欠陥異端者 by.IS 第七話(初出撃)
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【一夏SIDE】

 

俺とシャルルは今、IS訓練のためアリーナに向かっている。

本当は、零に会う予定だったのだが、今日は会えそうにないので急遽の変更だった。

 

シャルル「何か、アリーナの方、騒がしくない?」

 

シャルルにそう言われてアリーナの方に意識を集中すると、確かに生徒達が大勢集まっているようなザワザワさが聞こえる。

同時に、胸騒ぎが俺の心の中で1秒ずつ強くなってくる。

 

一夏「急ごう、シャルル」

 

自然と足早になる。

 

シャルル「あっ待ってよ、一夏!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

【零SIDE】

 

ラウラ「その程度か」

 

鈴音「うぅ・・・」

 

セシリア「くぅぅ・・・!」

 

相手は圧倒的だった。

私は、三人の戦闘の邪魔にならないようフィールドの端に立って、戦闘の様子を窺っていた。

あの三人とも国から輩出された代表候補生だが、ボーデヴィッヒさんの戦い方は容赦がない。徹底的だ。さすが軍人。

 

ラウラ「代表候補生とは聞いて呆れる・・・なのに、下らん種馬を取り合っているとはな! 滑稽だ、ハッハッハッ!」

 

セシリア「い、言ってくれますわね・・・っ!」

 

鈴音「こんのっ!!」

 

ボロボロの装甲が不協和音を鳴らしながら、最後の一撃を『シュヴァルツェア・レーゲン』に向ける──────が、ボーデヴィッヒさんが手をかざすだけで、発射されたミサイルビットと投擲された双天牙月は、『シュヴァルツェア・レーゲン』の正面で宙に浮いている。

AIC(アクティブ・イナーシャル・キャンセラー)・・・別名"慣性停止結界"。説明が長くなるので、詳しく知りたい方は各自で。簡単に言うと、手でかざす、目で捉える、これだけであらゆる動く物体を停止させられるということです。

 

セシリア「くっ・・・!」

 

ラウラ「これで、もう終わりか・・・なら、次は私の番だ」

 

放たれた最後の一撃は、むなしく地面に落下し、『シュヴァルツェア・レーゲン』の両肩からワイヤーブレードが射出され、『ブルー・ティアーズ』と『甲龍』が捕獲された。

吊り上げられ、まず『甲龍』を殴り、蹴りの虐待が始まった。

 

鈴音「ああああっ!」

 

もう既に戦闘不能の状態で、さらに攻撃を加え続けられる。

操縦者を守る"絶対防御"は完ぺきではない。相殺しきれない衝撃は、操縦者を傷つける。『甲龍』はもうデッドゾーンにまで達して、凰さんの命にまでかかる事態になってきた。

 

零「ッ! 『カスタムV』!」

 

咄嗟に体が動いた。駆け出すのと同時にISを展開、一瞬で『シュヴァルツェア・レーゲン』との間合いを縮めて─────

 

ラウラ「馬鹿な奴だ」

 

零「ぅっ・・・!?」

 

ボーデヴィッヒさんは、私の行動を見透かしたように片手をかざしてAICを発動。宙で動きを封じられた。

 

ラウラ「少しは物分りの良い奴だと思っていたが、結局、貴様も愚図なようだ」

 

零「私は個人的な意見として、この状況を放置できないと判断しただけです。"サンドバックで遊び喜ぶ子供"に、そんな事を言われたくありません」

 

思った事をストレートに口に出してしまった。ボーデヴィッヒさんは、眉間に皺をよせ、憎悪の表情でいっぱいになる。

 

ラウラ「ッ・・・消し飛べっ!」

 

レールカノンの砲口が、私の頭部に触れる。明らかな殺気。

しかし、私は冷静に言葉を発した。

 

零「相手の情報なしで感情任せにしてたら、後悔しますよ」

 

負け犬の遠吠えと捉えたのか、ボーデヴィッヒさんの口元が動く・・・チェックメイトと呟いた気がしたが、私はカノンが発射される直前に"AICをAICで相殺した"。

カノンは私の頭上スレスレを通り過ぎる。

 

ラウラ「なっ!?」

 

驚愕するボーデヴィッヒさん。その隙に、『シュヴァルツェア・レーゲン』の腹部に拳を叩き付けて、フィールド脇まで殴り飛ばした。

 

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【一夏SIDE】

 

俺達は、アリーナの様子が気になり、ピットの方ではなく、いち早くフィールドを確認できる観客席の方からアリーナに入った。

 

シャルル「誰かが模擬戦をしているみたいだね・・・あっ! 一夏、あれ!」

 

一夏「セシリア、鈴!」

 

シャルルが指差す先には、ぐったりとフィールドに倒れこんでいるセシリアと鈴だった。

そして、その隣には"黄色い『ラファール』"──────

 

