欠陥異端者 by.IS 第八話(干渉)
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学年別トーナメント当日。

各学年の生徒達は、それぞれのアリーナに移動して一回戦を始めているが、落合零、セシリア・オルコット、凰鈴音は怪我により保健室に設置されたモニターからトーナメントの状況を確認している。

 

鈴音「ったく、もう体も動けるっていうのに、何でここからの観戦なのよ」

 

セシリア「文句を言っても仕方ありませんわ。せめて、一夏さんに伝えたご助言が役に立てば、良いのですが」

 

零「・・・」

 

モニターが映し出すアリーナの状況では、試合開始5分前を切っており、すでに出場者はフィールドに出ている。

織斑一夏&シャルル・デュノア VS ラウラ・ボーデヴィッヒ&篠ノ之箒という組み合わせで行われる一回戦だが、この時点で専用機が三機も出る事態で、観客席にもう熱が入っていた。

 

鈴音「それにしても、零はまだ治らないの? あたしなんか、もうピンピンして─────っつ!」

 

ぐるぐると肩を回した瞬間、鈍い痛みが鈴音を襲って苦しい表情をする。

 

セシリア「調子に乗るからですわ・・・零さんは、鈴さんみたいにすぐ手が出る、足が出る事などしない繊細な方なんですのよ」

 

零(それは言い過ぎ・・・というか、怪我とそれは関係ない)

 

セシリアと鈴音はかなり重症だったが、零は打撲による痣だけだった。しかし、その痣の治りが遅く、今日までこうして三人で保健室で寝食している。

 

鈴音「あ、あたしだって、好きで・・・その、手を出してるわけじゃ・・・い、一夏が悪いのよ、全部!」

 

零「何で今、織斑さんが出てくるんです?」

 

鈴音「うっさいっ!」

 

顔を赤くして投げてきたのは、空の花瓶だった。咄嗟に両手を上げて、花瓶をキャッチした零は「は、はは・・・」と苦笑いを洩らした。

 

セシリア「一夏さんだけじゃなく、落合さんにもすぐ危害を加える事が今、分かりましたわ」

 

鈴音「うっ・・・ううぅ」

 

保健室暮らしがもう三日になった三人だが、こうやって三人だけの時はどうでもいい事を話題にずっと話している。

 

鈴音「って、アンタ、一夏の事「織斑さん」なんて呼んでた? いつも「一夏」って呼び捨てにしてたじゃん?」

 

零「ぁ・・・」

 

シャルルの編入によって寮室を引っ越す前に、一夏から名前+呼び捨てで呼んでくれと言われていた零は、とりあえず一夏が居る場所では「一夏」と呼んでいたのだ。

何故、そんなに人の名前を呼びたくないのか、その拘りを他人が理解するのは難しいだろう。

 

鈴音「何か、掴めないよね。昔からそうなの?」

 

零「・・・」

 

セシリア「零さん?」

 

零「ぁっ、すみません・・・あの昔からこうです」

 

他人との距離感の取り方が分からない、わざわざプライベートでの人付き合いの必要性が確立されていない、被害妄想やマイナス思考・・・これらの要素があったためか、必要最低限とでしか他人と接せられなくなった・・・いや、そういう接し方しか出来なくなってしまった。

 

セシリア(初めて会った時よりかは、人らしくなっていますが、本当に掴めない方ですわ)

 

零は、寮住まいの学園に強制的に入れられ、避けられない人付き合いを経験しているため、自分でも気づかないほど、"理屈"だけでなく"気持ち"や"感情"などの無意識に芽生える視野を手に入れた。

しかし、零は衝動や感情的に行動することを嫌っているので、この成長は幸か不幸か・・・

 

鈴音「前々から思ってたけどさ、何でそんなに控えめな訳? 男ならドーンと構えて、「俺が守ってやる!」ぐらい言える気前を持ちなさいよ!」

 

零「はあ・・・」

 

セシリア(鈴さんが珍しく説教めいた事を・・・って、鈴さんが言った男性の理想像、もろ一夏さんなのでは?)

