戦国†恋姫〜新田七刀斎・戦国絵巻〜 第6幕
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 第6幕 軍神の土地

 

 

 

 

 

 

 

 

京を後にし、越後への街道を馬で行く剣丞たち。

たった4人ではあったが、1人の時よりも賑やかな旅路に剣丞は自然と顔を綻ばせた。

 

「もう少しで越後に入るわね」

「にしても、大名なのに護衛部隊を付けないなんて大丈夫なのか?」

「護衛ならいるじゃない」

 

そう言って3人を見る美空。

 

「いやそういう意味じゃなくて・・・って俺も護衛かよ!」

「冗談よ。確かに他の大名だったら幕府への挨拶にざっと1000人くらいで護衛の部隊をつけることもあるわ。見栄っ張りが多いから」

「あ、スケベさん。ちょっとその川で水汲んで来てほしいっすー」

「そのスケベってあだ名は変わらないのね・・・ってか何で俺!?パシリかよ!」

 

スケベという不名誉な呼び名を受け入れざるを得なくなった剣丞の立場は、もっぱら舎弟と変わらなかった。

 

「スケベ、早くする」

「へいへい、わかったよー」

 

剣丞は1人慣れない馬を動かし、近くに流れている小川まで行った。

水質はいたって綺麗で、川を覗けば映る自分の顔腰に底が見える程である。

 

「うわ、すっげぇキレイな川・・・現代じゃこういう川は少ないからなぁ」

 

人数分の水筒に水を入れる間だけ、剣丞は無心になって水面を見ていた。

すると、水に映った自分の顔が笑っているのがわかる。

 

「あれ、俺笑ってないよな?」

 

自分の顔を手で触って確認してみるが、確かに無表情だ。

しかし、水面の剣丞は笑っていた。

 

『よう』

 

水面に映った剣丞が話しかけてくる。

 

「新田、七刀斎・・・」

『そろそろわかってきたんじゃねぇか?お前にはオレが必要だってことが』

 

七刀斎は水の中からヒヒヒという笑みを浮かべてこちらを見ていた。

 

「消えろ・・・」

『おいおいそりゃねぇぜ。追ってきた鬼をブッ殺してやったのもあの青マントと戦ってやったのも全部オレだろ?』

「鬼はともかく、誰が美空と戦ってくれなんて言った!」

 

水面を殴りそうになるのを必死にこらえる剣丞。

 

「そもそもお前さえいなければ・・・俺は」

『堺の町でずっとあの女と暮らしていけたか?』

「ッ!」

 

七刀斎の笑みが更に深くなる。

 

『まぁそらそうさな。乱世をどうにかするだの、役割がどうだの、全部お前が堺を出るときに考えた言い訳だもんな』

「黙れ!お前に何がわかる!!」

 

ついにこらえきれなくなり、剣丞は力強く水面を叩いた。

しかし水面にいくら波紋を起こそうとも、帰ってくるのは予想以上に浅かった川底の感触だけだった。

 

「そもそも、お前が現れなけりゃ町を出ていくことなんて・・・」

『じゃあお前はあの山賊どもを全員戦闘不能にできたのか?人質もいたあの状況で』

「そ、それは・・・」

『お優しい剣丞さまは抜かずにカタを付けたかったようだがそりゃ無理な話だよなぁ』

 

水の中の七刀斎はやれやれと首を振っていた。

 

「・・・お前は一体何なんだ・・・何で俺の中にいる」

『何度同じことを聞くんだよ。オレはお前でお前はオレ。それ以外に言うことなんてねぇ』

「だからそれがどういう意味だって言ってんだ!!」

 

街道で美空たちが待っているため早く済ませようと思っていた剣丞の意を汲んでか、七刀斎は一笑いし、

 

『まぁいずれわかる時が来る。オレがいる限りお前は死なねぇから安心しとけ、じゃあな』

 

そう言うと水面の笑顔は消え、戸惑ったような表情の剣丞の顔だけが残った。

 

「一体、何が・・・」

「剣丞ー遅いわよー!」

 

結構な時間その場にいたのか、あまりの遅さに気になった美空が見に来ていた。

 

「あ、ごめん。今行くよ」

「早くしなさいよね、明日には越後に着くっていうのに遅らせたくはないわ」

「わかってるよ。もう終わったから」

 

水筒を水中から出し、手ぬぐいで拭く。

 