シャルル「『カスタムV』・・・!? まだ試運転もされていないのに、どうしてもう・・・?」

 

一夏「あれは、零か? でも何で、零が二人を──────」

 

向かい側のフィールド脇に立ち上っていた砂煙が何かの衝撃で吹き飛び、そこから現れたのは、『シュヴァルツェア・レーゲン』。ラウラ・ボーデヴィッヒだ。

 

箒「あっ、一夏・・・」

 

後ろから声をかけてきた箒。どうやら、俺達よりも早くこのアリーナに着いていたようだ。

俺は、これまでの経緯を聞き出した。

 

一夏「あの野郎・・・!」

 

二人をやったのは零じゃない。アイツだ・・・。

俺は、すぐさま観客席から出てピットまで走って行った。

 

 

 

 

 

【シャルルSIDE】

 

僕はすぐにリヴァイヴのハイパーセンサーを起動して、フィールドの音声を拾う。

 

ラウラ『どうなっている・・・ラファールが何故AICを使える』

 

さっき一夏が篠ノ之さんに状況の説明を聞いていたので、今の一言と重ねてみる。そして、一つの意見が生まれた。

落合君が乗るISは『ラファール・リヴァイヴ・カスタムV』・・・僕のリヴァイヴの姉妹機。外見はリヴァイヴと同じように製造され、カラーリングはイエローで統一されている。

しかし、けっして『カスタムV』がAICを使える訳ではない・・・言うなれば、コピーしたのだ、『シュヴァルツェア・レーゲン』の機能を。

 

ラウラ『だが、それが何だ。AICが封じられたからといって、貴様が雑魚だということに変わりはない!』

 

ボーデヴィッヒさんの言う通り。修羅場をかいくぐってきた軍人と、一般人から専用機持ちとなった人との実力は雲泥の差。兵器や性能で埋められないキャリアの差がある。

落合君のIS操縦の腕は中の中ぐらい。それに加え、『カスタムV』は第二世代機。性能差もあるのだ。

あのコピー機能は元々、ISがコンピュータなどにアクセスしたりハッキングしたり出来る((非限定情報集積|アンリミテッド・サーキット))というコア・ネットワークに必要な機能を強化しただけなのである。つまり、IS型のハッキングソフトなのだ。だから『カスタムV』は別名"飛翔する((侵入者|イントルー))"と言われている。

 

ラウラ『ハァッ!』

 

瞬時加速で一気に間合いを詰める。おそらく、元教官の織斑先生譲りの技だ。

落合君はそれに反応できず、プラズマ手刀の餌食になる。

すぐに後ろに飛び退いたが、次にワイヤーブレードが『カスタムV』の腰に巻き付いて地面に何度も叩き付けられた。

 

零『かはっ!』

 

十何回も頭から落とされた落合君は、肺の中の空気全てを吐き出されたようだ。しばらく、四つん這いになって咳き込んでいた。

 

ラウラ『今度こそ、消し飛べ!』

 

中距離から放たれたレールカノン。

 

シャルル(((直撃|あたる))!)

 

一夏『おおおおおおぉぉぉっ!!』

 

瞬時加速から放たれた砲弾に接近し、雪片弐型で弾頭から真っ二つにした。

 

一夏『これ以上、俺の友達に手は出させねぇ!』

 

ラウラ『もう一人の愚図も来たようだな・・・丁度いい。貴様もそこの三人のようにしてやる』

 

一夏は雪片を構え、ボーデヴィッヒさんは逆に構えず、余裕の笑みを浮かべた。

そして、一夏が雪片を振り上げて突っ込もうとした瞬間、

 

千冬『何をしている、馬鹿共!!』

 

[ビリッ!]

 

突如、ここ一帯に電撃が走ったかのような感覚を、アリーナにいる全ての生徒が感じ取った。

その電撃を起こした張本人、織斑先生は生身でISブレードを提げてフィールドに出てきた。

 

千冬『模擬戦は構わん。だが、限度を見極めろ』

 

ラウラ『了解です。教官』

 

織斑先生の登場に、さっきまで剥き出しにしていた闘争本能をしまい込んだようだ。それは一夏も同じ。

 

千冬『織斑先生と呼べ・・・決着は学年別トーナメントにつけろ。それでいいな?』

 

ラウラ『了解』

 

一夏『あ、ああ・・・』

 

千冬『教師には「はい」と答えろ』

 

一夏『はい』

 

こうして、この騒動は沈静化したのだった。

 

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【零SIDE】

 

織斑先生の介入後、私と他二名は保健室に運ばれた。

私はワイヤーブレードで振り落された時の打撲だけだったが、他二名の怪我はけっこう酷い。触れるだけで飛び上るほどの事。

で、さっきまで織斑さんとデュノアさんがお見舞いに来ていたのだが、そこは割愛で・・・。

 