 

そんなこんなで話が盛り上がっている間に、一夏達の戦闘が始まった。

試合開始同時に一夏は、雪片を構えてラウラに斬りかかるが、それを見越されており『シュヴァルツェア・レーゲン』のAICによって、動きを封じられた。

 

ラウラ『開幕直後の先制攻撃か。分かりやすいな」

 

一夏『・・・そりゃどうも。以心伝心でなによりだ』

 

零「・・・?」

 

一夏とラウラの声が零に伝わってくる。

二人は単に((開放回線|オープン・チャネル))を開いているだけで、フィールド内とコントロールルーム以外の場所からでは、二人の会話は聞こえないはず。しかもモニター越しなら尚更。

頭に響くその声に一瞬、疑問を持ち、前にも声が聞こえる事があったと思い出していたが、上記の事実を知らなかったため、特に気に止めなかった・・・。

 

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IS学園がトーナメントで盛り上がっている頃、イギリスで暗躍の影が蠢いていた。

 

男性「やぁ、そこの美人さん」

 

?「はい?」

 

ある喫茶店で、色白で背の高い男性が、金髪の美人にナンパしていた。

金髪の美人は、サングラスをかけているが、深紅のスーツを着こんでいる。

男性は美人さんの向かい側に勝手に座り、身を乗り出して「この後どこかに行きませんか?」と問いかけてきた。ナンパだ。

 

?「私、これから友人と会う事になっているの。ごめんなさい」

 

優しい微笑み浮かべながら丁重に断りを入れると、男性も「Sorry」と笑顔で答え、席を立った。

すると、男性が立った同時に、また美人の向かい側に座る人物がいた。どうやら、美人さんの待ち人のようだ。

 

?「どう?」

 

ボサボサの長い黒髪に鋭い目つき。肩には鉄のショルダーサポーターが付けられたマントを着た、まるで流浪の旅人のような少女が呟くように答える。

 

?「あれぐらいの警備、余裕だ」

 

?「頼もしいわ。じゃあ、今から2時間39分後、よろしくね」

 

?「了解」

 

少女は席を立ち、店を出た。

 

スコール「さて、お手前拝見とさせてもらいましょうか、エムさん」

 

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アメリカ、ロサンゼルス

高層ビルが立ち並び、大勢の欧米人が行き交うダウンタウンに、一際、威勢のオーラを放つ女性が、手に持つ"蜘蛛が彫られたブローチ"を弄びながら歩いていた。

彼女は前から来る人を避けるどころか目で威圧し、相手の方を避けさせていた。

そんな彼女は、合流地点であるファーストフード店に到着し、モグモグと静かにハンバーガーを食べる修道士の前に座る。

 

女性「強奪おつかれ・・・オータム」

 

ハンバーガーに目を落としながら言う女性。

身長はシャルルぐらい。歳は十代後半ぐらいだが、童顔で物静かさが見た目より幼く見させる。濃い紅の長髪は綺麗にすいてあり、服装は白い修道服を着ていた。

 

オータム「私の名前を呼び捨てで呼ぶんじゃねぇよ・・・ったく、たるい仕事だったぜ」

 

オータムは弄んでいたブローチを叩き付けるように、バンッと机に置いた。その衝撃で、机の脇に置いてあった女性のベールが落ちた。

女性がベールを拾っている間に、オータムはポテトを頂く。空腹だったのか、さっきより表情が柔らかくなった。

 

オータム「つーか、わざわざ合流しなくていいだろうが。任務も達成したんだしよぉ」

 

二人はある任務を受けて行動している。

オータムは、先ほどのブローチ─────アメリカの第二世代機『アラクネ』を、研究所を襲撃して強奪するという任務。

そして修道服を着た女性は、オータムの侵入と脱出のサポートと────

 

女性「まだ継続中」

 

オータム「あ?─────ッ!」

[ガタッ!]

 

女性の思わせぶりの言葉に、オータムは即座に席を立って周囲を見渡す。しかし、映るのは何事かとオータムに注目する一般人だけだった。

 

女性「逃げた」

 

オータム「チッ!」

 

オータムはすぐに、謎の追跡者を追うため店から飛び出た。

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

?「巻いたようね・・・」

 

フード付きのパーカーにジーンズ、見た目は男性の服装だが、胸元はしっかり膨らんでいて、声も音域が高い。明らかに若い女の声だ。

女はフードをかぶったまま、裏路地に逃げてオータムに追われていないかを確認してから、ゆっくり息を吸って、ゆっくりと吐いた。

そして、スマホを起動させて、先ほどのファーストフード店、オータムが研究所に侵入・脱出した直前と直後を撮ったデータを映す。

 

?(『((亡国機業|ファンタム・タスク))』・・・本格的に動き出したわね。イギリスでも、動きがあるみたいだし・・・まぁ、そっちは"シャロン"ちゃんと"((永住|ながすみ))"君が調査しているから、心配しなくていっか)

 

