生真面目同士の贈り物
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いつもの茶屋できいたところによると、ホワイトデーとは、バレンタインデーに贈り物をくれたかたにお返しをする日とのこと。

ならば、しっかりお返しをしなくては。

一般的には異国の菓子である『クッキー』や『キャンディ』を贈る物らしい。バレンタインデーの時と同じように慣例に沿おうかと思ったものの、季節の変わり目と言うことでいつも神社の手伝いをしてくれる村の人が体調を崩し、その穴埋めなどでゆっくり贈り物を見繕う時間が取れずにこの日を迎えていた。

 

「……慣れない催し物だと、贈る物を考えるのは難しいですね」

 

茶屋で行われる催し物は西洋風の催し物も多く、見識の狭い自分にとっては目新しい物ばかり。とても楽しく心が躍るが、西洋の文化に明るくないために贈り物となると、少々悩む。

 これが同性ならばまだ良かった。装身具や甘味、同じ女性同士好みも分かりやすい。

 しかし、今回贈る相手は同い年の男の子、白鷺ユウだ。それに、以前チラリと聞いたところによと、どうやらかなりの辛党であるらしい。ならば、お菓子よりは他の物の方が好みには合うだろう。

 さぁ、そこからが問題だ。

 

「雨合さんくらい年上でしたら宮司さまにも相談出来たんですが……」

 

 生真面目そうな性格が自分と似ているような気がする彼だ。きっと何を贈っても喜んでくれるだろうが、それに甘えるのも、また生真面目な自分がよしとしない。

 

「……考えていても仕方がないですね」

 

一応暇を見て街に降りて用意した手ぬぐいをチラリと見る。

分からないなりに、ならば、貰っても困らないものにしようという考えから選んだものだ。模様もさりげなく、男性が持っていても問題のない柄。

手ぬぐいは応急手当や一時的な補修に使ったりと、用途も広いから。

ユウには多分、ここのつ者が集まるところ……そう言えばあの場所は名前が付いていない気がする。あそこに行けば会えるだろう。

手ぬぐいを巾着に仕舞い、道中の用心にと大幣を袴に挟んで留め、上着で隠す。

 

「宮司さま、ちょっと出かけてきます。夕飯の支度には間に合うように帰ります」

 

本堂の前を通るついでに一声かければ、若干の間と何かを倒す音の後に返事が返ってきた。居眠りでもしていたのか。ため息をついて、鳥居をくぐったのだった。

 

 

行ってみたは良い物の、間が悪かったのかユウは弓の練習をしに裏手の森へ出かけているらしい。几帳面に言付けを残してくれていて良かった。

 そうやって見当が付けば探すのもたやすい。いつも的を立てている場所にも心当たりはあるのだから。

サクサクと枝葉を踏みながら足を進めれば、森特有の湿ったような木々の香りが強くなる。そんな中で、空を切る音を、タンッという小気味の良い音が聞こえた。矢の音だ。

 

「ユウさん、こちらですか?」

 

 適当に辺りを見回して声をかける。視界の中には見えないが、もしかしたら木の上にでも居るのかもしれない。キョロキョロと見回していると、上の方から声がかけられた。

 

「涼さん、僕に何か用ですか?」

 

 高所から弓を射る練習をしていたのだろう。身を隠していた葉を分けてユウが顔を出す。渡したいものがあると伝えると、了解の意を告げ、矢を持ったまま身軽に木の枝から降り立った。

 

「渡すもの……忍社からのお知らせかなにかですか?」

 

「そちらに関しては、いつもお世話になっております……今日は贈り物を渡しに来たんです」

 

「贈り物?僕にですか?」

 

 催し物のお知らせではなく、誕生日と言う訳でもない。ユウは心当たりがなさそうに首をかしげ、それにつられて色素の薄い髪がさらりと流れた。

 とりあえず物を受け取るのなら、と、ユウは手にしたままの弓と矢を収めた。この辺りの几帳面さは自分と似ているためか、好感が持てるのだ。

 

「ユウさん、ばれんたいんの時に贈り物を下さったので、そのお礼です。「ばれんたいん」のお返しを「ほわいとでー」にすると聞きましたので……」

 

本当は、ほわいとでーの当日に渡せたら良かったのだけど。めぐりあわせが悪かったのか会えなかったのだ。

…………食べ物にしなくて良かった。

ごぞごそと巾着を探り、丁寧に和紙に包んだ手ぬぐいを取り出す。手渡されたそれは紺地に白の染め抜き。布地は柔らかく、用途は広そうだ。

 

「実用一辺倒の物になってしまってすみません……同い年くらいでユウさんみたいな男性がいなかったもので、好みや欲しい物が良く分からなくて…貰っても困らないものをと」

 

「そう言えば、あまり好みの話とかしたことありませんでしたね……。ありがとうございます。使わせて貰います」

 

きっちりと両手で受け取り、荷に仕舞う為に少しその場を離れた。

 きっと、まだ鍛錬を続けるのだろうから、あまり立ち話で時間を取ってしまっても悪いだろう。邪魔にならないうちに退散することにしよう。

 

「では、ユウさん、私はこれで失礼しますね。お邪魔しました」

 

「手ぬぐい、ありがとうございます。また人手がいるようでしたら、声をかけて下さい」

 

 

 お互いに労って分かれたその後、涼は一つ、不思議そうに首をひねった。

 几帳面でまじめな性質の者同士だから、一緒にいるのは楽なのだが、何故か事務的な会話が多くなっている気がする。

 

 「……もう少し砕けた態度で接してもいいのでしょうか…?」

 

いや、しかし、砕けた態度の自分が想像できないのだから仕方ない。まずは、ユウのほうから提案してもらった通り、趣味の話をしてみるのも良いだろう。

少しづつ、少しづつ。

時間ならあるのだから。

 

 

説明
白鷺ユウくんへ、涼からホワイトデーのお返しです。
生真面目な子同士の会話ってどうなるのかなと考えていたらこうなりました。これからもからんでいけたらなと思います。
登場するここのつ者:魚住涼 白鷺ユウ
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小説 ここのつ者 

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