「あら?その手ぬぐい・・・」

「ん、これか?京に入る前に出会った貴族の子に貰ったんだよ」

「へぇ〜・・・貴族の子、ねぇ」

 

剣丞は双葉と名乗る少女からもらった手ぬぐいを日常生活でよく使っていた。

顔や手を洗った時や汗をかいたときなど、京から越後に向かうこの道中で何度使ったかわからない。

 

「その子の名前は?」

「えっ?双葉って子だったけど」

「やっぱり・・・」

 

美空は1人得心がいったように口角を上げると、踵を返した。

 

「早く行くわよ」

「え、おいちょっと!なんなんだよー」

 

剣丞の問いを無視し、美空はさっさと馬に戻って行ってしまった。

 

「さぁ、もたもたしてる暇はないわ。行くわよー!」

 

合流した4人は馬を走らせ、越後への道を急ぐのだった。

 

 

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 翌日 昼

 

「おおおおぉー!でっけぇ城!」

「ふふーん、そうでしょう」

 

剣丞たち4人は京から北近江、越前、越中を経て越後へと着いていた。

彼らが今馬を進めている場所は美空の居城、春日山城の城下町だ。

 

「松葉、先触れを」

「御意」

 

美空の指示によって松葉が一足先に春日山城へ向かう。

 

「先触れって?」

「大名とかお偉いさんがどっかに行くときや帰って来た時に先に言って着くことを伝えることよ」

「へぇ〜・・・あれ、柘榴は?」

 

いつもは隣にいた柘榴の姿が見えないことに、剣丞は辺りを見回す。

 

「御大将ー!これめちゃめちゃ美味しそうっすー!」

 

柘榴は屋台のようなところで馬から降り、美空たちに手を振っていた。

 

「まったく柘榴は・・・まぁそこがいいとこでもあるんだけど」

「ハハハッ、なんとなくわかる気がするよ」

 

しばらくすると団子を3本持った柘榴が戻って来た。

 

「はい、御大将の分っす」

「ありがとう、柘榴」

「・・・・・・」

「はむはむっ」

「・・・・・・」

 

美空に団子を1本渡した後、残りを食べ始める柘榴。

 

「・・・俺のは!?」

「あ、忘れてたっす」

「ひどい!!」

 

これが新入りへの洗礼かと言わんばかりに涙目になる剣丞。

それを見て柘榴は笑いながら団子を差し出してきた。

 

「冗談っすよ、はい」

「やったー!って、1コ足りないじゃねぇか!!」

「あ、バレたっすか」

 

テヘッと無邪気に笑う柘榴に、剣丞は怒るに怒れないでいた。

 

 

団子を頬張りながら、美空は考える素振りを見せていた。

 

「ねぇ剣丞」

「ん?なん「ていっ!」ぎゃああああああぁぁぁぁ!!!!」

 

振り返った剣丞の目の前には美空のピースサイン。

剣丞は美空に目潰しを受けていた。

 

「んーこの俊敏性の無さ。あの気性の荒い方じゃないわね」

「いつもは俺だよ・・・って、それを確かめるためだけに目潰しを!?」

 

七刀斎のことは美空以外は誰も知らない。

剣丞は余計な混乱を防ぐため、他の将に七刀斎の存在は秘密にしていた。

 

「ひとつ思いついてね。あなた、今から身分を偽りなさい」

「はぁ?」

 

美空が剣丞を指さして言う。

 

「考えてもみなさい。今新田剣丞は織田にいるのよ?ここに居ちゃ不自然じゃない」

「確かに・・・じゃあ、どうしろってんだよ」

 

そこよ、と言って美空は再度剣丞を指さした。

 

「新田は珍しい苗字でもないからいいとして、京であなたが言ってた・・・七刀斎だっけ?それをあなたの名前にすればいいのよ」

「な、なるほど」

 

悪い提案ではなかった。

 

「じゃあ決まりね。姿形も同じだろうから、今度顔を隠す物でも用意するわ」

「わかった。助かるよ」

「あんたもそれでいいわね?柘榴」

 

2人は後方で団子を食べていた柘榴を見た。

 

「ん?スケベさんの名前が変わる話っすか?」

「そうよ。あんたはずっとスケベって呼ぶつもり?」

「そのつもりっす!スケベさんは柘榴の胸を揉みしだいた色情魔さんっすー!!」

「ちょ、ちょっと!誤解を生むような言い方は・・・」

 

剣丞が反論するも、もう遅かった。

 