"組織の後輩"を思いながら画面を指でスクロールし、一通り見終わったため電源を落とした。

そして、スマホをパーカーのポケットに入れて、その入れ替えに古ぼけた写真を取り出す。それを見た女の表情から険しさが消え、愛犬を愛でる時の暖かさが滲み出ていた。

 

?(ゴメンね・・・でも、必ず私が守ってあげるから)

 

写真の画像は酸化していて見にくいが、そこに映っているのはベビーベットでスヤスヤ寝ている赤ん坊だった。

 

?(愛しい、愛しいベイビーちゃん♪)

 

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舞台は戻ってIS学園。

試合の状況は、箒がシャルルにやられ、今は二人がかりでラウラを攻撃している。

『シュヴァルツェア・レーゲン』に備えられたAICは、多量の集中力を使用するため、一人の動きを封じている時に無防備になる。

つまり、一夏に使用している間、シャルルから攻撃され、逆の場合は以下略。

 

[ウィンッ]

セシリア「試合の方はどうですの?」

 

怪我人の容態確認から戻ってきたセシリアは、ベットに座ってモニターに目を向ける。

ちなみに、ベットで身を投げて、頭の後ろで手を組んでいる鈴音は、セシリアの前に容態確認に出ている。そして、セシリアの次は零だ。

 

鈴音「けっこう追いつめてるわよ。ま〜あ、あたしが特訓に付き合ってあげたんだから、当然の結果よね!」

 

恩着せがましい言い方に対して、セシリアは突っかかり、零は特に気にも留めず保健室を出た。

零が向かう場所は、保健室からそう遠くない療養室。一応、プライバシーと男一名・女二名いる問題があるので、室を変えて検査をされる。

 

[ウィンッ]

零「失礼します」

 

華城「ん〜・・・そこ座って」

 

((華城|はなぎ))先生は、療養室+保健室の担当教諭。どうも、この先生は取っつきにくく、薄気味悪いと嫌っている生徒もいる。生徒にも干渉しようとしないし、陸の孤島のような人だ。

でも結婚しているんだよね・・・(笑)

しかし、零はこういう先生だからこそ安心が出来た。その理由は眼帯で隠している左目にあるのだが、これを語るのには時期尚早というものだ。

 

華城「脱いで」

 

ドキッとなる事を淡々と言う先生。そしてそれに対して、落ち着きを払って指示に従う零・・・おっ、思ってたより筋肉ついてる。

 

華城「あ〜、治りが遅いなぁ・・・こりゃ、自宅療養に切り替えた方がいいな」

 

IS学園は、アラスカ条約に基づいて日本に設置された、IS操縦者育成用の特殊国立高等学校。操縦者に限らず専門のメカニックなど、ISに関連する人材はほぼこの学園で育成するために存在している。

しかし、もう一つの理由としては危険人物、又は、危険兵器、戦争の引き金になりかねない存在を隔離するという意味でも、この学園の存在は必要不可欠なのだ。

一夏も零も強制的に学園に入れられた・・・つまり、そうしなければ何百という派閥が奪い合いを始めるのだ。

華城が言っている事は、とてもじゃないがただの教員が決められる事でじゃない─────と、思った零が質問すると、

 

華城「それで、アンタの容態が悪化したら本末転倒だろ? 書類が通れば、自宅療養も出来る・・・それに、傷の治りが遅いのは、ストレスが関係しているかもしれないからな」

 

ぶっきら棒な言い方だが、零に関する資料をしっかり読み込んでいるようだ。まぁ、一概にストレスが原因だという訳ではないが・・・

当の本人も、"昔から治りが遅い"という事実しか分からないので、何が原因かと言われても答えられない。

 

華城「自宅療養が決まれば、担任から聞かされるはずだから・・・じゃ、戻っていいよ」

 

先生に促されて零は療養室を出る。

 

[ピキッ]

零「ッ・・・」

 

丁度、保健室と療養室の中間あたりで、零は違和感を覚え、廊下に膝をつく。

その違和感を徐々に頭痛へと変わり、ついには何もかもが感じられなくなるほどの痛みへとなった。

 

零「うぐっ、やめろ・・・」

 

・・・『Damage Level‥‥D.

 

Mind Condition‥‥Uplift.

 

Certification‥‥Clear.

