ちゃんと帰ってくるって。」
一方ジョゼット達を乗せた山猫号もどこかに去って行った……………
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外伝〜闇空の別れ〜 |
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