「かかさまーしきじょーまってー?」

「見ちゃいけません!」

 

柘榴の大声を聞いた人々は一斉に剣丞を指さし、目を合わせないようにしていた。

 

「一気に有名人じゃない、やるわね」

「勘弁してくれええぇぇぇ!!」

 

剣丞の悲痛な叫びが春日山の町に広がった。

 

 

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 春日山城 大手門

 

そこには松葉ともう1人ある女性が、主君の帰りを待ちわびていた。

 

「・・・見えた」

「本当だ、おーい!」

 

その2人のことを、大手門に向かう3人も視認する。

 

「松葉と秋子っすね」

「秋子?」

「私の家臣よ。行き遅れだけど悪い人間じゃないから」

 

まだ会ってすらいないのに嫌な紹介の仕方をされる彼女に、剣丞は心の中で合掌した。

 

「御大将、長旅お疲れ様です。その方は?」

(お、おっぱいだ・・・)

 

剣丞が邪な印象を抱いている時、恐らく秋子であろう女性が見知らぬ顔を見て首を傾げていた。

 

「京で私の家臣になった新田七刀斎よ」

「ほえーそうなんですか・・・あっ、私は直江秋子景綱と申します。秋子と呼んでください」

「どうも、新田七刀斎です。新人ですがよろしくおねがいします」

 

お互いに頭を下げる剣丞と秋子。

そこに口を挟んだのは松葉だった。

 

「・・・誰?」

「俺だよ俺!松葉!俺新田スケベさん!」

「・・・あぁ、スケベか」

 

ついに自分で言ってしまうことを情けなく思ったが、そうでもしないと自分だとわかってもらえないという風貌をしていることを、剣丞は自覚していた。

 

(やっぱり変だよ・・・てかなんで包帯グルグル巻き?シシオマコトみたいになってるぞ俺)

 

「その包帯・・・怪我ですか?」

「ええ・・・まぁ」

 

そのタイミングで美空は満面の笑みで話に割り込んできた。

 

「私と立ち合って無惨にも負けた時の傷よねぇ?」

(うわぁなんだこのドヤ顔!・・・なんかイジワルしたくなってきたな)

 

いくら顔を隠す為とはいえ、包帯をするには理由がいる。

美空は包帯と共に自分を立たせるシナリオを用意していたのだが、あまりにもあざとすぎた。

 

「いえ、違います。修行の際に出来た傷で、美空との立ち合いでは俺が勝ってました」

「ちょっとー!?話が違うじゃない!!」

「話?」

「ああっ、いやこれは・・・」

 

先程のドヤ顔とは一変、美空は慌てふためいたりバツの悪そうな顔になったりと忙しかった。

 

「まぁ確かに剣の腕では負けてたと思うっすよ」

「ほほー中々の武芸者なんですね」

 

秋子の剣丞を見る目が興味から感心へ変わった。

 

「はいっす。京の町中で三昧耶曼荼羅を使うくらいだったっすから相当な使い手だと思うっすよ」

「えええぇっ!ま、町中で三昧耶曼荼羅を・・・しかも幕府のお膝元で!?」

「柘榴は止めたっすよ?事前に注意もしたし、戦いも止めたっす。柘榴なーんも悪くないっす」

「ちょっと柘榴!あんたねぇ・・・!」

「お〜んた〜いしょ〜?」

 

秋子の意識は剣丞よりも、美空に向いていた。

 

「町中で、京の町中で!あなたはなぁにをしてるんですかー!!」

 

美空は予想された怒りを身を縮めて受けた。

 

 

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 春日山城 評定の間

 

主の帰還の知らせを受けた長尾家に仕える諸将が一堂に会し、一糸の乱れなく整列し座っていた。

その中には柘榴と松葉、秋子の姿もある。

 

やがて2ケタ程の人数が座る場所より一段上の場所、上段に美空がその姿を現した。

 

「皆の者、面を上げい」

 

その言葉にやはり一糸乱れぬ動きで下を向いていた彼らの顔が美空の方向を向く。

 

「留守を守ったこと、大義であった。此度の謁見による幕府との交友は、必ず長尾家千年の礎となることだろう」

「「「「「はっ!!」」」」」

 

(すげぇ統率・・・)

 

大人数の声が同時に発せられることにより、まるで1つの大声のようになる。

長尾家の結束力を見せつけられた剣丞は、評定の間の外でこの光景を見守っていた。

 

(予定じゃそろそろだな)