 

《Valkyrie Trace System》‥‥‥boot.』・・・

 

零「やめ、ろ・・・やめろぉぁあああああああああぁぁぁぁっ!!」

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

ラウラ「ああああああっ!!!!」

 

ついにラウラを追い詰めた時に、突如、身が裂けんばかりに絶叫した。同時に、『シュヴァルツェア・レーゲン』から高圧の電撃が放出され、接近していたシャルルが弾かれた。

 

一夏「シャルル、大丈夫か!?」

 

シャルル「う、うん・・・でも、一体何が?」

 

二人の視線の先には、コールタールのようなものに飲み込まれ始めてる『シュヴァルツェア・レーゲン』だった。

((形態移行|フォルム・シフト))ではない。強大な力を安易な手段で手に入れようとした代償として、その身を捧げられているようだ。

 

一夏「何だよ、あれは・・・」

 

コールタールが粘土のようにグニュグニュと『シュヴァルツェア・レーゲン』を飲み込んだ物体は、一回り大きい騎士の形態へとなった。

その手に握られているのは─────

 

一夏「『雪片』・・・」

 

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零「・・・んっ、んんぅ」

 

・・・ここは、どこだろうか。どこを見ても闇。そして、ここはマイナス感情が充満している。

暗い・・・寒い・・・冷たい・・・苦しい・・・悲しい・・・辛い・・・寂しい・・・。

だが、そんな空間にも本当に僅かで、6等星ぐらいの光が差し込んでいた。それを注目していると、自然とその光に意識が吸い込まれる。

 

千冬『ここ最近の成績は振るはないようだが、なに心配するな。一か月で部隊内最強の地位へと戻れるだろう。なにせ、私が教えるのだからな』

 

その星が映し出していたものは、軍服姿の織斑先生だった。不敵な笑みだが、美しく凛々しいその姿につい手を伸ばす。

すると、その星が瞬く間に弾け飛び、周囲に織斑先生の怒号、織斑先生の指導、織斑先生の笑み・・・全てが織斑先生で埋め尽くされた。

 

零(・・・ここは、ボーデヴィッヒさんの記憶の中なのか?)

 

たびたび先生が「ボーデヴィッヒ」と、こちらに向かって話しかけてくるところから読み取った。

それに気付くと、さらに奥に存在するデータ・・・ラウラ・ボーデヴィッヒの記憶が私の脳に濁流のような勢いで流れ込んできた。

 

遺伝子強化試験体C-0037・・・それがラウラ・ボーデヴィッヒの正体。戦うために作り出され、教育され、訓練され、生業とする戦闘戦士。

しかし、ISの登場によって移植された『((越界の瞳|ヴォーダン・オージェ))』が適合せず、成績は下落、出来損ないという烙印が押された。

そこに織斑先生の指導が入ったおかげで汚名返上。同時に、織斑先生に対して強い憧れを抱いた・・・。

 

零(それと同じくらい、織斑さんに対して憎しみを持っている・・・何でだろう?)

 

ここは様々な感情が乱れる空間。私の旺盛な好奇心を止める理性はない・・・私がいるべき場所は「ここ」なのかもしれない、と思った。

また、周囲の星たちが粉々に弾け飛び、再び暗黒の空間へとなる。

 

ラウラ『・・・いやだ』

 

ボーデヴィッヒさんの弱々しい声が聞こえると、膝を抱えて小さくなっている彼女を見つけた。

私の意識は彼女に近づき、それにつれて身体の感覚が戻ってくる。どこも暗闇なのに、彼女の近くなら着地する事が出来た。

 

ラウラ『近づくなぁ!!』

 

零「ッ!?」

 

突如、私の目前にキラッと光るものが通り過ぎ、驚いて尻餅をついて倒れこんだ。

そのキラッとしたものを注視すると、それが黒ずんだ"刀"という事が分かった。

 

零(彼女を縛りつけている番人か・・・いや、彼女が縛りつけたがっている番人だ)

 

彼女は自分の強さを否定されることを恐れている。

ここは理性の効かない空間。湧き上がってくる感情を止めることが出来ない。だから、ボーデヴィッヒさんが抱える恐怖が止めどなく溢れている。

 

零「あんなに人を見下しておいて、一人じゃそのザマ・・・ふざけるな」

 

それは、私も同じだった。

現実世界で、感情を抑え込んでいた分が、ここで噴火のように爆発した。

 

零「そこでウジウジして、他人任せはないだろっ! 強くなりたいんだったら、刀を自分で握れ! 振れ!」

 

ラウラ『だまれっ!』

 

もう、止まらない。カミングアウトだと言われても気にしない・・・!