鈴音「はぁ・・・」

 

セシリア「・・・ふぅ」

 

織斑さん達が出てった後、二人の気の抜けたため息やらが止まらない。身体だけでなく、精神的にも病みそうなんだが・・・

先の戦闘で、二人の専用機が学年別トーナメントまでに修復が間に合わないほど、損傷を受けてトーナメントに出られなくなった。つまり、織斑さんとの交際するチャンスが消えたという事。

私のISは、そこまでの損傷は受けていないものの、安全面を考慮して出場しない事になった。たぶん、昔の私の体調についての事も視野に入れた処置なのだろう。

 

鈴音「はぁ・・・」

セシリア「ふぅ・・・」

 

零「・・・」

 

チラッと二人に目を向けると、既に心ここにあらず状態で視線が明後日の方を見ている・・・これは重症か?

 

零(私の専用機・・・)

 

ベットの隣に設置されている机の上から、『ラファール・リヴァイヴ・カスタムV』の待機状態であるペンダントを手に持つ。

寝ている状態から持ち上げていて、丁度、夕日がペンダントに反射して綺麗だった。

 

零("問題児"という意味、分かった気がする)

 

『カスタムV』のステータスから見た問題・・・そして、このISが私に"貸与"された理由から見た問題の二つがある。

ステータスから見ると、まず『カスタムV』には武装がない。初期武装も後付装備も。だから、その分を補うための"コピー機能"や"ハッキング機能"があるのだ。『ラファール』シリーズは、拡張領域が通常のISより容量が大きく、飛翔する武器庫とまで言われている。

『カスタムV』に拡張領域が無いわけではない・・・いや、『ラファール・リヴァイヴ』の4倍以上もの容量がある。その容量を敵機に触れるなどをして、コア内部のデータに侵入し、その武装を真似する、封じることに使用している。先の戦闘では、レールカノンが私の頭部に触れたのでAICをコピー出来たのだ。

しかし、それには高度なデータ処理スキルを身に付けてないと出来ない。何度も使えば、操縦者の方が参ってしまう。アンチ・『ラファール・リヴァイヴ』である『カスタムV』は、とても癖のある機体だ。

 

次に、このISが私に届いた理由だが、『カスタムV』はフランスのデュノア社が製造された。何でも国連の抽選会で当選して私のISを製造する権利を得たらしい。

しかし、あくまで『カスタムV』は"貸与"されたもの。いずれ、本国に回収される。そしてISコアから、私の戦闘データなどを解析しようとしているのだ。

たぶん他の国の人もそれを狙っていたことだろうから、それに対して不満を洩らすことはないが・・・。

 

楯無『まぁ、そんなの気にしないでバンバン使っちゃいなさい。壊しても、向こうの人は怒らないから』

 

さすがに壊しちゃマズイのでは、と思ったが、確かに利用されている事が分かっているなら、こっちだって好き勝手にやらさせてもらっても神様は叱らないだろう。

私は眠くなってきたので、ペンダントを置かれていた場所に元に戻した。すると、その置いた音で現実に戻ってきた二人が話しかけてきた。

 

鈴音「そういえば、アンタに礼を言ってなかったわね。助かったわ、ありがと」

 

セシリア「あのままだったら、わたくし達はどうなっていたか・・・落合さんは命の恩人ですわ」

 

零「・・・」

 

これは驚いた。強情な少女にプライドの高い令嬢が、お礼はするだろうけど、ここまで真摯に感謝の気持ちを伝えてくるとは・・・

 

鈴音「なに? その珍妙な生き物を見る目は?」

 

零「ぁ・・・すみません」

 

セシリア「謝らないで結構ですわ。逆に謝らなければいけないのは、こちらの方ですのに。落あ────いえ、これからは零さんと呼ばせていただきますわ。わたくしの事はセシリアと呼んでもらっていいですわよ」

 

鈴音「んじゃ、あたしもそう呼ぼうっと。零もあたしの事、鈴でいいわよ」

 

零「・・・」

 

鈴音「あによ? あたしに名前で呼ばれるの、そんなに嫌なの?」

 

零「いや、そういう訳では、ないです」

 

鈴音「???」

 

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【一夏SIDE】

 

ひと悶着が起きた後日。クラス対抗戦の時と同様、玄関前に学年別トーナメントの表が張り出されていた。

ちなみに、俺はシャルルと組むことになっている。

 

シャルル「あっ、一夏あったよ・・・え?」

 

一夏「マジかよ・・・」

 

一回戦の相手・・・ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒。

初戦から、強敵が、倒さなければならない相手が現れた。

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今話で、オリジナルの専用機が登場します。
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