 

この評定は美空の帰還報告だけでなく、新しく長尾家の家臣となった剣丞の顔(包帯で隠れている)を覚えてもらうために開いていた。

 

「あともう1つ。皆に言うことがある」

(きたっ)

 

評定の間が水をうったように静かになり、剣丞の出番がやってきた。

 

「謁見の際、私は幕府より一振りの剣を授かった。が、すぐに失ってしまった・・・」

 

その剣というのが京で戦ったときにボロボロにしたものだということは当事者である美空と剣丞しか知らない。

 

「しかし、私はすぐさま新たな剣を得た。入ってよい」

 

打ち合わせ通り剣丞は襖を開け、諸将と美空の間に姿を現した。

その場にいるすべての視線が剣丞に向く。

 

(うっわ、なんだこのプレッシャー!)

 

「紹介しよう。これの名は新田七刀斎。我の新しい家臣だ」

「(確か、ここで自己紹介・・・)新田七刀斎です。よろしくお願いします」

 

剣丞がお辞儀をした瞬間、彼を見る周りの目が3種類に限定された。

 

ひとつは新しい仲間を歓迎する視線。

ひとつは部外者を邪魔に思う視線。

ひとつはどうでもいいという視線。

 

「え、えーと・・・」

「七刀斎の位置はここに」

「「「「「なっ!?」」」」」

 

美空が剣丞の座る位置を指示する。

自己紹介の時の静けさとは打って変わって、その位置に驚きを隠せない者はいなかった。

 

「お、御大将!何故新参者のこやつをそのような場所に!?」

「我ら家老陣にもご説明いただきたい!」

「というか何だその顔に巻いた包帯は!」

(俺もそう思います)

 

どよめく評定の間で声を上げたのは、美空に最も近い場所に座っていた初老の家臣たち。

美空が指さしているのはその位置よりも美空に近い場所。彼らよりも近い場所であった。

 

家老のみならず、他の将たちもその場所への反対の意を表している。

 

「皆の言いたいことはわかる。確かにこの男は怪しい」

「おい」

「しかし、これは私が考え抜いて決めたことよ」

「ならば、その考えをお聞きしたい」

 

依然として疑いの目を向けられている。

 

「私はこの男を新たな剣と言った。その言葉の通り、この男も幕府より送られし剣」

 

美空の突然の説明に、家臣のみならず剣丞も首を傾げた。

 

「七刀斎、例の手ぬぐいを」

「手ぬぐい?」

「あんたがいつも使ってる奴よ!持ってるんでしょ?」

「ああ、これか」

 

剣丞が双葉からもらった刺繍入りの手ぬぐいを取り出す。

その瞬間、家老の1人が驚愕を顔に貼り付けた。

 

「そ、その刺繍は・・・!」

「そう、この手ぬぐいは幕府が褒美を送るとき、物を包むのに使う金刺繍の手ぬぐい。これこそが新田七刀斎が幕府より長尾家に送られた剣であるという証拠」

「ま、まさか本当に・・・」

 

先程とは違ったどよめきを見せる家臣団の中で、柘榴と松葉がヒソヒソ話をしている。

 

「松葉松葉、さっきからスケベさんが剣だとかどういう話っす?」

「あのスケベが、ボロボロになった刀の代わりに長尾家に幕府が斡旋した将・・・っていう設定?」

「ああーそういうことっすか!だからスケベさんが剣なんっすねー」

「スケベの剣・・・スケベ剣?」

「うっわ!なんかちょー卑猥っす・・・やっぱスケベさんはスケベっす」

「ちょっと2人とも!評定中ですよ!」

「うわっまーた年増の説教が始まるっす」

「だーれーが年増ですかー!!」

 

思いっきりヒソヒソではないヒソヒソ話をする3人を捨て置くように美空は立ち上がり、言い放った。

 

「幕府より送られし剣は我が手で振るう。これに反論のある者はいるか!」

 

「顔を隠した新参の怪しい男とはいえ・・・」

「幕府より送られた将であるなら仕方もあるまいて」

 

新参者で年端もいかない剣丞が家老を差し置いて美空の近くに座ることを疎む者もいたが、剣丞の持つ金刺繍の幕府の威光がその声を小さくさせていた。

やがて、反対意見を出す者はいなくなり――

 

「皆納得したわね。ではこれより、新田七刀斎を長尾景虎の馬廻り組とする!」

 