力強く一歩一歩、彼女に向かって踏み出す。すると、"刀"が分裂、10本の白刃が襲い掛かってきた。

 

零「消えろっ!」

 

一喝すると、言葉通りに刀が消滅した。守ってくれるものがなくなり、無防備になった彼女。

 

零「ラウラ・ボーデヴィッヒ」

 

声をかけるビクッと全身を震わせる彼女。もう初めて会った時のトゲトゲしさも冷たさも無い・・・ただの寂しがり屋な少女だ。

一体何が彼女をこんなにしたのだろうか・・・。さっきまで熱せられた感情が急に冷めて、しゃがんで静かに疑問を問いかけてみた。

 

零「何で、そんなに寂しがっているんですか?」

 

ラウラ「私には、もう・・・教官しか、いないんだ。私を救ってくれた、教官しか・・・!」

 

膝に埋もれていた顔が、銀髪の隙間から見え隠れしている。だが、目に涙をこぼしているが分かった。その瞳は金色に輝いている。

 

ラウラ「教官は、堂々としていて、強く、凛々しい・・・だが、アイツの事を・・・織斑一夏の事を話す時になると、優しく笑うんだ。あんな教官にする織斑一夏が・・・羨ましい」

 

零「・・・」

 

私は呆気に取られた・・・。あんな冷たいマスクの裏に、普段のボーデヴィッヒさんに合わない"嫉妬"心があったとは。

 

ラウラ「笑うがいい! 口先では他人の事を罵っておきながら、私は─────」

 

零「笑わないでしょう」

 

ラウラ「こんな・・・え?」

 

零「笑いませんよ。少なくても、近くにいる"男子"はしっかり受け止めてくれる」

 

ラウラ「本当、か・・・?」

 

顔を上げるその表情に、少し明るさが出てきた。

 

零「でも、気を付けないと・・・気を抜いていたら、落とされます」

 

ラウラ「・・・ふふっ、教官と同じことを言う」

 

ボーデヴィッヒさんが笑った・・・やはり、軍事といえども十五歳の女子なんだ・・・。

その明るい笑みを浮かべたからか、暗黒の世界にヒビが入って光が差し込んできた。すると、ボーデヴィッヒさんは光を見据えて立ち上がる。

 

零「もうすぐ迎えがきますよ。きっと、ボーデヴィッヒさんが抱えている最後のモヤモヤもスッキリさせてくれると思います・・・あの姉弟なら」

 

ラウラ「ハハハッ、ズルい姉弟だがな」

 

縦に割れたヒビに向かって歩みだしたボーデヴィッヒさん・・・あの様子なら、もう"自分を見失わない"だろう。

 

ラウラ「私の事・・・ラウラと呼んでくれないか」

 

ボーデヴィッヒ・・・ラウラさんは首だけをこちらに向けて言う。

 

零「・・・分かりました、ラウラさん。私の事も零って呼んでください」

 

ラウラ「ああ・・・ふっ」

 

零「どうしました?」

 

ラウラ「いやなに、零も笑うんだなと思ってな」

 

零「・・・笑いますよ。人間なんだから」

 

次の瞬間、空間は完全に崩壊し、私達は光に包まれた・・・

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

 

零「・・・ぅ」

 

セシリア「あっ、気付きましたわ」

 

そこは三日間お世話になった保健室だった。目の前には、心配そうに私を覗き込むオルコットさんと凰さん・・・いや、セシリアさんと鈴音さん。

 

鈴音「アンタ、廊下で気絶していたのよ。も〜う、突然、発狂声が聞こえて心臓飛び出るかと思った」

 

零「あ〜、すみません・・・ふふっ」

 

セシリア・鈴音「「・・・」」

 

急に二人が、保健室の隅にダァーッと走っていく。

 

セシリア「な、何で笑ってますの?」

 

鈴音「そ、そんなのあたしが知る訳ないでしょ・・・うわっ、今も笑ってる。ちょっと気持ち悪いんですけど」

 

二人の発言は聞こえていたが、どうしても口元の緩みを抑えることは出来なかった。

 

零("自分を見失わない"か・・・。じゃあ私は、果たして何者なんだろうな〜)

 

いつも悩んでた。自分の存在意義とは何なのか・・・。その悩みのせいもあり、他人を遠ざけたりしていた。自分の意見を押し殺した事もあった。"私は人間"なのかと疑った時期もある。

でも今は、考えても考えても結論に辿り着けない問題に、楽しさや面白さも感じさせる底無しの好奇心があった。

ただ言えることは、初めて心を開けた人物がラウラさんだという事だった。

説明
だいぶ初めの頃の主人公と、今の主人公とのギャップが現れています。
こんな早い時期と思うかもしれませんが、これも私の計画通り・・・なんちゃって。
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