美空のその言葉を最後に、主君帰還の評定は終わりを告げた。

 

剣丞は美空の勢いに飲まれ、最後まで言葉を発することができないでいた。

 

 

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 夕方

 

無事(?)長尾家の家臣となった剣丞は与えられた部屋で休んでいた。

部屋の大きさは偶然にも前に住んでいた屋敷の自室と同じであった。

 

「ここが俺の部屋になるのか・・・」

「剣丞、いる?」

「美空か、いるよー」

 

襖が開き、美空が入ってくる。

 

「あんたの役割だけど、私の馬廻り組ってことになったからね」

「うままわりぐみ?」

「まぁ簡単に言えば私の親衛隊ね。通常なら使番として私の命令を家臣に伝えに行くけど、それは他の者に任せているから。剣丞は護衛だけしてればいいわ」

「なるほど、わかった。じゃあ俺は美空を護ればいいんだな」

 

剣丞のその言葉に、美空は首を横に振った。

 

「いいえ、護衛対象は私だけじゃないわ。もう1人いるのよ」

「もう1人?」

「ええ。名前は長尾景勝、私の娘よ」

 

その瞬間、剣丞の目の前は真っ暗になった。

頭が鐘を打たれたようにグワングワンと揺れる。

 

「そ、そっか・・・その年でお子さんが・・・」

「あっ、違うわよ?その、空は私の養女であって」

「空?」

「景勝の事!まだ経験のない私が子を産むなんてありえないわよ!」

「ふーーーーーーーーーん!」

 

剣丞の脳内で、真っ暗な闇の中に一条の光が差し込んだ。

 

「な、なによ・・・ニヤニヤして」

「べっつにーーーーーーーーーーーー」

 

多少の安心感で顔を綻ばせていると、美空は顔を赤らめて手を叩いた。

 

「とにかく!今日は帰還と歓迎の宴とかあるから、仕事については明日説明してあげるわ」

「ああ、よろしく頼むよ」

「それじゃあ宴の準備が出来たら誰か迎えに来ると思うから」

「うん、わかった。ありがとうな」

「いいえ」

 

美空が襖を開け、部屋を出ようとする。

しかしその足は、部屋の中で止まっていた。

 

「あ、そうそうあとひとつ。その手ぬぐい、捨てない方がいいわよ」

「言われなくても大事に使ってるよ。それより何でさっきこの手ぬぐいを皆の前で見せたんだよ。幕府がどうとかハッタリまで使っちゃって」

「ハッタリ?」

 

美空は深くため息をついて、ニヤニヤ顔で剣丞を見た。

 

「世間知らずの剣丞君。あんたが会った双葉って子の事、教えてあげるわ」

「な、なんだよ。知り合いか何かか?」

「その子の名前は足利義秋。征夷大将軍、足利義輝の妹よ」

「えっ?」

 

約4秒、時が止まった。

 

「え、えええぇぇぇぇ!?じゃ、じゃあこの手ぬぐいも・・・!?」

 

剣丞は驚きながら手に持つ手ぬぐいとニヤニヤとした美空の顔を見る。

 

「そういうこと。じゃ、また後でね〜」

 

ヒラヒラと手を振って美空は部屋から出て行った。

後に残されたのは、茫然と手ぬぐいを握りしめる剣丞だけとなった。

 

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 おまけ

 

 

今作品における某野望ゲー風な新田剣丞と七刀斎の能力。

 

 剣丞

統率83 武力78 知力79 政治86 伸びしろ大

 

 七刀斎

統率21 武力?? 知力80 政治47 伸びしろ中

 

剣丞は統率と内政向け、七刀斎は完全に個人の武力頼りです。 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

説明
どうも、昨日の夜投稿しようとして寝落ちした結果朝に投稿したたちつてとです。
更新速度がまちまちな本作品を今回もどうぞよろしくおねがいします








※支援・コメント誠にありがとうございます!
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コメント
>>mokiti1976-2010様 ぶっちゃけると手ぬぐいのネタは今回の話を書いてる最中にふと浮かんでいました・・・(笑)(立津てと)
>>本郷 刃様 苦労は・・・結構続くかと思われますww(立津てと)
確かに家老どもを黙らせるのに幕府の名はうってつけですね。偶然とはいえ剣丞君も運のいい事で。(mokiti1976-2010)
名誉な役職と不名誉なあだ名を貰い受けた剣丞でしたね、彼の苦労は続きそうですねw(本郷 刃)
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